説明

鋳型造型用粘結剤組成物

【課題】酸硬化性樹脂の硬化速度の向上および鋳型強度の向上により、鋳型の生産性を高め、かつ鋳造時の作業環境を改善できる鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【解決手段】酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸0.1〜10重量%とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物。好ましくは、更に2価または3価の金属元素を、金属元素換算で0.01〜0.7重量%含有する鋳型造型用粘結剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、ケイ砂などの耐火性粒子に、酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤と、リン酸、有機スルホン酸、硫酸などを含有する硬化剤とを添加し、これらを混練した後、得られた混練砂を木型などの原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される。酸硬化性樹脂には、フラン樹脂やフェノール樹脂などが用いられており、フラン樹脂には、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール・フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、その他公知の変性フラン樹脂などが用いられている。
【0003】
酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物として、下記特許文献1には、鋳型用結合剤であるフラン樹脂の引張強度を改善するために、芳香族ジアルデヒドやレゾルシノールを含有するものが記載されている。また、下記特許文献2には、硬化速度の高い粘結剤を得るために、フルフリルアルコールおよびホルムアルデヒドの酸性触媒である特定の酸解離定数の触媒を用いてなる鋳型用酸硬化性粘結剤の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−124543号公報
【特許文献2】特開2000−246391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸硬化性の自硬性鋳型の生産性を向上させるための条件として、酸硬化性樹脂の硬化速度および鋳型強度、特に、24時間後の鋳型強度を向上することが挙げられる。即ち鋳型造型或いは鋳造などの高生産性が求められ、加えて各工程における作業環境の改善が求められている。酸硬化性樹脂の硬化速度の向上により、鋳型の抜型時間の短縮が可能となることから、鋳造工程の時間短縮が可能となり、鋳物工場での鋳物生産性が向上する。また24時間後の鋳型強度を向上することができれば、鋳物砂に対する鋳型造型用粘結剤組成物の使用量を減らしても、鋳型強度を確保できる。鋳型造型用粘結剤組成物の使用量を低減できると、溶融金属の注湯時にかかる組成物が燃焼することにより発生する燃焼ガス、特にSOガスの低減が可能となり、作業環境の改善を図ることができる。また更に粘結剤組成物の硬化速度を速めることは、硬化剤中の硫酸、キシレンスルホン酸をより少ない量で、同一の硬化速度を得ることができるため、結果的に硫酸、キシレンスルホン酸による熱分解ガスであるSOガスを低減できる事となる。
【0006】
酸硬化性樹脂の硬化速度の向上および鋳型強度の向上により、鋳型の生産性を高め、かつ作業環境の改善を図ることは、鋳造産業にとってその意義は非常に大きい。しかしながら、前述した特許文献1および2に記載の鋳型造型用粘結剤組成物では、酸硬化性樹脂の硬化速度の向上および鋳型強度の向上の観点から、さらなる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、酸硬化性樹脂の硬化速度の向上および鋳型強度の向上により、鋳型の生産性を高め、かつ鋳造時の作業環境を改善できる鋳型造型用粘結剤組成物と、これを用いた鋳型の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸0.1〜10重量%とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、耐火性粒子、前記記載の鋳型造型用粘結剤組成物および硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物によれば、酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸を特定量含有することにより、酸硬化性樹脂の硬化速度の向上および鋳型強度の向上を両立することができ、その結果、鋳型の生産性を高め、かつ鋳造時の作業環境を改善できる。また、鋳型造型用粘結剤組成物中に、2価または3価の金属元素を金属元素換算で特定量含有する場合、鋳造時の作業環境をさらに改善できると共に、酸硬化性樹脂の貯蔵安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであって、酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸0.1〜10重量%とを含有することに特徴を有し、鋳型の生産性を高め、かつ鋳造時の作業環境を改善する効果を奏する。このような効果を奏する理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0012】
水酸基含有芳香族カルボン酸を用いて硬化反応中に酸硬化性樹脂に変性を加えることにより、酸硬化性樹脂と後述する硬化剤との硬化過程において、水酸基含有芳香族カルボン酸の影響で、変性させる前の酸硬化性樹脂に対して更に酸性度が高まることから、酸硬化性樹脂の硬化速度が向上すると考えられる。また、水酸基含有芳香族カルボン酸の水酸基により、その求核電子密度が高まり、酸硬化性樹脂、特にはフラン樹脂が硬化する過程でホルムアルデヒド等のアルデヒド類の付加が起こり易くなるため、重合反応が速やかに進行し、鋳型強度が向上すると考えられる。
以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0013】
<酸硬化性樹脂>
酸硬化性樹脂は、耐火性粒子を接着させる役割を持つ。酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えば、フラン樹脂やフェノール樹脂などの自硬性の樹脂が使用できるが、鋳型強度発現による鋳型生産性向上および植物由来原料による環境負荷低減の観点から、フラン樹脂が好ましい。フラン樹脂としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールと尿素との縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類との縮合物、およびフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、または前記群から選ばれる2種以上からなる共縮合物が使用できる。このうち、鋳物砂との硬化反応を円滑に進行させ、鋳型の硬化速度と鋳型強度を向上させる観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールと尿素との縮合物、およびフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を使用するのが好ましく、フルフリルアルコール及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物を使用することが好ましい。
【0014】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒドなどが挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型の最終強度を向上させる観点から、ホルムアルデヒドが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点から、フルフラールやテレフタルアルデヒドが好ましい。
【0015】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0016】
フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物を製造する場合には、鋳型強度を向上させる観点からフルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。フルフリルアルコールと尿素との縮合物を製造する場合には、上記と同様の観点から、フルフリルアルコール1モルに対して、尿素を0.05〜0.5モル使用することが好ましい。フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物を製造する場合には、上記と同様の観点から、フルフリルアルコール1モルに対して、尿素を0.05〜0.5モル使用し、且つアルデヒド類を0.1〜1.5モル使用することが好ましい。
【0017】
また、酸硬化性樹脂が、尿素およびホルムアルデヒドを含む原料から合成されている場合は、酸硬化性樹脂を合成する際のホルムアルデヒドと尿素との配合比が、モル比で、ホルムアルデヒド/尿素=1.5〜4.0であることが好ましく、1.7〜4.0であることがより好ましい。鋳型の硬化速度および鋳型強度を向上させることができるからである。また、ホルムアルデヒド/尿素のモル比が2.0以下の場合は、造型時のホルムアルデヒドの発生量を低減できる。
【0018】
粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂の含有量は、鋳型強度を十分発現する観点から、好ましくは55〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜97重量%であり、さらに好ましくは65〜96重量%である。
【0019】
粘結剤組成物のpHは、鋳型強度を向上させる観点及び貯蔵安定性向上の観点から、2.0〜8.5が好ましく、3.0〜6.0がより好ましく、3.5〜5.0が更に好ましい。粘結剤組成物のpHを上記範囲内に制御するには、粘結剤組成物に、水酸化ナトリウムなどのアルカリや、またはシュウ酸、塩酸などの酸を添加することによって調整すればよい。また、添加方法としては固体で溶解させても構わないし、水溶液などの形態にして添加しても構わない。
【0020】
本発明の粘結剤組成物では、尿素などのアミノ基が樹脂成分と架橋結合を形成すると考えられ、得られる鋳型の可撓性に好ましい影響を与えることが推測される。アミノ基の含有量は窒素含有量(重量%)で見積もることが出来る。なお、鋳型の可撓性は、原型から鋳型を抜型する際に必要である。特に、複雑な形状の鋳型を造型した際に、鋳型の可撓性が高いと、抜型時に鋳型の肉厚が薄い部分に応力が集中することに起因する鋳型割れを防ぐことができる。本発明の粘結剤組成物は、鋳型強度を向上させる観点と、得られる鋳型の割れを防ぐ観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量は、0.8〜6.0重量%であることが好ましく、1.8〜6.0重量%がより好ましく、2.2〜5.0重量%がより好ましく、2.3〜4.5重量%が更に好ましく、2.5〜4.0重量%が更により好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲内に調整するには、粘結剤組成物中の窒素含有化合物の含有量を調整すればよい。窒素含有化合物としては、尿素、メラミン、尿素とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、尿素樹脂および尿素変性樹脂などが好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量は、ケルダール法により定量することが出来る。更には、尿素、尿素樹脂、フルフリルアルコール・尿素樹脂(尿素変性樹脂)、およびフルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂由来の窒素含有量は、尿素由来のカルボニル基(C=O基)を13C−NMRで定量することで求めることも出来る。
【0021】
<水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸>
本発明において、「水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸(以下、「水酸基含有芳香族カルボン酸」ともいう)とは、1分子中においてベンゼン核にカルボキシル基が1個以上結合し、かつ該ベンゼン核に水酸基が1個以上結合した化学構造を有する化合物をいう。
【0022】
水酸基含有芳香族カルボン酸としては、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、水酸基を少なくとも1つ有する安息香酸誘導体が好ましい。水酸基含有芳香族カルボン酸としては、例えばo−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、3,6−ジヒドロキシフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸などが挙げられる。中でも鋳込み後の臭気低減や経済性の観点からp−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸が好ましい。また、硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸が好ましい。
【0023】
粘結剤組成物中の水酸基含有芳香族カルボン酸の含有量は、硬化速度の向上及び鋳型強度向上の観点から0.1重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは0.7重量%以上であり、更に好ましくは1.0重量%以上である。粘結剤組成物中の水酸基含有芳香族カルボン酸の含有量は、鋳型強度の向上、鋳込み後の臭気低減の観点と経済性の観点から、10重量%以下であり、鋳型強度の向上、鋳込み後の臭気低減の観点から、好ましくは7重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、更に好ましくは3重量%以下であり、より更に好ましくは2.5重量%以下である。粘結剤組成物中の水酸基含有芳香族カルボン酸の含有量は、これらの観点を総合すると、0.1〜10重量%であり、好ましくは0.5〜7重量%であり、より好ましくは0.7〜5重量%であり、更に好ましくは0.7〜3重量%であり、より更に好ましくは1〜2.5重量%である。
【0024】
酸硬化性樹脂と水酸基含有芳香族カルボン酸の混合比率は、鋳型の硬化速度向上や鋳型強度向上及び鋳込み後の臭気改善及び粘結剤組成物の貯蔵安定性向上の総合的な観点から、酸硬化性樹脂/水酸基含有芳香族カルボン酸=99.9/0.1〜85/15が好ましく、99.9/0.1〜90/10がより好ましく、99/1〜95/5が更に好ましい。
【0025】
酸硬化性樹脂に、水酸基含有芳香族カルボン酸を混合・分散させる方法としては、酸硬化性樹脂を40〜90℃の範囲で加温させておき、攪拌機などを使用し、これらの水酸基含有芳香族カルボン酸を溶解或いは分散させることが望ましい。酸硬化性樹脂との反応を避けかつ溶解させる観点から、溶解させる温度は40℃〜60℃がさらに好ましい。また、溶解が確認されたら速やかに室温に冷却するのが好ましい。また前述した含有量でフラン樹脂などの製造工程上で用いても良いが、酸硬化性樹脂自体の反応が製造中に進んでしまうのを防止する観点から、酸硬化性樹脂の合成後に、上記温度にて溶解させるのが好ましい。
【0026】
<2価または3価の金属元素>
本発明の粘結剤組成物は、2価または3価の金属元素を含有する場合、鋳造時の作業環境をさらに改善できる。かかる効果を奏する理由としては、以下の理由が推定される。
【0027】
溶融金属の注湯時に粘結剤組成物が燃焼することにより発生する燃焼ガス、特にSOガスは、2価または3価の金属元素と反応し、例えばCaSOなどの不溶性の硫酸金属塩を生成する。かかる硫酸金属塩は、熱に対して安定であるため、鋳造時における燃焼ガスの発生を抑制でき、その結果、鋳造時の作業環境をさらに改善できるものと推定される。
更に、本発明の粘結剤組成物は、水酸基含有芳香族カルボン酸を含むため、これら2価、3価の金属化合物が溶解しやすく、貯蔵安定性が良好になる。
【0028】
2価又は3価の金属化合物としては鋳型硬化速度向上や鋳型強度向上及び鋳込み後の臭気改善やSO発生量抑制及び粘結剤組成物の貯蔵安定性向上の総合的な観点からCaやAlが好ましく、その対イオンとしては鋳型の硬化速度向上や鋳型強度向上及び鋳込み後の臭気改善やSO発生量抑制及び粘結剤組成物の貯蔵安定性向上の総合的な観点から硝酸イオンや水酸化イオンが好ましく、硝酸イオンがより好ましい。
具体的には、Ca(OH)、Ca(NO、Al(OH)、Al(NOが挙げられ、鋳型の硬化速度向上、鋳型強度向上、鋳込み後の臭気改善、SO発生量抑制及び粘結剤組成物の貯蔵安定性向上の観点からCa(OH)、Ca(NO、Al(NOが好ましく、SO発生量抑制及び鋳型の硬化速度向上の観点からCa(NOが好ましく、SO発生量抑制及び鋳型強度向上の観点からAl(NOが好ましい。
【0029】
粘結剤組成物中の、2価または3価の金属元素の含有量は、貯蔵安定性の向上、鋳型の硬化速度の向上及び鋳型強度の向上の観点から、金属元素換算で好ましくは0.7重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%%以下であり、鋳込み後の臭気改善及びSO発生量抑制の観点から、金属元素換算で好ましくは0.01重量%以上であり、より好ましくは0.05重量%であり、更に好ましくは0.1重量%である。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中の、2価または3価の金属元素の含有量は、金属元素換算で好ましくは0.01〜0.7重量%であり、より好ましくは0.05〜0.5重量%であり、更に好ましくは0.1〜0.5重量%である。また、粘結剤組成物中の、2価または3価の金属元素の含有量は、貯蔵安定性の向上の観点から、金属元素換算で好ましくは0.1〜0.7重量%であり、SO発生量抑制の観点から、金属元素換算で好ましくは0.4〜0.7重量%であり、より好ましくは0.5〜0.7重量%であり、鋳型の硬化速度の向上及び鋳型強度の向上の観点から、金属元素換算で好ましくは0.1〜0.5重量%であり、より好ましくは0.1〜0.4重量%であり、更に好ましくは0.1〜0.3重量%である。
2価または3価の金属化合物と、水酸基含有芳香族カルボン酸とにおいて、どちらを先に酸硬化性樹脂を含む粘結剤組成物中に添加するかは限定されるものではない。しかしながら、酸硬化性樹脂を含む粘結剤組成物中に、先に水酸基含有芳香族カルボン酸を添加し、次に2価または3価の金属化合物を添加するほうが、2価または3価の金属化合物が溶解しやすいため好ましい。
【0030】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、鋳型の割れを防ぐ観点、および鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含有されてもよい。硬化促進剤としては、鋳型強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、フェノール誘導体、芳香族ジアルデヒド、およびタンニン類からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、同様の観点、および鋳型の硬化速度向上の観点から、フェノール誘導体がより好ましい。なお、硬化促進剤は、酸硬化性樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0031】
【化1】


〔式中、XおよびXは、それぞれ水素原子、CHまたはCの何れかを表す。〕
【0032】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン、2,5−ビス(メトキシメチル)フラン、2,5−ビス(エトキシメチル)フラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、硬化速度を向上させる観点から、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フランが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)の酸硬化性樹脂への溶解性向上の観点、および鋳型強度向上の観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0033】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノールなどが挙げられる。なかでも、硬化速度向上の観点、および鋳型強度向上の観点から、レゾルシン、フロログルシノールが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体の酸硬化性樹脂への溶解性向上の観点、および鋳型強度向上の観点から、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜8重量%であることがより好ましく、1〜7重量%であることが更に好ましい。
【0034】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒドおよびイソフタルアルデヒドなど、並びにそれらの誘導体などが挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基などの置換基を有する化合物などを意味する。鋳型強度を向上させる観点から、テレフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドを酸硬化性樹脂に十分に溶解させる観点、鋳型強度を向上させる観点、および芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0035】
タンニン類としては、縮合タンニンや加水分解型タンニンが挙げられる。これら縮合タンニンや加水分解型タンニンは、ピロガロール骨格やレゾルシノール骨格を持つタンニンが挙げられる。また、これらタンニン類を含有する樹皮抽出物や植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物からの抽出物を添加しても構わない。
【0036】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られる。このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、水分は必要に応じて、トッピング等で除去しても構わないが、硬化反応速度を維持できる限り、製造の際にあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点から1〜10重量%の範囲がより好ましく、3〜7重量%の範囲が更に好ましい。また、鋳型の硬化速度および鋳型強度を向上させる観点から、水分含有量は10重量%以下とすることが好ましく、7重量%以下とすることがより好ましく、4重量%以下とすることが更に好ましい。
【0037】
<その他の添加剤>
また、粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤などの添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、鋳型強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−α−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。なお、シランカップリング剤は、酸硬化性樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0038】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物および硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【0039】
本発明の鋳型の製造方法では、従来の鋳型の製造方法のプロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって、上記混合物(混練砂)を得ることができる。本発明の鋳型の製造方法では、鋳型強度向上の観点から、前記硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加することが好ましい。
【0040】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂などの従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0041】
硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)などのスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸などを含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類およびエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型の硬化速度向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量を低減できるため、鋳型の硬化速度が更に良好になると共に、鋳型強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、鋳型強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0042】
鋳型の硬化速度の向上や、鋳型強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、前記エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、前記エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。前記カルボン酸類としては、溶解性、鋳型強度向上および臭気低減の観点から、水酸基を持つ水溶性のカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0043】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な鋳型強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくし、鋳型の硬化速度を向上させる観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂100重量部に対して10〜60重量部であることが好ましく、15〜50重量部であることがより好ましく、18〜45重量部であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の組成物は、
<1>酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸0.1〜10重量%とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0045】
本発明は、さらに以下の組成物又は製造方法、或いは用途が好ましい。
<2>水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸が、水酸基を少なくとも1つ有する安息香酸誘導体である前記<1>の鋳型造型用粘結剤組成物。
<3>水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸が、p−ヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸及び3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上であり、好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸及び2,6−ジヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上であり、より好ましくは3,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸及び2,6−ジヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上である前記<1>又は<2>の鋳型造型用粘結剤組成物。
<4>水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸の含有量が、0.5〜7重量%であり、好ましくは0.7〜5重量%であり、より好ましくは0.7〜3重量%であり、更に好ましくは1〜2.5重量%である前記<1>〜<3>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<5>前記酸硬化性樹脂と前記水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸との重量比率は、(前記酸硬化性樹脂)/(水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸)=99.9/0.1〜90/10であり、好ましくは99.1/0.1〜95/5であり、より好ましくは99/1〜95/5である前記<1>〜<4>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<6>前記酸硬化性樹脂が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールと尿素との縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類との縮合物、およびフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、または前記群から選ばれる2種以上からなる共縮合物を含み、好ましくはフルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールと尿素との縮合物、およびフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を含み、より好ましくはフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選ばれる1種以上を含む前記<1>〜<5>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<7>更に、2価または3価の金属元素を、金属元素換算で0.01〜0.7重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%含有する前記<1>〜<6>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<8>耐火性粒子、前記<1>〜<7>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物および硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法。
<9>前記<1>〜<7>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物を鋳型製造に使用する用途。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0047】
<粘結剤組成物の製造方法>
表1〜4に示す所定量のフラン樹脂Aまたはフラン樹脂Bを60℃に加温し、攪拌しながら表1〜4に示す所定量の添加剤および/または2又は3価金属元素化合物を添加して、混合し、溶解を確認した後すぐに冷却して粘結剤組成物を得た。
【0048】
実施例1〜11および比較例1〜8
25℃、55%RHの条件下で、フリーマントル新砂(山川産業社製)100重量部、キシレンスルホン酸/硫酸系硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 US−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 C−21との混合物(重量比はUS−3/C−21=10/30)〕0.40重量部を添加した後混合した。次いで表1〜表2に示す組成の鋳型用粘結剤組成物1.0重量部を添加し、これらを混合して混練砂を得た。
【0049】
前述した混練砂を使用し、下記評価条件に基づき、特性を評価した。結果を表1〜2に示す。
【0050】
<1時間後の鋳型強度>
混練直後の前記混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後、25℃、55%RHの条件下で1時間経過した時に抜型し、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定した。得られた測定値を1時間後の鋳型強度とした。なお、1時間後の鋳型強度が高いほど、鋳型の硬化速度が速いと評価できる。
【0051】
<24時間後の鋳型強度>
混練直後の前記混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後、25℃、55%RHの条件下で3時間経過した時に抜型し、25℃、55%RHの条件下で充填から24時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定した。得られた測定値を24時間後の鋳型強度とした。なお、24時間後の鋳型強度が高いほど、鋳型強度が高いと評価できる。
【0052】
<鋳込み後の臭気の評価>
上型と下型からなる階段状試験片の木型模型に、前記鋳物砂を充填した。その後約1時間後で模型から鋳型を抜型し、階段状試験片の鋳型(20kg)を得た。翌日、該階段状試験片にFC−250の材質である1410℃の熔湯(溶融金属重量7kg)を鋳造し、1.5mの高さの位置で30分後の鋳型から発生する臭気の官能評価を行った。なお、アンケートによる官能臭気パネラー3人の回答を採用した。
A:3人ともに殆ど刺激臭を感じない
B:3人中、1人が僅かに刺激臭を感じる
C:3人中、2人が僅かに刺激臭を感じる
D:3人ともに僅かに刺激臭を感じる
E:3人ともに刺激臭を感じる
F:3人ともに強い刺激臭を感じる
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果から、比較例1〜4の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合に比べて、実施例1〜5の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合、1時間後および24時間後の鋳型強度が高いことがわかる。また、実施例1〜5の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合、鋳造後の鋳型から発生する刺激臭が少ない。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から、比較例5および6の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合に比べて、実施例1および6〜8の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合、1時間後および24時間後の鋳型強度及び臭気抑制に優れる。また、比較例7および8の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合に比べて、実施例3および9〜11の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合、1時間後および24時間後の鋳型強度及び臭気抑制に優れる。
【0057】
実施例12〜25および比較例9〜10
25℃、55%RHの条件下で、フリーマントル新砂(山川産業社製)100重量部、キシレンスルホン酸/硫酸系硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 US−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 C−21との混合物(重量比はUS−3/C−21=10/30)〕0.40重量部を添加した後混合し、次いで表3及び表4に示す鋳型用粘結剤組成物 1.0重量部を添加し、これらを混合して混練砂を得た。
【0058】
前述した混練砂を使用し、前述した評価条件に基づき、1時間後の鋳型強度、24時間後の鋳型強度および鋳込み後の官能臭気を評価した。さらに、下記評価条件に基づき、特性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0059】
<鋳型用粘結剤組成物の貯蔵安定性の評価>
表3及び表4に示す酸硬化性樹脂に添加剤および2または3価金属元素化合物を添加した鋳型用粘結剤組成物をそれぞれ50g採取し、50cc用蓋付きガラス瓶に入れた。このガラス瓶を50℃の恒温器の環境下に貯蔵し、沈殿が発生するまでの日数を調べた。沈殿物は、2または3価金属元素化合物であり、この沈殿が発生するまでの日数が長いほど、貯蔵安定性が良好であることを意味する。
【0060】
<SO発生量の測定(環状炉試験法)>
上記鋳型強度の評価で用いたテストピースを20メッシュ篩でばらした鋳物砂5.00gを、磁製の燃焼ボート(エムエム化学陶業社製、型式997−CB−2:幅15mm、高さ10mm、長さ90mm)に充填し、測定試料を作製した。その後、500℃に調整した環状炉(アドバンテック東京社製、TYPE 07−V9:9kW、環状炉内径60mm、長さ600mm、一方はアルミ箔遮蔽)のヒーター中央部に、前記測定試料を挿入し、下記に示す所定の測定時間中に、ガス検知器(ガステック社製、型番GV−100S及びSO用ガス検知管5M)により燃焼時に発生する二酸化硫黄ガスの濃度を測定した。また、ガス検知管の測定時間は、以下のとおりとした。
【0061】
測定試料を挿入して0.5分間経過した後から1分間採取し、測定試料を挿入して2分間経過した後から1分間採取し、測定試料を挿入して4分間経過した後から1分間採取し、測定試料を挿入して6分間経過した後から1分間採取し、それぞれの測定値を合計した。値が小さいほど、SO発生量が少なく、鋳造時の作業環境が良好であることを意味する。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果から、比較例9および10の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合に比べて、実施例12〜21の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合は、1時間後鋳型強度、24時間後鋳型強度及び臭気抑制に優れることがわかる。また、比較例9の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合に比べて、実施例12〜21の鋳型造型用粘結剤組成物を使用した場合、貯蔵安定性に優れることがわかる。
2価又は3価の金属元素を併用した実施例12、14、16〜18及び20は、それらを併用しない実施例13、15、19及び21との比較から、SOの発生量が少なく、作業環境の改善につながる。
【0064】
【表4】

表4の結果から、2価又は3価の金属元素を含有した粘結剤組成物は、1時間後の鋳型強度、24時間後の鋳型強度を実用レベルに維持し、鋳込み後の臭気抑制に優れ、SOの発生量が低減した。さらに、2価または3価の金属元素であるCaの量が、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸であるp−ヒドロキシ安息香酸に対し、0.01〜0.70重量%の範囲では粘結剤組成物の貯蔵安定性は問題なかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂と、水酸基を少なくとも1つ有する芳香族カルボン酸0.1〜10重量%とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸が、水酸基を少なくとも1つ有する安息香酸誘導体である請求項1記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸が、p−ヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸及び3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸からなる群より選ばれた1種以上である請求項1又は2記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸の含有量が、0.5〜7重量%である請求項1〜3の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
前記酸硬化性樹脂と水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸との重量比率は、(前記酸硬化性樹脂)/(水酸基を少なくとも1つ有する前記芳香族カルボン酸)=99.9/0.1〜90/10である請求項1〜4の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
前記酸硬化性樹脂が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールと尿素との縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類との縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類との縮合物、およびフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類との縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、または前記群から選ばれる2種以上からなる共縮合物を含む請求項1〜5の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項7】
更に、2価または3価の金属元素を、金属元素換算で0.01〜0.7重量%含有する請求項1〜6の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項8】
耐火性粒子、請求項1〜7の何れか1項記載の鋳型造型用粘結剤組成物および硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法。