説明

鋳造用金型

【課題】スライド入子の傾きや熱変形に起因するかじり発生を抑制し、もって生産性の向上並びに製造コストの低減に大きく寄与する鋳造用金型を提供する。
【解決手段】キャビティ6を形成する金型要素の一つであるスライド入子4を入子本体10と部分入子11とに分割し、部分入子11を連動可能に入子本体10に組込んで、部分入子11の後端部をスライド用シリンダ5に作動連結し、比較的大きな成形突起12を有する部分入子11を入子本体10に先行して脱型させる。抜け抵抗の大きい成形突起12が偏った部位にあっても、あるいは入子本体10に熱変形が生じても、部分入子11を真直ぐに引抜くことができ、結果として製品に対するかじり発生が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造、高圧鋳造等の鋳造に用いられる金型に係り、特にキャビティを形成する金型要素の少なくとも一つがスライド入子で構成された鋳造用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
中空部や凹凸部を側面に有する製品(鋳造品)を金型鋳造するには、横方向へ移動可能なスライド入子が必要になる(例えば、特許文献1、2等参照)。そして、このようなスライド入子を備えた金型により鋳造を行う場合は、鋳造後、他の金型要素に先行してスライド入子を脱型し、その後に型開きを行うようにしている。この場合、スライド入子は、他の金型要素との間に設けたガイドキーに案内されて引抜かれるようになっているが、成形すべき中空部や凹凸形状に偏りがあると、抜け抵抗の違いによりスライド入子に傾きが生じ、該スライド入子を真直ぐに引抜くことが困難になって、製品にかじり(キズ)が発生しやすなる。また、スライド入子には、溶湯に接する側(成形部側)と背面側との温度差に起因して熱変形(そり)が生じやすく、このような熱変形が生じた場合にも、前記同様にスライド入子を真直ぐに引抜くことが困難になり、製品にかじり(キズ)が発生する。
【0003】
【特許文献1】特開平7−290187号公報
【特許文献2】特開2006−55868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、上記したかじりが発生した場合は、鋳造品である製品の補修が必要になることに加え、スライド入子の補修(付着金属除去)、塗型の吹き増し、塗型の除去−再塗り等の作業が必要になり、生産性の低下や製造コストの上昇が避けられないようになる。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、スライド入子の傾きや熱変形に起因するかじり発生を抑制し、もって生産性の向上並びに製造コストの低減に大きく寄与する鋳造用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、スライド入子の一部を分割して、この分割した入子を独立に脱型させるようにしたことを特徴とする。このように構成した鋳造用金型においては、分割した入子を独立に脱型させるので、部位による抜け抵抗の違いによらずかつスライド入子全体の熱変形によらず真直ぐに引抜くことが可能になり、結果としてかじりの発生が抑制される。
【0007】
以下に、本発明の態様をいくつか例示し、それらについて項分けして説明する。なお、以下の説明でいう金型要素とは、上下配置の型構成の場合は上型および下型を含み、左右配置の型構成の場合は固定型および可動型を含んでいる。また、本金型が適用される鋳造法は任意であり、低圧鋳造であっても、高圧鋳造(ダイカスト)であっても、あるいは重力鋳造であってもよい。
【0008】
(1)キャビティを形成する金型要素の少なくとも一つがスライド入子で構成された鋳造用金型において、前記スライド入子を入子本体と部分入子とに分割して、該部分入子を前記入子本体にスライド方向へ相対移動可能に組込み、該部分入子を前記入子本体よりも先行して脱型させることを特徴とする鋳造用金型。
【0009】
本(1)項に記載の鋳造用金型においては、部位による抜け抵抗の違いによらずかつスライド入子全体の熱変形によらず真直ぐに部分入子を引抜くことができるので、かじりが発生しやすい成形部を含むように部分入子を分割することで、かじり発生が大幅に抑制される。
【0010】
(2)部分入子を、ガイドキーを介して入子本体または他の金型要素に結合したことを特徴とする(1)項に記載の鋳造用金型。
【0011】
本(2)項記載の鋳造用金型においては、部分入子をガイドキーを介して入子本体または他の金型要素に結合したので、部分入子の摺動は安定し、その引抜きが円滑となる。この場合、ガイドキーは、部分入子に設けても、該部分入子の相手側となる入子本体または他の金型要素に設けてもよく、いずれにおいても、相手側にはガイドキーが嵌合するキー溝が設けられることになる。
【0012】
(3)入子本体と部分入子とを連動可能に連結し、スライド入子の駆動手段を両者の駆動に共用することを特徴とする(1)または(2)項に記載の鋳造用金型。
【0013】
本(3)項記載の鋳造用金型においては、スライド入子の駆動用として装備されている駆動手段を入子本体と部分入子とに共用するので、新たな駆動手段が不要になり、スライド入子の分割に伴うコストの増加を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋳造用金型によれば、スライド入子の傾きや熱変形に起因するかじり発生を抑制することができるので、製品補修、型補修、塗型補修等に要する手間が大幅に削減し、生産性の向上並びに製造コストの低減に大きく寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1〜3は、本発明の一つの実施形態である鋳造用金型を示したものである。本実施形態は低圧鋳造に用いられるもので、図示を略す保持炉の上部に配置したダイベース1上に固定された下型2と、下型2の上方に昇降可能に配設した可動プラテン(図示略)に支持された上型3と、下型2の上面にスライド可能に配設された、後に詳述するスライド入子4とから概略構成されている。前記可動プラテンは昇降用シリンダ(図示略)により、スライド入子4はスライド用シリンダ(駆動手段)5によりそれぞれ駆動されるようになっており、前記昇降用シリンダにより上型3を下降させかつ前記スライド用シリンダ5によりスライド入子4を前進させることで、下型2に対して上型3およびスライド入子4が型閉じされ、これらの相互間に鋳造空間としてのキャビティ6が形成される。
【0017】
一方、下型2の底部には湯口部7が形成されており、下型2には、前記保持炉内から延ばしたストーク8が前記湯口部7に連通して取付けられている(図2)。鋳造時には、保持炉内が加圧されることで、該保持炉内の溶湯Mがストーク8および湯口部7を通じて前記キャビティ6内に押上げられ、そのまま凝固させることで鋳造品としての製品P(図4、5)が成形されるようになる。なお、上型3には、製品Pを離型させるための複数の押出ピンが取付けられるが、この押出ピンを含む押出機構については図示を省略している。
【0018】
本実施形態において、上記スライド入子4は、入子本体10と部分入子11とからなる分割構造となっている。部分入子11は、比較的大きな成形突起12を含む成形部13を備えており、該成形部13は入子本体10に形成された有底の嵌合凹部10aにわずかのクリアランスで納められている。部分入子11はまた、その成形部13の裏面から前記嵌合凹部10aの底部を貫通して入子本体10の外部へ延ばされた狭幅の連接部14と入子本体10の外部において前記連接部14の一端に設けられた板状の大端部15とを備えている。部分入子11は、その大端部15の一面を入子本体10の裏面に当接させる位置が入子本体10に対する前進端となる一方で、その成形部13の裏面を入子本体10側の嵌合凹部10aの底面に当接させる位置(図5参照)が入子本体10に対する後退端となっている。
【0019】
部分入子11の大端部15にはフランジ部15aが一体に設けられており、このフランジ部15aは、前記スライド用シリンダ5のピストンロッド5aの先端に継手部材16を介して連結された連結部材17のスロット17aに遊嵌されている。図1に示す型閉じ状態から、シリンダ5のピストンロッド5aが短縮すると、その動きが継手部材16および連結部材17を介して部分入子11に伝達され、先ず部分入子11が入子本体10に対して後退する。そして、部分入子11の裏面が入子本体10側の嵌合凹部10aの底面に当接すると、シリンダ5の力が部分入子11から入子本体10に伝達され、両者は一体に後退する(図5)。一方、部分入子11と入子本体10とが後退した状態からシリンダ5のピストンロッド5aが伸長すると、先ず連結部材17に押されて部分入子11が前進し、部分入子11はその大端部15の一面を入子本体10の裏面に当接させる前進端に位置決めされる。そして、部分入子11が入子本体10に当接すると、両者は一体に前進し、図1に示すように型閉じされる。
【0020】
本実施形態において、上記部分入子11の側面には、ガイドキー18が固設されており、このガイドキー18は、下型2の上面に形成したキー溝19に摺動可能に嵌合されている(図2、3)。部分入子11は、ガイドキー18とキー溝19との嵌合によりスライド方向と交差する方向への移動が規制され、下型2上をガタなく円滑に移動する。
【0021】
以下、上記実施形態としての鋳造用金型を用いて行う低圧鋳造の実施状況を図4、5も参照して説明する。
【0022】
低圧鋳造に際しては、スライド用シリンダ5の作動によりスライド入子4を前進端に位置決めした後、上型3を下降させて、図1に示したように下型2と、スライド入子4と上型3とを相互に型閉じする。そして、この型閉じ後、図示を略す保持炉内を加圧する。すると、保持炉内の溶湯Mがストーク8および下型2の湯口部7を通じてキャビティ6内に注入され、キャビティ6内は溶湯Mで満たされる。キャビティ6内の溶湯Mは、周辺から凝固が進んで湯口部10付近が最終凝固域となり、この湯口部10内まで凝固が進んだタイミングで保持炉内の圧力を解放すると、ストーク8内の未凝固溶湯が保持炉内に落下し、これにて鋳造は終了する。
【0023】
上記鋳造終了後は、先ずスライド用シリンダ5のピストンロッド5aが短縮し、スライド入子4を構成する部分入子11が後退する。すると、図4に示されるように、部分入子4の成形突起12が鋳造品である製品Pから抜ける。このとき、本体入子10が不動で、部分入子11だけが脱型されるので、抜け抵抗の大きい成形部13(成形突起12)が偏った部位にあっても、部分入子11を真直ぐに引抜くことができる。また、入子本体10にその前面と裏面との温度差に起因する熱変形が生じたとしても、その熱変形が部分入子11に及ぶことはなく、部分入子11を真直ぐに引抜くことができる。したがって、この部分入子11の脱型に際して、その成形突起12が製品Pにかじることはなく、製品Pに発生しやすいかじり(キズ)が抑制される。特に、本実施形態においては、部分入子11がガイドキー18を案内にガタつきなく後退するので、かじり発生は著しく抑制される。
【0024】
上記スライド用シリンダ5のピストンロッド5aは、部分入子11が脱型した後も短縮を続けており、これにより部分入子11の裏面が入子本体10側の嵌合凹部10aの底面に当接する。そして、部分入子11の裏面が嵌合凹部10aの底面に当接すると、部分入子11と入子本体10とが一体に後退し、図5に示されるように、スライド入子4の全体が製品Pから脱型される。その後は、上型3が上昇して製品Pが上型に張り付いたまま上昇し、さらに、図示を略す押出機構の作動により製品Pが上型3から離型され、これにて一連の低圧鋳造は終了する。
【0025】
このように、本実施形態によればスライド入子4の脱型時のかじり発生が大きく抑制されるので、鋳造品である製品Pの補修はもとより、スライド入子4の補修(付着金属除去)に要する作業は大幅に削減される。また、塗型品質も長期的に維持されるので、塗型の吹き増しや塗型の除去−再塗りの作業も大幅に削減され、結果として生産性の向上と製造コストの低減とを達成できる。本実施形態においては特に、入子本体10と部分入子11とを連動可能に連結し、スライド用シリンダ5を両者の駆動に共用するようにしているので、新たな駆動手段が不要になり、スライド入子4の分割に伴うコストの増加を最小限に抑えることができる。
【0026】
ここで、上記実施形態においては、スライド入子4から一つの部分入子11を分割した事例を示したが、その分割数、すなわち部分入子11の数は任意であり、かじりが生じやすい成形箇所に応じて二つ以上とすることができる。図6は、スライド入子4から二つの部分入子11,11を分割した事例を示したもので、ここでは、スライド用シリンダ5のピストンロッド5aの先端に設ける継手部材16´を大型に形成して、該継手部材16´を二つの分割入子11の連結に共用している。この場合の作用、効果も上記実施形態と同様であり、抜け抵抗の大きい成形部13(成形突起12)が偏った部位にあっても、あるいは入子本体10に熱変形が生じても、部分入子11、11を真直ぐに引抜くことができ、かじり発生が抑制される。また、スライド用シリンダ5を共用しているので、コスト負担の増加もわずかとなる。
【0027】
なお、上記各実施形態においては、スライド用シリンダ5を入子本体10と部分入子11との駆動に共用するようにしたが、本発明は、入子本体10と部分入子11とを各独立に設けたシリンダ(駆動手段)で駆動するようにしてもよいものである。また、複数の入子本体11が設けられる場合も同様に、各入子本体11を専用のシリンダ(駆動手段)により駆動するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一つの実施形態である鋳造用金型の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1のA−A矢視線に沿う部分断面図である。
【図3】図2のB−B矢視線に沿う断面図である。
【図4】本鋳造用金型における鋳造後の脱型の初期段階を示す断面図である。
【図5】本鋳造用金型における鋳造後の脱型の最終段階を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態である鋳造用金型の全体構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
2 下型(金型要素)
3 上型(金型要素)
4 スライド入子
5 スライド用シリンダ(駆動手段)
10 入子本体
11 部分入子
12 成形突起
18 ガイドキー
19 キー溝
M 溶湯
P 製品(鋳造品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを形成する金型要素の少なくとも一つがスライド入子で構成された鋳造用金型において、前記スライド入子を入子本体と部分入子とに分割して、該部分入子を前記入子本体にスライド方向へ相対移動可能に組込み、該部分入子を前記入子本体よりも先行して脱型させることを特徴とする鋳造用金型。
【請求項2】
部分入子を、ガイドキーを介して入子本体または他の金型要素に結合したことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用金型。
【請求項3】
入子本体と部分入子とを連動可能に連結し、スライド入子の駆動手段を両者の駆動に共用することを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−188614(P2008−188614A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24170(P2007−24170)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】