説明

録音装置

【課題】この発明は、音声認識に適した音声信号を記録することができるとともに、音響条件等の変化に応じて録音レベルを調整することが可能な録音装置を提供することを目的とする。
【解決手段】録音装置は、可変ゲインアンプのゲインを設定するゲイン設定手段と、録音開始指令を入力するための入力手段と、録音開始指令が入力される毎に、所定の一定時間、録音動作を実行させる録音制御手段とを含んでいる。ゲイン設定手段は、過去の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、今回の録音時における可変ゲインアンプのゲインを設定し、今回の録音が終了するまでは、設定されたゲインを維持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、録音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、装着型センサや環境設置型センサから構成されるセンサ・ネットワークによりユーザの日常行動・状況を理解し、これに基づき有用な知識を構築してその知識を広く提供するシステムの実現を目指している。その応用事例として、看護師の看護活動を計測し、チームの活動全体を知識として共有しながら事故に至る可能性を発見し、これを防止するために知識提示を行う手法の開発を進めている(特許文献1、2および非特許文献1参照)。
【0003】
看護師の看護活動を計測するために構築されるセンサ・ネットワークは、看護師が装着する装着型センサや、環境に設置される環境設置型センサから構成される。装着型センサは、看護師個人の行動・状況に関する局所的な情報を取得する。環境設置型センサは、複数の看護師の間でのインタラクションや看護師の配置などに関する大局的な情報を取得する。
【0004】
環境設置型センサには、看護師の位置を検出するための通過センサ、近接検出センサ等がある。装着型センサには、たとえば、看護師の動作を検知するための加速度センサ、看護師の発話を録音するためのマイクロフォン、RFIDタグを読み取るためのRFIDタグ・リーダ等がある。加速度センサ、マイクロフォン、RFIDタグ・リーダ等の装着型センサは、看護師に装着される小型装着型機器に電気的に接続される。
【0005】
各環境設置型センサは、たとえば、有線ネットワークを介して、センサ・ネットワークの管理や各種データの保持を行うサーバに接続される。各装着型センサによって検出された情報は、たとえば、小型装着型機器、無線ネットワークおよび有線ネットワークを介して、前記サーバに送られる。
【0006】
なお、このようなシステムにおいては、看護師の発話の録音は、看護師のプライバシーを確保する観点から、看護師による所定の録音操作が行なわれる前後に、比較的短い時間(例えば、10秒間)だけ行われる。具体的には、看護師がある行動を行なう前またはある行動を完了した後に、録音ボタンを押し、「鈴木さんのベッドバスを行います。」または「鈴木さんのベッドバスを行いました。」と発声する。小型装着型機器は、録音ボタンが押されてから10秒が経過するまでの期間、それに電気的に接続されたマイクロフォンから入力される音声を録音する。
【0007】
小型装着型機器によって録音された看護師の音声は、小型装着型機器無線、ネットワークおよび有線ネットワークを介して、サーバに送られる。サーバは、受信した音声データを保存するとともに当該音声データに対して音声認識を行う。この音声認識により、サーバは、看護師の発話内容を文字データとして取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-242067号公報
【特許文献2】特開2006-215680号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】野間 春生、 大村 廉、納谷 太、宮前 雅一、鳥山 朋二、小暮 潔、“センサ・ネットワークにおける個人の行動計測のための小型装着型機器の開発”,信学技報,vol.107,no.152, USN2007-27,pp,29-34,2007年7月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記システムのように、音声を身体に装着したマイクロフォンで録音する場合、装着者の移動に伴い、ノイズや反響などの音響条件が大きく変わる。録音される音声を人間が聞くことを目的として録音が行なわれる場合には、音響条件の変化に対応する方法として、自動ゲイン制御(AGC:Auto Gain Control)によって、適切な録音レベルとなるように録音ゲインがリアルタイムにかつ自動的に調整される手法が広く実用化されている。
【0011】
例えば、人間は多くの場合、自分が居る場所の騒音に合わせて、発話する音声の大きさを調整する。このため、周囲騒音が大きい場合には、入力音声レベルが大きくなるので、AGCにより、信号全体のレベルが下げられる。一方、入力音声レベルが小さい場合には、AGCにより、信号全体のレベルが上げられる。
【0012】
しかしながら、前述したシステムのように、音声認識によって看護師の発話内容を文字データとして取得することを目的としている場合には、従来のAGC制御をそのまま適用すると、次のような問題が生じる。
【0013】
第一は、録音中の音響条件の変化に起因して発生する問題である。例えば、図10に示すように、音声を録音している途中(a点)で、近くを電車が通過したために、そのノイズによって入力音声レベルが過大となったとする。入力音声レベルが過大となると、AGCにより録音ゲインが下げられる(b点)。このように、入力音声レベルに応じて録音ゲインが直ちに調整されるので、人間が聞く目的では録音レベルは適正範囲に調整されるが、一方で録音音声(人間の発声音および雑音)のレベルがひとまとまりの発話の中で変動することによって、音声認識精度が低下してしまう。
【0014】
第二は、録音中の発話の極端な音量変化に起因して発生する問題である。前述した「鈴木さんのベッドバスを行います。」のような短い発話においても、「鈴木さんの」という発話の音量(声の大きさ)と、「ベッドバスを行ないます」という発話の音量(声の大きさ)が異なると、AGCが働き、録音ゲインが調整される。そうすると、前記第一の問題と同様な理由により、音声認識精度が低下してしまう。
【0015】
この発明は、音声認識に適した音声信号を記録することができるともに、音響条件等の変化に応じて録音レベルを調整することが可能な録音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、マイクロフォンと、前記マイクロフォンから入力される音声信号を増幅する可変ゲインアンプと、前記可変ゲインアンプから得られる音声信号を記録する記録手段とを含む録音装置であって、前記可変ゲインアンプのゲインを設定するゲイン設定手段と、録音開始指令を入力するための入力手段と、録音開始指令が入力される毎に、所定の一定時間、録音動作を実行させる録音制御手段とを含み、前記ゲイン設定手段は、過去の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインを設定し、今回の録音が終了するまでは、設定されたゲインを維持させるものであることを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載の発明では、録音中において、音響条件が変化したり、発話の音量が変化しても、録音中においては、可変ゲインアンプのゲイン(録音ゲイン)が調整されない
ので、音声認識に適した音声信号を記録させることができる。一方、過去の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、今回の録音時における録音ゲインが設定されるので、たとえば、音響条件が変化した場合には、その音響条件での最初の録音では当該音響条件に適した録音ゲインが得られなくても、当該音響条件での二回目以降の録音時には当該音響条件に適した録音ゲインが得られるようになる。つまり、音響条件等の変化に応じて録音レベルを調整することが可能となる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の録音装置において、前記ゲイン設定手段は、前回の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、前回の録音時に記録された音声信号全体に対する音声レベルを判定し、その判定結果に基づいて、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインを設定するものであることを特徴とする。請求項2に記載の発明においても、請求項1に記載の発明と同様な効果が得られる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、前記ゲイン設定手段は、前回の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、前回の録音時で記録された音声信号全体に対する音声レベルが大レベル、中レベルおよび小レベルのいずれであるかを判定する手段と、前記音声レベルが大レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインより小さな値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定し、前回の録音時での音声レベルが小レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインより大きな値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定し、前回の録音時での音声レベルが中レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインと同じ値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定する手段と、を含むことを特徴とする。請求項3に記載の発明においても、請求項1に記載の発明と同様な効果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、音声認識に適した音声信号を記録することができるとともに、音響条件等の変化に応じて録音レベルを調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】看護師の看護活動を計測するためのシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】小型装着型機器1の構成を示すブロック図である。
【図3】小型装着型機器1が看護師に装着された様子を示す模式図である。
【図4】音声入力回路22およびその周辺部を示す電気回路図である。
【図5】録音開始指令が入力された際に、CPU20によって実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】ゲイン設定処理を説明するための説明図である。
【図7】各小区間毎に行われる一次判定処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】録音データ内の全ての小区間に対する一次判定結果に基づいて行なわれる二次判定処理および二次判定処理結果に基づいて行なわれるゲイン調整処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】ゲイン設定処理の具体例を説明するための説明図である。
【図10】従来のAGC動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、この発明を看護師の看護活動を計測するためのシステムに適用した場合の実施の形態について説明する。
[1]システム構成
図1は、看護師の看護活動を計測するためのシステムを示している。
【0023】
看護師の看護活動を計測するためのシステムは、センサ・ネットワークを用いて、看護師毎に、位置、行為(腕の動き等)、発話内容等の情報を収集することにより、看護師の看護活動を計測する。図1においては、看護師の発話内容以外の情報の収集に関係する部分は省略されている。以下、看護師の発話内容の情報の収集に関係する構成および動作について説明する。
【0024】
看護師の看護活動を計測するためのシステムは、小型装着型機器(録音装置)1、ネットワーク2、サーバ3等を備えている。サーバ3は、ネットワーク2に接続されている。ネットワーク2は、この実施形態では、有線LAN(ローカルエリアネットワーク)等の有線ネットワークである。そして、小型装着型機器1と、ネットワーク2とは、無線LAN等の無線ネットワークを介して接続される。
【0025】
小型装着型機器1は複数存在している。そして、看護師毎に小型装着型機器1が割り当てられている。小型装着型機器1は、看護師に装着される。小型装着型機器1は、看護師の発話音声を録音する機能、録音した音声を無線ネットワークを介してネットワーク2に送信する機能等を備えている。小型装着型機器1によって録音された音声データは、無線ネットワーク(無線LAN)およびネットワーク(有線LAN)2を介してサーバ3に送られる。サーバ3は、小型装着型機器1からの音声データを保存する。また、サーバ3は、保存した録音データに対して音声認識を行うことにより、看護師の発話内容を文字データとして取得する。
[2]小型装着型機器1
図2は、小型装着型機器1の構成を示している。
【0026】
小型装着機器1は、CPU20を含む。CPU20には、メモリ(記録手段)21、音声入力回路22、録音ボタン(押ボタンスイッチ)23、インターフェイス24、時計装置25、DIPスイッチ26、カードスロット27等が接続されている。録音ボタン23は、CPU20に録音開始指令を入力するための録音開始指令入力手段として設けられている。
【0027】
メモリ22には、CPU20のプログラム、その他必要なデータが記憶される。音声入力回路22には、看護師の発話音声を録音するためのヘッドセットマイク(マイクロフォン)41が接続される。ヘッドセットマイク41としては、看護師の音声以外の音をできるだけ除去して、看護師の音声を検出できるように、指向性を有するものが用いられる。音声入力回路22の詳細については、後述する。
【0028】
CPU20は、録音ボタン23からの入力に応じて、録音を開始させる。つまり、録音ボタン23が看護師によって押下げられると、録音ボタン23から録音開始指令がCPU20に入力される。CPU20は、録音開始指令が入力すると、ヘッドセットマイク41をオンして録音を開始させ、所定の一定時間が経過すると、ヘッドセットマイク41をオフして録音を停止させる。所定の一定時間は、この実施形態では、10秒に設定されている。つまり、CPU20は、録音開始指令が入力される毎に、10秒間、録音を行なう。
【0029】
このように、看護師の操作に基づいて所定の一定時間だけ録音を行なうようにしているのは、看護師のプライバシーを確保するためである。この実施形態では、録音開始指令入力手段として録音ボタン23が設けられているが、看護師の操作または動作によって録音開始指令をCPU20に入力できる入力手段であれば、録音開始指令入力手段として用いることができる。例えば、録音開始指令入力手段として、メカニカルスイッチの他、磁気スイッチ,光電スイッチ等のスイッチや、焦電センサ等のセンサを用いることができる。
【0030】
インターフェイス24は、無線LANアダプタのような無線インターフェイスである。
このインターフェイス24を使用することにより、小型装着型機器1を例えば無線LANを介してネットワーク3に接続することが可能となる。したがって、小型装着型機器1は、ネットワーク3を介してサーバ3と通信することができる。
【0031】
時計装置25は、時刻データを生成するための装置である。DIPスイッチ26は、例えば、看護師の識別情報(看護師ID)を設定するためのスイッチである。DIPスイッチ26により、たとえば、8ビットの数値からなる看護師IDを設定することができる。カードスロット27には、各種データを保存するためのメモリカード28が装着される。
【0032】
小型装着型機器1におけるヘッドセットマイク41および録音ボタン23以外の部分は、機器本体ケース50に収容されている。
【0033】
図3は、小型装着型機器1が看護師に装着された様子を示している。機器本体ケース50は、看護師の白衣の前ポケットに収納される。録音ボタン23は、ペン型のケースに収容され、白衣の胸ポケットに収納される。ヘッドセットマイク41は、看護師の頭部に装着される。
[3]音声入力回路22
図4は、音声入力回路22およびその周辺部を示している。
【0034】
音声入力回路22は、ヘッドセットマイク41から入力する音声信号を増幅するゲイン可変アンプ(可変利得増幅回路)42と、ゲイン可変アンプ42から出力されるアナログの音声信号をデジタルの音声データに変換するA/D変換器43とを備えている。
【0035】
録画開始指令がCPU20に入力されると、ヘッドセットマイク41がオンされ、録音が開始される。マイク41から出力される音声信号は、アンプ42によって増幅された後、A/D変換器43によってデジタルの音声データに変換される。この実施形態では、A/D変換器43のサンプリングレートは、16KHzであり、分解能は16bit(65536ステップ,±32768段階)である。
【0036】
A/D変換器43によって得られた音声データ(PCMデータ)は、CPU20に送られる。CPU20に送られた音声データは、メモリ21に一時的に保存される。このような動作が10秒間行なわれた後、マイク41がオフされ、録音が停止される。なお、アンプ42のゲイン(録音ゲイン)は、CPU20によって設定される。
[4]CPU20の処理
図5は、録音開始指令が入力された際に、CPU20によって実行される処理の手順を示している。
【0037】
録音開始指令が入力されると(ステップS1)、CPU20は、録音を開始させる(ステップS2)。そして、CPU20は、A/D変換器43からCPU20に与えられる音声データをメモリ21に保存する(ステップS3)。録音を開始してから所定の一定時間(この実施形態では10秒)が経過すると(ステップS4でYES)、録音を終了する(ステップS5)。
【0038】
録音を終了すると、CPU20は、音声データの送信処理(ステップS6)、音声データの圧縮・保存処理(ステップS7)および次回の録音時のためのゲイン設定処理(ステップS8)を行なう。
【0039】
ステップS6の音声データの送信処理では、CPU20は、メモリ21に保存した音声データ(非圧縮音声データ)に、看護師ID、時刻データ等の付加データを付加することによって送信データを生成し、生成した送信データをインターフェイス24、ネットワー
ク2を介してサーバ3に送信する。サーバ3は、小型装着型機器1からのデータを受信すると、記憶装置に保存する。また、サーバ3は、記憶装置に保存した前記受信データに含まれている音声データに対して音声認識処理を行うことにより、前記受信データ内の看護師IDに対応する看護師の発話内容を文字データとして取得する。
【0040】
ステップS7の音声データの圧縮・保存処理では、CPU20は、メモリ21に保存された音声データを、例えばMP3形式の圧縮データに変換する。そして、得られた圧縮音声データをメモリカード28に保存する。
【0041】
ステップS8のゲイン設定処理では、CPU20は、今回の録音によってメモリ21に保存された音声データに基づいて、次回の録音時に採用すべきアンプ42のゲイン(録音ゲイン)を決定し、決定したゲイン値をアンプ42に設定する。なお、録音中においては、録音ゲインは変更されない。以下、ゲイン設定処理について、詳しく説明する。
[5]ゲイン設定処理
ゲイン設定処理では、図6に示すように、今回の録音によってメモリ21に保存された10秒間の音声データ(録音データ)の区間が、例えば10msec単位の小区間に分割される。そして、CPU20は、各小区間毎に、レベル判定処理(一次判定処理)を行なう。全ての小区間についてレベル判定処理が終了すると、全ての小区間それぞれに対するレベル判定結果に基づいて、録音データ全体のレベル判定処理(二次判定処理)を行なう。そして、録音データ全体のレベル判定結果に基づいて、アンプ42のゲイン(録音ゲイン)を調整する。
【0042】
図7は、各小区間毎に行われる一次判定処理の手順を示している。
【0043】
およびKは、それぞれ大レベルおよび小レベル判定用のソフトカウンタとして用いられる変数である。d(n=1,2,3,…,N)は、小区間内のn番目のサンプリングデータの絶対値(0〜32767)を表している。nは、小区間内のサンプリングデータの番号を表す変数である。Nは、小区間内のサンプリングデータの総数を表している。
【0044】
まず、CPU20は、K,Kをリセット(零)とする(ステップS11)。また、CPU20は、変数nに1を設定する(ステップS12)。CPU20は、サンプリングデータの絶対値dが大レベル判定用の閾値Uthより大きいか否かを判定する(ステップS13)。この実施形態では、Uthは、例えば、31000に設定される。d>Uthであれば(ステップS13でYES)、CPU20は、カウント値Kを1だけインクリメントした後(ステップS14)、ステップS15に進む。d≦Uthであれば(ステップS13でNO)、CPU20は、何ら処理を行なうことなく、ステップS15に進む。
【0045】
ステップS15では、CPU20は、サンプリングデータの絶対値dが小レベル判定用の閾値Lthより大きいか否かを判定する。この実施形態では、Lthは、例えば、2000に設定される。d>Lthであれば(ステップS15でYES)、CPU20は、カウント値Kを1だけインクリメントした後(ステップS16)、ステップS17に進む。d≦Lthであれば(ステップS15でNO)、CPU20は、何ら処理を行なうことなく、ステップS17に進む。
【0046】
ステップS17では、CPU20は、小区間内のサンプリング番号nが、小区間内のサンプリングデータの総数Nに達したか否かを判別する。n<Nであれば(ステップS17でNO)、nを1だけインクリメントした後(ステップS18)、ステップS13に戻る。そして、ステップS13〜S17の処理を行なう。
【0047】
当該小区間内の全てのサンプリングデータdに対して、ステップS13〜ステップS17の処理が行なわれると、ステップS17でYESとなり、ステップS19に移行する。ステップS19では、CPU20は、次式(1)で示される条件が満たされるか否かを判別する。
【0048】
(K/N)×100>URth …(1)
つまり、CPU20は、当該小区間において、大レベル判定用閾値Uthを越えたサンプリングデータの割合[%]が、閾値URth[%]より大きいか否かを判別する。この実施形態では、URthは、例えば1[%]に設定される。CPU20は、上記式(1)の条件を満たすと判別した場合(当該小区間において、大レベル判定用閾値Uthを越えたサンプリングデータの割合が閾値URthより大きい場合)には(ステップS19でYES)、当該小区間の音声レベルは、大レベルであると判定する(ステップS20)。
【0049】
前記ステップS19において、CPU20が、上記式(1)の条件を満たさないと判別した場合(当該小区間において、大レベル判定用閾値Uthを越えたサンプリングデータの割合が閾値URth以下の場合)には(ステップS19でNO)、CPU20は、次式(2)で示される条件が満たされるか否かを判別する(ステップS21)。
【0050】
(K/N)×100<LRth …(2)
つまり、CPU20は、当該小区間において、小レベル判定用閾値Lthを越えたサンプリングデータの割合[%]が、閾値LRth[%]より小さいか否かを判別する。この実施形態では、LRthは、例えば10[%]に設定される。CPU20は、上記式(2)の条件を満たすと判別した場合(当該小区間において、小レベル判定用閾値Lthを越えたサンプリングデータの割合が閾値LRthより小さい場合)には(ステップS21でYES)、当該小区間の音声レベルは、小レベルであると判定する(ステップS22)。
【0051】
前記ステップS21において、CPU20が、上記式(2)の条件を満たさないと判別した場合(当該小区間において、小レベル判定用閾値Lthを越えたサンプリングデータの割合が閾値LRth以上の場合)には(ステップS21でNO)、当該小区間の音声レベルは、中レベルであると判定する(ステップS23)。
【0052】
図8は、録音データ内の全ての小区間に対する一次判定結果に基づいて行なわれる二次判定処理および二次判定処理結果に基づいて行なわれるゲイン調整処理の手順を示している。
【0053】
まず、CPU20は、録音データ内の全小区間の中に、音声レベルが大レベルであると判定された小区間が一つでも存在するか否かを判別する(ステップS31)。音声レベルが大レベルであると判定された小区間が一つでも存在する場合には(ステップS31でYES)、CPU20は、今回録音された発話全体の音声レベルは大レベルであると判定し、アンプ42の録音ゲインの値を所定量だけ下げる(ステップS32)。
【0054】
前記ステップS31において、音声レベルが大レベルであると判定された小区間が存在しないと判別した場合には(ステップS31でN0)、CPU20は、録音データ内の全ての小区間の音声レベルが小レベルであると判定されているか否かを判別する(ステップS33)。録音データ内の全ての小区間の音声レベルが小レベルであると判定されている場合には(ステップS33でYES)、CPU20は、今回録音された発話全体の音声レベルは小レベルであると判定し、録音ゲインの値を所定量だけ上げる(ステップS34)。なお、録音ゲインの値を所定量だけ上げる場合の増加用所定量と、録音ゲインの値を所定量だけ下げる場合の低下用所定量とは、同じ量であってもよいし、異なる量であってもよい。
【0055】
前記ステップS33において、録音データ内の全小区間中に、音声レベルが小レベル以外のレベルであると判定された小区間が存在している、と判別した場合には(ステップS33でNO)、CPU20は、今回録音された発話全体の音声レベルは中レベルであると判定し、録音ゲインの値を現状のまま維持させる(ステップS35)。
【0056】
ゲイン制御の具体例について説明する。図9は、看護師の発話が、A、B、C、Dの順番で録音された場合の、録音音声波形と録音ゲインとを示している。
【0057】
A、B、C、Dの発話内容は、次の通りである。
【0058】
A:“鈴木さんの点滴準備します“
B:“鈴木さんの点滴実施します”
C:“鈴木さんのバイタル観察します”
D:ナースコール対応します“
発話Aの録音データに対しては、音声レベルが大レベルと判定されたため、発話Aの録音終了後に録音ゲインが所定量だけ下げられている。発話Bの録音データに対しては、音声レベルが中レベルと判定されたため、発話Bの録音終了後に録音ゲインは変更されない。発話Cの録音データに対しては、音声レベルが小レベルであると判定されたため、発話Cの録音終了後に録音ゲインが所定量だけ上げられている。
【0059】
本実施形態では、録音中において音響条件が変化したり、発話の音量が変化しても、録音中においては録音ゲインが調整されないので、音声認識に適した録音データが得られる。一方、本実施形態では、今回の録音データに基づいて、次回の録音時の録音ゲインが決定される。言い換えれば、前回の録音データに基づいて、今回の録音時の録音ゲインが決定される。したがって、本実施形態では、たとえば、看護師の移動により音響条件が大きく変化した場合には、その音響条件(その場所)での最初の録音では当該音響条件に適した録音ゲインが得られなくても、当該音響条件(当該場所)での二回目以降の録音時には当該音響条件に適した録音ゲインが得られるようになる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、録音ゲインを下げる場合の低下量は一定量であり、録音ゲインを上げる場合の増加量も一定量であるが、これらの低下量や増加量を録音データに応じて変化させるようにしてもよい。また、前述の実施形態では、前回の録音データに基づいて、今回の録音時の録音ゲインが決定されているが、前回の録音データに限らず、過去の録音データに基づいて、今回の録音時の録音ゲインを決定すればよい。例えば、過去複数回の録音時の録音データに基づいて、今回の録音時の録音ゲインを決定するようにしてもよい。
【0061】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0062】
また、この発明は、看護師の看護活動を計測するためのシステムで用いられている小型装着型機器以外の録音装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…小型装着型機器(録音装置)
20…CPU
21…メモリ(記録手段)
22…音声入力回路
41…ヘッドセットマイク(マイクロフォン)
42…ゲイン可変アンプ
43…A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロフォンと、前記マイクロフォンから入力される音声信号を増幅する可変ゲインアンプと、前記可変ゲインアンプから得られる音声信号を記録する記録手段とを含む録音装置であって、
前記可変ゲインアンプのゲインを設定するゲイン設定手段と、録音開始指令を入力するための入力手段と、録音開始指令が入力される毎に、所定の一定時間、録音動作を実行させる録音制御手段とを含み、
前記ゲイン設定手段は、過去の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインを設定し、今回の録音が終了するまでは、設定されたゲインを維持させるものであることを特徴とする、録音装置。
【請求項2】
前記ゲイン設定手段は、前回の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、前回の録音時に記録された音声信号全体に対する音声レベルを判定し、その判定結果に基づいて、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインを設定するものであることを特徴とする、請求項1記載の録音装置。
【請求項3】
前記ゲイン設定手段は、
前回の録音時において記録手段に記録された音声信号に基づいて、前回の録音時で記録された音声信号全体に対する音声レベルが大レベル、中レベルおよび小レベルのいずれであるかを判定する手段と、
前記音声レベルが大レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインより小さな値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定し、前回の録音時での音声レベルが小レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインより大きな値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定し、前回の録音時での音声レベルが中レベルである場合には、前回の録音時での前記可変ゲインアンプのゲインと同じ値を、今回の録音時における前記可変ゲインアンプのゲインとして設定する手段と、を含むことを特徴とする請求項2記載の録音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−230809(P2010−230809A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76023(P2009−76023)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人情報通信研究機構「民間基盤技術研究促進制度/日常行動・状況理解に基づく知識共有システムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)