説明

錠装置

【課題】錠の操作体が損傷しても、その係止部を代替操作することにより引き戸の施錠、解錠が可能で、かつ、意匠性にも優れた錠装置を提供することである。
【解決手段】長孔状の開口部11を有する表面板1と、この表面板1の裏側で前記開口部11の長手方向に沿ってスライド動作される動作板2と、この動作板2に結合固定されて前記開口部11から前記表面板1の表側に突設される操作体4と、を備えてなり、前記動作板2のスライド動作に連動して錠片5が施錠位置と解錠位置との間を往復動作するようになした錠装置であって、前記動作板2には前記操作体4を結合固定するための係止部21が形成されており、この係止部21から前記操作体4が欠落した場合に、同係止部21を外部から指先を引っ掛けて操作されるよう前記開口部11から表側へ露出するように設けた錠装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は錠の構造に関する。さらに詳しくは、浴室、トイレ等の屋内のプライベート空間に不意に人が入ったり、不在と誤認して引き戸等を開けることを防止するための錠装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、戸建住宅、マンション等の屋内において、リビングルームや廊下等、家族の共通スペースと屋内の浴室、脱衣室、トイレ等のプライベート空間との間仕切りに、例えば浴室内(室内)からサムターンを操作して施錠し、外側(室外)から戸が開かないように内鍵でロックできる浴室用引き戸が知られている。
【0003】
上記サムターン錠は、屋外側からはキーを用いて施錠・解錠するとともに、屋内側から例えばレバー式のサムターンを回動させてデッドボルトを引き戸の側端面から出没させ、施錠・解錠する形式であり、浴室用引き戸のみならず防犯を目的としたドア錠等としても使用されている。
【0004】
一方、上記デッドボルトに替えて鍵爪を用いる引き戸錠も提案されている。例えば、特開2007−46259号公報には、上下方向に移動する引き戸錠操作部と該引き戸錠操作部の操作に連動して上下に変移する表示板とを備え、引き戸錠操作部を引き戸の一方の面に設け、表示板を引き戸の他方の面に設けてなる引き戸錠において、引き戸錠操作部と表示板とは取付箇所を二段階調整可能であり、引き戸錠に設けられた状態表示部の表示板による表示を選択可能とした引き戸錠が開示されている。
【0005】
上記引き戸錠が装着される引き戸は、大別してリビングルームの入り口や部屋と部屋との単なる間仕切りに用いられ、引き戸錠の施錠状態表示部の表示板に何らの表示を必要としない用途と、家族の共通スペースと屋内の浴室、脱衣室、トイレ等のプライベート空間との間仕切りに用いられ、上記施錠状態表示部に「使用中」「入浴中」等の表示を必要とする用途において使用される。
【0006】
上記公報には、上記引き戸の使い分けを二段階で調整し、引き戸錠に設けられた状態表示部の表示板による表示を上記二つの用途から選択可能とした引き戸錠が示されている。
【0007】
そして、上記引き戸錠を用いることによって、施工現場で上記の用途に応じて表示板による表示の使い分けができるため、施工段階で二種類の引き戸錠を準備する必要がなく、またデザインや操作を統一して効率よく引き戸錠の商品管理を行える等の効果があると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−46259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の引き戸錠においては、引き戸錠操作部と連結している操作軸の先端に表示板が取り付けられているため、繰り返し使用や経年劣化、引き戸錠操作部への予想外の衝撃等、種々の要因によって引き戸錠操作部が壊れた場合、操作軸、表示板を含めて引き戸錠全体を取り換える必要がある。また、必ずしも意匠的に優れている引き戸錠とはいいがたい。
【0010】
本願発明はこのような状況に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、上記した種々の要因によって引き戸錠操作部が破損したり欠落したりしたときでも、引き戸錠操作部の一カ所を代替操作して引き戸の施錠と解錠が可能とされ、かつ意匠性にも優れた引き戸の錠装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願請求項1に記載の発明に係る錠装置では、長孔状の開口部を有する表面板と、この表面板の裏側で前記開口部の長手方向に沿ってスライド動作される動作板と、この動作板に結合固定されて前記開口部から前記表面板の表側に突設される操作体と、を備えてなり、前記動作板のスライド動作に連動して錠片が施錠位置と解錠位置との間を往復動作するようになした錠装置であって、前記動作板には前記操作体を結合固定するための係止部が形成されており、この係止部から前記操作体が欠落した場合に、同係止部を外部から指先を引っ掛けて操作されるよう前記開口部から表側へ露出するように設けたことを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に記載の発明に係る錠装置では、前記操作体を合成樹脂で形成し、前記動作板を前記係止部と一体に金属板で形成したことを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に記載の発明に係る錠装置では、請求項1または請求項2記載の錠装置において、前記係止部を前記開口部から表側へ突設するよう凸状片に形成し、同係止部が挿入係止される凹部を前記操作体に形成し、前記係止部が前記凹部に挿入係止されて前記操作体が前記動作板に結合固定されるようになしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1記載の発明に係る錠装置においては、スライド動作する動作板と、この動作板に結合固定され、かつ表面板の長孔状の開口部から表側に突設される操作体とを備えてなり、上記動作板のスライド動作に連動して錠片が施錠位置と解錠位置との間を往復動作するとともに、上記動作板には上記操作体を結合固定するための係止部が形成されているため、この係止部から上記操作体が欠落したときでも、係止部を指先で操作することにより、操作体の代替として緊急使用できる。
【0015】
また、上記のようにして指先で操作することにより、予備の操作体が調達できるまでの間、係止部を操作体の代替として使用できる。このようにして、しばらくの間、操作体がなくても施錠あるいは解錠を容易に行え、浴室等のプライバシーを保つことができる。
【0016】
本願請求項2記載の発明に係る錠装置においては、上記係止部と動作板とを金属板で一体に形成し、上記操作体を合成樹脂で形成することにより、合成樹脂の持つ特性によって操作体の手触りが暖かなものとなり、かつ腐食しにくくすることができる。さらに、合成樹脂を種々のデザインに成形することによって意匠性に優れたものとすることができるとともに、損傷した場合でも安価に取り替えることができる。
【0017】
本願請求項3記載の発明に係る錠装置においては、上記係止部を上記開口部から表側へ突設するよう凸状片に形成し、係止部が挿入係止される凹部を前記操作体に形成しているため、操作体の係止部への結合固定が、凸状片である係止部を操作体の凹部に圧入挿入係止するだけでよく、その結合固定操作が容易である。
【0018】
また、凸状片の係止部が操作体の凹部にしっかりと挿入係止しているため、操作体が係止部から欠落することはなく、また、簡単な構造で操作体のスライド移動を動作板に伝達して動作板をスライド移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明に係る錠装置の構成を示す分解斜視図。
【図2】本願発明に係る錠装置の要部の構成を示す断面説明図。
【図3】(a)本願発明に係る錠装置を施錠するときの動作を示す説明図。(b)本願発明に係る錠装置を解錠するときの動作を示す説明図。
【図4】本願発明に係る錠装置の他の実施形態の構成を示す部分説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願発明に係る錠装置の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、上記錠装置の構成を示す分解斜視図である。図2は、上記錠装置の要部の構成を示す断面説明図である。同図において、引き手8aと引き手8bとは、図外引き戸の端面に装着される。図1において手前側に図示される引き手8aは、例えば浴室内(室内)に位置し、その後方側に図示される引き手8bは浴室外(室外)に位置する状態を示す。
【0021】
上記錠装置は、長孔状の開口部11を有する引き手8aの表面板1と、この表面板1の裏側で前記開口部11の長手方向に沿ってスライド動作される動作板2と、この動作板2に結合固定されて上記開口部11から上記表面板1の表側に突設される操作体4とを備えてなり、上記動作板2の上下スライド移動に連動して錠片5が施錠位置と解錠位置との間を往復動作するようにされている。
【0022】
また、上記動作板2には操作バー3が付設されており、この操作バー3は動作板2の上下動の直線的な動作を錠片5に伝達し、回動軸51を軸心として錠片5を回動させ、錠片5の先端掛止部で施錠、解錠が行われる。符号6は表示シートを示し、表示シート6を動作板2の裏側に貼着することによって引き手8bに設けられた表示窓7から表示シート6に印刷された表示を室外から視認することができる。
【0023】
図1、図2に示すように、上記動作板2に形成された係止部21は、上記開口部11から表側(浴室内)に突設するように凸状片に形成され、また上記操作体4には凹部41が内設され、係止部21を凹部41に挿入係止することによって操作体4と係止部21とはしっかりと結合し、かくして操作体4と動作板2とは結合、固定される。
【0024】
ここで、操作体4は係止部21とは別体に形成されているため、操作体4の繰り返し使用により操作体4が破損したり欠落したりした場合においても、係止部21を外部から指先で引っ掛けて操作することによって操作体4の代替として使用することができる。従って、新しい操作体4が調達され再び正常位置に結合固定されまでの故障中期間であっても係止部21を操作することにより施錠と解錠とを行うことが可能であり、支障なく引き戸の開閉を行って浴室のプライバシーを保つことができる。
【0025】
図3(a)は、本願発明に係る錠装置を施錠するときの動作を示す説明図である。入浴者が浴室に入り、図2に示す操作体4を引き上げると、図3(a)に上向き矢印で示すように、動作板2は上方にスライド移動する。このとき、動作板2に設けられた操作バー3も上方に直線的に移動すると共に回動軸51を軸心にして錠片5は矢印で示すように下方に回動し、錠片5の先端掛止部は下降する。
【0026】
上記下降した先端掛止部は、図外引き戸の戸当たり面に凹設されてこの先端掛止部を受けるための受け部に掛止する。上記先端掛止部と受け部がロックすることによって本願発明に係る錠装置は施錠され、引き戸は閉状態に保たれる。
【0027】
ここで、上記動作板2の裏側すなわち室外側の面に、図1に示す表示シート6(例えば「入浴中」等と印刷された表示シート6)を貼着しておけば、動作板2を上方にスライド移動すると同時に動作板2の裏側に上記「入浴中」の表示が現れる。この表示は図外引き戸の室外側の引き手8bに開口された表示窓7から容易に視認可能であり、このようにすることによって、浴室外から入浴者がいることを確認することができ、誤認して他の人が浴室に入ることを防げる。
【0028】
図3(b)は本願発明に係る錠装置を解錠するときの動作を示す説明図である。入浴を終え、上記錠装置のロックを解除するときは、図3(b)に下向き矢印で示すように操作体4を下方に押し下げる。このとき同時に操作バー3は、図3(a)に示す位置から直線的に下降し、錠片5は回動軸51を軸心にして矢印で示すように上方に回動し、錠片5の先端掛止部は跳ね上げられて前記した先端掛止部をロックした受け部から外れる。このようにして本願発明に係る錠装置は解錠され引き戸は開閉自在となる。
【0029】
なお、とくに「入浴中」等の表示を必要としない場合は表示シートを貼着する必要はなく、このとき表示窓7からは動作板2の裏側が見えるのみである。
【0030】
ここで、上記操作体4を合成樹脂で形成し、上記動作板2と係止部21とを金属板で一体に形成することも可能であり、例えば、外部からの衝撃によって操作体4が損傷した場合でも、合成樹脂製であるため安価に取り換えることができる。また、操作体4を合成樹脂製とすることによって、手触りがよく、かつ腐食しにくく、種々の希望するデザインに意匠性よく成形された操作体4とすることができる。また、動作板2と係止部21とを金属板で一体に形成する場合、係止部21は切り起こし加工によって簡単に形成される。
【0031】
図4は、本願発明の錠装置の他の実施形態を示す部分説明図である。図4において、操作体4の動作板2側には、図1、図2に示す凹部41に替えて係合突起42が設けられている。また、動作板2の上記係合突起42に対応する位置に係合孔部(係止部)22が形成され、この係合孔部22に係合突起42が挿入、係止される。
【0032】
上記係合突起42を係合孔部22に挿入、係止することにより、図1、図2における係止部21を凹部41に挿入係止する形態と同様に、操作体4と動作板2とをしっかりと結合、固定することができる。
【0033】
上記実施形態はプライベートな空間として浴室を例として説明したが、浴室のみならずトイレの開閉戸に適用してもよい。また、表示シート6を貼着することなく、プライバシー保護の必要のないリビングルームと廊下の間仕切り等に用いてもよい。このように本願発明は設計変更自在であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、本願発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1 表面板
11 開口部
2 動作板
21 係止部
22 係合孔部(係止部)
3 操作バー
4 操作体
41 凹部
42 係合突起
5 錠片
51 回動軸
6 表示シート
7 表示窓
8a 浴室内(室内)に位置する引き手
8b 浴室外(室外)に位置する引き手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長孔状の開口部を有する表面板と、この表面板の裏側で前記開口部の長手方向に沿ってスライド動作される動作板と、この動作板に結合固定されて前記開口部から前記表面板の表側に突設される操作体と、を備えてなり、前記動作板のスライド動作に連動して錠片が施錠位置と解錠位置との間を往復動作するようになした錠装置であって、前記動作板には前記操作体を結合固定するための係止部が形成されており、この係止部から前記操作体が欠落した場合に、同係止部を外部から指先を引っ掛けて操作されるよう前記開口部から表側へ露出するように設けたことを特徴とする錠装置。
【請求項2】
前記操作体を合成樹脂で形成し、前記動作板を前記係止部と一体に金属板で形成したことを特徴とする請求項1記載の錠装置。
【請求項3】
前記係止部を前記開口部から表側へ突設するよう凸状片に形成し、同係止部が挿入係止される凹部を前記操作体に形成し、前記係止部が前記凹部に挿入係止されて前記操作体が前記動作板に結合固定されるようになしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の錠装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−225099(P2012−225099A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95354(P2011−95354)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)