説明

錠剤成型機

【課題】簡単な手動操作で錠剤の排出機能と粉末の充填機能の両機能を実現し得る錠剤成型機を提供する。
【解決手段】テーブル23に設けられる臼22と、テーブル23の上面を摺動する粉末フィーダ25と、臼22に充填された粉末を圧縮して錠剤を成型する上杵6および下杵26と、を備えた錠剤成型機1であって、下杵26を上昇させて錠剤を臼22の上部開口から排出させる錠剤排出機能および粉末フィーダ25が臼22の上方に位置した状態で下杵26を下降させて臼22に粉末を落下充填させる粉末充填機能を有する排出・充填機構35と、この排出・充填機構35と連結し、切換え操作により錠剤排出機能と粉末充填機能とを切り換えて排出・充填機構35を作動させる手動式の排出・充填ハンドル36と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤成型機に関する。
【背景技術】
【0002】
臼と、臼に充填された粉末を圧縮して錠剤を成型する上杵および下杵と、を備えた錠剤成型機の従来例として特許文献1、2に記載のものが挙げられる。特許文献1の技術は自動式の錠剤成型機に関するものであり、粉末の充填は、粉末フィーダによって行われる。特許文献2の技術は手動式の錠剤成型機に関するものであり、粉末の充填は、匙などを利用して人手により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−210022号公報
【特許文献2】特開平9−271511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大学、錠剤関連の機関、メーカー等の研究室での錠剤の試作を主用途として成型機を製作する場合、特許文献1のような自動式の錠剤成型機はコストが嵩むために甚だ不経済である。これに対し、特許文献2に記載の手動式の錠剤成型機は構造が簡単で安価であり、少数の試作品を製作するのに適している。しかし、特許文献2の技術は、粉末の充填方法について、成型後の錠剤を排出する度に人が専ら匙などで臼に充填する態様となり、操作が煩わしくなるばかりか、充填途中で匙などから粉末がこぼれて臼に一定容量の粉末を充填できないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、簡単な手動操作で錠剤の排出機能と粉末の充填機能の両機能を実現し得る錠剤成型機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、テーブルに設けられる臼と、テーブルの上面を摺動する粉末フィーダと、臼に充填された粉末を圧縮して錠剤を成型する上杵および下杵と、を備えた錠剤成型機であって、下杵を上昇させて錠剤を臼の上部開口から排出させる錠剤排出機能および粉末フィーダが臼の上方に位置した状態で下杵を下降させて臼に粉末を落下充填させる粉末充填機能を有する排出・充填機構と、この排出・充填機構と連結し、切換え操作により錠剤排出機能と粉末充填機能とを切り換えて排出・充填機構を作動させる手動式の排出・充填ハンドルと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
当該構成によれば、排出・充填ハンドルの手動操作のみで錠剤の排出と粉末の充填を行うことができる。前記特許文献2の技術のように匙などを利用して粉末を臼に充填する作業が不要となるので、錠剤の成型を迅速に行える。
【0008】
また、本発明は、排出・充填機構は、粉末フィーダを摺動させるフィーダ駆動機構と、排出・充填ハンドルからの入力伝達経路上に設けられた係脱自在なカム係合部を有し、このカム係合部が係合状態のときカム作用により下杵を上昇させ、離脱状態のとき下杵を下降させる下杵駆動機構と、を備えて構成され、排出・充填ハンドルは前後方向および左右方向に傾動自在に構成され、フィーダ駆動機構は、常に排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作に連動して粉末フィーダを前後摺動させる構造からなり、下杵駆動機構は、排出・充填ハンドルを左右方向の内の一方向側に倒した状態においては、カム係合部が係合状態となって排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作により下杵を上昇させ、排出・充填ハンドルを左右方向の内の他方向側に倒すと、カム係合部が離脱状態となって下杵を下降させる構造からなることを特徴とする。
【0009】
当該構成によれば、排出・充填機構の構造および排出・充填ハンドルの切換え操作が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機を実現できる。
【0010】
また、本発明は、排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作により左右方向の軸回りに回転する連結シャフトを備え、下杵駆動機構のカム係合部は、連結シャフトに一体回転可能に取り付けられる入力側カムを有し、この入力側カムは排出・充填ハンドルとリンク機構を介して接続され、排出・充填ハンドルの左右方向の傾動操作に連動して左右方向に傾動することを特徴とする。
【0011】
当該構成によれば、下杵駆動機構と排出・充填ハンドルとの連動構造が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機を実現できる。
【0012】
また、本発明は、フィーダ駆動機構は、連結シャフトの回転運動を粉末フィーダの直線運動に変換するクランク機構からなることを特徴とする。
【0013】
当該構成によれば、フィーダ駆動機構と排出・充填ハンドルとの連動構造が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機を実現できる。
【0014】
また、本発明は、粉末の圧縮成型時に上杵を下降させる上杵駆動機構は、手動式の油圧ポンプと、この油圧ポンプからの作動油の供給を受けてロッドが上杵を押し下げる油圧シリンダと、を備えて構成され、手動式のロードセル移動ハンドルにより油圧シリンダのロッドと上杵との間に着脱自在に装着されるロードセルを設けたことを特徴とする。
【0015】
当該構成によれば、上杵の下降時にロードセルを装着することにより、そのロードセルの高さ寸法分だけ上杵の下降ストロークが短くて済むことになり、その分、油圧ポンプの手動操作回数を少なくすることができる。そして、錠剤の圧縮成型完了後、ロードセル移動ハンドルによる操作でロードセルを外すことにより、瞬時に上杵を粉末フィーダと干渉しない位置まで上昇させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、排出・充填ハンドルの簡単な手動操作のみで錠剤の排出と粉末の充填を行うことができ、操作が簡単で安価な手動式の錠剤成型機となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る錠剤成型機の正面図である。
【図2】本発明に係る錠剤成型機の外観斜視図である。
【図3】排出・充填ハンドルの下端周りと排出・充填機構との連結部位を示す正面図である。
【図4】排出・充填機構の外観斜視図である。
【図5】退避位置にあるロードセルを油圧シリンダと硬度調整ダイヤルとの間に装着する状態を示す平面図である。
【図6】ロードセルを装着した状態の錠剤成型機の正面図である。
【図7】打錠時における排出・充填機構の側面図である。
【図8】臼から錠剤を排出した状態の排出・充填機構の側面図である。
【図9】粉末フィーダにより錠剤を受取り容器に落下させる状態の排出・充填機構の側面図である。
【図10】充填時における排出・充填機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および図2において、本発明に係る錠剤成型機1は、水平状の架台2と、架台2に立設されたケーシング3とを筐体として構成される。なお、以下の説明において「前後方向」とは図1における紙面奥−手前方向を、「左右方向」とは図1における紙面左右方向を指すものとする。ケーシング3内には、水平状の上杵プレート4が左右一対のガイドシャフト18にガイドされて昇降自在に設けられている。
【0019】
上杵プレート4の下面側には上杵用ホルダ5を介して上杵6が取り付けられている。上杵プレート4の上面側における上杵用ホルダ5の上部には、上杵プレート4を上下に移動させることにより、後記する臼22に対する上杵6の進入量を調整して硬度を調節可能な硬度調整ダイヤル7が設けられている。錠剤の硬度調整の際は、例えば後記する油圧シリンダ10が最下部に達した位置を基点として、硬度調整ダイヤル7を手で回して上杵6が臼22に所望の分だけ進入するようにセットする。セットされた上杵6の進入量は、例えば上杵6と一体に移動する指針8によって進入量目盛り9にて示される。進入量目盛り9は例えば後記するラックギヤ16のギヤ非形成部位に取り付けられる。
【0020】
ケーシング3の天板部には、ロッドの先端を下方に向けた油圧シリンダ10が取り付けられている。油圧シリンダ10のロッドの先端は硬度調整ダイヤル7の上面に当接する。ここで、油圧シリンダ10のロッドの先端と上杵6との間、本実施形態では、油圧シリンダ10のロッドの先端と硬度調整ダイヤル7との間にはロードセル11が着脱自在に装着される。ロードセル11としては圧縮荷重型の公知のものが適用される。ケーシング3の天板部には鉛直方向を回転軸方向とするロードセル移動ハンドル12が取り付けられている。ロードセル移動ハンドル12の上端部はケーシング3の外部に突出して摘み操作部12aを構成する。ロードセル移動ハンドル12の下端には水平状のロードセル支持板13の中央周りが取り付けられ、このロードセル支持板13の一端にロードセル11が固設されている。なお、ロードセル移動ハンドル12は図示しないコイルばねに弾発支持されてケーシング3に対して上下方向にスライド可能に構成されており、したがって、ロードセル11も上下方向に移動可能に構成されている。これにより、装着時において油圧シリンダ10のロッドの下降に追従して下方に移動できるようになっている。
【0021】
ロードセル11を油圧シリンダ10のロッドの先端と硬度調整ダイヤル7との間に装着するにあたっては、硬度調整ダイヤル7側を、すなわち上杵プレート4を一旦下げる必要がある。符号14は、このロードセル11の装着用として上杵プレート4を一旦下降させるための手動式の下降レバーである。ケーシング3の天板の下面にはレバー取付座が固設され、このレバー取付座に前後方向を軸方向として下降レバー14の下端が回転可能に軸支されている。下降レバー14の回転軸の先端には図2に示すようにピニオンギヤ15が軸着されており、このピニオンギヤ15は上杵プレート4の上面に固設したラックギヤ16に噛合している。また、ケーシング3の天板部と上杵プレート4との間には、上杵プレート4を常に上昇付勢させる付勢部材としての引張コイルばね17が複数掛け渡されている。
【0022】
以上により、ロードセル11が未装着の場合には、引張コイルばね17の付勢力により上杵プレート4が上昇して硬度調整ダイヤル7が油圧シリンダ10のロッドの先端に当接した状態にある。そして、引張コイルばね17の付勢力に抗して下降レバー14を図1における時計回りに回転操作すると、ラックアンドピニオン機構を介して上杵プレート4が下降し、硬度調整ダイヤル7も下降して、硬度調整ダイヤル7と油圧シリンダ10のロッドの先端との間に空間が形成される。この状態でロードセル移動ハンドル12の摘み操作部12aを回転操作することでロードセル11を油圧シリンダ10のロッドの先端と硬度調整ダイヤル7との間に挿入させる。ロードセル11の装着時には、図5に仮想線で示すように、ロードセル支持板13の他端が一方のガイドシャフト18に当接することで、ロードセル11が油圧シリンダ10(図1)および硬度調整ダイヤル7と同軸に位置決めされるようになっている。
【0023】
次に、粉末の圧縮成型時に上杵6を下降させる上杵駆動機構は、図2に示すように、手動式の油圧ポンプ20と、この油圧ポンプ20からの作動油の供給を受けてロッドが上杵6を押し下げる前記油圧シリンダ10と、から構成される。油圧ポンプ20のポンプレバー20aを繰り返し前後に傾動操作すると、作動油が油圧シリンダ10に送られ、油圧シリンダ10のロッドが下降して上杵6を下降させる。油圧ポンプ20は、ケーシング3の一方の外側面に設けたポンプ収納箱21に収納されている。また、ケーシング3の上部には、油圧シリンダ10内の油圧値を示すアナログ式の油圧計61が設けられている。
【0024】
図1において、油圧シリンダ10には、ロッドがシリンダ内の機構としての最下部に達したことを検知するリミットスイッチ62が設けられている。ロッドが最下部に達したことがリミットスイッチ62により検知されると、ブザーが鳴動するとともに表示盤63においてその旨を示すランプが点灯する。これにより、ポンプレバー20a(図2)の無駄な操作を省けるとともに、油圧機構の損傷が防止される。なお、表示盤63には前記ロードセル11で計測された圧縮成型時の加圧値もデジタル表示される。
【0025】
上杵プレート4の下方には、臼22を設けたテーブル23が位置する。このテーブル23はテーブル押え板23Aを介してガイドシャフト18に取り付けられているが、昇降はしない。テーブル23上にはガイド部材24にガイドされて前後方向に摺動する粉末フィーダ25が載置されている。粉末フィーダ25は上下が開口しており、上部側の開口は粉末をフィーダ内部に貯留させるための供給口となる。粉末フィーダ25が臼22の直上に位置したとき粉末は下部の開口から臼22に落下充填される。
【0026】
次に下杵26周りの構成について説明する。本実施形態では、臼22に対する下杵26の高さ位置を調整可能な充填深さ調整ネジ30を設けている。架台2には下杵ホルダー28が上下摺動可能に設けられている。下杵ホルダー28の雄ネジ部には上方の錠剤払い調整ネジ31と下方の前記充填深さ調整ネジ30が取り付けられており、この下杵ホルダー28の上端側に下杵26が取り付けられている。下杵ホルダー固定板29は、錠剤払い調整ネジ31と充填深さ調整ネジ30とを固定する部材であり、下杵ホルダー固定ネジ27によって固定される。下杵ホルダー固定ネジ27には、下杵ホルダー28に螺合するシャフト32が軸着されている。下杵ホルダー固定ネジ27の中央部には上下方向に延設する目盛り33が取り付けられ、架台2上には指針34(図1、図2)が固設されている。以上により、重点深さ調整ネジ30を回転操作すると、下杵ホルダー28が上下に移動し、臼22に対する下杵26の高さ位置が調整され、そのときの調整値が指針34により目盛り33にて示される。
【0027】
以上のように、図1、図2において、テーブル23に設けられる臼22と、テーブル23の上面を摺動する粉末フィーダ25と、臼22に充填された粉末を圧縮して錠剤を成型する上杵6および下杵26と、を備えた錠剤成型機1において、本発明は、下杵26を上昇させて錠剤を臼22の上部開口から排出させる錠剤排出機能および粉末フィーダ25が臼22の上方に位置した状態で下杵26を下降させて臼22に粉末を落下充填させる粉末充填機能を有する排出・充填機構35と、この排出・充填機構35と連結し、切換え操作により錠剤排出機能と粉末充填機能とを切り換えて排出・充填機構35を作動させる手動式の排出・充填ハンドル36と、を備えたことを主な特徴とする。
【0028】
排出・充填機構35は、図2に示すように、粉末フィーダ25を摺動させるフィーダ駆動機構37と、排出・充填ハンドル36からの入力伝達経路上に設けられた係脱自在なカム係合部を有し、このカム係合部が係合状態のときカム作用により下杵26を上昇させ、離脱状態のとき下杵26を下降させる下杵駆動機構38と、を備えて構成される。
【0029】
排出・充填ハンドル36は、上下方向に延設するようにレイアウトされ、前後方向および左右方向に傾動自在に構成されている。排出・充填ハンドル36の上端には左右に延びる把持部36aが形成されている。フィーダ駆動機構37は、常に排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作に連動して粉末フィーダ25を前後摺動させる構造からなり、下杵駆動機構38は、排出・充填ハンドル36を左右方向の内の一方向側に倒した状態においては、カム係合部が係合状態となって排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作により下杵26を上昇させ、排出・充填ハンドル36を左右方向の内の他方向側に倒すと、カム係合部が離脱状態となって下杵26を下降させる構造からなる。
【0030】
以下、具体的に説明すると、ケーシング3の後方における架台2の上面には、図3、図4に示すように、左右一対のシャフト支持座39によって軸支され、排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作により左右方向の軸回りに回転する連結シャフト40が設けられている。排出・充填ハンドル36の下端は、連結シャフト40の一端側において、連結シャフト40の軸方向と直交する軸方向の第1連結軸41回りに回転自在に軸支されている。
【0031】
下杵駆動機構38のカム係合部は、図4に示すように、入力側カム42と出力側カム43とが係脱自在となる構造であり、入力側カム42は図3、図4に示すように連結シャフト40に対して連結シャフト40の軸回りに一体回転可能に、かつ前記第1連結軸41と平行な第2連結軸44回りに回転自在に軸支されている。入力側カム42は排出・充填ハンドル36とリンク機構を介して接続されており、具体的にはそれぞれ前記第1連結軸41と平行な、入力側カム42に形成した第3連結軸45と排出・充填ハンドル36に形成した第4連結軸46とにリンクバー47を掛け渡した構造としている。これにより、入力側カム42は、排出・充填ハンドル36の第1連結軸41を回転中心とする左右方向の傾動操作に連動して第2連結軸44を回転中心として左右方向に傾動する。図3における排出・充填ハンドル36は、実線で示す位置が前記「左右方向の内の一方向側」に倒した位置であり、仮想線で示す位置が前記「左右方向の内の他方向側」に倒した位置である。
【0032】
一方、架台2には図4に示すように支持部材48が立設されており、この支持部材48に対して押上レバー49の中央周りが、左右方向を軸方向とする回転軸50回りに揺動可能に軸支されている。そして、回転軸50を挟んで押上レバー49の後端側が前記出力側カム43を構成し、押上レバー49の前端側は錠剤払い調整ネジ31に突き当たって下杵26を押し上げる押上部51として構成される。また、架台2には、図7に示すように、出力側カム43を下方から押圧することにより押上部51を強制的に下げる付勢手段として、出力側カム43の下部に当接する当接部材52と、当接部材52を常時出力側カム43に向けて付勢する圧縮コイルばね53とが設けられている。
【0033】
なお、本実施形態では、出力側カム43をカムピンとし、入力側カム42をカム面を有する部材としているが、逆に入力側カム42をカムピンとし、出力側カム43をカム面を有する部材としてもよい。
【0034】
図4において、フィーダ駆動機構37は、例えば連結シャフト40の回転運動を粉末フィーダ25の直線運動に変換するクランク機構から構成される。連結シャフト40にはクランクアーム54が固設され、このクランクアーム54とクレビスにより連結した連接バー55の先端に粉末フィーダ25が取り付けられている。
【0035】
以下、錠剤成型機1の作用について説明する。
「圧縮成型(打錠)工程」
先ず、図1の状態から下降レバー14を図1における時計回りに回転操作し、ラックアンドピニオン機構を介して上杵プレート4を下降させ、硬度調整ダイヤル7と油圧シリンダ10のロッドの先端との間に空間を設ける。この状態でロードセル移動ハンドル12の摘み操作部12aを回転操作してロードセル11を油圧シリンダ10のロッドの先端と硬度調整ダイヤル7との間に挿入する。その後、下降レバー14から手を離すと引張コイルばね17の付勢力により上杵プレート4が上昇し、ロードセル11が油圧シリンダ10のロッドと硬度調整ダイヤル7とにより上下から挟み込まれることで装着完了となる(図6の状態)。これにより、ロードセル11の高さ寸法分、上杵6は下方に移動して臼22に近づいた状態となる。
【0036】
次いで、上杵6を下降させ錠剤を成型するべく油圧ポンプ20を作動させる。なお、臼22には粉末が既に充填されているものとする。ポンプレバー20aを繰り返し前後に傾動操作すると、油圧シリンダ10のロッドが下降し、上杵6が臼22内に入り込んで下杵26との間で粉末を圧縮成型する。この際、前記したようにロードセル11の高さ寸法分、上杵6は予め臼22に近づいた状態となっていたため、上杵6の移動ストロークは短くて済み、ポンプレバー20aの操作回数も少なくて済む。やがて、図6において油圧シリンダ10のロッドが最下部に達したことがリミットスイッチ62により検知されると、すなわち圧縮成型が完了したことが検知されると、ブザーが鳴動するとともに表示盤63のランプが点灯するので、作業者はポンプレバー20aの操作を終了して油圧ポンプ20のエア抜き処理を行う。これにより、油圧シリンダ10はその内蔵された圧縮コイルばね(図示せず)の付勢力により上昇して待機位置に戻る。
【0037】
この時点では未だロードセル11が油圧シリンダ10と硬度調整ダイヤル7との間に装着されていて、後の臼22への粉末充填時に上杵6が粉末フィーダ25と干渉してしまうため、ロードセル11を外すべく、作業者は下降レバー14を一旦図6における時計回りに回転操作して上杵プレート4を若干下降させる。この状態でロードセル移動ハンドル12の摘み操作部12aを回転操作してロードセル11を油圧シリンダ10のロッドの先端と硬度調整ダイヤル7との間から外し、図1の状態に戻す。これにより上杵6は粉末フィーダ25と干渉しない位置まで上昇して待機する。
【0038】
「錠剤排出工程」
図7は、錠剤Wの圧縮成型が終了して上杵6が上昇した状態を示している。このとき、排出・充填ハンドル36は後方側に傾動しており、左右方向に関しては図3の実線にて示す位置にある。入力側カム42は出力側カム43の上方に位置している。また、粉末フィーダ25は最後端に位置している。この状態から排出・充填ハンドル36を連結シャフト40の軸を回転中心として図7における反時計回り方向に、つまり前方側に傾動操作すると、入力側カム42も連結シャフト40の軸を回転中心として反時計回り方向に傾動し、図8に示すように出力側カム43を押し下げる。これにより、押上レバー49が回転軸50回りに図8における時計回りに揺動し、押上部51が錠剤払い調整ネジ31に当接して下杵26を上昇させ、錠剤Wを臼22の上部開口から排出させる。この間、粉末フィーダ25は前記したクランク機構によって臼22の手前まで前進している。
【0039】
「粉末充填工程」
図8の状態から引き続き排出・充填ハンドル36を前方側に傾動操作すると、図9に示すように、粉末フィーダ25はさらに前進してその前壁によって錠剤Wを押していき、例えばテーブル23の前端に取り付けた受取り容器64に落下させる。このとき、粉末フィーダ25は臼22の上方に位置する。なお、この間、入力側カム42も傾動し続けているが、そのカム形状により出力側カム43の回転変位は殆ど生じず、下杵26の上端は臼22内の上方に位置したままとなっている。そして、図9の状態から、排出・充填ハンドル36を紙面手前方向に、つまり図3の仮想線で示す位置に傾動操作すると、入力側カム42も同方向に傾動し、出力側カム43との係合が外れる。入力側カム42との係合が解かれると、出力側カム43は、図10に示すように、圧縮コイルばね53の付勢力により当接部材52から押圧され、押上レバー49が回転軸50回りに図10における反時計回りに揺動するので、押上部51の押上力から解放された下杵26が下降する。これにより、粉末フィーダ25から粉末が臼22内に落下充填される。その後、排出・充填ハンドル36を後方側に傾動操作すると、粉末フィーダ25が後進していき、その際に粉末フィーダ25の下縁部がスクレーパの機能を果たして臼22の上部開口周りの粉末をならしていく。そして、排出・充填ハンドル36が最後方まで傾動したら、図10における紙面奥側に傾動操作して、図3の実線で示す位置に排出・充填ハンドル36を戻す。錠剤Wを複数成型する場合、上記各工程を繰り返し行う。
【0040】
以上のように、下杵26を上昇させて錠剤Wを臼22の上部開口から排出させる錠剤排出機能および粉末フィーダ25が臼22の上方に位置した状態で下杵26を下降させて臼22に粉末を落下充填させる粉末充填機能を有する排出・充填機構35と、この排出・充填機構35と連結し、ハンドルの切換え操作により錠剤排出機能と粉末充填機能とを切り換えて排出・充填機構35を作動させる手動式の排出・充填ハンドル36と、を備える構成とすれば、排出・充填ハンドル36の手動操作のみで錠剤Wの排出と粉末の充填を行うことができる。前記特許文献2の技術のように匙などを利用して粉末を臼に充填する作業が不要となるので、錠剤の成型を迅速に行えることとなる。
【0041】
また、排出・充填機構35は、粉末フィーダ25を摺動させるフィーダ駆動機構37と、排出・充填ハンドル36からの入力伝達経路上に設けられた係脱自在なカム係合部を有し、このカム係合部が係合状態のときカム作用により下杵26を上昇させ、離脱状態のとき下杵26を下降させる下杵駆動機構38と、を備えて構成され、排出・充填ハンドル36は前後方向および左右方向に傾動自在に構成され、フィーダ駆動機構37は、常に排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作に連動して粉末フィーダ25を前後摺動させる構造からなり、下杵駆動機構38は、排出・充填ハンドル36を左右方向の内の一方向側に倒した状態においては、カム係合部が係合状態となって排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作により下杵26を上昇させ、排出・充填ハンドル36を左右方向の内の他方向側に倒すと、カム係合部が離脱状態となって下杵26を下降させる構造からなる錠剤成型機1とすれば、排出・充填機構35の構造および排出・充填ハンドル36の切換え操作が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機1を実現できる。
【0042】
さらに、排出・充填ハンドル36の前後方向の傾動操作により左右方向の軸回りに回転する連結シャフト40を備え、下杵駆動機構38のカム係合部は、連結シャフト40に一体回転可能に取り付けられる入力側カム42を有し、この入力側カム42は排出・充填ハンドル36とリンク機構(リンクバー47)を介して接続され、排出・充填ハンドル36の左右方向の傾動操作に連動して左右方向に傾動する構成とすれば、下杵駆動機構38と排出・充填ハンドル36との連動構造が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機1を実現できる。
【0043】
また、フィーダ駆動機構37として、連結シャフト40の回転運動を粉末フィーダ25の直線運動に変換するクランク機構(クランクアーム54、連接バー55)から構成すれば、フィーダ駆動機構37と排出・充填ハンドル36との連動構造が簡単なものとなり、経済的な錠剤成型機1を実現できる。
【0044】
また、粉末の圧縮成型時に上杵6を下降させる上杵駆動機構として、手動式の油圧ポンプ20と、この油圧ポンプ20からの作動油の供給を受けてロッドが上杵6を押し下げる油圧シリンダ10と、から構成し、手動式のロードセル移動ハンドル12により油圧シリンダ10のロッドと上杵6との間、本実施形態では油圧シリンダ10のロッドと硬度調整ダイヤル7との間に着脱自在に装着されるロードセル11を設ける構成とすれば、上杵6の下降時にロードセル11を装着することにより、そのロードセル11の高さ寸法分だけ上杵6の下降ストロークが短くて済むことになり、その分、油圧ポンプ20のポンプレバー20aの傾動操作回数を少なくすることができる。そして、錠剤の圧縮成型完了後、ロードセル移動ハンドル12による簡単な操作でロードセル11を外せば、瞬時に上杵6を粉末フィーダ25と干渉しない位置まで上昇させることができる。
このように、上杵6は、粉末充填時には粉末フィーダ25と干渉しない位置まで上昇させておく必要があるので、言うまでもなく、ロードセル11を油圧シリンダ10のロッドと上杵6との間に固定的に設けた場合は下降ストロークを短くすることはできない。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。本発明は図面に記載されたものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 錠剤成型機
6 上杵
7 硬度調整ダイヤル
10 油圧シリンダ
11 ロードセル
12 ロードセル移動ハンドル
20 油圧ポンプ
22 臼
23 テーブル
25 粉末フィーダ
26 下杵
35 排出・充填機構
36 排出・充填ハンドル
37 フィーダ駆動機構
38 下杵駆動機構
40 連結シャフト
42 入力側カム
43 出力側カム
49 押上レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルに設けられる臼と、テーブルの上面を摺動する粉末フィーダと、臼に充填された粉末を圧縮して錠剤を成型する上杵および下杵と、を備えた錠剤成型機であって、
下杵を上昇させて錠剤を臼の上部開口から排出させる錠剤排出機能および粉末フィーダが臼の上方に位置した状態で下杵を下降させて臼に粉末を落下充填させる粉末充填機能を有する排出・充填機構と、
この排出・充填機構と連結し、切換え操作により錠剤排出機能と粉末充填機能とを切り換えて排出・充填機構を作動させる手動式の排出・充填ハンドルと、
を備えたことを特徴とする錠剤成型機。
【請求項2】
排出・充填機構は、
粉末フィーダを摺動させるフィーダ駆動機構と、
排出・充填ハンドルからの入力伝達経路上に設けられた係脱自在なカム係合部を有し、このカム係合部が係合状態のときカム作用により下杵を上昇させ、離脱状態のとき下杵を下降させる下杵駆動機構と、
を備えて構成され、
排出・充填ハンドルは前後方向および左右方向に傾動自在に構成され、
フィーダ駆動機構は、常に排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作に連動して粉末フィーダを前後摺動させる構造からなり、
下杵駆動機構は、排出・充填ハンドルを左右方向の内の一方向側に倒した状態においては、カム係合部が係合状態となって排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作により下杵を上昇させ、排出・充填ハンドルを左右方向の内の他方向側に倒すと、カム係合部が離脱状態となって下杵を下降させる構造からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の錠剤成型機。
【請求項3】
排出・充填ハンドルの前後方向の傾動操作により左右方向の軸回りに回転する連結シャフトを備え、
下杵駆動機構のカム係合部は、連結シャフトに一体回転可能に取り付けられる入力側カムを有し、
この入力側カムは排出・充填ハンドルとリンク機構を介して接続され、排出・充填ハンドルの左右方向の傾動操作に連動して左右方向に傾動することを特徴とする請求項2に記載の錠剤成型機。
【請求項4】
フィーダ駆動機構は、連結シャフトの回転運動を粉末フィーダの直線運動に変換するクランク機構からなることを特徴とする請求項3に記載の錠剤成型機。
【請求項5】
粉末の圧縮成型時に上杵を下降させる上杵駆動機構は、手動式の油圧ポンプと、この油圧ポンプからの作動油の供給を受けてロッドが上杵を押し下げる油圧シリンダと、を備えて構成され、
手動式のロードセル移動ハンドルにより油圧シリンダのロッドと上杵との間に着脱自在に装着されるロードセルを設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の錠剤成型機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−41726(P2011−41726A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192725(P2009−192725)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(391033207)株式会社富士薬品機械 (2)
【Fターム(参考)】