説明

開放式循環冷却水系におけるシリカ系付着物の付着防止方法

【課題】
高いシリカ濃度の補給水を使用した開放式循環冷却水系におけるシリカの付着防止方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度が、180〜280mg/Lの範囲から設定された特定の値以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行ないながら、循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加するとともに、分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸を循環水に添加することを特徴とするシリカの付着防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリカ濃度の高い補給水を使用している開放式循環冷却水系において、シリカ系付着物の付着を防止する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
石油精製、石油化学、製鉄所、火力発電所の各種プロセス等、産業界において大量の冷却水が使用される。通常、これらの冷却水は開放型冷却塔によって冷却され、循環水として繰り返し冷却用途に使用される。この開放型冷却塔では、循環水は送風による空気との熱交換のみならず、循環水の一部が蒸発して蒸発潜熱が奪われることによっても冷却される。このため、循環水中の溶解成分は、水分の蒸発に伴って徐々に濃縮されて析出し、プロセス内の熱交換器や配管内や冷却塔内に析出、付着し、運転上の大きな障害となることがある。従来、こうした不具合を防止するための開放式循環冷却水系の管理方法として、循環冷却水系の濃縮度による管理が知られている。この方法は、循環冷却水系の濃縮度を補給水及び循環水の電気伝導度やカルシウム硬度の分析値等から求め、その濃縮度が一定値以下となるように循環水の一部を排出水として排水し、その排出分の補給水を加える方法である。これにより、循環水中の溶解成分濃度を低く保つことが可能となり、循環水の溶解成分の析出による障害をある程度防止することができる。
【0003】
しかし、上記循環水系の濃縮度のみに基づく管理方法では、補給水中にシリカを多く含み、そのシリカ濃度が大きく変化する場合には、濃縮度が同じであっても循環水系中のシリカ濃度が大きく変動するため、シリカの析出を防止することが困難となる。
【0004】
そこで、循環水系のシリカを吸着除去することにより、シリカの析出を防止する冷却塔循環水の管理方法が知られている。例えば、特許文献1には、イオン交換樹脂を用いて循環水中のシリカを吸着除去する冷却塔循環水の管理方法が記載されている。さらに、特許文献2及び特許文献3にはシリカゲル等の吸着剤によって循環水中のシリカを吸着除去する冷却塔循環水の管理方法が記載されている。循環水中の シリカを除去する方法では、シリカを吸着するためにイオン交換樹脂やシリカゲル等の吸着剤が多量に必要となり、その多量の吸着剤を収容するための吸着塔も必要となる。このため、設備や運転に要する経費が高騰化してしまい、依然として満足しうる循環冷却水系のシリカの付着防止方法は、得られていない。
【0005】
また、シリカの析出を防止する冷却塔循環水の別の管理方法として、電気伝導度やカルシウム硬度の分析値等から求めた濃縮度で管理する代わりに、循環水のシリカ濃度を測定し、その値に応じて補給水量及び排出水量を制御する管理方法も考えられる。しかし、補給水中のような低濃度状態でのシリカは単核体として溶解しているため比色法によって容易に分析できるが、循環水中のような高濃度状態でのシリカは多核の重合体を形成しており、その分析方法は操作が複雑で手間がかかり、熟練を要する。そのため、冷却塔循環水のシリカ濃度の測定値を管理指標とすることは、非常に困難が伴い、現実的ではない。そこで、特許文献4では、容易に分析できる補給水のシリカ濃度と電気伝導度やカルシウム硬度の分析値等から求めた循環水の濃縮度の積である計算シリカ濃度を用いる冷却塔循環水の管理方法が提案されている。
【0006】
一方、特許文献5には、水性系におけるシリカまたは珪酸塩の形成を防止するための方法が開示されており、その方法とは、水性系にa)重量平均分子量約1000〜約25000の、(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー、b)マグネシウムイオン、c)前記コポリマーまたはターポリマーと、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物、d)重量平均分子量約1000〜約25000のポリ(メタ)アクリル酸またはポリマレイン酸またはそれらの塩と、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする方法である。
【0007】
しかし、上記のいずれの防止方法によっても、開放式循環冷却水系におけるシリカ系付着物に対する十分な付着防止効果が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−54894号公報
【特許文献2】特開2001−324296号公報
【特許文献3】特開2002−282892号公報
【特許文献4】特開2005−081251号公報
【特許文献5】特許第3055815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、シリカ濃度が高く、そのシリカ濃度が大きく変化する補給水を使用した開放式循環冷却水系におけるシリカ系付着物の付着防止方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明者は、開放式循環冷却水系のシリカ系付着物の付着防止方法について鋭意検討した結果、次の2つの手段を併用することによって、ある程度のシリカ系付着物の付着防止を達成できることを見出した。
(1)補給水中にシリカを多く含み、そのシリカ濃度が大きく変化する場合の循環水の管理には、冷却塔循環水のシリカ濃度の測定値の代わりに、シリカ濃度以外の水質分析値(例えば、電気伝導度やカルシウム硬度)から求めた循環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度を管理指標とする。
(2)シリカ系付着物の付着防止剤として、分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸を循環水に添加する。
【0011】
しかしながら、この2つの手段の併用によっても、シリカ系付着物に対する十分な付着防止効果は得られない水系もあり、更に検討を進めた結果、ケイソウ(珪藻)が存在する水系では上記の2つの方法に加えて、次の第3の方法を併用することにより、驚くべき相乗効果が得られることを見出した。
(3)循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加する。
【0012】
更に、(4)スルホン酸基含有ポリマー、(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩を添加することにより、一段とシリカ系付着物の付着防止効果が上がることも見出した。
【0013】
本発明者は、以上のような検討結果に基づいて本発明を完成した。
すなわち、請求項1に係る発明は、循環水中にケイソウが存在する開放式循環冷却水系において、(1)循環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度が、180〜280mg/Lの範囲中から設定された特定の値以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行ないながら、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸を循環水に添加するとともに、(3)循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のシリカ系付着物の付着防止方法に加えて、更に(4)スルホン酸基含有ポリマーを循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法である。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2記載のシリカ系付着物の付着防止方法に加えて、更に(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法である。
【0016】
請求項4に係る発明は、循環水中にケイソウが存在する開放式循環冷却水系において、(1)循環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度が、180〜280mg/Lの範囲から設定された特定の値以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行ないながら、(3)循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加するとともに、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーの混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーと(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩との混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、開放式循環冷却水系において、シリカ濃度が高く、そのシリカ濃度が大きく変化する補給水を用い、しかもその循環水中にケイソウが存在していても、該水系を構成する冷却塔、熱交換器や配管へのシリカ系付着物の付着が防止され、該水系の操業の安定に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例に使用した試験装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の、循環水中にケイソウが存在する開放式循環冷却水系におけるシリカ系付着物の生成機構は必ずしも明確ではないが、単細胞性の藻類であるケイソウ(珪藻)が、水に溶解しているシリカを取り込んで被殻を形成するとともに、粘着性の細胞外マトリックスを放出して、水中のシリカ微粒子を抱き込みながらシリカ粒子を凝集させてシリカの付着物を形成すると推察される。これに対して本発明のシリカ系付着物の付着防止方法では、循環水の計算シリカ濃度を180〜280mg/Lの範囲中から設定された特定の値以下になるように維持しながら、循環水に添加された次亜臭素酸がケイソウの繁殖を抑制して、シリカの被殻への取り込みや細胞外マトリックスの放出を妨げる作用を示していると考えられる。一方、ホスホノカルボン酸はシリカ粒子の表面に吸着することによりシリカ粒子の付着防止作用を発揮して、ケイソウの被殻へのシリカの取り込みとシリカ粒子の凝集を妨げ、これらの作用が相乗的に機能して、シリカ付着物の形成と装置への付着を防止すると推察される。
【0020】
また、鉄イオンあるいは鉄の酸化物や水酸化物が存在すると、水中のシリカの凝集を促進し、また鉄イオンがシリカと反応してケイ酸鉄の付着物を生成させるが、オルトリン酸を生成する化合物あるいはモリブデン酸塩は、腐食による鉄イオンあるいは鉄の酸化物や水酸化物の生成を防止することにより、シリカの付着を間接的に防止することができる。
【0021】
本発明におけるケイソウ(珪藻)は、単細胞性の藻類の一種であって、河川、湖沼、海洋の水中に広く分布する。その形態上の特徴は、水中に溶解しているシリカを取り込んで形成される被殻を有することであり、珪藻の多くは被殻に唇状突起と呼ばれる中空の管を持ち、ここから粘液性の物質を細胞外へ分泌する。開放式循環冷却水系に存在するケイソウは、主に補給水から導入される。本発明における循環水中のケイソウの個数は十個/ml程度から数千個/ml以上まで様々である。
【0022】
本発明のおけるシリカ系付着物は、一般に水中のシリカが単独で無定形シリカとして析出する狭義のシリカスケール、水中のシリカと多価金属イオンが反応して生じるケイ酸塩が析出するケイ酸塩スケール、及びケイソウが水中のシリカ微粒子を抱きこみシリカ粒子を凝集させて形成するシリカの付着物を含む。ここでケイ酸塩とは、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛など、あらゆる種類の金属のケイ酸塩を含む。
【0023】
本発明における補給水とは、循環水の蒸発、飛散、漏れおよび排出水等の循環水の損失を補い、保有水量を一定に保つために補給される水を指し、補給水としては、一般的な 地下水、工業用水、回収処理水等が用いられる。補給水のシリカ濃度は、通常、5〜80mg/Lであり、この範囲を超えるシリカ濃度であっても良く、また、補給水のシリカ濃度が一定であっても変動していても良い。
【0024】
本発明における循環水系の計算シリカ濃度(S:mg/L)は、循環水系の濃縮度(N)と循環水系への補給水のシリカ濃度(S:mg/L)の積(N×S)で定義され、計算上、循環水に含まれているシリカ濃度である。
【0025】
開放式循環冷却水系のように濃縮が行なわれ、シリカ濃度が比較的高くなる水系では、シリカは多核の重合体を生成し、ある特定の濃度以上になると不溶性シリカとして析出する。多核の重合体を生成したシリカの濃度は、「JISK0101 44.シリカ」の分析に規定されているように、測定前に時間をかけて複雑な前処理、例えば炭酸カルシウムによる融解処理、塩酸や過塩素酸処理等を行なった後にモリブデン黄吸光光度法あるいはモリブデン青吸光光度法等の比色法で測定されるが、前処理操作は煩雑で熟練を要し、また、これらの分析操作を自動化して連続測定を実施しようとしても、その自動測定装置は構造が複雑になり経済的にも高価なものとなることは容易に予想され、現実的ではない。
【0026】
一方、補給水のシリカ濃度(S)は、補給水中に含まれる単核体のシリカを主としたシリカの濃度であり、「JISK0101 44.シリカ」の分析に規定されている比色定量法のモリブデン黄吸光光度法あるいはモリブデン青吸光光度法によって測定されるシリカ濃度である。一般に補給水のような低濃度状態のシリカは単核体として溶解しており、多核の重合体の場合のような前処理は不要であり前述の方法によって容易に分析できる。さらにその測定は、容易に自動計測装置によって自動測定を行うことができる。
【0027】
このため、測定が煩雑で自動化が困難な循環水の実際のシリカ濃度(S)に代えて、測定が容易で自動測定も可能な補給水のシリカ濃度に濃縮度を掛けた計算シリカ濃度(S=N×S)を使用することによって、補給水のシリカ濃度が高く、そのシリカ濃度が大きく変化する場合でも、その変化に迅速に対応でき、スケール付着を効果的に防止することができる。具体的には、計算シリカ濃度(S)を、特定の値、即ち、実際に循環水系にシリカスケールが生じるときの計算シリカ濃度(以下、「限界シリカ濃度(SCM)」と称する)以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行なう。尚、計算シリカ濃度は、実際のシリカ濃度(S:mg/L)と高い相関性を示すことも確認されている(特許文献4参照)。
【0028】
計算シリカ濃度を算出するために用いる濃縮度(N)は、シリカ濃度以外から求めた濃縮度である。濃縮度(N)の算出方法には種々の方法があり、例えば循環水の電気伝導度(EC:mS/m)と補給水の電気伝導度(EC:mS/m)の比(EC/EC)によって濃縮度(N)を算出する方法、循環水と補給水のカルシウム硬度の濃度比から濃縮度を算出する方法、循環水と補給水の蒸発残留物量の比から濃縮度を算出する方法等があり、いずれの方法も用いられる。中でも、循環水の電気伝導度(EC:mS/m)と補給水の電気伝導度(EC:mS/m)の比(EC/EC)によって濃縮度(N)を算出する方法は、一般的な市販の電気伝導度測定用セルを用いた連続的な自動計測を容易に行うことができ、本発明の付着防止方法にとって好適である。一般に補給水の電気伝導度は、使用する水質により異なるものであり、特に限定されるのもではなく、通常、1〜50(mS/m)であり、多くは2〜30(mS/m)である。
【0029】
本発明で用いる限界シリカ濃度(SCM)は、循環水系の温度、循環水の適用工程、補給水の水質、循環水系の配管材質およびシリカを含む付着物の許容程度等により異なるが、通常は180〜280mg/Lの範囲中より設定された特定の値であり、好ましくは200〜240mg/Lの特定の値である。従って、計算シリカ濃度は、280mg/L以下となる。限界シリカ濃度が280mg/Lを超える場合はシリカ系付着物以外の他のスケールが析出する場合があり、好ましくない。また、限界シリカ濃度が180mg/L未満では、腐食防止作用を有するシリカを低い濃度に維持することになり、系全体の腐食防止能力が不足して循環水系の腐食傾向が上がるため好ましくない場合がある。
【0030】
本発明における、計算シリカ濃度による被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御方法は、保有水量を一定に保つために補給水を連続的あるいは断続的に給水し、別途、連続的あるいは断続的に排出水を排出している循環水系において、補給水と循環冷却水から濃縮度(N)を求め、さらに補給水のシリカ濃度(S)を測定して、計算シリカ濃度(S)を「S=N×S」として算出した後、該循環水系の水質から決定されるシリカスケールが生じる限界シリカ濃度(SCM)を設定し、連続的あるいは定期的に濃縮度(N)、補給水のシリカ濃度(S)を測定して、計算シリカ濃度(S=N×S)がS<SCMの場合は、補給水あるいは排出水はそのままの状態で維持し、S≧SCMの場合は、該循環水系の保有水量を一定に維持するように補給水を給水しながら排出水量を増加させて該循環水系の計算シリカ濃度(S)が限界シリカ濃度(SCM)以下になるようにする、あるいは補給水を増加させ、循環水系中の余剰水を排出させ計算シリカ濃度が限界シリカ濃度(SCM)以下になるようにするというものである。その後、S<SCMになったならば、再び、補給水量または排出水量を元の状態に戻す。
【0031】
また、補給水のシリカ濃度をシリカ濃度計で測定し、濃縮度の算出に電気伝導度を採用して、その測定に電気伝導度計を使用することにより、容易に計算シリカ濃度を算出でき、更に補給水や排出水の弁の開閉と電気的に連動させることによって迅速な補給水量や排出水量の自動制御を実現できる。
【0032】
本発明で使用される、分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸は、循環水中のシリカの多核重合体が析出して生成する不溶性シリカ粒子の付着を防止する作用を有するため、上記の計算シリカ濃度による補給水量や排出水量の制御と併用することによって、特に狭義のシリカスケールの付着を効果的に防止することが可能になる。
【0033】
しかしながら、この2つの手段の併用によっても、シリカ系付着物に対する十分な付着防止効果は得られない水系もあり、更に検討を進めた結果、それらの水系ではケイソウ(珪藻)が存在するという特徴があった。
【0034】
本発明で使用される、循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように循環水に添加する次亜臭素酸を生成する化合物は、循環水中のケイソウの繁殖を抑制して、シリカの被殻への取り込みや細胞外マトリックスの放出を妨げる作用を示す。この作用を得るためには、次亜臭素酸以外に次亜塩素酸や有機殺藻剤も使用できるが、次亜塩素酸は循環水のpHが8.5を超えると、次亜塩素酸イオンに解離するため殺藻効果が劣り、また、該pH域で一定の殺藻効果を得るためには高濃度の次亜塩素酸を循環水に添加するため、配管や装置材料である金属の腐食を促進する悪影響がある。そのため、本発明の方法では、該pH域でも次亜臭素酸イオンに解離し難い次亜臭素酸を用いることが好適である。また、有機殺藻剤は概して高価であり、安価で効果が高い次亜臭素酸を用いることが好ましい。
【0035】
開放式循環冷却水系の循環水中において、ケイソウは、水に溶解しているシリカを取り込んで被殻を形成するとともに、粘着性の細胞外マトリックスを放出して、水中のシリカ微粒子を抱き込みながらシリカ粒子を凝集させてシリカの付着物を形成すると推察されるが、前述のようにシリカ微粒子の付着防止作用を有するホスホノカルボン酸は、ここでもケイソウの粘着性細胞外マトリックスによるシリカ微粒子の抱き込みと凝集を防いでいる。
【0036】
一方、本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、シリカ微粒子の付着防止に有効なホスホノカルボン酸とは異なり、主にケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛などのケイ酸塩の付着防止に有効であることから、本発明のホスホノカルボン酸と併用することにより、狭義のシリカスケールとケイ酸塩スケールの両方の付着防止に対して相乗的な作用を示す。
【0037】
また、循環水中の鉄の酸化物や水酸化物あるいは鉄イオンは、水中のシリカの凝集を促進し、またシリカと反応してケイ酸鉄の付着物を生成させる作用があるが、本発明で使用される、オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩は、腐食による鉄イオンあるいは鉄の酸化物や水酸化物の生成を防止することにより、シリカの付着を間接的に防止することができ、一段とシリカ系付着物の付着防止効果を上げる。
【0038】
以下に本発明で使用される化合物について更に具体的に説明する。
本発明で使用されるホスホノカルボン酸は、分子中に1個のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体例として2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の付加反応物、α−メチル−ホスホノコハク酸、1−ホスホノプロパン−2,3−ジカルボン酸、1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、2−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸などが挙げられる。
【0039】
ここで、亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の付加反応物は、亜リン酸の1モルに対して1種以上のモノエチレン性不飽和カルボン酸を1モル以上の比率で反応させて得られる化合物であり、モノエチレン性不飽和カルボン酸としてアクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、メタクリル酸などが用いられるが、これらの2種以上を混合して反応させてもよい。
【0040】
亜リン酸とアクリル酸の付加反応物は(1)式で示されるホスホノポリアクリル酸である。

【化1】



(ここでmは1〜8の範囲であり、M1、M2、M3はそれぞれ独立に、水素、アルカリ金属を示す)
【0041】
亜リン酸とマレイン酸ないし無水マレイン酸との付加反応物は(2)式で示されるホスホノポリマレイン酸である。

【化2】



(ここでmは1〜5の範囲であり、M1、M2、M3、M4はそれぞれ独立に、水素、アルカリ金属を示す)
【0042】
亜リン酸とイタコン酸との付加反応物は(3)式で示されるホスホノポリイタコン酸である。

【化3】



(ここでmは1〜5の範囲であり、M1、M2、M3、M4はそれぞれ独立に、水素、アルカリ金属を示す)
【0043】
本発明で使用されるホスホノカルボン酸の好ましい例は、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、平均分子量が200〜950のホスホノポリマレイン酸、平均分子量が200〜950のホスホノポリイタコン酸、平均分子量が200〜950のホスホノポリアクリル酸である。ホスホノポリマレイン酸は、ローディア社からBRICORR288の商品名、また、ホスホノポリカルボン酸としてBWA社からはBELCOR585の商品名で市販されているが、いずれも使用可能である。
【0044】
本発明で使用されるホスホノカルボン酸は、分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であり、より好ましくは30〜40%(PO換算)である。分子中のリン含量がこの範囲を外れると、シリカ粒子への吸着能力が低下するため、シリカの付着防止効果が十分でない。
【0045】
本発明のホスホノカルボン酸の製造方法は、例えば2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸は、ナトリウムアルコラートの存在下でホスホノコハク酸テトラメチルエステルをアクリル酸メチルエステルと反応させ、次いでエステルを加水分解することにより得ることができる(特公昭53−12913号公報、特公昭54−38086号公報参照)。α−メチル−ホスホノコハク酸は、ホスホノコハク酸テトラメチルエステルにジメチルサルフェートを反応させて得られる(特公昭56−28946号公報参照)。また、1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸は、アルコラートの存在下でマレイン酸エステルをホスホノ酢酸エステルと反応させた後、エステルを加水分解することにより得られ、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸はナトリウムアルコラートの存在下でジメチル亜リン酸を1−ブテン−2,3,4−トリカルボン酸エステルと反応させ、次いでエステルを加水分解することにより得られ、2−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸は、アルコラートの存在下でα−ジエチルホスホノプロピオン酸メチルエステルをマレイン酸ジエチルエステルと反応させて、次いでエステルを加水分解することにより得ることができる(特公昭54−9593号公報参照)。
【0046】
亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の付加反応物は、中性〜アルカリ性の水性溶媒中で1モルの亜リン酸あるいは亜リン酸エステルに対して1モル以上のモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができる(例えば特開平4−334392号公報)。あるいは、次亜リン酸とカルボニル化合物やイミン化合物との反応物を反応開始剤の存在下でモノエチレン性不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる(特許第3284318号公報参照)。
【0047】
本発明のホスホノカルボン酸の添加濃度は、通常は水系に対して合計で1〜20mg/Lの濃度になるように添加されるが、より好ましくは3〜10mg/Lである。この範囲を外れると、無定系シリカに対する付着防止効果が劣るため好ましくない。
【0048】
本発明で使用される次亜臭素酸は不安定な物質であるため、次亜臭素酸は使用する直前ないし開放式循環冷却水系の中で生成させる必要がある。ここで、使用する直前とは、通常、開放式循環冷却水系に添加される前の0〜24時間の間である。
【0049】
本発明で使用される次亜臭素酸を生成する化合物は、水に溶解して次亜臭素酸あるいは次亜臭素酸イオンを生成するものであれば何でもよい。次亜臭素酸を生成させる方法としては、例えば、固体状の化合物を水に溶解して次亜臭素酸を生成させる方法、使用前に2つ以上の物質を混合して次亜臭素酸を生成させる方法、気体または液化した塩化臭素を水に溶解させる方法、臭素イオンを含む水を電気分解する方法などがあるが、これらに限定されるものでない。
【0050】
次亜臭素酸を生成する固体状の化合物として、次亜臭素酸カルシウム、次亜臭素酸マグネシウム、次亜臭素酸亜鉛などの次亜臭素酸の各種金属塩;臭素化ヒダントイン、臭素化イソシアヌル酸などの各種の臭素化有機窒素化合物などがある。
【0051】
ここで、臭素化ヒダントインは、一般式(4)で表される化合物である。

【化4】



ここで、X1、X2は、それぞれ独立に臭素、塩素、水素であり、X1、X2の中のいずれか、あるいは両方が臭素である。R1、R2はそれぞれ独立に水素又はアルキル基であり、アルキル基の炭素数はそれぞれ独立に1〜6、好ましくは1〜4であり、かつR1とR2のアルキル基炭素数の合計が10以下、好ましくは6以下である。アルキル基の炭素数がこの範囲より大きい化合物は水に対する溶解度が低下するため好ましくない。具体的な例として、ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、ブロモクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、ジブロモ−5,5−ジエチルヒダントイン、ブロモクロロ−5,5−ジエチルヒダントイン、ジブロモ−5−メチル−5−エチルヒダントイン、ブロモクロロ−5−メチル−5−エチルヒダントインなどが挙げられる。
【0052】
使用前に2つ以上の物質を混合して次亜臭素酸を生成させる方法は、例えば、使用する直前に臭素イオンを放出する化合物と酸化剤とを反応させる方法がある。臭素イオンを放出する化合物は、具体的には臭化水素酸;臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムなどのアルカリ金属の臭化物;臭化アンモニウム;臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化亜鉛などの各種金属の臭化物などがあるが、好ましくはアルカリ金属の臭化物である。ここで用いられる酸化剤は、水に溶解して次亜塩素酸を生成する化合物、オゾン、過硫酸塩などの過酸化性物質などがあるが、好ましくは次亜塩素酸を生成する化合物である。
【0053】
次亜塩素酸を生成する化合物は、水に溶解して次亜塩素酸ないし次亜塩素酸イオンを生成するものであれば何でもよいが、具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどの次亜塩素酸塩;塩素ガス;塩素化ヒダントイン、塩素化イソシアヌル酸などの塩素化有機窒素化合物などが挙げられ、また塩素イオンを含む水を電気分解して次亜塩素酸塩を生成させてもよい。
【0054】
本発明では、次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加するが、より好ましくは遊離残留臭素として0.05〜0.5mg/L(Cl 換算)の範囲である。遊離残留臭素が0.02mg/L未満の添加量では、ケイソウの繁殖を抑制する効果が十分でなく、1.0mg/Lを超えると、金属の腐食を促進するため好ましくない。また、遊離残留臭素とともに遊離残留塩素が共存してもよいが、遊離残留臭素濃度は0.02mg/L以上であって、遊離残留塩素との合計濃度は1.0mg/L以下とするのが、腐食防止の点で好ましい。
【0055】
前記の遊離残留臭素濃度を維持する時間は、最低でも1日当たり1時間以上が好ましいが、より好ましくは3時間以上であり、さらに好ましくは24時間の連続維持である。
【0056】
次亜臭素酸は、微生物やその他の有機物と反応して分解するだけでなく、光や熱によっても容易に分解するため、添加量に相当する量が遊離残留臭素として検出されることはない。したがって、遊離残留臭素の残留濃度を定期的に測定して、必要な遊離残留臭素濃度が維持されているかどうかを監視する必要がある。
【0057】
本発明の次亜臭素酸の残留濃度は、ジエチル―p―フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法〔JIS K0101〕等の公知の方法により測定できる。DPD比色法やDPD−FAS滴定法では、水中の遊離ハロゲン、遊離残留臭素、残留ハロゲンの各濃度が定量される。ここで、遊離ハロゲン濃度は遊離残留塩素と遊離残留臭素の各濃度の合計であり、残留ハロゲン濃度は遊離ハロゲンと結合ハロゲンの各濃度の合計である。また、遊離残留臭素は、次亜臭素酸と次亜臭素酸イオンの合計である。ここで、各物質の濃度単位をCl 換算に統一することにより、上述のように測定値をそのまま足し算、引き算して各物質の濃度を求めることができる。DPD比色法、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法は、ハック(Hach)社、ラモットケミカル(LaMotte Chemical Products)社などから簡易な分析キットが市販されており、本発明方法での残留濃度管理に使用できる。具体的には、循環水を採取直後にグリシンを添加して共存する次亜塩素酸を分解後、上述のいずれかの方法により、遊離ハロゲン濃度の規定の測定手順に則って測定した値は、遊離残留臭素濃度に相当する。
【0058】
また、次亜臭素酸類の残留濃度が酸化還元電位に影響を及ぼすことを利用し、各pHにおける次亜臭素酸と酸化還元電位の相関関係を別途求めておくことにより、pHと酸化還元電位の関係から次亜臭素酸の残留濃度を推定することができ、実用上便利である。また、酸化還元電位を自動計測し、その出力信号を基に、次亜臭素酸を生成する化合物の添加量を制御することができる。例えば、次亜塩素酸塩と臭化物を一定の混合比率で添加する場合、酸化還元電位の自動制御機器からの出力信号を基に、次亜塩素酸塩、臭化物をそれぞれ含む各水溶液の注入用定量ポンプを制御することができる。
【0059】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、好ましくはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0060】
ここで、モノエチレン性不飽和スルホン酸として、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、ブタジエンスルホン酸やイソプレンスルホン酸等の共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸などがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0061】
また、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド類の(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2〜8のオレフィンのエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなど;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0062】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、より好ましくは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、共役ジエンスルホン化物と(メタ)アクリル酸の共重合体である。ここで共役ジエンスルホン化物は、ブタジエン、イソプレン、シクロオクタンジエン、シクロペンタンジエン等のスルホン化物があげられる。
【0063】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーの分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000が好ましいが、より好ましくは4,000〜20,000である。該スルホン酸基含有ポリマーの添加濃度は、通常は水系に対して合計で1〜20mg/Lの濃度になるように添加されるが、好ましくは3〜10mg/Lである。1mg/L未満の添加量では、ケイ酸塩スケールの付着防止効果が十分でなく、20mg/L以上の添加量では、むしろ無定形シリカの付着を促進するため好ましくない。
【0064】
本発明で使用されるオルトリン酸を生成する化合物は、オルトリン酸またはその塩、あるいは循環水中で加水分解反応や次亜臭素酸との反応によりオルトリン酸を生成する化合物であり、具体例としてオルトリン酸、オルトリン酸塩、重合リン酸塩、及びヒドロキシ基やアミノ基を有するホスホン酸化合物がある。ここで、重合リン酸塩は循環水中で加水分解してオルトリン酸を生成する。一方、ヒドロキシ基やアミノ基を有するホスホン酸化合物は、次亜臭素酸と反応してオルトリン酸を生成する。
【0065】
ヒドロキシ基やアミノ基を有するホスホン酸化合物の例として、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、ヒドロキシホスホノ酢酸などがある。アミノ基を有するホスホン酸化合物の例として、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などがある。
【0066】
本発明で使用されるオルトリン酸を生成する化合物の添加濃度は、通常は水中に0.2〜8mg/Lのオルトリン酸濃度が得られるように添加されるが、より好ましくはオルトリン酸濃度として0.5〜4mg/Lである。オルトリン酸濃度が0.2mg/Lより少ないと防食効果が劣り、シリカの付着を間接的に防止する効果も得られない場合がある。また、オルトリン酸濃度が8mg/Lより多い場合は、添加量の増加に見合う防食効果の増加が見られない。
【0067】
本発明で使用されるモリブデン酸塩は、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸アンモニウムなどである。本発明で使用されるモリブデン酸塩の添加濃度は、通常は水系に対して合計で1〜30mg/Lの濃度になるように添加されるが、より好ましくは3〜15mg/Lである。モリブデン酸塩の添加濃度が1mg/Lより少ないと防食効果が劣り、シリカの付着を間接的に防止する効果も得られない場合がある。また、モリブデン酸塩の添加濃度が30mg/Lより多い場合は、添加量の増加に見合う防食効果の増加が見られない。
【0068】
循環水のpHは水系におけるシリカの付着に重要な影響を及ぼし、循環水のpHが8.5未満では無定形シリカが付着し易くなり、pH9.0を超えると、各種ケイ酸塩が付着し易くなるため、循環水のpHは8.5〜9.0の範囲に維持されることが好ましく、より好ましくはpH8.6〜8.8の範囲である。
【0069】
循環水の濃縮度を低下させると循環水のpHは低下し、濃縮度を上昇させると循環水のpHも上昇する傾向を示すため、循環水の濃縮度を変化させることにより、循環水のpHを制御することができるが、循環水の濃縮度の制御は、pHよりも計算シリカ濃度の制御が優先されるため、濃縮度の制御のみで所定のpH範囲に収めることができない場合が多い。
【0070】
開放式循環冷却水系では、pHが9.0を超えると、冷却塔で炭酸ガスを吸収して循環水のpHを低下させる作用を示すため、pH9.0の上限値を超えることは稀である。一方、季節変動などにより補給水中のシリカ濃度が上昇すると、濃縮度が低下してpH8.5を下回る場合が頻繁に見られる。このような場合、水溶性アルカリ化合物を添加することが好ましい。pH調整用に用いられる水溶性アルカリ化合物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどがある。
【0071】
この場合、水溶性アルカリ化合物を添加するための注入装置や貯蔵タンクなどの注入設備が別途必要であるが、(2)ホスホノカルボン酸、(4)スルホン酸基含有ポリマー、及び(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩を、予めアルカリ金属水酸化物と混合した水性組成物を添加すると、注入設備が省略でき好適である。即ち、該水性組成物の好ましい例は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーの混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーと(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩との混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物であり、これらの組成物は、水に(2)成分、水に(2)成分と(4)成分、及び、水に(2)成分と(4)成分と(5)成分を混合した後、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどを加えて所定のpHに調製する。(2)成分と(4)成分、及び(2)成分と(4)成分と(5)成分を混合する場合もその混合順序に特に制限はなく、また、いずれの成分の配合量にも特に制限はなく、取扱い易い性状の該組成物が得られれば良い。また、組成物のpHは12.0以上に調整し、好ましくは13.0以上に調整する。
【0072】
冷却塔から循環水の送水温度は、シリカの付着に大きく影響するため、シリカの付着防止には送水温度の制御も重要である。シリカの付着防止には、冷却塔の送水温度は、20〜35℃の範囲に制御するのが好ましく、25〜30℃の範囲とするのがより好ましい。20℃未満では無定系シリカが付着し易くなり、35℃を超えると、ケイ酸塩が付着し易くなるだけでなく、ケイソウを含む微生物が繁殖し易くなるため、いずれも好ましくない。
【0073】
冷却塔の送水温度の制御は、冷却塔のファンモーターのオンオフや回転数の制御、あるいは冷却塔の循環水量の制御により可能である。すなわち、冷却塔のファンモーターを停止させるか、あるいは回転数を下げれば、送水温度は上昇し、ファンモーターを回転させるか、あるいは回転数を上げれば、送水温度は低下する。また、冷却塔の循環水量下げれば、送水温度は上昇し、循環水量を上げれば、送水温度は低下する。
【0074】
原水中の懸濁性粒子を除去するために、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどのアルミニウム化合物を添加している場合があるが、この場合、アルミニウムが補給水中にキャリーオーバーする場合がある。水中にアルミニウムが存在するとシリカの付着を促進するが、本発明の方法によればアルミニウムが存在していても、本発明のホスホノカルボン酸がアルミニウムとキレート化合物を生成してマスキングするため、シリカスケールの付着を防止できる。
【0075】
本発明の付着防止方法では、計算シリカ濃度が180〜280mg/Lという高濃度に維持されるが、シリカは鉄、アルミニウム、亜鉛などの金属に対する腐食防止作用を示し、また本発明のホスホノカルボン酸との相乗作用により、これらの金属に対する腐食防止作用も発揮するため好適である。
【0076】
本発明の付着防止方法では、腐食防止剤、スケール防止剤、微生物障害抑制剤、消泡剤などの公知の化合物を併用して用いても良い。
【0077】
併用されるその他の腐食防止剤の例として、ベンゾトリアゾール類、有機ホスフィン酸類、本発明に含まれない有機ホスホン酸類、タングステン酸塩などが挙げられる。
【0078】
ベンゾトリアゾール類は、銅や銅合金に対する腐食防止作用を示し、特に次亜臭素酸が共存する場合の銅や銅合金の腐食防止に有効である。ベンゾトリアゾール類は、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール、アルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール 、(5)式で示される1,2,3−ベンゾトリアゾール誘導体

【化5】



(ここでRはカルボキシル基、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基を示す)、
(6)式で示されるアルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール誘導体

【化6】



(ここでR1は炭素数が1〜12のアルキル基、R2は水素、炭素数が1〜12のアルキル基、カルボキシル基、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基を示す)
が挙げられるが、好ましくは1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,3−メチルベンゾトリアゾールである。ここで、1,2,3−メチルベンゾトリアゾールは、トリルトリアゾールとして市販されているものが使用できる。
【0079】
併用される微生物障害抑制剤の例として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素、塩素化イソシアヌル酸類、及び塩素化ジメチルヒダントイン酸類等の水に溶解して次亜塩素酸及びまたは次亜臭素酸を生成する化合物;2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等のイソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス−(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、 ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル及びp−クロル−m−キシレノール等が挙げられる。
【0080】
また、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属は、付着部における隙間腐食を起因とした孔食や応力腐食割れが発生し易いが、本発明の方法では、シリカの付着物を防止することにより、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属の腐食を間接的に防止することができる。

【実施例】
【0081】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
(試験装置ならびに試験方法)
本発明の方法を評価するために用いた試験装置ならびに試験方法はJIS G0593−2002『水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法』のオンサイト試験法.に準拠した。試験装置の概略を図1に示す。伝熱管として外径12.7mm、長さ510mmの炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)とステンレス鋼管SUS304(JIS G3448)とアルミニウム黄銅C6871(JIS H3300)を用いた。また、冷却塔1内の充填材21の下に1×30×50mmの寸法のステンレス鋼製試験片8(JIS G4304、SUS304製)を吊り下げた。
水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽2の水温は25℃になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量210L/hとなるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は35kW/mとした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。冷却塔入口・出口の循環水の温度差は7℃、蒸発水量は2.0L/hであった。
【0083】
循環水の電気伝導度を電気伝導度測定セル4で連続的に測定し、電気伝導度の入力信号より電気伝導度制御装置11を用いて設定された計算シリカ濃度に相当する電気伝導度になるようにブローダウンポンプ10を制御した。ブローダウンポンプ10と連動して、水処理剤注入装置13を同時に作動させて、所定の処理剤を所定濃度で調製した処理剤タンク16からホスホノカルボン酸水溶液や、必要によりホスホノカルボン酸とともにスルホン酸基含有ポリマーや他の処理剤を含む混合水溶液を吸入して水槽2に添加した。
循環水の酸化還元電位(ORP)を酸化還元電位測定用電極17で連続的に測定し、ORPの入力信号より酸化還元電位制御装置18を用いて0.15〜0.25mg/L(Cl 換算)の遊離残留臭素濃度に相当するORPになるように水処理剤注入装置14と水処理剤注入装置15とを同時に制御した。
次亜塩素酸ソーダ用タンク19からの次亜塩素酸ソーダ水溶液(有効塩素1.5%Cl )と臭化物用タンク20からの臭化ナトリウムと塩酸混合水溶液は、注入ライン内で混合され、注入ライン内で次亜臭素酸を生成した。ここで、次亜塩素酸ソーダと臭化ナトリウムは、モル比が1:1となるように水処理剤注入装置14と水処理剤注入装置15の吐出量ならびに各処理剤の希釈濃度を設定した。また、次亜塩素酸ソーダと臭化ナトリウムの混合水溶液のpHが7〜8になるように、塩酸の希釈濃度を設定した。
【0084】
水槽2に補給水12を張り、保有水量に対してホスホノカルボン酸Aを30mg/L、塩化亜鉛を25mg/L、スルホン酸基含有ポリマーAを8mg/L、それぞれ添加して循環ポンプ3を作動させて、常温で2日間の初期処理を実施した。
初期処理で使用した水を全量排出し、水槽2に補給水12を新たに張り、所定濃度の被試験処理剤を添加して、循環ポンプ3を作動させた後、熱交換器7の熱負荷を開始した。熱負荷開始と同時に、前述の方法により次亜塩素酸ソーダと臭化ナトリウムの注入を開始した。所定の計算シリカ濃度に達した段階で、ブローダウンを開始して所定の計算シリカ濃度を維持した。ブローダウン開始と同時にブローダウン量に対して所定濃度の被試験処理剤を水処理剤注入装置13により添加した。試験期間は規定濃縮度到達後より14日間とした。
試験終了後、冷却塔内に取り付けた試験片8を取り出し、試験片表面の付着物量を測定し、また蛍光X線分析法により付着物中のシリカ含量を測定して、シリカ付着物量を式:
シリカ付着物量(mg)=試験片表面の付着物量(mg)×付着物中のシリカ含量(%)/100
により計算して求めた。

遊離残留臭素濃度の測定方法: 循環水10mLに対してグリシンを約0.01g加えて撹拌溶解して、速やかにHACH社製ポケット残留塩素計の10mLセルに入れ、ゼロ点調整をした。次いで、同じ10mLセルにHACH社製遊離塩素測定用DPD試薬(カタログNo.21055)を1袋入れて20秒間撹拌後、残留塩素計の測定ボタンを押して得られた値を遊離残留臭素濃度(mgCl/L)とした。
【0085】
(被試験処理剤)
被試験処理剤は、試験4の実施例に用いた処理剤は表1に、試験4の比較例に用いた処理剤は表2に示した。尚、表1、2に示した配合成分の配合量はすべて有効成分換算であり、その有効成分名は表3に示した。また、実施例20、21では、組成物ではなく配合に使用した成分を別個に添加しているが、この添加量も有効成分換算である。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】



【0088】
【表3】

【0089】
ホスホノカルボン酸D〜ホスホノカルボン酸Gの調製方法を以下に示した。

ホスホノカルボン酸Dの調製方法:
マレイン酸の116gと水酸化ナトリウムの106gと亜リン酸の20.5gを水450gに溶解した溶液を95℃に加熱し維持した。次いで過硫酸ナトリウムの60gを水100gに溶解した溶液を8時間掛けて滴下した。その後、反応物を冷却して分子中のPO含量が18%であるホスホノポリマレイン酸を得た。

ホスホノカルボン酸Eの調製方法:
マレイン酸の110gと47%水酸化ナトリウム水溶液の170gと水255gを含む溶液を加熱して還流下で、亜リン酸の61.5gと47%水酸化ナトリウム水溶液の125gを含む溶液を3時間掛けて滴下した。同時に過硫酸ナトリウムの67.9gと水116gを含む溶液3時間掛けて滴下した。滴下後、還流下では更に3時間加熱した。その後、反応物を冷却して分子中のPO含量が42%であるホスホノコハク酸とホスホノポリマレイン酸の混合物を得た。

ホスホノカルボン酸Fの調製方法:
マレイン酸の116gと水酸化ナトリウムの106gと亜リン酸の11.3gを水450gに溶解した溶液を95℃に加熱し維持した。次いで過硫酸ナトリウムの60gを水100gに溶解した溶液を8時間掛けて滴下した。その後、反応物を冷却して分子中のPO含量が10%であるホスホノポリマレイン酸を得た。

ホスホノカルボン酸Gの調製方法:
マレイン酸の110gと47%水酸化ナトリウム水溶液の170gと水255gを含む溶液を加熱して還流下で、亜リン酸の77.8gと47%水酸化ナトリウム水溶液の125gを含む溶液を3時間掛けて滴下した。同時に過硫酸ナトリウムの67.9gと水116gを含む溶液3時間掛けて滴下した。滴下後、還流下では更に3時間加熱した。その後、反応物を冷却して分子中のPO含量が48%であるホスホノコハク酸を得た。
【0090】
(試験1)
補給水12として大分工業用水を使用し、上記の試験装置ならびに試験方法を用いた試験1を行ったが、水処理剤注入装置14と水処理剤注入装置15は稼動させず、次亜塩素酸ソーダと臭化ナトリウムと塩酸の混合によって生成する次亜臭素酸を循環水系に添加せず、従って、酸化還元電位(ORP)による遊離残留臭素濃度の注入ポンプ制御も行わなかった。大分工業用水の水質は、多数のケイソウを含み、pH:7.2、電気伝導度:14.8mS/m、Ca硬度:27mg−CaCO/L、Mg硬度:17mg−CaCO/L、Mアルカリ度:38mg−CaCO/L、 塩化物イオン:5mg/L、硫酸イオン:9mg/L、シリカ:45mg/Lであった。
比較例1〜3では大分工業用水をそのまま使用し、実施例1〜3では大分工業用水の全量をJIS K0101−1998の64.1(2)(h)に規定されたプランクトンネットでろ過後、使用した。このろ過により大分工業用水中のケイソウは取り除かれ、実施例1〜3の循環水中にケイソウは殆んど存在しなかった。また、上記の試験装置ならびに試験方法において該水質の大分工業用水を使用した場合の上限界シリカ濃度は240mg/Lであったので、試験1の計算シリカ濃度は230〜240mg/L以下になるように管理した。
【0091】
試験1に用いた被試験処理剤とその添加量、及び試験終了後のシリカ付着物量を表4に示した。
【表4】

【0092】
表4の結果より、循環水中にケイソウが殆んど存在しない場合のシリカ付着物量は少ないことが判った。
【0093】
(試験2)
補給水12として大分工業用水を使用し、上記の試験装置ならびに試験方法を用いた試験2を行った。大分工業用水の水質は、試験1と同じであり、プランクトンネットによるろ過は行わない。また、計算シリカ濃度の管理も試験1と同じであった。一方、水処理剤注入装置14と水処理剤注入装置15は稼動させ、次亜塩素酸ソーダと臭化ナトリウムと塩酸の混合によって生成する次亜臭素酸を循環水系に添加し、酸化還元電位(ORP)による遊離残留臭素濃度の注入ポンプ制御を行った。ただし、遊離残留臭素濃度の管理範囲は0.15〜0.25mg/L(Cl 換算)固定ではなく、表5に示した濃度範囲で管理した。全ての実施例・比較例において使用した処理剤は組成物1であり、その添加量は50mg/Lであった。また、熱交換器7に設置した炭素鋼とアルミニウム黄銅の伝熱管の腐食の有無を目視により判定した。
【0094】
試験2における遊離残留臭素の濃度管理範囲、及び試験終了後のシリカ付着物量と伝熱管の腐食の有無を表5に示した。
【表5】

【0095】
表5の結果より、本発明のシリカ系付着物の付着防止方法においては、遊離残留臭素を0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)の濃度範囲で管理することにより、循環水中に多数のケイソウが存在してもシリカ付着物量を少なくできることが判った。これは、循環水に添加された次亜臭素酸がケイソウの繁殖を抑制して、シリカの被殻への取り込みや細胞外マトリックスの放出を妨げる作用を示していると考えられ、その結果、シリカ付着物量を少なくできたと推察される。尚、比較例5に示された通り、遊離残留臭素を1.0〜2.0mg/L(Cl 換算)の濃度範囲で管理することによりシリカ付着物量を少なくできるが、炭素鋼とアルミニウム黄銅の伝熱管の腐食を促進するため好ましくない。
【0096】
(試験3)
補給水12として大分工業用水を使用し、上記の試験装置ならびに試験方法を用いた試験3を行った。大分工業用水の水質は、試験1と同じであり、プランクトンネットによるろ過は行わず、次亜臭素酸は循環水系に添加し、その遊離残留臭素濃度は0.15〜0.25mg/L(Cl 換算)に管理した。水温制御装置9の設定を変えて水槽2の水温を変化させることにより、試験片8表面に流れる循環水の温度を変化させ、限界シリカ濃度を変化させた。変化させた限界シリカ濃度以下になるように計算シリカ濃度を管理した。全ての実施例・比較例において使用した処理剤は組成物1であり、その添加量は50mg/Lであった。また、熱交換器7に設置した炭素鋼とアルミニウム黄銅の伝熱管の腐食の有無、及びステンテス鋼管とアルミニウム黄銅の伝熱管の付着物の有無を目視により判定した。
【0097】
試験終了後のシリカ付着物量、伝熱管の腐食の有無、及び伝熱管の付着物の有無を表6に示した。
【表6】

【0098】
表6の比較例6に示されたように、限界シリカ濃度が150mg/Lの場合は炭素鋼とアルミニウム黄銅の伝熱管に腐食が認められた。これは、腐食防止作用を有するシリカを低い濃度に維持するため、循環水系の腐食傾向が上がったことによるものと推察される。一方、比較例7、8に示されたように、限界シリカ濃度が300mg/Lや320mg/Lの場合は、ステンテス鋼管とアルミニウム黄銅の伝熱管に付着物が認められた。これは、限界シリカ濃度を高くできる場合は、循環水系の濃縮度が高くなる場合が多く、そのような場合、シリカ系付着物以外の他のスケールが析出する傾向が増すことによって伝熱管に付着物が発生したと推察される。これらの状況と、実施例7〜9の結果から、本発明のシリカ系付着物の付着防止方法においては、計算シリカ濃度を、180〜280mg/Lの範囲から設定された特定の値以下になるように、管理することが好適であることが判った。
【0099】
(試験4)
補給水12として大分工業用水を使用し、上記の試験装置ならびに試験方法を用いた試験4を行った。大分工業用水の水質は、試験1と同じであり、プランクトンネットによるろ過は行わず、次亜臭素酸は循環水系に添加し、その遊離残留臭素濃度は0.15〜0.25mg/L(Cl 換算)に管理した。また、計算シリカ濃度の管理も試験1と同じであった。また、実施例20、21では、水酸化ナトリウムを使用して循環水のpHを8.7に調整した。
【0100】
試験4に用いた被試験処理剤とその添加量、試験終了後のシリカ付着物量、循環水のpHを表7に示した。
【表7】

【0101】
表7の実施例10〜19は、本発明で用いるホスホノカルボン酸各種、スルホン酸基含有ポリマー各種、オルソリン酸を生成する化合物(HEDP)、モリブデン酸塩を組み合わせた組成物の適用例であるが、そのシリカ付着物量から、いずれも良いシリカ系付着物の付着防止効果を有することが示された。一方、比較例9の結果から、ホスホノカルボン酸が配合されていない場合は該付着防止効果が少ないことが判り、実施例18、19と比較例10〜12の結果を比較することにより、そのホスホノカルボン酸の分子中のPO含量が、15〜45%の時、良い付着防止効果が得られることが示された。また、実施例12と比較例13の結果を比較することにより、被試験処理剤の組成物のpHが12より低いと循環水pHが8.5より低くなりシリカ付着物量が多くなることが判った。尚、実施例13と実施例20、実施例11と実施例21の結果を比較することにより、循環水系に被試験処理剤として組成物を添加する場合と、各有効成分を個別に添加してpH調整する場合では、シリカ系付着物の付着防止効果に差が無いことが判った。

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、開放循環式冷却水系における冷却塔や熱交換器や配管などへのシリカ系付着物の付着防止に
利用することができる。

【符号の説明】
【0103】
1 冷却塔
2 水槽
3 循環ポンプ
4 電気伝導度測定セル
5 流量調整バルブ
6 流量計
7 熱交換器
8 試験片
9 水温制御装置
10 ブローダウンポンプ
11 電気伝導度制御装置
12 補給水
13、14、15 水処理剤注入装置
16 処理剤タンク
17 酸化還元電位測定用電極
18 酸化還元電位制御装置
19 次亜塩素酸ソーダ用タンク
20 臭化物用タンク
21 充填材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環水中にケイソウが存在する開放式循環冷却水系において、(1)循環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度が、180〜280mg/Lの範囲中から設定された特定の値以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行ないながら、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸を循環水に添加するとともに、(3)循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法。
【請求項2】
請求項1記載のシリカ系付着物の付着防止方法に加えて、更に(4)スルホン酸基含有ポリマーを循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法。
【請求項3】
請求項2記載のシリカ系付着物の付着防止方法に加えて、更に(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法。
【請求項4】
循環水中にケイソウが存在する開放式循環冷却水系において、(1)循環水の濃縮度と被処理水系への補給水のシリカ濃度の積で定義される計算シリカ濃度が、180〜280mg/Lの範囲から設定された特定の値以下になるように、被処理水系の排出水量あるいは補給水量の制御を行ないながら、(3)循環水の次亜臭素酸濃度が遊離残留臭素として0.02〜1.0mg/L(Cl 換算)になるように次亜臭素酸を生成する化合物を循環水に添加するとともに、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーの混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物、又は、(2)分子中のリン含量が15〜45%(PO換算)であるホスホノカルボン酸と(4)スルホン酸基含有ポリマーと(5)オルトリン酸を生成する化合物及び/又はモリブデン酸塩との混合物にアルカリ金属水酸化物を加えてpH12.0以上に調整した組成物を循環水に添加することを特徴とするシリカ系付着物の付着防止方法。



【図1】
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