説明

鋼橋用の面外ガセット

【課題】簡単な構成によりスカラップ端部の疲労強度を向上させた鋼橋用の面外ガセットを提供すること。
【解決手段】鋼橋内において主板11に対して起立して溶接され、同じように主板11に対して起立して溶接された垂直補剛材13が交差することができるように、切り欠かれたスカラップ15を備えるものであり、スカラップ15は、その幅方向の中心位置に配置された垂直補剛材13から主板11に溶接されたスカラップ端部20の溶接止端までの幅bが35mmを超える値で設計された鋼橋用の面外ガセット12。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋内において鋼板に起立して溶接された面外ガセットに関し、特に溶接途中に垂直補剛材が通るスカラップを有する鋼橋用の面外ガセットに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼橋で用いられる継手の一つに面外ガセットがある。図10は、鋼橋内に設けられた面外ガセットを示した図である。この面外ガセット101は、主桁ウェブ102に対し直交方向に起立して溶接され、その面外ガセット101には、同じく主桁ウェブ102に起立して溶接された垂直補剛材103が中心位置を通っている。そのため面外ガセット101には、垂直補剛材103を避けるためのスカラップ110が形成されている。そして、その面外ガセット101には梁部材105が三方向から結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−107185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この面外ガセット101は、荷重を受けることにより、特に溶接箇所のうち応力が集中するスカラップ端部120や終始端部130に疲労亀裂が生じやすい。そのため、終始端部130には、応力集中を低減させるため円弧状に張り出したフィレット131が形成されている。しかし、小さい切り欠きのスカラップ110は、溶接のための作業空間が狭くなるため、張出部分となるフィレットをスカラップ端部120に形成することは困難であった。また、前記特許文献1には、スカラップを有する梁板にL型添接板をボルトにより締結する構造が開示されている。しかし、それでは構造が複雑になり、鋼橋内に複数存在するスカラップ110毎に構成したのでは、作業上の手間を要し、コストもかかることになる。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、簡単な構成によりスカラップ端部の疲労強度を向上させた鋼橋用の面外ガセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋼橋用の面外ガセットは、鋼橋内において主板に対して起立して溶接され、同じように前記主板に対して起立して溶接された垂直補剛材が交差することができるように、切り欠かれたスカラップを備えるものであり、前記スカラップは、その幅方向の中心位置に配置された前記垂直補剛材から前記主板に溶接されたスカラップ端部の溶接止端までの幅が35mmを超える値で設計されたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る鋼橋用の面外ガセットは、前記スカラップが、前記垂直補剛材から前記スカラップ端部の溶接止端までの幅が50mmまでの値で設計されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、面外ガセットのスカラップの幅が従来一般的に35mmで形成されていたのに対し、それよりも広い35mmを超える値で設計するようにしたため、面外ガセットのスカラップ端部の疲労強度を従来のものよりも向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】3次元FEM解析を行うに当たり対象とした試験体を示した図であり、面外ガセットを直交方向から見た図である。
【図2】3次元FEM解析を行うに当たり対象とした試験体を示した図であり、面外ガセットを水平方向から見た図である。
【図3】試験体の応力分布に影響を与えると考えられるパラメータを示した図である。
【図4】試験体の要素分割例を示した図である。
【図5】主板の板幅中心での応力分布をグラフにして示した図である。
【図6】解析ケースについて応力集中係数の最大値をグラフに示した図である。
【図7】主板の板厚方向の応力分布をグラフに示した図である。
【図8】疲労き裂進展寿命解析の結果を示した図である。
【図9】スカラップと主板の交点を原点にとったときの距離を示した図である。
【図10】鋼橋内に設けられた面外ガセットを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明に係る鋼橋用の面外ガセットについて、その実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。先ず、JSSC(社団法人日本鋼構造協会)の疲労設計指針では、その形状や仕上げの有無等によって面外ガセットの疲労強度をE〜G等級に区分しているが、スカラップの疲労強度については触れられていない。そこで、面外ガセットをE等級とする必要が生じた場合、始終端部130は、図10に示すようフィレット131を設けることでE等級を満足させることができる。
【0010】
しかし、スカラップ端部120は、前述したようにフィレットが形成できないため、完全溶け込み溶接により止端仕上げをすることが必要になる。しかし、そうした溶接による仕上げであってもE等級を満たすことは困難と考えられる。例えば、図10に示すスカラップ110のR部分111を80mmにし、そのモデル化したFEM解析及び疲労き裂進展寿命解析を実施した場合、スカラップ端部120の疲労強度が始終端部130と同程度であるとした結果が得られたとの発表がある。しかし、スカラップ形状等によっては疲労強度が異なることが予想されるため、R部分111の大きさの設定がスカラップ端部の疲労強度について有効なものではあるとはいえない。
【0011】
そこで、本願発明者は、スカラップ端部の疲労強度に影響を与える要因について、解析的に検討した。すなわち、スカラップ端部の応力状態を把握するために3次元FEM解析を行った。図1及び図2は、3次元FEM解析を行うに当たり対象とした試験体を示した図であり、図1は面外ガセットを直交方向から見た図であり、図2はその面外ガセットを水平方向から見た図である。試験体1は、主桁ウェブ102に相当する主板11に対して直交方向に起立した面外ガセット12が溶接され、その中央には主板11側に開いた山形の切り欠きによってスカラップ15が形成されている。更に主板11に対しては、直交方向に起立し、面外ガセット12とは交差するようにスカラップ15を通った垂直補剛材13が溶接されている。主板11、面外ガセット12及び垂直補剛材13は何れも長方形の鋼板である。
【0012】
こうした試験体1の応力分布に影響を与えると考えられるパラメータを図3に示した。twは主板11の板厚、hvはスカラップ15の高さ、tvは垂直補剛材13の板厚、bは垂直補剛材13の表面からスカラップ15の溶接止端までの幅、そしてrはスカラップ15のR部の曲率半径である。それぞれについて図3に示す数値を入れて解析を行った。図2に示す主板11は、縦寸法が300mmで、横寸法が1000mmの寸法である。面外ガセット12は、板厚が9mmであり、主板11に溶接される横寸法は600mmである。図4は、試験体1の要素分割例を示した図である。応力集中係数を算出するまわし溶接近傍の要素サイズは0.1mmである。また、対称性を考慮して1/4モデルとした。
【0013】
先ず図5は、主板11の板幅中心での応力分布をグラフにして示した図であり、横軸にスカラップ端部20からの距離をとり、縦軸に応力集中係数を示している。なお、スカラップ端部20からの距離xは、図9に示すように、スカラップ15と主板11の交点(スカラップ15の溶接止端)を原点にとったときの距離である。
【0014】
ここでは、図3に示すパラメータtw−tv−bの関係を、11−10−35の場合(ケース1)と11−10−50の場合(ケース2)について解析を行った(いずれも数値の単位はmm)。すなわち、垂直補剛材13の表面からスカラップ15の溶接止端までの幅bを異なる値にしている。解析結果は、応力集中係数の値がスカラップ15の溶接止端(原点)からの距離に従って変化し、図示するようにA〜Cの3箇所にピークが生じた。ピークAは面外ガセット12の終始端部21(図1参照)であり、ピークBはスカラップ端部20、すなわち原点であるスカラップ15の溶接止端である。そして、ピークCは垂直補剛材13の位置である。
【0015】
ピークBの値がピークAよりも大きいことから、スカラップ15の溶接止端(スカラップ端部20)の応力集中係数は、面外ガセット12の始終端部21における応力集中係数よりも大きいことが分かる。これは主板11が全体的には面外ガセット12のない側に面外変形するが、スカラップ15部分では、逆に面外ガセット12側に変形することが関係していると考えられる。また、ピークBにおいてケース1,2を比較してみると、垂直補剛材13の表面からスカラップ15の溶接止端までの幅bが大きいケース2が、応力集中係数が小さかった。すなわち、スカラップ15の幅が大きいものほど応力集中係数が小さくなり、bの値が十分広くなればスカラップ端部20は始終端部21の応力分布に近づくと予想される。なお、始終端部21については、スカラップ15の形状によらず、応力集中係数はほぼ一定であった。
【0016】
次に図6は、他の解析ケースについて応力集中係数の最大値をグラフに示した図である。この解析グラフは、横軸に垂直補剛材13の板厚tvをとり、縦軸にスカラップ端部20における応力集中係数をとったものであり、特に垂直補剛材13の板厚tvが10mm、15mm、25mmにおける応力集中係数の最大値を示している。そして、図3に示すパラメータtw−bの関係を、11−35の場合(ケース11)と11−50の場合(ケース12)、更に25−35の場合(ケース21)と25−50の場合(ケース22)について解析を行った(いずれも数値の単位はmm)。
【0017】
どのケースであっても垂直補剛材13の板厚が厚くなるに従ってスカラップ端部20における応力集中係数は増加した。これは、垂直補剛材13による主板11の拘束状態などが影響していると考えらえる。そして、主板11の板厚twに着目すると、この場合も11mmから25mmに板厚が厚くなることで主板11の剛性が高まり、スカラップ端部20における応力集中係数が大きくなる板厚効果が認められた。また、主板11の板厚twを同じにしたケース11,12そしてケース21,22のそれぞれでは、いずれも垂直補剛材13の表面からスカラップ15の溶接止端までの幅bが大きいケース12,22の方が応力集中係数が小さかった。
【0018】
次に、スカラップの応力集中係数の最大値が最も大きいケースと最も小さいケースについて、溶接止端部の止端半径(溶接仕上げによって形成される溶接部のR)を考慮したFEM解析を行った。止端半径を2mm(2R)と5mm(5R)とし、始終端部およびスカラップ端部ともにモデル化した。なお、2Rは溶接そのままの状態であり、5Rは溶接仕上げを想定している。図7は、主板11の板厚方向の応力分布をグラフに示した図である。そのグラフは、横軸に面外ガセット12を溶接した主板11表面から板厚方向の距離をとり、縦軸にはスカラップ端部20および始終端部21における応力集中係数をとったものである。
【0019】
そして、図7に示すパラメータtw−tv−bの関係を、11−10−50(いずれも数値の単位はmm)の場合における、スカラップ端部20の止端半径を5mm(5R)の場合(ケース31)と2mm(2R)の場合(ケース32)とし、始終端部21の止端半径を5mm(5R)の場合(ケース33)と2mm(2R)の場合(ケース34)とした。ここで、主板11の板厚tw、垂直補剛材13の板厚tvおよびスカラップ15の溶接止端までの幅bの値は、図5及び図6の結果から応力集中係数の値が小さくなる場合を選定した。
【0020】
ケース31と33、そしてケース32と34をそれぞれ比較した場合、止端半径が同じ場合には、スカラップ端部20と始終端部21における応力分布の差は認められなかった。一方、止端半径が2Rと5Rの場合では、主板11表面近傍において、スカラップ端部20の止端半径が2Rのケース32が最も応力集中係数が大きく、スカラップ端部20の止端半径が5Rのケース31との差が大きかった。
【0021】
以上のFEM解析の検討結果より、破壊力学の手法を用いた疲労き裂進展寿命解析を行った。解析は、溶接止端部の止端半径を考慮した2Rと5Rのケースで、スカラップ端部20と始終端部21について行った。設計曲線としては、疲労設計指針の最安全設計曲線を用い、応力拡大係数範囲ΔK(MPa√m)は、Fg.Fe.Fs.Ft.Δσ√(πa)で算出した。その際、き裂形状は半楕円と仮定し、板厚方向と板幅方向のき裂長の比は、1/3とした。また、主板11の板厚方向の初期き裂長を0.1mm、限界き裂長を主板11の板厚×0.8とした。
【0022】
ここで図8は、疲労き裂進展寿命解析の結果を示した図であり、それぞれのケースについて200万回疲労強度を求めたものである。横軸には止端半径をとり、縦軸には200万回疲労強度をとっている。疲労き裂進展寿命は、溶接部に入った疲労亀裂が所定の応力が繰り返し作用した場合に、破断するまでの繰り返し回数を計算したものあるが、ここで縦軸に示した200万回疲労強度は、所定応力が200万回繰り返し作用した場合に破断する当該所定応力を求めた値である。そこで、この解析結果からは止端半径が大きいほど強度は大きいことが分かる。また、主板11の板厚twや垂直補剛材13の板厚tvはその板厚が薄く、スカラップ15の溶接止端までの幅bが大きいほうが強度は大きかった。
【0023】
よって以上のことから、面外ガセット12のスカラップ15の応力集中係数は、垂直補剛材13からスカラップ端部20の溶接止端までの幅bを大きくすることで低くすることができることが分かった。従来における面外ガセットのスカラップは、幅bの値が一般的に35mmで形成されていた。本実施形態では、そうした従来のスカラップよりも幅bの寸法が広く形成され、35mmを超える値で設計される。また、幅bの値が大きすぎる場合にはスカラップ端部20から始終端部21までの距離が短くなり、面外ガセット12の溶接幅が小さくなるため、幅bの値を50mmまでとした。これにより、本実施形態の面外ガセットは、そのスカラップ端部の疲労強度を従来の面外ガセットよりも向上させることが可能になる。
【0024】
以上、本発明に係る鋼橋用の面外ガセットについて一例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、主板11を図10に示す主桁ウェブ102に相当するものとして説明したが、面外ガセットが溶接される対象であれば主桁ウェブに限るものではない。
【符号の説明】
【0025】
1 試験体
11 主板
12 面外ガセット
13 垂直補剛材
15 スカラップ
20 スカラップ端部
21 始終端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼橋内において主板に対して起立して溶接され、同じように前記主板に対して起立して溶接された垂直補剛材が交差することができるように、切り欠かれたスカラップを備える鋼橋用の面外ガセットにおいて、
前記スカラップは、その幅方向の中心位置に配置された前記垂直補剛材から前記主板に溶接されたスカラップ端部の溶接止端までの幅が35mmを超える値で設計されたものであることを特徴とする鋼橋用の面外ガセット。
【請求項2】
請求項1に記載する鋼橋用の面外ガセットにおいて、
前記スカラップは、前記垂直補剛材から前記スカラップ端部の溶接止端までの幅が50mmまでの値で設計されたものであることを特徴とする鋼橋用の面外ガセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−158883(P2012−158883A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17987(P2011−17987)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所:社団法人土木学会、刊行物名:土木学会 第65回年次学術講演会講演概要集、発行年月日:平成22年8月5日
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】