説明

鍛造装置

【課題】 作業工数を大幅に低減し、尚且つ大型で重量級の被鍛造材でも金型との位置決め精度を高めた、鍛造材の生産性を向上できる鍛造装置を提供する。
【解決手段】 上金型と下金型とでなる金型セットを備え、被鍛造材に対し前記金型セットで鍛造加工を行なう鍛造装置であって、前記鍛造装置は、前記金型セットを載置して鍛造位置に移動し、鍛造時には下金型の基台となる金型移載機を具備し、前記金型移載機は、水平方向に対向移動して被鍛造材を狭持して位置決めを行う着脱自在なクランプ機構を具備する鍛造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディスク状やリング状の鍛造材を型鍛造で製造する鍛造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばディスク状やリング状の鍛造材を型鍛造で製造する際には、一般的に潰し工程、荒打ち工程、仕上げ工程等を順に行っており、各工程で必要とされる対応する複数の金型が必要とされ、これら複数の金型を各工程でそれぞれ型換えを行い、この型換え作業に多大な工数を要している。
このような型替え工数を低減するために、例えば特許文献1では、各工程で必要とされる金型をダイホルダに取り付けたままダイホルダをベッドとスライドの間から金型を側方に引出し、交換用の金型を取り付けたダイホルダをベッドとスライドの間に押し入れることによって、ダイホルダごと金型を交換することが行われている。これにより、ダイホルダを交換すれば、予め次工程の金型を準備できるので、型替え作業の工数を短縮できる。
【0003】
また、上記の鍛造材を得るためには、鍛造装置の金型の位置に対する素材の位置決めが必要とされる。この位置決めは、製品形状、寸法が異なる多品種少量生産の場合には、作業者の手作業による位置決めが必要になることが多い。手作業による位置決めは、熱間鍛造の場合、重筋高熱作業となり作業者の肉体的負荷が高く、作業の熟練が必要となる。
【0004】
このような問題を解決するために、被鍛造材を機械的に金型の所定位置に位置決めすることが提案されている。
例えば、特許文献2には、鍛造手段と被鍛造材を金型内に搬送する搬送手段とを有し、被鍛造材の重心を測定する手段と被鍛造材の重心が金型の所定位置に一致するまで搬送することにより、製品と金型の位置決め精度を向上させ、製品の寸法精度と歩留まりを改善した提案がなされている。この提案は、鍛造方案に応じた各工程で必要とされた複数の鍛造装置を用いた場合に、それぞれの鍛造装置へ被鍛造材を搬送して精度よく鍛造するという点で優れたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181586号公報
【特許文献2】特開2005−319506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献2に開示される鍛造装置は、鍛造装置への被鍛造材の搬送と、被鍛造材の重心位置を検出して金型の所定位置に位置決めを連続して行える点では有利である。
しかしながら、特許文献2のような被鍛造材を位置決めする位置決め手段と、被鍛造材を鍛造装置へ搬送する移動手段とが一つの装置として構成されている場合には、鍛造装置の支柱の配置といった装置上の制約で、対向するフィンガーで被鍛造材を挟持しながら、アームで片持ち支持して搬送することしかできないため、例えば直径が1m以上、質量が1ton以上といった大型で重量級の被鍛造材を搬送したり位置決めしたりする場合には、装置の限界や位置精度の低下が問題となる場合がある。
本発明の目的は、作業工数を大幅に低減し、尚且つ大型で重量級の被鍛造材でも鍛造加工できる鍛造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題を鑑み種々検討した結果、金型セットを鍛造位置に移動し鍛造時には下金型の基台となる金型移載機を鍛造装置に備え、金型移載機には水平方向に対向移動して被鍛造材を狭持して位置決めを行う着脱自在なクランプ機構を具備する構成を採用することで、鍛造材の生産性を大きく改善できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、上金型と下金型とでなる金型セットを備え、被鍛造材に対し前記金型セットで鍛造加工を行なう鍛造装置であって、前記鍛造装置は、前記金型セットを載置して鍛造位置に移動し、鍛造時には下金型の基台となる金型移載機を具備し、前記金型移載機は、水平方向に対向移動して被鍛造材を狭持して位置決めを行う着脱自在なクランプ機構を具備する鍛造装置である。
前記金型移載機は、前進または後退で鍛造位置から前記金型セットおよび前記クランプ機構の段取りを行う退避位置に移動することが好ましい。
また、前記鍛造装置は、前記金型移載機を複数台具備し、鍛造時に鍛造位置にある金型移載機以外の別の金型移載機は退避位置で待機することが好ましい。
また、前記金型移載機は、前記被鍛造材の鍛造位置への搬入方向と直角方向に移動することが好ましい。
【0009】
また、本発明で適用する前記クランプ機構は、前記金型移載機上面に形成されたT溝に締結することが好ましい。
また、前記クランプ機構は、被鍛造材に対向位置から3点以上で接触する対となるフィンガー部を具備することが好ましく、このフィンガー部は、二股に分岐したV字状もしくはU字をなすことがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金型セットの段取りや被鍛造材の位置決めといった作業工数を大幅に削減し、尚且つ大型で重量級な鍛造材を得る場合でも鍛造加工することができ、鍛造材の生産性を飛躍的に改善することができる。これにより、例えば航空機の回転部品等の製造にとって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の鍛造装置の一例を示す模式図である。
【図2】図1の断面A−A矢視図である。
【図3】本発明で適用するクランプ機構の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、本発明の重要な特徴の一つは、鍛造時に下金型の基台となる金型移載機に被鍛造材を金型の所定位置に位置決めする着脱自在なクランプ機構を配置した構成を採用したことにある。
着脱可能なクランプ機構を所定の金型移載機に配置することで、鍛造前に、金型セットの位置合わせに加えて、被鍛造材のサイズや金型セットの大きさ、位置に合わせて、クランプ機構を事前に選定し設置するという事前段取りが可能となる。また、クランプ機構を金型に近接させることができるため、被鍛造材を搬送するような機構とは異なり、クランプ機構に高い強度は必要とされず、位置決め精度も高いものとすることができる。
【0013】
以下、本発明の鍛造装置を、その一例を示す図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の鍛造装置の一例の模式図である。また、図2は、図1のA−A矢視図である。
図1および図2に示すように、本発明の鍛造装置1は、上金型5aと下金型5bとを備え、被鍛造材2に対し上下の金型セット5で鍛造加工を行なう鍛造装置である。
図1において鍛造位置にある下金型5bは、基台となる金型移載機(A)3の上面に載置されている。
一方、図1において鍛造位置にある上金型5aは、鍛造時に上下に駆動するシリンダ21の先端にあるラム20に設置され、鍛造に必要な荷重を被鍛造材2に付加するものとしている。なお、図1において、大きな荷重に耐えるためシリンダ21は、四隅に設けた支柱22で支持されるものとしている。
【0014】
まず、本発明の重要な特徴の一つである、金型移載機について説明する。
本発明で適用する金型移載機(A)は、その退避位置7において金型セット5が載置され、鍛造位置に移動するようにしている。この構成により、金型セット5とクランプ機構6の事前段取りを可能としている。
また、図1は、金型移載機を2台配置する例である。図1に示す鍛造位置にある金型移載機(A)3および別の金型移載機(B)4のそれぞれ上面には、それぞれ着脱自在なクランプ機構6を搭載している。そして、金型移載機(B)4はその退避位置にある。このように2台の金型移載機を備えることにより、金型移載機(A)3が鍛造位置あるときに、別の金型移載機(B)4の金型セット5とクランプ機構6の事前段取りが可能となる。事前段取りが可能となることで、金型交換の時間が短縮され、またクランプ機構の精度を高めることができる。
【0015】
本発明において、金型移載機が退避位置から鍛造位置へ移動し、さらに退避位置への移動する方向としては、前進のみ、すなわち一方向に移動させることができる。この場合は、事前段取りを行う退避位置と鍛造後の退避位置が、鍛造位置を挟んで反対側となる。また、移動方向として、鍛造位置への前進と退避位置への後退という動作を採用することもできる。この場合は、事前段取りを行う退避位置と鍛造後の退避位置が、鍛造位置を挟んで同じ側になる。
本発明においては、金型移載機は、1台でも2台以上でも適用できる。しかし、台数が多いほどコストもかかるため、最少の構成が望ましい。そのため、図1にあるように2台の金型移載機を使用して、一方の金型移載機が鍛造位置にあるとき、退避位置で待機している他方の金型移載機の段取りを行い、これを繰り返すことで、3以上の金型セットおよびクランプ機構に対しても事前段取りが可能となる。
【0016】
次に、本発明の他の重要な特徴であるクランプ機構について説明する。図3には、本発明のクランプ機構の一例を示す。なお、図3に示すクランプ機構6は、図1および図2に示すクランプ機構6を具体的に示すものである。
本発明の鍛造装置において、鍛造を行う場合、本発明の鍛造装置1の下金型5bの所定位置に被鍛造材2を搬入して位置合わせを行うことが必要である。以下、図を用いて、位置合わせの工程を説明する。
まず、図示しないマニプレータ等の運搬装置を用いて、被鍛造材2を下金型5bの上面に搬入して仮置きする。次に、クランプ機構6のクランプアーム13を水平方向に対向移動させ、被鍛造材2を下金型5bの所定位置へ正確に位置決めする。その後、クランプアーム13が下金型5b上の被鍛造材2から水平方向に退避し、金型セット5で被鍛造材2を鍛造する。
【0017】
本発明の鍛造装置で具備するクランプ機構において、金型移載機から着脱自在とすることにも重要な特徴がある。これにより、クランプ機構の交換で様々な形状の被鍛造材に対応することが可能となる。さらに、クランプ機構による位置決めの必要がない鍛造を行う場合には、クランプ機構6を外して鍛造することもできる。このように、クランプ機構6を着脱自在とすることで、同じ金型移載機に対して、ダイスペース(鍛造有効面積)を、自在に調整することができることとなり、鍛造の自由度を高めることができる。
【0018】
図3に示す着脱自在なクランプ機構6は、金型移載機と締結するための取付部15を有し、図示しない金型移載機上面に形成したT溝に、取付部15にTボルトで締結する構成としている。また、クランプ機構6には、シリンダによる駆動部10に連結したロッド11により、レール12上をクランプアーム13が摺動移動する構成となっており、クランプアーム13の先端には、二股に分岐したV字状のフィンガー部14を設置している。V字状のフィンガー部14により、被鍛造材をその内面に接触させることができ、位置決めが可能となる。なお、被鍛造材をその内面に接触できるという点でフィンガー部はU字状であっても構わない。
【0019】
また、被鍛造材を位置決めするという点で、直線状のフィンガー部では一軸方向の位置決めにとどまる。そのため、被鍛造材に対して最低3点の接触が好ましく、一方が直線状のフィンガー部であれば、対となる他方のフィンガー部は2点接触可能なV字状もしくはU字状であることが好ましい。V字状もしくはU字状というのは、言い換えれば刺股状である。より好ましくは、対向位置にある対となるフィンガー部は、ともにV字状もしくはU字状とする。
なお、駆動部10には、高速応答性に優れたエアーシリンダや大荷重搬送に適した油圧シリンダを使用することが好ましい。
【0020】
本発明で適用するクランプ機構6のクランプアーム13とフィンガー部14は、被鍛造材2を挟持する部分の厚みを被鍛造材2の厚みより薄くすることが好ましい。これにより、下金型5bの深さが浅くて下金型5bの上面に水平部が少なく、被鍛造材2を安定静止させることが難しい場合にも、フィンガー部14で被鍛造材2を保持した状態で鍛造を開始し、上下の金型セット5と被鍛造材2が接触してからクランプアーム13を退避させて鍛造することができる。
【0021】
また、本発明の金型移載機は、被鍛造材の鍛造位置への搬入方向と直角方向に水平移動することが好ましい。これは、金型移載機の移動方向と同一方向から被鍛造材を例えばマニプレータ等で搬入しようとすると、金型移載機に干渉する虞があるためである。例えば、図2に示すように、鍛造装置に支柱22が存在すると、金型移載機の移動方向(図面左右方向)に対して、直角となる方向(図面上下方向)のいずれかから被鍛造材を搬入すれば、支柱22との干渉も避けることができる。
【符号の説明】
【0022】
1.鍛造装置、2.被鍛造材、3.金型移載機A、4.金型移載機B、5.金型セット、6.クランプ機構、7.退避位置、10.駆動部、11.ロッド、12.レール、13.クランプアーム、14.フィンガー部、15.取付け部、20.ラム、21シリンダ、22.支柱



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上金型と下金型とでなる金型セットを備え、被鍛造材に対し前記金型セットで鍛造加工を行なう鍛造装置であって、前記鍛造装置は、前記金型セットを載置して鍛造位置に移動し、鍛造時には下金型の基台となる金型移載機を具備し、前記金型移載機は、水平方向に対向移動して被鍛造材を狭持して位置決めを行う着脱自在なクランプ機構を具備することを特徴とする鍛造装置。
【請求項2】
前記金型移載機は、前進または後退で鍛造位置から前記金型セットおよび前記クランプ機構の段取りを行う退避位置に移動することを特徴とする請求項1に記載の鍛造装置。
【請求項3】
前記鍛造装置は、前記金型移載機を複数台具備し、鍛造時に鍛造位置にある金型移載機以外の別の金型移載機は退避位置で待機することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍛造装置。
【請求項4】
前記金型移載機は、前記被鍛造材の鍛造位置への搬入方向と直角方向に移動することを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の鍛造装置。
【請求項5】
前記クランプ機構は、前記金型移載機の上面に形成されたT溝に締結することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の鍛造装置。
【請求項6】
前記クランプ機構は、被鍛造材に対向位置から3点以上で接触する対となるフィンガー部を具備することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の鍛造装置。
【請求項7】
前記フィンガー部は、二股に分岐したV字状もしくはU字状をなすことを特徴とする請求項6に記載の鍛造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−59769(P2013−59769A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198166(P2011−198166)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】