説明

開始剤/ヒドロキシド錯体および開始剤/アルコキシド錯体、その錯体を含む系、ならびにそれを用いて製造される重合組成物

【課題】本発明により、錯体とともに存在するモノマーの重合を早期に開始させたりその後添加されたモノマーの重合のための開始剤の効力を劣化させたりすることなく、低表面エネルギー基材を結合させるため有用である接着剤の重合に使用されるような開始剤系を提供する。
【解決手段】本発明の開始剤系は、少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体および少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体のうちの少なくとも一方を含む錯化開始剤と、デコンプレクサーとを含み、少なくとも1つのモノマーの重合を開始させて重合組成物を形成するのに有用である。重合組成物を形成するのに有用な本発明のキットは、重合性組成物と、本発明の錯化開始剤を含有する開始剤コンポーネントとを含み、キットの重合性組成物を開始剤コンポーネントのいずれかと混合することにより、結合性組成物を調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、開始剤と、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する錯化剤との錯体に関する。この錯体は、モノマーを重合するための開始剤系に有用である。
【背景技術】
【0002】
接着剤などの組成物を作成するためのモノマーの重合を開始する系は既知の技術である。たとえばSkoultchiの特許文献1、特許文献2、特許文献3ではアクリルモノマーの重合を開始する2元開始剤系について記述している。これらの2元系の第1部分は典型的に安定した有機ボランアミン錯体を含み、第2部分は活性化剤を含む。活性化剤はアミン基を除去して有機ボラン化合物を遊離させ、それによって有機ボラン化合物が重合プロセスを開始できる。活性化剤はリベレーター又はデコンプレクーサーと称されることもある。
【0003】
このような系における通常の錯体は有機ボランとアミンとの錯体を含む。そのような錯体は多くの用途で有用ではあるものの、そのような従来の錯体にアミン錯化剤を使用することにより問題が発生することがある。たとえば、錯体が一次アミンを含有する場合、それから調製された接着剤は黄変など変色しがちである。さらに、錯体を含有する組成物にたとえば特許文献4などに記述されたアジリジン官能物質などの反応性希釈剤を含んでいる場合、希釈剤はその錯体においてプロトン性アミン(つまり、窒素原子が少なくとも1つの水素原子に結合したアミン)と早期反応し、有機ボラン開始剤を早期に錯化解除することがある。この現象は錯体とともに存在するモノマーの重合を早期に開始させたりその後添加されたモノマーの重合のための開始剤の効力を劣化させたりする。
【0004】
これらの潜在的な問題および代替製剤を提供したいとの見地から、低表面エネルギー基材を結合させるため有用である接着剤の重合に使用されるような開始剤系では特にさらなる錯体が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,106,928号明細書
【特許文献2】米国特許第5,286,821号明細書
【特許文献3】米国特許第5,310,835号明細書
【特許文献4】PCT国際公開第WO98/17,694号
【発明の概要】
【0006】
本発明の開始剤系は、少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体および少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体のうちの少なくとも一方を含む錯化開始剤と、デコンプレクサーとを含む。好ましくは、開始剤は、有機ボラン開始剤のような有機金属開始剤を含む。
【0007】
本発明に係る有機ボラン開始剤と錯化剤との錯体は、以下の一般式(I)、
【化1】

で表すことができる。式中、Rは、1〜約10個の炭素原子を有するアルキル基である。RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、1〜約10個の炭素原子を有するアルキル基およびフェニルを含有する基から選択される(すなわち、それらは、独立して、選択される)。「Cx」は、本発明の錯化剤を表す。「v」の値は、錯体中のアルコキシドおよび/またはヒドロキシドの酸素原子とホウ素原子との有効比を提供するように選択される。
【0008】
開始剤系は少なくとも1つのモノマーの重合を開始するのに有用である。そのような方法で重合を開始するため、少なくとも1つのモノマーを提供し開始剤系とブレンドする。少なくとも1つのモノマーの重合はそのようにして開始することができる。
【0009】
一実施形態において、錯化開始剤は、以下の式(II)、
(−)O−R(m+) (II)
で表される錯化剤を含む。式中、各Rは、独立して、水素または有機基(たとえば、アルキル基もしくはアルキレン基)から選択され、M(m+)は、対カチオン(第IA族金属(たとえば、ナトリウムおよびカリウム)カチオンもしくはオニウムのような一価カチオン、または第IIA族金属(たとえば、カルシウムおよびマグネシウム)カチオンのような多価カチオンを含む)を表し、nは、ゼロより大きい整数であり、そしてmは、ゼロより大きい整数である。好ましくは、nとmとは等しい。好ましくは、各Rは錯化剤中で同一である。特に好ましい錯化剤は、ナトリウム、カリウム、およびテトラアルキルアンモニウムから選択されるカチオンを含む対カチオンを有する錯化剤を含む。
【0010】
本発明の他の態様によれば、本発明の錯化剤は、キットの一部分として使用される。一実施形態において、本発明のキットは、
少なくとも1つの重合性モノマー、および
少なくとも1つのデコンプレクサー、
を含む重合性組成物と、
少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、および
少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、
のうちの少なくとも一方を含む錯化開始剤、ならびに
任意の希釈剤、
を含む開始剤コンポーネントと、
を含む。
【0011】
結合組成物はキットの重合性組成物をそれぞれの開始剤コンポーネントと混合して調製することができる。結合組成物を使って、たとえばその結合組成物で少なくとも部分的に被覆した基材を調製し、また第1基材および第2基材を含んでなる結合物体を調製することができ、重合結合組成物は第1および第2基材を接着結合する。結合組成物は低表面エネルギー基材を被覆するのに特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、重合を開始させうる開始剤系を提供する。より詳細には、本発明は、(1)錯化開始剤(たとえば、有機ボランヒドロキシド錯体、有機ボランアルコキシド錯体、またはそれらの混合物もしくは組み合わせ)と、(2)デコンプレクサーとを含んでなる「開始剤系」を提供する。
【0013】
本発明の態様において、開始剤系は多元キットの一部である。かかるキットは少なくとも第1部分(つまり、重合性組成物)および重合性組成物の重合を開始する第2部分(つまり、開始剤コンポーネント)を含んでなる。最も好ましくは、使い易さのため、キットは2つの部分のみ含んでなる。キットの2つの部分は、多元ディスペンサーで簡単に使用することができるよう、簡便かつ商業的に有用な全体数混合比1:10以下、より好ましくは1:4、1:3、1:2又は1:1ですぐに配合することができる。そのディスペンサーは米国特許第4,538,920号および同第5,082,147号に示され、商品名MIXPACとしてConProTec,Inc.(Salem,NH)から入手できる。キットの各部分はすぐに混合されて結合組成物を形成し、それがすぐに重合してポリマー、たとえば、接着剤になる。
【0014】
「重合性組成物」は、典型的には、少なくとも1つのデコンプレクサーと少なくとも1つの重合性モノマーとを含む。
【0015】
「開始剤コンポーネント」は、典型的には、少なくとも1つの錯化開始剤(たとえば、有機ボランヒドロキシド錯体、有機ボランアルコキシド錯体、またはそれらの混合物もしくは組み合わせ)と、任意の希釈剤とを含む。重合性組成物と混合した場合、重合性組成物中のデコンプレクサーは、錯化剤(たとえば、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する錯化剤)から開始剤(たとえば、有機ボラン)を遊離させ、これによりモノマー(1種もしくは複数種)の重合を開始させることができる。
【0016】
“結合組成物”は、本発明に係る重合性組成物と開始剤コンポーネントとの混合から生じる組成物である。結合組成物は、ポリマー、ウッド、セラミックス、コンクリート、および金属から得た基材などを含む広範囲な基材を結合させるのに有用である。結合組成物は低表面エネルギー基材を結合するのに特に有用である。
【0017】
“低表面エネルギー基材”は表面エネルギーが45mJ/m未満、より典型的には40mJ/m未満又は35mJ/m未満を有する基材である。そのような材料には、たとえば、ポリエチレンおよびポリプロピレンがある。
【0018】
本発明の組成物と有用に結合できる高表面エネルギーのその他ポリマーには、ポリカーボネートおよびポリメチルメタクリレートがある。しかし、本発明はそれらに限定されるものでなく、熱プラスチック、ならびに、ウッド、セラミックス、コンクリート、プライム金属などから得た適切な基材を結合できる組成物を使用することができる。
【0019】
“重合組成物”(ポリマーとも称される)は、通常の技術のものと見分けることができる典型的非重合量の場合を除いて、結合組成物内の本質的にすべてのモノマーが重合されている組成物である。本発明による重合組成物は、たとえば接着剤、結合材料、シーラント、コーティングおよび射出成形樹脂を含む幅広い方面で使用することができる。重合組成物は、樹脂トランスファー成形で使用される、ガラス、カーボンおよびメタルファイバーマットに関連するマトリックス樹脂として使用することもできる。さらに、重合組成物は、電気部品、プリント回路基板などの製造におけるカプセル封体および埋込用樹脂として使用することができる。当業者は、重合組成物が有用であるその他の幅広い用途については認めることができる。
【0020】
開始剤コンポーネント
錯化開始剤
一般的には、本発明の錯化開始剤は、開始剤と、錯化剤、特に、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する錯化剤との錯体である。「錯体」がルイス酸(たとえば、開始剤)とルイス塩基(たとえば、ヒドロキシドもしくはアルコキシド)との会合により形成される強固に配位した塩であることは、当業者であれば容易に理解されよう。
【0021】
錯化剤が、併用されるデコンプレクサー(もしあれば)と反応するかぎり、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する任意の好適な錯化剤を錯化剤として使用することが可能である。さらにまた、錯化剤は、併用される開始剤と錯体を形成できるものでなければならない。
【0022】
適切な開始剤、又はその配合体は本発明で使用することができるが、その場合、開始剤が錯化剤と錯体を形成することができなければならない。さらに、開始剤は一緒に使用されるモノマーの重合を開始することもできなければならない。好ましくは、開始剤は有機金属開始剤である。
【0023】
本発明の一態様によれば、開始剤は有機ボラン開始剤である。本発明の有機ボラン開始剤と錯化材との錯体は下記の一般式(I)、
【化2】

によって表される。ここで、Rは1から約10の炭素数を有するアルキル基である。RおよびRは同じか又は異なり、1から約10の炭素数を有するアルキル基およびフェニル含有基より選ばれる(つまり、独立的に選ばれる)。好ましくはR、RおよびRは1から約5の炭素数を有するアルキル基より独立的に選ばれる。したがって。R、RおよびRはすべて異なるか、又はR、RおよびRの2つ以上が同じである。R、RおよびRが同じであることが最も好ましい。
【0024】
、RおよびRはそれが付着するボロン原子(B)と一緒になって開始剤を形成する。具体的な有機ボラン開始剤は、たとえば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、およびトリ−sec−ブチルボランを含む。
【0025】
式(I)中の「Cx」は、本発明の錯化剤を表している。これについては以下で詳細に説明する。
【0026】
「v」の値は、錯体中のアルコキシドおよび/またはヒドロキシドの酸素原子とホウ素原子との有効比を提供するように選択される。錯体中のアルコキシドおよび/またはヒドロキシドの酸素原子とホウ素原子との比は、広くは約0.5:1〜約4:1、好ましくは約1:1〜約2:1、より好ましくは約1:1〜約1.5:1、最も好ましくは約1:1でなければならない。
【0027】
錯化剤
下記の用語はこれ以後本発明の錯化剤をより詳しく説明するために使用する。
【0028】
“一価有機基”および“多価有機基”の用語は有機部分を意味し、この場合、炭素原子に対する適用可能な価である。一価有機基は一適用可能価を有する。したがって、多価有機基は一以上適用可能価を有する。
【0029】
“有機基”は脂肪族基または環状基である。本発明の文脈では、用語“脂肪族基”は飽和又は不飽和、線状又は有枝、炭化水素基を意味する。この用語は、たとえば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基を包含するため使用する。用語“アルキル基”は一価、飽和、線状又は有枝、炭化水素基(つまりメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ヘプチル、ドデシル、オクタデシル、アミル又は2−エチルヘキシル基など)を意味する。用語“アルキレン”は、多価、飽和、線状又は有枝、炭化水素基を意味する。用語“アルケニル基”は一つ以上の炭素−炭素二重結合体を有する一価、不飽和、線状又は有枝、炭化水素基(つまりビニル基)を意味する。用語“アルケニレン”は一つ以上の炭素−炭素二重結合体を有する多価、不飽和、線状又は有枝、炭化水素基を意味する。用語“アルキニル基”は一つ以上の炭素−炭素三重結合体を有する一価、不飽和、線状又は有枝、炭化水素基を意味する。用語“アルキニレン”は一つ以上の炭素−炭素三重結合体を有する一価、線状又は有枝、炭化水素基を意味する。
【0030】
用語“環状基”又は“環式構造体”は閉リング炭化水素基を意味し、それは脂環基、芳香族基または複素環基として選別されている。用語“脂環基”は脂環基のものと共通する特性を有する環状炭化水素基を意味する。用語“芳香族基”または“アリル基”は単核芳香族炭化水素基または複核芳香族炭化水素基を意味する。
【0031】
ここで使用される有機基または有基リンク基は、複素環基の場合のような内部(つまり、端末ではない)へテロ原子(つまり、O、N又はS原子)ならびに内部官能基(つまり、カルボニル基)を含むことができる。
【0032】
式(I)中のCxは、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する錯化剤を表している。好ましくは、Cxおよび本発明の錯化剤は、以下の式(II)、
(−)O−R(m+) (II)
で表される。
【0033】
各Rは、独立して、水素もしくは有機基から選択され、そしてnおよびmのそれぞれは、ゼロより大きい整数である。
【0034】
各Rは、錯化剤中で水素であってもよいし、または各Rは、錯化剤中で有機基であってもよい。任意のRが水素である場合、錯化剤は少なくとも1個のヒドロキシドを含有すると言われる。任意のRが有機基である場合、錯化剤は少なくとも1個のアルコキシドを含有すると言われる。好ましいアルコキシドは、Rがアルキル基もしくはアルキレン基であるアルコキシドである。錯化剤にはまた、少なくとも1個のヒドロキシドと少なくとも1個のアルコキシドとの混合物が含まれていてもよい。
【0035】
典型的には、nは1もしくは2であり、そしてmは1もしくは2である。好ましくは、nおよびmは、同一の整数であり、最も好ましくは1である。
【0036】
一般的には、錯化剤は、塩の形態で使用される。すなわち、錯化剤が開始剤を錯化することができるように、錯化剤は好適な対カチオンにより安定化されている。したがって、式IIにおいて、M(m+)は、錯化剤を安定化させる対カチオンを表す。
【0037】
任意の好適なカチオンもしくはそれらの組み合わせを、本発明の対カチオンに使用することができる。上付き文字「m+」で示されているように、カチオンは一価であっても多価であってもよい。「m+」が1である場合、カチオンは一価である。たとえば、第IA族金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)の一価カチオンを使用することができる。他の好適な一価カチオンとしては、一般に以下の式(III)、
(R(X(+)) (III)
に適合するオニウムが挙げられる。各Rは、独立して、一価有機基から選択される。したがって、式(III)中の各Rが異なっていてもよいし、または2個以上のRが同じであってもよい。式(III)において、zは、1より大きい整数を表す。典型的には、zは、2、3、もしくは4である。典型的には、Xは、第VA族、第VIA族、もしくは第VIIA族メタロイド(たとえば、窒素、硫黄、ヨウ素、およびリン)である。例示的なオニウムカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウム(たとえば、テトラメチルアンモニウムおよびテトラブチルアンモニウム)、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、およびテトラブチルホスホニウムが挙げられる。
【0038】
「m+」が1よりも大きい場合、カチオンは多価である。例示的な多価カチオンとしては、第IIA族金属(たとえば、カルシウムおよびマグネシウム)のかチオが挙げられる。
【0039】
一価カチオンが好ましい。特に好ましいのは、ナトリウム、カリウム、およびテトラアルキルアンモニウムである。
【0040】
ヒドロキシドを含有する特定の錯体は、当技術分野で公知である。たとえば、Brown,Herbert C.,Hydroboranes,pp.55−56(1962)に開示されている化学構造のいくつかを参照されたい。しかしながら、そのような錯体を開始剤系に使用することについては報告されていない。
【0041】
ヒドロキシドおよびアルコキシドは、有機ボランのような有機金属開始剤への強力な結合を提供し、得られた錯体は、優れた酸化安定性を有する。したがって、少なくとも1個のヒドロキシド、少なくとも1個のアルコキシド、もしくはそれらの混合物を含有する錯化剤を使用することは、特に本発明の開始剤系にとりわけ有益である。
【0042】
長所として、本発明の好適な錯体は空気安定性がある。“空気安定性”により、それは、室温(約20°から約22℃)でおよびその他環境条件(つまり、真空下でなく不活性大気中でない)下でキャップドベッセル内に収納した場合、錯体は少なくとも約2週間の間重合開始剤として有用な状態であることを意味する。好ましくは、錯体は数ヶ月の間および一年以上までの間これらの条件下で容易に保管することができる。
【0043】
錯体がクリスタル物質である場合(つまり、錯体が室温で固体であるが、差動走査熱量測定法による測定時、測定可能溶融点を有する場合)錯体の空気安定性は向上する。しかしながら、本発明の錯体は室温で液体である場合でも少なくとも6ヶ月の間空気安定性がある。実施例では、液体錯化剤(つまり、差動走査熱量測定法による測定時、室温未満である測定可能溶融点を有する錯体)および液体又は固体錯体の溶液が好ましい。これは、液体が一般的に固体より室温での取扱いおよび混合が簡単であるからである。当業者は、選ばれた開始剤および錯化剤に基づく錯体が室温で液体又は固体であるかどうかすぐに判定することができる。
【0044】
特に好適な“空気安定性”錯体は非発火性である。つまり、錯体は自発的に燃焼したり自発火したりしない。通常の技術では、選ばれた開始剤およびアミジン錯化剤に基づく錯体が非発火性であるかどうかすぐに判定することができる。たとえば、実施例以下で説明する発火性テストは錯体が発火性であるかどうか判定する一つの方法である。
【0045】
本発明の錯体を調製するのに有用な例示的な錯化剤としては、次の物質:水酸化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ナトリウムメトキシド、およびテトラブチルアンモニウムメトキシドが挙げられる。本発明の錯体を調製するのに有用な例示的な有機ボランとしては、トリエチルボランおよびトリブチルボランが挙げられる。異なる錯体のブレンドを本発明の開始剤系に使用することが可能である点についても注目すべきである。
【0046】
本発明の錯体は既知の技術を使用して容易に調製することができる。通常、錯化剤はゆっくり攪拌して不活性雰囲気で開始剤と配合する。発熱がたびたび観察されるので、混合物の冷却を勧める。その成分の蒸気圧が高い場合、反応温度を約70から80℃以下にすることが望ましい。物質が良く混合されると、錯体は室温(つまり、約22から25℃)に冷却しても良い。冷い暗い場所では錯体をキャップドベッセルに保持することが好ましいが、特別な保管条件は不要である。錯体は、希望すれば溶剤中で調製することができるものの、後で除去しなければならない有機溶剤がなくても調製することができるのが長所である。
【0047】
結果として生じた錯体は有効な量で用いる。つまり、重合が容易に生じてポリマー(好ましくはアクリルポリマー)を得ることができるだけの量で用いる。本発明の一態様によれば、開始剤が有機ボランを含んでなる場合、有機ボラン錯体の有効量は、フィラー、非反応性希釈剤およびその他非反応性コンポーネントの重量を差し引いた結合組成物の合計重量に対して、約0.01重量%ボロンから約1.5重量%ボロン、より好ましくは約0.01重量%ボロンから約0.60重量%ボロン、最も好ましくは約0.02重量%から約0.50重量%ボロンとなる量である。有機ボラン錯体の量が低すぎると、重合が不完全となったり、接着剤の場合、組成物が接着不良となることがある。
【0048】
一方では、有機ボラン錯体の量が高すぎると、重合は進行が早すぎて生じる組成物の有効な混合および使用に対応できなくなることがある。大量の錯体は大量のボランの発生を招き、接着剤の場合、結合基材に使用するとボンドラインを弱めることがある。重合の有用な速度は基材に組成物を適用する方法に一部依存する。したがって、ハンドアプリケーターで組成物を塗布する又は組成物を手作業で混合するよりも高速自動産業用接着アプリケータを使って重合速度が早くなるよう調製することができる。
【0049】
希釈剤
開始剤コンポーネントは適切な希釈剤又はその配合物も含有する。希釈剤は重合性組成物に使用されるモノマーと反応する又は反応しないことがある。
【0050】
好ましくは、希釈剤は、錯化剤に対して不活性である。すなわち、好ましくは、希釈剤は、錯化剤が開始剤を錯化させることができなくなったり、もしくは希釈剤が、組成物の所望の性質に影響を与えるように化学的に修飾されたりするように錯化剤に反応する部分(すなわち、錯化剤によるエステル化もしくは加水分解を受けやすい部分)を実質的に含まない。
【0051】
非反応性希釈剤は通常の技術のものに公知の可塑剤を含む。反応性希釈剤は、たとえば、アジリジン官能物質およびマレイン酸塩官能物質を含む。たとえば、その反応性希釈剤はPCT国際公開第WO98/17,694号および米国特許出願第09/272,152号(代理人識別番号54677USA7Aによる発明受託者に受託された“有機ボランアミン錯体開始剤系およびそれによる重合性組成物”)で説明されている。
【0052】
“アジリジン−官能物質”は少なくとも1つのアジリジンリング又は基
【化3】


を有する有機化合物である。その炭素原子は選択的に短鎖式アルキル基(つまり、1から約10の炭素数、好ましくはメチル、エチルまたはプロピルを有する基)に置換され、たとえば、メチル、エチルまたはプロピルアジリジン部分を形成する。
【0053】
有用かつ商業的利用可能なポリアジリジンの例は下記の商品名で入手できる:CROSSLINKER CX−100(Zeneca Resins,Wilmington,MA),XAMA−2(EIT,Inc.、Lake Wylie,SC)、XAMA−7(EIT,Inc.,Lake Wykie,SC)、およびMAPO(トリス[1−(2−メチル)アジリジニル]ホスフィン酸化物(Aceto Chemical Corporation,Flushing,NY)。
【0054】
使用時、錯体が開始剤コンポーネントに希釈剤によって又は2つ以上の異なる希釈剤をブレンドしたものによって担持(溶解又は希釈)されることは非常に有益である。一般的には、希釈剤は錯体に対して反応すべきではなく、この錯体のエクステンダーとして機能する。希釈剤も一般的に開始剤コンポーネントの自発的燃焼温度を増大させ、開始剤コンポーネントの非発火特性を増大させることは有益である。
【0055】
希釈剤は一般的に、キットの部分が容易に混合できるよう、重合性組成物に含まれるモノマーに溶解しなければならない。“溶解できる”というのは室温(つまり、約22から約25℃)で総相分離の証拠が肉眼で視認できないことを意味する。錯体と希釈剤との混合物を少し暖めることは室温(約22から約25℃)でこの2つの溶解を形成するのに役立つが、同様に錯体は希釈剤内でも溶解できなければならない。したがって、好ましくは、希釈剤を使用する場合、室温の近辺で(つまり、室温約10℃以内で)液体であるか、その室温近辺で錯体と液体溶液を形成する。
【0056】
希釈剤は有効量で使用される。一般的に、これは、結合組成物の合計重量に対して、約50重量%以下、好ましくは約25重量%以下、より好ましくは約10重量%以下の量である。しかしながら、錯体の実質的な量(つまり、約15重量%より多く、時々約40重量%より多い)が希釈剤に溶解することができ、それによって商業的に有用な混合比で結合することができる多元キットの提供が容易になる。
【0057】
重合性組成物
デコンプレクサー
用語“デコンプレクサ(decomplexer)”はその錯化剤から開始剤(例えば、有機ボラン)を遊離させることができる化合物を意味する。これによって重合プロセスの開始が可能になる。デコンプレクサ−は“活性化剤”又は“リベレーター”と呼ばれることもある。ここで使用するこれらの意味はそれぞれ同じ意味である。
【0058】
適切なデコンプレクサー又はその配合物であるイソシアネート、酸、酸塩化物、スルホニル塩化物、無水物、開始剤コンポーネントと配合時前記のいずれかを遊離させることができる化合物、およびその混合物を使用することができる。適切な酸の例はルイス酸およびブレンステッド酸などがある。特に適切なデコンプレクサーには、Skoultchi他(米国特許第5,310,835号および同第5,106,928号)により説明された低分子量カルボン酸デコンプレクサー、フジサワ、イマイ、マスハラによるスルホニル塩化物および酸塩化物(医科歯科研究所レポート、第3巻、64ページ(1969))、Devinyにより説明されたイソシアネート基を含んでなる複反応性デコンプレクサー(PCT国際公開第WO97/07,171号)、Devinyにより説明された無水物デコンプレクサー(PCT国際公開第WO97/17,383号)、Deviny他により説明されたカルボン酸デコンプレクサー(PCT国際公開第US98/12,296号、1998年6月12日出願、“開始剤系およびそれによる接着剤組成物)、およびその混合物などがある。これら公報はすべて参考資料として本願明細書に援用する。
【0059】
デコンプレクサーは、有効量(すなわち、最終的な重合組成物の所望の性質に実質的に悪影響を及ぼすことなく、開始剤をその錯化剤から遊離させることにより重合を促進するのに有効な量)で利用される。当業者であれば分かるように、あまり多量のデコンプレクサーを用いると、重合が急速に進行しすぎるおそれがあり、接着剤の場合、得られる物質は低エネルギー表面に対して不適切な接着性を示すこともある。しかしながら、ごく少量のデコンプレクサーしか使用しないと、重合速度が遅くなりすぎるおそれがあり、得られるポリマーは特定の用途に適した分子量をもたない可能性がある。重合速度が速すぎる場合、デコンプレクサーの量を低減させることが重合速度を遅くするのに役立つこともある。したがって、これらのパラメーターの範囲内で、デコンプレクサーは、典型的には、デコンプレクサー(1種もしくは複数種)中のヒドロキシドもしくはアルコキシド反応性基(たとえば、酸基もしくはアンヒドリド基)と、錯化剤(1種もしくは複数種)中のヒドロキシド基およびアルコキシド基との比が0.5:1.0〜3.0:1.0の範囲になるような量で提供される。より良好な性能を得るために、好ましくは、デコンプレクサー(1種もしくは複数種)中のヒドロキシドもしくはアルコキシド反応性基と、錯化剤(1種もしくは複数種)中のヒドロキシド基およびアルコキシド基との比は、0.5:1.0〜1.0:1.0の範囲、好ましくは約1.0:1.0である。
【0060】
モノマー
本発明の開始剤系はいずれかの適切なモノマーの重合を開始するため使用することができる。広くは、重合性組成物は自由基重合を可能にする少なくとも1つのエチレン的不飽和モノマーを含む。重合性組成物に使用することができるエチレン的不飽和を含む化合物は膨大である。好ましくは、組成物は少なくとも1つの(メソ)アクリルモノマー、最も好ましくはメタクリルモノマーを含む。特に好ましいのは(メソ)アクリル酸誘導体であり、エステルおよび/又は酸アミドを含むものである。適切なものは、たとえば、メチル(メソ)アクリレート、メチル(メソ)アクリレート、ブチル(メソ)アクリレートおよびエチルヘキシル(メソ)アクリレートなど特に1から12の炭素数を有するアルコール類である一価アルコールの(メソ)アクリル酸エステル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびトリメチロールプロパンなどの一価アルコール類の(メソ)アクリル酸エステル;グリセリンのジ−およびモノ(メソ)アクリル酸エステル;トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールのジ(メソ)アクリル酸エステル;ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールおよびペンタプロピレングリコールのジ(メソ)アクリル酸エステル;およびプロポキシル化ジフェニロールプロパンのジ(メソ)アクリル酸エステル、である。
【0061】
基本的に適切なものは、ビニルアセテートなどの重合性モノマー;ビニル塩化物、ビニルフッ化物、ビニル臭化物などのビニルハロゲン化物;スチレン;およびジビニルベンゼンである。しかしながらこれらの化合物は一般的に重合性組成物において副次的な量でしか使用されない。
【0062】
さらに適切なものは酸アミド類であり、アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド;N−メチルメタアクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド;N−エチルメタクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド;N,N−ジエチルメタクリルアミド;N−イソプロピルアクリルアミド;N−ブチルアクリルアミド;N−ブチルメタクリルアミド;N−t−ブチルアクリルアミド;N−N−ジブチルメタクリルアミド;N−(メタクリロイル)ピペリジン;N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)−アクリルアミド;N−1,1,3,3−テトラメチルブチルアクリルアミド;ジメチレンービスー(メソ)アクリルアミド:テトラメチレンービスー(メタ)アクリルアミド;トリメチルヘキサメチレンービスー(メソ)アクリルアミド;トリ(メソ)アクリロイルジエチレントリアミン;および同様の化合物である。
【0063】
一般的に、分子に1つ又は2つのオレフィン二重結合体を有するモノマー、特に1つのオレフィンに重結合体に重点をおく。高不飽和コンポーネントの追加使用は除外されないが、それらの存在が重合組成物の脆化を招く恐れがあることを念頭に置く必要がある。
【0064】
添加物
本発明の結合組成物はさらに任意の添加物を含んでなる。一般的に、そのような添加物はキットの重合性組成物に存在する。その結果、重合性組成物はさらにさまざまな任意の添加物を含んでなる。
【0065】
一方の特に有用な添加物は、重合組成物の合計重量に対して、一般的に最大約50重量%の量で配合される中程度(約40,000)の分子量ポリブチルメタクリレートなどのシックナーである。シックナーは、生じる結合組成物の粘度を塗布がより簡単になる粘性のシロップ状軟度に増大させるため用いる。
【0066】
もう一方の特に有用な添加物は弾性的な物質である。これらの物質はそれらによる結合組成物の破壊靭性を改善することができる。これは、たとえば剛性、高降伏強度の物質(つまり、可撓ポリマー基材などのその他の物質のような簡単にエネルギーを機械的に吸収しない金属基材)を結合する場合、有益である。そのような添加物は、一般的に重合性組成物の合計重量に対して、最大約50重量%の量で配合することができる。
【0067】
コアシェルポリマーは重合性組成物に添加され、結合組成物の展着および流動特性を修正することもできる。これらの向上特性は結合組成物の減少傾向によって明らかになり、シリンジタイプアプリケーターから調剤時好ましくない“ストリング”を残したり、垂直表面に塗布された後たわみ又はスランプを生じたりする。したがって、重合性組成物の合計重量に対して、コアシェルポリマー添加物を約20重量%より多く使用することがたるみースランプ抵抗向上を達成するために望ましい。コアシェルポリマーはそれによる結合組成物の破壊靭性も改善し、たとえば剛性、高降伏強度の物質(つまり、可撓ポリマー基材などのその他の物質のような簡単にエネルギーを機械的に吸収しない金属基材)を結合する場合、有益である。
【0068】
ハイドロキノンモノメチルエーテルなどの少量のインヒビターは、たとえば、重合性組成物で使用され保管時モノマーの劣化を防止又は減少させる。インヒビターはそれによるポリマーの重合速度又は最終特性に重大な影響を及ぼさない量で添加することができる。したがって、インヒビターは一般的に重合性組成物におけるモノマーの合計重量に対して約100−10,000ppmの量で有用である。
【0069】
その他の可能な添加物は非反応性着色剤、フィラー(つまり、カーボンブラック、中空ガラス/セラミックビード、シリカ、二酸化チタン、固体ガラス/セラミック球体、およびチョーク)などを含む。さまざまな任意の添加物は何らかの量で用いられるが一般的にはそれによるポリマーの重合プロセス又は所望の特性に著しく悪影響を与えない量とする。
【0070】
結合組成物
キットの部分(つまり、重合性組成物および開始剤コンポーネント)は、そのような物質と働く場合通常行われる通りに、ブレンドされる。開始剤コンポーネントは結合組成物の使用が望まれる少し前に重合性組成物に添加する。
【0071】
キットの部分が配合され結合組成物を形成すると、組成物をすばやく使用しなければならない。これは、有用なポットライフがモノマー、開始剤コンポーネントの量、結合が行われる温度、クロスリンク剤の有無、および希釈剤を使用しているかどうかに多少依存するからである。好ましくは、結合を向上させるため、開始結合温度を約40℃未満、好ましくは30℃未満、最も好ましくは約25℃未満に維持することが望ましい。したがって、結合プロセスは室温(つまり、約22℃から約25℃)で行う。
【0072】
結合組成物は結合される一方の又は両方の基材に塗布し、その後基材をボンドラインから過度の結合組成物を追い出すような圧力でともに接合する。これは空気に曝され酸化し始めた結合組成物を変位させるという利点がある。一般的に、結合体は結合組成物が基材に塗布された後短時間で、好ましくは約10分以内で、生成しなければならない。通常のボンドライン厚さは約0.1から0.3ミリメートルである。
【0073】
結合体は、合理的な生強度まで、つまり約2−3時間以内にそのような結合物を処理できるようになるまで硬化(つまり、重合)する。環境条件下で約24時間で十分な結合強度に達する。しかしながら、熱による後硬化処理を希望する場合その処理を行うこともできる。
【0074】
ひとつの好適な実施形態において、結合組成物は低表面エネルギー基材上に被覆する。もう一方の好適な実施形態では、結合物は本発明による結合組成物の層によって接着結合される第1基材および第2基材(好ましくは、少なくともその1つが低表面エネルギーポリマー物質)を含んでなる。
【0075】
本発明は、下記の非制限例を参照すれば、より十分評価されるであろう。これらの実施例は図示目的のみであり、付加された特許請求の事項の請求範囲に限定することを意味するものではない。実施例におけるすべての部分、パーセント、比など、および明細書の残り部分は、特に指示しないかぎり、重量単位である。
【0076】
実施例
実施例で使用した種々の商品名および略号は、以下の一覧表に従って規定される。
【0077】
【表1】

【0078】
重なりせん断結合強度テスト
各結合組成物を(0.2ミリメートル(8mil)−径ガラスビードスペーサーを結合組成物に添加した)未処理2.5cm×10cm×0.3cm(1インチ×4インチ×0.125インチ)のテストパネル上に直接塗布し、重なり部分が1.3cm×2.5cm(0.5インチ×1インチ)となるように裸の第2テストパネルを第1テストパネル上の結合組成物に対して直に置いた。クランプを重なり部分に当てた。テストパネルは、特殊例に注記する通り、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又はポリプロピレン(PP)であり、これらはすべてCadillac Plastic,Minneapolis,MNから商業的に入手した。重なり部分から搾り出された少量の結合組成物をそのまま放置させた。
【0079】
結合体は22℃で少なくとも48時間硬化させた。クランプを除去し、重なり結合体をクロスヘッド速度1.27cm/分(0.5インチ/分)で張力テスターでせん断(OLS)テストした。重なりせん断値はポンドで記録し、平方インチ(psi)およびメガパスカル(MPa)当りのポンドに換算した。
【0080】
好ましくは、適切な結合性能のため、OLS値はPTFEについては少なくとも150psi(1.03MPa)であり、より好ましくは少なくとも約300psi(4.14Mpa)であり、HDPEについては少なくとも約500psi(3.45Mpa)、より好ましくは少なくとも約700psi(4.83MPa)であり、PPについては少なくとも約600psi(4.14Mpa)であり、より好ましくは少なくとも約800psi(5.52MPa)である。多様なユーティリティのため、特殊な接着剤で少なくとも2つの異なるタイプの低表面エネルギー基材を適切に結合できれば好ましいし、特殊な接着剤でPTFE、HDPE、PPのすべてを適切に結合できればより好ましいし、特殊な接着剤で少なくとも約300psi(4.14MPa)のOLS値までPTFEを、少なくとも約700psi(4.83MPa)のOLS値までHDPEを、少なくとも約800psi(5.52MPa)のOLS値までPPを適切に結合できれば最も好ましい。
【0081】
有機ボラン錯体の調製
実施例1〜3
外部温度調節を行うことなく窒素雰囲気下で等モル量の錯化剤とトリエチルボランとを組み合わせることにより、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、およびカリウムtert−ブトキシドと、トリエチルボランとの錯体を調製した。これらの錯体は、それぞれ、水溶液、メタノール溶液、およびテトラヒドロフラン溶液として調製した。水酸化ナトリウムおよびトリエチルボランの水溶液は、最初、分離した相を形成し、室温で数時間混合した後、均一になった。各成分の量および錯化剤のタイプを表1に記す。
【0082】
【表2】

【0083】
発火性試験:
空気中で0.05mlアリコートを1”×1”ペーパータオル片に適用して処理ペーパータオルを作製することにより、各有機ボラン錯体(実施例1〜3)の発火性を試験した。処理ペーパータオルが1分以内に自己発火(すなわち、自然燃焼)した場合、組成物を発火性とみなす。処理ペーパータオルが10分経っても自己発火しなかった場合、組成物を非発火性とみなす。上記の試験に従って各組成物が発火性であるか否かを調べた結果を表2に列挙する。
【0084】
【表3】

【0085】
H−NMR分光法(プロトン核磁気共鳴分光法)
ナトリウムメトキシドトリエチルボラン錯体中のホウ素に隣接するメチレン基のCDCl中のH−NMR化学シフトにより、本発明に有用な有機ボラン錯体の強力な結合がさらに実証された。本発明に有用な有機ボラン錯体中のホウ素に隣接するメチレン基のH−NMRシフトは、約δ0.5未満に現れる。トリエチルボラン自体では、ホウ素に隣接するメチレン基のH−NMRシフトは、約δ1.2である。実施例2で調製した組成物をH−NMR分光法により試験したところ、表3に記載の結果が得られた。
【0086】
【表4】

【0087】
結合性組成物の調製
実施例4
開始剤コンポーネント
実施例1のトリエチルボラン錯体(1.78グラムの溶液)(TEB−NaOH)を1.55グラムのCROSSLINKER CX−100に溶解させた。組成物中の気泡を上昇させて逃がした。
【0088】
重合性組成物
重合性組成物は39.00グラムのメチルメタクリレート(MMA)、28,00グラムのブチルアクリレート(BA)、5.35グラムのメタクリル酸(MAA)、および30.00グラムのポリ(MMA−co−EA)を配合することによって調製した。気泡は真空下で短時間攪拌して組成物から除去した。
【0089】
結合組成物
重合性組成物および開始剤コンポーネントをMIXPAC SYSTEM 50アプリケーターにパッケージした。アプリケータの大きいシリンダーが重合性組成物を保持し、小さいシリンダーが開始剤コンポーネントを保持した。2つの部品は長さ10センチメートル(4インチ)の17段静止混合ノズル(部品番号MX4−0−17−5、ConProTec,Salem,NHから商業的に入手)を通して同時押出しによって配合した。こうしてテスト資料を調製し、重ねセン断結合強度テストによってテストした。ただし、この場合、スチールワイヤスペーサー(0.2ミリメートル(8mil)径)をクランピング前に第1および第2未処理テストパネルの間のウェット接着剤に挿入した。実施例4に対する重ね剪断試験の結果を表4に列挙する。
【0090】
【表5】

【0091】
実施例5
開始剤コンポーネント
実施例1で調製したトリエチルボラン錯体水溶液(6.57グラムの溶液)(TEB−NaOH)、11.05グラムのCX−100、1.42グラムのCAB−O−SIL TS 720、および0.96グラムのP25を組み合わせて、開始剤コンポーネントを調製した。
【0092】
重合性組成物
19.85グラムのメチルメタクリレート(MAA)、9.75グラムのブチルアクリレート(BA)、2.40グラムのメタクリル酸(MAA)、13.50グラムのBLENDEX 360、および4.55グラムのELVACITE 2010を含有するスラリーを70℃で3時間加熱することにより、重合性組成物を調製した。得られたディスパージョンを冷却し、次いで、Premier Mill Corporation;Reading,PAから市販されているLaboratory Dispersatorの鋸歯状ブレードで激しく剪断した。減圧下で手短に攪拌することにより、組成物から気泡を除去した。
【0093】
重合性組成物および開始剤コンポーネントをパッケージ化して、実施例4に記載したように評価した。重ね剪断結合強度試験に従って行った試験の結果を表5に列挙する。
【0094】
【表6】

【0095】
本発明の種々の修正態様および変更態様は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者には自明なものとなるであろう。本発明は本明細書に記載の例示的実施形態に限定されるものではないことを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、および
少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、
のうちの少なくとも一方を含む錯化開始剤と、
デコンプレクサーと、
を含んでなる開始剤系。
【請求項2】
前記開始剤が有機金属開始剤を含む、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
前記開始剤が有機ボラン開始剤を含む、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項4】
前記錯化開始剤が、少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体を含む、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項5】
前記錯化開始剤が、少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体を含む、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項6】
前記錯化開始剤が、下記式(II)、
(−)O−R(m+) (II)
(式中、
は、独立して、水素もしくは有機基から選択され、
(m+)は、対カチオンを表し、
nは、ゼロより大きい整数であり、そして
mは、ゼロより大きい整数である。)で表される錯化剤を含む、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項7】
nとmとが等しい、請求項6に記載の開始剤系。
【請求項8】
各Rが、独立して、アルキル基もしくはアルキレン基である、請求項6に記載の開始剤系。
【請求項9】
各Rが水素である、請求項6に記載の開始剤系。
【請求項10】
(m+)が一価カチオンを含む、請求項6に記載の開始剤系。
【請求項11】
(m+)がオニウムを含む、請求項10に記載の開始剤系。
【請求項12】
(m+)が、ナトリウムのカチオン、カリウムのカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項6に記載の開始剤系。
【請求項13】
少なくとも1つの重合性モノマー、および
少なくとも1つのデコンプレクサー、
を含む重合性組成物と、
少なくとも1個のヒドロキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、および
少なくとも1個のアルコキシドを含有する錯化剤と開始剤との錯体、
のうちの少なくとも一方を含む錯化開始剤、ならびに
任意の希釈剤、
を含む開始剤コンポーネントと、
を含んでなるキット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットの前記それぞれの開始剤コンポーネントと混合した請求項13に記載のキットの前記重合性組成物を含んでなる結合性組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の結合性組成物で少なくとも部分的に被覆されてなる基材。
【請求項16】
低表面エネルギー基材を含んでなる、請求項15に記載の基材。
【請求項17】
第1の基材と、
第2の基材と、
該第1の基材と該第2の基材とを接着結合して一体化させる重合された請求項14に記載の結合性組成物と、
を含んでなる結合物品。
【請求項18】
少なくとも一つのモノマーの重合を開始させる方法であって、
少なくとも1つのモノマーを提供するステップと、
該少なくとも1つのモノマーを請求項1に記載の開始剤系とブレンドするステップと、
該少なくとも1つのモノマーの重合を開始させるステップと、
を含んでなる、方法。

【公開番号】特開2011−231340(P2011−231340A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184782(P2011−184782)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2001−535414(P2001−535414)の分割
【原出願日】平成12年2月25日(2000.2.25)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】