説明

鋳型造型用粘結剤組成物および該鋳型造型用粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法

【課題】製造工程を複雑化することなく、充分な強度の鋳型を得ることが可能な鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法を得ること。
【解決手段】本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂と、水と、金属の塩化物を含み、前記酸硬化性樹脂は、フルフリルアルコール、フェノール類及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上とアルデヒド類との縮合物又は共縮合物の1種又は2種以上、並びにフルフリルアルコールを含むものであり、前記金属はアルカリ土類金属及び/又は亜鉛族元素であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の強度を向上させることが可能な、鋳型造型用粘結剤組成物および該鋳型造型用粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型の一つとして自硬性鋳型が知られている。自硬性鋳型とは、珪砂等の耐火性粒状材料に、酸硬化性樹脂を主成分とした粘結剤とキシレンスルホン酸やリン酸等の硬化剤とを添加、混練した後、得られた混練砂を型に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されているものである。
【0003】
酸硬化性樹脂とは、一般的にフルフリルアルコール、尿素、フェノール、ホルムアルデヒド等を主原料としている樹脂で、酸により脱水反応しながら重縮合し、硬化するものである。このような酸硬化性樹脂の硬化の進行は、脱水反応により発生する水に影響される。つまり、空気に触れる表面部は脱水反応が進行しやすく、硬化しやすい傾向にある。従って、酸硬化性樹脂を主成分とした粘結剤を用いた自硬性鋳型は、その内部と表面の硬化度に差が生じ強度が不足する。
そこで、酸として硫酸を多く使用し、全体の硬化速度を速くすることにより、内部と表面の硬化度の差を小さくする方法がある。しかしながら硫酸を多量に使用すると、得られた鋳型への注湯時に、鋳型を構成している硬化物が熱分解し、亜硫酸ガスが発生することが知られている。亜硫酸ガスは、作業環境を悪化させたり、鋳物球状化阻害の原因となったりする。従って、硫酸を多量に用いることは好ましくない。
【0004】
硫酸を用いずに鋳型の強度を向上させる方法として、耐火性粒状材料中に塩化カルシウム等の塩化物を配合する方法がある(特許文献1参照。)。
この方法では、脱水反応により生成した水を吸収させるため、塩化カルシウム等の塩化物を粉末状で用いて吸湿させている。更に、塩化物から硬化触媒作用を有する塩酸を生成させ、硬化を促している。
【特許文献1】特公昭51−3294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、塩化物の粉末を配合するため、混練砂を得る製造ラインとは別に、予め、ホッパーなどを用いて、耐火性粒状材料と塩化物とを混合させておく必要があり、製造工程が複雑化した。また、塩化物の粉末は吸湿し易い性質を有している。従って、粉末の状態で工場において管理することは難しく、また、吸湿すると塊状になるため、耐火性粒状材料中に均一に混合させることが難しいという問題があった。
このように、特許文献1の製造方法は、製造上の不都合が多く実用的ではなく、殆ど実施されていなかった。
その上、本発明者が確認したところ、特許文献1のように、粉末状の金属の塩化物を用いる場合、硬化促進作用を示す塩酸を生成するまでに時間がかかり、鋳型の初期強度を向上させにくいことがわかった。従って、鋳型の初期強度を向上させるために、金属の塩化物の添加量を一定量以上とする必要があった。しかし、金属の塩化物の添加量が多い場合、生成する塩酸の量が増加し、硬化後に余剰の塩酸によって分解反応が起きることがあり、鋳型の最終強度が低下する傾向が見られた。
なお、硬化速度を速めるために、硬化触媒作用を有する塩酸を直接配合する方法も考えられるが、塩酸は、腐食作用のある塩化水素を発生するため、鋳型製造工場での保存が難しく、現実的ではなかった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、製造工程を複雑化することなく、充分な強度の鋳型を得ることが可能な鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂と、水と、金属の塩化物を含み、前記酸硬化性樹脂は、フルフリルアルコール、フェノール類及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上とアルデヒド類との縮合物又は共縮合物の1種又は2種以上、並びにフルフリルアルコール(IUPAC名:2―フラノメタノール)を含むものであり、前記金属はアルカリ土類金属及び/又は亜鉛族元素であることを特徴とする。
【0008】
本発明の鋳型の製造方法は、鋳型造型用粘結剤組成物と耐火性粒状材料と硬化剤とを混合して混練砂を得る工程と、混練砂を鋳型造型用の型に充填し、鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる工程を有することを特徴とする。
本発明の鋳型の製造方法において、耐火性粒状材料がアルミナ砂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明鋳型造型用粘結剤組成物によれば、鋳型の工程過程を複雑化することなく、鋳型の強度、特に初期強度を向上させることができる。
本発明の鋳型の製造方法によれば、鋳型の強度、特に初期強度を向上させた鋳型を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[鋳型造型用粘結剤組成物]
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下「粘結剤組成物」という。)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであり、酸硬化性樹脂と、水と、金属の塩化物を含むことを特徴とする。
【0011】
酸硬化性樹脂とは、酸により重縮合して硬化する物質である。本願発明では、酸硬化性樹脂として、フルフリルアルコール、フェノール類及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上とアルデヒド類との縮合物又は共縮合物の1種又は2種以上、並びにフルフリルアルコールを含むものを用いる。
【0012】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。ただし、縮合物の種類によっては、アルデヒド類としてグリオキザールやフルフラールを単独で使用した際には、酸硬化が進行しない場合もある。そのような場合には、アルデヒド類として少なくともホルムアルデヒドを使用すればよい。
【0013】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールZなどが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。アルデヒド類の使用量が1モル以上であれば、重合度の低い縮合物となるため、可使時間設定が容易となり、3モル以下であれば、重合度の高い縮合物となるため、鋳型強度発現が良好となる。
【0015】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.1〜1モル使用することが好ましい。アルデヒド類の使用量が0.1モル以上であれば、重合度の低い縮合物となるため、可使時間設定が容易となり、1モル以下であれば、重合度の高い縮合物となるため、最終鋳型強度発現が良好となる。
【0016】
また、尿素等を由来とする窒素原子含有量は、酸硬化性樹脂と水の合計100質量%あたり、0.1〜6質量%の範囲となるようにすることが好ましく、0.1〜4.5質量%であることがより好ましい。
窒素原子含有量は鋳型の初期強度及び最終強度に影響を与えるものであり、窒素原子含有量が低い場合には鋳型の初期強度が高くなる傾向にあり、窒素原子含有量が高い場合には鋳型の最終強度が高くなる傾向にある。
従って、必要に応じて窒素原子含有量を適宜調節することが好ましく、窒素原子含有量が上記範囲内であれば、初期強度と最終強度が共に好ましい鋳型を得ることが可能である。
【0017】
酸硬化性樹脂の特に好ましい態様として以下の4つが挙げられる。尚、以下における(共)縮合物とは、縮合物及び/又は共縮合物を意味する。
i)尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、フルフリルアルコールの混合物。
ii)尿素とアルデヒド類の縮合物と、フルフリルアルコールの混合物。
iii)尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、フェノールとアルデヒド類の縮合物と、フルフリルアルコールの混合物。
iv)フェノールとアルデヒド類の縮合物とフルフリルアルコールの混合物。
酸硬化性樹脂がこのようなi)〜iv)の態様であると、可使時間設定が容易で、且つ鋳型強度を向上させることができる粘結剤組成物が得られるので好ましい。
i)の態様においては、酸硬化性樹脂に占める尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物の比率は15〜45質量%であると好ましく、25〜35質量%であるとより好ましい。フルフリルアルコールの比率は55〜85質量%であると好ましく、65〜75質量%であるとより好ましい。
ii)の態様においては、酸硬化性樹脂に占める尿素とアルデヒド類の縮合物の比率は3.5〜20質量%であると好ましく、6.9〜13.5質量%であるとより好ましい。フルフリルアルコールの比率は80〜96.5質量%であると好ましく、86.5〜93.1質量%であるとより好ましい。
iii)の態様においては、酸硬化性樹脂に占める尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物の比率は7.5〜22.5質量%であると好ましく、12.5〜17.5質量%であるとより好ましい。フェノールとアルデヒド類の縮合物の比率は、7.5〜22.5質量%であると好ましく、12.5〜17.5質量%であるとより好ましい。フルフリルアルコールの比率は55〜85質量%であると好ましく、65〜75質量%であるとより好ましい。
iv)の態様においては、酸硬化性樹脂に占めるフェノールとアルデヒド類の縮合物の比率は10〜40質量%であると好ましく、20〜30質量%であるとより好ましい。フルフリルアルコールの比率は60〜90質量%であると好ましく、70〜80質量%であるとより好ましい。
【0018】
また、粘結剤組成物における酸硬化性樹脂の含有量は、2〜98質量%であることが好ましく、70〜98質量%であることがより好ましく、81.5〜94.5質量%であることが更に好ましい。
粘結剤組成物における酸硬化性樹脂の含有量が2質量%以上であると、可使時間設定が容易で、鋳型の初期強度が向上する傾向にある。一方、98質量%以下であると、鋳型の最終強度が向上する傾向にある。
【0019】
本発明の粘結剤組成物は水を含有する。ここで水には、金属の塩化物の結合水由来の水、尿素とアルデヒド類の縮合物などの各(共)縮合物を合成する際に生じる縮合水由来の水、水溶液状の原料(例えばホルマリンなど)によって供給される水、必要に応じて別途添加される水の総てが含まれる。
粘結剤組成物における水の含有量は1〜25質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
粘結剤組成物における水の含有量は1質量%以上であると、鋳型の強度が発現し易い傾向にある。一方、25質量%以下であると、粘結剤組成物の大幅なコスト上昇を押さえることができる。
【0020】
金属の塩化物としては、アルカリ土類金属の塩化物及び/又は亜鉛族元素の塩化物を用いる。具体的には、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化亜鉛が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いる。中でも、低コストで溶解性に優れていることから、塩化カルシウムを用いることが好ましい。
粘結剤組成物における金属の塩化物の含有量は無水物換算で1〜5質量%であることが好ましく、2.5〜3.5質量%であることがより好ましい。
金属の塩化物の含有量が上記範囲内であると、鋳型の初期強度と最終強度とを共に向上させることができる。
一方、粘結剤組成物における金属の塩化物の含有量が1質量%未満であると鋳型の初期強度を得にくい傾向にある。また、5質量%を超えると、鋳型の初期強度は得られるが、鋳型の最終強度を維持できない。これは、過剰に発生した塩酸によって、鋳型内で分解反応が起きるためと考えられる。
【0021】
また、粘結剤組成物中には、得られる鋳型の強度を向上させる目的で、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤を添加してもよい。
本発明の粘結剤組成物において、シランカップリング剤は0.01〜3質量%含有させることが可能であり、0.1〜1質量%含有させることがより好ましい。シランカップリング剤を0.01質量%以上含有させると、鋳型の強度を向上させることができ、3質量%以下であれば、大幅なコスト上昇を抑えることができる。
【0022】
更に、粘結剤組成物中には、造型注湯時に発生するホルムアルデヒドを低減させる目的で、尿素、レゾルシノール、ピロガロール等を含有させてもよい。
この場合、粘結剤組成物におけるこれらの合計の含有量は0.1〜3質量%であると好ましく、0.5〜1質量%であるとより好ましい。これらの合計含有量が0.1質量%以上であれば、ホルムアルデヒドの低減に優れた粘結剤組成物となり、3質量%以下であれば、大幅なコスト上昇を抑えることができる。
【0023】
本発明の粘結剤組成物は、一般的な製法で得ることができる。本発明の粘結剤組成物の製造方法の一例を以下に示す。
まず、酸硬化性樹脂の原料(フルフリルアルコール、アルデヒド類、尿素及びフェノール類等)の一部に水酸化ナトリウム水溶液などを混合してアルカリ性とし、昇温して(共)縮合物を生成する。次に、塩酸等を用いて酸性にし、尿素とアルデヒド類の縮合物等の反応を進行させた後、再びアルカリ性にし、残りの酸硬化性樹脂の原料を混合して酸硬化性樹脂を得る。
なお、ここで添加する塩酸は量が少ないため、硬化反応まで進行しない。
その後酸硬化性樹脂に、金属の塩化物と必要に応じて添加されるシランカップリング剤等のその他の成分とを混合・溶解することで、酸硬化性樹脂と、水と、金属の塩化物を含む本発明の粘結剤組成物が得られる。
【0024】
本発明の粘結剤組成物には、金属の塩化物が既に溶解した状態で含有されている。従って、鋳型の製造現場で、金属の塩化物が吸湿しないように湿度管理をする必要がない。また、混練砂を得るための工程を複雑化する必要がない。
【0025】
[鋳型の製造方法]
本発明の鋳型の製造方法は、粘結剤組成物と耐火性粒状材料と硬化剤とを混合して混練砂を得る工程と、混練砂を鋳型造型用の型に充填し、混練砂中の粘結剤組成物を硬化させる工程を有する。
【0026】
耐火性粒状材料としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性材料を回収したものや再生処理をしたものなども使用できる。
特に、耐火性を要求される部分には、クロマイト砂、ジルコン砂及びアルミナ砂を用いることが好ましく、中でも、コストがかからず、廃棄性に問題のないアルミナ砂を用いることが好ましい。
【0027】
硬化剤としては、キシレンスルホン酸などのスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸など、従来公知のものを1種又は2種以上使用できる。
ところで、混練砂においては、本発明の粘結剤組成物と硬化剤を混合する。このとき、粘結剤組成物中の水の中に遊離している塩素と硬化剤の一部が反応し、硬化触媒作用のある塩酸を生成する。
上述の各硬化剤と塩酸とを比較すると、硬化速度は塩酸、硫酸、リン酸系化合物、スルホン酸系化合物の順に早い傾向がみられる。一方、硬化強度は、スルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸、塩酸の順に得られる。
従って本発明では、鋳型の初期強度と最終強度とのバランスを考慮して適切な硬化剤を用いることが好ましい。
【0028】
混練砂における耐火性粒状材料と粘結剤組成物と硬化剤との混合比率は適宜設定できるが、耐火性粒状材料100質量部に対し、粘結剤組成物の混合比が0.3〜2質量部であると好ましく0.5〜1.5質量部であるとより好ましい。また、硬化剤の混合比が0.045〜1.2質量部であると好ましく0.075〜0.9質量部であるとより好ましい。このような混合比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。
混練砂を得る工程では、粘結剤組成物と耐火性粒状材料と硬化剤とを混合し、混練砂を得る。このとき、混合方法は一般的な混合方法であれば特に限定はなく、例えば、攪拌機などを用いることができる。
【0029】
上述の混合比率の混練砂における金属の塩化物の含有量は0.003〜0.2質量%であることが好ましく、0.005〜0.15質量%であることがより好ましく、特に0.05質量%以下であることが好ましい。
混練砂における金属の塩化物の含有量が上記範囲であると、十分な強度の鋳型が得られ易く、特に0.05質量%以下であるとき、金属塩化物によって生じた塩酸は硬化中にほぼ総て蒸発し、鋳型の最終強度に影響を与え難い傾向が見られる。
例えば、耐火性粒状材料100質量部に対する、粘結剤組成物の混合比率が1質量部、硬化剤の混合比率が0.4質量部であるとき、混練砂における金属の塩化物の含有量を0.05質量%以下とするには、粘結剤組成物として金属の塩化物を無水物換算で5質量%以下含有する粘結剤組成物を用いればよい。
【0030】
次に、得られた混練砂から鋳型を製造する。
鋳型を製造する方法としては、自硬性鋳型造型法を採用することができる。すなわち、混練砂を鋳型造型用の所定の型に充填すると、混練砂中の粘結剤組成物が硬化剤の作用により硬化する。その結果、鋳型を得ることができる。
本発明の鋳型の製造方法では、予め金属の塩化物が均一に混合・溶解した粘結剤組成物を用いている。従って、金属の塩化物が混練砂全体に均一分散されやすく、該金属の塩化物から生成する塩酸により、鋳型の表面だけでなく内部の硬化も良好となり、鋳型の強度をより向上させることができる。
【0031】
また、金属の塩化物は粉末のままでは硬化促進作用を示すことはできず、水などに溶解し、更に酸と接触することで塩酸を生成して硬化作用を示すことができる。
本発明では、金属の塩化物が、予め水と共に粘結剤組成物中に溶け込んでいる。従って、硬化剤を添加した際、すぐに反応して硬化触媒作用のある塩酸を得ることができる。このため、粉末状の金属の塩化物を混合する場合のように、金属の塩化物の添加量を一定量以上にする必要はなく、寧ろ添加量を最低限に抑えながら、鋳型の初期強度を向上させることができる。つまり、過剰な塩酸が生じにくく、最終強度も向上させやすい傾向にある。
このように、本発明の粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法によれば、初期強度と最終強度とを共に向上させた鋳型をも得ることができる。
【0032】
このような本発明の粘結剤組成物を用いた鋳型の製造方法では、耐火性粒状材料として、アルミナ砂を用いても、従来の珪砂を用いた場合と同等の鋳型強度を得ることが可能となる。
アルミナ砂は、耐火度が高く耐破砕性に優れることから鋳型の耐火性粒状材料として注目されていたが、熱容量が従来の耐火性粒状材料である珪砂より大きい為、これを用いて製造した鋳型は、硬化速度が遅く、且つその内部と表面の硬化度の差が大きくなる傾向にあり、強度を得にくく、実用化が難しかった。
しかし、本発明の粘結剤組成物は、鋳型の表面だけでなく内部の硬化も良好なものとしながら、鋳型の初期強度と長時間経過した際の強度を向上させることができるため、熱容量が大きいアルミナ砂のような耐火性粒状材料を用いても、従来の珪砂を用いた場合と同等の鋳型強度を得られる。従って、アルミナ砂のような熱容量が高い耐火性粒状材料であっても鋳型製造が可能になった。
【0033】
更に、本発明では、鋳型の製造過程で硬化触媒作用のある塩酸を発生させる。従って、硬化剤の使用量を減じることが可能であり、中でも硫酸の使用量を抑えることができる。このように硫酸の使用量を抑えることができると、亜硫酸ガス発生量も大幅に低減でき、より良好な作業環境が得られると同時に、亜硫酸ガス中の硫黄に起因する鋳物球状化阻害の発生率も低下させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例で用いた粘結剤組成物の組成と、得られた鋳型(テストピース)の各物性の測定は以下の方法で行った。
【0035】
(水の含有量)
水の含有量は、JIS K 0068の化学製品の水分試験方法によって求めた。
【0036】
(窒素原子含有量)
窒素原子含有量は、JIS K 0102の工場排水試験方法の滴定法によって求めた。
【0037】
(圧縮強度)
各実施例及び比較例で得られたテストピースの圧縮強度(鋳型強度)は、JIS Z 2601の鋳物砂の試験方法に準じて、卓上抗圧力試験機(高千穂機械(株)製)を用いることで測定した。
【0038】
(嵩密度)
各実施例及び比較例で得られたテストピースの嵩密度は、下記一般式(I)により求めた。質量測定に用いた電子天秤には、METTLER PM 4000(日本シイベルヘグナー(株)製)を用いた。
なお、嵩密度は木型に略同質量の混練砂が充填されたことを確認するために測定している。
テストピースの嵩密度(g/cm)=テストピースの質量(g)/テストピースの体積(cm)・・・(I)
【0039】
[実施例1]
(粘結剤組成物)
フルフリルアルコール859.2質量部と、尿素47.05質量部と、92質量%パラホルムアルデヒド65.9質量部と、15質量%水酸化ナトリウム水溶液2.0質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて80℃で1時間反応させ、その後、10質量%塩酸3.0質量部を添加して、更に3時間反応させた。その後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液2.0質量部と、尿素28.84質量部とを添加して、さらに30分間反応させ、その後、シランカップリング剤(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)2部を添加し、尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、遊離フルフリルアルコールと、水からなる粘結剤組成物(A)1010質量部を得た。なお、粘結剤組成物(A)1010質量部における水の含有量は4.5質量%であり、酸硬化性樹脂と水との合計量に対する窒素原子含有量は3.5質量%であった。
得られた粘結剤組成物(A)96.03質量部に塩化カルシウム2水和物(CaCl・2HO)3.97質量部を混合溶解させて、粘結剤組成物(B)100質量部(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)を得た。
【0040】
(混練砂)
次に、珪砂(三菱商事建材(株)製、フリーマントル新砂)100質量部に対して、上記粘結剤組成物(B)1.03質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機(MIXER、(株)品川工業所製)で混練して、混練砂を得た。
【0041】
得られた混練砂の一部を、直ちに温度30℃、湿度35%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
珪砂100質量部に対して、粘結剤組成物(A)1.0質量部と硬化剤0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
得られた混練砂の一部を、実施例1と同様の条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例2]
予め珪砂100質量部と塩化カルシウム2水和物(純正化学(株)製)0.04質量部を混合し、塩化カルシウム含有砂100.04質量部(無水物換算で塩化カルシウムを0.03質量部含有)を得た。
塩化カルシウム含有砂100.04質量部(無水物換算で塩化カルシウムを0.03質量部含有)に対して、粘結剤組成物(A)1.0質量部と硬化剤0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
得られた混練砂の一部を、実施例1と同様の条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
珪砂の代わりにアルミナ砂((株)コスモ製、アルサンド350#新砂)を用いた以外は実施例1と同様にしてテストピースを作製し、実施例1と同様にして、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例3]
珪砂の代わりにアルミナ砂を用いた以外は比較例1と同様にしてテストピースを作製し、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例4]
珪砂の代わりにアルミナ砂を用いた以外は比較例2と同様にしてテストピースを作製し、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図1より、耐火性粒状材料として同じ珪砂を用いた実施例1、比較例1及び比較例2を比較する。
粘結剤組成物中に塩化カルシウムを含有させた実施例1における30分後の圧縮強度(初期強度)と、24時間後の圧縮強度(最終強度)は、塩化カルシウムを全く用いなかった比較例1より明らかに高く、鋳型の強度向上効果が得られているといえる。一方、塩化カルシウムを珪砂と混合した比較例2における30分後の圧縮強度は、塩化カルシウムを全く用いなかった比較例1よりは高い値を示したが、実施例1程ではなかった。
表1及び図1より、耐火性粒状材料として同じアルミナ砂を用いた実施例2、比較例3及び比較例4を比較する。
粘結剤組成物中に塩化カルシウムを含有させた実施例2における30分後の圧縮強度と、24時間後の圧縮強度は、塩化カルシウムを全く用いなかった比較例3より明らかに高く、鋳型の強度向上効果が得られているといえる。一方、塩化カルシウムをアルミナ砂と混合した比較例4における30分後の圧縮強度及び24時間後の圧縮強度は、塩化カルシウムを全く用いなかった比較例3よりは高い値を示したが、実施例2程ではなかった。
【0049】
上記実施例1、2では、混練砂中、塩化カルシウムを0.03質量%含有している。対して、比較例2、4では、混練砂中、塩化カルシウムを0.03質量%含有している。つまり、実施例1、2と比較例2,4との混練砂中の塩化カルシウム含有量は同じである。それにも関わらず、実施例1、2における30分後の圧縮強度と、24時間後の圧縮強度は、比較例2、4よりも、各々明らかに優れている。これは、実施例1、2では塩化カルシウムが粘結剤組成物中で予め溶解されていたため、すぐに酸と反応して塩酸を生成することができ、30分後の圧縮強度を得やすかったためであると考えられる。また、実施例1、2では、混練砂中の塩化カルシウムが均一に分散されやすいため、24時間後の圧縮強度を得やすかったと考えられる。
更に、実施例2における30分後の圧縮強度は、比較例1の30分後の圧縮強度より優れている。つまり、本発明の粘結剤組成物を用いると、熱容量の大きいアルミナ砂を使用した場合であっても、熱容量が小さい珪砂を通常の方法で用いる場合と同等又はそれ以上の初期強度を得ることができるといえる。
【0050】
[実施例3〜6]
珪砂100質量部に対して、下記の各々の粘結剤組成物1質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、各実施例の混練砂を得た。
【0051】
実施例3:粘結剤組成物(B)(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例4:粘結剤組成物(A)93.6質量部に塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)6.4質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(C)(塩化マグネシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例5:粘結剤組成物(A)96.48質量部に塩化バリウム2水和物(BaCl・2HO)3.52質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(D)(塩化バリウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例6:粘結剤組成物(A)97.0質量部に塩化亜鉛(ZnCl)3.0質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(E)(塩化亜鉛を3質量%含有する)。
【0052】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2及び図2より、実施例3〜6における、30分後の圧縮強度と24時間後の圧縮強度はいずれも、金属の塩化物を混合しない粘結剤組成物を用いている比較例1より明らかに高く、鋳型の強度向上効果が得られているといえる。
従って、塩化カルシウムに限らず亜鉛族元素及びアルカリ土類金属の塩化物を粘結剤組成物に混合することによって、鋳型の初期強度及び最終強度の向上効果が得られるといえる。
【0055】
[実施例7〜11]
珪砂100質量部に対して、下記の各々の粘結剤組成物1質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、各実施例の混練砂を得た。
【0056】
実施例7:粘結剤組成物(A)98.68質量部に塩化カルシウム2水和物1.32質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(F)(塩化カルシウムを無水物換算で1質量%含有)。
実施例8:粘結剤組成物(A)96.03質量部に塩化カルシウム2水和物3.97質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(G)(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例9:粘結剤組成物(A)93.38質量部に塩化カルシウム2水和物6.62質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(H)(塩化カルシウムを無水物換算で5質量%含有)。
実施例10:粘結剤組成物(A)89.4質量部に塩化カルシウム2水和物10.6質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(I)(塩化カルシウムを無水物換算で8質量%含有)。
実施例11:粘結剤組成物(A)86.75質量部に塩化カルシウム2水和物13.25質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(J)(塩化カルシウムを無水物換算で10質量%含有)。
【0057】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
比較例1及び実施例7〜11では、粘結剤組成物中の塩化カルシウムの量を、0、1、3、5、8及び10質量%と変化させている。表3及び図3より、30分後の圧縮強度は、塩化カルシウムの量が多いほど強くなる傾向にあった。しかしながら、塩化カルシウムの量が8質量%以上の場合、24時間後の圧縮強度が得られにくい傾向にあった。従って、初期強度と最終強度のいずれを重視するかによって金属塩化物の量を調整すれば良いことがわかった。特に塩化カルシウムの量が5質量%以下で且つ3質量%以上であるとき、30分後の圧縮強度と24時間後の圧縮強度が共に明らかに向上しており好ましかった。
【0060】
[実施例12〜16]
珪砂に変えてアルミナ砂を用いた以外は、実施例7〜11と同様にして、各混練砂を得た。
更に、得られた各混練砂の一部を、実施例7〜11と同条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
比較例3及び実施例12〜16では、粘結剤組成物中の塩化カルシウムの量を、0、1、3、5、8及び10質量%と変化させている。表4及び図4より、30分後の圧縮強度は、塩化カルシウムの量が多いほど強くなる傾向にあった。しかしながら、塩化カルシウムの量が8質量%以上の場合、24時間後の圧縮強度が得られにくい傾向にあった。従って、初期強度と最終強度のいずれを重視するかによって金属塩化物の量を調整すれば良いことがわかった。特に塩化カルシウムの量が5質量%以下で且つ3質量%以上であるとき、30分後の圧縮強度と24時間後の圧縮強度が共に明らかに向上しており好ましかった。
【0063】
[実施例17]
(粘結剤組成物)
尿素47.0質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液121.1質量部と、15質量%水酸化ナトリウム水溶液1.2質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた0.5リットル容量の4つ口フラスコ中に入れて80℃で1時間反応させ、その後、10質量%塩酸2.5質量部を添加して、更に3時間反応させた。その後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液2.5質量部と、尿素28.8質量部とを添加して、さらに30分間反応させ、尿素とホルムアルデヒドの縮合物を203.1質量部得た。その後、1リットル容量のフラスコに該尿素とホルムアルデヒドの縮合物100質量部とフルフリルアルコール400.35質量部とシランカップリング剤(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)1.0質量部を加えて、粘結剤組成物(K)501.35質量部を得た。なお、粘結剤組成物(K)501.35質量部における水の含有量は10.5質量%であり、酸硬化性樹脂と水との合計量に対する窒素原子含有量は3.5質量%であった。
得られた粘結剤組成物(K)96.03質量部に塩化カルシウム2水和物(CaCl・2HO)3.97質量部を混合溶解させて、粘結剤組成物(L)100質量部(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)を得た。
【0064】
(混練砂)
次に、珪砂100質量部に対して、上記粘結剤組成物(L)1.0質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
【0065】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後その圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表5に示す。
【0066】
[実施例18〜20]
珪砂100質量部に対して、下記の各々の粘結剤組成物1質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、各実施例の混練砂を得た。
【0067】
実施例18:粘結剤組成物(K)93.6質量部に塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)6.4質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(M)(塩化マグネシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例19:粘結剤組成物(K)96.48質量部に塩化バリウム2水和物(BaCl・2HO)3.52質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(N)(塩化バリウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例20:粘結剤組成物(K)97.0質量部に塩化亜鉛(ZnCl)3.0質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(O)(塩化亜鉛を3質量%含有する)。
【0068】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表5に示す。
【0069】
[比較例5]
珪砂100質量部に対して、粘結剤組成物(K)1.0質量部と硬化剤0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
得られた混練砂の一部を、実施例1と同様の条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
比較例5及び実施例17〜20では、酸硬化性樹脂として尿素とホルムアルデヒドの縮合物とフルフリルアルコールを用いている。
ここで、表5及び図5より、金属の塩化物を混合した粘結剤組成物を用いている実施例17〜20における、30分後の圧縮強度と24時間後の圧縮強度はいずれも、金属の塩化物を混合しない粘結剤組成物を用いている比較例5より明らかに高く、鋳型の強度向上効果が得られているといえる。これは、酸硬化性樹脂としてフルフリルアルコールと尿素とホルムアルデヒドの縮合物及びフルフリルアルコールを用いている前述の表2及び図2においても同様のことがいえる。
従って、酸硬化性樹脂として、尿素とホルムアルデヒドの縮合物とフルフリルアルコールを用いた場合も、金属の塩化物を添加すると、鋳型の初期強度及び最終強度の向上効果が得られるといえる。
【0072】
[実施例21]
(粘結剤組成物)
フルフリルアルコール861.2質量部と、尿素47.05質量部と、92質量%パラホルムアルデヒド65.9質量部と、15質量%水酸化ナトリウム水溶液2.0質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて80℃で1時間反応させ、その後、10質量%塩酸3.0質量部を添加して、更に3時間反応させた。その後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液2.0質量部と、尿素28.84質量部とを添加して、さらに30分間反応させ、尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、遊離フルフリルアルコールと、水との混合物を1010質量部得た。なお、該混合物1010質量部における水の含有量は4.5質量%であり、酸硬化性樹脂と水との合計量に対する窒素原子含有量は3.5質量%であった。
一方、フェノール470.5質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液330質量部と、25質量%アンモニア水溶液19.5質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて100℃で1時間10分反応させ、その後、真空度0.015MPaにて、内温80℃まで濃縮を行った。その後、フルフリルアルコールを368質量部添加し、フェノールとホルムアルデヒドの縮合物とフルフリルアルコールと水との混合物974.1質量部を得た。なお、このフェノールとホルムアルデヒドの縮合物とフルフリルアルコールと水との混合物974.1質量部における水の含有量は4.5質量%であった。
先に製造した尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、遊離フルフリルアルコールと、水との混合物898.2質量部と、後に製造したフェノールとホルムアルデヒドの縮合物とフルフリルアルコールと水との混合物898.2質量部とシランカップリング剤(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)3.6質量部を加えて、粘結剤組成物(P)1800質量部を得た。なお、粘結剤組成物(P)1800質量部における水の含有量は4.5質量%であり、酸硬化性樹脂と水との合計量に対する窒素原子含有量は1.85質量%であった。
得られた粘結剤組成物(P)96.03質量部に塩化カルシウム2水和物(CaCl・2HO)3.97質量部を混合溶解させて、粘結剤組成物(Q)100質量部(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)を得た。
【0073】
(混練砂)
次に、珪砂100質量部に対して、上記粘結剤組成物(Q)1.0質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
【0074】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表6に示す。
【0075】
[実施例22〜24]
珪砂100質量部に対して、下記の各々の粘結剤組成物1質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、各実施例の混練砂を得た。
【0076】
実施例22:粘結剤組成物(P)93.6質量部に塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)6.4質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(R)(塩化マグネシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例23:粘結剤組成物(P)96.48質量部に塩化バリウム2水和物(BaCl・2HO)3.52質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(S)(塩化バリウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例24:粘結剤組成物(P)97.0質量部に塩化亜鉛(ZnCl)3.0質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(T)(塩化亜鉛を3質量%含有する)。
【0077】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表6に示す。
【0078】
[比較例6]
珪砂100質量部に対して、粘結剤組成物(P)1.0質量部と硬化剤0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
得られた混練砂の一部を、実施例1と同様の条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
比較例6及び実施例21〜24では、酸硬化性樹脂として尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、フェノールとホルムアルデヒドの縮合物及びフルフリルアルコールを用いている。
ここで、表6及び図6より、金属の塩化物を混合した粘結剤組成物を用いている実施例21〜22における、30分後の圧縮強度は、金属の塩化物を混合しない粘結剤組成物を用いている比較例5より高く、鋳型の初期強度向上効果が得られているといえる。
従って、酸硬化性樹脂の構成成分としてフェノールを用いた場合は、金属の塩化物を添加すると、鋳型の最終強度は向上しないが、初期強度の向上効果が得られるといえる。
【0081】
[実施例25]
(粘結剤組成物)
フルフリルアルコール297.2質量部と、尿素8.0質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液20.64質量部と、15質量%水酸化ナトリウム水溶液0.7質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて80℃で1時間反応させ、その後、10質量%塩酸1.3質量部を添加して、更に3時間反応させた。その後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液1.0質量部と、尿素4.9質量部とを添加して、さらに30分間反応させ、その後シランカップリング剤(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)0.66質量部を添加し、尿素、フルフリルアルコール及びアルデヒド類を縮合させて得られる(共)縮合物と、遊離フルフリルアルコールと、水との混合物よりなる粘結剤組成物(U)334.4質量部を得た。なお、粘結剤組成物(U)334.4質量部における水の含有量は4.0質量%であり、酸硬化性樹脂と水との合計量に対する窒素原子含有量は1.8質量%であった。
得られた粘結剤組成物(U)96.03質量部に塩化カルシウム2水和物(CaCl・2HO)3.97質量部を混合溶解させて、粘結剤組成物(V)100質量部(塩化カルシウムを無水物換算で3質量%含有)を得た。
【0082】
(混練砂)
次に、珪砂100質量部に対して、上記粘結剤組成物(V)1.0質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
【0083】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表7に示す。
【0084】
[実施例26〜28]
珪砂100質量部に対して、下記の各々の粘結剤組成物1質量部と硬化剤(キシレンスルホン酸67質量%と硫酸8質量%を含有する75質量%水溶液)0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、各実施例の混練砂を得た。
【0085】
実施例22:粘結剤組成物(U)93.6質量部に塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)6.4質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(W)(塩化マグネシウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例23:粘結剤組成物(U)96.48質量部に塩化バリウム2水和物(BaCl・2HO)3.52質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(X)(塩化バリウムを無水物換算で3質量%含有)。
実施例24:粘結剤組成物(U)97.0質量部に塩化亜鉛(ZnCl)3.0質量部を混合溶解させて、100質量部とした粘結剤組成物(Y)(塩化亜鉛を3質量%含有する)。
【0086】
得られた各混練砂の一部を、直ちに温度25℃、湿度55%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後に各テストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表7に示す。
【0087】
[比較例7]
珪砂100質量部に対して、粘結剤組成物(U)1.0質量部と硬化剤0.4質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、混練砂を得た。
得られた混練砂の一部を、実施例1と同様の条件でテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から30分経過後にテストピースを取り出した(抜型時間30分)。
そこで、得られたテストピースについて、硬化開始から30分、1時間、3時間及び24時間経過後の圧縮強度と嵩密度を測定した。結果を表7に示す。
【0088】
【表7】

【0089】
比較例7及び実施例25〜28では、酸硬化性樹脂と水の合計量に対する窒素原子含有量が1.8質量%である粘結剤組成物を用いている。
ここで、表7及び図7より、金属の塩化物を混合した粘結剤組成物を用いている実施例25〜28における30分後の圧縮強度と24時間後の圧縮強度はいずれも、金属の塩化物を混合しない粘結剤組成物を用いている比較例7より明らかに高く、鋳型の強度向上効果が得られているといえる。
従って、酸硬化性樹脂と水の合計量に対する窒素原子含有量が1.8質量%の場合も、本発明の粘結剤組成物を用いれば鋳型の初期強度及び最終強度の向上効果が得られるといえる。
なお、酸硬化性樹脂と水の合計量に対する窒素原子含有量が3.5質量%である粘結剤組成物を用いた表2の実施例3〜6と、酸硬化性樹脂と水の合計量に対する窒素原子含有量が1.8質量%である粘結剤組成物を用いた表7の実施例25〜28とを比較すると、30分後の圧縮強度(初期強度)は窒素原子含有量が少ない表7の実施例25〜28の方が高い傾向にあり、24時間後の圧縮強度は窒素原子含有量が多い表2の実施例3〜5の方が高い傾向にあった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜4で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図2】実施例3〜6及び比較例1で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図3】実施例7〜11及び比較例1で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図4】実施例12〜16及び比較例3で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図5】実施例17〜20及び比較例5で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図6】実施例21〜24及び比較例6で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。
【図7】実施例25〜28及び比較例7で得られたテストピースの圧縮強度を時間経過毎に示した棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂と、水と、金属の塩化物を含み、
前記酸硬化性樹脂は、フルフリルアルコール、フェノール類及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上とアルデヒド類との縮合物又は共縮合物の1種又は2種以上、並びにフルフリルアルコールを含むものであり、
前記金属はアルカリ土類金属及び/又は亜鉛族元素である鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の鋳型造型用粘結剤組成物と耐火性粒状材料と硬化剤とを混合して混練砂を得る工程と、
混練砂を鋳型造型用の型に充填し、鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記耐火性粒状材料がアルミナ砂である、請求項2に記載の鋳型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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