説明

鋳型造型用粘結剤組成物

【課題】鋳型強度を向上させ、鋳型の割れを防ぐことができ、ホルムアルデヒド発生量を低減できる鋳型造型用粘結剤組成物、及びこれを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【解決手段】酸硬化性樹脂と、ピロガロール1〜30重量%とを含有し、窒素の含有量が1.8〜3.5重量%である、鋳型造型用粘結剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸硬化性樹脂及びピロガロールを含有する鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒子に、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤と、リン酸、有機スルホン酸、硫酸等を含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。酸硬化性樹脂には、フラン樹脂やフェノール樹脂等が用いられており、フラン樹脂には、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂等が用いられている。
【0003】
鋳型を製造する上で、重要な条件の一つとして、鋳型の生産性が挙げられる。自硬性鋳型においては、鋳型の生産性を上げるためには、原型に混練砂を充填した後、鋳型の硬化速度を上げて、原型から鋳型を抜型するまでに要する時間(抜型時間)を短くする必要があるが、鋳型割れを生じさせないことも重要な点である。また、作業環境の観点からは、鋳型造型時におけるホルムアルデヒドの発生量の低減が望まれている。
【0004】
鋳型の生産性を向上させるために、特許文献1には、フルフリルアルコール、芳香族ジアルデヒド及びピロガロールを含有する粘結剤組成物が開示されている。しかし、特許文献1には、鋳型割れについての課題や、粘結剤組成物中の窒素の含有量については記載されていない。
【0005】
また、ホルムアルデヒドの発生量を低減するために、特許文献2には、植物性天然物抽出組成物を含有する粘結剤組成物が開示されており、植物性天然物抽出組成物の例として、ピロガロールから誘導される骨格(ピロガロール骨格)を含有するポリフェノール類が挙げられている。しかし、特許文献2には、ピロガロールそのものを含有する粘結剤組成物については記載されていない。
【0006】
また、鋳型内部(深部)の硬化性を良好にするため、特許文献3には、塩素系有機溶剤を含有する粘結剤組成物が開示されており、造型注湯時に発生するホルムアルデヒドを低減させる目的で、尿素、レゾルシン、ピロガロール等を含有させてもよいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57-124543号公報
【特許文献2】特開2009-119505号公報
【特許文献3】特開2009-269062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3の粘結剤組成物を用いて鋳型を製造する場合、条件によっては鋳型割れが発生する可能性があった。
【0009】
本発明は、鋳型強度を向上させ、鋳型の生産性に重要な影響を与える鋳型の割れを防ぐことができ、ホルムアルデヒド発生量を低減できる鋳型造型用粘結剤組成物、及びこれを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂と、ピロガロール1〜30重量%とを含有し、窒素の含有量が1.8〜3.5重量%である、鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0011】
本発明の鋳型の製造方法は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法であって、前記鋳型造型用粘結剤組成物として前記本発明の鋳型造型用粘結剤組成物を使用し、前記耐火性粒子に前記硬化剤を添加した後、前記鋳型造型用粘結剤組成物を添加する鋳型の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物によれば、鋳型強度を向上させ、鋳型の割れを防ぐことができ、ホルムアルデヒド発生量を低減できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できる。また、本発明の鋳型の製造方法によれば、作業環境が改善される上、鋳型の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は実施例及び比較例の評価に使用した造型用木型の上面図であり、(b)は(a)のA−A´断面図であり、(c)は(a)のB−B´断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであって、酸硬化性樹脂と、ピロガロール1〜30重量%とを含有し、窒素の含有量が1.8〜3.5重量%である、鋳型造型用粘結剤組成物である。以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0015】
<酸硬化性樹脂>
酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、前記群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものや、前記群から選ばれる1種以上と前記共縮合物との混合物からなるものも使用できる。このうち、樹脂粘度の観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を使用するのが好ましい。フルフリルアルコールは、非石油資源である植物から製造できるため、地球環境の観点からは、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、及びこれらの共縮合物を使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲に調整する観点、及びコストの観点からは、尿素とアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物とフルフリルアルコールとの共縮合物を使用するのが好ましく、該アルデヒド類としてはホルムアルデヒドを使用するのがより好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記好適な範囲に調整する観点、及び鋳型の硬化速度の観点からは、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及びメラミンとアルデヒド類の縮合物とフルフリルアルコールとの共縮合物を使用するのが好ましく、メラミンとホルムアルデヒドの縮合物を使用するのがより好ましい。
【0016】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0017】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0018】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、メラミンとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、メラミン1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。また、尿素とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、尿素1モルに対して、アルデヒド類を1.0〜2.0モル使用することが好ましく、1.5〜2.0モル使用することがより好ましく、1.7〜2.0モル使用することが更に好ましい。
【0019】
また、酸硬化性樹脂が、尿素及びホルムアルデヒドを含む原料から合成されている場合は、酸硬化性樹脂を合成する際のホルムアルデヒドと尿素の配合比が、モル比で、ホルムアルデヒド/尿素=1.5〜2.0であることが好ましく、1.7〜2.0であることがより好ましい。鋳型の深部硬化性及び鋳型強度を向上させることができるからである。また、ホルムアルデヒド/尿素のモル比が2.0以下の場合は、ホルムアルデヒドの発生量を低減できる。
【0020】
粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂の含有量は、鋳型強度を十分発現する観点から、好ましくは55〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜90重量%であり、更に好ましくは65〜85重量%である。
【0021】
酸硬化性樹脂のpHは、抜型時間/可使時間の比を小さくする観点と、鋳型の深部硬化性及び鋳型強度を向上させる観点から、好ましくは8.5以下であり、より好ましくは6.0以下であり、更に好ましくは5.0以下である。また、貯蔵安定性の観点から、酸硬化性樹脂のpHは、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上であり、更に好ましくは3.5以上である。酸硬化性樹脂のpHを上記範囲内に制御するには、酸硬化性樹脂に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液、又はシュウ酸水溶液等の酸性水溶液を添加することによって調整すればよい。
【0022】
本発明の粘結剤組成物では、尿素などのアミノ基が樹脂成分と架橋結合を形成すると考えられ、得られる鋳型の可撓性に好ましい影響を与えることが推測される。アミノ基の含有量は窒素含有量(重量%)で見積もることが出来る。なお、鋳型の可撓性は、原型から鋳型を抜型する際に必要である。特に、複雑な形状の鋳型を造型した際に、鋳型の可撓性が高いと、抜型時に鋳型の肉厚が薄い部分に応力が集中することに起因する鋳型割れを防ぐことができる。本発明の粘結剤組成物は、鋳型強度を向上させる観点と、得られる鋳型の割れを防ぐ観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量が1.8重量%以上であり、2.2重量%以上が好ましく、2.3重量%以上がより好ましく、2.5重量%以上が更に好ましい。また、得られる鋳型の割れを防ぐ観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量は、3.5重量%以下であり、3.4重量%以下が好ましく、3.3重量%以下がより好ましく、3.2重量%以下が更に好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中の窒素含有量は、1.8〜3.5重量%であり、2.2〜3.4重量%が好ましく、2.3〜3.3重量%がより好ましく、2.5〜3.2重量%が更に好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲内に調整するには、粘結剤組成物中の窒素含有化合物の含有量を調整すればよい。窒素含有化合物としては、尿素、メラミン、尿素とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、尿素樹脂及び尿素変性樹脂等が好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量は、ケルダール法により定量することが出来る。更には、尿素、尿素樹脂、フルフリルアルコール・尿素樹脂(尿素変性樹脂)、及びフルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂由来の窒素含有量は、尿素由来のカルボニル基(C=O基)を13C-NMRで定量することで求めることも出来る。
【0023】
<ピロガロール>
本発明の粘結剤組成物は、鋳型強度を向上させる観点、及びホルムアルデヒド発生量を低減する観点から、ピロガロールを含有する。ピロガロールは、没食子酸から脱炭酸反応により合成できる化合物であり、ベンゼンの1,2,3位の水素がそれぞれヒドロキシ基に置換された3価フェノールである。なお、ピロガロールは、ピロガロール酸、あるいは焦性没食子酸とも呼ばれる。
【0024】
粘結剤組成物中のピロガロールの含有量は、ホルムアルデヒド発生量を低減する観点から、1重量%以上であり、5重量%以上であることが好ましい。また、粘結剤組成物中のピロガロールの含有量は、鋳型強度を向上させる観点から、30重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中のピロガロールの含有量は、1〜30重量%であり、1〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。なお、ピロガロールは、粘結剤組成物中に含まれるものに加えて、硬化促進剤としての第3成分として、混練砂に別添してもよい。
【0025】
本発明の粘結剤組成物は、鋳型強度を向上し、鋳型割れを防ぎ、ホルムアルデヒド発生量を低減する観点から、ピロガロールの含有量が1〜30重量%であり、粘結剤中の窒素の含有量が1.8〜3.5重量%であることが必須である。ピロガロールの含有量を1〜30重量%にすると共に粘結剤中の窒素の含有量を1.8〜3.5重量%とすることにより、鋳型の生産に適した粘結剤組成物が得られる。
【0026】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、抜型時間/可使時間の比を小さくする観点、鋳型の割れを防ぐ観点、及び鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、ピロガロール以外のフェノール誘導体、及び芳香族ジアルデヒドからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0027】
【化1】

〔式中、X1及びX2は、それぞれ水素原子、CH3又はC25の何れかを表す。〕
【0028】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、2,5−ビスメトキシメチルフラン、2,5−ビスエトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、鋳型強度を向上させる観点から、2,5−ビスヒドロキシメチルフランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)の酸硬化性樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0029】
ピロガロール以外のフェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、鋳型強度を向上させる観点から、レゾルシン、フロログルシノールが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体の酸硬化性樹脂への溶解性の観点及び鋳型強度を向上させる観点から、1.5〜25重量%であることが好ましく、2.0〜15重量%であることがより好ましく、3.0〜10重量%であることが更に好ましい。
【0030】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。抜型時間/可使時間の比を小さくする観点、及び鋳型の割れを防ぐ観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、抜型時間/可使時間の比を小さくする観点、芳香族ジアルデヒドを酸硬化性樹脂に十分に溶解させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0031】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点から1〜10重量%の範囲がより好ましく、3〜7重量%の範囲が更に好ましい。また、抜型時間/可使時間の比を小さくする観点と、鋳型の深部硬化性及び鋳型強度を向上させる観点から、10重量%以下とすることが好ましく、7重量%以下とすることがより好ましく、4重量%以下とすることが更に好ましい。
【0032】
<その他の添加剤>
また、粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、得られる鋳型の強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−α−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度の観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。なお、シランカップリング剤は、酸硬化性樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0033】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【0034】
本発明の鋳型の製造方法では、従来の鋳型の製造方法のプロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって、上記混合物(混練砂)を得ることができる。本発明の鋳型の製造方法では、前記硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加する。
【0035】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0036】
硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)等のスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型の深部硬化性の向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量が低減されるため、鋳型の深部硬化性が更に良好になると共に、鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0037】
鋳型の深部硬化性の向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。カルボン酸類としては、鋳型強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0038】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくし、鋳型の深部硬化性を向上させる観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂100重量部に対して10〜40重量部であることが好ましく、15〜35重量部であることがより好ましく、18〜25重量部であることが更に好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0040】
<酸硬化性樹脂のpH>
酸硬化性樹脂のpHは、水酸化ナトリウム水溶液及びシュウ酸水溶液で、表1〜6に示した値に調整した。測定方法は、酸硬化性樹脂と、酸硬化性樹脂と等重量のイオン交換水とを混合して、25℃にてpHメーターにて測定した。
【0041】
<粘結剤組成物の水分含有量>
京都電子工業社製カールフィッシャー水分測定器(MKS−510N)を用いて、カールフィッシャー法により水分含有量を測定した。滴定試薬にはハイドラナールコンポジット5(リーデル・デハーン社製)を用いた。また、脱水溶剤にはMS(三菱化成社製)を用いた。
【0042】
<粘結剤組成物の窒素含有量>
JIS M 8813に示されるケルダール法にて測定を行った。
【0043】
<粘結剤組成物の遊離ホルムアルデヒド量>
100mLの密栓付ガラス容器に、実施例及び比較例で用いた粘結剤組成物0.3gを正確に精秤した。続いて、水/アセトン溶液(重量比50:50)を3g添加し、粘結剤組成物を溶解させた。続いて蒸留水を追加投入し、内容物全体の重量が100.0gになるように希釈した。希釈後60分経過したものを測定試料として用いて、粘結剤組成物の遊離ホルムアルデヒド量を、特開2009−192321号公報に記載された実施例1の条件に従って分析した。分析に用いた試薬を以下に示す。
【0044】
蒸留水:和光純薬工業社製、20L
酢酸アンモニウム:和光純薬工業社製、特級500g
酢酸:和光純薬工業社製、特級500mL
アセチルアセトン:和光純薬工業社製、特級500mL
アセトン:大伸化学社製、14kg業務用
標準物質:和光純薬工業社製の組織固定用10%ホルマリン液(200mL、ホルムアルデヒド含有量4重量%)を、測定試料の予測される遊離ホルムアルデヒド量に応じて蒸留水で希釈したものを用いた。
【0045】
<24時間経過後の鋳型強度>
混練直後の混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後5時間経過した時に抜型を行い、25℃、55%RHの条件下で24時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で、圧縮強度を測定し、得られた測定値を24時間経過後の鋳型強度とした。
【0046】
<鋳型割れ>
図1(a)〜(c)に示す木型に混練直後の混練砂を充填し、抜型時間経過時に抜型した後、2時間後に、鋳型のネック部の割れの程度を目視にて確認し、以下の基準(a〜c)で評価した。なお、上記「抜型時間」とは、混練直後の混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填し、25℃、50%RHの条件下で所定時間放置した後、抜型し、JIS Z 2604−1976に記載された方法で、圧縮強度を測定し、得られた測定値が放置後はじめて0.8MPaに到達したときの充填直後からの放置時間をさす。
a:ネック部に全くひび割れが入っていない。
b:ネック部の一部にひび割れが見られるが、全周までは入っていない。
c:ネック部の全周にひび割れが見られ、鋳型が破断している。
【0047】
(実施例1〜17及び比較例1〜10)
25℃、55%RHの条件下で、フラン再生砂100重量部に対し、硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 TK−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 F−9との混合物(重量比はTK−3/F−9=23/17)〕0.36重量部を添加した後混練し、次いで表1〜6に示す粘結剤組成物0.90重量部を添加し、これらを混合して混練砂を得た。なお、上記フラン再生砂としては、空気中、1000℃で1時間加熱したときの重量減少率(LOI)が1.4重量%のものを用いた。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
表1〜6に示すように、実施例1〜17は、何れの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例1〜10は、少なくとも1つの評価項目について、実施例1〜17に比べて顕著に劣る結果であった。この結果から、本発明によれば、鋳型強度を向上させ、鋳型の割れを防ぐことができ、ホルムアルデヒド発生量を低減できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂と、ピロガロール1〜30重量%とを含有し、窒素の含有量が1.8〜3.5重量%である、鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記酸硬化性樹脂が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、又は前記群から選ばれる2種以上の共縮合物を含む請求項1記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記酸硬化性樹脂が、尿素及びホルムアルデヒドを含む原料から合成されており、
前記酸硬化性樹脂を合成する際に用いられるホルムアルデヒドと尿素のモル比が、ホルムアルデヒド/尿素=1.5〜2.0である請求項2記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
水分含有量が10重量%以下である請求項1〜3の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法であって、
前記鋳型造型用粘結剤組成物が、請求項1〜4の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物であり、前記耐火性粒子に前記硬化剤を添加した後、前記鋳型造型用粘結剤組成物を添加する、鋳型の製造方法。

【図1】
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