説明

閃光センサ及び閃絡検出方法

【課題】閃光によって閃絡を検出する場合に、瞬間的に発生する光を誤検出しないようにする。
【解決手段】閃絡センサ1の受光素子2は、光を受けて信号Sに変換し、出力する。帯域通過フィルタ3は、受光素子2から入力した信号Sのうち、閃絡による閃光の周波数2fを持つ信号Sを通過させる。パルス変換器4は、帯域通過フィルタ3から入力した信号Sをパルス信号Sに変換し、出力する。ワンショットトリガ回路5は、パルス変換器4から入力したパルス信号Sについて、パルスの立ち上がり時から、閃絡に係る光の周期の時間だけパルスのピーク電圧を維持させて、出力する。パルス幅長比較器6は、ワンショットトリガ回路5から入力したパルス信号Sの時間幅が所定のしきい値以上であれば、閃絡が発生したと判断し、その旨のメッセージMを出力する。ロガー7は、パルス幅長比較器6から入力した閃絡発生のメッセージMを時刻とともに記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔の碍子付近で発生する閃絡を閃光によって検出する閃光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、落雷などによる鉄塔閃絡事故の箇所を検出する場合には、閃絡で発生した電流を検出する地絡短絡検出器や、鉄塔に設置された電磁波検出器が用いられている。ただし、これらの検出器は、高価であり、事故点の推定に誤差が出るという不具合がある。その解決方法がいくつか提案されているが、その1つとして、送電線の閃絡事故検出方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の方法では、受光検出による出力信号のうち、所定周波数(商用周波数の2倍)の信号だけをフィルタリングして、反転増幅し、その増幅した信号の電圧レベルが基準レベル以上であれば、閃絡事故が発生したと判断する。これにより、雷の閃光や太陽光などの外来光による誤動作を確実に防止できるとされている。
【特許文献1】特開平5−249173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法において、所定周波数の信号だけをフィルタリングしても、フィルタリング後の信号が閃絡によるものであるという保証はなく、例えば、雷の光のような単発パルスの光など、所定周波数の光が瞬間的に発生した場合には、誤検出になるおそれがある。また、閃絡による光及び閃絡に関係なく瞬間的に発生する光には、ピーク電圧の特徴的な違いがないので、誤検出を防止するために信号電圧の基準レベルを調整することは困難であると考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、閃光による閃絡の検出を高い信頼度によって行えるようにすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、閃光センサであって、受けた光に応じた信号を出力する受光素子と、前記受光素子から入力した信号のうち、閃絡に係る光の周波数の信号を通過させて、出力する帯域通過フィルタと、前記帯域通過フィルタから入力した信号が継続する継続時間に応じた信号を出力する継続時間信号出力部と、前記継続時間信号出力部が出力した信号に基づいて、前記継続時間が第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断するパルス幅長比較器とを含んで構成されることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、閃光によって閃絡を検出する場合に、閃絡に係る光の周波数の信号を対象にし、当該信号の継続時間がしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断するので、閃絡に係る光の周波数の信号に、閃絡に関係なく瞬間的に発生する光に係る信号が含まれていたとしても、それを閃絡によるものであると誤検出することがなくなる。
【0008】
また、本発明は、閃光センサであって、前記継続時間信号出力部が、前記帯域通過フィルタから入力した信号を、第2のしきい値に基づいてパルス信号に変換して、出力するパルス変換器と、前記パルス変換器から入力したパルス信号について、各パルスの立ち上がり時から閃絡に係る光の周期以上の時間が経過するまで、当該パルスのピーク電圧を維持させて、出力するワンショットトリガ回路とから構成され、前記パルス幅長比較器が、前記ワンショットトリガ回路から入力したパルス信号の時間幅が前記第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断することを特徴とする。
この構成によれば、簡単な回路構成によって、受けた光に応じた信号の継続時間を特定することができる。
【0009】
また、本発明は、閃絡検出方法であって、受光センサが、受けた光に応じた信号を出力する第1のステップと、前記第1のステップで出力した信号のうち、閃絡に係る光の周波数の信号を通過させる第2のステップと、前記第2のステップで通過させた信号が継続する継続時間に応じた信号を出力する第3のステップと、前記第3のステップで出力した信号に基づいて、前記継続時間が第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断する第4のステップとを含むことを特徴とする。
この方法によれば、閃光によって閃絡を検出する場合に、閃絡に係る光の周波数の信号を対象にし、当該信号の継続時間がしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断するので、閃絡に係る光の周波数の信号に、閃絡に関係なく瞬間的に発生する光に係る信号が含まれていたとしても、それを閃絡によるものであると誤検出することがなくなる。
【0010】
また、本発明は、閃絡検出方法であって、前記第3のステップが、前記第2のステップで通過させた信号を、第2のしきい値に基づいてパルス信号に変換する第5のステップと、前記第5のステップで変換したパルス信号について、各パルスの立ち上がり時から閃絡に係る光の周期以上の時間が経過するまで、当該パルスのピーク電圧を維持させて、出力する第6のステップとを含み、前記第4のステップでは、前記第6のステップで出力したパルス信号の時間幅が前記第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断することを特徴とする。
この方法によれば、簡単な回路構成によって、受けた光に応じた信号の継続時間を特定することができる。
【0011】
その他、本願が開示する課題およびその解決方法は、発明を実施するための最良の形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、閃光による閃絡の検出を高い信頼度によって行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る閃光センサは、碍子の付近に設置され、碍子の近傍に発生した閃絡を閃光によって検出する場合に、受けた閃光が閃絡によるものであるか否かを判断するにあたって、閃絡に係る光の周波数の信号の電圧値ではなく、当該信号の継続時間を基準にするものである。これによれば、閃絡とは関係なく瞬間的に発生した光を閃絡によるものであると誤検出することがなくなる。
【0014】
≪閃光センサの構成と概要≫
図1は、閃光センサ1の構成を示す図である。閃絡センサ1は、受光素子2、帯域通過フィルタ3、パルス変換器4、ワンショットトリガ回路5、パルス幅長比較器6及びロガー7を含んで構成される。受光素子2は、外部から光を受けて電気信号(信号)Sに変換し、帯域通過フィルタ3に出力するものである。外部から受ける光には、送電線の碍子近傍に発生する閃絡による閃光だけでなく、雷による閃光や外来光など様々な光がある。閃絡による閃光は、商用周波数fの2倍の周波数2fで数サイクル以上繰り返すという特徴を持っている。「周波数2f」というのは、閃絡に係る短絡電流は商用周波数fであるが、その閃絡による閃光は、短絡電流の正負にかかわらず発生するので、短絡電流の周波数の2倍になる。そして、閃絡による閃光に係る電気信号Sは、当該閃光と同様の特徴を持つ。
【0015】
帯域通過フィルタ3は、受光素子2から入力した電気信号Sのうち、閃絡による閃光の周波数2fを持つ電気信号Sだけを通過させて、パルス変換器4に出力するものである。換言すれば、電気信号Sのうち、直流分及び周波数2f以外の交流分をカットするものである。
【0016】
パルス変換器4は、帯域通過フィルタ3から入力した電気信号Sをパルス信号Sに変換し、ワンショットトリガ回路5に出力するものである。電気信号Sからパルス信号Sへの変換に際しては、所定の電圧のしきい値(第2のしきい値)を基準とし、電気信号Sの電圧が当該しきい値を上向きに超過する都度、所定の時間幅のパルスを生成することにより行われる。ワンショットトリガ回路5は、パルス変換器4から入力したパルス信号Sについて、一旦パルスの立ち上がりがあると、閃絡に係る光の周期以上の時間だけパルスのピーク電圧を維持させて、パルス幅長比較器6に出力するものである。これは、パルス信号Sが周期的に連続して発生する場合に、当該時間帯を時間幅とする1つのパルス信号Sを形成するものである。なお、パルス変換器4及びワンショットトリガ回路5を、帯域通過フィルタ3から入力した電気信号Sが継続する継続時間に応じたパルス信号Sを出力する1つのモジュール(継続時間信号出力部)と見ることもできる。
【0017】
パルス幅長比較器6は、ワンショットトリガ回路5から入力したパルス信号Sの時間幅(継続時間)が、所定の時間のしきい値(第1のしきい値)以上である場合に、閃絡が発生したと判断し、その旨を示すメッセージMをロガー7に出力する。時間のしきい値の調整は、外部から容易にできるものとする。ロガー7は、パルス幅長比較器6から入力した閃絡発生のメッセージMを時刻とともに記録するものである。
【0018】
≪取り扱う信号の具体例≫
図2は、閃光センサ1で取り扱う信号の具体例を示す図である。以下、図1を参照しながら、説明する。図2(a)は、閃絡に係る短絡電流の変化を示す図である。商用周波数f(周期1/f)で時間的に変化しているのが分かる。図2(b)は、帯域通過フィルタ3が出力する電気信号Sの変化を示す図である。電気信号Sは、受光素子2が受けた光に応じて出力した電気信号Sから、帯域通過フィルタ3が閃絡に係る閃光の周波数2f(周期1/(2f))の信号だけを抽出したものであり、閃絡に係る閃光に対応する信号である。ただし、閃絡とは無関係に瞬間的に発生する閃光の周波数が2fに一致した場合には、そのような閃光に係る信号も含まれることがある。図2(c)は、パルス変換器4が出力するパルス信号Sの変化を示す図である。パルス信号Sは、パルス変換器4が電気信号Sをしきい値Vtに基づいて変換するものであり、具体的には、図2(b)に示す電気信号Sがしきい値Vtより小さい場合には、信号の電圧を0にし、電気信号Sがしきい値Vt以上である場合には、信号の電圧を所定のピーク値に設定するものである。
【0019】
図2(d)は、ワンショットトリガ回路5が出力するパルス信号Sの変化を示す図である。パルス信号Sは、ワンショットトリガ回路5が、図2(c)に示すパルス信号Sについて、各パルスが立ち上がった時点から、閃絡に係る閃光の周期1/(2f)以上の時間が経過するまでピーク電圧を維持させるように、パルス波形を補正する。これによって、図2(d)においては、図2(c)の最初(左側)のパルスの立ち上がり時から、最後(右側)のパルスの立ち上がり時に周期1/(2f)の時間を加えた時までの時間Tを時間幅とするパルスが形成されている。
【0020】
なお、パルス幅長比較器6は、この時間Tが所定の時間のしきい値以上であるか否かによって、受光素子2が受けた閃光が閃絡によるものであるか否かを判断する。ここで、所定の時間のしきい値には、閃絡に係る閃光に対応する信号は数サイクル以上繰り返すものであり、一方、閃絡とは無関係に発生する閃光に対応する信号は瞬間的なものであることから、両者を識別する基準となるような値が設定される。
【0021】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、閃絡か否かを判断するにあたって、光を受けて変換した電気信号の電圧ではなく、当該電気信号の継続時間をチェックするため、雷の光など、閃絡に関係なく瞬間的に発生する光を閃絡によるものであると誤って検出することがなくなるので、閃絡検出の精度を上げることができる。そして、当該電気信号の継続時間のしきい値を容易に調整することができるので、さらに閃絡検出の精度を上げることができる。
【0022】
また、閃光センサ1の構成によれば、閃光センサ1を安価、小型、軽量、低消費電力といった仕様で製造することができるため、鉄塔又は碍子ごとに閃光センサ1を設置してもコスト的に見合うので、鉄塔又は碍子単位に閃絡事故の箇所を特定することができる。これによれば、鉄塔の保守作業の合理化、効率化を図ることができる。
【0023】
以上によれば、閃光センサ1を用いることによって、雷が原因である碍子閃絡を含む、
鉄塔に係る閃絡事故を精度よく検出することができ、事故の原因や故障の位置の特定、修理の判定などに柔軟に対応できるシステムを構築することが可能になる。
【0024】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、前記実施の形態において、閃光センサ1は、碍子の近傍に発生した閃絡を対象にし、碍子の付近に設置されるものとしたが、これに限らず、碍子部以外に生ずる閃光を検出するのに適用してもよい。例えば、送電線径間で発生する事故(重機接触、飛来物接触、電線相互の接触など)による閃光を検出するために、閃光センサ1、集光レンズ及び望遠レンズを組み合わせたものを両側の鉄塔に設置し、径間の弛度底に焦点を合わせるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】閃光センサ1の構成を示す図である。
【図2】閃光センサ1で取り扱う信号の具体例を示す図であり、(a)は閃絡に係る短絡電流の変化を示し、(b)は帯域通過フィルタ3が出力する電気信号Sの変化を示し、(c)はパルス変換器4が出力するパルス信号Sの変化を示し、(d)はワンショットトリガ回路5が出力するパルス信号Sの変化を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 閃絡センサ
2 受光素子
3 帯域通過フィルタ
4 パルス変換器
5 ワンショットトリガ回路
6 パルス幅長比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受けた光に応じた信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から入力した信号のうち、閃絡に係る光の周波数の信号を通過させて、出力する帯域通過フィルタと、
前記帯域通過フィルタから入力した信号が継続する継続時間に応じた信号を出力する継続時間信号出力部と、
前記継続時間信号出力部が出力した信号に基づいて、前記継続時間が第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断するパルス幅長比較器と、
を含んで構成されることを特徴とする閃光センサ。
【請求項2】
前記継続時間信号出力部は、
前記帯域通過フィルタから入力した信号を、第2のしきい値に基づいてパルス信号に変換して、出力するパルス変換器と、
前記パルス変換器から入力したパルス信号について、各パルスの立ち上がり時から閃絡に係る光の周期以上の時間が経過するまで、当該パルスのピーク電圧を維持させて、出力するワンショットトリガ回路と、
から構成され、
前記パルス幅長比較器は、前記ワンショットトリガ回路から入力したパルス信号の時間幅が前記第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の閃光センサ。
【請求項3】
受光センサが、受けた光に応じた信号を出力する第1のステップと、
前記第1のステップで出力した信号のうち、閃絡に係る光の周波数の信号を通過させる第2のステップと、
前記第2のステップで通過させた信号が継続する継続時間に応じた信号を出力する第3のステップと、
前記第3のステップで出力した信号に基づいて、前記継続時間が第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断する第4のステップと、
を含むことを特徴とする閃絡検出方法。
【請求項4】
前記第3のステップは、
前記第2のステップで通過させた信号を、第2のしきい値に基づいてパルス信号に変換する第5のステップと、
前記第5のステップで変換したパルス信号について、各パルスの立ち上がり時から閃絡に係る光の周期以上の時間が経過するまで、当該パルスのピーク電圧を維持させて、出力する第6のステップと、
を含み、
前記第4のステップでは、前記第6のステップで出力したパルス信号の時間幅が前記第1のしきい値以上である場合に、閃絡が発生したと判断する
ことを特徴とする請求項3に記載の閃絡検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−180558(P2009−180558A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18116(P2008−18116)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】