説明

鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。

【課題】アンカー孔の外から簡単に古い鋼線を除去して、新たな鋼線を挿入して定着することができる装置を提供する。
【解決手段】鋼線の地中側の端末を収納する定着外筒の内部に支持部材を設け、この支持部材にはクサビによる鋼線把持機構を設ける。鋼線に孔底側への加圧力を作用させ、その後に鋼線に回転を与える。その結果、ピンを介して支持部材を孔底側外筒に係合し、クサビ片群による鋼線の把持力を解除する。古い鋼線の除去と、新たな鋼線の設置を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久アンカーは膨大な個所で使用されているが、鋼線は必ずしも永久ではなく、特にアンカー孔の出口の位置で鋼線がさびたり腐食する可能性が考えられる。
しかし従来の永久アンカーの構造では、そのような場合に永久アンカーを補修するという思想は特許文献1記載の発明程度であり、ほとんど存在しなかった。
除去アンカーは各種の構造が開発されているが、鋼線を除去することが目的であり、除去後に新たな鋼線を設置するような思想もほとんど存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−268766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した特許文献1記載の発明は、図13に示すように次のような工法であった。
すなわちアンカーケーブルaに荷重を加え、定着クサビをアンカーヘッドから離間させてアンカーケーブルaから取り外す。この後、除荷用クサビとアンカーヘッドとの間にシャッターbを挿入する。そして、ジャッキによるアンカーケーブルaに対する荷重を除去し、除荷用クサビの先端をシャッターbに当接させ、除荷用クサビをアンカーケーブルaから取り外す、という構成である。
なお図中、cはジャッキチェア、dは開口部、eはカプラーである。
このような工程の結果、アンカーケーブルの緊張力を除去できるので、アンカーの各部のメンテナンスが可能となる、という多数の工程を要するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具は、削孔した孔の内部に挿入するアンカー鋼線の定着具であって、鋼線の地中側の端末を収納する定着外筒を備え、この外筒の内面には、孔の孔底側に向けて内径の拡大するクサビ台を形成し、外筒の内部には、複数枚に分割したクサビ片と、クサビ片群を孔の孔底側で支持しており、かつ放射方向に突出したピンを備えた支持部材を収納し、外筒内には前記のピンの孔口側への移動を拘束することが可能な係合機構を設置して構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具は以上説明したようになるから次のような効果の少なくともひとつを得ることができる。
<1>従来のように複雑な工程や特殊な部材を必要とせず、アンカー孔の外から簡単に古い鋼線を除去して、新たな鋼線を挿入して定着することができる。
<2>このように、地中のアンカー本体は残したまま、老朽化した鋼線だけをいつでも新らしい鋼線に交換できるから、新たなアンカーを打設する工法と比較してきわめて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具の把持機構と係合機構の実施例の一部を切断した状態の説明図。
【図2】支持部材とクサビ片の構造の説明図。
【図3】支持部材と鋼線の関係の説明図。
【図4】定着具で鋼線を把持した状態の断面図。
【図5】支持部材の回転中の説明図。
【図6】鋼線を引き抜いた状態の説明図。
【図7】他の実施例1の要部の分解説明図。
【図8】その実施例の鋼線把持状態の説明図。
【図9】その実施例の鋼線開放状態の説明図。
【図10】他の実施例2の要部の説明図。
【図11】その実施例の鋼線把持状態と開放状態の説明図。
【図12】外筒と定着具の説明図。
【図13】従来のアンカーの再生構造の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>定着外筒。
本発明の定着具は、削孔した孔の内部に挿入してアンカー鋼線の端末を地中に定着する定着具である。
そして、鋼線の地中側の端末を収納する定着外筒1を備えている。
外筒1は、一方を開放した筒体であり、その内壁には把持機構と、係合機構を設ける。
実際には外筒1は孔口側に配置する孔口側外筒1Aと、孔の孔底側に配置する孔底側外筒1Bとに分割する。そして両方の外筒はネジで分割、一体化が可能であるように構成する。
したがって、孔口側外筒1Aは両端を開放した円筒状として、孔底側外筒1Bは一端を閉塞したコップ状の筒体として形成する。
【0010】
<2>鋼線の把持機構。
孔口側外筒1Aの内部には、把持機構2を設け、この把持機構2によって、鋼線を周囲から把持する。
把持機構2として例えばクサビ機構を設ける。
そのために孔口側外筒1Aの内面壁は、孔の孔底側に向けて内径の拡大するクサビ台2Bを形成する。
したがって孔口側外筒1Aの内面は孔の孔底側に向けて内径の拡大する、ラッパ状の斜面として形成される。
一方、孔口側外筒1Aの内部には、円筒をその中心線に並行に、複数枚に分割したクサビ片2Aを収納する。
このクサビ片2Aは、円弧状の板体であり、その内側面は円筒の中心軸に対して並行の曲面を形成し、その外側面は孔口側に向けて外径の縮小する形状に形成する。
そして、クサビ片2Aの外側面と、クサビ台2Bの斜面とは面として接触するような角度に形成する。
そのために、複数のクサビ片2Aが孔底側に位置する場合にはクサビ片2A間の間隔が広がっており、クサビ片2Aを孔口側へ押し出した時には、クサビ片2Aはクサビ台2Bの斜面をスライドしつつその間隔が狭まって、最終的に内側面がほぼひとつの円筒を形成するように構成する。
【0011】
<3>支持部材。
孔底側外筒1Bの内部には、クサビ片2A群を孔の孔底側で支持する支持部材3を収納する。
この支持部材3は、孔底側外筒1Bの内壁に沿ってその内部を摺動可能な円柱体であり、支持部材3には押し出しバネ31によって孔口側への押し出し力を与えておく。
さらに図2、3に示すように、支持部材3の孔口側にはクサビ片係止溝32を凹設する。
一方、クサビ片2Aの孔底側には係止棚33を形成し、この係止棚33を支持部材3の係止溝32に係合できるように構成する。
さらに図3に示すように、この支持部材3のアンカー孔口側の端面には4キー溝36を刻設する。
このキー溝36は、底面を有する、深さの浅いへこみである。
その外形は、アンカー鋼線の外形を多少大きくした相似形であって、壁面に凹凸を有する非円形に形成する。
そのために、キー溝36内には孔口側からアンカー鋼材を一定の深さだけ挿入することができる。
さらにキー溝36の外形は円形ではないから、挿入した鋼線に回転力を与えれば、その力によって支持部材3を外筒1B内で一定の角度だけ回転させることができる。
【0012】
<4>係合機構。
支持部材3は、係合機構を介して、孔底側外筒1Bと係合可能である。
係合機構として例えば支持部材3から、孔底側外筒1Bの内壁に向けて突出する弾力を与えた係合ピン34によって構成する。
係合ピン34を支持部材3の中心から放射方向に突設させるために、支持部材3には内壁に向けた収納穴を形成し、収納穴にはピン34とばねを収納する。
一方、孔底側外筒1Bの内壁には、ピン係合溝35を刻設する。
このピン係合溝35は円環状の溝であるが、深さは一定ではなく、深さゼロの位置から、深さが最も深い最深部に至るように徐々に深さが異なるように形成してある。
このピン係合溝35の位置に、係合ピン34が位置している。
そのために支持部材3を回転することによって、係合ピン34は、深さがゼロの位置から、最深部まで徐々に移動させることができる。
ピン係合溝35の幅は、係合ピン34の直径よりも多少大きく形成しておき、係合ピン34がアンカー孔の軸方向に多少の距離だけ移動が可能であるように形成する。
【0013】
<5>定着時の構成。(図4)
孔口側外筒1Aと、孔底側外筒1Bとを分離し、鋼線4の地中側の端末を円筒状の孔口側外筒1Aの内部を通して孔底側外筒1Bの内部に挿入する。
鋼線4が、周囲に注入するモルタルで固着されることがないように、その周囲は合成樹脂被覆41で被覆しておき、その端末部分だけに鋼線4を露出しておく。
ただし、後述するように鋼線4の引き抜き時にも引き抜きの抵抗がほとんどないから、従来のように鋼線4と周囲の被覆41との間に油脂を介在させる必要がない。
孔底側外筒1B内に、支持部材3を、押し出しバネ31を加圧しながら挿入してセットする。
その際に、支持部材3の係合ピン34は、ピン係合溝35の深さがゼロの位置に当たるようにセットしておく。
次いで、露出させた鋼線4の孔底側の端末を、クサビ片2A群で囲まれた空間を通して、支持部材3のキー溝36の底に当接する位置まで挿入する。
次に両外筒1A、1Bを一体化するためにネジを介して外筒を回転させると、クサビ台2Bが孔底側へ移動し、分割して配置してあったクサビ片2A群を絞ることになり、鋼線4はクサビ片2A群によって周囲から締め付けられて把持されて定着される。
その状態では、支持部材3が押し出しバネ31で孔底側から加圧されるから、係合ピン34はピン係合溝35の深さゼロの位置で、かつ孔口側に位置する。
外筒を定着した鋼線4には、別に用意した耐荷体を取り付け、削孔した孔内に挿入し、モルタルを注入して定着し、その後孔外からジャッキで鋼線4に引張力を与えて緊張するが、このアンカー設置工程は従来公知の各種の方法を採用することができる。
【0014】
<6>クサビの開放。
鋼線4の腐食、その他の原因で鋼線4を地中から除去する場合について説明する。
除去のためにまず鋼線4を孔外から孔底側へ押し戻す。
支持部材3を加圧している押し出しバネ31の弾性を、この押し戻し力よりも小さく設定しておけば、支持部材3は簡単に孔底側へスライドする。
すると支持部材3と、係合機構によって支持部材3に取り付けてあるクサビ片2Aも孔底側へスライドする。
そのためにクサビ片2Aと、クサビ台2Bの間隔が開き、クサビ辺群には鋼線4を把持している把持力が消滅し、鋼線4は定着から開放される。
しかしこの状態では、鋼線4を孔口側へ引き出すと、支持部材3に取り付けたクサビ片2Aも孔口側へ再度スライドするから、鋼線4は再びクサビで拘束されてしまう。
【0015】
<7>支持部材の回転。(図5)
そのために、孔外において、鋼線4に回転力を与える。
すると、キー溝36を介した回転力で支持部材3が回転する。
支持部材3の回転によって、支持部材3に収納してある係合ピン34は溝底に沿ってピン係合溝35内を移動し、徐々に深い位置に移動する。
【0016】
<8>係合ピンの係合。(図6)
やがてピン係合溝35の軌跡上を回転していた係合ピン34がピン係合溝35の最深部に至る。
その状態で鋼線4を孔口側に引き出す。
すると、支持部材3には孔底側への加圧力がなくなるが、係合ピン34がピン係合溝35の孔口側に係合しているので、支持部材3と一体のクサビ片2Aは以前の位置まで復帰することが不可能となる。
その結果、鋼線4はクサビ片2Aの把持力から開放された状態を維持することができる。
したがって、鋼線4は孔外から人力によって容易に引き出すことが可能となる。
こうして地中からの古い鋼線4の除去が完了する。
【0017】
<9>新たな鋼線の挿入。
古い鋼線4を除去したら、新たな鋼線4を挿入する。
その鋼線4の孔底側の端を、支持部材3のキー溝36内に挿入して、回転を与える。
すると支持部材3の係合ピン34はピン係合溝35に沿って移動し、やがて深さがゼロの位置に至ると、孔口側への移動が可能となる。
すると支持部材3が孔口側へ移動し、一体であるクサビ片2Aも孔口側へ移動し、新たな鋼線4を周囲から強固に把持する。
こうして、新たな鋼線4を、孔内に残した外筒に定着して、アンカーを再生することができる。
【他の実施例1】
【0018】
<1>係合筒を設ける構造(図7)
係合機構として係合筒5を設ける構造である。
すなわち図7〜9に示すように、孔底側外筒1Bの底部に、孔口側に向けた係合筒5を設ける。
この係合筒5は、孔口側を開放した筒体であり、その内径は、支持部材3の孔底側の先端に位置する円柱37の外径より多少大きい。
係合筒5の側面には中心軸と平行に挿入スリット52を形成する。
この挿入スリット52の幅は、円柱37の側面から突設させた係合ピン34が通過できる幅に設定する。
この挿入スリット52の孔底側には、円周方向に切れ込んだピン係止溝51を形成する。
このピン係止溝51の幅も、係合ピン34が通過できる幅に設定する。
【0019】
<2>支持部材の係合。
支持部材3は、前記の実施例と同様に、その孔口側の面には鋼線4を挿入できるキー溝36を刻設してある。
このキー溝36に鋼線4を挿入して孔底側に押し付けると、支持部材3は押し出しバネ31を押して孔底側に移動し、円柱37から突設した係合ピン34は挿入スリット52内に挿入される。
支持部材3の孔底側への移動によって、クサビの鋼線4に対する拘束力を開放する工程は前記の実施例と同様である。
その後に、孔外において鋼線4を一定角度だけ回転すると、その回転力はキー溝36を介して支持部材3の回転となり、係合ピン34は、係合筒5の円周方向に開口したピン係止溝51に入る。
そのために係合ピン34と、それと一体の支持部材3、クサビ片2Aは孔口側へ戻ることが不可能となる。
したがって、クサビの鋼線4に対する拘束力が開放された状態を維持することができ、鋼線4だけを引き抜くことができる。
【0020】
<3>新鋼線の挿入。
古い鋼線4を引き抜いた後に、新たな鋼線4をアンカー孔に挿入する。
この新たな鋼線4の先端をキー溝36に挿入して、孔外から前記と反対方向に回転を与えれば、係合ピン34は、係合筒5の軸方向と平行に開設した挿入スリット52の位置に戻り、押し出しバネ31の弾力によって孔口側へ押し戻される。
その結果、支持部材3が孔口側へ戻り、クサビ片2Aはクサビ台2Bに密着して内径を収縮し、鋼線4を周囲から強固に把持する。
こうして、古い鋼線4の撤去と、新たな鋼線4の挿入、把持ができ、鋼線4の交換が完了する。
【他の実施例2】
【0021】
<1>複数本の鋼線のねじれ。
鋼線4を複数本設置する場合に、これらがよじれてしまい、それがダンゴになって、除去式アンカーにおいて鋼線4の引抜きが不可能となるという現象が発生している。
その原因は、鋼線4を設置した後に、孔壁を保持するケーシング引抜く工程があるが、ケーシングを回転させながら引抜くため、その回転で複数の鋼線4が供回りしてねじれるものであった。
本実施例は、前記の実施例と同様に鋼線4の交換が可能であるとともに、複数本の鋼線4を、ねじれることなく設置できる構造を提供する。
【0022】
<2>窓付き板。
この実施例でも同様に支持部材3と孔底側外筒1Bとを係合する係合機構を設ける。
この係合機構としては、前記の他の実施例1の係合筒5を複数本設置することも可能であるが、係合筒5に代えて、窓付き板6を使用する例を説明する。
この窓付き板6は複数個所に窓61を開口した板体であり、孔底側外筒1Bの孔底側に、孔底と多少の距離を離した状態で、筒の中心軸と直交する方向に向けて設置する。
窓付き板6の窓61は、図10に示すように中央に円形の穴を開口し、その両側に矩形の穴を開口した形状を呈する。
中央の円形穴の直径は、支持部材3の円柱37の外径より多少大きい内寸法で開口する。
矩形の穴は、係合ピン34の外径より多少大きい内寸法で開口する。
【0023】
<3>係合ピンの係合。
窓付き板6の窓61の矩形部分と係合ピン34の位置を一致させて孔底側に押し出せば、支持部材3の円柱38の先端を、窓付き板6の孔底側に突出させることができる。
その状態で支持部材3を回転すると、窓付き板6の孔底側に突出した係合ピン34が窓61周囲の窓枠62に係合し、窓61から抜け出すことが不可能となる。
支持部材3を反対方向に回転して、係合ピン34の位置を窓61の矩形部分と一致させれば再度、支持部材3を窓61から引きぬくことができる。
上記の構成の定着機構を複数平行に並べ、各機構ごとに窓61を開口して対応させ、これを一体としてひとつの孔底側外筒1Bの内部に設置する。
【0024】
<4>収納筒
上記の孔底側外筒1Bをそのまま地中に設置するのではなく、さらに収納筒c内に収納する。
この収納筒cは孔底側は閉塞しており、孔口側を開放した筒体である。
この収納筒cの内部の内径は、孔底側外筒1Bの外径とほぼ等しい内径を備えている。
そして、孔底側外筒1Bの孔底側の中心には中心ピンを突設しておき、この中心ピンを収納筒cの孔底側の底面の中央に凹設したピン穴c1に回転自在に挿入する。
さらに孔底側外筒1Bの外周面に、円周方向にわずかの高さの帯体を突設しておくこともできる。
すると孔底側外筒1Bは、先端の中心ピンでか、あるいはピンと外周の帯体だけで収納筒cの内周面に接していることになる。
【0025】
<5>鋼線のねじれの吸収。
複数本の鋼線4を用いるアンカーを設置する際には、各鋼線4に応じた複数の定着装置を収納筒c内に収納する。
そしてこの、複数の定着装置を収納した収納筒cをアンカー孔の内に設置する。
その後に、掘削時に使用したケーシングを、それに回転を与えながら引抜いてゆく。
その際に、複数本の鋼線4が供回りして相互によじれたりねじれる問題は前記した。
しかし本願発明の構造であると、孔底の壁面に接触している収納筒cは回転しないが、その内部の複数の孔底側外筒1Bは、位置関係を維持したまま、収納筒cの内部で自由に回転できる。
したがって複数本の鋼線4はその位置関係を維持したまま孔底側外筒1Bと一体となって収納筒c内で回転する。
そのために鋼線4が相互によじれたりねじれることがなく、設置状態を維持したまま、地中に設置することができる。
【0026】
<6>古い鋼線の引出。
鋼線4が古くなった場合には孔外から各鋼線4を孔底側に押し込んで、クサビ片2Aとクサビ台2Bを離して、鋼線4の把持力を解除する。
鋼線4を孔底側に押し込むと、先端の円柱37と係合ピン34が窓61を通過して窓付き板6の孔底側に露出する。
その状態で孔外から鋼線4に回転を与えると、係合ピン34が窓付き板6の孔底側の窓枠62に係合して、支持部材3が孔口側に戻ることができなくなる。
支持部材3が孔口側に戻らないということは、クサビ片2Aとクサビ台2Bが離れている状態が維持されることを意味するから、把持力を受けない鋼線4は容易に孔外に引き出して撤去することができる。
【0027】
<7>新たな鋼線の挿入。
古い鋼線4を撤去した後、孔外から新たな鋼線4を挿入する。
その鋼線4の先端を支持部材3の孔口側の非円形のキー溝36に挿入して回転を与えて係合ピン34の位置と窓61の矩形部とを一致させる。
その状態で鋼線4を孔口側に引き出せば、係合ピン34と円柱37を、窓61を通過させて窓付き板6の孔口側に引き出すことができる。
するとクサビ片2Aはクサビ台2Bに接触して内径を収縮し、新たな鋼線4を周囲から把持して定着することができる。
こうして、古い鋼線4の撤去と、新たな鋼線4の挿入ができ、鋼線4の交換が完了する。
【符号の説明】
【0028】
1:外筒
2:把持機構
3:支持部材
34:係合ピン
35:ピン係合溝
36:キー溝
4:鋼線
5:係合筒
51:挿入スリット
52:ピン係止溝
2A:クサビ片
2B:クサビ台
6:窓付き板
61:窓
c:収納筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔した孔の内部に挿入するアンカー鋼線の定着具であって、
鋼線の地中側の端末を収納する定着外筒を備え、
この外筒の内面には、孔の孔底側に向けて内径の拡大するクサビ台を形成し、
外筒の内部には、複数枚に分割したクサビ片と、クサビ片群を孔の孔底側で支持しており、
かつ放射方向に突出したピンを備えた支持部材を収納し、
外筒内には前記のピンの孔口側への移動を拘束することが可能な係合機構を設置して構成した、
鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。
【請求項2】
請求項1の係合機構として、
孔底側外筒の内面に、徐々に溝の深さがゼロから徐々に深くなるピン係合溝を円周方向に刻設し、
支持部材から放射方向に突出するピンを係合溝の軌跡上に位置させ、
孔外から鋼線で加圧して支持部材を孔の孔底側へ押し戻し、その後に鋼線に回転を与えることで、支持部材を回転して前記のピンを係合溝の最深部に位置させて、
外筒内面の係合溝と、支持部材が係合するように構成した、
鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。
【請求項3】
請求項1の係合機構として、
孔底側外筒の底面から孔口方向へ向けて開放した係合筒を設け、
この係合筒には筒の軸方向に平行な溝である挿入スリットを形成し、
この挿入スリットの孔底側には、筒の円周方向に形成した係止溝を形成し、
孔外から鋼線で加圧して支持部材を孔の孔底側へ押し戻し、その後に鋼線に回転を与えることで、支持部材を回転して前記のピンをピン係止溝に係合させて、
外筒内面の係合筒と、支持部材が係合するように構成した、
鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。
【請求項4】
請求項1の係合機構として、
孔底側外筒の内部に、筒の中心軸を横断する方向に窓付き板を設け、
この窓付き板には、支持部材の円柱と、円柱から放射方向に突設したピンとを挿入可能な窓を開設し、
孔外から鋼線で加圧して支持部材を孔の孔底側へ押し戻し、その後に鋼線に回転を与えることで、前記のピンを窓付き板に開設した窓から孔底側に突出させ、
支持部材を回転することで、ピンを窓枠に係合させて、
外筒内面の窓付き板と、支持部材が係合するように構成した、
鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。
【請求項5】
請求項2から4の何れか1項に記載の係合機構のいずれかを備えた定着装置を一つの孔底側外筒の内部に設置し、
その孔底側外筒の複数を、孔底側を閉塞し、孔口側を開放した収納筒の内部に回転自在に収納して構成した、
鋼線の除去と新設が可能なアンカーの定着具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−144518(P2011−144518A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4136(P2010−4136)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(510085032)
【出願人】(503051578)
【Fターム(参考)】