説明

関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置

【課題】関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置の提供。
【解決手段】被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する工程と、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する工程と、を含む関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標とした、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、関節リウマチ寛解目的にTNFα(tumor necrosis factor α)を標的にした生物学的製剤が使用されるようになり、その有効性が認められるようになってきた。アダリムマブ(adalimumab(ADA))は、完全ヒト型抗TNFαモノクローナル抗体から成るTNFαをターゲットとする生物学的製剤で、関節リウマチ(RA)の活動性を抑えることがDAS(Disease activity score)28と呼ばれる臨床的指標を用いて既に知られている。また、アダリムマブは、関節リウマチの活動性を抑えるのみならず、関節リウマチに伴う骨破壊も抑制することが報告されている。
【0003】
しかし、このように顕著な有効性を持ち合わせているにもかかわらず、アダリムマブ無効の関節リウマチ症例も存在する。更に、アダリムマブにはニューモシスティス肺炎や、肺結核などの感染症を惹起しやすい副作用もあるため、投与前にアダリムマブの有効性を予測することで、より確実に効く症例にアダリムマブを投与することができ、無駄な副作用を回避することもできうる。
【0004】
アダリムマブのような生物学的製剤の有効性予測因子を同定する試みはこれまでにも報告が認められる(非特許文献1参照)。前記報告では、アダリムマブを12週間投与され、有効であった関節リウマチ患者と無効であった関節リウマチ患者の滑膜における遺伝子発現の相違をDNAマイクロアレイとアルゴリズムとを用いて解析し、439遺伝子の組み合わせがアダリムマブ無効と関与することを報告している。
しかしながら、この方法はあくまでも後ろ向き試験であり、アダリムマブ有効性を定量化して表していない。したがって、前向き試験で確認し得た確実なアダリムマブ有効性予測因子は、まだ同定されていないのが現状である。
【0005】
ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)4、及びADAMTS5は、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。特に、変形性関節症モデルマウスにおいて、ADAMTS5の欠失が軟骨破壊を抑制することが報告されている。
しかしながら、ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量と、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の有効性との相関は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Badot V, et al. Arthritis Research Therapy 11: R57, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、アダリムマブ投与前の関節リウマチ患者の末梢血中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が多いほど、アダリムマブが有効であるという知見である。アダリムマブ投与前の血中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量によって、アダリムマブの有効性を予測できないかを前向き試験により行った報告は従来には無く、前記知見は、本発明者らによる新たな知見である。
なお、後ろ向き試験とは、過去と現在のデータを扱う試験であり、前向き試験とは、これから生じる現象を観察する試験である。後ろ向き試験ではすでに判明している事項を扱うので研究者によるバイアスが入りやすいのに対して、前向き試験では結果がわかっていないために、バイアスがかかりにくく、より信頼のおける結果が得られる点で優れている。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する工程と、
前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法である。
<2> ヒト型抗TNFα抗体薬が、アダリムマブ(adalimumab(ADA))である前記<1>に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法である。
<3> 被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が、ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量である前記<1>から<2>のいずれかに記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法である。
<4> ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量をリアルタイムPCR法で測定する前記<3>に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法である。
<5> 被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する手段と、
前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する手段と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置である。
<6> ヒト型抗TNFα抗体薬が、アダリムマブ(adalimumab(ADA))である前記<5>に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置である。
<7> 被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が、ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量である前記<5>から<6>のいずれかに記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置である。
<8> ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量をリアルタイムPCR法で測定する前記<7>に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1Aは、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が、0.3×10−4より小さい低値群、及び0.3×10−4以上である高値群における、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)の値を示すグラフである。
【図1B】図1Bは、アダリムマブ投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が、4.0×10−4より小さい低値群、及び4.0×10−4以上である高値群における、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)の値を示すグラフである。
【図2A】図2Aは、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との相関を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、アダリムマブ投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置)
本発明の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法は、被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する工程(測定工程)と、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する工程(評価工程)とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含んでいる。
本発明の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置は、被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する手段(測定手段)と、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する手段(評価手段)とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の手段を含んでいる。
【0013】
<測定工程、及び測定手段>
前記測定工程は、被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する工程である。
前記測定手段は、被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する手段である。
【0014】
−被検体由来の試料−
前記被検体由来の試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、末梢血、関節滑膜、関節液などが挙げられる。これらの中でも、末梢血が、採取が簡便である点で、好ましい。
前記被検体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトなどが挙げられる。
【0015】
−ADAMTS4−
前記ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)4は、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。
前記ADAMTS4遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒトにおいて公知であり、その塩基配列はGenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、ヒトADAMTS4遺伝子の塩基配列は、NCBI accession number NM_005099で入手可能である。
【0016】
−ADAMTS5−
前記ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)5は、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。
前記ADAMTS5遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒトにおいて公知であり、その塩基配列はGenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、ヒトADAMTS5遺伝子の塩基配列は、NCBI accession number NM_007038で入手可能ある。
【0017】
−含有量の測定−
前記被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、mRNAの発現量を測定する方法、タンパク質の発現量を測定する方法などが挙げられる。
【0018】
前記mRNAの発現量を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法、リアルタイムPCR法、DNAアレイ法、ノーザンブロット法などが挙げられる。
前記mRNAの発現量を測定する装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR装置、リアルタイムPCR装置、DNAアレイ装置、ノーザンブロット装置などが挙げられる。前記装置は、前記測定手段として好適に使用することができる。
【0019】
前記リアルタイムPCR法の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、検量線を作成し、その検量線からサンプルの定量を行う方法(検量線法)が挙げられる。
前記検量線法に用いる鋳型DNAコントロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、健常人から採取・精製した全cDNAや、ADAMTS4 cDNAを組み込んだプラスミド、ADAMTS5 cDNAを組み込んだプラスミドなどが挙げられる。
前記リアルタイムPCR法に用いるプライマーとしては、ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかを増幅することができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記リアルタイムPCR法における内在性コントロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、β−アクチン、GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)などが挙げられる。
【0020】
<評価工程、及び評価手段>
前記評価工程は、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する工程である。
前記評価手段は、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する手段である。
【0021】
−ヒト型抗TNFα抗体薬−
前記ヒト型抗TNFα(tumor necrosis factor α)抗体薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アダリムマブ(adalimumab(ADA))が好適に挙げられる。
【0022】
−指標−
前記指標としては、ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を使用する。前記指標は、ADAMTS4の含有量、又はADAMTS5の含有量を単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。
【0023】
−評価−
前記関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が、関節リウマチ患者の中で多い場合には、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効であると評価することができる。
具体例としては、前記指標として、ADAMTS4を用いた場合(詳細は、後述する実施例1参照)、ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が、0.3×10−4以上の場合に、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効であると評価することができる。
また、前記指標として、ADAMTS5を用いた場合(詳細は、後述する実施例1参照)、ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が、4.0×10−4以上の場合に、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効であると評価することができる。
前記評価を行う装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子計算機(コンピュータ)などが挙げられる。前記装置は、前記評価手段として好適に使用することができる。
【0024】
また、前記評価においては、ヒト型抗TNFα抗体薬投与後のDAS28を予測することも可能である。
前記DAS28とは、Disease Activity Scoreの略で、関節リウマチの疾患活動性をスコア化しようということでヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が定めたものであり、Fransen J, et al., Clin Exp Rheumatol 2005; 23(Suppl.39): S93−S99に記載されている。
前記ヒト型抗TNFα抗体薬投与後のDAS28を予測する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、関節リウマチ患者の末梢血中のADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量(ADAMTS4/β−アクチン、ADAMTS5/β−アクチン)を、後述する実施例1で示すグラフ(図2A、及び図2B参照)に当てはめることにより、ヒト型抗TNFα抗体薬投与後のDAS28を予測することができる。
【0025】
<その他の工程、及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかと、他の遺伝子とを組み合わせて評価する工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかと、他の遺伝子とを組み合わせて評価する手段などが挙げられる。
【0026】
−他の遺伝子−
前記他の遺伝子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ADAMTS4、及びADAMTS5以外のアグリカナーゼをコードする遺伝子、関節リウマチに特異的に発現する遺伝子などが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:ADAMTS4、又はADAMTS5の含有量を指標とした、関節リウマチに対するアダリムマブ(adalimumab(ADA))の有効性予測)
平成20年6月から平成21年6月までに埼玉医科大学総合医療センター・リウマチ膠原病内科外来を受診した関節リウマチ患者のうち、アダリムマブを投与された患者33例を対象とした。
【0029】
<測定工程>
−末梢血中のADAMTS4のmRNAの発現量の測定−
アダリムマブ投与前の関節リウマチ患者の末梢血2.5mLを採取し、PAXgene RNA採血管(登録商標、日本ベクトン・ディッキンソン社製)に刺入後、PAXgene Blood RNA Kit(登録商標、PreAnalytiX社製)を用いて全RNAを抽出した。前記全RNAを、逆転写酵素を用いて全cDNAに変換した。前記全cDNAを鋳型DNAとして、Taqman (登録商標) Gene Expression Assay (Applied Biosystems社製)を用いて、ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定した。なお、プライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(TaqMan Gene (登録商標) Expression Assay (Hs00192708_m1, Applied Biosystems社製)を使用した。
上記により得られたADAMTS4のmRNAの含有量は、β−actin(内在性コントロール)のmRNAとの相対量で定量化を行った。
なお、β−actinのプライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(Pre−Developed TaqMan (登録商標) Assay Reagents(Human ACTB, NM_001101, Applied Biosystems社製)を使用した。
【0030】
−末梢血中のADAMTS5のmRNAの発現量の測定−
アダリムマブ投与前の関節リウマチ患者の末梢血2.5mLを採取し、PAXgene RNA採血管(登録商標、日本ベクトン・ディッキンソン社製)に刺入後、PAXgene Blood RNA Kit(登録商標、PreAnalytiX社製)を用いて全RNAを抽出した。前記全RNAを逆転写酵素を用いて全cDNAに変換した。前記全cDNAを鋳型DNAとして、Taqman(登録商標) Gene Expression Assay(Applied Biosystems社製)を用いて、ADAMTS5のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定した。なお、プライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(TaqMan Gene (登録商標) Expression Assay (00199841_m1, Applied Biosystems社製))を使用した。
上記により得られたADAMTS5のmRNAの含有量は、β−actin(内在性コントロール)のmRNAとの相対量で定量化を行った。
なお、β−actinのプライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(Pre−Developed TaqMan(登録商標) Assay Reagents(Human ACTB, NM_001101 ,Applied Biosystems社製))を使用した。
【0031】
<評価工程>
関節リウマチ患者の関節リウマチ活動性は、アダリムマブ投与前、及び投与12週後のDAS28[DAS28(0w)、DAS28(12w)]で評価した。
アダリムマブが有効か否かは、DAS28(12w)を用いたEULAR改善基準によって、反応性良好(good response)、中等度反応(moderate response)、反応なし(no response)とした。
なお、EULAR改善基準とは、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が定めたものであり、Fransen J, et al., Clin Exp Rheumatol 2005; 23(Suppl.39): S93−S99に記載されている。
【0032】
投与12週後におけるEULAR改善基準に基づくアダリムマブの有効性は、反応性良好が15例、中等度反応が11例、反応なしが7例であった。また、寛解例(DAS28(12w)<2.6)は、7例であった。
【0033】
−低値群と高値群との比較1(ADAMTS4)−
上記アダリムマブ投与関節リウマチ患者33例につき、健常人より抽出の全cDNAを鋳型DNAコントロールとして用いた検量線法によるリアルタイムPCR法で、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)を定量した。前記ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が0.3×10−4より小さい場合を低値群(Low)、0.3×10−4以上の場合を高値群(High)として群分けし、DAS28(12w)を比較した結果、高値群では、DAS28(12w)が有意に低かった(図1A参照)。
【0034】
−低値群と高値群との比較2(ADAMTS5)−
上記アダリムマブ投与関節リウマチ患者33例につき、健常人より抽出の全cDNAを鋳型DNAコントロールとして用いた検量線法によるリアルタイムPCR法で、アダリムマブ投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)を定量した。前記ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が4.0×10−4より小さい場合を低値群(Low)、4.0×10−4以上の場合を高値群(High)として群分けし、DAS28(12w)を比較した結果、高値群では、DAS28(12w)が有意に低かった(図1B参照)。
【0035】
−−GR群とNGR群との比較1(ADAMTS4)−−
ADAMTS4の含有量を指標とし、前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にGR群(反応性良好)と、NGR群(反応なし+中等度反応)とした場合の分類を表1に示す。
【表1】

【0036】
表1の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表2に示す。
感度(Sensitivity)(%)=A/(A+C)×100
特異度(Specificity)(%)=D/(D+B)×100
陽性予測率(PPV)(%)=A/(B+A)×100
陰性予測率(NPV)(%)=D/(D+C)×100
なお、上記式中A〜Dは、以下のとおりである。
A:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、GR群に分類された症例
B:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、NGR群に分類された症例
C:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、GR群に分類された症例
D:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、NGR群に分類された症例
【0037】
【表2】

【0038】
−−GR群とNGR群との比較2(ADAMTS5)−−
ADAMTS5の含有量を指標とし、前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にGR群(反応性良好)と、NGR群(反応なし+中等度反応)とした場合の分類を表3に示す。
【表3】

【0039】
表3の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表4に示す。
感度(Sensitivity)(%)=E/(E+G)×100
特異度(Specificity)(%)=H/(H+F)×100
陽性予測率(PPV)(%)=E/(F+E)×100
陰性予測率(NPV)(%)=H/(H+G)×100
なお、上記式中E〜Hは、以下のとおりである。
E:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、GR群に分類された症例
F:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、NGR群に分類された症例
G:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、GR群に分類された症例
H:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、NGR群に分類された症例
【0040】
【表4】

【0041】
表2、及び4の結果から、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)、又は、ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群の場合に、GR群となることを予測する陽性予測率(PPV)は、いずれも85.7%と高く、アダリムマブ投与前のADAMTS4、又はADAMTS5の含有量を指標として、関節リウマチに対するアダリムマブの薬効を予測することができることが示された。
【0042】
−−寛解(Re)群と非寛解(Nre)群との比較1(ADAMTS4)−−
ADAMTS4の含有量を指標とし、前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にRe(remission:寛解)群と、Nre(non−remission:非寛解)群とした場合の分類を表5に示す。
【表5】

【0043】
表5の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表6に示す。
感度(Sensitivity)(%)=I/(I+K)×100
特異度(Specificity)(%)=L/(L+J)×100
陽性予測率(PPV)(%)=I/(J+I)×100
陰性予測率(NPV)(%)=L/(L+K)×100
なお、上記式中I〜Lは、以下のとおりである。
I:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、寛解群に分類された症例
J:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、非寛解群に分類された症例
K:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、寛解群に分類された症例
L:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、非寛解群に分類された症例
【0044】
【表6】

【0045】
−−寛解(Re)群と非寛解(Nre)群との比較2(ADAMTS5)−−
ADAMTS5の含有量を指標とし、前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にRe(remission:寛解)群と、Nre(non−remission:非寛解)群とした場合の分類を表7に示す。
【表7】

【0046】
表7の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表8に示す。
感度(Sensitivity)(%)=M/(M+O)×100
特異度(Specificity)(%)=P/(P+N)×100
陽性予測率(PPV)(%)=M/(N+M)×100
陰性予測率(NPV)(%)=P/(P+O)×100
なお、上記式中M〜Pは、以下のとおりである。
M:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、寛解群に分類された症例
N:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、非寛解群に分類された症例
O:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、寛解群に分類された症例
P:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、非寛解群に分類された症例
【0047】
【表8】

【0048】
表6、及び8の結果から、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)、又は、ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群の場合に、寛解を予測する陽性予測率(PPV)は、それぞれ、57.1%(ADAMTS4)、71.4%(ADAMTS5)と高かった。
また、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)、又は、ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群の場合に、寛解を否定する(非寛解となる)陰性予測率(NPV)は、それぞれ、88.5%(ADAMTS4)、92.3%(ADAMTS5)と非常に高かった。
以上より、アダリムマブ投与前のADAMTS4、又はADAMTS5の含有量を指標として、寛解をも予測することができることが示された。
【0049】
−アダリムマブ投与後のDAS28の予測1(ADAMTS4)−
アダリムマブ投与前の末梢血中のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との相関を検討した結果を図2Aに示す。
図2Aに示されるように、アダリムマブ投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との間に負の相関(r=−0.370)が認められた。
このことは即ち、被検体由来の試料中のアダリムマブ投与前のADAMTS4の含有量が多いほど、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬が有効であること、及び被検体由来の試料中のアダリムマブ投与前のADAMTS4の含有量によって、ヒト型抗TNFα抗体薬投与12週後におけるアダリムマブ有効性を定量化して推測できることを示している。
【0050】
−アダリムマブ投与後のDAS28の予測2(ADAMTS5)−
アダリムマブ投与前の末梢血中のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との相関を検討した結果を図2Bに示す。
図2Bに示されるように、アダリムマブ投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)と、アダリムマブ投与12週後のDAS28(12w)との間に負の相関(r=−0.476)が認められた。
このことは即ち、被検体由来の試料中のアダリムマブ投与前のADAMTS5の含有量が多いほど、関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬が有効であること、及び被検体由来の試料中のアダリムマブ投与前のADAMTS5の含有量によって、ヒト型抗TNFα抗体薬投与12週後におけるアダリムマブ有効性を定量化して推測できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法は、前記薬投与前のワンポイントにおけるADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量によって、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができるので、医学的診断、及び治療の分野において、好適に利用できる。
本発明の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置は、前記薬投与前のワンポイントにおけるADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量によって、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができるので、医学的診断、及び治療の分野において、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する工程と、
前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法。
【請求項2】
ヒト型抗TNFα抗体薬が、アダリムマブ(adalimumab(ADA))である請求項1に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法。
【請求項3】
被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が、ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量である請求項1から2のいずれかに記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法。
【請求項4】
ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量をリアルタイムPCR法で測定する請求項3に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測方法。
【請求項5】
被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を測定する手段と、
前記ADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量を指標として、関節リウマチに対してヒト型抗TNFα抗体薬が有効か否かを評価する手段と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置。
【請求項6】
ヒト型抗TNFα抗体薬が、アダリムマブ(adalimumab(ADA))である請求項5に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置。
【請求項7】
被検体由来の試料中のADAMTS4、及びADAMTS5の少なくともいずれかの含有量が、ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量である請求項5から6のいずれかに記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置。
【請求項8】
ADAMTS4のmRNA、及びADAMTS5のmRNAの少なくともいずれかの発現量をリアルタイムPCR法で測定する請求項7に記載の関節リウマチに対するヒト型抗TNFα抗体薬の薬効予測装置。


【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2011−109929(P2011−109929A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266539(P2009−266539)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(510180946)株式会社ケイティーバイオ (2)
【Fターム(参考)】