説明

鋼又はフェライト鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法

【課題】核融合炉の炉構成材である鋼またはフェライト鋼において、放射線照射によって生ずる炭素14の生成量を減らし、使用済みの炉構成材を浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物(LLM、low level material)に分類される材料を得る。
【解決手段】鋼またはフェライト鋼中の窒素14の濃度を減らして、窒素15を95%濃縮とし、運転期間を30年、稼働率を50%とした場合の、生成放射性核種である炭素14の濃度を評価すると、炭素14の浅地埋設基準値である3.7x10<上付き>7Bq/kg以下とすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼又はフェライト鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法に関するものであり、特に、核融合炉で使用される炉構成材の低放射化フェライト鋼中の放射性核種である炭素14の生成量を減らすために、フェライト鋼中の窒素同位体である窒素15を濃縮することにより、浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物(LLM, low level material)にすることからなる、放射性廃棄物中の放射性核種を低減する方法に関するものである。
【0002】
又、本発明は、フェライト鋼以外の一般鋼においても中性子照射に曝される箇所で使用された結果、その鋼中に放射性核種の炭素14が生成される場合でも、その使用済み鋼を浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物として廃棄できるようにするものである。
【背景技術】
【0003】
日本では放射性廃棄物は原子力安全委員会が定めた上限値を一つでも上回る核種が含まれていると、浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物(LLM, low level material)には分類されない。これらの上限値を一つでも上回る核種が含まれているものは、中レベル放射性廃棄物(MLM, medium level material)に分類され浅地埋設することが出来ない。炭素14は半減期が5730年であり、LLMに分類する上で重要な核種である。日本における炭素14の濃度がLLM分類のための上限値は3.7 × 107 Bq/kgである[非特許文献1]。
【0004】
日本原子力機構では、核融合炉の研究を行っており[非特許文献2-5]、低放射化フェライト鋼は核融合炉(実証炉やそれ以降の商業炉など)において、その高温条件下での耐放射線特性などから、構造材の有力な材料である。強度や信頼性の為には、(7-9)%Cr-2%W-Feなどのフェライト鋼中の窒素濃度はある程度以上必要である。炭素14の生成を抑制するために、原子力機構で開発を進めてきたフェライト鋼(F82H)の初期の窒素濃度は20ppmであるが、機械的強度をより高めるために窒素濃度を増やすことが検討されている。
【非特許文献1】Y. Seki, T. Tabara, I. Aoki, S. Ueda, S. Nishio, R. Kurihara, Composition adjustment of low activation materials for shallow land burial, Fusion Eng. Des., 48 (2000) 435-441.
【非特許文献2】K. Tobita, S. Nishio, M. Enoeda, M. Sato, T. Isono, S. Sakurai et al., Design Study of Fusion DEMO Plant at JAERI, Fusion Eng. Des., 81 (2006) 1151-1158.
【非特許文献3】T. Hayashi, K. Tobita, S. Nishio, K. Ikeda Y. Nakamori, S. Orimo, Neutronics assessment of advanced shield materials using metal hydride and borohydride for fusion reactors, Fusion Eng. Des., 81 (2006) 1285-1290.
【非特許文献4】K. Tobita, S. Nishio, S. Konishi, S. Jatsukawa, Waste management for JAERI fusion reactors, J. Nucl. Mater. 329-333 (2004) 1610-1614.
【非特許文献5】T. Hayashi, K.Tobita, S. Nishio, S. Sato, T. Nishitani, M. Yamauchi, Possibility of tritium self-sufficiency in low aspect ratio tokamak reactor with the outboard blanket only, to be published in Fusion Eng. Des..
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
核融合炉では、鋼又はフェライト鋼中の窒素14の天然存在比が99.63%であるので、14N(n,p)14C核反応により窒素14から炭素14が生成される。それゆえ窒素14濃度を減らし、窒素15を濃縮することは、炭素14の抑制に効果的である。本発明では、核融合炉において、炭素14の生成量を減らし、浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物の割合を増やすために、フェライト鋼中の窒素同位体窒素15の濃縮の効果を調べることに基づいて発明された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鋼又はフェライト鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法に関するものである。
【0007】
特に、フェライト鋼を使用する核融合炉において、炉構成材中の炭素14の生成量を減らし、浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物(LLM, low level material)の割合を増やすための低放射化フェライト鋼(RAFS, Reduced-activation ferritic steel)中の窒素同位体濃縮の効果を調べた。炭素14は放射性廃棄物を低レベル放射性廃棄物(LLM)に分類する上で重要な核種である。強度や信頼性の為にフェライト鋼製造時に窒素を添加する必要があり、本発明においてはフェライト鋼中の窒素濃度は200ppmとした。一方、核融合炉材では窒素14の天然存在比が99.63%であるので、14N(n,p)14C核反応により炭素14が生成され、フェライト鋼中の炭素14の濃度が浅地埋設上限値(3.7 × 107 Bq/kg)を超えてしまう。
【0008】
核融合炉構成材における窒素15濃縮は、炭素14の抑制に効果的である。窒素15濃縮により、核融合炉の第一壁および固定ブランケットの内面の炭素14濃度は、それぞれ3.2 × 107および1.0 × 107 Bq/kgになり、浅地埋設上限値を下回った。この結果から炭素14濃度に関しては、窒素15濃縮により炉構成材中の窒素濃度を200ppmにしても核融合炉で使用したすべてのフェライト鋼は浅地埋設可能である。
【発明を実施するための最良の実施形態】
【0009】
窒素15に富んだ鋼又はフェライト鋼を得る手法は次のようである。鋼又はフェライト鋼中の窒素15濃縮は圧力スイング吸着法を使用して行われている。即ち、気体を吸着により分離する際、平衡関係から、圧力が高ければ吸着量が多く、圧力が低くなると脱着が多くなる。この原理を利用して、様々な成分の混合ガスから目的とする製品ガスを、吸着剤との吸着力の差および圧力変動を利用して分離精製する技術である。この技術の鋼又はフェライト鋼中の窒素15濃縮への適用としては、窒素15のアンモニア分子(NH)と同じ大きさの孔を持つ吸着剤(ゼオライト)を用い、ガスの圧力を変化させて窒素15アンモニア分子を選択的に濃縮回収し、この濃縮された窒素15を用いて鋼又はフェライト鋼を製造することにより、窒素15に富んだ鋼又はフェライト鋼とする。
【実施例】
【0010】
図1にトカマク型核融合炉の断面図および計算モデルの概略を示す。アウトボード側には交換ブランケットおよび固定ブランケットを設置し、インボード側には設置場所の制限から交換ブランケットのみとした。平均の中性子壁負荷は3.6 MW/m2とした。フェライト鋼の組成を表1に示す。窒素濃度は200ppmとし、窒素15濃度を天然存在比の0.37%から95%に濃縮し、炭素14生成濃度への影響を調べた。
【0011】
【表1】

【0012】
図1に示されるように、核融合炉では、プラズマが、インボード側(図中の半径=0〜4mで示される領域)の第一壁とアウトボード側(図中の半径=8〜13mで示される領域)の第一壁との間に発生し、そのプラズマから発生する中性子がインボード側とアウトボード側に設けられた第一壁、ブランケット及び遮蔽等に入射される。その結果、この入射中性子により、第一壁、ブランケット及び遮蔽等を構成するフェライト鋼中の炭素又は窒素同位体から炭素14が生成される。計算モデルでは、インボード側の第一壁表面又はアウトボード側の第一壁表面を基点とし、入射中性子によるフェライト鋼中の炭素又は窒素同位体の炭素14への生成状態を図2等において示している。
【0013】
(1)インボードおよびアウトボードの中性子束の比較
図2に核融合炉で発生したプラズマからの中性子束の計算結果を示す、(a)は核融合炉のインボード側に関するものであり、(b)はアウトボード側に関するものである。インボード側の中性子束はアウトボード側より低い。それゆえ炭素14濃度に関する議論はアウトボード側の機器を主な対象とする。
【0014】
(2)アウトボード側フェライト鋼中の炭素14濃度
炭素14が生成される核反応を図3に示す。炭素14は炭素12,炭素13,窒素14および窒素15から生成される。図4(a)にフェライト鋼中の炭素14の濃度を示す。横軸はアウトボード側第一壁表面からの距離である。窒素15の濃度は天然存在比(0.37%)である。運転期間は2年運転でその間の稼働率は80%とした。第一壁における炭素14濃度は7.8 × 107 Bq/kgである。図4(b)は炭素14の生成に対する、窒素14、窒素15および炭素13の寄与度を示す。ほとんどすべての炭素14は窒素14を起源としていた。窒素15の寄与度は0.14%以下であり、深くなるにつれて、その寄与度は小さくなった。これらの結果は、窒素15濃縮は炭素14生成の抑制に効果的であることを示している。
【0015】
窒素15を95%濃縮したフェライト鋼を用いた場合の炭素14濃度およびそれぞれの核種の寄与度を図5(a)(b)に示す。窒素15濃縮後の窒素14濃度は5%である。窒素15濃縮により第一壁における炭素14濃度は7.8 × 107から3.2 × 107 Bq/kgに減少した。窒素15濃縮により炭素14の生成量は41%に減少した。この41%と窒素14の濃度である5%との差は窒素15に起因する炭素14によるものである。図5(b)において、窒素15の寄与度は第一壁においては支配的であるが、深くなるにつれて減少している。フェライト鋼中の窒素15濃度(95%)は窒素14濃度(5%)よりもかなり大きいが、深い領域では窒素15の寄与度は小さくなり、窒素14の寄与度を下回っている。未濃縮窒素に対する窒素15濃縮窒素における、炭素14濃度の比を図6に示す。もっとも大きかったのは第一壁表面で、その値は0.4であった。この比は深くなるにつれて減少し、深い領域では0.1以下になった。炭素14の生成量を減らすためには、深い領域での窒素15濃縮が、より有効であったのは注目に値する。
【0016】
これに関する議論を以下に示す。
【0017】
15N(n,np)14Cおよび15N(n,d)14C核反応にはそれぞれ11MeVおよび8.5MeVの閾値がある。
それにより8.5MeV以上エネルギーを持つ中性子のみが窒素15から炭素14を生成することが可能である。図7にアウトボード側のそれぞれの位置(第一壁、銅製の導体シェルおよび固定ブランケットの外側表面)における中性子のエネルギースペクトルを示す。第一壁表面から離れるにつれて低エネルギー側と比較して、高エネルギー中性子束が顕著に減少している。全中性子に対する8.5MeV以上の中性子束の比を図6に示す。これらの結果から高エ ネルギー中性子の減衰により、窒素15から生成される炭素14は、第一壁表面からの距離が大きくなるにつれて減少することが分かった。
【0018】
(3)低レベル放射性廃棄物に分類するための窒素15濃縮の効果
図8にアウトボード側フェライト鋼における炭素14濃度を示す。窒素15濃度は天然存在比(0.37%)と95%濃縮である。実証炉における交換および固定ブランケットの運転期間は、それぞれ2年(稼働率:80%)および30年(稼働率:50%)である。日本における低レベル放射性廃棄物分類のための炭素14濃度の規制値は3.7 × 107 Bq/kgである。未濃縮窒素を用いた場合には、炭素14濃度はこの規制値を大きく超えているが、窒素15濃縮の場合には、第一壁および固定ブランケット内表面における炭素14濃度は、それぞれ3.2 × 107および1.0 × 107 Bq/kgであり、規制値を下回った。一方、上記(1)で示したとおりインボード側においては、中性子束がアウトボード側より小さい為に、炭素14濃度もアウトボード側より小さくなる。そのため炭素14に関しては、窒素15濃縮によりインボートおよびアウトボードのすべてのブランケットが低レベル放射性廃棄物に分類可能である。ブランケットの交換頻度を考慮すると、交換および固定ブランケットに用いられるフェライト鋼の全体積は1200 m3以上になると見積もられる。図8に示すとおりブランケットの背後に設置された機器(ブランケット支持材など)の炭素14濃度はブランケットよりもかなり小さい。それゆえ炭素14濃度に関しては、窒素15濃縮により実証炉に用いられるすべてのフェライト鋼が低レベル放射性廃棄物に分類することが可能である。実証炉と同様に商業炉などの将来の核融合装置でも窒素15濃縮は炭素14の生成を抑え低レベル放射性廃棄物に分類するための有効な手段である。
[発明の効果]
【0019】
特に、核融合炉において、炭素14の生成量を減らし、浅地埋設可能なLLMの割合を増やすためのフェライト鋼中の窒素15濃縮の効果を調べた。
【0020】
(1) 炭素14濃度に関しては、200ppmの窒素添加したフェライト鋼において、窒素15を濃縮することにより、核融合炉に用いられるすべてのフェライト鋼(第一壁やブランケットを含む)をLLMに分類することが可能である。
【0021】
(2) アウトボード側の第一壁におけるフェライト鋼中の炭素14濃度は、窒素15濃縮により7.8 × 107から3.2 × 107 Bq/kgに減少した、この値は日本のLLM分類のための炭素14濃度の上限値である3.7 × 107 Bq/kgより小さい。
【0022】
(3) 固定ブランケットにおいては、窒素15濃縮した場合の炭素14濃度の最大値は1.0× 107 Bq/kgであり、日本のLLM分類のための炭素14濃度の上限値である3.7 × 107 Bq/kgよりかなり小さい。また、15N(n,np)14Cおよび15N(n,d)14C核反応の閾値のために窒素15濃縮の効果は交換ブランケットより固定ブランケットのほうが大きかった。
【0023】
上記効果は、フェライト鋼以外の鋼においても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】トカマク型核融合炉の断面および計算モデルの概略を示す図である。
【図2】核融合炉の中性子束の計算結果を示す図であり、(a)はインボード側、(b)はアウトボード側である。
【図3】炭素14が生成される核反応を示す図であり、炭素14は炭素12,炭素13,窒素14および窒素15から生成される。
【図4】(a)はフェライト鋼中の炭素14の濃度を示す図であり、(b)は炭素14の生成に対する、窒素14、窒素15および炭素12の寄与度であり、横軸はアウトボード側第一壁表面からの距離であり、窒素15の濃度は天然存在比(0.37%)であり、運転期間は2年運転でその間の稼働率は80%とした。
【図5】95%窒素15のフェライト鋼を用いた場合の炭素14濃度およびそれぞれの核種の寄与度を示す図である。
【図6】天然存在比窒素に対する窒素15濃縮した場合の炭素14濃度の比、および全中性子に対する8.5MeV以上の中性子束の比を示す図であり、炭素14の生成量を減らすためには、深い領域における窒素15濃縮が、より有効であった。
【図7】アウトボード側のそれぞれの位置(第一壁、銅製の導体シェルおよび固定ブランケットの外側表面)における中性子のエネルギースペクトルを示す図であり、第一壁表面から離れるにつれて低エネルギー側と比較して、高エネルギー中性子束が顕著に減少している。
【図8】アウトボード側フェライト鋼における炭素14濃度を示す図であり、窒素15濃度は天然存在比(0.37%)と95%濃縮であり、日本における低レベル放射性廃棄物分類のための炭素14濃度の規制値は3.7 ×107 Bq/kgである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とする合金である鋼中で15N(n,np)14C及び15N(n,d)14C核反応により窒素14から放射性核種の炭素14が生成されるために、鋼中の窒素14濃度を減らし、窒素15を濃縮することにより、鋼中で生成される炭素14を低減することからなる、鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法。
【請求項2】
鉄を主成分とする合金である鋼がフェライト鋼又は低放射化フェライト鋼である請求項1記載の方法。
【請求項3】
核融合炉の炉構成材であるフェライト鋼において、中性子照射によって生ずる放射性核種炭素14の生成量を減らすために、フェライト鋼中の窒素14を窒素15に濃縮することからなる、フェライト鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法。
【請求項4】
核融合炉の炉構成材であるフェライト鋼において、中性子照射によって生ずる放射性核種炭素14の生成量を減らすことにより、使用済み炉構成材を浅地埋設可能な低レベル放
射性廃棄物にするために、予めフェライト鋼中の窒素14を窒素15に濃縮することからなる、フェライト鋼中の窒素同位体濃縮による放射性核種の低減方法。
【請求項5】
核融合炉構成材であるフェライト鋼中の炭素14濃度を低減するために、窒素添加したフェライト鋼において窒素15を濃縮することにより、核融合炉に用いられたフェライト鋼で構成された第一壁やブランケットを浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物に分類するために、炉構成材のフェライト鋼中の窒素同位体を窒素15に濃縮することを特徴とする、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
第一壁やブランケットを含めた核融合炉構成材であるフェライト鋼中の炭素14濃度を、窒素15濃縮により低減して浅地埋設可能な低レベル放射性廃棄物に分類するために、炭素14濃度の上限値である3.7 × 107Bq/kgより低減することを特徴とする、請求項3乃至5のいずれかに記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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