説明

鋼構造物のモニタリング方法

【課題】犠牲試験片を鋼構造物の使用期間中に貼付し、当該犠牲試験片の亀裂長さを長期にわたって計測することで、鋼構造物の異常状態を検知することができる鋼構造物のモニタリング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】貼付工程1により、対象とする鋼構造物と犠牲試験片4の貼付部位に関する事前調査を実施し、事前調査に基づいて犠牲試験片4の貼付位置を決定し、決定された貼付位置に犠牲試験片4を貼付する。そして、亀裂長計測工程2により、犠牲試験片4の貼付状況を確認し定時に亀裂長さを計測する。そして、検知工程3により、鋼構造物が設置されてからの設置経過年数と犠牲試験片4の亀裂長さとの関係を示すデータから鋼構造物の異常状態を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁・天井クレーン等の繰り返し荷重がかかる鋼構造物に対して、鋼構造物の異常状態をモニタリングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の疲労を推定するために従来から利用される方法に、測定対象とする部位に歪みゲージを貼付して、その部位に発生する実際の応力を測定し、この応力条件における疲労をS−N線図などを利用して算出する方法がある。しかし、歪みゲージはゲージの劣化や電磁的ノイズの影響を受けるため長期的な計測には不向きである。また、疲労は数十年という長い期間での蓄積であるのに対して、当該方法では、わずかな期間から疲労を推定することになる。そのため、今後の荷重の変化や材料そのものの劣化などによる発生応力の増加などを考慮できず、危険側の評価となる可能性がある。また、変換器など精密な計測装置を用いなければならないので、一度に多数の部位について計測することは難しい。そのため、大型の鋼構造物等における強度や寿命を的確に把握することが難しい。
【0003】
さらに、鋼構造物の異常確認としては定期的な目視による点検が行われているが、点検対象鋼構造物が多いと亀裂発生の見落としの可能性もあって、十分に対応できるものではない。
【0004】
さらに、特許文献1には、FBG(ファイバブラック回折格子)を形成した光ファイバを用い、測定物の変形によって生じる光の波長の変化をひずみ量に換算することで被測定物のひずみを計測する貼り付け型光ファイバセンサが記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の貼り付け型光ファイバセンサを一つの鋼構造物に対して複数設置する場合、まず、貼り付け型光ファイバセンサを複数点に設け、光コネクタや融着等により接続される光接続点で各貼り付け型光ファイバセンサを一本の光ファイバコードあるいは光ファイバケーブルで直列接続する。そして、FBG用波長計測装置によって鋼構造物の複数点でのひずみを計測する。光ファイバケーブルは250μmと細いため折れやすく又、大きな曲率がとれないため設置が煩雑である。その結果、鋼構造物の疲労損傷の測定が大掛かりなものとなってしまう。
【0006】
さらに、特許文献2には、橋梁の疲労寿命診断方法が記載されている。この橋梁の疲労寿命診断方法は、橋梁の全体構造、詳細構造、活荷重載荷状態に基づいて繰返し応力を測定するための適切な部位を選定して疲労センサを一定期間(3〜6カ月程度)貼付し、所定期間後に各疲労センサにおける亀裂の進展長を計測して結果を記録する。そして、記録された亀裂進展長に基づき累積損傷則に従って各部位について損傷度を推定する。そして、損傷度から対象部位の実寿命を推定し経過期間を差し引いて余寿命を算定して、部位毎の余寿命同士を比較することにより各部位及び橋梁全体について実地の疲労寿命を評価する方法である。さらに、将来の橋梁の活荷重載荷状態を予測して被検出部材の疲労損傷度及び余寿命を補正することが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−296110号公報
【特許文献2】特開2006−337144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、6カ月程度という僅かな測定期間から橋梁の余寿命を算出する方法である。そのため、今後、被検出部材が受ける荷重が変化した場合や被検出部材の材質そのものの劣化などにより発生応力が変化した場合に伴う被検出部材の異常状態により、特許文献2に記載の方法を用いて算出した余寿命に誤差が生じることが考えられる。その結果、被検出部材に何らかの破損が生じてから、被検出部材を補修するといった危険側の評価となる虞がある。また、将来の橋梁の活荷重載荷状態を予測して被検出部材の疲労損傷度及び余寿命を補正することが記載されているが、あくまで予測であるため正確に余寿命を算出することは難しい。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、犠牲試験片を鋼構造物の使用期間中貼付し、当該犠牲試験片の亀裂長さを長期にわたって計測することで、鋼構造物の異常状態を検知することができる鋼構造物のモニタリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明は、橋梁・天井クレーン等の繰り返し荷重がかかる鋼構造物に対して、蓄積する疲労をモニタリングする方法に関するものである。そして、本発明に係る鋼構造物のモニタリング方法は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の鋼構造物のモニタリング方法は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0011】
前記課題を解決するための本発明に係る鋼構造物のモニタリング方法の第1の特徴は、繰り返し荷重が働く環境下で使用される鋼構造物のモニタリング方法であって、予め亀裂進展特性を把握している犠牲試験片を前記鋼構造物に貼り付ける貼付工程と、前記犠牲試験片に発生する亀裂の亀裂長さを定期的に且つ前記鋼構造物の使用期間中長期に計測する亀裂長計測工程と、前記鋼構造物が設置されてからの設置経過年数と前記亀裂長さとの関係を示すデータに基づいて、前記鋼構造物の劣化や前記鋼構造物が受ける荷重の変化に伴う前記鋼構造物の異常状態を検知する検知工程と、を備えることである。
【0012】
この構成によると、犠牲試験片を鋼構造物に貼付し、鋼構造物の使用期間中長期に犠牲試験片の亀裂長さを計測する。そして、鋼構造物に犠牲試験片を貼付してからの経過時間と犠牲試験片の亀裂長さとの関係を示すデータをモニタリングすることで、鋼構造物の劣化や鋼構造物が受ける荷重の変化に伴う鋼構造物の異常状態を検知することができる。その結果、鋼構造物の破損の危険度を事前に検知することができ、鋼構造物の補修の時期を従来の技術に増して正確に判断することができる。
【0013】
また、本発明に係る鋼構造物のモニタリング方法の第2の特徴は、前記犠牲試験片としては、前記犠牲試験片のS−N線図の傾きが溶接部のS−N線図の傾きと同じであり、また前記溶接部が受ける荷重が一定の場合に、前記犠牲試験片の前記亀裂長さによらず亀裂進展速度が一定である範囲を確認したものを用いることである。
【0014】
この構成によると、犠牲試験片として、溶接部が受ける荷重が一定の場合に、犠牲試験片の亀裂長さによらず亀裂進展速度が一定である範囲を確認したものを用い、犠牲試験片の亀裂進展速度をモニタリングすることで、溶接部が受ける荷重の変化を検知することができる。
【0015】
また、本発明に係る鋼構造物のモニタリング方法の第3の特徴は、鋼構造物のモニタリング方法を同時に多数の鋼構造物に実施することで、疲労破壊危険度の高い前記鋼構造物を抽出することである。
【0016】
この構成によると、鋼構造物のモニタリング方法を同時に多数の鋼構造物に実施し、疲労破壊危険度の高い鋼構造物を抽出することで、疲労破壊危険度の高い鋼構造物の点検の回数を増やすことや、疲労破壊危険度の高い鋼構造物から補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は本発明の実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法の手順を示すフロー図である。本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法は、橋梁・天井クレーン等の繰り返し荷重がかかる鋼構造物に対して、犠牲試験片4を鋼構造物の溶接部に貼付して亀裂長さを計測し、鋼構造物の異常状態をモニタリングする方法に関するものである。本実施形態で用いる犠牲試験片4としては、亀裂進展特性が既知のものを用いる。そして、鋼構造物が受ける応力(荷重)範囲が一定の場合に、犠牲試験片4の亀裂が進展する速度(応力の繰り返し1回あたり)が、亀裂長さによらず一定である犠牲試験片4(製造会社:川重テクノサービス株式会社)を用いた。これにより、犠牲試験片4の亀裂長さaから犠牲試験片4の疲労損傷度Dに比例換算可能である。
【0019】
(犠牲試験片)
ここで、本実施形態で使用する犠牲試験片4について説明する。図2はその犠牲試験片4を示した斜視図である。犠牲試験片4は、中央部を薄く形成した破断片41を基板44の上に固定したもので、破断片41の中央部が破断片41を横断する方向に凹部をもって薄く形成された疲労検出部42を構成し、破断片41の両側の固着部で基板44に固着されている。疲労検出部42には、最奥部に鋭端を有する適当長のスリット43が一側端から中心軸の方向に形成されている。基板44は、インバーなど熱膨張率の小さい金属からなる厚さが例えば0.05mm程度の薄い箔で構成されている。また、破断片41は、例えば、0.1mm程度の厚さを有し、純ニッケルなどメッキやエッジングによる形成が容易な金属で構成するのが好ましい。
【0020】
繰り返し応力を受ける鋼構造物に当該犠牲試験片4を貼付すると、犠牲試験片4のスリット43の最奥部は、先細状の鋭端に形成されているため、鋭端に応力集中が生じ、亀裂が進展し易くなっている。そのため、破断片41にわずかな歪みが伝達されても鋭端から容易に亀裂を発生させることができる。尚、亀裂発生後の亀裂長さは応力が同じであれば、応力の繰り返し回数に比例する。図3は、犠牲試験片4の亀裂進展特性を調べた例であるが、繰返し数と亀裂長さの関係は線形になっていることが確認できる。尚、図3に示すグラフは、異なる応力振幅Δσ1、Δσ2、Δσ3、Δσ4について調べたものであり、各応力振幅には「Δσ4>Δσ3>Δσ2>Δσ1」の関係が成立する。また、亀裂進展速度は繰返し応力が大きいほど高くなることも確認できる。
【0021】
また、破断片41は部材の亀裂進展特性と対応する材料を使って薄い箔状に形成してもよい。これにより、犠牲試験片4を部材溶接部に貼付した場合、破断片41の溝部において亀裂が進展するメカニズムは部材の溶接部において亀裂進展するときと変わらない。したがって、両者の亀裂進展の間には所定の関係かあり、応力範囲と繰り返し回数を対数スケールとして疲労寿命を表すS−N線図にしたときに、両者はほぼ平行線になる。また、本実施形態で使用する犠牲試験片4は、疲労検出部42の厚さとスリット43先端の曲率により犠牲試験片4のS−N曲線の傾きを部材溶接部のS−N線図の傾きと同じになるように調整することができるものであってもよい。
【0022】
犠牲試験片4を用いて鋼構造物のモニタリングを実施する場合の全体の流れは、図1に示す通り、貼付、亀裂長計測、検知の各工程の順になる。貼付工程1は、対象とする鋼構造物と犠牲試験片4の貼付部位に関する事前調査を実施し、事前調査に基づいて犠牲試験片4の貼付位置を決定し、決定された貼付位置に犠牲試験片4を貼付する工程である。亀裂長計測工程2は、犠牲試験片4の貼付状況を確認し定時に亀裂長さを計測する工程である。検知工程3は、犠牲試験片4が設置されてからの設置経過年数と犠牲試験片4の亀裂長さとの関係を示すデータから鋼構造物の異常状態を検知する工程である。
【0023】
以下、本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法について、さらに詳しく各工程を説明する。
【0024】
(貼付工程1)
貼付工程1では、貼付要領を十分理解した技術者が犠牲試験片4を指定の場所に貼付する。犠牲試験片4を貼付する場所としては、例えば、溶接構造物である天井クレーン(鋼構造物)の溶接部の中で、亀裂が生じると天井クレーン全体の崩壊を招く重要部位を数点抽出し、犠牲試験片4を当該溶接部近傍の公称応力部(応力集中の影響を受けない個所)に貼付する。貼付するにあたってはスポット溶接等を用いて剥離しない形とする。犠牲試験片4は、塗膜の除去、清掃、貼付、防護対策の順に、ひずみゲージとほぼ同じ要領で貼付することができる。貼付箇所には、検査路、高所作業車、足場などを利用してアクセスし、貼付作業や点検作業を行う。
【0025】
(亀裂長計測工程2)
亀裂長計測工程2は、所定の期間経過後から行われる。犠牲試験片4は、決められた期間ごとに作業者が状態を点検し亀裂長さを測定する。点検をする期間としては、例えば半年毎に行われる。また、犠牲試験片4の使用可能範囲、すなわち、犠牲試験片4のスリット43の鋭端に亀裂が発生してから亀裂が伸長し、やがて破断片41を横断する長さまで達し破断するまでの期間は例えば約10年間である。この場合は、亀裂長さの計測は、約10年間という長期なスパンで行われる。犠牲試験片4の使用可能範囲が満了したら、犠牲試験片4を交換することで亀裂長さの計測を再開する。尚、犠牲試験片4の使用可能範囲は、亀裂が犠牲試験片4を貫通する以前に、所定の亀裂長さとなるまでとしても良い。これにより、20年、30年、さらには何十年と長期にわたって亀裂長さを計測することができる。
【0026】
尚、当該犠牲試験片4は、最奥部に鋭端を有する適当長のスリット43を有しているため、亀裂発生期間が殆ど存在せず直ちにスリット43先端から亀裂が発生して横断方向に進展する。そのため、犠牲試験片4を交換してから犠牲試験片4に亀裂が発生する期間を殆ど考慮する必要がない。犠牲試験片4の亀裂長さの計測は、拡大鏡による方法、レプリカによる方法、CCDカメラによる方法などを使って測定される。尚、実際には、精度良く計測できかつ記録が残ることから、レプリカによる方法が好まれる。
【0027】
図4に示すように、計測した亀裂長さに基づいて、計測した亀裂長さを縦軸にとり、鋼構造物の設置経過年数を横軸にとったデータを得ることができる。尚、図4は鋼構造物が設置されてから30年後に犠牲試験片4を鋼構造物に貼付し、鋼構造物のモニタリングを開始したものである。
【0028】
(検知工程3)
検知工程3は、図4に示すデータに基づいて、鋼構造物の異常状態をモニタリングする。尚、本実施形態では、応力範囲が一定であれば亀裂長さは繰り返し回数に比例する犠牲試験片4を使用している。当該犠牲試験片4は、横断方向にスリット43のある破断片41に繰り返し応力を与え、その応力により亀裂発生時期に達するとスリット43の最奥部で亀裂が生じる。そして、亀裂はその後繰り返し応力を受けて伸長し、やがて破断片41を横断する長さまで達すると破断する。鋼構造物が受ける応力(荷重)範囲及び応力の繰り返し回数が一定であれば亀裂の進展期間における図4に示すグラフの傾き(亀裂進展速度)は一定になる。つまり、図4に示すひし形でプロットされたグラフになる(通常時)。
【0029】
しかし、鋼構造物を設置してから約40年経過した後に、鋼構造物が受ける応力(荷重)が増加すれば、亀裂長さは大きくなり図4に示すグラフの傾き(亀裂進展速度)は大きくなる。つまり、図4に示す四角でプロットされたグラフになる(異常時)。尚、鋼構造物が受ける応力が増加した場合としては、例えば天井クレーン(鋼構造物)の積載量が増加したことや天井クレーンの使用頻度が増えたことなどが考えられる。また、鋼構造物を設置してから約40年経過した後に、鋼構造物の溶接部に亀裂が発生した場合(鋼構造物の劣化)、応力の解放により亀裂長さは小さくなり図4に示すグラフの傾き(亀裂進展速度)は小さくなる。つまり、図4に示す三角でプロットされたグラフになる(異常時)。
【0030】
このように、犠牲試験片4の亀裂長さを定期的に計測し、当該亀裂長さと鋼構造物の設置経過年数との関係を示すデータを用いて鋼構造物をモニタリングすることで鋼構造物の異常状態を検知することができる。その結果、鋼構造物の溶接部の疲労破壊危険度を事前に予測することができ、鋼構造物の補修の時期を従来の技術に増して正確に判断することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法を、同時に多数の鋼構造物に対して実施してもよい。図5は、同時に多数の鋼構造物に対して本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法を実施した場合に、各鋼構造物に貼付した犠牲試験片4の亀裂長さと鋼構造物の設置経過年数の関係を示したグラフである。尚、図5は各鋼構造物が設置されてから30年後に犠牲試験片4を鋼構造物に貼付し、各鋼構造物のモニタリングを開始したものであり、10基の鋼構造物(鋼構造物10〜鋼構造物19)に対して実施したグラフである。また、各鋼構造物の部材の溶接継手の形式は同じである。
【0032】
図5に示すように、各鋼構造物が設置されてから30年経過した後に各鋼構造物のモニタリングを開始した。そして、各鋼構造物に対して、同じ時期に定期的に亀裂長さを計測した。図5から分かるように、ある同じ時期において、鋼構造物12に貼付された犠牲試験片4で計測した亀裂長さが、他の鋼構造物に貼付された犠牲試験片4で計測した亀裂長さよりも長いものであることが分かる。これにより、鋼構造物12には、他の鋼構造物よりも大きな応力を受けていることが考えられる。また、鋼構造物12が受ける応力の繰り返し回数が多いことも考えられる。このことから、各鋼構造物の中で最も鋼構造物12に疲労が蓄積していると考えられる。同様に、鋼構造物15に対しても同じことが言える。
【0033】
すなわち、鋼構造物12及び鋼構造物15の溶接部の疲労破壊危険度が高いと考えられる。このような考えに基づき、疲労破壊危険度の高い鋼構造物12及び鋼構造物15を抽出することで、鋼構造物12及び鋼構造物15を他の鋼構造物に比べ詳細に亀裂長さを計測することができる。また、鋼構造物12及び鋼構造物15の溶接部の点検を重点的に実施することもできる。その結果、疲労破壊危険度の高い鋼構造物から補修することができ、鋼構造物の破損による事故等を未然に防ぐことにつながる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法は、犠牲試験片4を鋼構造物に貼付し、鋼構造物の使用期間中長期に犠牲試験片4の亀裂長さを計測する。そして、鋼構造物に犠牲試験片4を貼付してからの経過時間と犠牲試験片4の亀裂長さとの関係を示すデータをモニタリングすることで、鋼構造物の溶接部に発生した亀裂による発生応力の変化や鋼構造物が受ける荷重の変化に伴う鋼構造物の異常状態を検知することができる。その結果、鋼構造物の疲労破壊危険度を事前に予測することができ、鋼構造物の補修の時期を従来の技術に増して正確に判断することができる。また、この方法を用いると、結線・計測器が不要であり、犠牲試験片4を鋼構造物に貼付し、当該犠牲試験片4の亀裂長さを計測するという簡易な方法で鋼構造物の異常状態を検知することができるため、同時に多数の鋼構造物や計測部位をモニタリングすることができる。
【0035】
また、犠牲試験片4として、犠牲試験片のS−N線図が溶接部のS−N線図と傾きが同じであるものを用いる。また、溶接部に働く荷重が一定の場合に、犠牲試験片4の亀裂長さによらず亀裂進展速度が一定である範囲を確認したものを用いる。これにより、犠牲試験片4の亀裂進展速度が変化した場合に、溶接部に亀裂が発生した場合や溶接部が受ける荷重の変化に伴う鋼構造物の異常状態を検知することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る鋼構造物のモニタリング方法を同時に多数の鋼構造物に対して実施することで、疲労破壊危険度の高い鋼構造物を抽出することができる。そのため、疲労破壊危険度の高い鋼構造物の点検の回数を増やすことや、疲労破壊危険度の高い鋼構造物から補修することができ、鋼構造物の破損による事故等を未然に防ぐことにつながる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】鋼構造物のモニタリング方法の手順を示すフロー図である。
【図2】犠牲試験片を示した斜視図である。
【図3】繰返し数と亀裂長さの関係を示したグラフである。
【図4】鋼構造物の溶接部に貼付された犠牲試験片の亀裂長さと鋼構造物が設置されてからの設置経過年数との関係を示したグラフである。
【図5】異なる場所に設置された各鋼構造物(鋼構造物10〜鋼構造物19)10基の溶接部に貼付された犠牲試験片の亀裂長さと鋼構造物が設置されてからの設置経過年数との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 貼付工程
2 亀裂長計測工程
3 検知工程
4 犠牲試験片
41 破断片
42 疲労検出部
43 スリット
44 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し荷重が働く環境下で使用される鋼構造物のモニタリング方法であって、
予め亀裂進展特性を把握している犠牲試験片を前記鋼構造物に貼り付ける貼付工程と、
前記犠牲試験片に発生する亀裂の亀裂長さを定期的に且つ前記鋼構造物の使用期間中長期に計測する亀裂長計測工程と、
前記鋼構造物が設置されてからの設置経過年数と前記亀裂長さとの関係を示すデータに基づいて、前記鋼構造物の劣化や前記鋼構造物が受ける荷重の変化に伴う前記鋼構造物の異常状態を検知する検知工程と、
を備えることを特徴とする鋼構造物のモニタリング方法。
【請求項2】
前記犠牲試験片としては、前記犠牲試験片のS−N線図の傾きが溶接部のS−N線図の傾きと同じであり、また前記溶接部が受ける荷重が一定の場合に、前記犠牲試験片の前記亀裂長さによらず亀裂進展速度が一定である範囲を確認したものを用いることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物のモニタリング方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋼構造物のモニタリング方法を同時に多数の鋼構造物に実施することで、疲労破壊危険度の高い前記鋼構造物を抽出することを特徴とする鋼構造物のモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−112942(P2010−112942A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95025(P2009−95025)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】