鋼材の寿命予測方法及びその装置並びにコンピュータプログラム
【課題】各種鋼材の長期の腐食量を簡単に且つ高精度に予測することを可能にした鋼材の寿命予測方法及びその装置、並びにそらの方法又は装置をコンピュータを用いて実現するためのコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、次式に示すように、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求める。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、TOW:年間濡れ時間(h)
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【解決手段】鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、次式に示すように、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求める。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、TOW:年間濡れ時間(h)
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物用の鋼材の寿命予測方法及びその装置並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築・土木分野で使用される鋼材として、SS、SMと呼ばれる普通鋼とともに、無塗装で使用されるSMAと呼ばれる耐候性鋼があり、最近ではNi系高耐候性鋼等がある。これらの材料を用いた構造物の適用基準は、これまでには
(1)飛来海塩による地域区分 耐候性鋼
(2)鉄骨構造建築物の耐久性向上技術 普通鋼
(3)当該鋼種の暴露試験 任意の鋼種
(4)腐食量予測式 耐候性鋼
等があり、これらは必要に応じて使い分けられている。
【0003】
上記の(1)及び(2)は従来の暴露結果を纏め上げたもので、適用可否判断が瞬時に可能である。
上記の(3)の暴露試験による鋼材の腐食量は、
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数
の式で表されることが知られている。腐食量のしきい値Y1imを設定することにより、そのときのX1im年を寿命とする方法である。腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この式のA、Bは環境や鋼種によって変化するため、A、Bを決定するために、実環境又は実環境に近い環境に試験片を暴露し、試験片の腐食量の経年変化(X,Y)から累乗近似する方法が用いられている。
【0004】
ところで、腐食速度は、海塩量や亜硫酸ガス量によって影響を受けることが多数の文献に示されている。また、腐食現象は基本的には水溶液中の化学反応であるので、気温、湿度や、濡れ時間にも依存する。したがって、これらの環境因子をパラメータとする関数として記述することができる。上記の(4)の予測方法に関して、建設省(当時)土木研究所においては、SMA(JIS規格の耐候性鋼)に関し、暴露試験の結果から、上記のA,Bを次のように決定している(例えば非特許文献1)。
A=CSaγ Sa:飛来塩分量、C,γ:回帰係数
B=0.73
即ち、Aは飛来塩分と相関があるとし、Bは鋼種・暴露方向、設置場所等によらず0.73としている。
【0005】
また、上記(4)の予測方法に関して、例えば次のように求める方法も提案されている(例えば特許文献1)。この方法では、腐食性指標Zの2次回帰式から初年度腐食量を推定している。
Z=α・TOW・exp(-κ・W)・(C+δ・S)/(1+ε・C・S)・exp(-Ea/RT)
α=106, κ=-0.1, δ=0.05, ε=10.0, Ea=50kJ/mol・K
Z:腐食性指標,R:気体定数, C:飛来塩分, S:硫黄酸化物量,
TOW:年間濡れ時間(h),W:年平均風速(m/sec),T:年平均気温(K)
【非特許文献1】「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行)
【特許文献1】国際公開03/006957号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の寿命予測方法の内、上記の(1)及び(2)の方法は鋼種が限定される上、或る時点でのその材料の適用可否を判断するだけであって、鋼種の選定は出来なかった。一方、上記の(3)の方法は、各鋼種の調査を行なうことによって鋼種の選定が可能である。しかしながら、新たな高耐候性を有する鋼が開発された場合には、開発後にただちに暴露試験を長期間種々の場所で行って、検量線あるいは式を作成しなければならない。また、上記の(3)の方法では、未知数A,B2つを決定するために、最低2点以上の腐食量データが必要である。日本では四季があり、腐食は季節によって進行速度が異なるために、最低2年間の計測を必要とする。更に、近年、土木建築用鋼材の長寿命化が叫ばれており、例えば100年といった長期寿命を精度よく予測するには、実質5〜20年といった長期試験を行っており、実際に用いられるまでに時間がかかるという課題があった。また、上記の(4)の寿命予測方法においては、架設地の環境の影響は取り入れて演算式を構成しているものの、長期の暴露試験が必要であり、更に、非特許文献1の方法ではBを一定としているので、さびの保護性に必要な飛来塩分量や鋼種の影響が反映されていない、という問題点があった。
【0007】
また、上記の特許文献1において提案されている方法では、S(硫黄酸化物量)を予測式のパラメータとしているが、S(硫黄酸化物量)と板厚減少量との間には有意な相関が見られないことが知られている。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、各種鋼材の長期の腐食量を簡単に且つ高精度に予測することを可能にした鋼材の寿命予測方法及びその装置並びにそれらの方法又は装置をコンピュータを用いて実現するためのコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求める。
但し、T:温度(℃)、PW:濡れ確率、Sa:飛来塩分量(mdd)、TOW:年間漏れ時間(h)である。
【0010】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A及びBを次式により求めるものである。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0011】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A及びBを次式により求めるものである。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
X:暴露時間(y),Y:板厚減少量(mm)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0012】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、0.5≦B≦1.1の範囲で設定する。
【0013】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、
A<0.083のとき、B=−4611.3A3+7,9.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定する。
【0014】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、
A≦0.03のとき、B=0.5〜0.7、
0.03<A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定する。
【0015】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼種を入力手段を介して入力する工程と、前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて濡れ確率(PW)を求める工程と、前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程とを有する。
【0016】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼種を入力手段を介して入力する工程と、前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて年間濡れ時間(TOW)を求める工程と、前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程とを有する。
【0017】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域を、前記構造物の設置場所の入力とは別に、入力手段を介して入力する工程を、更に有する。
【0018】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記構造物の設置場所の飛来塩分(Sa)に構造物の部位に対応した部位係数を乗算して、その乗算結果を前記飛来塩分(Sa)とする。
【0019】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置は、構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する装置において、鋼種、前記鋼材を用いる構造物の設置場所及び構造物の設置場所の離岸距離をそれぞれ取り込む入力手段と、鋼材の鋼種に対応した係数(α、β、γ)、各地域の温度(T)及び相対湿度(H)、及び特定の地域の飛来塩分量がそれぞれ格納された記憶手段と、前記入力手段を介して入力された情報と、前記記憶手段に格納されたデータとに基づいて前記係数A及び前記べき係数Bを求め、更に前記係数A及び前記べき係数Bに基づいて前記腐食量Yを求める演算手段とを備えたものである。
【0020】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、前記A及びBを次式により求める。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定され係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0021】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、前記A及びBを次式により求める。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0022】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、上記の腐食量の予測値の精度を、予測値に付帯して表示装置に表示させる。
【0023】
本発明に係るコンピュータプログラムは、上記の鋼材の寿命予測方法における演算処理をコンピュータによる実行させるものである。
【0024】
本発明に係るコンピュータプログラムは、上記の鋼材の寿命予測装置の演算手段をコンピュータによる実行させるものである。
【0025】
本発明に係る営業方法は、上記の鋼材の寿命予測装置をコンピュータにより実現し、演算結果を表示装置に表示させ顧客に提示し、顧客の購入を促す。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求めるようにしたので、各種鋼材の長期の腐食量を簡単に且つ高精度に予測することが可能になっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施形態1.
本発明の実施形態1として、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いた鋼材の寿命予測をする方法を説明するが、それに先だって、まず、本実施形態1に係る寿命予測方法の計測原理を説明する。
【0028】
図1は期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図であり、腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係は、上述のように次式により表される。なお、A値は構造物の架設地点の環境での鋼材自体の耐食性を示しており、B値はさびの保護性を表している。鋼材の耐食性が高ければ図1の特性の初期の傾きは小さく、さびの保護性が高ければ腐食量Yの長期の年数経過後の値は小さな値を示す。
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数 …(1)
【0029】
特に、本実施形態1は、上記のA値は鋼種に応じた係数(α,β,γ)と環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とによって特定されること、また、B値はA値の関数として特定されることが見出された結果実現されたものであり、例えばA値及びB値はそれぞれ次式により求められる。
A=CSaγ=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ) …(2)
B=f(A)
A≦0.03のとき、
B=0.5〜0.7の範囲内で任意に設定、望ましくは0.6(理論的には放
物線則0.5乗と考えられるが、実際に形成れるさびは完全に緻密でないため、
0.5〜0.7で変動する。)
例えば、初期値としてB=0.6と設定し、寿命予測精度の更なる向上等の必要に応じて、B=0.5〜0.7の範囲内で調整すればよい。
0.03<A<0.083のとき、
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
ただし、より簡便とするためにA≦0.03のときにおいても、上記の式(B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109)を適用してもよい。
0.083≦Aのとき、
B=0.9〜1.1の範囲内で任意に設定、望ましくは1 …(3)
例えば、初期値としてB=1.0と設定し、寿命予測精度の更なる向上等の必要に応じて、B=0.9〜1.1の範囲内で調整すればよい。
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd),
PW(T,H):濡れ確率
α,β,γ:鋼種に応じた係数
なお、上記(2)式において、温度Tに関する項は、実際の対象となる温度範囲が比較的狭いので、直線近似にしてある。また、湿度Hに関する項は、腐食量が濡れ時間に比例すると考え、KuceraらがISOに提案した濡れ確率関数を導入した(Kucera, Tidblad, Mikhailov: ISO/TC156/WG4-N314, Annex A (1999))。これは温度、湿度ごとにP(T),P(H)が数値表で与えられ、両者の積が濡れ確率(PW=P(T)×P(H))となる。年間の濡れ時間は8766h×PW(濡れ確率)である。なお、P(T)及びP(H)の数値表は次のとおりである。なお、この濡れ確率PW(T,H)は、kuceraの式によると、濡れ確率PW(T,H)=N (T;0;9.96)*β(H/100;4.67;1.78)で表される。表1にP(T),P(H)の数値表の一部を抜枠して示す。
【0030】
【表1】
【0031】
また、濡れ確率PW(T,H)と年間濡れ時間TOW(h)とは、
TOW(h)=8766×PW(T,H)
で表されるから、上記(2)式は年間濡れ時間TOWの関数として次のように表される。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ) …(2a)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
【0032】
なお、上記の温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saは、例えば橋梁が設置される環境の値である。飛来塩分量Saには、その環境での風の影響や方向(どの方角を向いているか)、橋桁の高さ等の影響が含まれた値であり、事前に測定されたものである。例えば日本のある地点(緯度・経度又は住所)を決定すれば、その位置情報に対応した温度T、相対湿度H、飛来塩分量Saを求めることができる。例えば地点情報と温度T、相対湿度Hの気象庁データ平年値とが既にデータベース化されており、それらのデータベースを利用することにより必要な情報が得られる。また、飛来塩分量Saについては、約300地点での測定データを集約した関係式(各地方の飛来海塩量・離岸距離の関係。具体的にはSa=Sa0・L-0.6、L:離岸距離)があり、この関係式を用いることにより、該当地点における飛来塩分量Saを求めることができる。なお、これらのデータをデータベースから入手できない場合には、該当する地点において実測により求めてもよい。このようにして、該当する地点における温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saを求めることができるので、係数α、β、γを実験室での試験で決定することができれば、A値が求まり、B値はA値の関数であり、Y=AXBによりY(板厚減少量)を求めることができる。
【0033】
ここで、鋼種に応じた係数α,β,γの求め方についてその概要を説明する。図2はSMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図である。上記の(1)式において、X=1のときに、Y=Aとなるため、A値は1年分の板厚減少量(腐食量)に相当するものであり、図2の縦軸のA値(1年)は1年分の板厚減少量により求められたA値を示している。また、横軸のA値(〜9年)は暴露試験を9年間行ったときに、各経過年の板厚減少量に基づいて求められたA値を示している。図2の特性から明らかなように、暴露期間が9年の試験データによって求められたA値(A値(〜9年))と、暴露期間が1年の試験データによって求められたA値(A値(1年))とは相関があり、A値は短期間(例えば1年間)の暴露試験により算出が可能であることが分かる。したがって、A値を短期間の暴露試験により算出することができるので、同一の鋼種において複数の環境(T,PWまたはTOW,Sa)の下で、A値を複数求めることにより、鋼種特有の係数α,β,γを求めることができる。勿論、このA値は実験室において求めてもよいことはいうまでもない。
【0034】
図3はSMAの実暴露の試験データ(SMAの9年間等)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図ある。この特性図からB値はA値で回帰することができ、それを表したのが上記の(3)式である。
【0035】
上記のA値はその環境での鋼材自体の耐食性を示す係数であるが、腐食環境にも依存する性質をもっており、腐食環境の影響はA値にも含まれている。A値が小さい範囲では、安定さびが形成されるためB値は一定値となるが、腐食環境の厳しさがある量を超えると(例えばA=0.03程度)、さびが剥がれやすくなり安定化しないためB値は上昇し、B=1となって腐食曲線は直線のままとなる。但し、A値が小さい範囲において、暴露年数が短い鋼材ではさびの生成量が少ないため保護効果が小さく、B値が高い値となる場合もある。このSMAのデータに鋼種1(1.5Ni−0.3Mo鋼)及び鋼種2(2.5Ni−極低C鋼)の実暴露の試験データ(2年間)をプロットすると、この場合においても上記の関係式と合致していることが分かる。したがって、この関係式から鋼種に関係なく、B値をA値から求めることが可能であることが分かる。
前述のようにA値を短期間の暴露試験により算出することができるので、鋼種に応じた係数α,β,γに関しては、同一の鋼種において3条件以上の環境(T,PWまたはTOW,Sa)の下で、A値を求めることにより各値を特定することができる。
さらに実験室での試験により係数α,β,γを決定することもできる。以下に実験室の試験に基づいてα,β,γを求める方法の一例について詳しく説明する。
【0036】
まず、γの求め方について説明する。上記のγは、A≦0.03とA>0.03とではその値が異なる。A≦0.03のときには、例えばSMAに関しては、図14の暴露試験結果(「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行)によれば、γ=0.487が得られている。また、Ni系耐候性鋼については発明者らが独自に暴露試験を行ったところ、図15に示される特性が得られ、γ=0.487が得られている。両データが一致しており、信頼性が高いものであることが分かる。よって、A≦0.03では鋼種によらずγ=0.49で一定値とした。
【0037】
また、A>0.03のときの上記のγは、恒温恒湿槽(ADVANTEC製 AGX-325)内での乾湿繰り返し試験により決定した。周期は24hで、乾湿サイクルは次の6条件である。乾湿の移行時間は1hであり、これは12hの中に含まれる。塩分付着はマイクロピペットを用いてNaCl水溶液を滴下した。滴下量は40μL/cm2とし、水溶液濃度により付着塩分量を制御した。試験は最長52週間行った。付着塩分量は、ここでは例えば0.1mdd、0.2mdd及び0.4mddの3種類について行う。(なお、この試験はα、βを求める際においても同様な条件で行われるものとする。但し、(1)〜(6)の条件である。)
(1)13℃/95%×12h−20℃/65%×12h
(2)20℃/95%×12h−27℃/65%×12h
(3)25℃/95%×12h−32℃/65%×12h
(4)20℃/95%×12h−35℃/40%×12h
(5)25℃/95%×12h−40℃/40%×12h
(6)13℃/95%×12h−28℃/40%×12h
【0038】
なお、上記の実験の条件は、実環境において、温度が上がると相対湿度が下がる傾向があること、また、その温度範囲や湿度範囲についても上記の範囲内にあること等から設定されている。このため、この試験は所謂促進試験ではなく、実環境と同オーダーの腐食速度が得られるものである。塩分量、温度及び湿度に関して橋梁内桁の腐食をよく再現していることが既に確認されており、以下、再現腐食試験(又は再現試験)と称するものとする。
【0039】
次に、上記の再現腐食試験のデータに基づいてγを求める方法を説明する。
図16(A)(B)(C)はSMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの腐食量の時間変化を示した特性図である。同図の特性から各付着量に対応したA値が求められる。
【0040】
図17(A)(B)(C)は、横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図であり、直線の傾きがγとなる。何れの鋼種においても、γ=0.9の値が得られた。
【0041】
次に、係数α及びβを求める方法について説明する。α及びβは、同一の付着塩分量でいくつかの腐食条件について連立方程式を当てることにより求められる。以下、具体的に説明する。上記の(2)式の塩分量は飛来塩分量であるが、再現腐食試験では付着塩分量であり、ともに単位はmddであるが、同じ数値でも影響度は異なる。そのため、再現試験で得られるα、βはα’、β’とおいて区別するが、α/βはα’/β’とは等しい。
【0042】
同一付着塩分量で、かつ上記の(1)〜(6)の試験条件について、乾燥ステップ、湿潤ステップの腐食量の和が試験で得られる腐食量となる。再現試験では塩分は付着塩分で与えられるが、上記の(2)式の塩分の変数は飛来塩分であり、上述のように、ともに単位はmdd であるが、同じ数値でも影響度は異なる。上記の(2)式の飛来塩分に相当する量がわからないので、ここではSa’とおいて、計算する。なお、A値が0.03より大きいか小さいかでγが変わるので、A値が0.03超/以下でそれぞれα、βを設定する。
【0043】
例えば、付着塩分が0.4mddで、13℃/95%×12h-20℃/65%×12hの試験の場合には、付着塩分は0.4mddでは、図17からγ=0.9であるので、これを用いる。
A' = (α'T+β')・Pw(T, H)・(Saγ)に塩分、温度、湿度を代入して、
乾燥ステップの腐食量 A'(13℃/95%、0.4mdd、乾燥) = (13α'+β')・Pw(13, 95)(Sa’0.9)
湿潤ステップの腐食量 A'(20℃/65%、0.4mdd、湿潤) = (20α'+β')・Pw(20, 65)(Sa’0.9)
である。
A'(13℃/95%×12h-20℃/65%×12h、0.4mdd) =(乾燥ステップの腐食量)+(湿潤ステップの腐食量)={(13α'+β')・Pw(13, 95)+(20α'+β')・Pw(20, 65)}(Sa’0.9)
=[{Pw(13, 95)*13+Pw(20, 65)*20}α'+{Pw(13, 95)+Pw(20, 65)}β'](Sa’0.9)
【0044】
同じ0.4mddの塩分を載せた再現試験では、Saの値は不明であるが、載せた塩分量が同じであることから、少なくともSaを同じと見なすことができる。他の試験も同様に下記のように求めることができる。上記の式の下線部のA’の比から
{Pw(13,95)*13+Pw(20,65)*20}α'+{Pw(13,95)+Pw(20,65)}β'=1
{Pw(20,95)*20+Pw(27,65)*27}α'+{Pw(20,95)+Pw(27,65)}β'=1.403
{Pw(25,95)*25+Pw(32,65)*32}α'+{Pw(25,95)+Pw(32,65)}β'=1.661
{Pw(25,95)*25+Pw(40,40)*40}α'+{Pw(25,95)+Pw(40,40)}β'=0.858
のようになる。ここで腐食量として、A値比(基準条件のA値に対する相対値)をとっている。同一付着塩分量でいくつかの試験条件について同様の方程式を立て、2元連立1次方程式を解く。数学的には2試験条件あればα'、β'が得られるが、精度を上げるために4試験条件を用いて、1 次回帰によりα'、β'を求める。得られたα'、β'を用いてA値比を求める。SMAについて得られたα'、β'を用い、全国41橋試験の暴露地の飛来塩分量、年平均温度・湿度(最寄の気象庁観測所データ)を代入して、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)
を求め、暴露試験から得られたA値との関係を図18(B)に示す。両者の回帰式を求め、その1 次係数の比A'/A = 1.895 が得られた。Pw(T1, H1)・(Sa10.9)= K1
とおくと、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)=(α'T1+β') K1
A(実測値)= (αT1+β)・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)=(αT1+β)K1
任意のT1で成立するためには、
A'/A=α'/α=β'/β=1.895=k
【0045】
一方、A≦0.03のときは、γ=0.487として、同様に再現腐食試験の結果より方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求める。さらに図18(A)より、A'/A = 4.658が得られた。A'/A=α'/α=β'/β=4.658
【0046】
鋼種1及び鋼種2についても、同様に、これまでの再現腐食試験の結果から
A>0.03のとき、γ=0.9
A≦0.03のとき、γ=0.487
で分類して、試験条件に毎の方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求め、以下同様ににしてA'/A=α'/α=β'/βがそれぞれ求められる。
【0047】
表2は、以上から得られた各耐候性鋼の腐食量予測式の係数、べき数を纏めたものである。
【0048】
【表2】
【0049】
上記の(2)式に、表2に示された係数及びべき数と該当する地域の環境データを当てはめるとA値が求められ、そのA値を(3)式に当てはめてB値を求め、そのA値及びB値を鋼材の腐食量予測式に当てはめることにより寿命予測が可能になる。
【0050】
本実施形態1に係る寿命予測方法の計測原理の概要が明らかになったところで、次に、本実施形態1の詳細を説明する。
【0051】
図4は本実施形態1に係る寿命予測方法の具現化した装置を概念的に示したブロック図である。この寿命予測装置は、入力手段10、PC本体20及び表示装置30から構成されており、PC本体20は後述の各種の演算処理を行う演算装置(CPU)21、演算装置(CPU)21の演算処理を司るプログラムが格納された記憶装置22及び後述の各種の気象データ等が格納された記憶装置23から構成されている。また、表示装置30は操作者が入力手段10を操作してデータを入力する際の入力画面や、演算結果である腐食量の経時変化等を表示する。
【0052】
図5は記憶装置23に格納されている鋼種に対応して設定された係数(α,β,γ)の例であり、鋼種に対応した係数値が設定されている。この係数値は上述のように短期間の暴露試験や実験室での試験によって求めておくものとする。
【0053】
図6は記憶装置23に格納されている気象データの例であり、各観測地ごとに平均気温、最高気温、最低気温、平均湿度及び平均風力とそれらの標準偏差σが格納されている。
【0054】
図7は記憶装置23に格納されている各地域ごとの飛来塩分量のデータの例であり、ここでは、例えば日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海、及び沖縄における飛来塩分量が示されている。
【0055】
図8は図4の寿命予測装置の演算過程を示したフローチャートである。以下、このフローチャートに従って説明する。
(S11)操作者が入力装置10を操作することにより鋼種を入力すると、演算装置21はその鋼種を取り込む。この鋼種の入力に際しては、例えば鋼種の名称を直接入力させたり、或いは図5に示される鋼種を表示装置30の画面にリストしてそれを選択させるようにしてもよい。
(S12)演算装置21は、入力された鋼種に基づいて、記憶装置23に格納されている係数(α,β,γ)を検索する。
(S13)演算装置21は、操作者が入力装置10を操作して例えば橋梁架設地点の入力を促すような入力画面を表示装置30に表示させる。操作者が入力装置10を操作して橋梁架設地点を入力するとそれを取り込む。なお、橋梁架設地点の入力に際しては、住所又は緯度・経度を入力するものとする。
(S14)演算装置21は、入力された橋梁架設地点に基づいて記憶装置23に格納された気象データから、その地点又はその地点に近接した位置にある観測地の平均温度及び湿度を検索して求める。
【0056】
図9は表示装置30の入力画面の例を示したものであり(但し、この段階では飛来塩分量等は表示されていない)、「橋梁架設地点の近隣の気象観測値を使用する」という操作ボタンをクリックすることにより、該当する観測地の平均温度及び平均湿度が検索されて表示される。なお、橋梁架設地点の近隣の気象観測値を使用せずに、平均温度及び平均湿度を手入力することも可能である。
【0057】
(S15)演算装置21は、例えば図9の「飛来塩分量の推定へ」という操作ボタンがクリックされると、表示装置30に図10の入力画面を表示させて必要な情報の入力を促す。この例では、日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海及び沖縄の各地域の名称がリストされ、何れかが選択される。
(S16)また、「橋梁架設地点の海岸からの距離」(L)が入力され、「推定実行」の操作ボタンがクリックされることにより、選択された地点の飛来塩分量S0が求められ、更に、飛来塩分量S0と離岸距離Lとにより、Sa=S0・L-0.6という演算式によって、橋梁架設地点の飛来塩分量を求めて表示装置30に表示させる。図10の「飛来塩分量確定」の操作ボタンがクリックされると、図9の入力画面に戻って、飛来塩分量及び選択された地域がそれぞれ表示される。
(S17)図9の入力画面の「腐食量推定計算実行」の操作ボタンをクリックすることにより、演算装置21は上記の(2)式、(3)式及び(1)式を演算して腐食量Yを求める。
(S18)演算装置21は腐食量Yを求めると、それを表示装置30に表させる。
【0058】
図11は表示装置30に表示された腐食量Yの経年変化を示した図であり、例えば100年で腐食量Yが0.5mm以下であれば、ここで入力された鋼種は、橋梁架設地点において使用に耐えられることを意味する。
【0059】
図12は上述の腐食量予測式に基づいて予測した100年後の腐食量予測値と、1,3,5,7,9年の値から直接Y=AXBにより回帰して求めた100年後の値とを比較した特性図である。図12示されるように、正規確率紙で良い直線性を示し、正規分布に従うことがわかる。これによりもとめた標準偏差σはσ=0.301(≒0.3)となった。したがって、直接回帰した値に対する本腐食量予測式の予測値の精度として、予測値に付帯して表すことができる。図11においては、図12の予測精度を上記の表示装置30に予測量とともに表示しており、本実施形態1による計算方法が計算精度が高いことをその表示により知ることができる。
【0060】
図13は暴露データによる腐食量(点)と上記の計算による腐食量Y(線)とを対比させたものであり、両者が良く一致しており、本実施形態1による計算方法が計算精度が高いことが分かる。
【0061】
実施形態2.
なお、上記の実施形態1においては飛来塩分量を求めるのに構造物の部位に関係なく求める例について説明したが、構造物の部位によっては飛来塩分が付着しにくい部位もあるので、構造物の部位に応じた部位係数を予め設定しておいて、その部位係数を上記の飛来塩分量に乗算して「飛来塩分量」を求めるようにしてもよい。
さらに、構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)、相対湿度(H)のうちの少なくとも一方に関しても、構造物の部位に応じた部位係数をそれぞれ予め設定しておいて、その部位係数を上記の温度、相対湿度にそれぞれ乗算して、「温度(T)」、「相対湿度(H)」を求めるようにしてもよい。
また、構造物の架設地点における地域的特徴、例えば海浜地域、内陸平地、山岳等の地域的特徴を飛来塩分量の算出に反映させて飛来塩分量を高精度に求めるようにすると、腐食量を更に高精度に求めることができる。
また、上記の実施形態1においては、橋梁架設地点の飛来塩分量を求めるのに、日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海及び沖縄の何れを選択する例について説明したが、橋梁架設地点の住所又は緯度・経度に基づいて該当する地域を自動的に選択するようにしてもよい。
【0062】
実施形態3.
また、上述の実施形態1においては、A値を求めるのに、何れも暴露試験又は実験室での実験を1年程度行う例について説明したが、それよりも期間が短い期間の試験結果であってもよく、例えば数ケ月程度の試験結果に外挿法を適用することにより1年間分の腐食量を求めることにより(予測することにより)A値を求めることができる。
【0063】
実施形態4.
上記のようにして求められた腐食量(寿命データ)を鋼材に添付することにより、実構造の設計の際に利用に供することが可能になっている。なお、このデータの添付とは紙などだけでなく、電子データとして管理する状態も含むものである。また、鉄骨構造物の設計に際して、このような寿命予測がなされた鋼材を適宜選択して設計することにより構造物の寿命についても適切に予測することが可能になっている。
【0064】
実施形態5.
なお、図4に示された装置を携帯型パソコンにより実現したり、或いはネットワーク化して、顧客が使用しようとしている鋼材の寿命予測を行って、それを表示装置30に表示させて顧客に提示し、顧客の購入を促すことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図。
【図2】SMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図。
【図3】SMA実暴露の試験データ(9年間)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図。
【図4】本発明の実施形態1に係る寿命予測方法の具現化した装置を概念的に示したブロック図。
【図5】図4の記憶装置に格納されている鋼種に対応して設定された係数(α,β,γ)の例を示した図。
【図6】図4の記憶装置に格納されている気象データの例を示した図である。
【図7】図4の記憶装置に格納されている各地域ごとの飛来塩分量のデータの例を示した図。
【図8】図4の寿命予測装置の演算過程を示したフローチャート。
【図9】図4の表示装置の入力画面の例を示した図。
【図10】飛来塩分量を求めるための入力画面の例を示した図。
【図11】図4の表示装置に表示された腐食量Yの経年変化を示した図。
【図12】本実施形態1による100年後の腐食量予測値と、Y=AXBにより100年後の回帰をしたときの値の差を分布を示した図。
【図13】暴露データによる腐食量(点)と上記の計算による腐食量Y(線)とを対比させた特性図。
【図14】SMAの実暴露試験の試験データを示した特性図。
【図15】Ni系高耐候性鋼の試験(実験室)の試験データを示した特性図。
【図16】SMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの時間変化を示した特性図。
【図17】横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図。
【図18】A’値と暴露試験から得られたA値との関係を示した特性図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物用の鋼材の寿命予測方法及びその装置並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築・土木分野で使用される鋼材として、SS、SMと呼ばれる普通鋼とともに、無塗装で使用されるSMAと呼ばれる耐候性鋼があり、最近ではNi系高耐候性鋼等がある。これらの材料を用いた構造物の適用基準は、これまでには
(1)飛来海塩による地域区分 耐候性鋼
(2)鉄骨構造建築物の耐久性向上技術 普通鋼
(3)当該鋼種の暴露試験 任意の鋼種
(4)腐食量予測式 耐候性鋼
等があり、これらは必要に応じて使い分けられている。
【0003】
上記の(1)及び(2)は従来の暴露結果を纏め上げたもので、適用可否判断が瞬時に可能である。
上記の(3)の暴露試験による鋼材の腐食量は、
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数
の式で表されることが知られている。腐食量のしきい値Y1imを設定することにより、そのときのX1im年を寿命とする方法である。腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この式のA、Bは環境や鋼種によって変化するため、A、Bを決定するために、実環境又は実環境に近い環境に試験片を暴露し、試験片の腐食量の経年変化(X,Y)から累乗近似する方法が用いられている。
【0004】
ところで、腐食速度は、海塩量や亜硫酸ガス量によって影響を受けることが多数の文献に示されている。また、腐食現象は基本的には水溶液中の化学反応であるので、気温、湿度や、濡れ時間にも依存する。したがって、これらの環境因子をパラメータとする関数として記述することができる。上記の(4)の予測方法に関して、建設省(当時)土木研究所においては、SMA(JIS規格の耐候性鋼)に関し、暴露試験の結果から、上記のA,Bを次のように決定している(例えば非特許文献1)。
A=CSaγ Sa:飛来塩分量、C,γ:回帰係数
B=0.73
即ち、Aは飛来塩分と相関があるとし、Bは鋼種・暴露方向、設置場所等によらず0.73としている。
【0005】
また、上記(4)の予測方法に関して、例えば次のように求める方法も提案されている(例えば特許文献1)。この方法では、腐食性指標Zの2次回帰式から初年度腐食量を推定している。
Z=α・TOW・exp(-κ・W)・(C+δ・S)/(1+ε・C・S)・exp(-Ea/RT)
α=106, κ=-0.1, δ=0.05, ε=10.0, Ea=50kJ/mol・K
Z:腐食性指標,R:気体定数, C:飛来塩分, S:硫黄酸化物量,
TOW:年間濡れ時間(h),W:年平均風速(m/sec),T:年平均気温(K)
【非特許文献1】「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行)
【特許文献1】国際公開03/006957号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の寿命予測方法の内、上記の(1)及び(2)の方法は鋼種が限定される上、或る時点でのその材料の適用可否を判断するだけであって、鋼種の選定は出来なかった。一方、上記の(3)の方法は、各鋼種の調査を行なうことによって鋼種の選定が可能である。しかしながら、新たな高耐候性を有する鋼が開発された場合には、開発後にただちに暴露試験を長期間種々の場所で行って、検量線あるいは式を作成しなければならない。また、上記の(3)の方法では、未知数A,B2つを決定するために、最低2点以上の腐食量データが必要である。日本では四季があり、腐食は季節によって進行速度が異なるために、最低2年間の計測を必要とする。更に、近年、土木建築用鋼材の長寿命化が叫ばれており、例えば100年といった長期寿命を精度よく予測するには、実質5〜20年といった長期試験を行っており、実際に用いられるまでに時間がかかるという課題があった。また、上記の(4)の寿命予測方法においては、架設地の環境の影響は取り入れて演算式を構成しているものの、長期の暴露試験が必要であり、更に、非特許文献1の方法ではBを一定としているので、さびの保護性に必要な飛来塩分量や鋼種の影響が反映されていない、という問題点があった。
【0007】
また、上記の特許文献1において提案されている方法では、S(硫黄酸化物量)を予測式のパラメータとしているが、S(硫黄酸化物量)と板厚減少量との間には有意な相関が見られないことが知られている。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、各種鋼材の長期の腐食量を簡単に且つ高精度に予測することを可能にした鋼材の寿命予測方法及びその装置並びにそれらの方法又は装置をコンピュータを用いて実現するためのコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求める。
但し、T:温度(℃)、PW:濡れ確率、Sa:飛来塩分量(mdd)、TOW:年間漏れ時間(h)である。
【0010】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A及びBを次式により求めるものである。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0011】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記A及びBを次式により求めるものである。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
X:暴露時間(y),Y:板厚減少量(mm)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0012】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、0.5≦B≦1.1の範囲で設定する。
【0013】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、
A<0.083のとき、B=−4611.3A3+7,9.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定する。
【0014】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記Bを、
A≦0.03のとき、B=0.5〜0.7、
0.03<A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定する。
【0015】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼種を入力手段を介して入力する工程と、前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて濡れ確率(PW)を求める工程と、前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程とを有する。
【0016】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、鋼種を入力手段を介して入力する工程と、前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて年間濡れ時間(TOW)を求める工程と、前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程とを有する。
【0017】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域を、前記構造物の設置場所の入力とは別に、入力手段を介して入力する工程を、更に有する。
【0018】
本発明に係る鋼材の寿命予測方法は、前記構造物の設置場所の飛来塩分(Sa)に構造物の部位に対応した部位係数を乗算して、その乗算結果を前記飛来塩分(Sa)とする。
【0019】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置は、構造物の鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する装置において、鋼種、前記鋼材を用いる構造物の設置場所及び構造物の設置場所の離岸距離をそれぞれ取り込む入力手段と、鋼材の鋼種に対応した係数(α、β、γ)、各地域の温度(T)及び相対湿度(H)、及び特定の地域の飛来塩分量がそれぞれ格納された記憶手段と、前記入力手段を介して入力された情報と、前記記憶手段に格納されたデータとに基づいて前記係数A及び前記べき係数Bを求め、更に前記係数A及び前記べき係数Bに基づいて前記腐食量Yを求める演算手段とを備えたものである。
【0020】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、前記A及びBを次式により求める。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定され係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0021】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、前記A及びBを次式により求める。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【0022】
本発明に係る鋼材の寿命予測装置において、前記演算手段は、上記の腐食量の予測値の精度を、予測値に付帯して表示装置に表示させる。
【0023】
本発明に係るコンピュータプログラムは、上記の鋼材の寿命予測方法における演算処理をコンピュータによる実行させるものである。
【0024】
本発明に係るコンピュータプログラムは、上記の鋼材の寿命予測装置の演算手段をコンピュータによる実行させるものである。
【0025】
本発明に係る営業方法は、上記の鋼材の寿命予測装置をコンピュータにより実現し、演算結果を表示装置に表示させ顧客に提示し、顧客の購入を促す。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求めるようにしたので、各種鋼材の長期の腐食量を簡単に且つ高精度に予測することが可能になっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施形態1.
本発明の実施形態1として、鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いた鋼材の寿命予測をする方法を説明するが、それに先だって、まず、本実施形態1に係る寿命予測方法の計測原理を説明する。
【0028】
図1は期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図であり、腐食寿命の判断の目安は、例えば100年の推定片側板厚減少量が0.5mm以下である。この期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係は、上述のように次式により表される。なお、A値は構造物の架設地点の環境での鋼材自体の耐食性を示しており、B値はさびの保護性を表している。鋼材の耐食性が高ければ図1の特性の初期の傾きは小さく、さびの保護性が高ければ腐食量Yの長期の年数経過後の値は小さな値を示す。
Y=AXB、Y:腐食量、X:年数 …(1)
【0029】
特に、本実施形態1は、上記のA値は鋼種に応じた係数(α,β,γ)と環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とによって特定されること、また、B値はA値の関数として特定されることが見出された結果実現されたものであり、例えばA値及びB値はそれぞれ次式により求められる。
A=CSaγ=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ) …(2)
B=f(A)
A≦0.03のとき、
B=0.5〜0.7の範囲内で任意に設定、望ましくは0.6(理論的には放
物線則0.5乗と考えられるが、実際に形成れるさびは完全に緻密でないため、
0.5〜0.7で変動する。)
例えば、初期値としてB=0.6と設定し、寿命予測精度の更なる向上等の必要に応じて、B=0.5〜0.7の範囲内で調整すればよい。
0.03<A<0.083のとき、
B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
ただし、より簡便とするためにA≦0.03のときにおいても、上記の式(B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109)を適用してもよい。
0.083≦Aのとき、
B=0.9〜1.1の範囲内で任意に設定、望ましくは1 …(3)
例えば、初期値としてB=1.0と設定し、寿命予測精度の更なる向上等の必要に応じて、B=0.9〜1.1の範囲内で調整すればよい。
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd),
PW(T,H):濡れ確率
α,β,γ:鋼種に応じた係数
なお、上記(2)式において、温度Tに関する項は、実際の対象となる温度範囲が比較的狭いので、直線近似にしてある。また、湿度Hに関する項は、腐食量が濡れ時間に比例すると考え、KuceraらがISOに提案した濡れ確率関数を導入した(Kucera, Tidblad, Mikhailov: ISO/TC156/WG4-N314, Annex A (1999))。これは温度、湿度ごとにP(T),P(H)が数値表で与えられ、両者の積が濡れ確率(PW=P(T)×P(H))となる。年間の濡れ時間は8766h×PW(濡れ確率)である。なお、P(T)及びP(H)の数値表は次のとおりである。なお、この濡れ確率PW(T,H)は、kuceraの式によると、濡れ確率PW(T,H)=N (T;0;9.96)*β(H/100;4.67;1.78)で表される。表1にP(T),P(H)の数値表の一部を抜枠して示す。
【0030】
【表1】
【0031】
また、濡れ確率PW(T,H)と年間濡れ時間TOW(h)とは、
TOW(h)=8766×PW(T,H)
で表されるから、上記(2)式は年間濡れ時間TOWの関数として次のように表される。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ) …(2a)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
【0032】
なお、上記の温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saは、例えば橋梁が設置される環境の値である。飛来塩分量Saには、その環境での風の影響や方向(どの方角を向いているか)、橋桁の高さ等の影響が含まれた値であり、事前に測定されたものである。例えば日本のある地点(緯度・経度又は住所)を決定すれば、その位置情報に対応した温度T、相対湿度H、飛来塩分量Saを求めることができる。例えば地点情報と温度T、相対湿度Hの気象庁データ平年値とが既にデータベース化されており、それらのデータベースを利用することにより必要な情報が得られる。また、飛来塩分量Saについては、約300地点での測定データを集約した関係式(各地方の飛来海塩量・離岸距離の関係。具体的にはSa=Sa0・L-0.6、L:離岸距離)があり、この関係式を用いることにより、該当地点における飛来塩分量Saを求めることができる。なお、これらのデータをデータベースから入手できない場合には、該当する地点において実測により求めてもよい。このようにして、該当する地点における温度T、相対湿度H及び飛来塩分量Saを求めることができるので、係数α、β、γを実験室での試験で決定することができれば、A値が求まり、B値はA値の関数であり、Y=AXBによりY(板厚減少量)を求めることができる。
【0033】
ここで、鋼種に応じた係数α,β,γの求め方についてその概要を説明する。図2はSMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図である。上記の(1)式において、X=1のときに、Y=Aとなるため、A値は1年分の板厚減少量(腐食量)に相当するものであり、図2の縦軸のA値(1年)は1年分の板厚減少量により求められたA値を示している。また、横軸のA値(〜9年)は暴露試験を9年間行ったときに、各経過年の板厚減少量に基づいて求められたA値を示している。図2の特性から明らかなように、暴露期間が9年の試験データによって求められたA値(A値(〜9年))と、暴露期間が1年の試験データによって求められたA値(A値(1年))とは相関があり、A値は短期間(例えば1年間)の暴露試験により算出が可能であることが分かる。したがって、A値を短期間の暴露試験により算出することができるので、同一の鋼種において複数の環境(T,PWまたはTOW,Sa)の下で、A値を複数求めることにより、鋼種特有の係数α,β,γを求めることができる。勿論、このA値は実験室において求めてもよいことはいうまでもない。
【0034】
図3はSMAの実暴露の試験データ(SMAの9年間等)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図ある。この特性図からB値はA値で回帰することができ、それを表したのが上記の(3)式である。
【0035】
上記のA値はその環境での鋼材自体の耐食性を示す係数であるが、腐食環境にも依存する性質をもっており、腐食環境の影響はA値にも含まれている。A値が小さい範囲では、安定さびが形成されるためB値は一定値となるが、腐食環境の厳しさがある量を超えると(例えばA=0.03程度)、さびが剥がれやすくなり安定化しないためB値は上昇し、B=1となって腐食曲線は直線のままとなる。但し、A値が小さい範囲において、暴露年数が短い鋼材ではさびの生成量が少ないため保護効果が小さく、B値が高い値となる場合もある。このSMAのデータに鋼種1(1.5Ni−0.3Mo鋼)及び鋼種2(2.5Ni−極低C鋼)の実暴露の試験データ(2年間)をプロットすると、この場合においても上記の関係式と合致していることが分かる。したがって、この関係式から鋼種に関係なく、B値をA値から求めることが可能であることが分かる。
前述のようにA値を短期間の暴露試験により算出することができるので、鋼種に応じた係数α,β,γに関しては、同一の鋼種において3条件以上の環境(T,PWまたはTOW,Sa)の下で、A値を求めることにより各値を特定することができる。
さらに実験室での試験により係数α,β,γを決定することもできる。以下に実験室の試験に基づいてα,β,γを求める方法の一例について詳しく説明する。
【0036】
まず、γの求め方について説明する。上記のγは、A≦0.03とA>0.03とではその値が異なる。A≦0.03のときには、例えばSMAに関しては、図14の暴露試験結果(「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」(建設省土木研究所,(社)鋼材倶楽部,(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月発行)によれば、γ=0.487が得られている。また、Ni系耐候性鋼については発明者らが独自に暴露試験を行ったところ、図15に示される特性が得られ、γ=0.487が得られている。両データが一致しており、信頼性が高いものであることが分かる。よって、A≦0.03では鋼種によらずγ=0.49で一定値とした。
【0037】
また、A>0.03のときの上記のγは、恒温恒湿槽(ADVANTEC製 AGX-325)内での乾湿繰り返し試験により決定した。周期は24hで、乾湿サイクルは次の6条件である。乾湿の移行時間は1hであり、これは12hの中に含まれる。塩分付着はマイクロピペットを用いてNaCl水溶液を滴下した。滴下量は40μL/cm2とし、水溶液濃度により付着塩分量を制御した。試験は最長52週間行った。付着塩分量は、ここでは例えば0.1mdd、0.2mdd及び0.4mddの3種類について行う。(なお、この試験はα、βを求める際においても同様な条件で行われるものとする。但し、(1)〜(6)の条件である。)
(1)13℃/95%×12h−20℃/65%×12h
(2)20℃/95%×12h−27℃/65%×12h
(3)25℃/95%×12h−32℃/65%×12h
(4)20℃/95%×12h−35℃/40%×12h
(5)25℃/95%×12h−40℃/40%×12h
(6)13℃/95%×12h−28℃/40%×12h
【0038】
なお、上記の実験の条件は、実環境において、温度が上がると相対湿度が下がる傾向があること、また、その温度範囲や湿度範囲についても上記の範囲内にあること等から設定されている。このため、この試験は所謂促進試験ではなく、実環境と同オーダーの腐食速度が得られるものである。塩分量、温度及び湿度に関して橋梁内桁の腐食をよく再現していることが既に確認されており、以下、再現腐食試験(又は再現試験)と称するものとする。
【0039】
次に、上記の再現腐食試験のデータに基づいてγを求める方法を説明する。
図16(A)(B)(C)はSMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの腐食量の時間変化を示した特性図である。同図の特性から各付着量に対応したA値が求められる。
【0040】
図17(A)(B)(C)は、横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図であり、直線の傾きがγとなる。何れの鋼種においても、γ=0.9の値が得られた。
【0041】
次に、係数α及びβを求める方法について説明する。α及びβは、同一の付着塩分量でいくつかの腐食条件について連立方程式を当てることにより求められる。以下、具体的に説明する。上記の(2)式の塩分量は飛来塩分量であるが、再現腐食試験では付着塩分量であり、ともに単位はmddであるが、同じ数値でも影響度は異なる。そのため、再現試験で得られるα、βはα’、β’とおいて区別するが、α/βはα’/β’とは等しい。
【0042】
同一付着塩分量で、かつ上記の(1)〜(6)の試験条件について、乾燥ステップ、湿潤ステップの腐食量の和が試験で得られる腐食量となる。再現試験では塩分は付着塩分で与えられるが、上記の(2)式の塩分の変数は飛来塩分であり、上述のように、ともに単位はmdd であるが、同じ数値でも影響度は異なる。上記の(2)式の飛来塩分に相当する量がわからないので、ここではSa’とおいて、計算する。なお、A値が0.03より大きいか小さいかでγが変わるので、A値が0.03超/以下でそれぞれα、βを設定する。
【0043】
例えば、付着塩分が0.4mddで、13℃/95%×12h-20℃/65%×12hの試験の場合には、付着塩分は0.4mddでは、図17からγ=0.9であるので、これを用いる。
A' = (α'T+β')・Pw(T, H)・(Saγ)に塩分、温度、湿度を代入して、
乾燥ステップの腐食量 A'(13℃/95%、0.4mdd、乾燥) = (13α'+β')・Pw(13, 95)(Sa’0.9)
湿潤ステップの腐食量 A'(20℃/65%、0.4mdd、湿潤) = (20α'+β')・Pw(20, 65)(Sa’0.9)
である。
A'(13℃/95%×12h-20℃/65%×12h、0.4mdd) =(乾燥ステップの腐食量)+(湿潤ステップの腐食量)={(13α'+β')・Pw(13, 95)+(20α'+β')・Pw(20, 65)}(Sa’0.9)
=[{Pw(13, 95)*13+Pw(20, 65)*20}α'+{Pw(13, 95)+Pw(20, 65)}β'](Sa’0.9)
【0044】
同じ0.4mddの塩分を載せた再現試験では、Saの値は不明であるが、載せた塩分量が同じであることから、少なくともSaを同じと見なすことができる。他の試験も同様に下記のように求めることができる。上記の式の下線部のA’の比から
{Pw(13,95)*13+Pw(20,65)*20}α'+{Pw(13,95)+Pw(20,65)}β'=1
{Pw(20,95)*20+Pw(27,65)*27}α'+{Pw(20,95)+Pw(27,65)}β'=1.403
{Pw(25,95)*25+Pw(32,65)*32}α'+{Pw(25,95)+Pw(32,65)}β'=1.661
{Pw(25,95)*25+Pw(40,40)*40}α'+{Pw(25,95)+Pw(40,40)}β'=0.858
のようになる。ここで腐食量として、A値比(基準条件のA値に対する相対値)をとっている。同一付着塩分量でいくつかの試験条件について同様の方程式を立て、2元連立1次方程式を解く。数学的には2試験条件あればα'、β'が得られるが、精度を上げるために4試験条件を用いて、1 次回帰によりα'、β'を求める。得られたα'、β'を用いてA値比を求める。SMAについて得られたα'、β'を用い、全国41橋試験の暴露地の飛来塩分量、年平均温度・湿度(最寄の気象庁観測所データ)を代入して、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)
を求め、暴露試験から得られたA値との関係を図18(B)に示す。両者の回帰式を求め、その1 次係数の比A'/A = 1.895 が得られた。Pw(T1, H1)・(Sa10.9)= K1
とおくと、
A'(予測値)= (α'T1+β')・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)=(α'T1+β') K1
A(実測値)= (αT1+β)・Pw(T1, H1)・(Sa10.9)=(αT1+β)K1
任意のT1で成立するためには、
A'/A=α'/α=β'/β=1.895=k
【0045】
一方、A≦0.03のときは、γ=0.487として、同様に再現腐食試験の結果より方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求める。さらに図18(A)より、A'/A = 4.658が得られた。A'/A=α'/α=β'/β=4.658
【0046】
鋼種1及び鋼種2についても、同様に、これまでの再現腐食試験の結果から
A>0.03のとき、γ=0.9
A≦0.03のとき、γ=0.487
で分類して、試験条件に毎の方程式をたて、1 次回帰によりα'、β'を求め、以下同様ににしてA'/A=α'/α=β'/βがそれぞれ求められる。
【0047】
表2は、以上から得られた各耐候性鋼の腐食量予測式の係数、べき数を纏めたものである。
【0048】
【表2】
【0049】
上記の(2)式に、表2に示された係数及びべき数と該当する地域の環境データを当てはめるとA値が求められ、そのA値を(3)式に当てはめてB値を求め、そのA値及びB値を鋼材の腐食量予測式に当てはめることにより寿命予測が可能になる。
【0050】
本実施形態1に係る寿命予測方法の計測原理の概要が明らかになったところで、次に、本実施形態1の詳細を説明する。
【0051】
図4は本実施形態1に係る寿命予測方法の具現化した装置を概念的に示したブロック図である。この寿命予測装置は、入力手段10、PC本体20及び表示装置30から構成されており、PC本体20は後述の各種の演算処理を行う演算装置(CPU)21、演算装置(CPU)21の演算処理を司るプログラムが格納された記憶装置22及び後述の各種の気象データ等が格納された記憶装置23から構成されている。また、表示装置30は操作者が入力手段10を操作してデータを入力する際の入力画面や、演算結果である腐食量の経時変化等を表示する。
【0052】
図5は記憶装置23に格納されている鋼種に対応して設定された係数(α,β,γ)の例であり、鋼種に対応した係数値が設定されている。この係数値は上述のように短期間の暴露試験や実験室での試験によって求めておくものとする。
【0053】
図6は記憶装置23に格納されている気象データの例であり、各観測地ごとに平均気温、最高気温、最低気温、平均湿度及び平均風力とそれらの標準偏差σが格納されている。
【0054】
図7は記憶装置23に格納されている各地域ごとの飛来塩分量のデータの例であり、ここでは、例えば日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海、及び沖縄における飛来塩分量が示されている。
【0055】
図8は図4の寿命予測装置の演算過程を示したフローチャートである。以下、このフローチャートに従って説明する。
(S11)操作者が入力装置10を操作することにより鋼種を入力すると、演算装置21はその鋼種を取り込む。この鋼種の入力に際しては、例えば鋼種の名称を直接入力させたり、或いは図5に示される鋼種を表示装置30の画面にリストしてそれを選択させるようにしてもよい。
(S12)演算装置21は、入力された鋼種に基づいて、記憶装置23に格納されている係数(α,β,γ)を検索する。
(S13)演算装置21は、操作者が入力装置10を操作して例えば橋梁架設地点の入力を促すような入力画面を表示装置30に表示させる。操作者が入力装置10を操作して橋梁架設地点を入力するとそれを取り込む。なお、橋梁架設地点の入力に際しては、住所又は緯度・経度を入力するものとする。
(S14)演算装置21は、入力された橋梁架設地点に基づいて記憶装置23に格納された気象データから、その地点又はその地点に近接した位置にある観測地の平均温度及び湿度を検索して求める。
【0056】
図9は表示装置30の入力画面の例を示したものであり(但し、この段階では飛来塩分量等は表示されていない)、「橋梁架設地点の近隣の気象観測値を使用する」という操作ボタンをクリックすることにより、該当する観測地の平均温度及び平均湿度が検索されて表示される。なお、橋梁架設地点の近隣の気象観測値を使用せずに、平均温度及び平均湿度を手入力することも可能である。
【0057】
(S15)演算装置21は、例えば図9の「飛来塩分量の推定へ」という操作ボタンがクリックされると、表示装置30に図10の入力画面を表示させて必要な情報の入力を促す。この例では、日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海及び沖縄の各地域の名称がリストされ、何れかが選択される。
(S16)また、「橋梁架設地点の海岸からの距離」(L)が入力され、「推定実行」の操作ボタンがクリックされることにより、選択された地点の飛来塩分量S0が求められ、更に、飛来塩分量S0と離岸距離Lとにより、Sa=S0・L-0.6という演算式によって、橋梁架設地点の飛来塩分量を求めて表示装置30に表示させる。図10の「飛来塩分量確定」の操作ボタンがクリックされると、図9の入力画面に戻って、飛来塩分量及び選択された地域がそれぞれ表示される。
(S17)図9の入力画面の「腐食量推定計算実行」の操作ボタンをクリックすることにより、演算装置21は上記の(2)式、(3)式及び(1)式を演算して腐食量Yを求める。
(S18)演算装置21は腐食量Yを求めると、それを表示装置30に表させる。
【0058】
図11は表示装置30に表示された腐食量Yの経年変化を示した図であり、例えば100年で腐食量Yが0.5mm以下であれば、ここで入力された鋼種は、橋梁架設地点において使用に耐えられることを意味する。
【0059】
図12は上述の腐食量予測式に基づいて予測した100年後の腐食量予測値と、1,3,5,7,9年の値から直接Y=AXBにより回帰して求めた100年後の値とを比較した特性図である。図12示されるように、正規確率紙で良い直線性を示し、正規分布に従うことがわかる。これによりもとめた標準偏差σはσ=0.301(≒0.3)となった。したがって、直接回帰した値に対する本腐食量予測式の予測値の精度として、予測値に付帯して表すことができる。図11においては、図12の予測精度を上記の表示装置30に予測量とともに表示しており、本実施形態1による計算方法が計算精度が高いことをその表示により知ることができる。
【0060】
図13は暴露データによる腐食量(点)と上記の計算による腐食量Y(線)とを対比させたものであり、両者が良く一致しており、本実施形態1による計算方法が計算精度が高いことが分かる。
【0061】
実施形態2.
なお、上記の実施形態1においては飛来塩分量を求めるのに構造物の部位に関係なく求める例について説明したが、構造物の部位によっては飛来塩分が付着しにくい部位もあるので、構造物の部位に応じた部位係数を予め設定しておいて、その部位係数を上記の飛来塩分量に乗算して「飛来塩分量」を求めるようにしてもよい。
さらに、構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)、相対湿度(H)のうちの少なくとも一方に関しても、構造物の部位に応じた部位係数をそれぞれ予め設定しておいて、その部位係数を上記の温度、相対湿度にそれぞれ乗算して、「温度(T)」、「相対湿度(H)」を求めるようにしてもよい。
また、構造物の架設地点における地域的特徴、例えば海浜地域、内陸平地、山岳等の地域的特徴を飛来塩分量の算出に反映させて飛来塩分量を高精度に求めるようにすると、腐食量を更に高精度に求めることができる。
また、上記の実施形態1においては、橋梁架設地点の飛来塩分量を求めるのに、日本海(北)、日本海(南)、太平洋側、瀬戸内海及び沖縄の何れを選択する例について説明したが、橋梁架設地点の住所又は緯度・経度に基づいて該当する地域を自動的に選択するようにしてもよい。
【0062】
実施形態3.
また、上述の実施形態1においては、A値を求めるのに、何れも暴露試験又は実験室での実験を1年程度行う例について説明したが、それよりも期間が短い期間の試験結果であってもよく、例えば数ケ月程度の試験結果に外挿法を適用することにより1年間分の腐食量を求めることにより(予測することにより)A値を求めることができる。
【0063】
実施形態4.
上記のようにして求められた腐食量(寿命データ)を鋼材に添付することにより、実構造の設計の際に利用に供することが可能になっている。なお、このデータの添付とは紙などだけでなく、電子データとして管理する状態も含むものである。また、鉄骨構造物の設計に際して、このような寿命予測がなされた鋼材を適宜選択して設計することにより構造物の寿命についても適切に予測することが可能になっている。
【0064】
実施形態5.
なお、図4に示された装置を携帯型パソコンにより実現したり、或いはネットワーク化して、顧客が使用しようとしている鋼材の寿命予測を行って、それを表示装置30に表示させて顧客に提示し、顧客の購入を促すことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】期間Xと鋼材の腐食量Yとの関係を示した特性図。
【図2】SMA実暴露の試験データにより求めたA値の特性図。
【図3】SMA実暴露の試験データ(9年間)により求めたA値とB値との相関関係を示した特性図。
【図4】本発明の実施形態1に係る寿命予測方法の具現化した装置を概念的に示したブロック図。
【図5】図4の記憶装置に格納されている鋼種に対応して設定された係数(α,β,γ)の例を示した図。
【図6】図4の記憶装置に格納されている気象データの例を示した図である。
【図7】図4の記憶装置に格納されている各地域ごとの飛来塩分量のデータの例を示した図。
【図8】図4の寿命予測装置の演算過程を示したフローチャート。
【図9】図4の表示装置の入力画面の例を示した図。
【図10】飛来塩分量を求めるための入力画面の例を示した図。
【図11】図4の表示装置に表示された腐食量Yの経年変化を示した図。
【図12】本実施形態1による100年後の腐食量予測値と、Y=AXBにより100年後の回帰をしたときの値の差を分布を示した図。
【図13】暴露データによる腐食量(点)と上記の計算による腐食量Y(線)とを対比させた特性図。
【図14】SMAの実暴露試験の試験データを示した特性図。
【図15】Ni系高耐候性鋼の試験(実験室)の試験データを示した特性図。
【図16】SMA、鋼種1及び鋼種2の付着塩分量ごとの時間変化を示した特性図。
【図17】横軸に上記付着塩分量を、縦軸に付着塩分量に対応したA値をとり、その両対数をプロットした特性図。
【図18】A’値と暴露試験から得られたA値との関係を示した特性図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、
前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求めることを特徴とする鋼材の寿命予測方法。ただし、T:温度(℃)、PW:濡れ確率、Sa:飛来塩分量(mdd)、TOW:年間漏れ時間(h)である。
【請求項2】
前記A及びBを次式より求めることを特徴とする請求項1記載の鋼材の寿命予測方法。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項3】
前記A及びBを次式より求めることを特徴とする請求項1記載の鋼材の寿命予測方法。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項4】
前記Bを、0.5≦B≦1.1の範囲で設定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項5】
前記Bを、
A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定することを特徴とする請求項4記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項6】
前記Bを、
A≦0.03のとき、B=0.5〜0.7、
0.03<A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定することを特徴とする請求項4記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項7】
鋼種を入力手段を介して入力する工程と、
前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、
構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、
前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて濡れ確率(PW)を求める工程と、
前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程と
を有することを特徴とする請求項2、4、5又は6記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項8】
鋼種を入力手段を介して入力する工程と、
前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、
構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、
前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて年間濡れ時間(TOW)を求める工程と、
前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程と
を有することを特徴とする請求項3、4、5又は6記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項9】
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域を、前記構造物の設置場所の入力とは別に、入力手段を介して入力する工程を更に有することを特徴とする請求項7又は8記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項10】
前記構造物の設置場所の飛来塩分(Sa)に構造物の部位に対応した部位係数を乗算して、その乗算結果を前記飛来塩分(Sa)とすることを特徴とする請求項7又は8記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項11】
鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する装置において、
鋼種、前記鋼材を用いる構造物の設置場所及び構造物の設置場所の離岸距離をそれぞれ取り込む入力手段と、
鋼材の鋼種に対応した係数(α、β、γ)、各地域の温度(T)及び相対湿度(H)、及び特定地域の飛来塩分量がそれぞれ格納された記憶手段と、
前記入力手段を介して入力された情報と、前記記憶手段に格納されたデータとに基づいて前記係数A及び前記べき係数Bを求め、更に前記係数A及び前記べき係数Bに基づいて前記腐食量Yを求める演算手段と
を備えたことを特徴とする鋼材の寿命予測装置。
【請求項12】
前記演算手段は、前記A及びBを次式により求めることを特徴とする請求項11記載の鋼材の寿命予測装置。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項13】
前記演算手段は、前記A及びBを次式により求めることを特徴とする請求項10記載の鋼材の寿命予測装置。
A=(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項14】
前記演算手段は、上記の腐食量の予測値の精度を、予測値に付帯して表示装置に表示させることを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置。
【請求項15】
請求項1〜6記載の何れかに記載の鋼材の寿命予測方法における演算処理をコンピュータによる実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
請求項11〜14の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置の演算手段をコンピュータによる実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項11〜14の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置をコンピュータにより実現し、演算結果を表示装置に表示させて顧客に提示し、顧客の購入を促すことを特徴とする鋼材の営業方法。
【請求項1】
鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する方法において、
前記係数Aを、鋼種に応じて予め設定された係数(α,β,γ)と、前記鋼材を用いる構造物の設置環境に依存した環境データ(T,PWまたはTOW,Sa)とに基づいて求め、前記べき数係数Bを前記係数Aの関数として求めることを特徴とする鋼材の寿命予測方法。ただし、T:温度(℃)、PW:濡れ確率、Sa:飛来塩分量(mdd)、TOW:年間漏れ時間(h)である。
【請求項2】
前記A及びBを次式より求めることを特徴とする請求項1記載の鋼材の寿命予測方法。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項3】
前記A及びBを次式より求めることを特徴とする請求項1記載の鋼材の寿命予測方法。
A=k(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、k:係数
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項4】
前記Bを、0.5≦B≦1.1の範囲で設定することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項5】
前記Bを、
A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定することを特徴とする請求項4記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項6】
前記Bを、
A≦0.03のとき、B=0.5〜0.7、
0.03<A<0.083のとき、B=−4611.3A3+769.19A2−32.421A+1.0109
0.083≦Aのとき、B=0.9〜1.1
に設定することを特徴とする請求項4記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項7】
鋼種を入力手段を介して入力する工程と、
前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、
構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、
前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて濡れ確率(PW)を求める工程と、
前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程と
を有することを特徴とする請求項2、4、5又は6記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項8】
鋼種を入力手段を介して入力する工程と、
前記鋼種に対応した前記係数(α、β、γ)を特定する工程と、
構造物を設置する場所についての情報を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所又はその周辺の温度(T)及び相対湿度(H)を求める工程と、
前記の温度(T)及び相対湿度(H)に基づいて年間濡れ時間(TOW)を求める工程と、
前記構造物の設置場所の離岸距離を入力手段を介して入力する工程と、
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域において予め計測されて設定されている飛来塩分量及び前記離岸距離に基づいて前記構造物の設置場所の飛来塩分量(Sa)を求める工程と
を有することを特徴とする請求項3、4、5又は6記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項9】
前記構造物の設置場所を含む領域又はその周辺の領域を、前記構造物の設置場所の入力とは別に、入力手段を介して入力する工程を更に有することを特徴とする請求項7又は8記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項10】
前記構造物の設置場所の飛来塩分(Sa)に構造物の部位に対応した部位係数を乗算して、その乗算結果を前記飛来塩分(Sa)とすることを特徴とする請求項7又は8記載の鋼材の寿命予測方法。
【請求項11】
鋼材の腐食量予測式Y=AXB(Y:腐食量、X:年数、A,B:材料と環境に依存する係数、べき数)を用いて鋼材の寿命を予測する装置において、
鋼種、前記鋼材を用いる構造物の設置場所及び構造物の設置場所の離岸距離をそれぞれ取り込む入力手段と、
鋼材の鋼種に対応した係数(α、β、γ)、各地域の温度(T)及び相対湿度(H)、及び特定地域の飛来塩分量がそれぞれ格納された記憶手段と、
前記入力手段を介して入力された情報と、前記記憶手段に格納されたデータとに基づいて前記係数A及び前記べき係数Bを求め、更に前記係数A及び前記べき係数Bに基づいて前記腐食量Yを求める演算手段と
を備えたことを特徴とする鋼材の寿命予測装置。
【請求項12】
前記演算手段は、前記A及びBを次式により求めることを特徴とする請求項11記載の鋼材の寿命予測装置。
A=(α・T+β)・PW(T,H)・(Saγ)
T:温度(℃),H:相対湿度(%),Sa:飛来塩分量(mdd)
PW(T,H):濡れ確率、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項13】
前記演算手段は、前記A及びBを次式により求めることを特徴とする請求項10記載の鋼材の寿命予測装置。
A=(α・T+β)・TOW・(Saγ)
T:温度(℃),Sa:飛来塩分量(mdd)
TOW:年間濡れ時間(h)、
α、β、γ:鋼種に応じて設定された係数
B=f(A)、ただし、f(A)はAの関数であることを示す。
【請求項14】
前記演算手段は、上記の腐食量の予測値の精度を、予測値に付帯して表示装置に表示させることを特徴とする請求項11〜13の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置。
【請求項15】
請求項1〜6記載の何れかに記載の鋼材の寿命予測方法における演算処理をコンピュータによる実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
請求項11〜14の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置の演算手段をコンピュータによる実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項11〜14の何れかに記載の鋼材の寿命予測装置をコンピュータにより実現し、演算結果を表示装置に表示させて顧客に提示し、顧客の購入を促すことを特徴とする鋼材の営業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−208346(P2006−208346A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48954(P2005−48954)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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