説明

鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法

【課題】板材からなる補強部材を鋼製煙突の筒身鉄皮に溶接固定する作業を軽減することが可能な鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法を提供する。
【解決手段】板材からなる補強部材4の板材幅方向端部を筒身鉄皮3の外周面に溶接固定して補修するにあたり、補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮3に接触する部分の長さL1が予め設定された長さL1になるように当該接触する部分以外の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さL2分だけ断続的に予め逃がし、補強部材4の板材幅方向が筒身鉄皮3の外周面と垂直になるように当該筒身鉄皮3の外周面に当該補強部材4の板材幅方向端部を当接して、補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮接触部分を全周溶接する。また、補強部材4の筒身鉄皮接触側と反対側の板材幅方向端部を板材幅方向と垂直になるように折り曲げて強度を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製煙突の筒身鉄皮の補修方法に関し、特に筒身鉄皮の外周面に補強部材を取付けて補強するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製煙突の筒身は、例えば内側に耐火物を貼り付けて耐熱性を向上させているが、長年の使用により劣化することがある。下記特許文献1では、筒身の内周面に周方向に沿う縦方向リブと、当該縦方向リブと井桁をなす横方向リブを接合し、筒身の外周面には炭素繊維の線材を巻付け、縦方向リブに鉄筋を接合して縦方向リブと横方向リブ相互間にモルタルを充填して筒身を補修するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−291251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば筒身鉄皮の減肉部分を補修する場合に、筒身鉄皮に板材からなる補強部材の幅方向端部を突き当てて溶接固定することがある。このような場合、煙突は屋外設備であるから、所謂隙間腐食を防止するために、補強部材の突き当て部分を全周溶接する必要がある。特に、板材からなる補強部材を煙突の高さ方向に長手に溶接固定する際には、補強部材の長大な突き当て部分を全周溶接することになり、作業に手間と時間がかかる。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、板材からなる補強部材を鋼製煙突の筒身鉄皮に溶接固定する作業を軽減することが可能な鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法は、鋼製煙突の筒身鉄皮の補修方法であって、板材からなる補強部材の板材幅方向端部を前記筒身鉄皮の外周面に溶接固定して補修するにあたり、前記板材からなる補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さが予め設定された長さになるように当該接触する部分以外の補強部材の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さ分だけ断続的に予め逃がし、前記補強部材の板材幅方向が筒身鉄皮の外周面と垂直になるように当該筒身鉄皮の外周面に当該補強部材の板材幅方向端部を当接して、前記補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮接触部分を全周溶接することを特徴とするものである。
【0007】
本発明の補強部材を構成する板材は、板材であるから面積の大きい板面を有する。板材の幅方向とは、この板面に沿って板材の幅を規定する方向であるから、実質的に板面に沿った方向であれば何れの方向であってもよい。また、逃がしとは、例えば除去加工や曲げ加工などによって補強部材の板材幅方向端部の所定部分が筒身鉄皮に接触しないようにすることである。
【0008】
また、前記補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さを40〜150mm、前記補強部材の板材幅方向端部の予め逃がされる部分の長さを80〜600mmとしたことを特徴とするものである。
また、前記補強部材の筒身鉄皮接触側と反対側の板材幅方向端部を板材幅方向と垂直になるように折り曲げたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
而して、本発明の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法によれば、板材からなる補強部材の板材幅方向端部を筒身鉄皮の外周面に溶接固定して補修するにあたり、板材からなる補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さが予め設定された長さになるように当該接触する部分以外の補強部材の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さ分だけ断続的に予め逃がし、補強部材の板材幅方向が筒身鉄皮の外周面と垂直になるように当該筒身鉄皮の外周面に当該補強部材の板材幅方向端部を当接して、補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮接触部分を全周溶接することとしたため、補強部材の板材幅方向端部を逃がさない場合に比べて、筒身鉄皮接触部分の全周溶接長さが短くなることから作業が軽減すると共に、筒身鉄皮の外周面の変形に補強部材の板材幅方向端部を合わせたり、筒身鉄皮の外周面と補強部材の板材幅方向端部との間に隙間埋め部材を介装したりする調整作業も軽減する。
【0010】
また、補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さを40〜150mm、補強部材の板材幅方向端部の予め逃がされる部分の長さを80〜600mmとしたことにより、溶接強度を確保しながら作業を軽減することが可能となる。
また、補強部材の筒身鉄皮接触側と反対側の板材幅方向端部を板材幅方向と垂直になるように折り曲げたことにより、補強部材の強度を向上して溶接強度も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の筒身鉄皮補修方法を適用した鋼製煙突の一実施形態を示す全体正面図である。
【図2】図1の鋼製煙突の頂部拡大正面図である。
【図3】図2の鋼製煙突の筒身鉄皮の横断面図である。
【図4】図3の筒身鉄皮に溶接固定された補強部材の説明図である。
【図5】図4の補強部材の斜視図である。
【図6】図4の補強部材の接触部分の調整作業の説明図である。
【図7】従来の筒身鉄皮に溶接固定された補強部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の筒身鉄皮補修方法が適用された鋼製煙突の全体正面図である。本実施形態では1つの鉄塔2の内側に2本の鋼製煙突1が立設されており、手前の1本は大径の鋼製煙突1、奥方のもう1本は小径の鋼製煙突1である。本実施形態の筒身鉄皮補修方法は、大径の鋼製煙突1に施されたものについて説明する。ちなみに、この種の鋼製煙突1は、筒身自体が自立しており、筒身の横揺れや倒れを鉄塔2が支持している。また、筒身の外周を覆う鉄皮の内側には、不定形耐酸キャスタブルなどの耐火物が内張り(ライニング)されることもある。
【0013】
図2は、図1の鋼製煙突1の頂部拡大正面図であり、図3は、図2の横断面図である。本実施形態では、大径の鋼製煙突1の筒身鉄皮3の頂部外周に板材からなる補強部材4を溶接固定して補修を行っている。この補強部材4は、筒身鉄皮3の高さ方向に長手な板材からなり、円周方向に所定の角度、例えば22.5°で等配に取付けられている。この補強部材4は、板材幅方向が筒身鉄皮3の外周面と垂直になるように板材幅方向端部が当該筒身鉄皮3の外周面に溶接固定されている。
【0014】
図4には、補強部材4の筒身鉄皮3への溶接固定の詳細を示す。本実施形態では、板材からなる補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮3に接触する部分の長さが予め設定された長さになるように当該接触する部分以外の補強部材4の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さ分だけ断続的に予め逃がしてある。図4aは図2のA部、図4bは図2のB部の夫々の詳細を示す。
【0015】
図4aに示す図2のA部では、筒身鉄皮3の外周面に円筒部材5が取付けられ、その円筒部材5に円板状の筒身補強部材6が取付けられ、その円板状の筒身補強部材6に連接部材7が取付けられている。このうち、円筒部材5及び筒身補強部材6は、筒身鉄皮4の断面円形を保持するためのものである。また、連接部材7は鉄塔2から突設された連接部材と当接し、前述のように筒身の横揺れや倒れが支持され、且つ煙突の伸縮を許容する。この筒身補強部材6の下方から補強部材4が筒身鉄皮の高さ方向に長手に当該筒身鉄皮3に溶接固定されている。また、円筒部材5や筒身補強部材6と補強部材4との接合部分も全周溶接によって固定されている。なお、全ての補強部材4の筒身鉄皮溶接固定側と反対側の幅方向端部は、図面の紙面と垂直方向に折り曲げられており、強度が高められている。
【0016】
図4bに示す図2のB部では、筒身鉄皮3を貫通するように円板状の筒身補強部材8がリブ10を介して取付けられ、リブ10の上方には突出先端部が下向きになるように斜めにダストカバー9が取付けられている。この部分では、筒身補強部材8の上方にも下方にも補強部材4が筒身鉄皮3の高さ方向に長手に当該筒身鉄皮3に溶接固定されている。また、筒身補強部材8と補強部材4との接合部分も全周溶接によって固定されている。なお、ダストカバー9は円板状の筒身補強部材8上にダストがたまるのを防止するためのものである。これは、円板状の筒身補強部材8上にダストがたまると、たまったダストが水分を含み、湿潤して腐食するため、ダストカバー9によって筒身補強部材8上にダストがたまらないようにしている。
【0017】
また、図2には表れていないが、図4cに示すように、円弧状に湾曲した板材からなる補強部材4を筒身鉄皮3の外周面の周方向に沿って溶接固定する部位もある。何れの場合も、板材からなる補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮3に接触する部分の長さが予め設定された長さになるように当該接触する部分以外の補強部材4の板材幅方向端部の部分を断続的に予め設定された長さ分だけ予め逃がしてある。そして、筒身鉄皮3と補強部材4の接触部分だけが全周溶接によって固定されている。
【0018】
従来は、例えば図7に示すように、板材からなる補強部材4を筒身鉄皮3の外周面に高さ方向に長手に溶接固定する場合、補強部材4の筒身鉄皮接触側の幅方向端部を逃がしていないため、隙間腐食を防止するためには、補強部材4の板材長さ全長分を全周溶接しなければならない。これでは、溶接する手間や時間がかかりすぎるし、後述するように筒身鉄皮3の変形に合わせて補強部材4を加工したり隙間を埋めたりする調整作業の手間や時間もかかる。
【0019】
これに対し、例えば図5aに示すように、板材からなる補強部材4の筒身鉄皮接触側の幅方向端部を所定長ずつ断続的に予め逃がし、筒身鉄皮接触部分だけを全周溶接することとすれば、溶接自体の手間や時間を軽減できる。また、図6aに示すように、筒身鉄皮3が外に凸に変形している場合には、補強部材4の接触部分を除去し、図6bに示すように、筒身鉄皮3が内に凸に変形している場合には、補強部材4の接触部分と筒身鉄皮との間に隙間埋め部材11を介装するなどの調整作業が必要となる。このような補強部材4の加工作業や隙間埋め作業などの調整作業も、補強部材4の筒身鉄皮接触側幅方向端部に逃がしのない場合に比べると大幅に軽減される。なお、補強部材4の強度が平板野間までも十分な場合には、図5bに示すように、補強部材4の筒身轍鮒接触側と反対型の幅方向端部を折り曲げなくてもよい。
【0020】
この板材からなる補強部材4の筒身鉄皮3に接触する部分の長さ(以下、接触長さとも記す)をL1、予め逃がされる部分の長さ(以下、逃がし長さとも記す)をL2とすると、筒身鉄皮に接触する部分の接触長さL1は40〜150mmとするのが望ましく、予め除去される部分の除去長さは80〜600mmとするのが望ましい。このうち、接触長さL1については、溶接の開始点及び終止点の両端部の部分が欠陥を含むことから、鋼構造設計基準の数値を参考として40mm以上とするのが望ましい。即ち、日本建築学会の定める鋼構造設計基準では、応力を伝達するすみ肉溶接の有効長さは、すみ肉の10倍以上で、且つ40mm以上とするとあることから、接触長さL1の下限値を40mmとした。一方、接触長さL1を長くすると、前述のような筒身鉄皮3の変形に伴う加工作業や隙間埋め作業などの調整作業が多くなる。そのため、接触長さL1の上限値を150mmとした。
【0021】
また、逃がし長さL2は、溶接量の低減が目的であるため、接触長さL1の2倍以上を目安に、下限値を80mmとした。一方、補強部材の圧縮座屈の耐力を考慮し、例えば厚さが15mm、幅200mmの補強部材4の場合、道路橋示方書(社団法人日本道路協会発行)の主要部材λ(細長比)<120とするには、補強部材4の座屈長さを600mm以下にする必要がある。即ち、逃がし長さL2を600mm以下とする必要があることから、上限値を600mmとした。
【0022】
このように本実施形態の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法では、板材からなる補強部材4の板材幅方向端部を筒身鉄皮3の外周面に溶接固定して補修するにあたり、板材からなる補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮3に接触する部分の長さL1が予め設定された長さL1になるように当該接触する部分以外の補強部材4の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さL2分だけ断続的に予め逃がし、補強部材4の板材幅方向が筒身鉄皮3の外周面と垂直になるように当該筒身鉄皮3の外周面に当該補強部材4の板材幅方向端部を当接して、補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮接触部分を全周溶接することにより、補強部材4の板材幅方向端部を逃がさない場合に比べて、筒身鉄皮接触部分の全周溶接長さが短くなることから作業が軽減すると共に、筒身鉄皮3の外周面の変形に補強部材4の板材幅方向端部を合わせたり、筒身鉄皮3の外周面と補強部材4の板材幅方向端部との間に隙間埋め部材11を介装したりする調整作業も軽減する。
【0023】
また、補強部材4の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さを40〜150mm、補強部材4の板材幅方向端部の予め逃がされる部分の長さL1を80〜600mmとしたことにより、溶接強度を確保しながら作業を軽減することが可能となる。
また、補強部材4の筒身鉄皮接触側と反対側の板材幅方向端部を板材幅方向と垂直になるように折り曲げたことにより、補強部材4の強度を向上して溶接強度も向上することができる。
【符号の説明】
【0024】
1は鋼製煙突
2は鉄塔
3は筒身鉄皮
4は補強部材
5は円筒部材
6、8は筒身補強部材
9はダストカバー
10はリブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製煙突の筒身鉄皮の補修方法であって、板材からなる補強部材の板材幅方向端部を前記筒身鉄皮の外周面に溶接固定して補修するにあたり、前記板材からなる補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さが予め設定された長さになるように当該接触する部分以外の補強部材の板材幅方向端部の部分を予め設定された長さ分だけ断続的に予め逃がし、前記補強部材の板材幅方向が筒身鉄皮の外周面と垂直になるように当該筒身鉄皮の外周面に当該補強部材の板材幅方向端部を当接して、前記補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮接触部分を全周溶接することを特徴とする鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法。
【請求項2】
前記補強部材の板材幅方向端部の筒身鉄皮に接触する部分の長さを40〜150mm、前記補強部材の板材幅方向端部の予め逃がされる部分の長さを80〜600mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法。
【請求項3】
前記補強部材の筒身鉄皮接触側と反対側の板材幅方向端部を板材幅方向と垂直になるように折り曲げたことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼製煙突の筒身鉄皮補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44090(P2013−44090A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180267(P2011−180267)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】