説明

鋳型用組成物の製造方法

【課題】鋳型の硬化速度を向上させることができる上、鋳型の深部硬化性を向上させることができる鋳型用組成物の製造方法、鋳型の製造方法、及び粘結剤組成物を提供する。
【解決手段】耐火性粒子と、酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物と、硬化剤とを含有する混合物を調製する工程を有し、前記混合物が、下記一般式(1)で表されるバニリン系化合物を前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部含有する、鋳型用組成物の製造方法とする。
【化1】


(式中、XはCHO又はCHOHである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型用組成物の製造方法、鋳型の製造方法、及び粘結剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自硬性鋳型、中でも酸硬化性の自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、フラン樹脂等の酸硬化性樹脂を含有する自硬性鋳型造型用粘結剤組成物と、リン酸、有機スルホン酸、硫酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。
【0003】
上記フラン樹脂としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。
【0004】
酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物としては、下記特許文献1に、鋳型や鋳物を製造する際に発生する異臭に対するマスキングのために、特定の香料成分をフラン樹脂に対して0.005〜1.5重量%含有した粘結剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−212488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸硬化性鋳型の生産性を向上させるための条件として、深部硬化性が良好なことが挙げられる。深部硬化性とは、混練砂を原型に充填した際に、外気に触れない箇所(例えば原型に接触している箇所)の硬化性能のことをいう。酸硬化性樹脂は脱水縮合反応により硬化反応が進むため、外気にさらされていない鋳型の深部の硬化は、反応水が取り除かれにくいため遅くなると考えられる。鋳型の深部に相当する、木型等の原型との接触部は、通常、鋳物の表面を形成する部分であるため重要である。したがって、単に硬化が速いだけでなく、深部まで十分に硬化できる、即ち、深部硬化性が良好な粘結剤組成物が求められている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の粘結剤組成物を用いて鋳型を製造する場合は、鋳型の深部硬化性が十分ではなく、条件によっては、鋳型深部の硬化が遅いため生産性を向上させることが困難であった。
【0008】
本発明は、鋳型の硬化速度を向上させることができる上、鋳型の深部硬化性を向上させることができる鋳型用組成物の製造方法、鋳型の製造方法、及び粘結剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋳型用組成物の製造方法は、耐火性粒子と、酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物と、硬化剤とを含有する混合物を調製する工程を有し、前記混合物が、下記一般式(1)で表されるバニリン系化合物を前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部含有する、鋳型用組成物の製造方法である。
【化1】

(式中、XはCHO又はCHOHである。)
【0010】
また、本発明の鋳型の製造方法は、上記本発明の鋳型用組成物の製造方法により得られた鋳型用組成物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法である。
【0011】
また、本発明の粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物であって、下記一般式(1)で表されるバニリン系化合物を、前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部含有する粘結剤組成物である。
【化2】

(式中、XはCHO又はCHOHである。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳型用組成物の製造方法、鋳型の製造方法、及び粘結剤組成物によれば、鋳型の硬化速度を向上させることができる上、鋳型の深部硬化性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鋳型用組成物の製造方法は、耐火性粒子と、酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物と、硬化剤とを含有する混合物を調製する工程を有し、前記混合物が、前記一般式(1)で表されるバニリン系化合物(以下、バニリン系化合物(1)ともいう)を前記所定量含有する、鋳型用組成物の製造方法である。以下、本発明の製造方法で得られる鋳型用組成物に含有される成分について説明する。
【0014】
≪粘結剤組成物≫
本発明で用いられる粘結剤組成物は酸硬化性樹脂を含有する。
【0015】
<酸硬化性樹脂>
酸硬化性樹脂としては、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、前記群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものや、前記群から選ばれる1種以上と前記共縮合物との混合物からなるものも使用できる。このうち、深部硬化性向上の観点及び樹脂粘度の観点から、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるフラン樹脂、あるいはこれらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるフラン樹脂が好ましい。また、造型時のホルムアルデヒドの発生量を低減する観点及び鋳型強度向上の観点から、フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物であることが好ましい。また、粘結剤組成物の粘度を適度な範囲に調整する観点から、酸硬化性樹脂はフルフリルアルコールを含有することが好ましい。
【0016】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度向上の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0017】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0018】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、メラミンとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、メラミン1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、尿素とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、尿素1モルに対して、アルデヒド類を1.0〜2.0モル使用することが好ましく、1.5〜2.0モル使用することがより好ましく、1.7〜2.0モル使用することが更に好ましい。
【0019】
フルフリルアルコールとアルデヒド類と尿素の縮合物を製造する場合には、酸触媒下においてフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類を縮合させるのが好ましく、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.05〜3モル、尿素を0.03〜1.5モル使用することが好ましい。
【0020】
粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂の含有量は、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは50〜99重量%であり、より好ましくは55〜99重量%であり、更に好ましくは60〜99重量%である。
【0021】
特に、酸硬化性樹脂がフルフリルアルコールを含有する場合、粘結剤組成物の粘度を適度な範囲に調整する観点から、粘結剤組成物中のフルフリルアルコールの含有量は、好ましくは25〜98重量%であり、より好ましくは30〜98重量%であり、更に好ましくは35〜98重量%である。
【0022】
また、粘結剤組成物の粘度は、混練むらの防止と鋳型強度の均一発現の観点から、低いほうが好ましい。上記観点から、E型粘度計で測定した25℃における粘結剤組成物の粘度は、1〜80mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5〜60mPa・sであり、さらに好ましくは8〜40mPa・sである。
【0023】
アミノ基を有する化合物(例えば尿素など)から得られる粘結剤組成物では、該アミノ基が樹脂成分と架橋結合を形成すると考えられ、得られる鋳型の可撓性に好ましい影響を与えることが推測される。アミノ基の含有量は窒素含有量(重量%)で見積もることが出来る。なお、鋳型の可撓性は、原型から鋳型を抜型する際に必要である。特に、複雑な形状の鋳型を造型した際に、鋳型の可撓性が高いと、抜型時に鋳型の肉厚が薄い部分に応力が集中することに起因する鋳型割れを防ぐことができる。本発明で用いられる粘結剤組成物では、得られる鋳型の割れを防ぐ観点、及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量は0.8重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることがより好ましく、2.2重量%以上であることが更に好ましく、2.3重量%以上であることが更により好ましく、2.5重量%以上であることが更により好ましい。また、鋳物の窒素に起因するガス欠陥を防止する観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量が4.0重量%以下であることが好ましく、3.8重量%以下であることがより好ましく、3.7重量%以下であることが更に好ましく、3.6重量%以下であることが更により好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中の窒素含有量は、0.8〜4.0重量%であることが好ましく、2.0〜4.0重量%であることがより好ましく、2.2〜3.8重量%であることが更に好ましく、2.3〜3.7重量%であることが更により好ましく、2.5〜3.6重量%であることが更により好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲内に調整するには、粘結剤組成物中の窒素含有化合物の含有量を調整すればよい。窒素含有化合物としては、尿素、メラミン、尿素とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、尿素樹脂及び尿素変性樹脂等が好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量は、ケルダール法により定量することが出来る。更には、尿素、尿素樹脂、フルフリルアルコール・尿素樹脂(尿素変性樹脂)、及びフルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂由来の窒素含有量は、尿素由来のカルボニル基(C=O基)を13C−NMRで定量することで求めることも出来る。深部硬化性向上の観点からは、前記粘結剤組成物中の窒素含有量が2.0〜4.0重量%であることが好ましく、3.0〜4.0重量%であることがより好ましい。
【0024】
鋳型用組成物中の粘結剤組成物の含有量は鋳型強度向上の観点から0.4〜5.0重量%が好ましく、0.6〜3.0重量%がより好ましく、0.8〜2.0重量%が更に好ましい。
【0025】
<バニリン系化合物(1)>
本発明の製造方法により得られる鋳型用組成物は、鋳型の硬化速度向上の観点、及び鋳型の深部硬化性向上の観点から、前記一般式(1)で表されるバニリン系化合物(1)を含有する。
【0026】
バニリン系化合物(1)としては、バニリン、o−バニリン、iso−バニリン、バニリルアルコール、エチルバニリン等が挙げられ、鋳型の硬化速度向上の観点、及び鋳型の深部硬化性向上の観点から、バニリン、o−バニリン、iso−バニリン、バニリルアルコールが好ましい。なかでも、鋳型の硬化速度向上の観点からは、o−バニリン、iso−バニリンがより好ましく、鋳型の深部硬化性向上の観点からは、o−バニリン、バニリルアルコールがより好ましい。
【0027】
本発明の製造方法により得られる鋳型用組成物は、鋳型の硬化速度向上の観点、及び鋳型の深部硬化性向上の観点から、酸硬化性樹脂100重量部に対してバニリン系化合物(1)を2.0重量部以上含有する。同様の観点から、バニリン系化合物(1)の含有量は、2.5重量部以上であることが好ましく、3.0重量部以上であることがより好ましく、4.0重量部以上であることが更に好ましい。また、鋳型の硬化速度向上の観点、及び最終的な鋳型強度向上の観点から、鋳型用組成物中のバニリン系化合物(1)の含有量は、酸硬化性樹脂100重量部に対して15.0重量部以下であり、10.0重量部以下であることが好ましく、8.0重量部以下であることがより好ましく、6.0重量部以下であることが更に好ましい。これらの観点を総合すると、バニリン系化合物(1)は、鋳型用組成物中、酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部であり、2.5〜10.0重量部であることが好ましく、3.0〜8.0重量部であることがより好ましく、4.0〜6.0重量部であることが更に好ましい。
【0028】
また、本発明の製造方法により得られる鋳型用組成物は、鋳型の硬化速度向上の観点、及び鋳型の深部硬化性向上の観点から、鋳型用組成物中のバニリン系化合物(1)の含有量が、0.01重量%以上であることが好ましく、0.015重量%以上であることがより好ましく、0.02重量%以上であることが更に好ましい。また、鋳型の硬化速度向上の観点、及び最終的な鋳型強度向上の観点から、鋳型用組成物中のバニリン系化合物(1)の含有量は、0.15重量%以下であることが好ましく、0.12重量%以下であることがより好ましく、0.088重量%以下であることが更に好ましい。これらの観点を総合すると、バニリン系化合物(1)は、鋳型用組成物中、0.01〜0.15重量%であることが好ましく、0.015〜0.12重量%であることがより好ましく、0.02〜0.088重量%であることが更に好ましい。
【0029】
バニリン系化合物(1)は、鋳型の硬化速度向上の観点、鋳型の深部硬化性向上の観点、及び配合を容易にする観点から、あらかじめ、粘結剤組成物中に含有されていてもよい。即ち、本発明の粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂及びバニリン系化合物(1)を含有し、バニリン系化合物(1)の含有量が前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部である、粘結剤組成物である。前記酸硬化性樹脂100重量部に対するバニリン系化合物(1)の含有量の好ましい範囲は、上記鋳型用組成物における場合と同様である。
【0030】
<硬化促進剤>
本発明で用いられる粘結剤組成物中には、鋳型の割れを防ぐ観点、及び鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(2)で表される化合物、フェノール誘導体、芳香族ジアルデヒド、及びタンニン類からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0031】
【化3】

〔式中、X1及びX2は、それぞれ水素原子、CH3又はC25の何れかを表す。〕
【0032】
前記一般式(2)で表される化合物としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。なかでも、鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の一般式(2)で表される化合物の含有量は、一般式(2)で表される化合物の酸硬化性樹脂への溶解性の観点、及び鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0033】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型の深部硬化性向上の観点及び鋳型強度向上の観点から、レゾルシンが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体の酸硬化性樹脂への溶解性の観点、及び鋳型強度向上の観点から、1〜25重量%であることが好ましく、2〜15重量%であることがより好ましく、3〜10重量%であることが更に好ましい。なかでも、レゾルシンを用いる場合は、粘結剤組成物中のレゾルシンの含有量は、レゾルシンの酸硬化性樹脂への溶解性の観点、鋳型の深部硬化性向上の観点及び最終的な鋳型強度を向上させる観点から、1〜10重量%であることが好ましく、2〜7重量%であることがより好ましく、3〜6重量%であることが更に好ましい。
【0034】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。鋳型の割れを防ぐ観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドを酸硬化性樹脂に十分に溶解させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0035】
タンニン類としては、縮合タンニンや加水分解型タンニンが挙げられる。これら縮合タンニンや加水分解型タンニンの例としては、ピロガロール骨格やレゾルシン骨格を持つタンニンが挙げられる。また、これらタンニン類を含有する樹皮抽出物や植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物からの抽出物を添加しても構わない。
【0036】
<水>
本発明で用いられる粘結剤組成物中には、さらに水が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水との混合物の形態で得られる。このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、水分は必要に応じて、トッピング等で除去しても構わないが、硬化反応速度を維持できる限り、製造の際にあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水をさらに添加してもよい。ただし、水が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがある。従って、粘結剤組成物中の水の含有量は、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と鋳型初期強度を維持する観点から、0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、5〜25重量%の範囲がより好ましい。更に、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、5〜10重量%とすることが好ましい。また、深部硬化性向上の観点から、水の含有量は5〜25重量%が好ましい。
【0037】
<その他の添加剤>
また、本発明で用いられる粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、最終的な鋳型強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、最終的な鋳型強度を向上させる観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。
【0038】
≪耐火性粒子≫
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。鋳型用組成物中の耐火性粒子の含有量は91.5〜99.5重量%が好ましく、95〜99重量%がより好ましく、97〜98.8重量%が更に好ましい。
【0039】
≪硬化剤≫
硬化剤としては、キシレンスルホン酸(例えば、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(例えば、p−トルエンスルホン酸)、メタンスルホン酸等のスルホン酸系化合物、リン酸、酸性リン酸エステル等のリン酸系化合物、硫酸等、従来公知のものを、例えば水溶液として、1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることもできる。これらのなかでも、最終的な鋳型強度の向上の観点から、前記アルコール類、前記エーテルアルコール類を含有させることが好ましく、前記エーテルアルコール類を含有させることがより好ましい。また、硬化剤に前記溶剤や前記カルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量を低く抑えることができるため、最終的な鋳型強度が更に向上する。硬化剤中の前記溶剤や前記カルボン酸類の含有量は、最終的な鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。
【0040】
最終的な鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。また、硬化剤組成物の粘度を低減させる観点、及び硬化剤組成物の保存安定性向上の観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。カルボン酸類としては、最終的な鋳型強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。鋳型用組成物中の硬化剤の含有量は、鋳型強度向上の観点から、0.12〜3.5重量%が好ましく、0.2〜1.0重量%がより好ましく、0.3〜0.6重量%が更に好ましい。
【0041】
本発明の鋳型用組成物の製造方法は、例えば、耐火性粒子に、粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することにより、混合物を調製する工程を有する。この際、耐火性粒子に前記硬化剤を添加した後、粘結剤組成物を添加することが好ましい。上記粘結剤組成物がバニリン系化合物(1)を含有している場合、上記方法により、バニリン系化合物(1)が混合物に供給され、最終的な鋳型用組成物に含有されることになる。つまり、粘結剤組成物中に、予めバニリン系化合物(1)が配合されていると、該粘結剤組成物と、耐火性粒子や硬化剤とが混合された場合に、バニリン系化合物(1)が均一に配合され、鋳型の硬化速度向上、及び鋳型の深部硬化性向上に寄与するものと推測される。また、本発明の製造方法では、鋳型用組成物を得る際に、バニリン系化合物(1)を含有しない粘結剤組成物を用いてもよい。その場合は、粘結剤組成物を耐火性粒子等に添加する際、又は添加前もしくは添加後に、別途、バニリン系化合物(1)を耐火性粒子等に添加すればよい。
【0042】
鋳型用組成物における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくする観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂100重量部に対して10〜40重量部であることが好ましく、15〜35重量部であることがより好ましく、18〜25重量部であることが更に好ましい。
【0043】
≪鋳型の製造方法≫
本発明の製造方法で得られた鋳型用組成物は、例えば、従来の鋳型の製造方法のプロセスを適用し、所望の条件で硬化させて、鋳型を得ることができる。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、硬化させる鋳型用組成物として上記本発明の鋳型用組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を具体的に示す実施例について説明する。なお、実施例における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0045】
<粘結剤組成物の窒素含有量>
JIS M 8813に示されるケルダール法にて測定を行った。
【0046】
<深部硬度>
鋳型用組成物を調製後すぐに上部直径150mm、下部直径120mm、高さ170mmのポリプロピレン製カップに入れて、JIS Z 2604−1976に記載の鋳型圧縮強度が0.3MPaに到達した時にポリプロピレン製カップから鋳型を取り出し、鋳型の深部(ポリプロピレン製カップの底面に接触していた面)の表面硬度をフラン鋳型用表面硬度計(ナカヤマ社製)で測定した。なお、表1に示す深部硬度の値は、上記フラン鋳型用表面硬度計が示した目盛(無単位)の値であり、数値が大きいほど深部硬化性が良好となる。
【0047】
<30分後の鋳型圧縮強度>
25℃、55%RHの条件下で、鋳型用組成物を調製後すぐに直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填し、30分間放置した後、抜型し、JIS Z 2604−1976に記載された方法で、鋳型圧縮強度を測定し、得られた値を30分後の鋳型圧縮強度(MPa)とした。30分後の鋳型圧縮強度が高いほど、鋳型の硬化速度が高いと評価できる。
【0048】
<24時間後の鋳型圧縮強度>
鋳型用組成物を調製後すぐに直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。25℃、55%RHの条件下で充填直後から5時間放置した後に抜型を行い、更に、25℃、55%RHの条件下で抜型後19時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で鋳型圧縮強度を測定し、得られた測定値を24時間後の鋳型圧縮強度(MPa)とした。24時間後の鋳型圧縮強度が高いほど、最終的な鋳型強度が高いと評価できる。
【0049】
(粘結剤組成物の調製)
(実施例1)
54.0gのフラン樹脂1(表1の脚注参照)に、40.9gのフルフリルアルコールと5.0gのバニリンと0.1gのシランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBM−602)を加え、攪拌混合して、粘結剤組成物を調製した。得られた粘結剤組成物中の窒素含有量は2.7重量%であった。
【0050】
(実施例2〜7及び比較例1〜5)
フルフリルアルコールとバニリン系化合物(1)の添加量を変えたこと以外は、実施例1と同様に粘結剤組成物を調製した。得られた粘結剤組成物中の窒素含有量は、いずれも2.7重量%であった。
【0051】
(鋳型用組成物の調製)
25℃、55%RHの条件下で、フラン再生ケイ砂100重量部に対し、硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 TK−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 F−9との混合物(重量比はTK−3/F−9=35/5)〕0.36重量部を添加し、次いで前記粘結剤組成物0.90重量部を添加し、これらを混合して鋳型用組成物を得た。得られた鋳型用組成物について、上述した方法で各項目の評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記フラン再生ケイ砂としては、空気中、1000℃で1時間加熱したときの重量減少率(LOI)が1.4重量%のものを用いた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例は、何れの評価項目においても良好な結果が得られた。一方、比較例は、少なくとも1つの評価項目について、実施例に比べて顕著に劣る結果となった。この結果から、本発明によれば、鋳型の硬化速度を向上できる上、鋳型の深部硬化性を向上できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒子と、酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物と、硬化剤とを含有する混合物を調製する工程を有し、
前記混合物が、下記一般式(1)で表されるバニリン系化合物を前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部含有する、鋳型用組成物の製造方法。
【化1】

(式中、XはCHO又はCHOHである。)
【請求項2】
予め、前記酸硬化性樹脂100重量部と、2.0〜15.0重量部の前記バニリン系化合物とを混合して前記粘結剤組成物を調製する工程を有する請求項1記載の鋳型用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記バニリン系化合物が、バニリン、o−バニリン、iso−バニリン及びバニリルアルコールから選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の鋳型用組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の鋳型用組成物の製造方法で得られた鋳型用組成物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法。
【請求項5】
酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物であって、下記一般式(1)で表されるバニリン系化合物を、前記酸硬化性樹脂100重量部に対して2.0〜15.0重量部含有する粘結剤組成物。
【化2】

(式中、XはCHO又はCHOHである。)