説明

鋼材および鋼材の保護方法

【課題】表面が外部に露出する状態でおかれる鋼材が海水等に含まれる塩化物イオンに接触して劣化して痩せ細ってしまうことを防止する。
【解決手段】鋼材表面に硝酸銀水溶液を塗布することにより銀鏡反応を起こさせて鋼材表面に銀鏡を発生させ、これによって鋼材表面を銀で被覆し、該被覆した銀に塩化物イオンが接触したときに難溶性の塩化銀になるようにし、これによって鋼材表面が塩化物イオンに接触して劣化して痩せ細ってしまうことを防止するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部に露出する鋼材および鋼材の保護方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
こんにち、海岸に近いところや地下水面、海面より低い位置にトンネルやボックスカルバート等の各種構造物を築造することが頻繁に行われ、このような構造物に鋼材がそのまま外部に露出する状態で設けられることがある。そしてこのような鋼材のなかには、例えば地下水に海水を含有する漏水が継続的に付着するものがあり、このような場合、鋼材は、漏水含有物である海水が付着することにより、さらに詳しくは、海水中の塩分の付着により劣化(腐食)していくことになる。そして塩分が鋼材に付着した場合における腐食の電気化学的な仕組みは次のものと考えられる。まず鋼材が腐食するには、付着溶液中に酸化剤である溶存酸素の存在が前提で、該存在する溶存酸素により水が付着している部分の鋼材の表面に電気的な偏りが生じ、付着している水によって電子が輸送され、これにより鉄イオン(鉄(II)イオン(Fe2+)、鉄(III)イオン(Fe3+))が鋼材表面に生成する。ここで付着水に塩分が含まれると、塩分中の塩化物イオンがが前記生成した鉄イオンに配位して鉄のクロロコンプレックスを生成することになって水に溶けにくい鉄の水酸化物の生成を妨害する。鉄のクロロコンプレックスは水に溶け易く、かつ、水に安定的に存在することから、前記生成した鉄のクロロコンプレックスは付着水に溶け出していくことになり、この結果、鋼材は、鉄の水酸化物により表面被覆がなされて保護されるようなことがなく、常に新鮮な腐食表面が腐食環境中に暴露され続けることになる。そして通常の環境下では付着水中には溶存酸素が十分に存在していることから、結果的に、塩分を含有する水に曝露され続ける鋼材は、前記生成した鉄のクロロコンプレックスが継続的(連続的)に漏水に溶け出すことになって痩せ細り状態で腐食し、劣化が進行していくことになる。
そこで鋼材の表面処理について、例えば鍍金による金属被覆や防錆塗料の被覆が従来から知られている(非特許文献1)。
【非特許文献1】「金属表面工学」、昭和37年4月27日、日刊工業新聞社、初版発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、前記金属を被覆した場合、該被覆には鍍金や溶射等の面倒、かつ、煩雑な処理が必要になるだけでなく、該被覆した金属が塩化物イオンと反応して溶解してしまうため、長時間の保護効果を期待できないという問題がある。また塗料を塗膜した場合、鋼材が、擦過、振動、あるいは打撃等の負荷が働くものである場合、塗料が早期のうちに剥離したり破損してしまうことになって、鋼材の有効な保護手段にはなり得ないという問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、鋼材表面が銀鏡反応により銀で被覆されて耐塩化物イオン処理が施されていることを特徴とする鋼材である。
請求項2の発明は、鋼材表面を銀鏡反応により銀で被覆して耐塩化物イオン処理を施したことを特徴とする鋼材の保護方法である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1または2の発明とすることにより、高い耐塩化物イオンの効果が、鍍金等の面倒な処理をすることなく簡単に得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、塩化銀は、その溶解度が30mg/dm(ミリグラム デシメートルのマイナス3乗)と難溶性であり、しかも銀は、鉄(鋼)よりもイオン化傾向が小さいため、例えば硝酸銀水溶液として銀イオンを鋼材表面に塗布しておくと酸化還元による銀鏡反応が容易に促進して銀が鋼材表面に鏡状に析出し、これによって鋼材表面が銀で被覆されることになる。そして該鋼材表面を被覆する銀が、海水含有水に接触すると前記難溶の塩化銀となって鋼材表面を覆う状態となり、これによって鋼材の塩化物イオンとの直接的な接触を回避して鋼材の保護がなされ鋼材劣化を防止できることになる。
【0007】
鋼材表面への銀の被覆作業は、鋼材を現場施工する前に施しても良いが、施工後に施しても良く、また被覆している銀の消費状態をみて再塗布することもできる。銀イオンを得るための銀塩としては、水溶性である硝酸銀が入手しやすく一般的である。そしてこのような銀塩の鋼材表面への付着は、刷毛による塗布、スプレーによる噴霧が例示される。また銀塩は、水溶液として用いることが簡便であるが、エタノールやグリセリン等の極性溶媒に溶解させたものを用いることができ、さらにはポリビニルアルコールのような極性ポリマーに溶解させたものを用いることもできる。
【0008】
<実験例1>
100mlの水に硝酸銀50gを溶解させて硝酸銀水溶液を作成する。該作成した硝酸銀水溶液を、縦、横および高さが10mm、10mmおよび2mmの鋼板の1表面のみに刷毛を用いて塗布して放置しておくと、鋼板表面に銀鏡が生じた。このように表面に銀鏡が生じた鋼板を飽和食塩水に30分間浸漬した。銀鏡が生じている表面は銀色になっていたが、裏面は赤錆が発生した状態になっていた。表面の銀色部分の一部を軽く擦って除去すると、再び銀鏡が露出し、銀皮膜による保護状態であることが確認された。
【0009】
<実験例2>
次に、0.4重量%の食塩水と、該食塩水を10倍および1000倍に希釈したものとの3種類の食塩水を用意した。そしてこれらの食塩水に、縦、横および高さが何れも10mmの鋼材について、前記実験例1で作成したと同じ濃度の硝酸銀水溶液に1昼夜(24時間)浸漬して全面に銀鏡を施した試料(以下「銀鏡処理試料」という)と、銀鏡処理をしていない試料(以下「無処理試料」という)とをそれぞれ浸漬して重量の減少割合について経時的な観察をした。その結果を図1の表図に示す。これによると、銀鏡処理試料は、何れの濃度の食塩水に浸漬したものについて、60日を経過しても重量の減少は何れも認められなかった(重量減少が何れの濃度の食塩水に浸漬しても認められなかったので、図面では一つの線で纏めて記載した)が、無処理試料は何れの濃度の食塩水に浸漬したものについて重量減少が認められ、本発明の鋼材を銀鏡処理して銀で被覆したものは、その耐塩化物イオン特性が優れていて、塩化物イオンを含有する水に触れて痩せ細ってしまうことを防止できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鋼材を食塩水に浸漬したときの重量減少割合を示す表図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面が銀鏡反応により銀で被覆されて耐塩化物イオン処理が施されていることを特徴とする鋼材。
【請求項2】
鋼材表面を銀鏡反応により銀で被覆して耐塩化物イオン処理を施したことを特徴とする鋼材の保護方法。


【図1】
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