説明

鍋物調理用調味料

【課題】鍋物調理開始から鍋物調理を終了するまでの間に煮つまって味質や塩分が変化する現象を引き起こし難い鍋物調理用調味料を提供する。
【解決手段】ストレート換算で、20℃における粘度が130〜700cpとなるように粘度調整剤を鍋物調理用調味料に含有させる。粘度調整剤として、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉、タマリンドガムなどを用いる。
【効果】粘度調整剤を含有させることで、鍋物の長時間煮込みによる煮つまり現象(煮つまりによる味変化)を格段に抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煮つまりによる味変化が防止された鍋物調理用調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから日本において鍋物料理は広く食されてきた。鍋物料理には、すき焼き、しゃぶしゃぶ、水炊き、ちゃんこ鍋、モツ鍋、キムチ鍋、味噌鍋など様々な種類がある。
昨今では、家庭で手軽に鍋物調理ができる鍋物調理用調味料が市販されている。予め調味された鍋物調理用調味料を鍋に張り、その中に肉や魚、野菜などの具材を入れ、火にかけて煮込みながら食べるための調味料であり、具材等を準備するだけで誰でも本格的な鍋物料理を楽しむことができることから重宝されている。
鍋物調理用調味料は、野菜等水分を多く含む具材を多く使用すると、具材から出た水分によって味が薄まってしまうという問題があり、これに対しては予め薄まることを想定して濃い目の味付けにする工夫がなされている。また、薄まった鍋物料理に、鍋物調理用調味料を手軽で効率良く追加する工夫も提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−43032号公報
【特許文献2】特開2006−20503号公報
【特許文献3】特開2006−335478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように鍋に用いる具材として野菜等の水分を多く含む具材を多用する場合には、水分のしみ出しにより鍋物調理用調味料の味が薄くなってしまうという現象が生じることになるが、一方で、長時間の鍋調理により徐々に煮つまって味が変化するという現象も生じる。
【0005】
すなわち、鍋物料理は具材を入れて煮込みながら食べ、さらに食べながら具材を追加して煮込む、ということを繰り返しながら調理することが多いため、このように鍋物調理の開始から終わりまで食べながら煮込み続けることで、いくら野菜等の水分が出たとしても徐々に煮つまっていき、味が変化してしまうのである。
【0006】
このため、従来は、食する際に水を足すなどにより味の調整をしていたが、どうしても味のバランスが変化してしまい鍋物調理開始から鍋物調理を終了するまでの間中、常においしい鍋を食べることができないという問題があった。さらに、煮つまり現象は、鍋の中の塩分濃度が知らず知らずのうちに濃くなってしまうため、知らず知らずに必要以上の塩分を過剰摂取してしまうという問題も秘めている。
具材の水分で味が薄くなる現象や煮つまりにより味が変化する現象は、鍋物料理に用いる具材の種類や量、又は調理時間などにより、生じたり生じなかったりする問題ではあるが、野菜等を少量しか用いない場合や、予め野菜等からしみ出る水分を見越して設計されている鍋物用調味料においては長時間の煮込みにより煮つまって味が濃くなる問題の方が深刻であり、この現象の改善が強く望まれていた。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、鍋物調理開始から鍋物調理を終了するまでの間に煮つまって味質や塩分が変化する現象を引き起こし難い鍋物調理用調味料を提供することにある。
なお、従来の鍋物調理用調味料においては、味付けの違いで差別化した商品は多々提供されているが、本発明において提案する「煮つまりによる味変化防止」のように機能性の改善をした商品は提供されてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、予想外にも鍋物調理用調味料に、ある一定範囲の粘度となるように粘度調整剤を含有させることで、鍋物の長時間煮込みによる煮つまり現象(煮つまりによる味変化)を格段に抑えることができることを見出した。
また、粘度調整剤としては、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉およびタマリンドガムのうち少なくともいずれかを用いると、煮つまり防止効果も安定していることを発明者らは見出した。
さらに、粘度調整剤として、キサンタンガム、加工澱粉および澱粉のうち少なくともいずれかを用いると、鍋物料理をした際の食感が良好(とろみの質が滑らか)であることを本発明者らは見出した。
【0009】
なお、一般的な鍋物調理用調味料は粘度が極めて低く、さらさらな水のような性状である(例えば、特許文献3の段落0006参照)。これは、鍋物調理用調味料は食べながら喫食する人の目の前で火をかけて煮込むという調理方法であり、また、通常の煮込み料理(カレーやシチューなど)のようにかき混ぜながら煮込むということを想定していないため、粘度がついていると突沸の恐れがあり危険であり、また焦げ付きを生じる恐れもあるため、粘度のついた鍋物調理用調味料は提供されてこなかった。
【0010】
つまり、本発明は、煮つまりの防止という課題の解決のために、鍋物調理用調味料においては従来行われてこなかった粘度付与という手段を適用することにより、従来の発想からは予想もつかない煮つまりによる味変化防止を達成したものである。
さらには、突沸や焦げ付きといった問題を生じさせないで、煮つまりによる味変化防止を達成し得る最適な粘度範囲を見つけ出すことに成功して、本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、ストレート換算で、20℃における粘度が130〜700cpとなるように粘度調整剤により粘度調整されていることを特徴とする、鍋物調理用調味料を提供するものである。
請求項2に記載の発明は、鍋物調理時において、とろみを有していることを特徴とする請求項1に記載の鍋物調理用調味料を提供するものである。
ここで「とろみ」とは、さらさらな水のような性状とは異なり一般に粘性があると感じる程度の性状のことであり、粘度で表現すると50cp以上、好ましくは100cp以上の性状のことである。
請求項3に記載の発明は、粘度調整剤が、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉およびタマリンドガムのうちの少なくとも1種以上のものである、請求項1又は2に記載の鍋物調理用調味料を提供するものである。
請求項4に記載の発明は、鍋物調理時において、前記鍋物調理用調味料の煮つまりによる味変化が防止されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料を提供するものである。
請求項5に記載の発明は、鍋物調理時において、前記鍋物調理用調味料の突沸および焦げ付きが防止されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料を提供するものである。
請求項6に記載の発明は、ストレート換算で、1〜5質量%となるように塩分を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料を提供するものである。
なお、本発明において「鍋物調理時において」とは、「鍋物調理時における高温域において」という意味合いであり、通常、鍋物調理時の温度は95〜99℃くらいの温度である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鍋物調理開始から鍋調理を終了するまでの間に煮つまって味質が変化する現象(煮つまりによる味変化)を防止した鍋物調理用調味料が提供される。
即ち、本発明の鍋物調理用調味料は、鍋物調理時における高温域(通常、鍋物調理時の温度は95〜99℃くらいの温度である)において、煮つまりによる味変化が防止されている。
また、本発明の鍋物調理用調味料は、煮つまりによる塩分濃度の増加を防止するので、塩分の過剰摂取をも防止することができる。
特に、予め野菜等からしみ出る水分を見越して若干濃い目に設計されている鍋物調理用調味料は煮つまりによって味が濃くなりやすいが、本発明によればこのような塩分含量が高めの鍋物調理用調味料の煮つまりによって味が濃くなる現象を防止することができる。
次に、本発明によれば、突沸や焦げ付きといった問題を生じない鍋物調理用調味料が提供される。
即ち、本発明の鍋物調理用調味料は、鍋物調理時における高温域(通常、鍋物調理時の温度は95〜99℃くらいの温度である)において、突沸および焦げ付きが防止されている。
さらに、本発明によれば、鍋物料理をした際の食感が良好(とろみの質が滑らか)な鍋物調理用調味料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
本発明における鍋物調理用調味料とは、鍋物調理用に予め調味された調味料である。鍋物調理用調味料を鍋に張り、その中に肉や魚、野菜などの具材を入れ、火にかけて煮込みながら食べるための調味料であり、具材等を準備するだけで誰でも本格的な鍋物料理を楽しむことができることから重宝されている。
本発明の鍋物調理用調味料は、どんな種類の鍋物料理用であってもよく、加熱調理をしながら食べる鍋物料理であれば特に限定はない。例えば、すき焼き、ちゃんこ鍋、モツ鍋、キムチ鍋、味噌鍋、中華風鍋、ごま鍋、豆乳鍋、火鍋、塩鍋、カレー鍋、洋風鍋などに適用可能である。
【0014】
鍋物料理に用いる具材は消費者の好みで入れるものであるが、本発明の鍋物調理用調味料を使用した鍋物調理に用いる具材の例としては、牛肉、豚肉、鶏肉、魚、肉団子、白菜、椎茸、ニンジン、しらたき、春菊などが挙げられる。
特に、野菜等の水分が多い具材を少量しか用いないか、或いは鍋物調理の初期に野菜等のほとんどを投入してしまうような調理方法で鍋を作る場合には、通常、煮つまりによる味の変化(味が濃くなる変化)が起こりやすく、本発明が効果を奏する。
【0015】
鍋物調理用調味料に使用する材料は、粘度調整剤以外にも、求める味になるように様々な調味液を適宜選択できる。例えば、醤油、塩、味噌、旨味調味料、だし、エキス、発酵調味料、酒、みりん、果汁、油脂、オイスターソース、豆板醤、食酢、砂糖、液糖、高甘味度甘味料、野菜ペースト、香辛料などを用いることができる。
調味料の味付けは適宜選択し得るが、特に本発明は、予め野菜等からしみ出る水分を見越して若干濃い目に設計されている鍋物調理用調味料の煮つまりによる味変化防止に特に効果を発揮する。濃い目の味に設計されている鍋物調理用調味料はもともと塩分濃度が高めなので、味が濃くなりやすいためである。詳しくは、塩分含量をストレート換算で1〜5質量%となるように設計されている鍋物調理用調味料の煮つまりによって味が濃くなる変化を防止することに好適に用いることができる。
上記した原料を用いた鍋物調理用調味料の組成例としては、ストレート換算で、塩分濃度1〜5質量%、酸味料0〜1質量%、調味料0〜10質量%、油脂0〜10%、香辛料0〜10質量%、エキス類0〜10%、砂糖、液糖が0〜20%とすることが挙げられる。
【0016】
本発明において、「ストレート換算」とは、鍋物調理用調味料を実際に食するのに適した濃度に調製した場合に換算した値である。
通常は、鍋物調理用調味料の包材などに”ストレート使用品”である旨や”調理時の希釈倍率等(濃縮品である旨)”が記載されており、ストレート品の場合は希釈をしないで測定した粘度や塩分等の濃度の値であり、2倍希釈品の場合は2倍に水で希釈して測定した粘度や塩分等の濃度の値である。
【0017】
なお、本発明の鍋物調理用調味料としては、粘度調整剤を、”ストレート換算”で粘度が下記所定の範囲になるように粘度調整剤を含有するものであればよく、製品としては、ストレート使用品であっても、濃縮品であってもよい。
【0018】
本発明における粘度調整剤としては、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉、タマリンドガム、寒天、ローカストビーンガム、ジェランガム、タラガム、カラギーナン、ペクチンなどの増粘剤を用いることができ、それぞれ単独で用いるだけでなく、2種類以上を併用することもできる。中でも、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉、タマリンドガム、寒天、ローカストビーンガム、ジェランガム、タラガムなどのように、鍋物調理の際に高温にした場合でも粘性を保ちやすい粘度調整剤が好ましい。
特に、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉は、鍋としての食感が良好(とろみの質が滑らか)である点本発明への適用が好ましく、さらにキサンタンガム、加工澱粉、澱粉、タマリンドガムの4つの粘度調整剤については、以下に記載するような有利な点を有するため本発明への適用が特に好ましい。
【0019】
すなわち、キサンタンガムは、耐塩性が高く、塩分が比較的高めになるように味付けされた鍋物調理用調味料(例えばストレート換算で塩分濃度1〜5質量%など)においては他の粘度調整剤に比べて粘度が安定しやすく好ましい。
さらに、キサンタンガムおよびタマリンドガムは、極めて耐熱性も高いため、鍋物調理用調味料をレトルト殺菌処理する場合には極めて好ましい。
【0020】
また、加工澱粉、澱粉は、原料コストの面で他の粘度調整剤に比べ有利であり、特に、加工澱粉は極めて耐熱性が強く、レトルト殺菌をすることで完全に糊化されるため、レトルト殺菌処理をする製造工程で扱いやすいため好ましい。
なお、加工澱粉とは、天然澱粉を工業的に利用する際に本来の物理化学的性状のうち高粘性であったり、冷却するとゲル化するといった欠点を克服するために、物理的、酵素的又は化学的に加工を加えたものをいう。加工澱粉としては、例えば、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(松谷化学製「パインエース#1」等)などを用いることができる。
また、澱粉としては、例えば、片栗粉を用いることができる。
【0021】
粘度調整剤の最適な配合量は、ストレート換算で粘度が以下の所定範囲になるよう含有すればよく、剤の種類や他の調味原料等とのバランスにもよるが、鍋物調理用調味料当りおよそ0.1〜5%程度含有すると所望の調味料になりやすい。
【0022】
鍋物調理用調味料の粘度は、ストレート換算で、20℃における粘度が130〜700cpという極めて狭い範囲になるように調整する必要がある。
粘度が130cp未満であると、煮つまりによる味変化の防止効果を発揮しない。一方、粘度が700cpを超えると、煮つまりによる味変化は防げるものの、突沸の危険性や焦げ付きが生じやくなるため好ましくない。
さらには、煮つまり防止による味変化をより防止するためには、199cp以上、特には230cp以上の粘度に調整することが好ましく、また、突沸や焦げ付きを防ぐ面から600cp以下、特には500cp以下の粘度に調整することが好ましい。
【0023】
粘度測定方法としては、B型粘度計(ローターNo.3、測定時間20秒)による測定方法が挙げられる。例えば、鍋物調理用調味料をB型粘度計の測定用容器に適量充填し、20℃に調製後、容器をB型粘度計にセットし、ローターNo.3を用いて20秒間測定することで鍋物調理用調味料の粘度を測定することができる。
また、塩分測定方法としては、TOA塩分分析計を用いることができる。
なお、本発明における粘度及び塩分濃度は、特に条件を記載しない限り20℃における測定値である。
【0024】
本発明の鍋物調理用調味料の製造においては、粘度調整剤を水で膨潤させた後に、他の原料を加えて均一に混合することが望ましい。また、加工澱粉、澱粉を添加する場合には、水に溶いて分散させたものを用いることが望ましい。
また、原料を混合した後は、例えば澱粉、加工澱粉、カラギーナンを用いる場合は、加熱(例えば、澱粉なら湯煎で約80℃に達温後、約3分間維持)することで、粘度調整剤を糊化させることができる。
原料が均一に混合され、粘度調整剤が糊化された調味料は、冷却後に水を加えて、所望の調味料製品の濃縮率になるように調製することができる。
ただし、加工澱粉の場合だけ、できた調味料をレトルトパウチに充填し、封をして120℃で20分間のレトルト殺菌を行い完全に糊化させ、常温まで冷やして鍋物用調味料を完成した。
【0025】
本発明の鍋物調理用調味料の包装形態は特に限定がなく、レトルトパウチ、ペットボトル、ビンなど一般的に使用される調味料容器に充填することができる。粘度調整剤は高温処理により粘度変化が生じやすいため、レトルトパウチ等を用いたレトルト殺菌(例えば120℃、20分)を行う場合には、キサンタンガム、加工澱粉等の耐熱性のある原料を用いることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。ただし、本発明を限定するものではない。
試験例1(粘度と煮つまりによる味変化の関係)
(1)鍋物調理用調味料の製造
約500gの水にキサンタンガム(表1の量)を膨潤した後、醤油(30g)、魚介エキス(8g)、オニオンペースト(2g)、液糖(15g)、砂糖(10g)、香辛料(1g)、旨味調味料(5g)、塩(10g)を加え均一に混合した。
次に、これに水約100gで水溶きした加工澱粉(松谷化学製「パインエース#1」)(表1の量)を加えて湯煎にて加熱し、80℃達温から3分間維持して糊化させた後、調味料全体で1000gとなる量の水を加えて50〜60℃まで冷却した。
その後、調味料をレトルトパウチに充填し、封をしたものを120℃で20分間レトルト殺菌を行い完全に糊化させ、常温まで冷やして鍋物調理用調味料を完成した。
【0027】
作製した鍋物調理用調味料をB型粘度計の測定用容器に約150cc充填し、20℃に調整後、容器をB型粘度計にセットし、ローターNo.3を用いて20秒間測定することで鍋物調理用調味料の粘度を測定した。
キサンタンガム及び加工澱粉の配合量とそれぞれの粘度を表1に示す。なお、キサンタンガム及び加工澱粉の配合量はガムの種類による影響をなくすために配合比をほぼ一定として表1のように変化させた。
なお、製造した鍋物調理用調味料は、予め野菜等からしみ出る水分を見越して若干濃い目に設計しており、表2に示すように塩分濃度1.4〜1.6質量%の範囲である。
【0028】
【表1】

【0029】
(2)煮つまりによる味変化の評価
前記(1)で製造した鍋物調理用調味料について、煮つまりによる塩分の増加率、味の変化、焦げ付き具合を以下のように調べた。
まず、前記(1)で製造した鍋物調理用調味料について、それぞれ約700gを8号サイズの土鍋に充填し、ガスコンロに火をかけて98℃に達温させた。この時点で味見用の調味料を少量すくい取り、若干冷ましてから味見した。一方、鍋に入った調味料は、98℃達温後、98.5±1.0℃で維持されるように調整しながら25分間加熱を続け、その後コンロの火を止めた。その後すぐに少量すくい取り、若干冷ましてから味見した。
98℃達温の時点ですくい取った調味料と25分間加熱を続けた調味料との味(主に塩味)の変化を比較して評価した。塩味の差をあまり感じない場合には〇、若干差を感じるが許容範囲の場合には△、塩味が明らかに濃くなっていると感じる場合には×とそれぞれ評価した。
また、前記25分間加熱後すぐに調味料から塩分測定用のサンプルを少量取り、常温に冷やして塩分を測定した。
さらに、前記25分間加熱後の鍋への調味液の焦げ付き具合についても目視により確認した。焦げ付きを生じていない場合は〇、極僅かに焦げ付いた場合は△、明らかに焦げ付きを生じた場合は×とした。
なお、いずれの評価においても△は商品としての許容範囲と判断した。表2に結果を示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2より、粘度が130cp以上の調味料は101cp以下の調味料に比べて格段に塩分増加率が低くなっていることがわかる。粘度が199cp以上であるとさらに塩分増加率が低くなり、それ以上では変化が少ないことがわかる。また、塩分増加率と同様に味の評価も粘度が130cp以上で良い評価となり、199cp以上でさらに良い評価となった。
以上より、鍋物調理用調味料の煮つまりによる味の変化を防ぐには、20℃における粘度を130cp以上、好ましくは199cp以上、さらに好ましくは230cp以上とすることが必要であることを見出した。
また、粘度が500cpまでは焦げ付きの心配はなく、700cpになると許容範囲ではあるが、若干の焦げ付き傾向が生じることがわかった。
以上より、焦げ付きを防ぐためには、20℃における粘度を700cp以下、好ましくは600cp以下、さらに好ましくは500cp以下とすることが必要であることを見出した。なお、焦げ付きが起こらないものは、突沸もおこりにくいものである。
【0032】
試験例2(粘度調整剤の種類の検討)
(1)鍋物調理用調味料の製造
約500gの水に、表3に記載の各種粘度調整剤〔タマリンドガム(調味料k)、キサンタンガム(調味料l)、加工澱粉(松谷化学製「パインエース#1」)(調味料m)、澱粉(片栗粉)(調味料n)、カラギーナン(調味料o)、ペクチン(調味料p)(なお、ペクチンは、カルシウムがないと粘度発現がないため乳酸カルシウムを一緒に含有させた。)を所定量膨潤した後、醤油(30g)、魚介エキス(8g)、オニオンペースト(2g)、液糖(15g)、砂糖(10g)、香辛料(1g)、旨味調味料(5g)、塩(10g)を加え、少量のお湯を注して40〜50℃まで温度を上げた状態で均一に混合した。その後、粘度調整剤の種類ごとの温度調整を行った後、調味料全体で1000gとなる量の水を加えて均一に混合して鍋物調理用調味料を完成した。ただし、加工澱粉の場合だけ、できた調味料をレトルトパウチに充填し、封をして120℃で20分間のレトルト殺菌を行い完全に糊化させ、常温まで冷やして鍋物調理用調味料を完成した。
粘度調整剤の種類ごとの温度調整方法は、加工澱粉および澱粉については80℃まで加温して、達温から3分間維持した。カラギーナンについては95℃まで加温して、達温から4分間維持した。なお、キサンタンガム、タマリンドガム、ペクチンは、特に温度調整を行っていない。
粘度調整剤の種類ごとに温度調整の方法を変更したり、加工澱粉のみレトルト殺菌を行う理由は、それぞれの粘度調整剤の種類ごとに粘度発現のための条件が異なるためであり、本試験において粘度を揃えるためである。
【0033】
作製した鍋物調理用調味料をB型粘度計の測定用容器に約150cc充填し、20℃に調整後、容器をB型粘度計にセットし、ローターNO.3を用いて20秒間測定することで鍋物調理用調味料の粘度を測定した。
また、粘度調整剤の配合量は、調味料の粘度が試験例1の結果から煮つまり防止効果高いと考えられる300cp前後となるように調製した。それぞれの鍋物調理用調味液の粘度を表3に示す。
なお、製造した鍋物調理用調味料は、予め野菜等からしみ出る水分を見越して若干濃い目に設計しており、表4に示すように塩分濃度1.4〜1.6質量%の範囲である。
【0034】
【表3】

【0035】
(2)煮つまりによる味変化の評価
前記(1)で製造した鍋物調理用調味料について、試験例1と同様にして、煮つまりによる塩分の増加率、味の変化、焦げ付き具合を以下のように調べた。
また、味の評価の際に、とろみの質についても評価した。とろみの質が滑らかであり好ましい場合には〇、とろみの質が滑らかでなく鍋物料理として若干違和感があると感じた場合には△と評価した。なお、とろみの質は、98℃達温時のサンプルと25分間加熱後のサンプルの両方から総合的に判断した。なお、いずれの評価においても△は商品としての許容範囲と判断した。表4に結果を示す。
【0036】
【表4】

【0037】
なお、調味料o(カラギーナン),調味料p(ペクチン)を用いたものでは、加熱途中で粘度が明らかに減少し、煮つまり現象が見られた。このため、加熱後の塩分濃度が高まり、塩分増加率が高くなったものと考えられる。
このことから、粘度の範囲だけでなく、調味料k〜nで用いたような耐熱性を有する粘度調整剤(タマリンドガム,キサンタンガム,加工澱粉,澱粉(片栗粉))を用いることが、煮つまり防止効果を発揮するためには重要であることがわかった。
また、特に、キサンタンガム、澱粉、加工澱粉を用いると、とろみの質がよく好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、鍋物調理開始から鍋物調理を終了するまでの間に煮つまって味質が変化する現象(煮つまりによる味変化)を防止した鍋物調理用調味料を提供することができる。
また、本発明の鍋物調理用調味料は、煮つまりによる塩分濃度の増加を防止するので、塩分の過剰摂取をも防止することができる。
従って、本発明は、食品産業において広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレート換算で、20℃における粘度が130〜700cpとなるように粘度調整剤により粘度調整されていることを特徴とする、鍋物調理用調味料。
【請求項2】
鍋物調理時において、とろみを有していることを特徴とする請求項1に記載の鍋物調理用調味料。
【請求項3】
粘度調整剤が、キサンタンガム、加工澱粉、澱粉およびタマリンドガムのうちの少なくとも1種以上のものである、請求項1又は2に記載の鍋物調理用調味料。
【請求項4】
鍋物調理時において、前記鍋物調理用調味料の煮つまりによる味変化が防止されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料。
【請求項5】
鍋物調理時において、前記鍋物調理用調味料の突沸および焦げ付きが防止されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料。
【請求項6】
ストレート換算で、1〜5質量%となるように塩分を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の鍋物調理用調味料。

【公開番号】特開2008−278894(P2008−278894A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2008−168094(P2008−168094)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(301058355)株式会社ミツカン (32)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】