説明

鋼心アルミより線

【課題】アルミ線より合わせ層のより込み率を従来よりも大幅に小さくして送電ロスを低減すると共に、運搬や架設工事中のアルミ線のバラケやよりの乱れを防止した鋼心アルミより線を提供する。
【解決手段】鋼より線1の外周にアルミ線2のより合わせ層3を設けてなる鋼心アルミより線において、前記アルミ線2のより込み率を0.5%以下として送電ロスを低減し、最外層のアルミ線より合わせ層3の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリング4を取り付けてアルミ線2のバラケやよりの乱れを防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線、架空配電線又は吊架兼用き電線等に使用される鋼心アルミより線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、架空送電線には鋼心アルミより線(ACSR)が用いられている。鋼心アルミより線は通常、図3に示すように、テンションメンバーとなる中心の鋼より線1の外周に、アルミ線2をより合わせてアルミ線より合わせ層3を設けた構造となっている(非特許文献1参照)。通常、アルミ線より合わせ層3はより方向を交互に変えて2層以上設けられる。
【0003】
鋼心アルミより線の場合、電流は主にアルミ線に流れることから、アルミ線より合わせ層の電気抵抗が小さいほど、送電ロスも小さくなる。通常、鋼心アルミより線に使用されるアルミ線には純度99.7%程度のアルミが用いられ、その導電率は61%程度である(非特許文献2参照)。
【0004】
また、アルミ線はより合わされていることにより、その長さは鋼心アルミより線の長さより若干長い。例えばACSR810mmでは、より線の長さに対しアルミ線の長さは2.7%ほど長くなっており、これを一般に「より込み率」と呼んでいる(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS C 3110「鋼心アルミニウムより線」
【非特許文献2】JIS C 3108「電気用硬アルミニウム線」
【非特許文献3】(社)日本電線工業会JCS 0251「裸線特性値の計算基準」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、鋼心アルミより線の長さに対してアルミ線の長さはより込み率の分だけ長くなっているため、この分、鋼心アルミより線の電気抵抗も大きくなる。また、送電ロスはI・R(I:電流、R:電気抵抗)により決まる。したがってより込み率が大きいほど電気抵抗や送電ロスが大きくなる。より込み率を小さくすれば送電ロスも小さくできるが、あまり小さくすると、運搬や架設工事中にアルミ線がバラケたり、よりが乱れるなどの問題がある。このようなことから、通常の鋼心アルミより線(ACSR160mm〜ACSR810mm)ではより込み率を2.6%〜2.7%にすることを余儀なくされていた。
【0007】
本発明の目的は、アルミ線より合わせ層のより込み率を従来よりも大幅に小さくして送電ロスを低減すると共に、運搬や架設工事中のアルミ線のバラケやよりの乱れを防止した鋼心アルミより線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、鋼より線の外周にアルミ線のより合わせ層を設けてなる鋼心アルミより線において、前記アルミ線のより込み率を0.5%以下とし、最外層のアルミ線より合わせ層の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリングを取り付けたことを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明において、より込み率0.5%以下は0%を含む。より込み率0%はアルミ線がより合わされずに縦添え集合された状態であるが、ここでいうアルミ線のより合わせ層とはアルミ線の縦添え集合層も含むものとする。
【0010】
本発明において、アルミ線より合わせ層に用いるアルミ線は、純度99.9%以上のアルミからなることが好ましい。
【0011】
また本発明において、リングは、樹脂の射出成型により最外層のアルミ線より合わせ層の外周に直接形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルミ線より合わせ層のより込み率を小さくしたので、鋼心アルミより線の電気抵抗が小さくなり、送電ロスを低減することができると共に、鋼心アルミより線の単位長重量も軽減することができる。また、最外層のアルミ線より合わせ層の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリングを取り付けたので、アルミ線のバラケやよりの乱れを防止することができる。また、コストアップ要因はリングだけであるので、安価に送電ロスの低減を図ることができる。
【0013】
また、アルミ線の材料として純度の高いアルミを用いることにより、導電率が高まるので、さらなる送電ロスの低減を図ることができると共に、耐食性も向上する。
【0014】
また、リングを、樹脂の射出成型により最外層のアルミ線より合わせ層の外周に直接形成することにより、高い生産効率で、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る鋼心アルミより線の一実施例を示す側面図。
【図2】本発明に係る鋼心アルミより線の他の実施例を示す側面図。
【図3】従来の鋼心アルミより線の一例を示す側面図。
【図4】アルミニウムの純度と耐食性の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施例1> 図1は本発明の一実施例を示す。この鋼心アルミより線は、鋼より線1の外周に、アルミ線2をより合わせてアルミ線より合わせ層3を複数層設けたものであるが、前記アルミ線2のより込み率を0.5%とし、最外層のアルミ線より合わせ層3の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリング4を取り付けたものである。リング4はアルミ線のバラケを防止できるものであれば何でもよいが、軽量であることが望ましく、例えば樹脂製のリングを使用することができる。リング4のサイズは、例えばACSR810mmの場合、内径38.4mm、外径48.4mm、幅(軸線方向寸法)10.0mmである。
【0017】
この鋼心アルミより線は、アルミ線2のより込み率が従来の2.7%から0.5%に低減されていることから、2.7−0.5=2.2%の送電ロス低減効果が得られる。より込み率を0.5%より高くすると、送電ロス低減の効果が小さくなることから、本発明では0.5%以下とした。また、最外層のアルミ線より合わせ層3の外周にリング4が取り付けられているため、運搬や架設工事中にアルミ線2のバラケやよりの乱れが発生するのを防止することができる。なお、アルミ線2は僅かにより合わされており、かつ複数層のアルミ線より合わせ層3は交互により方向を変えて設けられていることから、この点からもアルミ線2のバラケやよりの乱れが発生し難い。
【0018】
リング4は、鋼心アルミより線を製造した後に手作業で取り付けてもよいが、例えば熱硬化性樹脂を、鋼心アルミより線の製造と同時に一定間隔で射出成型し、熱硬化させることにより形成することもできる。このようにすると、後から樹脂製リングを手作業で取り付ける場合に比べ、生産効率が格段に高まるほか、鋼心アルミより線製造と同時にリングが取り付けられることから、製造後の運搬作業などでアルミ線がバラケるおそれもなくなり、さらに好適である。
【0019】
<実施例2> 図2は本発明の他の実施例を示す。この鋼心アルミより線は、鋼より線1の外周のアルミ線より合わせ層3を構成するアルミ線2のより込み率を0%としたものである。つまり、アルミ線2はより合わされておらず、鋼より線1の外周に縦添え集合された状態にある。最外層のアルミ線より合わせ層3の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリング4を取り付ける点は実施例1と同じである。リング4の取り付け方などは実施例1と同じである。
【0020】
この実施例では、アルミ線2は鋼心アルミより線と同じ長さであり、より込み率0%であるから、従来の鋼心アルミより線と比較すると、アルミ線のより込み率が2.7%小さくなり、したがって電気抵抗、送電ロスともに、従来の鋼心アルミより線よりも2.7%小さくすることができる。
【0021】
<実施例3> 実施例1、実施例2におけるアルミ線は、JIS C 3108「電気用硬アルミニウム線」に規定される通常の硬アルミ線であるが、耐熱アルミ合金線など硬アルミ線以外のアルミ線でもより込み率を小さくすることにより送電ロス低減の効果が得られることは明らかである。
【0022】
また、JIS C 3108「電気用硬アルミニウム線」に用いられるアルミ材料の純度は99.7%程度であり、導電率は約61%であるが、純度を99.9%以上にすることにより、導電率は62%以上となり、さらなる送電ロスの低減が可能となる。
【0023】
さらに、アルミ線の純度と耐食性には相間があり、純度が高いほど耐食性も向上することが知られている。図4はアルミニウムの純度と腐食速度の関係を示したグラフであるが、例えば、通常のACSRに使用されるアルミニウムの純度は99.7%に対し、99.9%のアルミニウムを使用することにより、腐食速度を1/2以下に遅らすこと、つまり耐食性を2倍以上に高めることが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1:鋼より線
2:アルミ線
3:アルミ線より合わせ層
4:リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼より線の外周にアルミ線のより合わせ層を設けてなる鋼心アルミより線において、前記アルミ線のより込み率を0.5%以下とし、最外層のアルミ線より合わせ層の外周に長手方向に所定の間隔をおいてリングを取り付けたことを特徴とする鋼心アルミより線。
【請求項2】
アルミ線より合わせ層に用いるアルミ線が純度99.9%以上のアルミからなることを特徴とする請求項1記載の鋼心アルミより線。
【請求項3】
リングが、樹脂の射出成型により最外層のアルミ線より合わせ層の外周に直接形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼心アルミより線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−251031(P2010−251031A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97532(P2009−97532)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】