説明

間歇性跛行改善薬

【課題】労作に伴って四肢の筋肉の虚血がもたらされ、筋虚血に起因する鈍痛・しびれなどで運動の持続が困難となる、間歇性跛行の治療に有効な薬剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩、エステル及びそれらの溶媒和物から選ばれる化合物を有効成分とする間歇性跛行改善薬。


(ただし、式中R、R及びRは、水素原子等を含む置換基を表わし、Rは、ジアルキルアミノ基を含む置換基等を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は、アミノアルコキシビベンジル類を有効成分とする間歇性跛行、特に末梢循環障害に基づく間歇性跛行の改善薬に関するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
末梢循環障害の中でも間歇性跛行を訴える患者は多く、年々患者数は増加している。間歇性跛行はおもに四肢主幹動脈の慢性閉塞(閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎など)に伴う症状で、労作に伴って四肢の筋肉の虚血がもたらされ、筋虚血に起因する鈍痛・しびれなどで運動の持続が困難となるが、安静により再度運動が可能になる状態をいう。その主な原因は、動脈硬化でのコレステロールの内腔への蓄積、血栓の生成であると考えられている(須階二郎ら 現代医療20,280−284,1988)。
【0004】
間歇性跛行症状の従来の評価法は、患者の主観的訴えに基づいた跛行距離の長短で行われているが、これは客観性や再現性に乏しい欠点がある。また足関節部圧測定法は、安静時の値で運動時の病態を推測するという点で問題がある。このように間歇性跛行については適切な客観的評価法が確立されていないので、有効な薬剤も開発されていない。臨床的には、保存的手術適応外治療として、抗血小板剤、血管拡張剤などが主に用いられている。
【0005】
近年、近赤外線分光による運動負荷中の下肢筋肉内酸素動態の測定が、非侵襲かつ簡便な客観的評価法として注目されており(小見山高士ら 医学のあゆみ,166,807−8,1994、市来正隆ら 脈管学35(1),53−59,1995、重松宏 MEDICAL DIGEST,44(3),11−14,1995)、この客観的評価法で有効性を示す間歇性跛行の改善薬が切望されている。しかし、間歇性跛行の動物モデルは現在までにまったく報告されておらず、治療薬も開発されていない。
【0006】
一方、アミノアルコキシビベンジル類は抗血小板作用・抗セロトニン作用を有することが開示されており(特開昭58−032847、特開平02−304022)、血栓症・微小循環障害に効果が期待できる。しかし、これらが間歇性跛行改善作用を有することは知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、独自に間歇性跛行の動物モデルを作成し、これを用いて検討した結果、下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類が間歇性跛行に対し有効であることを見出した。
【0008】
すなわち、
[1]下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩、エステル及びそれらの溶媒和物から選ばれる化合物を有効成分とする側副血行路の発達促進あるいは側副血行路の血流維持により、運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を短縮することにより筋肉内酸素動態を改善することを特徴とする間歇性跛行改善薬。
【化1】

(ただし、式中R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、またはC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、または−O−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4
【化2】


(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
[2]下記式(2)で表わされる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロピル水素スクシナート塩酸塩を有効成分とすることを特徴とする[1]記載の間歇性跛行改善薬。
【化3】


[3]間歇性跛行改善が末梢循環障害に基づくものであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の間歇性跛行改善薬。
[4]末梢循環障害が末梢動脈硬化又は末梢動脈閉塞であることを特徴とする[3]記載の間歇性跛行改善薬。
[5]運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を短縮することにより筋肉内酸素動態の改善が下肢筋肉内のものであることを特徴とする[1]記載の間歇性跛行改善薬。
[6]間歇性跛行改善が近赤外線分光を用いて筋肉内の運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を測定する客観的評価モデルを用いる評価方法により確認されることを特徴とする[1]記載の間歇性跛行改善薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアミノアルコキシビベンジル類を有効成分とする薬剤は、間歇性跛行、およびその病因と考えられる末梢動脈硬化症、末梢動脈閉塞症などの末梢循環障害において、間歇性跛行の改善および予防効果を有することが期待される。
【発明の実施の形態】
【0010】
本発明について詳細に説明すると、本発明で使用する一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類において、R は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC〜Cのアルコキシ基:ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等のC〜Cのジアルキルアミノ基を表わす。R は水素原子;塩素原子、弗素原子等のハロゲン原子:メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC〜Cのアルコキシ基を表わす。Rは水素原子:ヒドロキシル基;−O−(CH−COOH,−O−(CH−COOH等の−O−(CH−COOH(nは1〜5の整数を表わす);−O−CO−(CH−COOH,−O−CO−(CH−COOH等の−O−CO−(CH−COOH(lは1〜3の整数を表わす)を表わす。R はアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等を表わすか、又はトリメチレンアミノ基、ペンタメチレンアミノ基、ポリメチレン鎖の中央にカルボキシル基が置換した3−カルボキシペンタメチレンアミノ基等の環にカルボキシル基が置換していてもよい4〜6員のポリメチレンアミノ基を表わす。
【0011】
本発明で用いる一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類において、アミノアルコキシ基
【化4】

はフェニル基の2−位に結合しているのが好ましい。また、一般式(1)において、Rは水素原子、C〜Cのアルコキシ基、又はC〜Cのジアルキルアミノ基が好ましく、Rは水素原子が好ましく、Rは少くとも1個のC〜Cのアルキル基を有するアミノ基又はトリメチレン基ないしはペンタメチル基を有する4〜6員のポリメチレンアミノ基であるのが好ましく、mは0〜2の整数であるのが好ましい。
【0012】
本発明では、一般式(1)で表わされる化合物の薬学的に許容される塩やエステルも用いることができる。このような塩やエステルを形成する酸としては、例えば塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、プロピオン酸、酒石酸、マレイン酸、蓚酸、クエン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が用いられる。また、一般式(1)で表わされる化合物、その塩やエステルの溶媒和物、例えば水和物も用いることができる。これらのうちで特に好ましいのは、下記(2)式で表わされる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロピル水素スクシナートの塩酸塩である。
【0013】
【化5】

【0014】
本発明で用いる一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類は公知化合物であり、例えば特開昭58−32847号公報に記載の方法により容易に合成することができる。本発明に係る間歇性跛行改善薬の投与方法は任意である。即ち、皮下注射、静脈内注射、筋肉注射、腹腔内注射等の非経口投与も、また経口投与も可能である。
【0015】
投与量は患者の年齢、健康状態、体重、同時処理があるならばその種類、処置頻度、所望の効果の性質等により決定される。一般的に有効成分の1日投与量は0.5〜50mg/kg体重、通常1〜30mg/kg体重であり、1回あるいはそれ以上投与される。本発明化合物を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、粉剤、液剤、エリキシル剤等の形態で、また、非経口投与の場合は、液剤あるいは懸濁化剤等の殺菌した液状の形態で用いられる。上述の様な形態で用いられる場合、固体あるいは液体の毒性のない製剤的担体が組成に含まれ得る。
【0016】
固体担体の例としては通常のゼラチンタイプのカプセルが用いられる。また、有効成分を補助薬とともに、あるいはそれなしに錠剤化、粉末包装される。これらのカプセル、錠剤、粉末は一般的に5〜95%、好ましくは25〜90%重量の有効成分を含む。即ち、これらの投与形式では1回の投与につき5〜500mg、好ましくは25〜250mgの有効成分を含有するのがよい。
【0017】
液状担体としては水あるいは石油、ピーナツ油、大豆油、ミネラル油、ゴマ油等の動植物起源の、または合成の油が用いられる。また、一般に生理食塩水、デキストロールあるいは類似のショ糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類が液状担体として好ましく、特に生理食塩水を用いた注射液の場合には通常0.5〜20%、好ましくは1〜10%重量の有効成分を含むようにする。
【実施例】
【0018】
以下に実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
間歇性跛行モデルの作成
雄性New Zealand White Rabbit 14羽を第1群(9羽)と第2群(5羽)とに無作意に分けた。両群ともペントバルビタール麻酔下にて、鼠蹊部で右大腿動脈を露出し、カテーテルを7cm挿入し、右腸骨動脈内で直径3mmに膨張させたまま引き抜くバルーン障害を3回施行した後、大腿動脈を結索した。カテーテルとしてはバクスター社のFogarty(サイズ:2フレンチ)を用いた。手術1週間後に第1群、2週間後に第2群を、それぞれペントバルビタール麻酔下、仰臥位にて下肢後面を切開した。右ひ腹筋内側部に直接近赤外線分光のプローブを装着し、運動負荷として右坐骨神経に1Hz、2分間の電気刺激を加えた。負荷後安静状態において運動中低下していたオキシヘモグロビンが回復してデオキシヘモグロビンと交差するまでの時間(回復時間)を測定した。近赤外線分光の測定にはOM−100(島津製作所)を用い、近赤外光の送受光間距離は5mmとした。結果を表1に示す。
【0019】
また、大腿動脈を結索しない場合、結索直後及び結索1週間後の下肢筋肉内の酸素動態パターンを模式的に図1〜図3に示す。本モデルは、臨床での間歇性跛行患者と同じパターン(小見山高士ら 医学のあゆみ,166,807−8,1994、市来正隆ら 脈管学35(1),53−59,1995)を示しており、本モデルにより運動筋酸素動態を客観的に定量測定することができる。即ち、本モデルは、間歇性跛行に対する客観的動物モデルである。
【0020】
【表1】

【0021】
間歇性跛行の重症度の指標である回復時間が経時的に短縮したのは、時間がたつに従って、側副血行路が発達し、筋肉内の酸素動態が改善されたものと考えられる。
【0022】
実施例
雄性New Zealand White Rabbit 16羽を、薬剤投与群(7羽)と対照群(9羽)とに無作意に分け、モデルと同じ処置を行った。薬剤投与群には、手術当日から近赤外線分光測定日まで、特開昭58−32847号公報に記載の方法により得られた(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−ジメチルアミノ−2−プロピル水素スクシナート塩酸塩を100mg/kgとなるように、1%トラガント溶液に懸濁して、1日1回経口投与した。対照群にはトラガント溶液を1日1回経口投与した。手術1週間後に近赤外線分光で回復時間を測定した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示したとおり、手術1週間後の回復時間は、対照群に対し、投薬群において有意に短縮し、下肢筋肉酸素動態の改善が見られた。いずれの動物も下肢の虚血壊死はみられなかった。この実験結果から、本発明に係るアミノアルコキシビベンジル類を有効成分とする薬剤は、側副血行路の発達促進あるいは側副血行路の血流維持によって下肢筋肉内の酸素動態を改善し、間歇性跛行改善作用を有することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】間歇性跛行モデルにおける下肢筋肉内の酸素動態パターンを近赤外線分光法により測定した場合の模式図。大腿動脈を結索しない場合の図で、正常パターンを示す。
【図2】間歇性跛行モデルにおける下肢筋肉内の酸素動態パターンを近赤外線分光法により測定した場合の模式図。大腿動脈を結索した直後の図で、重症パターンを示す。
【図3】間歇性跛行モデルにおける下肢筋肉内の酸素動態パターンを近赤外線分光法により測定した場合の模式図。大腿動脈を結索後1週間経過した時点の図で、図2よりも軽症パターンを示す。
【符号の説明】
【0026】
Oxy Hb : オキシヘモグロビン
Deo Hb : デオキシヘモグロビン





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類、薬学上許容し得るその塩、エステル及びそれらの溶媒和物から選ばれる化合物を有効成分とする側副血行路の発達促進あるいは側副血行路の血流維持により、運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を短縮することにより筋肉内酸素動態を改善することを特徴とする間歇性跛行改善薬。

【化1】

(ただし、式中R1 は水素原子、ハロゲン原子、C1〜C5のアルコキシ基、またはC2〜C6のジアルキルアミノ基を表わし、R2は水素原子、ハロゲン原子またはC1〜C5のアルコキシ基を表わし、R3は水素原子、ヒドロキシル基、−O−(CH2n−COOH(式中、nは1〜5の整数を表わす。)、または−O−CO−(CH2l−COOH(式中、lは1〜3の整数を表わす。)を表わし、R4
【化2】


(式中、Aはカルボキシル基で置換されていてもよいC3〜C5のアルキレン基を表わす)を表わし、mは0〜5の整数を表わす。〕
【請求項2】
下記式(2)で表わされる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロピル水素スクシナート塩酸塩を有効成分とすることを特徴とする請求項1記載の間歇性跛行改善薬。
【化3】



【請求項3】
間歇性跛行改善が末梢循環障害に基づくものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の間歇性跛行改善薬。
【請求項4】
末梢循環障害が末梢動脈硬化又は末梢動脈閉塞であることを特徴とする請求項3記載の間歇性跛行改善薬。
【請求項5】
運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を短縮することにより筋肉内酸素動態の改善が下肢筋肉内のものであることを特徴とする請求項1記載の間歇性跛行改善薬。
【請求項6】
間歇性跛行改善が近赤外線分光を用いて筋肉内の運動負荷時に低下するオキシヘモグロビン濃度が回復してデオキシヘモグロビン濃度と交差するまでの時間を測定する客観的評価モデルを用いる評価方法により確認されることを特徴とする請求項1記載の間歇性跛行改善薬。



























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74864(P2008−74864A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285289(P2007−285289)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【分割の表示】特願平8−96577の分割
【原出願日】平成8年4月18日(1996.4.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】