説明

鍵盤楽器のフロントパンチング

【課題】 鍵の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる鍵盤楽器のフロントパンチングを提供する。
【解決手段】 回動自在の鍵4の前部と筬3の間に配置され、押鍵に伴って回動する鍵4が当接する鍵盤楽器1のフロントパンチング10であって、所定の弾性を有し、筬3上に設けられたブロック状の本体部11と、本体部11の鍵4側の表面から鍵4に向かって突出し、押鍵された鍵4が当接することにより圧潰可能な突起部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回動自在の鍵の前部と筬の間に配置され、押鍵に伴って回動する鍵が当接する鍵盤楽器のフロントパンチングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のフロントパンチングとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このフロントパンチングは、全体として円柱状のものであり、中央の防振部材と、その上面および下面に積層された2つの耐摩耗性部材で構成されている。
【0003】
防振部材は、中心に孔を有する短円柱状のものであり、ウレタンフォームなどの粘弾性材から成る単一の部材で構成され、その硬度は均一である。この防振部材の硬度は、一般的にフロントパンチングに用いられるニードルパンチフェルトと比較し、非常に小さい。各耐摩耗性部材は、中心に孔を有する円盤状のものであり、人工皮革などで構成され、防振部材の上面および下面に貼り付けられている。以上の構成のフロントパンチングは、防振部材および各耐摩耗性部材のそれぞれの孔がフロントピンに通された状態で、筬の上面に設けられている。
【0004】
このフロントパンチングでは、押鍵時、鍵が、上側の耐摩耗性部材を介してフロントパンチングに当接する。その際、防振部材は、その硬度が非常に小さいため、鍵の当接によって発生する振動を吸収する。その結果、鍵から筬などに伝達される振動が抑制されることによって、鍵の当接による雑音の発生が防止される。また、各耐摩耗性部材は、鍵の当接による防振部材の破損を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−60890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、フロントパンチングの硬度は、鍵のタッチ感に影響を及ぼすことが知られている。例えば、フロントパンチングの硬度が低い場合、鍵が弱打されたときには、柔らかい好ましいタッチ感が得られるのに対し、鍵が強打されたときには、打ち応えがなくなってしまう。一方、フロントパンチングの硬度が高い場合、鍵が強打されたときには、しっかりとした打ち応えのある好ましいタッチ感が得られるのに対し、鍵が弱打されたときには、柔らかいタッチ感が得られない。
【0007】
これに対して、従来のフロントパンチングは、鍵の振動を抑制する防振部材の硬度が均一であるため、弱打時に柔らかく、かつ強打時に打ち応えのある好ましいタッチ感を得ることができない。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる鍵盤楽器のフロントパンチングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、回動自在の鍵の前部と筬の間に配置され、押鍵に伴って回動する鍵が当接する鍵盤楽器のフロントパンチングであって、所定の弾性を有し、筬上に設けられたブロック状の本体部と、本体部の鍵側の表面から鍵に向かって突出し、押鍵された鍵が当接することにより圧潰可能な突起部と、を備えることを特徴とする
【0010】
この鍵盤楽器のフロントパンチングによれば、鍵が押鍵されると、鍵の前部がフロントパンチング側に向かって回動し、その本体部から突出する突起部にまず当接する。それにより、突起部は鍵の前部で押圧されることによって潰れ、その後、鍵は本体部に当接する。
【0011】
このため、鍵が弱打された場合には、鍵の回動速度が遅く、突起部がゆっくり潰されるため、主として突起部の変形により、柔らかいタッチ感を得ることができる。また、鍵が強打された場合には、鍵の回動速度が速く、突起部が瞬時に潰れるため、主として本体部の全体で鍵の衝撃を受けることにより、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。以上の結果、鍵の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器のフロントパンチングにおいて、鍵の前部の下面には、鍵の長さ方向に延びるフロントピン穴が形成され、筬には、フロントピン穴に係合した状態で、押鍵された鍵を案内するためのフロントピンが立設され、フロントパンチングは、その中心に上下方向に貫通するフロントピン挿入孔を有し、フロントピン挿入孔にフロントピンが挿入された状態で筬上に設けられており、突起部は、フロントピン挿入孔の両側において、フロントピン穴の長さ方向と直交する方向に延びていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、フロントパンチングは、その中心に上下方向に貫通するフロントピン挿入孔を有し、フロントピン挿入孔にフロントピンが挿入されている。押鍵に伴い、鍵の前部は、鍵の長さ方向に延びるフロントピン穴に係合するフロントピンによって案内されながら回動し、フロントパンチングの突起部と当接する。この突起部は、フロントピン挿入孔の両側において、フロントピン穴の長さ方向と直交する方向に延びているため、上述したようなフロントピンおよびフロントピン穴が設けられている場合において、鍵の前部の下面のフロントピン穴以外の部分によってバランス良く潰され、その結果、請求項1の発明による前述した作用を良好に得ることができる。
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項3に係る発明は、回動自在の鍵の前部と筬の間に配置され、押鍵に伴って回動する鍵が当接する鍵盤楽器のフロントパンチングであって、フロントパンチングは、筬上に設けられるとともに、その硬度が鍵側から筬側に向かってより高くなるように構成されていることを特徴とする。
【0015】
この鍵盤楽器のフロントパンチングによれば、鍵が押鍵されると、鍵の前部が、筬側に向かって回動し、筬上に設けられたフロントパンチングと当接する。フロントパンチングの硬度は、鍵側から筬側に向かってより高くなっている。このため、鍵が弱打された場合には、鍵の回動速度が遅く、フロントパンチングの鍵側の硬度が比較的低い部分がゆっくりと圧縮されるため、主としてその部分の変形により、柔らかいタッチ感を得ることができる。また、鍵が強打された場合には、鍵の回動速度が速く、鍵側の硬度が比較的低い部分が瞬時に圧縮されるため、主としてフロントパンチングの筬側の硬度が比較的高い部分で鍵の衝撃を受けることにより、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。以上の結果、鍵の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の鍵盤楽器のフロントパンチングにおいて、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成され、筬側の基部と、針刺しによる軟化によって、基部よりも低い硬度を有する鍵側の表層部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成されることにより、その密度が通常の非圧縮のフェルトよりも高くなっている。また、フロントパンチングの鍵側の表層部の硬度は、針刺しによる軟化によって、筬側の基部よりも低くなっており、それにより、フロントパンチングの硬度は、鍵側から筬側に向かってより高くなっている。したがって、請求項3の発明による前述した作用を得ることができる。
【0018】
また、針刺しの程度により、表層部の柔らかさを調整できるため、演奏者の好みに応じた、弱打時の柔らかいタッチ感を得ることができる。
【0019】
また、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成されていて、その密度が高いため、サンドペーパーなどを用いて、型くずれすることなく、容易にかつ精度良く切削することができる。それにより、フロントパンチングの設置高さを容易に調整できるため、同じ目的のために使用されていた従来の紙パンチングを省略または削減でき、ひいては鍵盤楽器の製造コストを削減することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項3に記載の鍵盤楽器のフロントパンチングにおいて、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成され、鍵側の表層部と、硬化剤による硬化によって、表層部よりも高い硬度を有する筬側の基部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、請求項4と同様、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成されている。また、フロントパンチングの筬側の基部の硬度は、硬化剤による硬化によって、鍵側の表層部よりも高くなっており、それにより、フロントパンチングの硬度は、鍵側から筬側に向かってより高くなっている。したがって、請求項3の発明による前述した作用を得ることができる。
【0022】
また、硬化剤の量や種類を変更することにより、基部の硬さを調整できるため、演奏者の好みに応じた、強打時の打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。
【0023】
また、請求項4と同様、フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成されていて、その密度が高いため、サンドペーパーなどを用いて容易にかつ精度良く切削できるため、従来の紙パンチングを省略または削減し、鍵盤楽器の製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態によるフロントパンチングを適用したグランドピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す部分拡大斜視図である。
【図2】鍵の前部を示す部分拡大底面図である。
【図3】図1の鍵盤装置の部分拡大側断面図である。
【図4】第1実施形態によるフロントパンチングの斜視図である。
【図5】第1実施形態の変形例によるフロントパンチングを適用した鍵盤装置の部分拡大側面図である。
【図6】第2実施形態によるフロントパンチングを適用した鍵盤装置の部分拡大側断面図である。
【図7】第2実施形態の変形例によるフロントパンチングを適用した鍵盤装置の部分拡大側面図である。
【図8】第3実施形態によるフロントパンチングを適用した鍵盤装置の部分拡大側断面図である。
【図9】第3実施形態の変形例によるフロントパンチングを適用した鍵盤装置の部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、第1実施形態によるフロントパンチングを備えたグランドピアノ(以下「ピアノ」という)1の鍵盤装置2を、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、ピアノ1を演奏者から見た場合の手前側を「前」、奥側を「後」とし、さらに左側および右側を「左」および「右」として、説明を行うものとする。
【0026】
この鍵盤装置2は、筬3と、筬3に載置された複数の鍵4(白鍵および黒鍵をそれぞれ1つのみ図示)と、各鍵4と筬3の間に配置されたフロントパンチング10などを備えている。
【0027】
筬3は、左右方向に延びる筬前5および筬中6などを井桁状に組み立てたものであり、棚板(図示せず)上に載置されている。また、筬3の上面の各鍵4に対応する位置において、筬前5にはフロントピン7が、筬中6にはバランスピン8が、それぞれ立設されている。
【0028】
各鍵4は、前後方向に延び、その中央に形成されたバランスピン孔4aを介して、バランスピン8に回動自在に支持されている。また、図2および図3に示すように、鍵4の前部の下面には、前後方向に延びるフロントピン穴4bが形成されており、このフロントピン穴4bは、フロントピン7に上下方向に移動自在に係合している。また、鍵4の下面のフロントピン穴4bの左右両側には、それらの全体にわたって突起部係合溝4cが形成されている。この突起部係合溝4cは、フロントピン穴4bよりも若干短い所定の前後方向の幅と、非常に浅い所定の深さを有する。また、鍵4の後部には、キャプスタン9が取り付けられるとともに、このキャプスタン9を介して、弦を打弦するためのハンマーと、これを駆動するアクション(いずれも図示せず)が載置されている。
【0029】
図3および図4に示すように、フロントパンチング10は、所定の弾性を有するゴムなどの弾性体で構成され、本体部11および突起部12を一体に有している。本体部11は、厚い円盤状のものであり、その中心には、上下方向に貫通するフロントピン挿入孔11aが形成されている。フロントパンチング10は、本体部11のフロントピン挿入孔11aにフロントピン7が挿入された状態で、複数の紙パンチング13を介して、筬前5の上面に載置されている。この紙パンチング13は、円形のシート状のものであり、フロントパンチング10の設置高さを調整するために設けられている。
【0030】
突起部12は、本体部11の上面のフロントピン挿入孔11aの左右両側の全体にわたって、左右方向に延びており、ほぼ半円形の断面を有し、鍵4に向かって上方に突出している。また、突起部12には、その全体にわたって、フェルトなどで構成された緩衝材14が貼り付けられている。この緩衝材14を含む突起部12の前後方向の幅は、鍵4の突起部係合溝4cよりも若干小さく、高さは突起部係合溝4cの深さよりも若干大きい。
【0031】
次に、上記の構成の鍵盤装置2の動作を説明する。図3に示す離鍵状態では、鍵4は、その後部がハンマーおよびアクションの重さにより下方に押圧されているため、図1の反時計方向に回動しており、鍵4の前部がフロントパンチング10の上方に位置している。この離鍵状態から鍵4が押鍵されると、鍵4は、その前部をフロントピン穴4bに係合するフロントピン7によって案内されながら、バランスピン8を中心として、同図の時計方向に回動する。この回動に伴い、鍵4の前部が下方に回動し、その突起部係合溝4cの上壁が突起部12に当接し、これを押圧することにより、突起部12が潰される。その後、鍵4の下面の突起部係合溝4c以外の部分が、本体部11に当接する。
【0032】
このため、鍵4が弱打された場合には、鍵4の回動速度が遅く、突起部12がゆっくり潰されるため、主として突起部12の変形により、柔らかいタッチ感を得ることができる。また、鍵4が強打された場合には、鍵4の回動速度が速く、突起部12が瞬時に潰れるため、主として本体部11の全体で鍵4の衝撃を受けることにより、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。以上の結果、鍵4の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる。
【0033】
また、突起部12は、フロントピン挿入孔11aの左右両側において、鍵4の突起部係合溝4cと同じ左右方向に延びていて、鍵4の前部の下面のフロントピン穴4b以外の部分によってバランス良く潰されるので、上記の効果を良好に得ることができる。
【0034】
なお、本実施形態では、フロントパンチング10を、ゴムなどの弾性体で構成しているが、これに代えて、ダイラタント特性(外力が急激に作用したときに硬い状態になり、それ以外のときには柔らかい状態になるという特性)を有する材料で構成してもよい。それにより、鍵4が弱打された場合には、鍵4の押圧力が緩やかに作用し、フロントパンチング10が柔らかい状態に維持されるため、柔らかいタッチ感を得ることができる。一方、鍵4が強打された場合には、押圧力が急激に作用し、フロントパンチング10が硬い状態になるため、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。したがって、前述した突起部12による効果と相まって、鍵4の弱打時および強打時の双方において、より良好なタッチ感を得ることができる。
【0035】
また、フロントパンチング10の本体部11および突起部12を、互いに一体の同じ材料で構成しているが、互いに別体にし、異なる材料で構成してもよい。それにより、鍵4の弱打時および強打時のそれぞれにおいてより好ましいタッチ感が得られる材料を選択することが可能になり、それにより、鍵4の弱打時および強打時の双方において、より良いタッチ感を得ることができる。
【0036】
また、図5に示すように、鍵4の突起部係合溝4cを埋めるように、2つの緩衝材15,15をさらに取り付けてもよい。各緩衝材15は、例えば左右2つのL字状のブッシングクロスで構成されており、その一部が、フロントピン穴4bの側壁に貼り付けられ、残りの部分が、突起部係合溝4cの上壁の左右の半部の全体に貼り付けられている。この構成により、鍵4が緩衝材15を介して突起部12に当接するため、鍵4の衝撃は、突起部12に加えて、緩衝材15によっても吸収される。その結果、弱打時に、さらに柔らかいタッチ感を得ることができる。
【0037】
次に、図6を参照しながら、本発明の第2実施形態によるフロントパンチングを説明する。このフロントパンチング20は、第1実施形態のフロントパンチング10と同様、ピアノ1の鍵盤装置2に適用したものである。
【0038】
このフロントパンチング20は、あらかじめ加熱および圧縮された短円柱状のフェルトで構成されており、通常のフェルトよりも大きな所定の密度(例えば0.4g/cm3)を有する。フロントパンチング20は、その中心に上下方向に貫通するフロントピン挿入孔(図示せず)を有し、そのフロントピン挿入孔にフロントピン7が挿入された状態で、筬前5の上面に設けられている。第1実施形態で併用された紙パンチング13は省略されている。フロントパンチング20は、上側の表層部20aと、下側の基部20bで構成されている。表層部20aには、加熱・圧縮された後、針刺しが施されており、それにより、表層部20aの硬度は、基部20bよりも低い所定の硬度にあらかじめ調整されている。この調整により、フロントパンチング20の硬度は、鍵4側から筬3側に向かってより高くなっている。
【0039】
図6に示す離鍵状態から鍵4が押鍵されると、鍵4の前部は、下方に回動し、フロントパンチング20に当接し、これを圧縮する。
【0040】
この場合、鍵4が弱打されたときには、鍵4の回動速度が遅く、フロントパンチング20のより柔らかい表層部20aが、ゆっくり圧縮されるため、主として表層部20aの変形により、柔らかいタッチ感を得ることができる。また、鍵4が強打されたときには、鍵4の回動速度が速く、表層部20aが瞬時に圧縮されるため、主として基部20bで鍵4の衝撃を受けることにより、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。以上の結果、鍵4の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる。
【0041】
また、針刺しの程度により、表層部20aの柔らかさを調整できるため、演奏者の好みに応じた、弱打時の柔らかいタッチ感を得ることができる。
【0042】
また、フロントパンチング20は、加熱・圧縮されたフェルトで構成されていて、その密度が高いため、サンドペーパーなどを用いて、型くずれすることなく、容易にかつ精度良く切削することができる。それにより、フロントパンチング20の設置高さを容易に調整できるため、従来の紙パンチングを省略でき、ひいてはピアノ1の製造コストを削減することができる。
【0043】
なお、図7に示すように、図5の変形例と同様、鍵4の下面に緩衝材21を取り付けてもよい。この変形例では、鍵4の下面に緩衝材取付溝4dが形成されている。この緩衝材取付溝4dは、フロントピン穴4bを取り囲むように配置され、その前後方向の長さは、フロントパンチング20の直径よりも若干大きく、深さは、フロントピン穴4bよりも非常に浅い。また、緩衝材21は、ブッシングクロスで構成されており、緩衝材取付溝4dのうちのフロントピン穴4bの左右両側の部分をそれぞれ埋めるように、緩衝材取付溝4dの上壁に貼り付けられている。この構成により、鍵4は、緩衝材21,21を介してフロントパンチング20に当接するため、鍵4の衝撃は、フロントパンチング20に加えて、緩衝材21によっても吸収される。その結果、弱打時にさらに柔らかいタッチ感を得ることができる。
【0044】
次に、図8を参照しながら、本発明の第3実施形態によるフロントパンチングを説明する。このフロントパンチング30は、その硬度の分布の調整を、第2実施形態の針刺しに代えて、硬化剤を用いて行ったものである。
【0045】
具体的には、このフロントパンチング30は、フロントパンチング20と同様、あらかじめ加熱・圧縮されたフェルトで構成されている。また、フロントパンチング30は、上側の表層部30aと下側の基部30bで構成されている。基部30bには、加熱・圧縮された後、硬化剤(例えばハンマーフェルト用の硬化剤)が注入されており、それにより、基部30bの硬度は、表層部30aよりも高い所定の硬度にあらかじめ調整されている。この調整により、第2実施形態のフロントパンチング20と同様、フロントパンチング30の硬度は、鍵4側から筬3側に向かってより高くなっている。フロントパンチング30の他の構成は、フロントパンチング20と同じである。
【0046】
図8に示す離鍵状態から鍵4を押鍵すると、鍵4の前部は、下方に回動し、フロントパンチング30に当接し、これを圧縮する。この場合、鍵4が弱打されたときには、主として表層部30aの変形により、柔らかいタッチ感を得ることができる。また、鍵4が強打されたときには、主として基部30bで鍵4の衝撃を受けることにより、打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。以上の結果、鍵4の弱打時および強打時のいずれにおいても、良好なタッチ感を得ることができる。
【0047】
また、硬化剤の量や種類を変更することにより、基部30bの硬さを調整できるため、演奏者の好みに応じた、強打時の打ち応えのあるタッチ感を得ることができる。また、第2実施形態と同様、フロントパンチング30は、加熱・圧縮された密度の高いフェルトで構成されていて、容易にかつ精度良く切削できるため、従来の紙パンチングを省略し、ピアノ1の製造コストを削減することができる。
【0048】
なお、図9に示すように、図7の変形例と同様、鍵4のフロントピン穴4bの左右両側において、緩衝材取付溝4dを埋めるように、2つの緩衝材21,21を取り付けてもよい。この構成により、鍵4が緩衝材21を介してフロントパンチング30に当接するので、弱打時にさらに柔らかいタッチ感を得ることができる。
【0049】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。実施形態は、本発明をグランドピアノピアノに適用したものであるが、本発明は、これに限定されず、例えばアップライトピアノはもちろん、アコースティックピアノと同様の鍵を備える鍵盤楽器、例えば電子ピアノなどにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ピアノ(鍵盤楽器)
3 筬
4 鍵
4b フロントピン穴
7 フロントピン
10 フロントパンチング
11 本体部
11a フロントピン挿入孔
12 突起部
20 フロントパンチング
20a 表層部
20b 基部
30 フロントパンチング
30a 表層部
30b 基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動自在の鍵の前部と筬の間に配置され、押鍵に伴って回動する前記鍵が当接する鍵盤楽器のフロントパンチングであって、
所定の弾性を有し、前記筬上に設けられたブロック状の本体部と、
前記本体部の前記鍵側の表面から前記鍵に向かって突出し、押鍵された前記鍵が当接することにより圧潰可能な突起部と、
を備えることを特徴とする鍵盤楽器のフロントパンチング。
【請求項2】
前記鍵の前部の下面には、当該鍵の長さ方向に延びるフロントピン穴が形成され、
前記筬には、前記フロントピン穴に係合した状態で、押鍵された前記鍵を案内するためのフロントピンが立設されており、
前記フロントパンチングは、その中心に上下方向に貫通するフロントピン挿入孔を有し、当該フロントピン挿入孔に前記フロントピンが挿入された状態で前記筬上に設けられており、前記突起部は、前記フロントピン挿入孔の両側において、前記フロントピン穴の長さ方向と直交する方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器のフロントパンチング。
【請求項3】
回動自在の鍵の前部と筬の間に配置され、押鍵に伴って回動する前記鍵が当接する鍵盤楽器のフロントパンチングであって、
当該フロントパンチングは、前記筬上に設けられるとともに、その硬度が前記鍵側から前記筬側に向かってより高くなるように構成されていることを特徴とする鍵盤楽器のフロントパンチング。
【請求項4】
前記フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成され、
前記筬側の基部と、
針刺しによる軟化によって、前記基部よりも低い硬度を有する前記鍵側の表層部と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の鍵盤楽器のフロントパンチング。
【請求項5】
前記フロントパンチングは、圧縮されたフェルトで構成され、
前記鍵側の表層部と、
硬化剤による硬化によって、前記表層部よりも高い硬度を有する前記筬側の基部と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の鍵盤楽器のフロントパンチング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−13461(P2011−13461A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157619(P2009−157619)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)