説明

関節リウマチ治療剤

【課題】関節リウマチにIL-6の関与が示唆されている。IL-6シグナルを阻害することができるヒト化抗IL-6R抗体トシリズマブ(TOCILIZUMAB)の関節リウマチでの優れた臨床試験結果が明らかとなり、効果的な手段であることが示されている。改善された抗IL-6受容体抗体を有効成分とする関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤を提供する。
【解決手段】CDR領域アミノ酸配列の改変、可変領域アミノ酸配列の改変、定常領域アミノ酸配列の改変を適切に組み合わせることでTOCILIZUMABより優れた抗原中和能、薬物動態(血漿中滞留性)、免疫原性、安全性、物性が改善された抗IL−6受容体抗体を有効成分とする関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
IL-6は多様な機能を持つサイトカインであり、T細胞、B細胞、単球、線維芽細胞、骨芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、メサンギウム細胞、滑膜細胞といった様々なタイプの細胞から産生される(非特許文献1、2)。IL-6はIL-6レセプターと結合し、更にIL-6/IL-6レセプター複合体がgp130と結合することにより細胞内にシグナルが伝達される(非特許文献3)。IL-6レセプターには膜型と可溶型の二種類が存在するが、可溶型IL-6レセプターもIL-6/IL-6レセプター複合体を形成することができ、gp130と結合してシグナルを伝達させることが可能である。
【0003】
関節リウマチ(RA)は、多発する関節炎と進行性関節破壊を主症状とし、関節外症状として肺、腎臓、皮下組織などにも病巣が広がる原因不明の全身性炎症疾患である。様々な全身徴候が存在するが、RAの本質は持続的な滑膜炎であり、軟骨破壊及び骨びらんの原因となる滑膜炎及び続発する関節機能の破壊が、疾患の特徴的所見である。RAでは関節の血管が増加し、血管内から関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなどの白血球が遊走する。関節局所で免疫応答が起こり、リンパ球やマクロファージが産生するサイトカインの作用により炎症反応が引き起こされ、軟骨・骨の破壊が進行する。
【0004】
RAでは、血沈の亢進、CRPの上昇、血小板数の増加、ポリクローナルな免疫グロブリンの増加、あるいはリウマチ因子が認められ、これらにIL-6の関与が示唆されている。RA患者の血清中並びに関節液中のIL-6濃度が高値を示し、このIL-6レベルとRAの疾患活動性が相関することが報告されている(非特許文献4−6)。また、滑膜組織からのIL-6の産生も亢進していることが確認されている(非特許文献7)。更に、IL-6は可溶性IL-6レセプターの共存下で破骨前駆細胞の破骨細胞への分化を促進し、骨吸収にも関与することが報告されている(非特許文献8)。これらは、関節破壊にIL-6及び可溶性IL-6レセプターが関与していることを示唆しており、実際、RA患者の関節液中では、可溶性IL-6レセプター濃度も高値を示し、IL-6を含め、その濃度はin vitroで破骨細胞を誘導するに十分な量とされている(非特許文献9)。以上のようにIL-6は、RAの病態において、抗体産生・リンパ球浸潤・パンヌス形成・関節破壊・急性期反応・貧血等様々な作用に関与していると考えられている(非特許文献10)。最近になり、膜型IL-6Rと可溶型IL-6レセプターの両方に結合しIL-6シグナルを阻害することができるヒト化抗IL-6R抗体トシリズマブ(TOCILIZUMAB)のRAでの優れた臨床試験結果が明らかとなり、IL-6レセプターを阻害することがRAの治療に極めて効果的な手段であることが示されている(非特許文献10)。
【0005】
又、TOCILIZUMABはRA以外に、小児慢性関節炎、キャッスルマン病の治療にも有効であることが知られている。
【0006】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kishimoto T. The biology of interleukin-6. Blood 1989;74:1-10.
【非特許文献2】Guerne PA, Zuraw BL, Vaughan JH, Carson DA, Lotz M. Synovium as a source of interleukin 6 in vitro. Contribution to local and systemic manifestations of arthritis. J Clin Invest 1989;83:585-92.
【非特許文献3】Nishimoto N, Kishimoto T. Interleukin 6: from bench to bedside. Nature Clinical Practice Rheumatology 2006;11:19-26.
【非特許文献4】Hirano T, Matsuda T, Turner M, Miyasaka N, Buchan G, Tang B, Sato K, Shimizu M, Maini R, Feldmann M, Kishimoto T: Excessive production of interleukin 6/B cell stimulatory factor-2 in rheumatoid arthritis. European Journal of Immunology 1988; 18: 1797-1801.
【非特許文献5】Houssiau FA, Devogelaer JP, Van Damme J, De Deuxchaisnes CN, Van Snick J: Interleukin-6 in synovial fluid and serum of patients with rheumatoid arthritis and other inflammatory arthritides. Arthritis & Rheumatism. 1988; 31: 784-788.
【非特許文献6】Madhok R, Crilly A, Watson J, Capell HA. Serum interleukin 6 levels in rheumatoid arthritis: correlations with clinical and laboratory indices of disease activity. Ann Rheum Dis 1993;52:232-4.
【非特許文献7】Sack U, Kinne RW, Marx T, Heppt P, Bender S, Emmrich F: Interleukin-6 in synovial fluid is closely associated with chronic synovitis in rheumatoid arthritis. Rheumatolology International 1993;13:45-51.
【非特許文献8】Tamura T, Udagawa N, Takahashi N, Miyaura C, Tanaka S, Yamada Y, Koishihara Y, Ohsugi Y, Kumaki K, Taga T, Kishimoto T, Suda T: Soluble interleukin-6 receptor triggers osteoclast formation by interleukin 6. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America USA 1993; 90: 11924-11928.
【非特許文献9】Kotake S, Sato K, Kim KJ, Takahashi N, Udagawa N, Nakamura I, Yamaguchi A, Kishimoto T, Suda T, Kashiwazaki S: Interleukin-6 and soluble interleukin-6 receptors in the synovial fluids from rheumatoid arthritis patients are responsible for osteoclast-like cell formation. Journal of Bone & Mineral Research 1996; 11: 88-95.
【非特許文献10】Inhibiting interleukin-6 in rheumatoid arthritis. Choy E. Curr Rheumatol Rep. 2008 Oct;10(5):413-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤を提供することである。より具体的には、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤として使用されているTocilizumabのアミノ酸を置換することにより、抗原中和能、薬物動態(血漿中滞留性)、免疫原性、安全性、物性が改善された抗IL-6受容体抗体を有効成分とする関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤として使用されているTocilizumabのアミノ酸を置換することにより、抗原中和能、薬物動態(血漿中滞留性)、免疫原性、安全性、物性が改善された抗IL-6受容体抗体を得た。そして当該抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する薬剤が、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療に有用であることを見出した。
【0010】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
〔1〕 以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c) 配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
〔2〕 以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
〔3〕 以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
【0011】
さらに本発明は、以下を提供する。
〔4〕以下の抗体を投与する工程を含む、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法;
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c) 配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
〔5〕以下の抗体を投与する工程を含む、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法;
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
〔6〕以下の抗体を投与する工程を含む、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法;
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
〔7〕以下の抗体の関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤の製造における使用;
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c) 配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
〔8〕以下の抗体の関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤の製造における使用;
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
〔9〕以下の抗体の関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤の製造における使用;
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
〔10〕関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法に使用するための、以下の抗体;
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c) 配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
〔11〕関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法に使用するための、以下の抗体;
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
〔12〕関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法に使用するための、以下の抗体;
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって得られた抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤は、抗原中和能、薬物動態(血漿中滞留性)、免疫原性、安全性、物性が改善されたことで投与頻度を少なくすることができ、持続的に治療効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】TOCILIZUMABとFv4-M73をカニクイザルに1 mg/kgで投与したときの抗体の血漿中濃度推移を示す図である。
【図2】TOCILIZUMABとFv4-M73をカニクイザルに1 mg/kgで投与したときのCRPの血漿中濃度推移を示す図である。
【図3】TOCILIZUMABとFv4-M73をカニクイザルに1 mg/kgで投与したときの非結合型可溶型IL-6レセプター率の血漿中濃度推移を示す図である。
【図4】TOCILIZUMABとFv4-M73によるヒトRA患者由来滑膜細胞からのMCP-1産生抑制作用を示す図である。
【図5】TOCILIZUMABとFv4-M73によるヒトRA患者由来滑膜細胞からのVEGF産生抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤に関する。
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、
配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、
配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3
を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、
配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、
配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3
を含む軽鎖を含む抗体、または
(c)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、
配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、
配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および
配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、
配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、
配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
【0015】
さらに本発明は、以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤に関する。
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、または
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
【0016】
さらに、本発明は以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤に関する。
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、または
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
【0017】
さらに本発明は、上述のアミノ酸配列を有する本発明の抗体において、1又は複数のアミノ酸(通常、30アミノ酸以内、好ましくは10アミノ酸以内、さらに好ましくは5アミノ酸以内、より好ましくは3アミノ酸以内)が改変(置換、欠失、付加および/または挿入など)または修飾されたアミノ酸配列を有する抗体を提供する。このようなアミノ酸配列が改変または修飾された抗体は好ましくは元の抗体と同等の活性(抗原結合活性、抗原中和活性、など)を有する。
【0018】
又、本発明の抗体で用いられる抗体は、二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体を言う。本発明において、二重特異性抗体はIL-6レセプター分子上の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がIL-6レセプターを認識し、他方の抗原結合部位が他の物質を認識する二重特異性抗体とすることもできる。IL-6レセプターを認識する本発明の抗体からなる二重特異性抗体の他方の抗原結合部位が結合する抗原としては、例えば、IL-6, TNFα, TNFR1, TNFR2, CD80, CD86, CD28, CD20, CD19, IL-1α, IL-β, IL-1R, RANKL, RANK, IL-17, IL-17R, IL-23, IL-23R, IL-15, IL-15R, BlyS, lymphotoxinα, lymphotoxinβ, LIGHT ligand, LIGHT, VLA-4, CD25, IL-12, IL-12R, CD40, CD40L, BAFF, CD52, CD22, IL-32, IL-21, IL-21R, GM-CSF, GM-CSFR, M-CSF, M-CSFR, IFN-alpha, VEGF, VEGFR, EGF, EGFR, CCR5, APRIL, APRILRなどが挙げられる。
【0019】
本発明の抗体に用いられるFRは特に限定されず、当業者が適宜選択することが可能である。特に限定されないが、好ましくはヒト由来のFRが使用される。FRは天然の配列からアミノ酸が改変されていてもよい。
【0020】
本発明の抗体に用いられる定常領域は特に限定されず、当業者が適宜選択することが可能である。特に限定されないが、好ましくはヒト由来の定常領域が使用される。定常領域は天然の配列からアミノ酸が改変されていてもよい。
【0021】
上述の本発明の抗体は、抗原中和能、薬物動態(血漿中滞留性)、免疫原性、安全性および/または物性に優れた抗IL-6受容体抗体であり、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤として非常に有用である。
【0022】
本発明の抗体は当業者に公知の方法により製造することが可能である。
例えば、本発明の抗体をコードする遺伝子を作製し、該遺伝子を適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させることが可能である(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0023】
従って、本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子が導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程を含む、本発明の抗体を製造する方法を提供する。
より具体的には、以下の工程を含む本発明の抗体の製造方法を提供する。
(a)本発明の抗体をコードする遺伝子が導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(b)当該遺伝子によりコードされる抗体を取得する工程。
【0024】
具体的には、哺乳類細胞を用いた産生の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0025】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いることが可能である。
【0026】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
【0027】
大腸菌を用いた産生の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
【0028】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0029】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0030】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。
抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0031】
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0032】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0033】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0034】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0035】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0036】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
【0037】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
【0038】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
【0039】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0040】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0041】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280 nmの吸光度を測定し、1 mg/mlを1.35 ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1 M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0042】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad製)を用いて405 nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0043】
本発明で使用される抗体のIL-6シグナル伝達阻害活性は、通常用いられる当業者に公知の方法により評価することができる。例えば、IL-6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45,KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3、あるいはIL-6依存性細胞MH60.BSF2を培養し、これにIL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を共存させることによりIL-6依存性細胞の3H-チミジン取込みを測定すればよい。また、IL-6受容体発現細胞であるU266を培養し、125I標識IL-6を添加し、同時にIL-6阻害剤を加えることにより、IL-6受容体発現細胞に結合した125I標識IL-6を測定する方法でもよい。上記アッセイ系において、IL-6阻害剤を存在させる群に加えIL-6阻害剤を含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL-6阻害剤のIL-6阻害活性を評価することができる。
【0044】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、sc(Fv)2などが挙げられる。
【0045】
さらに本発明で使用される抗体は、抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0046】
ヒト化抗ヒトIL-6受容体抗体であるTocilizumabは、関節リウマチ、小児慢性関節炎(例えば、多関節に活動性を有する若年性突発性関節炎、全身型若年性突発性関節炎)、キャッスルマン病の治療薬として日本で承認されている。
【0047】
上述の本発明の抗体は、Tocilizumabのアミノ酸を改変することにより、抗原中和能、血中動態、免疫原性、安全性、物性が改善された抗体である。従って、上述の本発明の抗体は当然のことながらTocilizumabと同様の治療効果を有しており、関節リウマチ、小児慢性関節炎、キャッスルマン病の治療剤として用いることが可能である。
【0048】
本発明の治療剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、通常、一回につき体重1 kgあたり0.01 mgから100 mgの範囲で選ばれる。あるいは、通常、患者あたり1〜1000 mg、好ましくは50〜250 mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量についても当業者が適宜選択することが可能である。
【0049】
本発明の治療剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体が上記の治療効果を有する材料であってもよいし、当該治療効果を有さない材料であってもよく、上記の治療剤とともに投与可能な材料を意味する。また、治療効果を有さない材料であるが、抗体と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0050】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0051】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0052】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0053】
本発明の治療剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0054】
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80又はポロキサマー188の場合では、一般には0.0001〜10%(w/v)であり、好ましくは0.001〜5%であり、さらに好ましくは0.005〜3%である。
【0055】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
【0056】
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500 mMであり、好ましくは5〜100 mMであり、さらに好ましくは10〜20 mMである。
【0057】
また、本発明の治療剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0058】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0059】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
【0060】
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0061】
本発明の薬剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる。また該水溶液は適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。
【0062】
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0063】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0064】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0065】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。さらに、本剤にヒアルロニダーゼを添加あるいは混合することで皮下に投与する液量を増加させることも可能である(例えば、WO2004/078140等)。
【0066】
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組み合わせて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
本発明は、本発明の治療剤を対象に投与する工程を含む、関節リウマチ、小児慢性関節炎、キャッスルマン病を治療する方法に関する。本発明において、「対象」とは、本発明の治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。上記の「生物体の体内の一部分」については特に限定されない。
【0068】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
【0069】
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、静脈注射剤、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明のペプチドをコードするDNAの標的化遺伝子送達により投与することも可能である。
【0070】
本発明の治療剤の対象への投与は、疾患の症状が現れてからでもよいし、症状が現れる前に予防的に投与されてもよい。
【0071】
さらに本発明は、本発明の抗体の、関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤の製造における使用に関する。また関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療方法に使用するための本発明の抗体に関する。
【0072】
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
【0073】
また結合する糖鎖の構造は如何なる構造でもよい。EUナンバリングの297番目の糖鎖は如何なる糖鎖構造であってもよく(好ましくはフコシル化された糖鎖)、また糖鎖が結合していなくてもよい(例えば大腸菌で生産する、あるいはEUナンバリングの297番目に糖鎖が結合しないように改変することで可能)。
【0074】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0075】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕抗ヒトIL-6レセプター抗体のサルPK/PD試験
TOCILIZUMAB(H鎖 WT-IgG1/配列番号:13、L鎖 WT-kappa/配列番号:14)および、TOCILIZUMABの抗原中和能、血中動態、免疫原性、安全性および物性を改善することを目的にTOCILIZUMABにアミノ酸置換等を導入したFv4-M73(H鎖 VH3-M73/配列番号:9、L鎖 VL3-kappa/配列番号:10)を当業者公知の方法で発現・精製を行い(方法は参考例参照)、それらの関節リウマチの治療薬としての効果を以下の通り検討した。
【0077】
TOCILIZUMABおよびFv4-M73をカニクイザルに1 mg/kgで静脈内に単回投与し血漿中濃度推移を評価した(方法は参考例参照)。TOCILIZUMABおよびFv4-M73の静脈内投与後の血漿中濃度推移を図1に示した。その結果、Fv4-M73はTOCILIZUMABと比較してカニクイザルにおいて大幅に薬物動態が改善した。
【0078】
カニクイザル膜型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、抗体投与6日目から18日目(TOCILIZUMABに関しては3日目から10日目)までカニクイザルIL-6 5μg/kgを腰背部に連日皮下投与し、24時間後の各個体のCRP濃度を測定した(方法は参考例参照)。各抗体投与時のCRP濃度推移を図2に示した。カニクイザル可溶型IL-6レセプターがどの程度中和されているかの薬効を評価するために、カニクイザル血漿中の非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプター濃度を測定し、非結合型の可溶型IL-6レセプター率を計算した(方法は参考例参照)。各抗体投与時の非結合型の可溶型IL-6レセプター率の推移を図3に示した。
【0079】
Fv4-M73はTOCILIZUMABと比較してカニクイザル膜型IL-6レセプターをより持続的に中和し、CRPの増加を長期間抑制した。また、Fv4-M73はTOCILIZUMABと比較してカニクイザル可溶型IL-6レセプターをより持続的に中和し、非結合型のカニクイザル可溶型IL-6レセプターの増加を長期間抑制した。これより膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターの中和の持続性に関しては、Fv4-M73はTOCILIZUMABよりも優れていることが見出された。
【0080】
〔実施例2〕
Monocyte chemoattractant protein (MCP)-1は、単球・T細胞・NK細胞・basophilの細胞浸潤に関与することが知られている。MCP-1は、RA患者の滑膜組織・滑液中で高発現していることが報告されており(J Clin Invest. 1992 Sep;90(3):772-9)、RAの病態に関与していると考えられている(Inflamm Allergy Drug Targets. 2008 Mar;7(1):53-66.)。
【0081】
また、VEGFは強力な血管新生因子であり、RA患者の滑膜中のマクロファージ・線維芽細胞・滑膜細胞等から産生されることが知られている(J Rheumatol. 1995 Sep;22(9):1624-30.)。また、RA患者血清中のVEGFレベルと疾患活動性やradiographic progressionが相関し(Arthritis Rheum. 2003 Jun;48(6):1521-9.、Arthritis Rheum. 2001 Sep;44(9):2055-64.)、RA患者を抗IL-6R抗体TOCILIZUMABで治療することにより、血清中のVEGFレベルが低下することから、VEGFもRAの病態に重要な役割を担っていると考えられている(Mod Rheumatol. 2009;19(1):12-9.、Mediators Inflamm. 2008;2008:129873)。
【0082】
そこで、TOCILIZUMABおよびFv4-M73はsIL-6R及びIL-6刺激によるヒトRA患者由来滑膜細胞からのMCP-1およびVEGF産生を抑制できるかどうかを以下の方法で検討した。
【0083】
ヒトRA患者由来滑膜細胞(TOYOBO)を5% FCS含有IMDM培地にて96 well plateに2×104/0.05 mL/wellにて播種し、CO2インキュベーター(37℃, 5%CO2)中で90分静置した。適宜希釈した濃度のTOCILIZUMAB及びFv4-M73を0.05 mL添加し、15分静置後に可溶型IL-6レセプター(SR344:参考例の方法に従って調製)を0.05 mL添加して更に30分静置し、更にIL-6(TORAY)を0.05 mL添加した(可溶型IL-6レセプター及びIL-6の終濃度は各50 ng/mL)。2日培養後、培養上清を回収し、培養上清中のMCP-1およびVEGF濃度をELISA kit (BiosourceおよびPierce Biotechnology)を用いて測定した。結果を図4と図5に示す。TOCILIZUMAB及びFv4-M73は、可溶型IL-6レセプター及びIL-6刺激によるヒトRA患者由来滑膜細胞からのMCP-1およびVEGF産生を濃度依存的に抑制した。
【0084】
これらのことから、Fv4-M73は、抗IL-6レセプター中和抗体として作用(IL-6レセプターに結合し膜型IL-6レセプターおよび可溶型IL-6レセプターのシグナルを遮断)の持続性がTOCILIZUMABと比較して極めて優れており、TOCILIZUMABと比較して投与頻度および投与量を大幅に低減することが可能であり、さらにFv4-M73は、ヒトRA患者由来滑膜細胞からのMCP-1およびVEGF産生を抑制することから、Fv4-M73はRAに極めて有用な治療薬であることが示された。
【0085】
<参考例>
組み換え可溶型ヒトIL-6レセプターの調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換え可溶型ヒトIL-6レセプターは以下のように調製した。J.Biochem. 108, 673-676 (1990)で報告されているN末端側1番目から344番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(Yamasakiら、Science 1988;241:825-828 (GenBank # X12830))のCHO細胞定常発現株を作製した。SR344発現CHO細胞から得られた培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、SR344に対する特異抗体を固定したカラムによるアフィニティクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの3つのカラムクロマトグラフィーにより、可溶型ヒトIL-6レセプターを精製した。メインピークとして溶出した画分を最終精製品とした。
【0086】
組み換え可溶型カニクイザルIL-6レセプター(cIL-6R)の調製
公開されているアカゲザルIL-6レセプター遺伝子配列 (Birney et al, Ensembl 2006, Nucleic Acids Res. 2006 Jan 1;34(Database issue):D556-61.) を元にオリゴDNAプライマーを作製し、カニクイザル膵臓から調製されたcDNAを鋳型とし、プライマーを用いて、PCR法によりカニクイザルIL-6レセプター遺伝子全長をコードするDNA断片を調製した。得られたDNA断片を動物細胞発現ベクターへ挿入し、これを用いてCHO定常発現株(cyno.sIL-6R産生CHO細胞)を作製した。cyno.sIL-6R産生CHO細胞の培養液をHisTrapカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-10k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex200pg16/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、可溶型カニクイザルIL-6レセプター(以下、cIL-6R)の最終精製品とした。
【0087】
組み換えカニクイザルIL-6(cIL-6)の調製
カニクイザルIL-6は以下のように調製した。SWISSPROT Accession No.P79341に登録されている212アミノ酸をコードする塩基配列を作成し、動物細胞発現ベクターにクローニングし、CHO細胞に導入することで定常発現細胞株を作製した(cyno.IL-6産生CHO細胞)。cyno.IL-6産生CHO細胞の培養液をSP-Sepharose/FFカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)で精製後、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、Superdex75pg26/60ゲルろ過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)でさらに精製を行い、Amicon Ultra-15 Ultracel-5k(Millipore)を用いて濃縮し、カニクイザルIL-6(以下、cIL-6)の最終精製品とした。
【0088】
TOCILIZUMABの変異体の作製・発現・精製
目的の抗体配列をコードするプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 105個/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5% CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清からrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0089】
サルPK/PD試験による抗体血漿中濃度、CRP濃度、非結合型可溶型IL-6レセプターの測定
カニクイザル血漿中濃度測定はELISA法にて当業者公知の方法で測定した。CRP濃度はサイアスR CRP(関東化学株式会社)にて、自動分析装置(TBA-120FR、東芝メディカルシステムズ株式会社)を用いて測定した。カニクイザル血漿中の非結合型の可溶型カニクイザルIL-6レセプター濃度を以下の通り測定した。カニクイザルの血漿30μLを0.22μmのフィルターカップ(Millipore)において乾燥させた適量のrProtein A Sepharose Fast Flow(GE Healthcare)樹脂に添加することで血漿中に存在する全てのIgG型抗体(カニクイザルIgG、抗ヒトIL-6レセプター抗体および抗ヒトIL-6レセプター抗体-可溶型カニクイザルIL-6レセプター複合体)をProteinAに吸着させた。その後、高速遠心機でスピンダウンし、パス溶液を回収した。パス溶液にはproteinAに結合した抗ヒトIL-6レセプター抗体-可溶型カニクイザルIL-6レセプター複合体は含まれないため、proteinAパス溶液中の可溶型カニクイザルIL-6レセプター濃度を測定することによって、非結合型の可溶型IL-6レセプター濃度を測定可能である。可溶型カニクイザルIL-6レセプター濃度は、上記で作製した可溶型カニクイザルIL-6レセプター(cIL-6R)をスタンダードに用いて、ヒトIL-6レセプター濃度を測定する当業者公知の方法で測定した。非結合型の可溶型IL-6レセプター率は以下の計算式によって計算した。
【0090】
(抗体投与後の非結合型の可溶性IL-6レセプター濃度÷抗体投与前の可溶性IL-6レセプター濃度)×100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c) 配列番号:1(VH3-M73のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:2(VH3-M73のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:3(VH3-M73のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:4(VL3のCDR1)に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:5(VL3のCDR2)に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:6(VL3のCDR3)に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体。
【請求項2】
以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:7(VH3-M73の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む重鎖、および配列番号:8(VL3の可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体。
【請求項3】
以下の抗体を有効成分として含有する関節リウマチ、小児慢性関節炎またはキャッスルマン病の治療剤;
(a)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体、
(c)配列番号:9(VH3-M73)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号:10(VL3)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219478(P2011−219478A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104172(P2011−104172)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【分割の表示】特願2010−511837(P2010−511837)の分割
【原出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】