説明

間接活線用把持工具

【課題】把持対象物の外径寸法が相対的に小さい場合でも、部品点数をさほど増加させることなく、固定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分とで確実に把持することができる間接活線用把持工具を提供することを目的とする。
【解決手段】間接活線用把持工具の固定把持片31と可動把持片32とは、棒状部材2側に形成された弧状部分311、321と、この弧状部分311、321から棒状部材2とは反対側に延びる直線状部分312、322とをそれぞれ備え、可動把持片32の弧状部分321の全部又は一部を180度以上に回転可動とすると共に、可動把持片32の弧状部分321の膨らみ側面11の曲率を固定把持片31の弧状部分321の反り側面6の曲率と合致させて、可動把持片32を動かすことで可動把持片32の弧状部分321の膨らみ側面11と固定把持片31の弧状部分311の反り側面6とが当接可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、間接活線工事において充電された電線等の把持対象物についてこの把持対象物の外径寸法の大小にかかわらず把持することが可能な間接活線用把持工具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、作業現場周囲の停電を回避するために、高圧配電線を充電したまま作業員は充電部から距離を採って作業を行う間接活線工事が採用されるようになってきており、このような間接活線工事では、例えば特許文献1や特許文献2等に示されるように、高圧電線等の把持対象物を安全に把持するために絶縁ヤットコ等とも称される間接活線用把持工具が用いられる。その一方で、間接活線工事において、間接活線用把持工具で把持しようとする把持対象物はその外径寸法が様々である。
【0003】
これに伴い、特許文献1に示される間接活線用把持工具では、大径状の被把持物と小径状の被把持物との双方を固定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分とで把持することができるようにするとして、固定把持片について、ネジ機構によりこれらの把持片が取り付ける軸棒の軸線に対する傾斜角度を変更することを可能にして、固定把持片と可動把持片との間の最大時の開度を調整することが可能となっている。
【0004】
また、特許文献2に示される間接活線用把持工具では、把持対象物が割ピン等の小物であっても把持することができるようにするとして、ラジオペンチ状の工具の挟持片を開閉するための一対の握り部の一方側の握り部に固定部を設け、この固定部を絶縁ヤットコの固定把持片に固定すると共にラジオペンチ状の工具の握り部の他方の握り部の外側に絶縁ヤットコの可動把持片の内側を接して、絶縁ヤットコの可動把持片を動かすことにより、ラジオペンチ状の工具の2つの挟持片の開度を調整することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−264056号公報
【特許文献2】特開2010−178462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の特許文献1に示される間接活線用把持工具では、固定把持片と可動把持片とを閉じた際の双方の弧状部分間の最小寸法よりも把持対象物の外径寸法が小さい場合には、固定把持片の弧状部分よりも先端側の直線状部分と可動把持片の弧状部分よりも先端側の直線状部分とで把持対象物を把持する必要が生ずる。
【0007】
このため、固定把持片の直線状部分と可動把持片の直線状部分とで把持対象物として充電された細径寸法の電線を把持する必要が生じ、この場合には、電線が滑って前記した固定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分とで画成される空間内に脱落してしまうことがある。このときには、もう一人の作業者に別の間接活線用把持工具で電線を一旦把持してもらい、その間に間接活線用把持工具の開閉動作を行って電線を把持しなおす作業が必要となるので、間接活線作業全体が煩雑になるという不都合を有する。
【0008】
また、固定把持片の直線状部分と可動把持片の直線状部分とで把持対象物を把持する際に、把持対象物がこれらの直線状部分よりも先端側に向かって滑ってしまうことがあり、この場合には把持対象物が落下するという不具合が生ずるおそれがある。把持対象物が上記した充電された電線の場合には、落下により感電事故や地絡事故が発生するおそれがあるので、間接活線作業における危険性がより増加する。
【0009】
この点、前記の特許文献2に示される間接活線用把持工具では、把持対象物が相対的に小径の寸法であっても把持することができるラジオペンチ状の工具を追加的に備えているが、この追加の工具分、部品点数が大幅に増加してしまうという不具合や、間接活線用把持工具の固定把持片と可動把持片とで直接的に把持対象物を把持することができなくなるという不具合が新たに生ずる。
【0010】
そこで、この発明は、把持対象物の外径寸法が相対的に小さい場合でも、部品点数をさほど増加させることなく、固定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分とで確実に把持することができる間接活線用把持工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る間接活線用把持工具は、直線状に延びる棒状部材と、この棒状部材の長手方向の一方端に設けられた把持部とを有し、前記把持部は固定把持片と可動把持片とで構成され、前記可動把持片が前記固定把持片に対し遠近することでこれらの把持片の間に配された把持対象物を把持することが可能な間接活線用把持工具において、前記固定把持片と前記可動把持片とは、前記棒状部材側に形成された弧状部分と、この弧状部分から前記棒状部材とは反対側に延びる直線状部分とをそれぞれ備え、前記可動把持片は、前記弧状部分の全部又は一部を回転させることができると共に、前記可動把持片の弧状部分の膨らみ側面の曲率が前記固定把持片の弧状部分の反り側面の曲率と合致していることを特徴としている(請求項1)。把持対象物とは、例えば充電された電線等をいう。弧状部分の全部又は一部を回転させるにあたって、その回転方向は時計回り、反時計回りのいずれでも良い。その回転範囲は180度以上である。固定把持片の直線状部分と可動把持片の直線状部分とは、可動把持片の弧状部分の全部又は一部の回転の有無にかかわらず固定把持片と可動把持片とを閉じた際に当接するようになっている。棒状部分は絶縁性の素材で形成されている。弧状部分の膨らみ側面とは、弧状部分の凸面形状に形成された凸側面のことであり、弧状部分の反り側面とは、弧状部分の凹面形状に形成された凹側面のことである。
【0012】
この発明に係る間接活線用把持工具は、より具体的には、前記可動把持片の弧状部分の全部又は一部を反転させるための回転機構として、回転元となる基部分と回転側となる回転部分とを伸縮回転部材で連結すると共に前記基部分と前記回転部分との少なくとも一方側が前記回転部分の回転を規制するための規制手段を有することを特徴としている(請求項2)。伸縮回転部材としては、例えばコイルスプリング等が挙げられる。
【0013】
これにより、固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の反り側面とで把持することができる外径寸法の把持対象物の場合には、可動把持片の弧状部分の反り側面が可動把持片の弧状部分の反り側面と対峙させたままとするのに対し、把持対象物の外径寸法が固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の反り側面との間の最小寸法よりも小さい場合には、可動把持片の弧状部分の全部又は一部を180度回転させて、可動把持片の弧状部分の膨らみ側面を固定把持片の弧状部分の反り側面と対峙させ、この状態で可動把持片を固定把持片に対し遠近する方向に動かすことにより、可動把持片の弧状部分の膨らみ側面と固定把持片の弧状部分の反り側面とが当接可能となるため、把持対象物を可動把持片の弧状部分の膨らみ側面と固定把持片の弧状部分の反り側面との間に配することで、どのように相対的に小径な把持対象物であっても把持することが可能となる。
【0014】
そして、この発明に係る間接活線用把持工具では、前記固定把持片は、前記弧状部分の膨らみ側面に滑り止めが設けられ、前記可動把持片は、前記弧状部分の反り側面に滑り止めが設けられていることを特徴としている(請求項3)。可動把持片は、弧状部分の膨らみ側面のみに滑り止めが設けられていても、弧状部分の膨らみ側面と反り側面との双方に滑り止めが設けられていても良い。滑り止めは、例えば三角形状や四角形状の複数の突部を並べて構成されたものである。これにより、把持対象物を固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の膨らみ側面とで挟んで把持する際に、把持対象物をより確実に把持することが可能となる。
【0015】
更に、この発明に係る間接活線用把持工具では、前記可動把持片は、前記直線状部分のうちの前記弧状部分の反り側面と同じ側の側方面と、前記直線状部分のうちの前記弧状部分の膨らみ側面と同じ側の側方面とに孔部が設けられていることを特徴としている(請求項4)。固定把持片は、直線状部分のうちの前記弧状部分の膨らみ側面と同じ側の側方面にのみ孔部が設けられていても良い。これにより、間接活線用把持工具の双方の把持片の直線状部分にアダプタを介して工具を装着する際に、可動把持片の弧状部分が反転し、これにより直線状部分も反転していても、アダプタの固定部を直線状部分の孔部に挿入して可動把持片に取り付けることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、請求項1から請求項4に記載の発明によれば、固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の反り側面とで把持することができる外径寸法の把持対象物の場合には、可動把持片の弧状部分の反り側面が可動把持片の弧状部分の反り側面と対峙させたままとして、通常の間接活線用把持工具として使用することができる。
これに対し、把持対象物の外径寸法について、固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の反り側面とで把持することができない場合には、可動把持片の弧状部分の全部又は一部を180度回転させて、可動把持片の弧状部分の膨らみ側面を固定把持片の弧状部分の反り側面と対峙させ、この状態で可動把持片を固定把持片に対し遠近する方向に動かすようにする。これにより、相対的に小径な把持対象物を固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の膨らみ側面とで確実に挟み込んで把持することが可能であるので、部品点数をさほど増加させることなく、把持対象物の外径寸法が多様であっても1つの間接活線用把持具で対応することができる。
しかも、小径の把持対象物を直線状部分で把持することが抑止されるので、把持対象物が間接活線用把持具から脱落することがなくなる。
また、小径の把持対象物を把持する際には、固定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分との間に隙間が形成されないので、定把持片の弧状部分と可動把持片の弧状部分との間に把持対象物が入り込んで他の作業員の応援を頼むことがなくなり、間接活線工事全体としても円滑に行うことが可能となる。
【0017】
特に請求項3に記載の発明によれば、把持対象物を固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の膨らみ側面とで把持する際に、固定把持片の弧状部分の反り側面と可動把持片の弧状部分の膨らみ側面との双方に滑り止めを有するので、把持対象物をより確実に把持することが可能となる。
【0018】
特に請求項4に記載の発明によれば、間接活線用把持工具の双方の把持片の直線状部分にアダプタを介して工具を装着する際に、可動把持片の弧状部分が反転しているため直線状部分も反転してしまっていても、アダプタの固定部を直線状部分の孔部に挿入して可動把持片に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明が用いられる間接活線用把持工具たる絶縁ヤットコの全体構成の一例を示す説明図である。
【図2】図2は、同上の絶縁ヤットコの先端側の構成を示す要部拡大図であり、図2(a)は絶縁ヤットコの通常状態を示し、図2(b)は絶縁ヤットコの可動把持片の弧状部分を180度反転した状態を示している。
【図3】図3は、絶縁ヤットコの可動把持片の弧状部分を反転させるための構造を示した説明図であり、図3(a)は弧状部分の基部分及び回転部分に設けられた回転機構の構成を示し、図3(b)は基部分の端面を見た状態における回転機構の構成を示し、図3(c)は回転部分の端面を見た状態における回転機構の構成を示している。
【図4】図4は、絶縁ヤットコの通常状態から絶縁ヤットコの可動把持片の弧状部分が180度反転した状態にする工程を示す説明図であり、図4(a)は可動把持片の弧状部分をその軸方向に引っ張る工程を示し、図4(b)は可動把持片の弧状部分を引っ張ったまま180度回転させる工程を示し、図4(c)は可動把持片の弧状部分がコイルスプリングの復元力を利用して元の状態に戻る工程を示し、図4(d)は可動把持片の弧状部分の一部及び直線状部分が180度反転した状態を示している。
【図5】図5は、絶縁ヤットコの把持片、特に可動把持片の直線状部分にアダプタを装着する工程を示した説明図であり、図5(a)は絶縁ヤットコが通常状態における可動把持片の直線状部分にアダプタを装着する工程を示し、図5(b)は絶縁ヤットコの可動把持片の弧状部分の一部と直線状部分とが反転した状態における可動把持片の直線状部分にアダプタを装着する工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1において、この発明が用いられる間接活線作業用の絶縁ヤットコ1の一例が示されている。この絶縁ヤットコ1は、棒状部材2と、この棒状部材2の長手方向の一方端に設けられた把持部3と、把持部3を操作するための操作部4と、この操作部4による操作を把持部3に伝達する伝達棒5とで基本的に構成されている。
【0022】
このうち、棒状部材2は、作業者が掴む相対的に太い外径寸法の筒状のもので、絶縁性の素材から成り、2つのプレートを対峙させて構成された係合部21が把持部3側の端部に設けられている共に、その軸方向の途中には傘状のつば22、23が設けられている。このうち、把持部3から遠い側のつば22は、間接活線作業において感電事故を防止すべく、作業者が握ってよい位置と握ってはいけない位置とを区別するための安全限界つばであり、把持部3側に近い側のつば23は、雨水の流下を防止するための水切りつばである。
【0023】
把持部3は、棒状部材2の係合部21のプレート間に挟持固定されて動かないアーム状の固定把持片31と、伝達棒5に連結されていると共に係合部21のプレート間に把持され且つ軸部33を介して回動可能に軸支されたアーム状の可動把持片32とを有して構成されている。そして、可動把持片32は、図示しない弾性部材により固定把持片31から離れる方向に付勢されている。
【0024】
伝達棒5は、絶縁性の素材により成る棒状のもので、前述のように一方端が可動把持片32と連結され、他方端が操作部4の下記する連結部42と軸部44を介して連結されていると共にその軸方向の途中に傘状のつば51が設けられている。このつば51は、棒状部材2のつば23と同様に、雨水の流下を防止するための水切りつばである。
【0025】
操作部4は、ハンドル41と、連結部42と、取り付け部43とを有して構成されており、ハンドル41は、棒状部材2に遠近する方向に回転可能となるように、取り付け部43と軸部44を介して連結されている。尚、操作部4の構成は図1に示されたものに限定されず、可動把持片32を操作することができればどのような構成であっても良い。
【0026】
このような構成とすることにより、絶縁ヤットコ1は、ハンドル41を棒状部材2に近接する方向に動かすことで連結部42が軸部45を中心として把持部3から離れる方向に揺動し、ひいては連結部42に軸部44を介して連結された伝達棒5が把持部3とは反対側に引っ張られて、伝達棒5と連結された可動把持片32が軸部33を中心として回転して、固定把持片31と可動把持片32とを相対的に近接させることが可能となっている。
【0027】
ところで、図2及び図4に示されるように、把持部3を構成する固定把持片31は、係合部21側に配置された弧状部分311と、この弧状部分311の係合部21とは反対側から延びる直線状部分312とを有して構成されていると共に、把持部3を構成する可動把持片32は、係合部21側に配置された弧状部分321と、この弧状部分321の係合部21とは反対側から延びる直線状部分322とを有して構成されている。
【0028】
固定把持片31の弧状部分311は、図2に示されるように、可動把持片32と対峙する側が略凹面形状に反るように形成された反り側面6となっていると共に、可動把持片32とは反対側が略凸面形状に膨らむように形成された膨らみ側面7となっているもので、その全体形状としては弧状に曲がった形状となっている。そして、この実施例では、弧状部分311の反り側面6に三角柱状の突部を並べることにより滑り止め61が形成されている。
【0029】
固定把持片31の直線状部分312は、図2に示されるように、可動把持片32と対峙する側に位置すると共に反り側面6に連接した側方面8と、可動把持片32とは反対側に位置すると共に膨らみ側面7に連接した側方面9とを有し、これらの側方面8、9は直線状且つ平行に延びたもので、その全体形状としては略直方体状をなしている。そして、この実施例では、直線状部分312の反り側面6と同じ側となる側方面8に三角柱状の突部を並べることにより滑り止め81が形成されている。更に、直線状部分312の側方面9には、図5に示される公知のアダプタ101の係止ピン1011の先端が挿入される有底の孔部(図示せず。)が形成されている。
【0030】
可動把持片32の弧状部分321は、図2に示されるように、固定把持片31の反り側面6と同様に略凹面形状に反るように形成された反り側面10を有すると共に、この反り側面10とは反対側では固定把持片31の膨らみ側面7と同様に略凸面形状に膨らむように形成された膨らみ側面11を有しているもので、その全体形状は、固定把持片31の弧状部分311と同様に弧状に曲がった形状となっている。そして、可動把持片32の弧状部分321の膨らみ側面11の膨らむ曲率は、固定把持片31の弧状部分311の反り側面6の反る曲率と同じになっていると共に、弧状部分321の膨らみ側面11には、弧状部分311の反り側面6に設けられた滑り止め61の突部と噛み合うように三角柱状の突部を並べて成る滑り止め111が形成されている。
【0031】
可動把持片32の直線状部分322も、図2に示されるように、把持片31の側方面8と同様に反り側面10に連接し且つ直線状に延びる側方面12と、把持片31の側方面9と同様に膨らみ側面11に連接し且つ直線状に延びる側方面13とを有し、側方面12と側方面13とは平行になっているもので、その全体形状は固定把持片31の直線状部分312と同様に略直方体状をなしている。そして、この実施例では、側方面12と側方面13との双方に、直線状部分312の側方面8に設けられた滑り止め81の突部と噛み合うように三角柱状の突部を並べて成る滑り止め121、131が形成されている。更に、直線状部分312の側方面12、13の双方には、図5に示されるように、同じく公知のアダプタ101の係止ピン1011の先端が挿入される有底の孔部122、132が形成されている。
【0032】
そして、可動把持片32の弧状部分321は、図3及び図4に示されるように、この実施例では、基部分321aと回転部分321bとの2つの部材を連結して構成されているもので、図3に示されるように、基部分321aの回転部分321b側面に開口した部屋14と回転部分321bの基部分321a側面に開口した部屋15とを設け、これらの部屋14、15で画成される空間内にコイルスプリング16が収納されたものとなっている。コイルスプリング16は、その一方端が基部分321aに連結され、コイルスプリング16の他方端が回転部分321bに連結されており、収縮方向に付勢されていると共に、その巻き方向若しくは巻き方向と反対側に少なくとも180度捩じることが可能となっている。そして、コイルスプリング16の中心を通る基準線Lを採った場合に、図2に示されるように、この基準線Lは、直線状部分322の回転の有無にかかわらず可動把持片32の直線状部分322の中心を通るようになっている。
【0033】
更に、図3に示されるように、基部分321aの回転部分321b側面には、コイルスプリング16を中心として対称となる位置に2つの窪み17、18が形成されていると共に、回転部分321bの基部分321a側面には、コイルスプリング16を中心として対称となる位置で且つ基部分321aの反り側面10と回転部分321bの反り側面10とが一致し、基部分321aの膨らみ側面11と回転部分321bの膨らみ側面11とが一致するように基部分321aと回転部分321bとを突当した際に窪み17、18と対応する位置に2つの突部19、20が形成されている。そして、この実施例では、窪み17、突部19は反り側面10の方に向き、窪み18、突部20は膨らみ側面11の方に向くように配置されている。すなわち、窪み17、突部19は、コイルスプリング16を中心として描く円状の線上のうち反り側面10に最も近接した位置に配され、窪み18、突部20は、コイルスプリング16を中心として描く円状の線上のうち膨らみ側面11に最も近接した位置に配されている。
【0034】
以上の構成に基づき、この発明に係る絶縁ヤットコ1の使用方法について説明する。
【0035】
図2(a)に示される絶縁ヤットコ1のように、固定把持片31の弧状部分311の反り側面6と可動把持片32の弧状部分321の反り側面10とが対峙した状態で、把持対象物Mの最大外径寸法Wが固定把持片31と可動把持片32とを閉じた際における反り側面6と反り側面10との最小寸法よりも大きい場合には、そのまま絶縁ヤットコ1を使用するが、把持対象物Mの最大外径寸法Wが固定把持片31と可動把持片32とを閉じた際における反り側面6と反り側面10との最小寸法よりも小さいと判断される場合には、図4に示される工程を行う。
【0036】
絶縁ヤットコ1は図2(a)のように固定把持片31と可動把持片32とを閉じた状態の場合には、まず可動把持片32を動かして図4(a)に示されるように固定把持片31と可動把持片32とが若干開いた状態とする。
【0037】
次に、図4(a)に示されるように、可動把持片32を矢印方向に引っ張る。これにより、図4(b)に示されるように、コイルスプリング16が伸長して可動把持片32の弧状部分321は基部分321aと回転部分321bとが離れた状態となる。すなわち、回転部分321bの突部19、20はそれぞれ基部分321aの窪み17、18から外れた状態となり、回転部分321bの回転の規制が解除される。
【0038】
更に、図4(b)に示されるように、可動把持片32の弧状部分321の回転部分321bを矢印のようにコイルスプリング16を捩じるかたちで180度回転させる。回転部分321bの回転方向は、図4(b)では時計回りの方向であるが、反時計回りの方向でも良い。これにより、図4(c)に示されるように、可動把持片32は反転して、可動把持片32の弧状部分321の膨らみ側面11が固定把持片31の弧状部分311の反り側面6と対峙するようになる。また、基部分321aと回転部分321bとは離れているが、回転部分321bの突部19は基部分321aの窪み18と対峙し、回転部分321bの突部20は基部分321aの窪み19と対峙するようになる。
【0039】
更にまた、図4(c)に示されるように、コイルスプリング16の復元力も利用して、可動把持片32の弧状部分321の回転部分321bを矢印方向に動かし、回転部分321bの端面の外縁線と基部分321aの端面の外縁線とが合うように、弧状部分321の回転部分321bを弧状部分321の基部分321aに当接させる。これにより、回転部分321bの突部19が基部分321aの窪み18に挿入されると共に、回転部分321bの突部20は基部分321aの窪み19に挿入されて、回転部分321bの回転が規制されたかたちにて、図4(d)に示されるように、弧状部分321の回転部分321bが弧状部分321の基部分321aに組み付けられる。
【0040】
これにより、可動把持片32を回転させることにより、図2(b)に示されるように、可動把持片32の弧状部分321の膨らみ側面11は固定把持片31の弧状部分311の反り側面6と当接するので、把持対象物Mの最大外径寸法Wが細径の電線等のようにどんなに小さな寸法であっても、固定把持片31の弧状部分311の反り側面6と可動把持片32の弧状部分312の膨らみ側面11とで挟んで把持することが可能である。しかも、固定把持片31の弧状部分311の反り側面6と可動把持片32の弧状部分312の膨らみ側面11との双方に滑り止め61、111が設けられているので、把持された把持対象物Mが直線状部分312、322側に滑るのが防止される。
【0041】
一方で、図5に示されるように、絶縁ヤットコ1の把持片31、32の直線状部分312、322に様々な工具が取り付けられたアダプタ101を取り付ける場合があり、このアダプタ101の装着には係止ピン1011の先端を直線状部分312、322の孔部に挿入して係止するものとなっている。そして、絶縁ヤットコ1の可動把持片32の直線状部分322は、弧状部分321の回転部分321bの反転に伴って、側方面12が外側を向くようになるが、図5に示されるように、側方面13に設けられた孔部131の他に、側方面12にも孔部122が設けられているので、可動把持片32の直線状部分322を反転させた状態でもアダプタ101を装着することが可能となっている。
【0042】
尚、この実施例では、絶縁ヤットコ1の可動把持片32の弧状部分321の一部が回転する構成を示しているが、必ずしもこれに限定されず、図示しないが弧状部分321の全部が回転するようにしても良い。また、絶縁ヤットコ1に限定されず他の間接活線用工具においても、この発明に係るコイルスプリング16で主として成る回転機構及び窪み17、18及び突部19、20から成る回転の規制手段を用いることは可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 絶縁ヤットコ(間接活線作業用把持工具)
2 棒状部材
3 把持部
31 固定把持片
311 弧状部分
312 直線状部分
32 可動把持片
321 弧状部分
321a 基部分
321b 回転部分
322 直線状部分
6 反り側面
61 滑り止め
7 膨らみ側面
8 側方面
9 側方面
10 反り側面
11 膨らみ側面
111 滑り止め
12 側方面
122 孔部
13 側方面
132 孔部
16 コイルスプリング(伸縮回転部材)
17 窪み(規制手段)
18 窪み(規制手段)
19 突部(規制手段)
20 突部(規制手段)
101 アダプタ
1011 係止ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延びる棒状部材と、この棒状部材の長手方向の一方端に設けられた把持部とを有し、前記把持部は固定把持片と可動把持片とで構成され、前記可動把持片が前記固定把持片に対し遠近することでこれらの把持片の間に配された把持対象物を把持することが可能な間接活線用把持工具において、
前記固定把持片と前記可動把持片とは、前記棒状部材側に形成された弧状部分と、この弧状部分から前記棒状部材とは反対側に延びる直線状部分とをそれぞれ備え、前記可動把持片は、前記弧状部分の全部又は一部を回転させることができると共に、前記可動把持片の弧状部分の膨らみ側面の曲率が前記固定把持片の弧状部分の反り側面の曲率と合致していることを特徴とした間接活線用把持工具。
【請求項2】
前記可動把持片の弧状部分の全部又は一部を反転させるための回転機構として、回転元となる基部分と回転側となる回転部分とを伸縮回転部材で連結すると共に前記基部分と前記回転部分との少なくとも一方側が前記回転部分の回転を規制するための規制手段を有することを特徴とする請求項1に記載の間接活線用把持工具。
【請求項3】
前記固定把持片は、前記弧状部分の膨らみ側面に滑り止めが設けられ、前記可動把持片は、前記弧状部分の反り側面に滑り止めが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の間接活線用把持工具。
【請求項4】
前記可動把持片は、前記直線状部分のうちの前記弧状部分の反り側面と同じ側の側方面と、前記直線状部分のうちの前記弧状部分の膨らみ側面と同じ側の側方面とに孔部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の間接活線用把持工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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