鋼材の接合構造及びナット保持部材
【課題】ボルトとナットの締結作業を効率よく確実に行うことができる、施工性、経済性に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供する。
【解決手段】各鋼材１、１の端部の一側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置でナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、反対側側面１ｂに、ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている。ナット保持部材５は、ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、ナット嵌め込み部には、ナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている。各鋼材１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット４の位置を合わせてボルト３が挿入され、ナット４にねじ込み、同ねじ込み力によりナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合される。
【解決手段】各鋼材１、１の端部の一側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置でナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、反対側側面１ｂに、ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている。ナット保持部材５は、ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、ナット嵌め込み部には、ナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている。各鋼材１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット４の位置を合わせてボルト３が挿入され、ナット４にねじ込み、同ねじ込み力によりナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
この発明は、作業員が目視で確認しづらく手探り状態で行うボルトとナットの締結作業の技術分野に属し、更に云えば、向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造に特に好適な、鋼材の接合構造及びナット保持部材に関する。
なお、作業員が手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う鋼材の接合構造の代表例として、ライナープレートに取り付ける補強リングを構成する補強リング片の接合構造が挙げられる。よって、以下、補強リング片の接合構造を中心に説明する。
【背景技術】
【０００２】
推進工法用立坑、深礎工法用立坑、集水井戸等の立坑、或いは排水トンネル等の横坑の覆工に用いられるライナープレートは、その強度を高めるために、ライナープレートの周方向のフランジに沿って補強リングを配設して実施する場合がある。
前記補強リングは、一般に、弧状に形成した複数の補強リング片を継手板を介して接合してなり、前記補強リング片は、Ｈ形鋼が好適に採用され、一側のフランジを地山側へ配置し、他側のフランジを坑内側へ配置し、坑内側の作業員の手作業により互いに接合され、ライナープレートの断面形状に合致する円形、或いは小判形等の閉断面形状に形成される。
前記補強リングを構成する補強リング片の接合作業について、坑内側部分のフランジ部の接合作業は、作業員の目視で確認しつつ確実に支障なく行うことができるが、坑外の地山側部分のフランジ部の接合作業は、作業員の目視で確認しづらく手探り状態で行なう場合が多々あり、大変煩わしく、施工性の点において課題が残されていた。
ちなみに、作業員の目視で確認しづらい部位の最たるものが、補強リングをＨ形鋼で実施する場合は、地山側へ配置するフランジの上半部（特には内側面）であり、この部分にボルトを通してナットを締結するボルト接合作業が大変煩わしく、作業員が最も難渋しているところである。
【０００３】
前記課題を踏まえ、従来、前記補強リング片の地山側のフランジ部の接合作業に工夫を施した技術が以下のように、種々提案されている。
１）補強リング片をライナープレートへ取り付ける作業に先行して、予め、前記補強リング片（Ｈ形鋼）の地山側フランジの上半部の内側面に、地山側フランジのボルト孔と一致する部位にナットを溶接し、或いはクリップナットを取り付けておく技術。
その他、技術分野は異なるが、ナットを備えた接合ナット固定治具を予め、鋼材に溶接等の手段で取り付けておく発明がある（例えば、特許文献１参照）。
２）補強リング片をライナープレートへ取り付ける作業に先行して、予め、前記Ｈ形鋼の地山側フランジの上半部の内側面からフランジのボルト孔にボルトを通して外側面へ、ロックワッシャーを用いてボルトを保持しておく技術。
３）Ｈ形鋼（２０）の地山側フランジを接合するための継手板（１０）の上端部に、Ｈ形鋼の端縁に引掛け可能な適宜な鉤状をなした掛け止め部（１２）を設け、Ｈ形鋼をライナープレート（２４）へ取り付けた後に、掛け止め部を利用して継手板をＨ形鋼へ掛け止める発明（特許文献２の特許請求の範囲、及び第１図、第２図を参照）。
４）向かい合う補強リング片（１８）の一方の地山側フランジに、他方の補強リング片へ突き出る長さで継手板（５８）の延設部分（５８ｂ）を一体的に設け、当該他方の補強リング片の地山側フランジには、前記延設部分を間に挟む固定部材（５４）を設け、当該延設部分を固定部材の間に位置決めした後、両者を連結ボルト（５６）で連結する発明（特許文献３の特許請求の範囲、及び図１〜図６参照）。
５）補強リング（２）の地山側フランジ（４）の継手板取付部の右半部（４１）に、その下半部の下端から下方に張り出した張出部（４３）が設けられ、前記地山側フランジの下半部及び前記張出部に継手板（７）をあてがい、ボルト（８）及びナット（９）で固定する発明（特許文献４の特許請求の範囲、及び図１〜図７参照）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００４】
【特許文献１】特開平５−２８０５２５号公報
【特許文献２】特開昭６２−２８８２９４号公報
【特許文献３】特開平９−１１２１８０号公報
【特許文献４】特開２００３−３７８１号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
上記１）に係る技術は、作業が最も難渋する地山側フランジの上半部の内側面に予めナットを設けているので、何ら工夫を施さない補強リングの接合作業と比して、現場での作業効率を向上させ得るように見える。
しかしながら、溶接によりナットを取り付ける場合は、高い寸法精度が要求され、大変煩わしいことに加え、Ｈ形鋼に亜鉛めっきを施すので、ナットのねじ山さらい加工が別途必要となりコストが嵩むという問題があった。また、補強リング片を取り付ける度にナットを設けた位置を確認して向きを整える作業が新たに加わるので、作業上煩わしいという問題もあった。
また、ナットは補強リング片に溶接されて固着しているので、ナットが全く動かない状態であり、ボルト接合時にボルト操作のみによりボルトの先端をナットにねじ込まねばならない。ボルトの先端をナットにねじ込む作業は、ボルト操作だけでなく、ナットもボルトの軸に合わせて寄り動く状態のほうが容易であるが、このようにナットが補強リング片に溶接されて全く動かない状態での目視困難な手探り作業は大変煩わしい。
クリップナットを用いる場合は一般に、フランジへ固定するクリップ部の弾性力がそれほど高くなく、抜け落ち易いという問題があるとともに、ボルトを挿入する側のクリップ部が傾斜した状態となるため、ボルトの中心線とナットの中心線がずれるので位置合わせに手間がかかり、且つ締め込みにくいという問題があった。
また、クリップナットは通常のナットに比べ非常に高価で、必要箇所全てにクリップナットを採用することはコストが嵩むので実用的でない。
上記特許文献１に係るナットを備えた接合ナット固定治具を用いる発明については、仮に、補強リング片の接合に適用すると、補強リング片のフランジ部とナットとの間にナット受け板２、又はガゼットプレート１５（同文献１の図２、図１１等参照）を介在させてボルト接合することとなり、強固な締結状態を維持できず、僅かな振動の蓄積によりナットが緩み、ひいては抜け外れる虞がある。この問題は、ライナープレート構築後の点検、或いは補修が至難な部位だけに致命的であり、補強リング片の接合には適さない。その他、この接合ナット固定治具は、ナット受け板２、ナット固定板３、ナット押さえ部材４を溶接等の手段により組み立てて形成するので、部材点数が多く、製造コストが嵩むという問題もある。
【０００６】
上記２）に係る技術は、作業が最も難渋する地山側フランジの上半部の内側面にボルトを仮止めした状態で接合作業を行うのでやはり、何ら工夫を施さない補強リングの接合作業と比して、現場での作業効率を向上させ得るように見える。
しかしながら、仮止めするボルトは、少なくとも向き合わせた補強リング片の端部にそれぞれ２本ずつ計４本用いられるが、これらのボルトを一律に、フランジに対して垂直な向きに仮止めすることは困難である。よって、補強リング片をライナープレートへ取り付けた後に行う、継手板に設けたボルト孔へ前記４本ものボルトを一度に通す作業が大変煩わしく、場合によっては継手板がボルトの先端に当たりそのままボルトが滑落するなど、作業効率が悪化するという問題があった。
【０００７】
上記３）の特許文献２に係る発明も現場での作業効率を向上させ得るように見えるが、同文献１の第３頁右上欄の第５行目〜第１１行目に記載されている通り、前記掛け止め部をＨ形鋼のフランジ部に掛け止めた場合に、フランジの幅が広く間隙が生じてがたつくことがあり、ボルトとナットを確実に締結しづらいという問題がある。確かに、前記隙間にクサビを打ち込むことでこの問題は解消できるが、この作業は、無理な姿勢で行わなければならず、作業員の熟練技術を必要とすることに加え、なによりクサビを打ち込む作業が新たに加わる煩わしさがある。
【０００８】
上記４）の特許文献３に係る発明は、現場での作業効率を向上させることはできるが、市販の補強リング片の一端部に継手板（５８）の延設部分（５８ｂ）を一体的に設け、他端部に前記延設部分を間に挟む固定部材（５４）を一体的に設けて形成するので、加工費及び材料費が非常に嵩むという問題がある。また、補強リング片を取り付ける度に前記延設部分（５８ｂ）と固定部材（５４）の位置を確認して向きを整える作業が新たに加わるので、作業上煩わしいという問題もある。
【０００９】
上記５）の特許文献４に係る発明も現場での作業効率を向上させることはできるが、市販の補強リング片に張出部を設けるので、上記特許文献３と同様に、加工費及び材料費が非常に嵩むという問題がある。
【００１０】
本発明の目的は、ナットを納めたナット保持部材を市販の鋼材に外付けする構成で実施することにより、ボルトとナットの締結作業を効率よく確実に行うことができる、施工性、経済性に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
本発明の次の目的は、ナットを納めたナット保持部材を市販の補強リング片に外付けする構成で実施することにより、坑内側はもとより、作業員の目視で確認しづらい坑外の地山側の接合作業についても、ボルトとナットの締結作業を効率よく確実に行うことができる、施工性、経済性に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
本発明の更なる目的は、ナットを納めたナット保持部材の構造、及び材質に工夫を施すことにより、ボルトとナットの定着性を高め、強固な締結状態を恒久的に維持できる、経済性、及び品質に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項１に記載した発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造であって、
各鋼材の端部の一側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で、ナットを納めたナット保持部材が取り付けられ、当該鋼材端部の反対側側面に、前記ボルト孔と一致するボルト孔を有する継手板が配置されていること、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
各鋼材と継手板に設けたボルト孔、及びナット保持部材のナットの位置を合わせて継手板の外側からボルトが挿入され、前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合されることを特徴とする。
【００１２】
請求項２に記載した発明は、請求項１に記載した鋼材の接合構造において、前記鋼材は、フランジをライナープレートの地山側および坑内側に配置する形鋼で成形した補強リング片であり、各補強リング片の地山側へ配置するフランジの端部の内側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で前記ナット保持部材が取り付けられており、当該ナット保持部材が取り付けられた各補強リング片が、そのフランジを地山側および坑内側へ配置するようにライナープレートに設けられ、隣接する補強リング片同士の端部が向き合わされ、前記継手板を介してボルト接合されて補強リングが形成されることを特徴とする。
【００１３】
請求項３に記載した発明は、請求項１又は２に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする。
【００１４】
請求項４に記載した発明は、請求項２又は３に記載した鋼材の接合構造において、前記補強リング片をなす形鋼はＨ形鋼であり、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側へ配置するフランジの上半部の内側面に取り付けられることを特徴とする。
【００１５】
請求項５に記載した発明は、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は、上端部に、前記補強リング片の地山側のフランジの上端に掛け止める掛け止め部が設けられていることを特徴とする。
【００１６】
請求項６に記載した発明は、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側のフランジとボルト止め、又はねじ止めにより取り付けられることを特徴とする。
【００１７】
請求項７に記載した発明は、請求項２〜６のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記継手板は、予め、隣接する補強リング片のいずれか一方のフランジに回動可能にボルト止め、又はねじ止めされていることを特徴とする。
【００１８】
請求項８に記載した発明は、請求項１〜７のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする。
【００１９】
請求項９に記載した発明は、請求項１〜８のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする。
【００２０】
請求項１０に記載した発明に係るナット保持部材は、ボルト孔のある鋼材をボルト接合する際に用いる、ナットを回り止め状態で保持するナット保持部材であって、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
ボルトを前記鋼材のボルト孔に通し、前記ボルトの先端を前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されることを特徴とする。
【００２１】
請求項１１に記載した発明は、請求項１０に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする。
【００２２】
請求項１２に記載した発明は、請求項１０又は１１に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする。
【００２３】
請求項１３に記載した発明は、請求項１０〜１２のいずれか一に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【００２４】
本発明に係る鋼材の接合構造及びナット保持部材によれば、以下の効果を奏する。
Ｉ）ナットを取り付ける部位に予め、ナットを納めたナット保持部材を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できることは勿論のこと、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、前記部位に予め、ナットを納めたナット保持部材を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができる。
II）ナット保持部材に形成するナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成し、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットが、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持する構成で実施している。よって、ナットに多少の遊びを持たせることで、ナットと締結するボルトがナットに対し、多少芯振れする状態で操作してナットのねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができるので、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
III）ナット嵌め込み部に設けた係止部を、弾性変形可能な形状、或いは材質で実施している。よって、ボルト接合作業の過程において、ナットにボルトをねじ込むと、同ねじ込み力によりナットが補強リング片のフランジ側へ寄り、係止部を押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルトのねじ込みを続けることで、ナットは補強リング片のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
IV）要するに、本発明に係る鋼材の接合構造及びナット保持部材は、上記構成のナット保持部材を用いることにより、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を行うことができるは勿論のこと、ボルトとナットの定着性を高め、強固な締結状態を恒久的に維持することができる。よって、施工後の点検、或いは補修が至難な部位、例えば、ライナープレートに配設する補強リング片の地山側の接合作業に好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２５】
【図１】実施例１に係る補強リング片（鋼材）の接合構造を示した立面図である。
【図２】実施例１に係る補強リング片の接合構造を示した平面図である。
【図３】図２の分解斜視図である。
【図４】Ａは、実施例１に係る補強リング片の接合構造に用いるナット保持部材を示した斜視図であり、Ｂは、同正面図である。
【図５】Ａ、Ｂは、ナット保持部材に納めたナットとボルトの接合状態を段階的に示した平断面図である。
【図６】Ａは、前記ナット保持部材の異なる実施例を示した側断面図であり、Ｂは、同平面図である。
【図７】Ａは、実施例１に係る補強リング片の接合構造を実施するにあたり、補強リング片の地山側のフランジの上半部の内側面にナット保持部材を取り付ける段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図８】Ａは、補強リング片の地山側のフランジの外側面に継手板を取り付ける段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図９】Ａは、補強リング片の地山側のフランジの上半部にボルトを接合する段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図１０】実施例１に係る補強リング片の接合構造のバリエーションを示した立面図である。
【図１１】実施例１に係る補強リング片の接合構造のバリエーションを示した立面図である。
【図１２】実施例２に係る補強リング片の接合構造を示した立面図である。
【図１３】実施例２に係る補強リング片の接合構造を示した分解斜視図である。
【図１４】Ａは、実施例２に係る補強リング片の接合構造に用いるナット保持部材を示した斜視図であり、Ｂは、同正面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２６】
本発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材１、１同士の端部が、継手板２を介してボルト３で接合される鋼材１、１の接合構造であり、各鋼材１、１の端部の一側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置で、ナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、当該鋼材１の端部の反対側側面１ｂに、前記ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている（図１〜図３参照）。
前記ナット保持部材５は、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、前記ナット嵌め込み部５ａには、嵌め込まれたナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている（図４Ａ、Ｂ参照）。
各鋼材１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット保持部材５のナット４の位置を合わせて継手板２の外側からボルト３が挿入され、前記ナット保持部材５のナット４にねじ込み、同ねじ込み力により前記ナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に、前記ナット４が前記係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト３で接合される（図５Ａ、Ｂ参照）。
【００２７】
なお、本発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材同士の端部を継手板を介してボルト接合する技術全般に適用できる。ナットを取り付ける部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できる効果がある。
また、本発明に係る鋼材の接合構造は、Ｈ形鋼、溝形鋼、山形鋼等の鋼材のフランジ部を利用して向き合わせた鋼材１、１同士の端部を接合する際、ライナープレート１０、コルゲートパイプ、或いは鋼管柱等をウエブ部に設置することで、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルト３とナット４の締結作業を行う場合に、特に好適である。前記部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができるからである。
【００２８】
なお、本発明に係るナット保持部材は、向き合わせた鋼材１、１同士の端部を継手板２を介してボルト接合する技術全般に適用できるだけでなく、管状の鋼材の内部のような閉鎖空間でのナット保持にも適宜形態を変えることで適用できる（例えば、本出願人が先に出願した特願２００９−１８８８４１参照）。
また、本発明に係るナット保持部材は、材料の節約のため適宜肉盗みされて実際される。この肉盗みは、ナット４を回り止め状態に保持するための強度を有する程度に実施できる。
【００２９】
以下、本発明に係る鋼材の接合構造、及び同接合構造に用いるナット保持部材の実施例を図面に基づいて説明する。ちなみに本実施例では、鋼材１として弧状の補強リング片１を採用し、補強リング片１をライナープレート１０の周方向のフランジ１０ａに沿って複数接合することで補強リングを形成する鋼材の接合構造について説明する。鋼材１として補強リング片１を採用した意義は、補強リング片１の接合作業を行うにあたり、作業員が目視で確認しづらく手探り状態で行なう作業が多々あり、本発明の作用効果が明解に表れるからである。
ただし、本発明に用いる鋼材は、補強リング片１に限らず、上記した管状の鋼材にも適用できるなど、多種・多様であることを予め申し上げておく。
【実施例１】
【００３０】
図１〜図９は、本発明に係る補強リング片１の接合構造の実施例１を示している。
この実施例１に係る接合構造は、図１〜図３に示したように、向き合わせた（突き合わせた）補強リング片１、１同士の端部が、継手板２を介してボルト４で接合される構造であり、各補強リング片１、１同士の端部の地山１３側へ配置したフランジの上半部の内側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置で、ナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、前記フランジの外側面１ｂに、前記ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている。
前記ナット保持部材５は、図４Ａ、Ｂに示したように、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、ナット嵌め込み部５ａには、嵌め込まれたナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている。
各補強リング片１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット保持部材５のナット４の位置を合わせて継手板２の外側からボルト３が挿入され、前記ナット保持部材５のナット４にねじ込み、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に、前記係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト３で接合されている。
ちなみに、図１〜図３中の符号２０は、補強リング片１のウエブ部にほぼ等間隔に設けたボルト孔を示している。このボルト孔２０は、補強リング片１をライナープレート１０の周方向フランジ１０ａとボルト２１で接合するために供される。
【００３１】
前記ナット４を納めたナット保持部材５は、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を余儀なくされる、補強リング１の地山１３側へ配置したフランジの上半部の内側面１ｂにのみ、予め取り付けて実施している。その他の補強リング１のフランジ部の接合作業は、作業員が目視で確認しつつ確実に支障なく行うことができるので、前記ナット保持部材５を用いることなく、ボルト３とナット４の締結作業を行う。なお、前記ボルト３とナット４の取り付け配置について、前記ナット保持部材５を用いずに締結する部位は図示例に限定されない。
【００３２】
前記補強リング片１は、フランジを地山１３側および坑内１４側に配置する形鋼（図示例ではＨ形鋼）を弧状に形成した鋼材で、ライナープレート１０の下端部の周方向フランジに沿う配置に複数個（通常、４個以上）向き合わせて接合し、補強リングを形成する。
ちなみに、図示例に係る補強リング片１のＨ形鋼の断面寸法は、１２５（高さ）×１２５（幅）×６．５（ウエブ厚）×９（フランジ厚）（単位：mm）で実施されている。
前記補強リング片１に用いる形鋼は、Ｈ形鋼に限定されず、溝形鋼１９ａ（図１０参照）、山形鋼１９ｂ（図１１参照）でも同様に実施できる。
前記補強リングは、図示の便宜上一部省略するが、１／４円弧状の補強リング片１を４個用い、隣接する補強リング片同士１、１の端部を互いに向き合わせてリング状に形成して実施している。なお、補強リングを構成する補強リング片１の使用個数、形状、及び断面寸法は図示例に限定されず、補強リング、ひいては構築するライナープレート１０の規模、及び形状（円形、小判形、矩形）に応じて適宜設計変更されるのは勿論である。
ちなみに、図示例では、隣接する補強リング片同士１、１の端部が当接するように互いに突き合わせて接合しているがこれに限定されず、誤差調整等のため、適宜隙間をあけて接合することもできる。
【００３３】
前記継手板２は、向き合わせた（突き合わせた）補強リング片同士１、１の端部の地山側のフランジと坑内側のフランジにそれぞれ配置される。
前記継手板２は、金属製であり、弧状に形成した補強リング片１のフランジの形状と一致する曲率に成形され、向き合わせた補強リング片同士１、１の端部に設けたボルト孔１１に継手板２に設けたボルト孔１２が一致するように、同端部にほぼ均等に跨る配置で取り付けられている。
図示例に係る継手板２の寸法は、１２５（高さ）×１２（厚さ）×３１０（幅）（単位：ｍｍ）で実施されている。
また、前記継手板２に設けたボルト孔１２は、補強リング片１、１側に設けたボルト孔１１と一致する個数と配置で実施されている。具体的に、図示例のボルト孔１２は、ボルト３の挿入を容易ならしめるべく、補強リング片１側に設けたボルト孔１１より若干大きい楕円形で、当該ボルト孔１１と同心配置に設けられている。
前記継手板２の形態、及び継手板２に設けたボルト孔１２の個数、配置は、もちろん図示例に限定されず、使用する補強リング片１の形態、及び補強リング片に設けたボルト孔１１の個数、配置に応じて適宜設計変更される。
【００３４】
前記ナット保持部材５は、ナットを納めることが可能な厚みを有する平板状に形成され、向き合わせる補強リング片１、１同士の端部の地山１３側へ配置されるフランジの上半部の内側面１ａにそれぞれ取り付けられている。
このナット保持部材５は、前記継手板２と同様に、弧状に形成した補強リング片１のフランジの形状と一致する曲率に成形され、補強リング片１の端部に設けたボルト孔１１に当該ナット保持部材５に納めたナット３が同心配置となるように取り付けられている。
前記ナット保持部材５を、補強リング片１に取り付ける手段として、この実施例１に係るナット保持部材５は、その上端部に、補強リング片１の地山側のフランジの上端に掛け止め可能な鉤状の掛け止め部６を左右に２箇所、バランスよく一体的に設けて実施している。この掛け止め部６は、多少の振動等が生じてもずり動かない程度の摩擦力、或いは弾性力でフランジに掛け止められる。なお、掛け止め部６の形態は図示例に限定されず、前記ナット保持部材５を安定した状態で補強リング片１へ掛け止め可能な形態であればよい。また、ナット保持部材５本体に外付けして取り付けるタイプでもよい。
ちなみに、ナット保持部材５は、大量生産に適し、安価で、且つ軽量に製造でき、取扱いが容易な、熱硬化性又は熱可塑性の合成樹脂、例えばフェノール樹脂やエポキシ樹脂、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を原材料に用いて成形することができる。また、低・中発泡ないし高発泡のポリスチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等で成形して実施することもできるし、非発泡の合成樹脂製として実施することもできる。また、ナット保持部材５は金属を用いて実施することもできる。
【００３５】
前記ナット保持部材５には、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが、補強リング片１側に設けたボルト孔１１に対応する位置に、左右に２箇所、バランスよく設けられている。前記ナット嵌め込み部５ａは、嵌め込まれたナット５が抜け外れないように保持する係止部５ｂを備えている。
【００３６】
前記ナット嵌め込み部５ａは、ナット４（図示例では六角形）の外径よりも若干大きな六角形に形成され、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が、ナット嵌め込み部５ａの中で回らない程度に緩く保持されている。このように、前記ナット４に多少の遊びを持たせることで、当該ナット４と締結するボルト３がナット４に対し、多少芯振れする状態で操作して、ナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができ、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
前記係止部５ｂは、ナット保持部材５を補強リング片１に取り付ける際に、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が落下しないように、抜け外れを防止する効果がある。
ナット嵌め込み部５ａは、係止部５ｂの掛け留め効果により、補強リング片１に取り付ける作業中に嵌め込んだナット４が抜け外れることなく鉛直な姿勢を保ち、ボルト３との締結時に共回りをしない形状に形成する必要がある。そのため、本実施例に係るナット嵌め込み部５ａは、図５Ａ、Ｂに示したように、ナット３を位置決めするための段部７を備えた貫通孔を水平方向に形成して実施している。前記貫通孔は、ナット嵌め込み部５ａの入口から段部７までは六角形の筒状に形成し、段部７から出口までは、前記ボルト３の外径よりは大きい円筒形に形成されている。
なお、前記ナット嵌め込み部５ａを貫通形態に形成した理由は、使用材料量の減量化による製造原価の引き下げ、及び軽量化を図ることができるほか、一旦嵌め込んだナット４に不具合が生じた場合に、前記係止部５ｂを少し押しのけて、後方の貫通孔から作業員の手指で押すことにより楽に取り外せる利点があるからである。この点を考慮したナット保持部材５のバリエーションを図６に示す。この図６に係るナット保持部材１５は、前記貫通孔のほか、ナット４を嵌め込む位置から鉛直上方向へ貫通するナット挿入孔１５ａを設けている。このような形態で実施することにより、さらに製造原価の引き下げ、及び軽量化を図ることができるし、ナット４をスライドさせて楽に出し入れすることができる。
【００３７】
前記係止部５ｂは、ナット嵌め込み部５ａの入口から奥行き方向へ少し進んだ部位で、且つ六角形の一辺（図示例では縦辺）の中央部に、弾性変形可能な形状に成形した構成で設けられている。要するに、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込むナット４は、前記係止部５ｂを押しのけてナット嵌め込み部５ａ内へ挿入されると直ちに係止部５ｂが元の位置へ戻るので、ナット４が抜け外れることを防止することができる。
このような構成の係止部５ｂを備えたナット嵌め込み部５ａにナット４を嵌め込むと、ナット４は、前記段部７と係止部５ｂとに挟まれて鉛直な姿勢を保ち、ほぼ水平方向から挿入されるボルト３との位置合わせ（ねじ始端の探索ないし整合）を含めて的確に迅速にねじ込み作業を行うことができ、スムーズで良好なボルト接合作業を行うことができる。
また、ボルト接合作業の過程において、ボルト３をナット４にねじ込むと、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記補強リング片１のフランジ側へ寄り、前記係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット４は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
【００３８】
なお、前記ナット保持部材５のナット嵌め込み部５ａを、ナット４と共にワッシャーを納めることが可能な形状で実施することも勿論できる。この場合には、ナット４の外周面にワッシャーを密着させて嵌め込み、当該ワッシャーが抜け外れないように係止部５ｂで掛け止める構成で実施する。
【００３９】
次に、上記した補強リング片（鋼材）１の接合構造の施工手順を説明する。
この補強リング片１の接合構造は、先ず、図７Ａ、Ｂに示したように、補強リング片１をライナープレート１０に取り付ける前に予め、向き合わせて接合する２つの補強リング片１、１の端部のそれぞれに、前記ナット４を納めたナット保持部材５を、その上端部に設けた掛け止め部６を補強リング片１のフランジの上端に引っ掛けて取り付けると共に、当該フランジに設けたボルト孔１１と前記ナット保持部材５に嵌め込んだナット４の位置合わせを行う。
この作業は、地上、或いはライナープレート１０の坑内で行われる。
前記ナット保持部材５は、具体的に、各補強リング片１の端部の地山１３側へ配置するフランジの上半部の内側面１ａに取り付ける。
【００４０】
次に、図８Ａ、Ｂに示したように、ナット保持部材５を取り付けた２つの補強リング片１を、既設のライナープレート１０の下端部の周方向フランジ１０ａに沿って向き合わせて（突き合わせて）取り付ける。具体的には、各補強リング片１のナット保持部材５を設けた側のフランジを地山側に配置して、各補強リング片１のウエブに設けたボルト孔２０と前記周方向フランジ１０ａに設けたボルト孔１０ｂを一致させ、当該一致したボルト孔２０、１０ｂにボルト２１を通してナット２２をねじ込んで取り付ける。
前記ナット保持部材５は、その掛け止め部６が、多少の振動等が生じてもずり動かない構成で実施しているので、前記補強リング片１をライナープレートに取り付けるまでの間、前記フランジに設けたボルト孔１１と前記ナット保持部材５に嵌め込んだナット４の芯ずれは生じない。
このようにして、前記補強リング片１、１を向き合わせる位置決め作業を終えた後、補強リング片１、１の地山側のフランジの外側面に、継手板２を、補強リング片１、１にほぼ均等に跨り、且つ補強リング片１の地山側のフランジに設けたボルト孔１１と継手板２に設けたボルト孔１２がそれぞれ同心となる配置に位置決めする。
前記継手板２は、補強リング１をライナープレート１０に取り付ける前に予め、隣接する補強リング片１、１のいずれか一方のフランジにボルトなどで仮止めしておくと、位置決め作業を容易に進めることができる。
【００４１】
続いて、図９Ａ、Ｂに示したように、補強リング片の地山側のフランジの上半部のボルト締め作業を行う。
この部位のボルト締め作業は、ナット４が予めナット保持部材５により取り付けられているので、手探り状態での作業を余儀なくされる作業者は、ボルト３の操作のみでボルト締め作業を行うことができる。しかも、継手板２に設けたボルト孔１２を幅広の楕円形に形成しているので、ボルト３の先端部を補強リング片１のボルト孔１１へ案内しやすい。前記ボルト孔１２、１１を通過させたボルト３は、ナット４がナット保持部材５に共回りしない程度に緩く保持されているので、ナット４に対し、多少芯振れする状態で操作して、ナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができ、スムーズで良好なボルト接合作業を進められる。
また、ボルト接合作業の過程において、ナット４にボルト３をねじ込むと、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記補強リング片１のフランジ側へ寄り、前記係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット３は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。ナット保持部材５のナット嵌め込み部５ａ内に、前記ナット４と共にワッシャーを嵌め込んで実施する場合には、さらに強固なボルト締めを行うことができる。
【００４２】
ナット保持部材５に保持されたすべてのナット４にボルト３を強固にねじ込む作業を終えた後、地山側のフランジの下半部のボルト接合作業を行うと共に、坑内側のフランジの上半部及び下半部のボルト接合作業を行う。なお、地山側のボルト接合作業に着手する前に、坑内側のボルト接合作業を済ませておいてもよい。ちなみに、図９Ａ中の符号８は、ワッシャーを示している。
【００４３】
かくして、補強リング片１、１の両フランジに継手板２、２をボルト接合し、向き合わせた補強リング片１、１同士を接合する作業を、前記ライナープレート１０の周方向フランジに沿って、必要な数だけ繰り返し行うことにより、補強リングを形成することができる。補強リングを形成した後は、補強リング片１に取り付けておいた複数のボルト２１の一部を一旦取り外し、下側にライナープレート（図示省略）を配置した後、前記ボルト２１を再び取り付ける。
【００４４】
以上説明した鋼材（補強リング片）の接合構造及び同接合構造に用いるナット保持部材５によれば、ナット４を取り付ける部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できることは勿論のこと、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルト３とナット４の締結作業を行う必要のある部位が生じる場合であっても、前記部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができる。
また、前記ナット嵌め込み部５ａは、ナット４の外径よりも若干大きく形成し、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が、ナット嵌め込み部５ａの中で回らない程度に緩く保持する構成で実施しているので、ナット４に多少の遊びを持たせることで、ナット４と締結するボルト３がナット４に対し、多少芯振れする状態で操作してナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができるので、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
さらに、前記ナット嵌め込み部５ａに設けた係止部５ｂを、弾性変形可能な形状、或いは材質で実施することにより、ボルト接合作業の過程において、ナット４にボルト３をねじ込むと、同ねじ込み力により前記ナット４が補強リング片１のフランジ側へ寄り、係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット３は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
【実施例２】
【００４５】
図１２〜図１４は、本発明に係る補強リング片１の接合構造の実施例２を示している。
この実施例２は、上記実施例１と比して、ナット保持部材５の形態が主に相違する。補強リング片１、継手板２その他の構成部材は、上記実施例１と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
この実施例２に係るナット保持部材９は、上記実施例１に係るナット保持部材５が掛け止め式で実施しているのに対し、ねじ止め式で実施している点が相違する。前記ナット保持部材９は、ねじ止め部を形成するために、前記ナット保持部材５より横方向に長い平板状で実施している。
具体的に、前記ナット保持部材９は、その一端部に形成したボルト孔９ａを、補強リング片１の地山側のフランジの上半部に設けたボルト孔１６と一致させ、当該一致したボルト孔９ａ、１６にボルト１７を通し、ナット１８をねじ込むことにより、前記フランジの上半部の内側面１ａに取り付ける。この作業は、ライナープレート１０に補強リング片１を配設する前に行われる。
補強リング片１に前記ナット保持部材９を取り付けた後に行う、ライナープレート１０と補強リング片１との接合作業、及び向き合わせた補強リング片１、１と継手板２、２との接合作業は、上記実施例１と同様の要領で行う。
【００４６】
したがって、この実施例２に係る補強リング片１の接合構造は、上記実施例１と比して、ナット保持部材９（５）を補強リング片１に取り付ける手法のみが相違するので、上記実施例１と同様の作用効果を奏する（段落[００３９]参照）。
加えて、この実施例２に係るナット保持部材９の補強リング片１への固定はねじ込み式であり、上記実施例１に係るナット保持部材５のように掛け止め部６は無用となる。よって、補強リング片１の地山側のフランジと継手板２とを密着させてボルト接合できるので、上記実施例１と比して、より強固なボルト接合作業を行うことができる。
【００４７】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【００４８】
１ 補強リング片（鋼材）
１ａ 地山側フランジの内側面
１ｂ 地山側フランジの内側面
２ 継手板
３ ボルト
４ ナット
５ ナット保持部材
５ａ ナット嵌め込み部
５ｂ 係止部
６ 掛け止め部
７ 段部
８ ワッシャー
９ ナット保持部材
９ａ ボルト孔
１０ ライナープレート
１０ａ ボルト孔
１１ ボルト孔
１２ ボルト孔
１３ 地山
１４ 坑内
１５ ナット保持部材
１５ａ ナット通し孔
１６ ボルト孔
１７ ボルト
１８ ナット
１９ａ 補強リング片
１９ｂ 補強リング片
２０ ボルト孔
２１ ボルト
【技術分野】
【０００１】
この発明は、作業員が目視で確認しづらく手探り状態で行うボルトとナットの締結作業の技術分野に属し、更に云えば、向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造に特に好適な、鋼材の接合構造及びナット保持部材に関する。
なお、作業員が手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う鋼材の接合構造の代表例として、ライナープレートに取り付ける補強リングを構成する補強リング片の接合構造が挙げられる。よって、以下、補強リング片の接合構造を中心に説明する。
【背景技術】
【０００２】
推進工法用立坑、深礎工法用立坑、集水井戸等の立坑、或いは排水トンネル等の横坑の覆工に用いられるライナープレートは、その強度を高めるために、ライナープレートの周方向のフランジに沿って補強リングを配設して実施する場合がある。
前記補強リングは、一般に、弧状に形成した複数の補強リング片を継手板を介して接合してなり、前記補強リング片は、Ｈ形鋼が好適に採用され、一側のフランジを地山側へ配置し、他側のフランジを坑内側へ配置し、坑内側の作業員の手作業により互いに接合され、ライナープレートの断面形状に合致する円形、或いは小判形等の閉断面形状に形成される。
前記補強リングを構成する補強リング片の接合作業について、坑内側部分のフランジ部の接合作業は、作業員の目視で確認しつつ確実に支障なく行うことができるが、坑外の地山側部分のフランジ部の接合作業は、作業員の目視で確認しづらく手探り状態で行なう場合が多々あり、大変煩わしく、施工性の点において課題が残されていた。
ちなみに、作業員の目視で確認しづらい部位の最たるものが、補強リングをＨ形鋼で実施する場合は、地山側へ配置するフランジの上半部（特には内側面）であり、この部分にボルトを通してナットを締結するボルト接合作業が大変煩わしく、作業員が最も難渋しているところである。
【０００３】
前記課題を踏まえ、従来、前記補強リング片の地山側のフランジ部の接合作業に工夫を施した技術が以下のように、種々提案されている。
１）補強リング片をライナープレートへ取り付ける作業に先行して、予め、前記補強リング片（Ｈ形鋼）の地山側フランジの上半部の内側面に、地山側フランジのボルト孔と一致する部位にナットを溶接し、或いはクリップナットを取り付けておく技術。
その他、技術分野は異なるが、ナットを備えた接合ナット固定治具を予め、鋼材に溶接等の手段で取り付けておく発明がある（例えば、特許文献１参照）。
２）補強リング片をライナープレートへ取り付ける作業に先行して、予め、前記Ｈ形鋼の地山側フランジの上半部の内側面からフランジのボルト孔にボルトを通して外側面へ、ロックワッシャーを用いてボルトを保持しておく技術。
３）Ｈ形鋼（２０）の地山側フランジを接合するための継手板（１０）の上端部に、Ｈ形鋼の端縁に引掛け可能な適宜な鉤状をなした掛け止め部（１２）を設け、Ｈ形鋼をライナープレート（２４）へ取り付けた後に、掛け止め部を利用して継手板をＨ形鋼へ掛け止める発明（特許文献２の特許請求の範囲、及び第１図、第２図を参照）。
４）向かい合う補強リング片（１８）の一方の地山側フランジに、他方の補強リング片へ突き出る長さで継手板（５８）の延設部分（５８ｂ）を一体的に設け、当該他方の補強リング片の地山側フランジには、前記延設部分を間に挟む固定部材（５４）を設け、当該延設部分を固定部材の間に位置決めした後、両者を連結ボルト（５６）で連結する発明（特許文献３の特許請求の範囲、及び図１〜図６参照）。
５）補強リング（２）の地山側フランジ（４）の継手板取付部の右半部（４１）に、その下半部の下端から下方に張り出した張出部（４３）が設けられ、前記地山側フランジの下半部及び前記張出部に継手板（７）をあてがい、ボルト（８）及びナット（９）で固定する発明（特許文献４の特許請求の範囲、及び図１〜図７参照）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００４】
【特許文献１】特開平５−２８０５２５号公報
【特許文献２】特開昭６２−２８８２９４号公報
【特許文献３】特開平９−１１２１８０号公報
【特許文献４】特開２００３−３７８１号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
上記１）に係る技術は、作業が最も難渋する地山側フランジの上半部の内側面に予めナットを設けているので、何ら工夫を施さない補強リングの接合作業と比して、現場での作業効率を向上させ得るように見える。
しかしながら、溶接によりナットを取り付ける場合は、高い寸法精度が要求され、大変煩わしいことに加え、Ｈ形鋼に亜鉛めっきを施すので、ナットのねじ山さらい加工が別途必要となりコストが嵩むという問題があった。また、補強リング片を取り付ける度にナットを設けた位置を確認して向きを整える作業が新たに加わるので、作業上煩わしいという問題もあった。
また、ナットは補強リング片に溶接されて固着しているので、ナットが全く動かない状態であり、ボルト接合時にボルト操作のみによりボルトの先端をナットにねじ込まねばならない。ボルトの先端をナットにねじ込む作業は、ボルト操作だけでなく、ナットもボルトの軸に合わせて寄り動く状態のほうが容易であるが、このようにナットが補強リング片に溶接されて全く動かない状態での目視困難な手探り作業は大変煩わしい。
クリップナットを用いる場合は一般に、フランジへ固定するクリップ部の弾性力がそれほど高くなく、抜け落ち易いという問題があるとともに、ボルトを挿入する側のクリップ部が傾斜した状態となるため、ボルトの中心線とナットの中心線がずれるので位置合わせに手間がかかり、且つ締め込みにくいという問題があった。
また、クリップナットは通常のナットに比べ非常に高価で、必要箇所全てにクリップナットを採用することはコストが嵩むので実用的でない。
上記特許文献１に係るナットを備えた接合ナット固定治具を用いる発明については、仮に、補強リング片の接合に適用すると、補強リング片のフランジ部とナットとの間にナット受け板２、又はガゼットプレート１５（同文献１の図２、図１１等参照）を介在させてボルト接合することとなり、強固な締結状態を維持できず、僅かな振動の蓄積によりナットが緩み、ひいては抜け外れる虞がある。この問題は、ライナープレート構築後の点検、或いは補修が至難な部位だけに致命的であり、補強リング片の接合には適さない。その他、この接合ナット固定治具は、ナット受け板２、ナット固定板３、ナット押さえ部材４を溶接等の手段により組み立てて形成するので、部材点数が多く、製造コストが嵩むという問題もある。
【０００６】
上記２）に係る技術は、作業が最も難渋する地山側フランジの上半部の内側面にボルトを仮止めした状態で接合作業を行うのでやはり、何ら工夫を施さない補強リングの接合作業と比して、現場での作業効率を向上させ得るように見える。
しかしながら、仮止めするボルトは、少なくとも向き合わせた補強リング片の端部にそれぞれ２本ずつ計４本用いられるが、これらのボルトを一律に、フランジに対して垂直な向きに仮止めすることは困難である。よって、補強リング片をライナープレートへ取り付けた後に行う、継手板に設けたボルト孔へ前記４本ものボルトを一度に通す作業が大変煩わしく、場合によっては継手板がボルトの先端に当たりそのままボルトが滑落するなど、作業効率が悪化するという問題があった。
【０００７】
上記３）の特許文献２に係る発明も現場での作業効率を向上させ得るように見えるが、同文献１の第３頁右上欄の第５行目〜第１１行目に記載されている通り、前記掛け止め部をＨ形鋼のフランジ部に掛け止めた場合に、フランジの幅が広く間隙が生じてがたつくことがあり、ボルトとナットを確実に締結しづらいという問題がある。確かに、前記隙間にクサビを打ち込むことでこの問題は解消できるが、この作業は、無理な姿勢で行わなければならず、作業員の熟練技術を必要とすることに加え、なによりクサビを打ち込む作業が新たに加わる煩わしさがある。
【０００８】
上記４）の特許文献３に係る発明は、現場での作業効率を向上させることはできるが、市販の補強リング片の一端部に継手板（５８）の延設部分（５８ｂ）を一体的に設け、他端部に前記延設部分を間に挟む固定部材（５４）を一体的に設けて形成するので、加工費及び材料費が非常に嵩むという問題がある。また、補強リング片を取り付ける度に前記延設部分（５８ｂ）と固定部材（５４）の位置を確認して向きを整える作業が新たに加わるので、作業上煩わしいという問題もある。
【０００９】
上記５）の特許文献４に係る発明も現場での作業効率を向上させることはできるが、市販の補強リング片に張出部を設けるので、上記特許文献３と同様に、加工費及び材料費が非常に嵩むという問題がある。
【００１０】
本発明の目的は、ナットを納めたナット保持部材を市販の鋼材に外付けする構成で実施することにより、ボルトとナットの締結作業を効率よく確実に行うことができる、施工性、経済性に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
本発明の次の目的は、ナットを納めたナット保持部材を市販の補強リング片に外付けする構成で実施することにより、坑内側はもとより、作業員の目視で確認しづらい坑外の地山側の接合作業についても、ボルトとナットの締結作業を効率よく確実に行うことができる、施工性、経済性に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
本発明の更なる目的は、ナットを納めたナット保持部材の構造、及び材質に工夫を施すことにより、ボルトとナットの定着性を高め、強固な締結状態を恒久的に維持できる、経済性、及び品質に優れた鋼材の接合構造及びナット保持部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項１に記載した発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造であって、
各鋼材の端部の一側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で、ナットを納めたナット保持部材が取り付けられ、当該鋼材端部の反対側側面に、前記ボルト孔と一致するボルト孔を有する継手板が配置されていること、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
各鋼材と継手板に設けたボルト孔、及びナット保持部材のナットの位置を合わせて継手板の外側からボルトが挿入され、前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合されることを特徴とする。
【００１２】
請求項２に記載した発明は、請求項１に記載した鋼材の接合構造において、前記鋼材は、フランジをライナープレートの地山側および坑内側に配置する形鋼で成形した補強リング片であり、各補強リング片の地山側へ配置するフランジの端部の内側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で前記ナット保持部材が取り付けられており、当該ナット保持部材が取り付けられた各補強リング片が、そのフランジを地山側および坑内側へ配置するようにライナープレートに設けられ、隣接する補強リング片同士の端部が向き合わされ、前記継手板を介してボルト接合されて補強リングが形成されることを特徴とする。
【００１３】
請求項３に記載した発明は、請求項１又は２に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする。
【００１４】
請求項４に記載した発明は、請求項２又は３に記載した鋼材の接合構造において、前記補強リング片をなす形鋼はＨ形鋼であり、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側へ配置するフランジの上半部の内側面に取り付けられることを特徴とする。
【００１５】
請求項５に記載した発明は、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は、上端部に、前記補強リング片の地山側のフランジの上端に掛け止める掛け止め部が設けられていることを特徴とする。
【００１６】
請求項６に記載した発明は、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側のフランジとボルト止め、又はねじ止めにより取り付けられることを特徴とする。
【００１７】
請求項７に記載した発明は、請求項２〜６のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記継手板は、予め、隣接する補強リング片のいずれか一方のフランジに回動可能にボルト止め、又はねじ止めされていることを特徴とする。
【００１８】
請求項８に記載した発明は、請求項１〜７のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする。
【００１９】
請求項９に記載した発明は、請求項１〜８のいずれか一に記載した鋼材の接合構造において、前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする。
【００２０】
請求項１０に記載した発明に係るナット保持部材は、ボルト孔のある鋼材をボルト接合する際に用いる、ナットを回り止め状態で保持するナット保持部材であって、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
ボルトを前記鋼材のボルト孔に通し、前記ボルトの先端を前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されることを特徴とする。
【００２１】
請求項１１に記載した発明は、請求項１０に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする。
【００２２】
請求項１２に記載した発明は、請求項１０又は１１に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする。
【００２３】
請求項１３に記載した発明は、請求項１０〜１２のいずれか一に記載したナット保持部材において、前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【００２４】
本発明に係る鋼材の接合構造及びナット保持部材によれば、以下の効果を奏する。
Ｉ）ナットを取り付ける部位に予め、ナットを納めたナット保持部材を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できることは勿論のこと、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、前記部位に予め、ナットを納めたナット保持部材を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができる。
II）ナット保持部材に形成するナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成し、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットが、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持する構成で実施している。よって、ナットに多少の遊びを持たせることで、ナットと締結するボルトがナットに対し、多少芯振れする状態で操作してナットのねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができるので、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
III）ナット嵌め込み部に設けた係止部を、弾性変形可能な形状、或いは材質で実施している。よって、ボルト接合作業の過程において、ナットにボルトをねじ込むと、同ねじ込み力によりナットが補強リング片のフランジ側へ寄り、係止部を押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルトのねじ込みを続けることで、ナットは補強リング片のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
IV）要するに、本発明に係る鋼材の接合構造及びナット保持部材は、上記構成のナット保持部材を用いることにより、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を行うことができるは勿論のこと、ボルトとナットの定着性を高め、強固な締結状態を恒久的に維持することができる。よって、施工後の点検、或いは補修が至難な部位、例えば、ライナープレートに配設する補強リング片の地山側の接合作業に好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２５】
【図１】実施例１に係る補強リング片（鋼材）の接合構造を示した立面図である。
【図２】実施例１に係る補強リング片の接合構造を示した平面図である。
【図３】図２の分解斜視図である。
【図４】Ａは、実施例１に係る補強リング片の接合構造に用いるナット保持部材を示した斜視図であり、Ｂは、同正面図である。
【図５】Ａ、Ｂは、ナット保持部材に納めたナットとボルトの接合状態を段階的に示した平断面図である。
【図６】Ａは、前記ナット保持部材の異なる実施例を示した側断面図であり、Ｂは、同平面図である。
【図７】Ａは、実施例１に係る補強リング片の接合構造を実施するにあたり、補強リング片の地山側のフランジの上半部の内側面にナット保持部材を取り付ける段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図８】Ａは、補強リング片の地山側のフランジの外側面に継手板を取り付ける段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図９】Ａは、補強リング片の地山側のフランジの上半部にボルトを接合する段階を示した正面図であり、Ｂは、同側面図である。
【図１０】実施例１に係る補強リング片の接合構造のバリエーションを示した立面図である。
【図１１】実施例１に係る補強リング片の接合構造のバリエーションを示した立面図である。
【図１２】実施例２に係る補強リング片の接合構造を示した立面図である。
【図１３】実施例２に係る補強リング片の接合構造を示した分解斜視図である。
【図１４】Ａは、実施例２に係る補強リング片の接合構造に用いるナット保持部材を示した斜視図であり、Ｂは、同正面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２６】
本発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材１、１同士の端部が、継手板２を介してボルト３で接合される鋼材１、１の接合構造であり、各鋼材１、１の端部の一側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置で、ナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、当該鋼材１の端部の反対側側面１ｂに、前記ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている（図１〜図３参照）。
前記ナット保持部材５は、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、前記ナット嵌め込み部５ａには、嵌め込まれたナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている（図４Ａ、Ｂ参照）。
各鋼材１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット保持部材５のナット４の位置を合わせて継手板２の外側からボルト３が挿入され、前記ナット保持部材５のナット４にねじ込み、同ねじ込み力により前記ナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に、前記ナット４が前記係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト３で接合される（図５Ａ、Ｂ参照）。
【００２７】
なお、本発明に係る鋼材の接合構造は、向き合わせた鋼材同士の端部を継手板を介してボルト接合する技術全般に適用できる。ナットを取り付ける部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できる効果がある。
また、本発明に係る鋼材の接合構造は、Ｈ形鋼、溝形鋼、山形鋼等の鋼材のフランジ部を利用して向き合わせた鋼材１、１同士の端部を接合する際、ライナープレート１０、コルゲートパイプ、或いは鋼管柱等をウエブ部に設置することで、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルト３とナット４の締結作業を行う場合に、特に好適である。前記部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができるからである。
【００２８】
なお、本発明に係るナット保持部材は、向き合わせた鋼材１、１同士の端部を継手板２を介してボルト接合する技術全般に適用できるだけでなく、管状の鋼材の内部のような閉鎖空間でのナット保持にも適宜形態を変えることで適用できる（例えば、本出願人が先に出願した特願２００９−１８８８４１参照）。
また、本発明に係るナット保持部材は、材料の節約のため適宜肉盗みされて実際される。この肉盗みは、ナット４を回り止め状態に保持するための強度を有する程度に実施できる。
【００２９】
以下、本発明に係る鋼材の接合構造、及び同接合構造に用いるナット保持部材の実施例を図面に基づいて説明する。ちなみに本実施例では、鋼材１として弧状の補強リング片１を採用し、補強リング片１をライナープレート１０の周方向のフランジ１０ａに沿って複数接合することで補強リングを形成する鋼材の接合構造について説明する。鋼材１として補強リング片１を採用した意義は、補強リング片１の接合作業を行うにあたり、作業員が目視で確認しづらく手探り状態で行なう作業が多々あり、本発明の作用効果が明解に表れるからである。
ただし、本発明に用いる鋼材は、補強リング片１に限らず、上記した管状の鋼材にも適用できるなど、多種・多様であることを予め申し上げておく。
【実施例１】
【００３０】
図１〜図９は、本発明に係る補強リング片１の接合構造の実施例１を示している。
この実施例１に係る接合構造は、図１〜図３に示したように、向き合わせた（突き合わせた）補強リング片１、１同士の端部が、継手板２を介してボルト４で接合される構造であり、各補強リング片１、１同士の端部の地山１３側へ配置したフランジの上半部の内側面１ａに、同端部に設けたボルト孔１１と一致する配置で、ナット４を納めたナット保持部材５が取り付けられ、前記フランジの外側面１ｂに、前記ボルト孔１１と一致するボルト孔１２を有する継手板２が配置されている。
前記ナット保持部材５は、図４Ａ、Ｂに示したように、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが設けられ、ナット嵌め込み部５ａには、嵌め込まれたナット４が抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部５ｂを備えている。
各補強リング片１、１と継手板２に設けたボルト孔１１、１２、及びナット保持部材５のナット４の位置を合わせて継手板２の外側からボルト３が挿入され、前記ナット保持部材５のナット４にねじ込み、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記ボルト３の頭部方向へ移動する際に、前記係止部５ｂを押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト３で接合されている。
ちなみに、図１〜図３中の符号２０は、補強リング片１のウエブ部にほぼ等間隔に設けたボルト孔を示している。このボルト孔２０は、補強リング片１をライナープレート１０の周方向フランジ１０ａとボルト２１で接合するために供される。
【００３１】
前記ナット４を納めたナット保持部材５は、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を余儀なくされる、補強リング１の地山１３側へ配置したフランジの上半部の内側面１ｂにのみ、予め取り付けて実施している。その他の補強リング１のフランジ部の接合作業は、作業員が目視で確認しつつ確実に支障なく行うことができるので、前記ナット保持部材５を用いることなく、ボルト３とナット４の締結作業を行う。なお、前記ボルト３とナット４の取り付け配置について、前記ナット保持部材５を用いずに締結する部位は図示例に限定されない。
【００３２】
前記補強リング片１は、フランジを地山１３側および坑内１４側に配置する形鋼（図示例ではＨ形鋼）を弧状に形成した鋼材で、ライナープレート１０の下端部の周方向フランジに沿う配置に複数個（通常、４個以上）向き合わせて接合し、補強リングを形成する。
ちなみに、図示例に係る補強リング片１のＨ形鋼の断面寸法は、１２５（高さ）×１２５（幅）×６．５（ウエブ厚）×９（フランジ厚）（単位：mm）で実施されている。
前記補強リング片１に用いる形鋼は、Ｈ形鋼に限定されず、溝形鋼１９ａ（図１０参照）、山形鋼１９ｂ（図１１参照）でも同様に実施できる。
前記補強リングは、図示の便宜上一部省略するが、１／４円弧状の補強リング片１を４個用い、隣接する補強リング片同士１、１の端部を互いに向き合わせてリング状に形成して実施している。なお、補強リングを構成する補強リング片１の使用個数、形状、及び断面寸法は図示例に限定されず、補強リング、ひいては構築するライナープレート１０の規模、及び形状（円形、小判形、矩形）に応じて適宜設計変更されるのは勿論である。
ちなみに、図示例では、隣接する補強リング片同士１、１の端部が当接するように互いに突き合わせて接合しているがこれに限定されず、誤差調整等のため、適宜隙間をあけて接合することもできる。
【００３３】
前記継手板２は、向き合わせた（突き合わせた）補強リング片同士１、１の端部の地山側のフランジと坑内側のフランジにそれぞれ配置される。
前記継手板２は、金属製であり、弧状に形成した補強リング片１のフランジの形状と一致する曲率に成形され、向き合わせた補強リング片同士１、１の端部に設けたボルト孔１１に継手板２に設けたボルト孔１２が一致するように、同端部にほぼ均等に跨る配置で取り付けられている。
図示例に係る継手板２の寸法は、１２５（高さ）×１２（厚さ）×３１０（幅）（単位：ｍｍ）で実施されている。
また、前記継手板２に設けたボルト孔１２は、補強リング片１、１側に設けたボルト孔１１と一致する個数と配置で実施されている。具体的に、図示例のボルト孔１２は、ボルト３の挿入を容易ならしめるべく、補強リング片１側に設けたボルト孔１１より若干大きい楕円形で、当該ボルト孔１１と同心配置に設けられている。
前記継手板２の形態、及び継手板２に設けたボルト孔１２の個数、配置は、もちろん図示例に限定されず、使用する補強リング片１の形態、及び補強リング片に設けたボルト孔１１の個数、配置に応じて適宜設計変更される。
【００３４】
前記ナット保持部材５は、ナットを納めることが可能な厚みを有する平板状に形成され、向き合わせる補強リング片１、１同士の端部の地山１３側へ配置されるフランジの上半部の内側面１ａにそれぞれ取り付けられている。
このナット保持部材５は、前記継手板２と同様に、弧状に形成した補強リング片１のフランジの形状と一致する曲率に成形され、補強リング片１の端部に設けたボルト孔１１に当該ナット保持部材５に納めたナット３が同心配置となるように取り付けられている。
前記ナット保持部材５を、補強リング片１に取り付ける手段として、この実施例１に係るナット保持部材５は、その上端部に、補強リング片１の地山側のフランジの上端に掛け止め可能な鉤状の掛け止め部６を左右に２箇所、バランスよく一体的に設けて実施している。この掛け止め部６は、多少の振動等が生じてもずり動かない程度の摩擦力、或いは弾性力でフランジに掛け止められる。なお、掛け止め部６の形態は図示例に限定されず、前記ナット保持部材５を安定した状態で補強リング片１へ掛け止め可能な形態であればよい。また、ナット保持部材５本体に外付けして取り付けるタイプでもよい。
ちなみに、ナット保持部材５は、大量生産に適し、安価で、且つ軽量に製造でき、取扱いが容易な、熱硬化性又は熱可塑性の合成樹脂、例えばフェノール樹脂やエポキシ樹脂、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等を原材料に用いて成形することができる。また、低・中発泡ないし高発泡のポリスチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等で成形して実施することもできるし、非発泡の合成樹脂製として実施することもできる。また、ナット保持部材５は金属を用いて実施することもできる。
【００３５】
前記ナット保持部材５には、前記ナット４が回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部５ａが、補強リング片１側に設けたボルト孔１１に対応する位置に、左右に２箇所、バランスよく設けられている。前記ナット嵌め込み部５ａは、嵌め込まれたナット５が抜け外れないように保持する係止部５ｂを備えている。
【００３６】
前記ナット嵌め込み部５ａは、ナット４（図示例では六角形）の外径よりも若干大きな六角形に形成され、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が、ナット嵌め込み部５ａの中で回らない程度に緩く保持されている。このように、前記ナット４に多少の遊びを持たせることで、当該ナット４と締結するボルト３がナット４に対し、多少芯振れする状態で操作して、ナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができ、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
前記係止部５ｂは、ナット保持部材５を補強リング片１に取り付ける際に、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が落下しないように、抜け外れを防止する効果がある。
ナット嵌め込み部５ａは、係止部５ｂの掛け留め効果により、補強リング片１に取り付ける作業中に嵌め込んだナット４が抜け外れることなく鉛直な姿勢を保ち、ボルト３との締結時に共回りをしない形状に形成する必要がある。そのため、本実施例に係るナット嵌め込み部５ａは、図５Ａ、Ｂに示したように、ナット３を位置決めするための段部７を備えた貫通孔を水平方向に形成して実施している。前記貫通孔は、ナット嵌め込み部５ａの入口から段部７までは六角形の筒状に形成し、段部７から出口までは、前記ボルト３の外径よりは大きい円筒形に形成されている。
なお、前記ナット嵌め込み部５ａを貫通形態に形成した理由は、使用材料量の減量化による製造原価の引き下げ、及び軽量化を図ることができるほか、一旦嵌め込んだナット４に不具合が生じた場合に、前記係止部５ｂを少し押しのけて、後方の貫通孔から作業員の手指で押すことにより楽に取り外せる利点があるからである。この点を考慮したナット保持部材５のバリエーションを図６に示す。この図６に係るナット保持部材１５は、前記貫通孔のほか、ナット４を嵌め込む位置から鉛直上方向へ貫通するナット挿入孔１５ａを設けている。このような形態で実施することにより、さらに製造原価の引き下げ、及び軽量化を図ることができるし、ナット４をスライドさせて楽に出し入れすることができる。
【００３７】
前記係止部５ｂは、ナット嵌め込み部５ａの入口から奥行き方向へ少し進んだ部位で、且つ六角形の一辺（図示例では縦辺）の中央部に、弾性変形可能な形状に成形した構成で設けられている。要するに、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込むナット４は、前記係止部５ｂを押しのけてナット嵌め込み部５ａ内へ挿入されると直ちに係止部５ｂが元の位置へ戻るので、ナット４が抜け外れることを防止することができる。
このような構成の係止部５ｂを備えたナット嵌め込み部５ａにナット４を嵌め込むと、ナット４は、前記段部７と係止部５ｂとに挟まれて鉛直な姿勢を保ち、ほぼ水平方向から挿入されるボルト３との位置合わせ（ねじ始端の探索ないし整合）を含めて的確に迅速にねじ込み作業を行うことができ、スムーズで良好なボルト接合作業を行うことができる。
また、ボルト接合作業の過程において、ボルト３をナット４にねじ込むと、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記補強リング片１のフランジ側へ寄り、前記係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット４は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
【００３８】
なお、前記ナット保持部材５のナット嵌め込み部５ａを、ナット４と共にワッシャーを納めることが可能な形状で実施することも勿論できる。この場合には、ナット４の外周面にワッシャーを密着させて嵌め込み、当該ワッシャーが抜け外れないように係止部５ｂで掛け止める構成で実施する。
【００３９】
次に、上記した補強リング片（鋼材）１の接合構造の施工手順を説明する。
この補強リング片１の接合構造は、先ず、図７Ａ、Ｂに示したように、補強リング片１をライナープレート１０に取り付ける前に予め、向き合わせて接合する２つの補強リング片１、１の端部のそれぞれに、前記ナット４を納めたナット保持部材５を、その上端部に設けた掛け止め部６を補強リング片１のフランジの上端に引っ掛けて取り付けると共に、当該フランジに設けたボルト孔１１と前記ナット保持部材５に嵌め込んだナット４の位置合わせを行う。
この作業は、地上、或いはライナープレート１０の坑内で行われる。
前記ナット保持部材５は、具体的に、各補強リング片１の端部の地山１３側へ配置するフランジの上半部の内側面１ａに取り付ける。
【００４０】
次に、図８Ａ、Ｂに示したように、ナット保持部材５を取り付けた２つの補強リング片１を、既設のライナープレート１０の下端部の周方向フランジ１０ａに沿って向き合わせて（突き合わせて）取り付ける。具体的には、各補強リング片１のナット保持部材５を設けた側のフランジを地山側に配置して、各補強リング片１のウエブに設けたボルト孔２０と前記周方向フランジ１０ａに設けたボルト孔１０ｂを一致させ、当該一致したボルト孔２０、１０ｂにボルト２１を通してナット２２をねじ込んで取り付ける。
前記ナット保持部材５は、その掛け止め部６が、多少の振動等が生じてもずり動かない構成で実施しているので、前記補強リング片１をライナープレートに取り付けるまでの間、前記フランジに設けたボルト孔１１と前記ナット保持部材５に嵌め込んだナット４の芯ずれは生じない。
このようにして、前記補強リング片１、１を向き合わせる位置決め作業を終えた後、補強リング片１、１の地山側のフランジの外側面に、継手板２を、補強リング片１、１にほぼ均等に跨り、且つ補強リング片１の地山側のフランジに設けたボルト孔１１と継手板２に設けたボルト孔１２がそれぞれ同心となる配置に位置決めする。
前記継手板２は、補強リング１をライナープレート１０に取り付ける前に予め、隣接する補強リング片１、１のいずれか一方のフランジにボルトなどで仮止めしておくと、位置決め作業を容易に進めることができる。
【００４１】
続いて、図９Ａ、Ｂに示したように、補強リング片の地山側のフランジの上半部のボルト締め作業を行う。
この部位のボルト締め作業は、ナット４が予めナット保持部材５により取り付けられているので、手探り状態での作業を余儀なくされる作業者は、ボルト３の操作のみでボルト締め作業を行うことができる。しかも、継手板２に設けたボルト孔１２を幅広の楕円形に形成しているので、ボルト３の先端部を補強リング片１のボルト孔１１へ案内しやすい。前記ボルト孔１２、１１を通過させたボルト３は、ナット４がナット保持部材５に共回りしない程度に緩く保持されているので、ナット４に対し、多少芯振れする状態で操作して、ナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができ、スムーズで良好なボルト接合作業を進められる。
また、ボルト接合作業の過程において、ナット４にボルト３をねじ込むと、図５Ａ、Ｂに段階的に示したように、同ねじ込み力により前記ナット４が前記補強リング片１のフランジ側へ寄り、前記係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット３は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。ナット保持部材５のナット嵌め込み部５ａ内に、前記ナット４と共にワッシャーを嵌め込んで実施する場合には、さらに強固なボルト締めを行うことができる。
【００４２】
ナット保持部材５に保持されたすべてのナット４にボルト３を強固にねじ込む作業を終えた後、地山側のフランジの下半部のボルト接合作業を行うと共に、坑内側のフランジの上半部及び下半部のボルト接合作業を行う。なお、地山側のボルト接合作業に着手する前に、坑内側のボルト接合作業を済ませておいてもよい。ちなみに、図９Ａ中の符号８は、ワッシャーを示している。
【００４３】
かくして、補強リング片１、１の両フランジに継手板２、２をボルト接合し、向き合わせた補強リング片１、１同士を接合する作業を、前記ライナープレート１０の周方向フランジに沿って、必要な数だけ繰り返し行うことにより、補強リングを形成することができる。補強リングを形成した後は、補強リング片１に取り付けておいた複数のボルト２１の一部を一旦取り外し、下側にライナープレート（図示省略）を配置した後、前記ボルト２１を再び取り付ける。
【００４４】
以上説明した鋼材（補強リング片）の接合構造及び同接合構造に用いるナット保持部材５によれば、ナット４を取り付ける部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことで、その分だけ接合作業の省力化を実現できることは勿論のこと、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルト３とナット４の締結作業を行う必要のある部位が生じる場合であっても、前記部位に予め、ナット４を納めたナット保持部材５を取り付けておくことにより、スムーズで良好なボルトとナットの接合作業を行うことができる。
また、前記ナット嵌め込み部５ａは、ナット４の外径よりも若干大きく形成し、ナット嵌め込み部５ａに嵌め込まれたナット４が、ナット嵌め込み部５ａの中で回らない程度に緩く保持する構成で実施しているので、ナット４に多少の遊びを持たせることで、ナット４と締結するボルト３がナット４に対し、多少芯振れする状態で操作してナット４のねじの始端を探し当て、ねじ込み操作を容易に進めることができるので、作業員が目視で確認しづらく手探り状態でボルトとナットの締結作業を行う場合であっても、スムーズで良好なボルト接合作業を進めることができる。
さらに、前記ナット嵌め込み部５ａに設けた係止部５ｂを、弾性変形可能な形状、或いは材質で実施することにより、ボルト接合作業の過程において、ナット４にボルト３をねじ込むと、同ねじ込み力により前記ナット４が補強リング片１のフランジ側へ寄り、係止部５ｂを押し広げて抜け外れ防止状態が解除され、そのままボルト３のねじ込みを続けることで、ナット３は補強リング片１のフランジに密着し、強固なボルト締めを行うことができる。
【実施例２】
【００４５】
図１２〜図１４は、本発明に係る補強リング片１の接合構造の実施例２を示している。
この実施例２は、上記実施例１と比して、ナット保持部材５の形態が主に相違する。補強リング片１、継手板２その他の構成部材は、上記実施例１と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
この実施例２に係るナット保持部材９は、上記実施例１に係るナット保持部材５が掛け止め式で実施しているのに対し、ねじ止め式で実施している点が相違する。前記ナット保持部材９は、ねじ止め部を形成するために、前記ナット保持部材５より横方向に長い平板状で実施している。
具体的に、前記ナット保持部材９は、その一端部に形成したボルト孔９ａを、補強リング片１の地山側のフランジの上半部に設けたボルト孔１６と一致させ、当該一致したボルト孔９ａ、１６にボルト１７を通し、ナット１８をねじ込むことにより、前記フランジの上半部の内側面１ａに取り付ける。この作業は、ライナープレート１０に補強リング片１を配設する前に行われる。
補強リング片１に前記ナット保持部材９を取り付けた後に行う、ライナープレート１０と補強リング片１との接合作業、及び向き合わせた補強リング片１、１と継手板２、２との接合作業は、上記実施例１と同様の要領で行う。
【００４６】
したがって、この実施例２に係る補強リング片１の接合構造は、上記実施例１と比して、ナット保持部材９（５）を補強リング片１に取り付ける手法のみが相違するので、上記実施例１と同様の作用効果を奏する（段落[００３９]参照）。
加えて、この実施例２に係るナット保持部材９の補強リング片１への固定はねじ込み式であり、上記実施例１に係るナット保持部材５のように掛け止め部６は無用となる。よって、補強リング片１の地山側のフランジと継手板２とを密着させてボルト接合できるので、上記実施例１と比して、より強固なボルト接合作業を行うことができる。
【００４７】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【００４８】
１ 補強リング片（鋼材）
１ａ 地山側フランジの内側面
１ｂ 地山側フランジの内側面
２ 継手板
３ ボルト
４ ナット
５ ナット保持部材
５ａ ナット嵌め込み部
５ｂ 係止部
６ 掛け止め部
７ 段部
８ ワッシャー
９ ナット保持部材
９ａ ボルト孔
１０ ライナープレート
１０ａ ボルト孔
１１ ボルト孔
１２ ボルト孔
１３ 地山
１４ 坑内
１５ ナット保持部材
１５ａ ナット通し孔
１６ ボルト孔
１７ ボルト
１８ ナット
１９ａ 補強リング片
１９ｂ 補強リング片
２０ ボルト孔
２１ ボルト
【特許請求の範囲】
【請求項１】
向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造であって、
各鋼材の端部の一側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で、ナットを納めたナット保持部材が取り付けられ、当該鋼材端部の反対側側面に、前記ボルト孔と一致するボルト孔を有する継手板が配置されていること、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
各鋼材と継手板に設けたボルト孔、及びナット保持部材のナットの位置を合わせて継手板の外側からボルトが挿入され、前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合されることを特徴とする、鋼材の接合構造。
【請求項２】
前記鋼材は、フランジをライナープレートの地山側および坑内側に配置する形鋼で成形した補強リング片であり、各補強リング片の地山側へ配置するフランジの端部の内側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で前記ナット保持部材が取り付けられており、当該ナット保持部材が取り付けられた各補強リング片が、そのフランジを地山側および坑内側へ配置するようにライナープレートに設けられ、隣接する補強リング片同士の端部が向き合わされ、前記継手板を介してボルト接合されて補強リングが形成されることを特徴とする、請求項１に記載した鋼材の接合構造。
【請求項３】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする、請求項１又は２に記載した鋼材の接合構造。
【請求項４】
前記補強リング片をなす形鋼はＨ形鋼であり、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側へ配置するフランジの上半部の内側面に取り付けられることを特徴とする、請求項２又は３に記載した鋼材の接合構造。
【請求項５】
前記ナット保持部材は、上端部に、前記補強リング片の地山側のフランジの上端に掛け止める掛け止め部が設けられていることを特徴とする、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項６】
前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側のフランジとボルト止め、又はねじ止めにより取り付けられることを特徴とする、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項７】
前記継手板は、予め、隣接する補強リング片のいずれか一方のフランジに回動可能にボルト止め、又はねじ止めされていることを特徴とする、請求項２〜６のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項８】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする、請求項１〜７のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項９】
前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする、請求項１〜８のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項１０】
ボルト孔のある鋼材をボルト接合する際に用いる、ナットを回り止め状態で保持するナット保持部材であって、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
ボルトを前記鋼材のボルト孔に通し、前記ボルトの先端を前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されることを特徴とする、ナット保持部材。
【請求項１１】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする、請求項１０に記載したナット保持部材。
【請求項１２】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする、請求項１０又は１１に記載したナット保持部材。
【請求項１３】
前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする、請求項１０〜１２のいずれか一に記載したナット保持部材。
【請求項１】
向き合わせた鋼材同士の端部が、継手板を介してボルト接合される鋼材の接合構造であって、
各鋼材の端部の一側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で、ナットを納めたナット保持部材が取り付けられ、当該鋼材端部の反対側側面に、前記ボルト孔と一致するボルト孔を有する継手板が配置されていること、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
各鋼材と継手板に設けたボルト孔、及びナット保持部材のナットの位置を合わせて継手板の外側からボルトが挿入され、前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されてボルト接合されることを特徴とする、鋼材の接合構造。
【請求項２】
前記鋼材は、フランジをライナープレートの地山側および坑内側に配置する形鋼で成形した補強リング片であり、各補強リング片の地山側へ配置するフランジの端部の内側面に、同端部に設けたボルト孔と一致する配置で前記ナット保持部材が取り付けられており、当該ナット保持部材が取り付けられた各補強リング片が、そのフランジを地山側および坑内側へ配置するようにライナープレートに設けられ、隣接する補強リング片同士の端部が向き合わされ、前記継手板を介してボルト接合されて補強リングが形成されることを特徴とする、請求項１に記載した鋼材の接合構造。
【請求項３】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする、請求項１又は２に記載した鋼材の接合構造。
【請求項４】
前記補強リング片をなす形鋼はＨ形鋼であり、前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側へ配置するフランジの上半部の内側面に取り付けられることを特徴とする、請求項２又は３に記載した鋼材の接合構造。
【請求項５】
前記ナット保持部材は、上端部に、前記補強リング片の地山側のフランジの上端に掛け止める掛け止め部が設けられていることを特徴とする、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項６】
前記ナット保持部材は、前記補強リング片の地山側のフランジとボルト止め、又はねじ止めにより取り付けられることを特徴とする、請求項２〜４のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項７】
前記継手板は、予め、隣接する補強リング片のいずれか一方のフランジに回動可能にボルト止め、又はねじ止めされていることを特徴とする、請求項２〜６のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項８】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする、請求項１〜７のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項９】
前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする、請求項１〜８のいずれか一に記載した鋼材の接合構造。
【請求項１０】
ボルト孔のある鋼材をボルト接合する際に用いる、ナットを回り止め状態で保持するナット保持部材であって、
前記ナット保持部材は、前記ナットが回り止め状態に嵌め込まれるナット嵌め込み部が設けられ、前記ナット嵌め込み部には、嵌め込まれたナットが抜け外れないように抜け外れ防止状態に保持する係止部を備えており、
ボルトを前記鋼材のボルト孔に通し、前記ボルトの先端を前記ナット保持部材のナットにねじ込み、同ねじ込み力により前記ナットが前記ボルトの頭部方向へ移動する際に、前記係止部を押し広げ、抜け外れ防止状態が解除されることを特徴とする、ナット保持部材。
【請求項１１】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部は、ナットの外径よりも若干大きく形成され、ナット嵌め込み部に嵌め込まれたナットは、ナット嵌め込み部の中で回らない程度に緩く保持されていることを特徴とする、請求項１０に記載したナット保持部材。
【請求項１２】
前記ナット保持部材のナット嵌め込み部には、ナットと共にワッシャーが納められていることを特徴とする、請求項１０又は１１に記載したナット保持部材。
【請求項１３】
前記ナット保持部材は樹脂製であることを特徴とする、請求項１０〜１２のいずれか一に記載したナット保持部材。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図１３】
【図１４】
【公開番号】特開２０１１−５２３８０（Ｐ２０１１−５２３８０Ａ）
【公開日】平成２３年３月１７日（２０１１．３．１７）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−１９９７８０（Ｐ２００９−１９９７８０）
【出願日】平成２１年８月３１日（２００９．８．３１）
【出願人】（０００００６８３９）日鐵住金建材株式会社 (371)
【公開日】平成２３年３月１７日（２０１１．３．１７）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年８月３１日（２００９．８．３１）
【出願人】（０００００６８３９）日鐵住金建材株式会社 (371)
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