説明

関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法及び該疾患の検査方法

【課題】自己免疫疾患、特に関節リウマチに関与する無数のタンパク質を高感度かつ高効率に検出する方法及び該検出方法から得られたデータの解析方法を提供する。
【解決手段】上記検出方法及び解析方法を構築するために、無細胞タンパク質合成系により発現させた哺乳動物由来のタンパク質を関節リウマチ患者由来の試料と接触させることにより自己抗体産出を検出し、そして該検出したデータを統計的分析処理、さらにパスウェイ解析を行うことにより、関節リウマチに関与するタンパク質を網羅的に解析する手段を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法及び該疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトのゲノムシークエンスが終了し、遺伝子について、バイオインフォマティクス(bioinformatics)の発展を促しながら、種を超えて保存されているアミノ酸配列(ドメイン)の探索、それを基にしたオーソログ遺伝子の分類など、核酸やアミノ酸配列を中心とした解析がなされている。しかし、未だにゲノム上の遺伝子の半数近くは、機能未知のままである。
ゲノム上に見出された、機能がまったく未知の遺伝子はもちろんのこと、実は、アノテーション(注釈付け)された遺伝子でさえ、生化学的な機能はまだわかっていない遺伝子が大半を占める。
そのため、ゲノムシークエンス後のポストゲノム時代において、膨大な予算を投入して見つかった2万5千種を超える遺伝子に関して、より有効な情報を得るためには、タンパク質の生化学的な機能を網羅的に解析する技術の発展が必須である(参照:非特許文献1)。
【0003】
上記のような網羅的に解析する技術の一つとして遺伝子発現プロファイルを使用する方法が知られている。遺伝子発現プロファイルを解析することで遺伝子機能を明らかにし、創薬、薬理学、毒性学、診断に供する知見を得るための研究がなされている。例えば、相関分析、主因子分析、分散分析などの統計解析、k平均クラスタリング、階層クラスタリング、最短近傍法、判別分析、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズムをDNAチップデータの解析に適用している(参照:特許文献1、3〜5)。
【0004】
一方、自己免疫疾患は、自分自身の構成成分である抗原(自己抗原)に対する免疫応答すなわち自己免疫によって発生する疾患を言う。
自己抗原が特定の臓器あるいは組織・細胞に限局して存在するような場合には、その臓器のみが障害されることなり臓器特異的自己免疫疾患となる。代表的な例として、重症筋無力症、多発硬化症等が知られている。
一方、核物質など全身に普遍的な自己抗原に対する自己抗体の存在が知られており、血管炎など全身性の病変が生じているものは全身性自己免疫疾患となる。代表的な例として、全身性エリテマートデス、慢性関節リウマチ、多発動脈炎症等が知られている。
【0005】
一方、臓器特異的自己免疫疾患では、自己抗体の病因的役割がはっきりしている場合が多い。これまでの研究から、臓器特異的自己免疫疾患は、抗原刺激を受けた Tリンパ球によって引き起こされるものと推定されるに至っている。自己抗体の産生機序については、さまざまな考えが出されている。第1は特定の自己抗体の産生に関わる遺伝子の関与説である。第2は、通常血中に微量にしか存在しない抗原がなんらかの原因で多量に放出されること、又は抗原がなんらかの原因で修飾されることによるとするものである。第3は、抗体産生に関与するリンパ球側に異常があり、寛容状態から逸脱してしまうことによるとするものである。
おそらく、これらが重複して自己抗体が産生されてくると考えられている(参照:特許文献2)。また、全身性自己免疫疾患における自己抗体の役割についてはいくつか報告されている。しかし、全身性自己免疫疾患の有用な診断マーカーとなる自己抗体は特定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−152405号公報
【特許文献2】特開2008−118870号公報
【特許文献3】特開2008−59024号公報
【特許文献4】特開2004−30093号公報
【特許文献5】特開2005−323573号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】生化学 第79巻 第3号、pp.278-286, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記述べた現状により、現段階においては、自己免疫疾患に関与する因子は、単独ではなく複数の因子、特に複数のタンパク質に対する自己抗体が発現していると考えられている。
従来の遺伝子発現プロファイル(参照:特許文献1、3〜5)では、自己免疫疾患患者由来の試料中の遺伝子発現量を、健常者由来の試料中の遺伝子発現量と比較することにより、原因タンパク質を特定していた。
しかし、各種の疾患患者の試料中の遺伝子発現量(転写産物量)が、該遺伝子をコードするタンパク質の実際の発現量とは必ずしも一致しないことが多々報告されている。さらには、該プロファイルでは、自己抗体が発現しているかどうかを十分に特定することができない。
以上により、自己免疫疾患、特に関節リウマチに関与する無数のタンパク質を高感度かつ高効率に検出する方法及び該検出方法から得られたデータの解析方法の構築が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記検出方法及び解析方法を構築するために、無細胞タンパク質合成系により発現させた哺乳動物由来のタンパク質を関節リウマチ患者由来の試料と接触させることにより自己抗体産出を検出し、そして該検出したデータを統計的分析処理、さらにパスウェイ解析を行うことにより、関節リウマチに関与するタンパク質を網羅的に解析する手段を提供した。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、高感度かつ高効率で関節リウマチに関与するタンパク質を解析する手段を提供した。さらに、該手段から得られた関節リウマチに関与するタンパク質に対する自己抗体の抗体価を検出することによる関節リウマチの検査方法を提供した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
「1.以下の工程を有する関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法:
(1)哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ1)を取得する工程;
(2)哺乳動物由来のタンパク質を、健常者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ2)を取得する工程、及び/又は、哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチの治療薬を投与されている関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ3)を取得する工程;
(3)上記データ1〜3のいずれか2以上を用いて統計学的分析を行い、示差的に発現している1以上の自己抗体の自己抗原タンパク質(哺乳動物由来のタンパク質)群のデータ(データ4)を取得する工程;
(4)上記データ4のタンパク質群でパスウェイ解析を行う工程;
(5)上記パスウェイ解析結果に基づき上記タンパク質群の共通規則を抽出する工程。
2.さらに、前記共通規則の基づく拘束条件を用いてデータマイニングを行う工程を有することを特徴とする前項1の解析方法。
3.前記(5)の工程で抽出された共通規則を有するタンパク質を用いて上記(1)〜(5)の工程を複数回繰り返す工程を特徴とする前項1又は2の解析方法。
4.さらに、前記データ1〜3に含まれておらず、かつ前記共通規則を有する哺乳動物由来のタンパク質を使用して、上記(1)〜(3)の工程を行うことによりデータ5を取得する工程を有することを特徴とする前項1〜3のいずれか1の解析方法。
5.前記データ5を上記4データに組み合わせる工程を有することを特徴とする前項1〜4のいずれか1の解析方法。
6.前記哺乳動物由来のタンパク質を無細胞タンパク質合成系で発現させることを特徴とする前項1〜5のいずれか1の解析方法。
7.前記(1)及び/又は(2)の工程で、ALPHA(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)を使用してIgGと反応する哺乳動物由来のタンパク質を検出することを特徴とする前項1〜6のいずれか1の解析方法。
8.以下のいずれか1のタンパク質に対する自己抗体の抗体価を患者由来の試料中から検出することを特徴とする関節リウマチの検査方法。
(1)GSK3B
(2)STAT3
(3)CDKN1B
(4)CSNK2A1
(5)PCNA
(6)SFRS2
(7)CSF3R
(8)HIST1H1C
9.前記検査方法は、発病リスクの検査、重症度の判定検査、又は治療効果の判定検査である前項8の検査方法。」
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】パスウェイ解析による関節リウマチに関与するタンパク質の解析結果
【発明を実施するための形態】
【0013】
(関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法)
本発明の関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法は、主に以下の特徴を有する。
(1)哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ1)を取得する。
これにより、関節リウマチ患者由来の試料中の自己抗体と反応した哺乳動物由来のタンパク質(自己抗原タンパク質)を特定することができる。
なお、「自己抗体」とは、一般的にはIgG分子であり、特に、IgG4分子であるが、IgM、IgE、IgA、またはIgD分子でもよい。
(2)哺乳動物由来のタンパク質を、健常者由来の試料中と接触させて自己抗体の検出データ(データ2)を取得する、及び/又は、哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチ治療薬を投与されている関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ3)を取得する。
これにより、健常者由来の試料中及び/又は関節リウマチ治療薬を投与されている関節リウマチ患者由来の試料中の自己抗体と反応した哺乳動物由来のタンパク質(自己抗原タンパク質)を特定することができる。
(3)上記データ1〜3のいずれか2以上を用いて統計学的分析を行い、示差的に発現している1以上の自己抗体に対する自己抗原タンパク質(哺乳動物由来のタンパク質)群のデータ(データ4)を取得する。
これにより、健常者、関節リウマチ患者、関節リウマチ治療薬を投与されている関節リウマチ患者によって、どのような自己抗体が特異的に産出、増加、減少又は消失されているかを特定することができる。
(4)上記データ4のタンパク質群でパスウェイ解析を行う。
これにより、自己抗原タンパク質(哺乳動物由来のタンパク質)の遺伝子機能情報、疾患関連情報、塩基配列情報、公共データベース情報、他種遺伝子間のホモログ情報、遺伝子ネットワーク情報、パスウェイ情報等が付与される。
(5)前記パスウェイ解析結果に基づき前記タンパク質群の共通規則を抽出する。
これにより、各種の自己抗原タンパク質の共通規則を特定される。
なお、「共通規則」とは、各タンパク質が、発病時期、分子機能、細胞内構成、生物学的プロセス等の共通の性質を共有することを意味する。
【0014】
(試料)
本発明の試料は、各状態(重篤、軽症、関節リウマチ治療薬を投与されている状態)の関節リウマチ患者及び健常者由来の生物学的材料を意味する。例えば、採取した血液、血液由来成分(血清、血漿)、尿、糞便、唾液、汗に含まれる産物を対象とする。特に、好ましい試料は、血清である。
【0015】
(哺乳動物由来のタンパク質)
本発明の哺乳動物由来のタンパク質は、哺乳動物の体内、特に血液で発現しているタンパク質を意味する。
さらに、本発明の哺乳動物は、ヒトを含む霊長類(例えば、ゴリラ、チンパンジー、ヒヒ、リスザル)、コンパニオンアニマル(例えば、ネコ、ウサギ、イヌ、ウマ)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ)、および実験動物(例えば、ネコ、イヌ、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、チンパンジー、およびヒヒ)を含む。
【0016】
(接触)
本発明の各工程における「接触」とは、A溶液をB溶液に添加する、又はB溶液をA溶液に添加する、の両方を意味する。
例えば、哺乳動物由来のタンパク質を関節リウマチ患者由来の試料と接触させる場合には、哺乳動物由来のタンパク質を含む溶液を試料に添加しても、又は、試料を哺乳動物由来のタンパク質を含む溶液に添加してもよい。
【0017】
(データマイニング)
本発明のデータマイニングとは、データから、興味ある規則性や因果関係をプログラム等を使用して自動的に抽出する技術のことである。なお、本発明で使用するデータマイニングは、統計的手法又は非統計的手法の両方を含む。
統計的手法の例として、主成分分析、重回帰分析、因子分析、判別分析、X二乗検定、Fisherの正確検定、Wilcoxonの検定、F-検定、多重検定、Welchのt-検定等が挙げられる。
非統計的手法の例として、クラスター解析、ニューラルネットワーク、自己組織化マップ、遺伝的アルゴリズム、決定木、k−最近傍法、パターン認識等が挙げられる。
加えて、以上述べた手法を併用することもできる。
【0018】
(正規化及びフィルタリング)
本発明の工程では、好ましくは、正規化及び/又はフィルタリングを導入する。
実験を行った時間、場所、作業者が異なることから実験のバックグランドや、ノイズの程度が異なるので、その実験ごとのバックグランドやノイズの程度を揃えるために正規化を行う。本発明の工程で、プロテインチップを使用した場合には、チップごとに画像輝度(蛍光強度)が異なることがある。よって、バックグランド輝度を考慮する必要がある。
また、フィルタリングでは、適切なデータを選択し、解析に悪影響を与える誤り値を除く操作のことである。例えば、しきい値を定める方法がある。具体的には、信号強度(蛍光強度)が低い場合、しきい値をXとし、X以下の信号強度をXにするかもしくはゼロにする。
また、クロスバリデーションも導入してもよい。
【0019】
パスウェイ解析を本実施例から得られた図1で説明する。図1では、各丸印は遺伝子を、丸印同士をつなぐ線は、相互関係があることを示している。なお、図1では、相互関係スコアを省略している。相互関係スコアとは、一般に、線でつながれた二つの遺伝子が医学文献データベースMEDLINEの同一アブストラクト文中に存在した件数を示している。
また、1次ハブタンパク質(図1の二重丸印)として、8種類のタンパク質(GSK3B、STAT3、CDKN1B、CSNK2A1、PCNA、SFRS2、CSF3R、HIST1H1C)を特定できる。
さらなる解析により、2次ハブタンパク質も特定することができる。また、文献データベースとしては、一般に、米国NCBIのMEDLINEやOMIMを用いているが、その他の文献データベースでもかまわない。
【0020】
(パスウェイ解析を用いて共通規則を抽出する工程)
パスウェイ解析により、関節リウマチに関与するタンパク質の共通規則を抽出する工程を説明する。また、パスウェイ解析ソフトウェアとしては、公知のソフトウェア{例:Pathway Assist ver3.0(Ariadne Genomics)}を用いることができる。
上記説明したように示差的に発現している1以上のタンパク質(自己抗原タンパク質)群のデータ4を含む発現タンパク質リストを作成する。
そして、作成した発現タンパク質リストをパスウェイ解析ソフトウェアにインポートする。なお、下記実施例においては、公知のパスウェイ解析ソフトウェアを用いてパスウェイ解析を行っているため、添付されている説明書のプロトコールに従った。
次に、発現タンパク質リスト内でのパスウェイを計算する。即ち、生物医学文献情報を記憶している公共のデータベースであるMEDLINEデータベースにおいて検索可能な論文の要約中から、パスウェイ解析ソフトウェアの処理アルゴリズム(Natural Language Processing Engine)で関連付けられている分子間のつながりが検索される。
そして、分子間のつながりが抽出された場合には、分子間のつながりを示すパスウェイが計算される。
【0021】
MEDLINEデータベースにおいて検索可能な論文の要約中から、パスウェイ解析ソフトウェアのアルゴリズムで関連づけられている分子間のつながりが抽出されると、パスウェイ描画画面でノードが表示される。
即ち、パスウェイ解析を行うことによって、論文の要約中に関節リウマチと同時に出現しているタンパク質が特定される。
【0022】
また、パスウェイ解析により特定されたタンパク質群と関節リウマチとの相関について、上記データ1〜3のデータでの該タンパク質群の発現レベルとの相関を確認することにより、パスウェイ解析により特定されたタンパク質群と関節リウマチの相関を検証できる。
従って、複数の検証を行うことにより、特定されたタンパク質群と関節リウマチの相関を有する可能性が高いものであるとの予測をより確実なものとすることができる。
加えて、データマイニング等の工程を追加してもよい。
【0023】
(無細胞タンパク質合成系)
本発明で使用する哺乳動物由来のタンパク質は、好ましくは、無細胞タンパク質合成系、より好ましくは真核生物由来のコムギ胚芽等を用いた無細胞タンパク質合成用抽出液を使用して発現させる。
市販のタンパク質合成用抽出液としては、ウサギ網状赤血球由来のRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社)やコムギ胚芽由来のWheat Germ Expression Premium Kit(WEPRO登録商標、株式会社セルフリーサイエンス)等が挙げられる。
本発明に適用される最良の抽出液は、コムギ胚芽由来の抽出液であり、さらに混入する胚乳成分や胚芽組織細胞中のタンパク質合成阻害をもたらすグルコースなどの代謝物質が実質的に除去された抽出液である。なお、胚乳成分が実質的に除去された抽出液とは、リボソームの脱アデニン化率が7%以下、好ましくは1%以下になっていること意味する。 さらに、好適には、細胞抽出液は、糖、リン酸化糖が10mM以下、好ましくは6mM以下まで低減されている(260nmにおける吸光度200OD/mlの抽出液中のグルコース濃度として)。このような抽出液の調製方法は、WO2005/063979 A1号公報に例示される。
【0024】
なお、本発明の特徴の一つとして、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で哺乳動物由来のタンパク質を発現させることにより、下記実施例3に示すように、合成後のビオチン化哺乳動物由来のタンパク質を洗浄する必要がないことが挙げられる。すなわち、ビオチン化配列と結合しなかったビオチンを除去する必要がない。
これにより、本発明の解析方法では、多量の哺乳動物由来のタンパク質に対する自己抗体の抗体価を効率的に測定することができる。
【0025】
(自己抗体の検出データの取得)
本発明の「自己抗体の検出データの取得」とは、関節リウマチ患者に特異的に発現している自己抗体を検出することを意味し、より詳しくは該自己抗体の抗体価を測定することである。なお、抗体価を検出する方法は自体公知の方法を利用することができる。
本発明では検出した1以上の自己抗体の抗体価の数値をエクセルファイル(Microsoft社製)等に書き込むことにより、データとして取得することができる。
【0026】
(自己抗体の抗体価の検出系)
本発明では、洗浄工程を省略できるホモジニアスアッセイ、特にALPHAを検出系として使用することが好ましい。
本発明では、好ましくはALPHAを使用することで、大量に発現したタンパク質を効率的かつ高精度に検出することができる。
【0027】
{ALPHA(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)}
ALPHA は、PerkinElmer社のAlphaScreenTMが代表的なアッセイ法である。
その方法は、近接させられたドナービーズとアクセプタービースとの間に一重項酸素の移動に基づく分析方法である。これは、680nmでの励起において、ドナービース中の光増感剤は、周囲の酸素を一重項状態の酸素に変換し、その酸素が200nmの距離まで拡散する。アクセプタービーズ中の化学発光基は、エネルギーをビーズ内の蛍光アクセプターに移動させ、続いて約600nmで光を放出する。なお、アクセプタービーズは、ガラス、シリカゲル、樹脂のような不活性担体であって、上記生体分子を固定化しておくための担体である。ドナービースは、ガラス、シリカゲル、樹脂のような不活性担体であって、ストレプトアビジンを固定化しておくための担体である。
【0028】
(ALPHAを使用したin vitroでの自己抗体価の検出)
ビオチン化した哺乳動物由来のタンパク質(ビオチン化哺乳動物由来タンパク質と称する場合がある)、該ビオチン化基質を直接的又は間接的に認識可能なアクセプタービーズ{Anti-IgG(protein G) Acceptor Beads}、ストレプトアビジンが結合したドナービース、関節リウマチ患者由来の試料(血清)及び/又は健常者由来の試料をマイクロプレートに添加する。
ここで、ビオチン化哺乳動物由来タンパク質に対する自己抗体が発現していれば、該自己抗体が該ビオチン化哺乳動物由来タンパク質を抗原として認識(結合)することにより、ドナービースとアクセプタービーズが近接してシグナルの上昇が起こる。
一方、ビオチン化哺乳動物由来タンパク質に対する自己抗体が発現していなければ、該自己抗体が該ビオチン化哺乳動物由来タンパク質を抗原として認識(結合)しないので、ドナービースとアクセプタービーズが近接できずシグナルの上昇が起こらない。
なお、シグナルの検出方法は、例えばアクセプタービーズが発する蛍光強度を使って測定する。
【0029】
(検査方法)
本発明の関節リウマチの検査において、以下のタンパク質のいずれか1以上を患者由来の試料、特に血清から検出する。
なお、本発明の検査とは、発症リスク検査、重症度の判定検査、治療効果の判定検査を含む。
(1)GSK3B(Glycogen synthase kinase 3 beta)
(2)STAT3(Signal transducer and activator of transcription 3)
(3)CDKN1B(Cyclin-dependent kinase inhibitor 1B)
(4)CSNK2A1(Casein kinase 2, alpha 1 polypeptide)
(5)PCNA(Proliferating cell nuclear antigen)
(6)SFRS2(Splicing factor, arginine/serine-rich 2)
(7)CSF3R(Colony stimulating factor 3 receptor)
(8)HIST1H1C(Histone cluster 1, H1c)
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(関節リウマチ患者由来の試料の調製)
本実施例では、臨床所見及び検査所見から慢性関節リウマチであると特定された患者から得られた血清を試料とした。
なお、健常者由来の血清をコントロールとした。
【実施例2】
【0032】
(ビオチン化哺乳動物由来タンパク質をコードする翻訳鋳型の作成)
翻訳鋳型となるmRNAは、各種哺乳動物由来タンパク質(約3千種類)をコードする遺伝子にビオチンタグを融合したビオチン化タンパク質転写鋳型であるベクターを作成した(pEU-ビオチン化タグ-各種哺乳動物由来タンパク質)。該ベクターを基に、タバコモザイクウィルス(TMV)のΩ配列部分を含むPCR産物を鋳型とした。該転写鋳型を、転写反応溶液〔最終濃度、80mM HEPES−KOH pH7.8、16mM 酢酸マグネシウム、10mM ジチオトレイトール、2mM スペルミジン、2.5mM 4NTPs(4種類のヌクレオチド三リン酸)、0.8U/μl RNase阻害剤、1.6U/μl SP6 RNAポリメラーゼ〕に添加し、37℃で3時間反応させた。得られたRNAをフェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿の後、Nick Column(Amersham Pharmacia Biotech社製)により精製して翻訳鋳型とした。
【実施例3】
【0033】
(ビオチン化哺乳動物由来タンパク質の翻訳反応工程)
96穴タイタープレートを反応容器として用いた。
先ず、125.0μ1の供給相(2×Substrate Mixture 62.5μ1、50μMのビオチン1.25μ1、MilliQ 61.25μ1)をタイタープレートに添加した。次に、25.0μ1の反応相(4μg/μlのcreatine kinase 0.25μ1、無細胞タンパク質合成用コムギ胚芽Extract(200 O.D.)6.5μ1、ビオチン化酵素(180 O.D.)1.0μ1、2×Substrate Mixture 8.75μ1、5μMのビオチン2.5μ1、MilliQ 3.5μ1)に、上記実施例2の各翻訳鋳型{ペレット状の翻訳鋳型(mRNA)を25μlの反応液で溶かした}を添加したものを、注意深く静かにタイタープレートの底に添加した。タンパク質合成反応は、26度、15〜20時間の静置で行った。
合成終了のビオチン化タンパク質は精製せずに、以下の実施例に用いた。
【実施例4】
【0034】
(Alpha ScreenTMを用いた自己抗体の抗体価の測定)
384穴タイタープレート(Optiplate-384TPP)を反応容器として用いた。
8.0μLのMixture A{6.0μLのMillQ, 1.0μLの10×AlphaScreen Buffer(1M Tris-HCl, pH8.0/0.1% Tween20), 1.0μLの10mG/mL BSA}、10μLの上記実施例1の血清{(+):2.5×10-3希釈}及び5.0μLの上記実施例3の各種のビオチン化哺乳動物由来タンパク質(5倍希釈、Biomek FXを使用)を、それぞれの穴に添加して、26℃、30分間静置した。
上記静置後、10μLのMixture B(7.88μLのMillQ, 1.0μLの10×AlphaScreen Buffer(1M Tris-HCl, pH8.0/0.1% Tween20), 1.0μLの10mG/mL BSA, 0.06μLの{5mG/mL StreptAvidin Donor Beads, 0.06μLの5mG/mL Anti-IgG (protein G) Acceptor Beads}を、さらにそれぞれの穴に添加して、26℃、60分間静置した。
上記静置後、EnVisionを用いて蛍光強度(自己抗体価)を測定した。
【0035】
上記測定結果から、哺乳動物由来タンパク質の相違により自己抗体の検出結果が異なることがわかった。
さらに、抗体価の高い上位約300個の自己抗原タンパク質に関するデータを取得した。
【実施例5】
【0036】
(関節リウマチに特異的に発現している自己抗原タンパク質の解析)
(1)上記実施例4から取得した「抗体価の高い上位約300個の自己抗原タンパク質」のデータを、コントロールである健常者由来の試料における自己抗体価のデータと比較して、示差的に発現している自己抗体(特に、発現が上昇している自己抗体)の自己抗原タンパク質群のデータを取得した。
より詳しくは、各々のデータを自然対数変換したのち、平均・標準偏差を使ってスコア化(平均値を0として、+1SDのものを1, +2SDのものを2とする)した。
【実施例6】
【0037】
(パスウェイ解析による関節リウマチに関与するタンパク質の解析)
上記実施例5で取得した関節リウマチで示差的に発現しているタンパク質群のデータを、公知のソフトウェア{統計ソフトR(http://www.r-project/org}のheatmap2を用いて、Correlation heatmapを作成した}で解析し、パスウェイ単位でタンパク質発現を評価した場合において、関節リウマチ群が健常者群と比べて有意に発現変動しているパスウェイを抽出した。
【0038】
上記解析結果を図1に示す。
図1の結果により、1次ハブタンパク質として、8種類のタンパク質(GSK3B、STAT3、CDKN1B、CSNK2A1、PCNA、SFRS2、CSF3R、HIST1H1C)を特定した。
【0039】
これにより、図1に示したタンパク質群であるGSK3B、STAT3、CDKN1B、CSNK2A1、PCNA、SFRS2、CSF3R、HIST1H1Cは、関節リウマチに関与するタンパク質であると判定することができる。
すなわち、関節リウマチ患者由来の試料、特に血清中のGSK3B、STAT3、CDKN1B、CSNK2A1、PCNA、SFRS2、CSF3R、HIST1H1Cに対する自己抗体の抗体価を検出、測定することにより、関節リウマチの発病リスク、重症度、治療効果の判定を行うことができる。
【実施例7】
【0040】
(上記実施例で解析して得られた各タンパク質での確認)
上記解析して得られた各タンパク質(GSK3B、STAT3、CDKN1B、CSNK2A1、PCNA、SFRS2、CSF3R、HIST1H1C)を用いて上記実施例4と同様な方法により、関節リウマチ患者由来の血清中の自己抗体の抗体価を測定する。
【0041】
上記タンパク質の大部分は、健常者由来の試料であるコントロールと比較して、有意に高い抗体価であることを確認する。
これにより、上記解析して得られた各タンパク質を用いれば関節リウマチの発病リスク、重症度、治療効果の判定を行うことができる。
さらには、本発明の解析方法は、関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法として優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明では、高感度かつ高効率で関節リウマチに関与するタンパク質を解析する手段を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を有する関節リウマチに関与するタンパク質の解析方法:
(1)哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ1)を取得する工程;
(2)哺乳動物由来のタンパク質を、健常者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ2)を取得する工程、及び/又は、哺乳動物由来のタンパク質を、関節リウマチの治療薬を投与されている関節リウマチ患者由来の試料と接触させて自己抗体の検出データ(データ3)を取得する工程;
(3)上記データ1〜3のいずれか2以上を用いて統計学的分析を行い、示差的に発現している1以上の自己抗体の自己抗原タンパク質(哺乳動物由来のタンパク質)群のデータ(データ4)を取得する工程;
(4)上記データ4のタンパク質群でパスウェイ解析を行う工程;
(5)上記パスウェイ解析結果に基づき上記タンパク質群の共通規則を抽出する工程。
【請求項2】
さらに、前記共通規則の基づく拘束条件を用いてデータマイニングを行う工程を有することを特徴とする請求項1の解析方法。
【請求項3】
前記(5)の工程で抽出された共通規則を有するタンパク質を用いて上記(1)〜(5)の工程を複数回繰り返す工程を特徴とする請求項1又は2の解析方法。
【請求項4】
さらに、前記データ1〜3に含まれておらず、かつ前記共通規則を有する哺乳動物由来のタンパク質を使用して、上記(1)〜(3)の工程を行うことによりデータ5を取得する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の解析方法。
【請求項5】
前記データ5を上記4データに組み合わせる工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の解析方法。
【請求項6】
前記哺乳動物由来のタンパク質を無細胞タンパク質合成系で発現させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1の解析方法。
【請求項7】
前記(1)及び/又は(2)の工程で、ALPHA(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)を使用してIgGと反応する哺乳動物由来のタンパク質を検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1の解析方法。
【請求項8】
以下のいずれか1のタンパク質に対する自己抗体の抗体価を患者由来の試料中から検出することを特徴とする関節リウマチの検査方法。
(1)GSK3B
(2)STAT3
(3)CDKN1B
(4)CSNK2A1
(5)PCNA
(6)SFRS2
(7)CSF3R
(8)HIST1H1C
【請求項9】
前記検査方法は、発病リスクの検査、重症度の判定検査、又は治療効果の判定検査である請求項8の検査方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−107964(P2012−107964A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256401(P2010−256401)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)