関節疾患に対する持続的治療効果を有する薬剤
本発明は、ヒアルロン酸の官能基の一部が、架橋点0.6%〜15%で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液、並びに、それぞれ、架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とからなる、関節疾患により引き起こされる軟骨変性を抑制するための鎮痛組成物または関節疾患により引き起こされる軟骨変性または滑膜炎症を抑制するための組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1回の注射により、持続的鎮痛効果、長い間の軟骨の保護効果および抗炎症効果を有する医薬に関する。
【0002】
背景技術
変形性関節症(OA)、即ち、関節疼痛と関節変性により起こる機能障害の臨床症候群、は他の関節疾患よりも多くの人々を煩わしている。変形性関節症は、米国や全世界において最も一般的な関節疾患であり、年輩者における身体障害の原因の主要な1つである。膝OAは一般的であるが、しばしば、初期治療が困難な問題である。従来の生活スタイルの改善、理学療法および薬物療法から成る伝統的な非外科的処置はしばしば、効果が無く、又は、症状が残ることがある。現在、膝OA患者の臨床における治療方法に、ヒアルロン酸溶液の関節内投与製剤(以下、IA−HAとも言う)がある。ヒアルロン酸ナトリウムは細胞外マトリックスの構成要素として自然に分泌されており、ヒアルロン酸の関節内投与は、潤滑剤および衝撃吸収剤として働き、OAにおいて鎮痛作用と膝機能の改善作用を示す。現在、米国において市販のIA-HA製剤としては5つ、スパルツ(SUPARTZ(登録商標))、シンヴィスク(SYNVISC(登録商標))、ヒアルガン(HYALGAN(登録商標))、オルトビスク(ORTHOVISC(登録商標))およびユーフレクサ(EUFLEXXA)がある。シンヴィスク(SYNVISC(登録商標))は米国で初めて上市されたIA-HA製剤であり、唯一架橋ヒアルロン酸誘導体の水溶液であるが、他はヒアルロン酸ナトリウム水溶液(以下、HA−Naとも言う)である。これら市販のIA-HA製剤は、効果に明らかな違いはない。また、これらは3〜5回投与を一連とする用法であり、言い換えると、1回の注射により、長い期間の効果は得られない。そのため、より少ない投与にて、侵襲性や関節感染のリスクが軽減され、1回の注射により、長い期間の効果が得られる、新たなIA-HA製剤が期待されている。
【0003】
今まで、SYNVISC(登録商標)とは異なる架橋方法である架橋ヒアルロン酸について多くの報告がされている。例えば、架橋基として多官能性エポキシ化合物を用いて架橋させた架橋ヒアルロン酸(特許文献1参照)、光架橋ヒアルロン酸(特許文献2〜4参照)や、架橋基を用いない分子内架橋ヒアルロン酸(特許文献5参照)などが報告されている。架橋ヒアルロン酸は、従来の非薬物療法や簡単な鎮痛剤、例えば、アセトアミノフェン、による改善が十分に見られない患者における膝の変形性関節症に関連し発生する痛みの低侵襲的処置として検討されてきている。例えば、架橋又は未架橋ヒアルロン酸誘導体ゲルとリン脂質とからなる薬剤を用いることにより、投与回数が減少するという利点を奏するように改良された関節疾患治療用注射剤が報告されている(特許文献6参照)。
【0004】
しかしながら、光架橋ヒアルロン酸生成物に関する報告の多くは、主に、当該生成物の合成や一般的な性状についてであり、当該架橋ヒアルロン酸生成物における、ある特異な効果および特異的用途のために有用で限定的な条件や性状について深く考察し言及した報告はされていない。また、SYNVISC(登録商標)と光架橋ヒアルロン酸とにおける抗原性および刺激性の比較は、参考文献(非特許文献1参照)に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−74571号
【特許文献2】米国特許第5462976号
【特許文献3】米国特許第5763504号
【特許文献4】米国特許第6031017号
【特許文献5】特開2003−252905号
【特許文献6】特開2002−348243号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Evaluation of in vivo biocompatibility and biodegradation of photocrosslinked hyaluronate hydrogels" J. Biomed. Mater. Res. A 70:550−559(2004)
【0007】
発明の要旨
発明の開示
本発明は、製剤の効果が継続しないまたは数週間持続しないという従来のIA−HA製剤の問題点を解消するために開発された。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、架橋点が0.6%〜15%の割合で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する鎮痛効果または長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[2]架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋基の導入率が、架橋ヒアルロン酸誘導体の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%である[1]記載の注射溶液。
[3]架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である[1]記載の注射溶液。
[4]架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、かつ、架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成ることを特徴とする関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[5]架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%であり、かつ、架橋点が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成ることを特徴とする関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[6]該架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が、溶液の総量に対し、0.5重量%〜3.0重量%である[1]〜[5]の何れかに記載の注射溶液。
[7]架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が約1重量%で、当該溶液の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存量が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である[1]〜[6]の何れかに記載の注射溶液。
[8]鎮痛効果が、投与部位に溶液を投与後、2週間またはそれ以上継続または持続するものである[1]〜[6]の何れかに記載の注射溶液。
[9]単位投薬量の剤型であるの架橋ヒアルロン酸誘導体からなり、当該単位投薬量が1回の投与において、1kgあたり架橋ヒアルロン酸誘導体0.3mg〜1.2mgの量である[1]記載の注射溶液。
[10]架橋ヒアルロン酸誘導体が以下の特性を有するものであり、架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液濃度が0.7重量%〜2.0重量%である[1]記載の注射剤。
ヒアルロン酸の重量平均分子量が、500,000〜2,500,000であり、
架橋基がケイ皮酸またはケイ皮酸誘導体の残基であり、
スペーサーがアミノアルキルアルコールの残基であり、
架橋基の導入率が10%〜25%であり、そして
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が10%〜30%である。
【0009】
[11]ヒアルロン酸のカルボキシル基の一部が架橋基により互いに架橋し、アミド結合を介する架橋を形成している架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とからなり、かつ、持続的鎮痛効果を有する関節疾患を治療するための関節内投与用医薬組成物。
[12]ヒアルロン酸が、アミノ基を有する架橋基への光照射による光二量化反応または光重合化反応によって架橋することにより架橋ヒアルロン酸誘導体を形成し、かつ、ヒアルロン酸のカルボキシル基が架橋基のアミノ基と結合しているものである[11]記載の組成物。
[13]ヒアルロン酸のカルボキシル基が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋したものである[11]または[12]記載の組成物。
[14]鎮痛効果が、投与部位に当該組成物を投与後、2週間またはそれ以上継続または持続するものである[11]〜[13]の何れかに記載の組成物。
[15]架橋ヒアルロン酸誘導体溶液の濃度が約1重量%である組成物の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存率が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である[11]〜[14]のいずれかに記載の組成物。
【0010】
[16]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する鎮痛効果または長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる関節疼痛を緩和するための鎮痛組成物。
[17]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する抑制効果または長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる軟骨変性を抑制するための組成物。
[18]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する抑制効果または長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患に起因する滑膜の炎症抑制用組成物。
【0011】
[19]関節疾患が変形性関節症である、[16]〜[18]の何れかに記載の組成物。
[20]関節疾患が外傷性関節疾患である[19]に記載の組成物。
[21][1]〜[20]の何れかに記載の注射溶液または組成物を充填した注射器から成るキット。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ウサギ前十字靱帯(ACL)切断に関する実験:肉眼的形態学的評価、を示すグラフである。
【図2】図2は、ウサギACL切断に関する実験における、大腿骨顆の組織学的所見(サフラニンO/ファストグリーン)である。 図2Aは、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)群からの代表例である。 図2Bは、1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液(1%HA−Na)群からの代表例である。 図2Cは、1回注射架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)群からの代表例である。 図2Dは、2回注射HA-Gelからの代表例である。
【図3】図3は、ラットのブラジキニン誘発関節疼痛モデルにおける、HA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Aは、ブラジキニン注射の1週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Bは、ブラジキニン注射の2週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Cは、ブラジキニン注射の4週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。
【図4】図4は、硝酸銀誘発関節疼痛モデルにおける、PBS、HA-Gelあるいは1%HA−Na処置群の荷重負荷率を示すグラフである。
【図5】図5は、硝酸銀誘発関節疼痛モデルにおける、PBS、HA-Gelあるいは1%HA−Na処置群の疼痛スコアを示すグラフである。
【図6】図6は、尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデルにおける、異常歩行スコアの変化を示すグラフである。
【図7】図7は、尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデルにおける、異常歩行スコアの変化を示すグラフである。
【図8】図8は、膝関節液中におけるHA-Gelの残存率を示すグラフである。
【図9】図9は、膝滑膜におけるHA-Gelの残存率を示すグラフである。
【図10】図10は、パパイン誘発関節炎モデルにおける、架橋ヒアルロン酸ゲルとPBSとの肉眼的形態学的評価を示すグラフである。
【図11】図11は、パパイン誘発関節炎モデルにおける、架橋ヒアルロン酸ゲルとPBSとの肉眼的形態学的評価を示すグラフである。
【0013】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を発明の実施の形態および方法により詳説する。それらの詳細な説明は、ここに開示され、かつ請求された発明の例示のみを意図したものであり、添付した請求の範囲に特に指摘し、かつ明瞭にクレームされた本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
なお、本明細書において、「変形性関節症」を「OA」、「ヒアルロン酸」を「HA」、「ヒアルロン酸ナトリウム」を「HA−Na」とも言う。また、スペーサーとして用いられる化合物を、「スペーサー化合物」とも言う。
【0014】
本発明に用いられる架橋ヒアルロン酸誘導体または架橋ヒアルロン酸化合物(以下、架橋HA誘導体ともいう)は、HAに共有結合にて結合している架橋基によりヒアルロン酸分子内又はヒアルロン酸鎖間において形成された架橋構造を有している。当該架橋構造の存在により、架橋HA誘導体は三次元網目構造を構成しており、当該架橋HA誘導体を水性媒体に溶解させた溶液は粘弾性のハイドロゲルの物理的性質を有している。この溶液は、同濃度のHA水溶液よりも高粘度である。
架橋HA誘導体は、塩を形成しない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成していても何れでもよい。例えば、架橋HA誘導体の薬学的に許容されうる塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を含む。
【0015】
本発明に用いられるヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とがβ1,3結合にて結合してなる二糖単位を基本骨格として、当該二糖単位がβ1,4結合することにより繰り返し構造を形成しているグリコサミノグリカン、つまり、通常用いられるヒアルロン酸(HA)であれば特に限定されない。
【0016】
使用されるHAは、塩を形成しない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成していても構わない。HAの薬学的に許容されうる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属イオン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属イオン塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、ジエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、アミノ酸等の有機塩基との塩が挙げられる。HAの塩は、生体親和性の面から、特にアルカリ金属イオンとの塩が好ましく、中でも、ナトリウムイオンとの塩がとりわけ好ましい。
【0017】
使用されるHAの由来は生体の一部(鶏冠、臍帯、軟骨および皮膚など)から抽出することにより得られる天然物由来でもよい。また、化学的に合成されたものや、遺伝子工学的手法により酵母等の微生物に生産させたものであっても良い。特に、高純度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないHAが好ましく用いられる。
HAの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、10,000〜5,000,000が例示される。好ましくは200,000〜3,000,000であり、より好ましくは500,000〜2,500,000が例示される。
【0018】
本発明に用いられる架橋形式としては、結合安定性に優れた共有結合による架橋形式が好ましい。
本発明に用いられる架橋基としては光反応性架橋基(即ち、光反応性残基を有する架橋基)が好ましく挙げられ、当該光反応性架橋基は、光(紫外線)照射によって光二量化反応又は光重合反応を生じる化合物の残基が選択される。その様な化合物残基としては、例えば、桂皮酸、置換桂皮酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸、クマリン、チミン等の残基が挙げられる。それらの化合物の中でも、光照射によりシクロブタン環を形成可能なビニレン基を有する化合物が好ましく、光反応性の効率や生体の安全性の面から、桂皮酸又は置換桂皮酸がより好ましい。
【0019】
置換桂皮酸の例としては、桂皮酸のベンゼン環上の任意の1又は2個の水素が、炭素原子数1〜8の低級アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチルなど)、炭素原子数1〜8の低級アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシなど)、アミノ基、水酸基等で置換された桂皮酸誘導体が挙げられるが、アミノ桂皮酸やp−アミノ桂皮酸がより好ましい。
【0020】
本発明に用いられる架橋HA誘導体は、投与部位における長期継続または長期持続効果を助ける、pH、イオン強度、温度等の生体内の代謝環境に適当な抵抗を有することが必要である。アミド結合であることが好ましく、それによりHAのカルボキシル基に架橋基となる化合物の残基が導入される。なぜなら、アミド結合は、酸性またはアルカリ性条件において、加水分解に対し、より良好な耐性を有するからである。
【0021】
上述したような光反応性架橋基は、スペーサーと呼ばれるアミノ基を有する化合物の残基を介して、HAのカルボキシル基へ導入されてもよい。また、このスペーサーを介して光反応性架橋基を結合させることにより、架橋基とHAの反応の促進や光架橋反応の向上といったメリットも得られる。
【0022】
本発明において、スペーサーとして使用される化合物としては、少なくとも1つのアミノ基と光反応性架橋基と結合可能な官能基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、アミノアルキルアルコール、ジアミン、アミノ酸およびペプチド等が好ましいものとして挙げられる。架橋HA誘導体の関節内投与における所望の代謝分解への抵抗性および物性の適度な保持を考慮すると、スペーサーとなる化合物としては、炭素原子数2〜18のアミノアルキルアルコールが好ましく、炭素原子数2〜12のアミノアルキルアルコールがより好ましい。更に、架橋反応においてHAと光反応性架橋基との距離が適当となることから、アミノペンタノール、アミノブタノール、アミノプロパノールおよびアミノエタノールが更に好ましく例示される。
【0023】
なお、特に断らない限り、本件明細書において、「架橋基」とは、スペーサー化合物の残基に導入された架橋基をも包含し、従って、「光反応性架橋基」とは、スペーサー化合物の残基に導入された光反応性架橋基も包含する。また、架橋構造を形成している架橋基を場合によっては架橋基と呼び、架橋していない架橋基を場合によっては架橋し得る基と呼ぶ。
【0024】
本発明の架橋HA誘導体の合成方法は、架橋基となる化合物とHAとをアミド結合により化学的に結合させうる方法であれば特に限定されない。例えば、水溶性カルボジイミド(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエンスルホン酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド塩酸塩等の水溶性の縮合剤を使用する方法、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)およびN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等の縮合補助剤と上記の縮合剤とを使用する方法、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)等の縮合剤を用いる方法、活性エステル法、酸無水物法などが挙げられる。さらに、架橋基としてスペーサー導入架橋基を用いる場合には、スペーサー化合物を予めHAに導入し、次いで、架橋基をスペーサー結合HAに導入する方法か、またはスペーサーを予め架橋基に導入し、次いで、スペーサー結合架橋基をHAに導入する方法が挙げられる。
【0025】
なお、ここにおいて、説明を簡略化するために、上記方法によって生成した、未だ架橋構造を有さない架橋基が結合したHA誘導体を、未架橋体又は未架橋化合物とも言う。
未架橋体を架橋させる方法は、架橋基間での反応により架橋構造を形成できる方法であれば、特に限定されない。
【0026】
例えば、光架橋基を導入した未架橋体の場合には、当該未架橋体の均一な溶液に、光照射を行うのが好適である。
しかしながら、HAそれ自体は水性溶媒に良い溶解性を示す化合物であるが、親水性に関与している当該ヒアルロン酸が有するカルボキシル基にスペーサー化合物を導入したヒアルロン酸誘導体の場合には、導入率が増大するに従い、その親水性は減弱する。
【0027】
そのため、当該未架橋体の水性溶媒への溶解性を向上させるため、上記の未架橋体を合成する方法においては、アルカリ処理を行うことが好適である。
【0028】
アルカリ処理の方法は、溶液をアルカリにする方法であれば、特に限定されない。使用されるアルカリ剤としては、有機塩基又は無機塩基でも良い。溶液の取り扱いを考慮すると、無機アルカリ塩が好ましい。これらの無機アルカリ塩の中でも、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウム等の弱いアルカリ塩の方が、架橋基結合ヒアルロン酸誘導体の低分子量化や架橋基の分解に影響が少ないので、水酸化ナトリウム等の強いアルカリ塩よりもより好適に用いられる。ここで、アルカリ処理は、pH7.2〜11、より好ましくは7.5〜10で行うことが出来る。使用するアルカリの量や処理時間は、目的とする親水性に従って適宜コントロール出来る。例えば、炭酸水素ナトリウムを、ヒアルロン酸1gに対し500mg用いる場合(即ち、ヒアルロン酸のモル量の10倍以上のモル量)には、アルカリ処理を攪拌しながら2〜3時間行うことにより、十分に親水性が向上した未架橋化合物が得られる。上記方法により得られる未架橋誘導体の1.0重量%溶液は、0.45μmの孔径および25mmの直径の多孔質フィルターを24℃において、2mL/分以上の速度で5.0Kg/cm2の圧力下、通過することができる。
【0029】
未架橋体への光照射(photoirradiation)は、光反応性架橋基が効率的に光二量化又は光重合化反応を起こす条件で行われるのが好ましい。
【0030】
光照射には、ヒアルロン酸のグリコシド結合を切断せず、且つ、光反応性架橋基に光反応を生じさせる光であれば、光線の種類や波長等は特に限定されない。例えば、使用する架橋基として桂皮酸又は桂皮酸誘導体を用いた場合、波長200〜600nmの紫外線が好ましい。照射光の強度(インテグレーション)は、結果物の所望の性状、所望の導入率、未架橋体溶液の濃度等により、適宜選択できる。好ましい光照射装置としては、紫外ランプ、高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプ等を用いることが可能である。必要に応じ、不要な波長の光を光源から、例えば、カットフィルターなどで除去することが好ましい。
【0031】
本発明の架橋HA誘導体は、HAに共有結合にて結合している架橋基により分子内架橋又は分子間架橋によって形成された架橋構造を有している。当該架橋構造の存在により、架橋HA誘導体は三次元網目構造を構成しており、これにより、架橋HA誘導体の水溶液は、粘性と弾性からなる粘弾性のハイドロゲル物性を有する。この物性は、架橋基の導入率、架橋率、架橋反応の際の架橋可能化合物の溶液濃度などの数々の寄与因子により影響を受けている。そのため、これら因子を適当な範囲に設定することが重要である。
【0032】
これら好適な範囲は、所望する目的物の性状に従い適宜決定することができる。例えば、架橋基の導入率は、HAの構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%が好ましく、5%〜30%がより好ましく、10%〜25%が更により好ましい。架橋反応における好ましい反応溶液濃度は、溶液の総量に対し、0.5%〜10%であり、0.7%〜2%がより好ましい。また、架橋率は、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%が好ましく、7%〜35%がより好ましく、10%〜30%が更に好ましい。
【0033】
なお、導入率(DS)は、HAの構成二糖単位当たりの架橋基の導入の割合(%)で計算され、例えば、構成二糖単位当たり1個の架橋基を有する未架橋体のDS、又は、構成200糖単位当たり1個の架橋基を有する未架橋体のDSは、各々、100%と1%である。
【0034】
架橋率は、導入された架橋基のうち、架橋した架橋基の割合(%)を示している。例えば、100個の架橋基を有するHA誘導体において、20個の架橋基(モノマー)が二量化すれば、10個の二量体が生成し、架橋率は20%である。
【0035】
一般的に、溶媒(溶剤)に比べ溶質である架橋ヒアルロン酸誘導体が過量の場合や架橋ヒアルロン酸誘導体が過度の架橋構造を有すると、適度な流動性を有したハイドロゲル溶液には成りにくい。
【0036】
本発明の架橋HA誘導体は、注射針を付けた注射器を用いて関節内投与するために適度な流動性が必要である。一方、生体内代謝に対する適度な抵抗性と、投与部位へのふさわしい保持性も必要である。それゆえ、DSや架橋率があまりに低いものは好適ではない。結果的に、粘性と弾性のバランスが重要である。
【0037】
上記のような条件に従いデザインした架橋HA誘導体の溶液は、18ゲージ〜25ゲージの注射針を通過し、注入可能な溶液となり、関節内投与注射溶液として用いることが出来る。
【0038】
例えば、DSと架橋率との積であり、HAの構成二糖単位当たりの架橋基の二量体のモル割合(%)を示す架橋点の観点から、本発明の架橋HA誘導体は、HAの構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の範囲の架橋点が好ましく、1.0%〜7.5%の範囲の架橋点がより好ましい。
【0039】
後述の実施例で示すように、本発明の架橋HA誘導体は、一回の治療期間において、3〜5回の投与でなく、単回投与によって、より顕著な鎮痛効果を示す。また、HA水溶液より、長期間にわたり鎮痛効果を保持し、急性および慢性の疼痛両方に対して効果的でかつ長く継続しまたは長く持続する鎮痛効果を示す。また、単回投与で、長期間の滑膜炎症に対する抗炎症効果および軟骨の保護効果も得られる。
【0040】
本発明によれば、例えば、OA、外傷性関節炎、炎症性関節疾患、変形性関節疾患などのような関節疾患を治療するための関節内投与用の注入剤および医薬組成物を提供できる。当該注入剤は、有効成分として本発明の架橋ヒアルロン酸誘導体と薬学的に許容される担体とからなる注入剤であり、同様に、当該医薬組成物も、有効成分として本発明の架橋ヒアルロン酸誘導体と薬学的に許容される担体とからなる医薬組成物である。
薬学的に許容される担体としては、本発明の架橋HA誘導体の溶液に使用されるような水性媒体が例示される。例えば、注射用水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。また、本発明の注入剤および医薬組成物がその所望の治療効果を失わず、かつ副作用を生じない限り、pH調整剤および等張化剤等の注射剤に通常使用されている添加剤も受容可能である。例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、および塩化ナトリウムが挙げられる。
当該注入剤および当該医薬組成物は、市販のIA−HA製剤の現在の投与量(つまり、治療期間中、3〜5回投与)より、治療期間中、より少ない回数の投与量により十分に効果的である。
【0041】
また、必要に応じ、プランジャー、プランジャーロッドなどを備えた、本発明の架橋HA誘導体の溶液を充填した注射器から成るキットも提供可能である。
上記した方法と条件により製造される架橋HA誘導体は、注入溶液および医薬組成物として使用することができる。注入溶液または医薬組成物として使用される好ましい架橋HAは、架橋について以下のパラメータを有する;
架橋点が0.6%〜15%であり、導入率が3%〜50%である、
架橋点が0.6%〜15%であり、架橋率が5%〜40%である、
導入率が3%〜50%であり、架橋率が5%〜40%である、
架橋点が0.6%〜15%であり、導入率が3%〜50%であり、架橋率が5%〜40%である、または
架橋点が1%〜7.5%であり、導入率が10%〜25%であり、架橋率が10%〜30%である。
本発明の医薬製剤により治療される疾患は特に限定されず、関節疾患により生じる関節疼痛の緩和、関節疾患により生じる滑膜炎症の抑制、関節疾患により生じる軟骨変性の抑制、および、関節の可動域を改善する治療剤として用いることができる。また、上記疾患の治療だけでなく、予防としても用いることが出来る。
【0042】
注射溶液または医薬組成物の用量は特に限定されない。なぜならば、それらは、治療される患者の各症状、年齢、体重などに従い個々に決められるものであるため。
好ましくは、1回の投与において、HA誘導体として成人患者(50〜70kg)当たり15mg〜60mgの通常用量範囲が例示され、更には0.3mg〜1.2mgが例示される。更に、注射溶液のための薬剤の濃度は、好ましくは、溶液の総量に対し、0.5%〜3.0%、より好ましくは0.7%〜2.0%(架橋基結合HA誘導体)が例示される。注射溶液の用法としては、1回の治療において1回の注射または2回の注射が例示される。医薬組成物の注射可能な形態も同様である。
【0043】
本発明の注射溶液および医薬組成物の注射しうる形態の最も望ましい1つの態様としては、以下の構成が例示される。
架橋HA誘導体の性質は、以下のとおりである。
HAの重量平均分子量:500,000〜2,500,000
架橋基の化合物:桂皮酸又は桂皮酸誘導体
スペーサー化合物: アミノアルキルアルコール、より好ましくはアミノペンタノール、アミノブタノール、アミノプロパノールまたはアミノエタノール、
架橋基のDS:10%〜25%、および
架橋率:10%〜30%
溶媒:生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または注射用水
架橋HA誘導体溶液濃度:0.7%〜2.0%
水溶液の性状:同じ濃度のHA溶液より、高い粘弾性と高い曳糸性を有し、24℃で0.2ml/秒の速度で注射針から押し出した場合に、18から25ゲージの注射針を通過できる。
【0044】
なお、架橋点としては、好ましくは1.0%〜7.5%が例示される。また、適度な流動性を有しており、例えば、架橋HA誘導体ゲルの1重量%(架橋基結合HAとして)のものは、水平方向から45°下方向へ24℃で0.2ml/秒の速度で注射針から押し出した場合に、23ゲージの注射針の開口端から切断することなく3cm以上の長さを有する連続した曳糸を形成することが可能である。
本願発明において、架橋HA誘導体から成るハイドロゲル状態の溶液は、例えば、米国特許第6,602,859号に記載されており、当該米国特許の内容は参照として本願に取り入れられる。
【0045】
実施例
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。
【0046】
<合成例>
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム400mg(生化学工業株式会社製)と、水とジオキサンを含む混合溶液とを、攪拌しながら混ぜ合わせた。得られた混合溶液にN−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)34mg/水1ml(0.6当量/HA二糖単位(mol/mol))、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)29mg/水1ml(0.3当量/HA二糖単位(mol/mol))および桂皮酸4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル塩酸塩51mg/水1ml(0.3当量/HA二糖単位(mol/mol))を室温で順次混合した。得られた混合溶液を3時間攪拌した。得られた混合溶液に炭酸水素ナトリウム200mg/水3mlを更に混合し、2時間攪拌し、次いで、塩化ナトリウム400mgを混合した。エタノールを加え、沈殿を得た。次いで、得られた沈殿を80%エタノール(vol/vol)とエタノールで洗浄し、室温にて一晩乾燥させ、360mgの白色固体桂皮酸(4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル結合ヒアルロン酸;「桂皮酸4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル結合ヒアルロン酸」を、以下、単にint−HAD1と言う)を得た。
【0047】
更に、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、EDCI・HClおよび桂皮酸誘導体の当量を下記のように変えた以外は上記と同様の手順にて、異なる導入割合(導入率)をもったint−HADを得た。
(int−HAD2)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸3−アミノプロピル塩酸塩は各々、0.2、0.10および0.10mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD3)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸4−アミノブチル塩酸塩は各々、1.0、0.5および0.5mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD4)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸5−アミノペンチル塩酸塩は各々1.4、0.7および0.7mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD5)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸8−アミノオクチル塩酸塩は各々0.6、0.3および0.3mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD6)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸3−アミノプロピル塩酸塩は各々0.2、0.10および0.10mol/mol/HA二糖単位当たり。桂皮酸3−アミノプロピルエステルの導入率はint−HAD2より低いが、int−HAD6はint−HAD2と同じ方法で調製した。
【0048】
その後、上記で得られた桂皮酸誘導体導入ヒアルロン酸(int−HAD1〜6)は、各々、5mMリン酸緩衝生理食塩水に溶解させ、得られた溶液の濃度がヒアルロン酸として1重量%となるようにした。
得られた水溶液を、各々、20〜40分間、紫外線照射を行った。これらの溶液は、紫外線照射によりゲル(ヒドロゲル)に変化した。以下、得られたゲルを、架橋ヒアルロン酸ゲルと言う。
【0049】
以下の実施例における「架橋ヒアルロン酸ゲル」(以下、場合によってはHA-Gelとも言う)は、上記合成例により調製したint−HADの1.0%溶液に紫外線照射したゲルである。以下の実施例における1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)としては、生化学工業株式会社製のSUPARTZ(商品名)を用いた(以下、場合によってはHA−Naとも言う)。
架橋ヒアルロン酸ゲルと1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)は、両方とも鶏冠由来のヒアルロン酸を用いて製造されている。
【0050】
実施例1:ウサギ前十字靱帯(ACL)切断による関節炎に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入の効果
目的
本実験に用いたウサギACL切断モデルは、ヒトにおいてOA類似の軟骨変性を引き起こす関節炎モデルとして認められている。それ故、このモデルはしばしば、ヒアルロン酸製剤(SUPARTZ(登録商標),HYALGAN(登録商標),HEALON(登録商標),SYNVISC(登録商標))の評価に用いられている。
本実験の目的は、ACL切断モデルにおけるHA-Gelの効果を検討することである。
【0051】
方法
片側のACLを切断することにより48匹の雄性ウサギに実験的変形性関節症(OA)を誘発させた。ACL切断後4週に、HA-Gelを1回又は2回(2週間感覚)、左後肢膝関節腔内に0.05mL/kg/関節の用量で投与した。その効果は、PBSあるいは1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)の5週間、週1回の繰り返し投与による効果と比較した。全ての動物をACL切断から9週に解剖した。左膝関節を採取し、軟骨変性の形態学的評価、滑膜炎の指標として、関節液量、蛋白量、関節液中の浸潤細胞数とグリコサミノグリカン量、及び軟骨と滑膜の病理組織学的な検討として大腿骨顆のサフラニンO染色により評価した。
注入量はすべての試験物質において同じとした。
【0052】
結果
形態学的評価において、各動物の2箇所(大腿骨顆と脛骨プラトー)における変化を評価した。各群合計24箇所を以下の基準に従いグレード化した。
グレード1:表面変化なし(インディアンインクにより染色されず)
グレード2:僅かな細繊維化(表面は細長い傷状にインクが保持される)
グレード3:明白な細繊維化
グレード4:侵食(軟骨が欠損し、下骨が露出)
4a:長さ0mm〜2mm以下の侵食
4b:長さ2mmより長く、5mm以下の侵食
4c:長さ5mmより長い侵食
4d:長さ5mmx幅2mmより大きい侵食(長さx幅、mm)
【0053】
形態学的評価において、HA-Gel群の軟骨変性は、1%HA−Na群と比較して抑制された(図1)。実際、HA-Gelの1回又は2回注入群両方において、関節軟骨の変性は、PBSの5週間注入された対照群と比較し有意に低かった。更に、注入回数を考慮すると、HA-Gelは1%HA−Naに比べて明らかに関節軟骨の変性を減弱させていた。対照的に、1%HA−Naの投与は、PBSと比較して軟骨変性を減弱したが、その効果は有意ではなかった。試験物質間の重症度の比較では、PBS>1%HA−Na>HA-Gelの1回注入>HA-Gelの2回注入の順であった。HA-Gelの軟骨変性抑制に対する効果は、関節液中のコンドロイチン6硫酸(CS−6S)の増加の抑制によっても実証された。更に、HA-Gelは、関節液、蛋白およびコンドロイチン4硫酸(CS−4S)量の増加抑制から判断して、滑膜炎の症状も改善させた。
【0054】
更に、関節液中のCS−6Sは軟骨由来であり、関節液中のCS−4Sは滑膜の炎症により血管から放出されたものであると報告されている。言い換えると、CS−6Sの増加の減少は軟骨変性抑制を示しており、CS−4Sの増加の減少は滑膜の炎症抑制を示している。
図2において、(A)は、PBS群からの代表例であり、(B)は、1%HA−Na群からの代表例であり、(C)は、1回注入HA-Gel群からの代表例であり、そして(D)は、2回注入HA-Gel群からの代表例である(オリジナル倍率x40)。
サフラニンO染色は、軟骨中のグリコサミノグリカン(GAG)量を示す(GAG:赤、骨およびコラーゲン繊維:緑)。
【0055】
以下の観察を行い、スコア化した。軟骨基質のサフラニンO染色性の消失/低下の範囲、軟骨基質における裂隙形成、軟骨基質における細繊維化、軟骨の欠損、軟骨細胞数の増加、軟骨細胞数の減少、軟骨下骨の再構築像、軟骨基質における血管侵入。試験物質間の重症度の比較では、以下の順であった。PBS>1%HA−Na>HA-Gelの1回注入>HA-Gelの2回注入。
【0056】
総括すると、滑膜炎が重篤でない時は軟骨変性は軽度であることから、HA-Gelにより起こるこれら変化は、病態の進行を軽減するのに効果的に相互作用している可能性がある。関節軟骨の病理組織学的な所見は、肉眼での観察結果を支持している(図2)。滑膜の病理組織学的観察において、滑膜上皮細胞の立方化/重層化、上皮下の細胞浸潤、上皮下の線維化/浮腫、上皮下出血および上皮下カルシウム沈着は、全ての試験群において観察された。これらの変化はPBS群と比較して、HA-Gel群の方が重症度が低かった。
【0057】
結論
これらのデータは、ウサギACL切断OAモデルにおいて、HA-Gelの1回又は2回(2週間の間隔)の投与が滑膜炎と軟骨変性の両方を抑制することを実証している。
【0058】
実施例2:ラットにおけるブラジキニン誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入による効果
目的
この実験の関節疼痛モデルは、ラットの関節腔内へPGE2(痛みの増強物質)と共にブラジキニン(内因性の強力な疼痛物質)を注射することによって誘発される局所疼痛モデルである。このモデルは「足上げ」、「跛行」および「三足歩行」のような歩行における関節疼痛の行動発現に基づいてヒアルロン酸製剤の鎮痛効果を評価するのに用いられている。このモデルにより評価される鎮痛効果は滑膜組織におけるヒアルロン酸の濃度と関係していると報告されている。
この実験の目的は、1%HA−NaおよびPBSと比較して、HA-Gelの長期的な鎮痛効果をラットのブラジキニン誘発関節疼痛において検討することである。
【0059】
方法
試験物質を0.05mL/関節の用量で雌性ラットの左後肢の膝関節腔内に注入した。投与後1、2および4週に、ブラジキニン溶液とPGE2との混合液を同じ関節に注入し、関節疼痛を誘発した。1%HA−Naは、通常の投与において1週間に1回毎の再注入を必要としているため、1週間でのみ評価した。ブラジキニンの注入後約2分間、ブラインド条件下で動物の歩行状態を観察し、疼痛の重症度を5点スケールでスコア化した(表1)。
【0060】
表1:ブラジキニン誘発関節疼痛モデル:疼痛評価スコアの基準
【表1】
【0061】
結果
HA-Gelは投与後1、2および4週の時点で対照群と比較し、ブラジキニン誘発による疼痛反応を有意に抑制した(図3)。HA-Gelの鎮痛効果は、1週において1%HA−Naによる鎮痛効果よりも非常に顕著であった。
【0062】
結論
HA-Gelの関節腔内投与は、ブラジキニン誘発関節疼痛に対して、PBSや陽性対照として用いた1%HA−Naよりより有効であった。対照と比較して、HA-Gelは少なくとも4週間に渡る持続的な鎮痛効果をもたらした。
【0063】
実施例3:ラットにおける硝酸銀誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節腔内注入による効果
目的
この実験の目的は、ラットにおける硝酸銀誘発関節疼痛に対するHA-Gelの鎮痛効果を検討することである。このモデルは一般的に多くの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の鎮痛効果の評価に用いられている。
【0064】
方法
1%硝酸銀水溶液を、0.05mL/関節の用量で42匹の雄性ラットの左後肢膝関節腔内に注入した。注入後24時間に、炎症足への荷重負荷と歩行時の疼痛スコアによって、動物を各グループに割り付けた。疼痛の重症度は、以下の4点スコアに従いスコア化した。0ポイント:正常またはほぼ正常、1:軽度の跛行、2:重度の跛行、3:三足歩行。荷重負荷は、荷重運動鎮痛測定装置(株)トッケン製)で測定した。HA-Gel、1%HA−NaあるいはPBSは、0.05mL/関節の用量で投与した。投与後1、2および3日に、炎症足への荷重と疼痛スコアを上記と同様の方法で評価した。評価項目は、荷重負荷率(%)(=炎症足への荷重(g)/体重(g)×100)および歩行時の疼痛スコアとした。
【0065】
結果
試験物質の投与後1〜3日の各時点において、炎症足への荷重負荷率は、PBSや1%HA−Naを投与された動物と比べて、HA-Gelを投与された動物で有意に高かった(図4)。更に、HA-Gelの疼痛スコアは、各測定時点において、PBSや1%HA−Naよりも低かった(図5)。
【0066】
結論
これらのデータは、関節腔内投与されたHA-Gelは、PBSや1%HA−Naよりも、炎症性関節疼痛に対してより有効であることを示している。
【0067】
実施例4:イヌにおける尿酸ナトリウム誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の鎮痛効果
目的
ヒトにおいて、関節液中での尿酸ナトリウム(MSU)微結晶の堆積は、急性の炎症性関節疼痛を誘発する。MSU結晶の関節内注入により誘発される実験的関節疼痛モデルは、ヒアルロン酸ナトリウムや非ステロイド性抗炎症薬の鎮痛効果の評価に広く用いられている。
この実験の目的は、イヌにおけるMSUにより誘発される関節疼痛に対するHA-Gelの鎮痛効果を検討することである。
【0068】
方法
HA-Gel、生理食塩液あるいは1%HA−Naを、0.3mL/kg/関節の用量で雌性ビーグル犬の左後肢膝関節腔内に関節腔内投与した。炎症と激しい痛みを誘発する物質である尿酸ナトリウム(MSU)は、試験物質の投与後0.5時間あるいは72時間に同じ関節に注入された。MSUの注入後2、3、4、5、6および8時間に、関節疼痛の指標として、歩行状態をスコア化し、また、左後肢の荷重負荷率を算出した。時間曲線下面積(AUC)をこれら両指標について算出した。
【0069】
歩行を観察し、歩行の状態を以下の基準に従いスコア化した(異常歩行スコアとして示した);0:変化なし(正常歩行)、1:軽度(正常に立っているが、歩行は不自然)、2:中等度(四肢で立っているが、左後肢(注入部位)をしばしば上げる)、3:重度(歩行時、左後肢先端を地面に触れるのみ)及び4:非常に重度(左後肢に体重をかけることができない;3足歩行する)。また、3つの天秤を荷重負荷測定に用いた。天秤Aは、デジタルプラットフォームスケール(大和製衡株式会社製DP−6100GP)、天秤Bと天秤Cは、ロード−セルデジタルプラットフォームスケール(大和製衡株式会社製DP−6000)。前肢は天秤Aに、右後肢は天秤Bに、そして左後肢は天秤Cに置いた。3つの天秤の値は0.1kgの位まで記録した。荷重負荷率は以下の式によって計算した。
荷重負荷率=100xCの平均/(Aの平均+Bの平均+Cの平均)
【0070】
結果:
試験物質投与後0.5時間にMSUを注入する実験では、異常歩行スコアの平均AUCは、HA-Gel、生理食塩液、及び、1%HA−Naで、それぞれ0.0、28.0及び13.5であった(図6,表2)。
HA-Gelは完全な鎮痛効果を示し、処置された動物全例で痛みを伴った歩行状態は見られなかった。1%HA−Naも生理食塩液と比較して有意な鎮痛効果を示したが、その効果はHA-Gelの効果より有意に低かった。
試験物質投与後72時間にMSUを注入する実験では、異常歩行スコアのAUCは、HA-Gel、生理食塩液および1%HA−Naで、それぞれ1.5、27.6及び27.1であった(図7、表3)。HA-Gelは、依然、有意な鎮痛効果を示したが、一方、1%HA−Naの膝関節疼痛に対する効果はほぼ完全に減退した。
両実験において、左後肢の荷重負荷率の変化は、異常歩行スコアの変化と一致した。
【0071】
表2:尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデル:異常歩行スコアのAUC。
生理食塩液、HA-Gel及び1%HA−Naは、MSU注入の0.5時間前に関節内投与された。
【表2】
【0072】
表3:尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデル:異常歩行スコアのAUC。
生理食塩液、HA-Gel及び1%HA−Naは、MSU注入の72時間前に関節内投与された。
【表3】
【0073】
結論
HA-Gelの単回関節内投与は、MSU誘発膝関節疼痛を抑制することが確認された。HA-Gelの鎮痛効果は、1%HA-Naと比較して優位、かつより持続的であった。
【0074】
実施例5:ウサギの膝関節腔と滑膜における架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の残存率
目的
この実験の目的は、ウサギにおいて関節内投与されたHA-Gelの局所滞留性を検討することである。
【0075】
方法
HA-Gelとその未架橋中間体(int−HAD)は、0.05mL/kg/関節の用量で雄性ウサギの左右の両膝関節腔内に投与された(HA-Gelとint−HADの濃度は1%)。動物は投与後1、3、5、7、14および28日に解剖し、関節液と滑膜を回収した。残存する架橋ヒアルロン酸ゲルの架橋剤であるトランス桂皮酸(tCA)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量し、HA-Gelとint−HADの残存率を計算した。
【0076】
結果
残存率は、HPLCによる測定値から算出した。
外的に関節腔内に投与されたヒアルロン酸の代謝動態については、一般的に、ヒアルロン酸は徐々に関節液から滑膜に移動することが知られている。
HA-Gelの大部分は7日以内に関節液から消失したが、投与後28日まで滑膜に残存していた。HA-Gelとint−HADとの残存率を比較すると、投与後、1、3および5日の関節液においてHA-Gelの方が有意に高いレベルで検出された(図8)。図8によると、HA-Gelは投与後3日において、投与したHA-Gelの約15%が関節液に残存していた。しかし、滑膜においては、架橋ヒアルロン酸ゲルの残存率は、7、14および28日においても有意に高いままであった(図9)。
【0077】
結論
未架橋ヒアルロン酸と比較して、注入されたHA-Gelは、関節液および滑膜に長期間残存した。一方、未架橋ヒアルロン酸は、関節液から速やかに拡散し、滑膜での残存も僅かであった。つまり、HA-Gelは、int−HAと比較すると緩やかに関節液から滑膜へ移行し徐々に代謝されるため、関節(すなわち、投与部位)において長期間残存することができる。HA-Gelの増大した滞留性は、優位な軟骨保護効果と持続的鎮痛効果に寄与している可能性がある。
【0078】
実施例6:ウサギにおけるパパイン誘発関節炎に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入の効果
この実験に用いたウサギのパパイン誘発関節炎モデルは、ウサギの膝関節腔へのパパイン(パパイヤに含まれるシステインプロテアーゼ)注入により起こる変形性関節症(OA)モデルとして認知されている。
この実験の目的は、パパイン誘発関節炎モデルにおけるHA-Gelの効果を検討することである。この実験は2回行った。
【0079】
ウサギ(21週齢、雄性)をケタミン全身麻酔下(1mL/匹、i.v.)で背臥位で固定し、左後肢の膝関節周囲を電気バリカンで毛刈りした。膝関節の注入部位を70%エタノールとイソジン(登録商標)で消毒した。
【0080】
その後、0.8%パパイン溶液を500μL/関節の用量で、2回(3日間隔で)左後肢膝関節腔内に投与した。
計20匹のウサギを、各群5匹で、実験に用いた。パパイン溶液は、注入直前にL−システインにより活性化した。
パパインの2回目の注入から1週間後、試験物質(HA-Gelまたはリン酸緩衝生理食塩液(PBS))150μLを各々、週1回で3週間、左後肢の膝関節腔内に投与した。
【0081】
全ての動物は、試験物質の最終投与後1週に解剖した。左膝関節を採取し、関節液と滑膜を左膝関節から回収した。
左膝関節は、形態学的検査、滑膜と関節軟骨の病理組織学的検査、関節液量および蛋白量により評価した。組織病理学的検査においては、ホルマリン固定された滑膜からパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色とアルシアンブルー染色を行った。EDTA脱灰とサフラニンO染色の後、軟骨の状態を大腿骨顆と脛骨プラトーにおいて観察した。
【0082】
形態学的評価において、変性の重症度は実施例1と同じ基準でスコア化した(図10および11)。架橋ヒアルロン酸ゲルは、PBSと比較し軟骨変性を軽減させた。しかし、その効果は有意では無かった。動物数が十分でなかったと考えられる。
軟骨の病理組織学的検査においては、HA-Gelは、軟骨マトリックスの変性、軟骨細胞の減少、及びサフラニンO染色性の低下を軽減した。
【0083】
この実験に用いたHA-Gelは、PBSと比較して軟骨変性を抑制した。
この実験に用いた架橋ヒアルロン酸ゲルの架橋点は、それぞれ1.72%(図10)と2.06%(図11)であり、他の実験で使用したHA-Gelより低かった。架橋点の度合いは、関節疼痛と軟骨変性の改善における有意な効果を達成するために重要であると考えられる。
【0084】
産業上の利用可能性
これら実施例によると、HA-Gelの単回若しくは2回(2週間隔)の関節内注入は、膝OA治療に対して、HA−Naの5回投与と同等若しくはそれ以上の効果が実証された。また、HA-Gelは、NSAIDsの評価に用いられる動物モデルにおける治療効果も有することが確認された。
【0085】
HA-Gelを膝関節腔に注入した時、大部分のHA-Gelは7日以内に関節液から消失した。しかし、投与後28日まで滑膜に残存していた。滑膜におけるヒアルロン酸濃度が鎮痛効果と関連していると考えられているため、HA-Gelの滞留時間を延ばすことは持続的鎮痛効果に寄与しうる。更に、HA-Gelは、HA−Na溶液よりも高い粘弾性を有しているため、OAにおける疼痛抑制や関節機能の改善に寄与する良好な衝撃吸収剤として期待される。
【0086】
単回投与による持続的効果、1クールの治療における投与回数の減少、および関節内投与の際の感染リスクの軽減というメリットを有する関節疾患治療剤が提供される。その結果、関節疾患を煩っている患者のストレスを軽減することが出来る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、1回の注射により、持続的鎮痛効果、長い間の軟骨の保護効果および抗炎症効果を有する医薬に関する。
【0002】
背景技術
変形性関節症(OA)、即ち、関節疼痛と関節変性により起こる機能障害の臨床症候群、は他の関節疾患よりも多くの人々を煩わしている。変形性関節症は、米国や全世界において最も一般的な関節疾患であり、年輩者における身体障害の原因の主要な1つである。膝OAは一般的であるが、しばしば、初期治療が困難な問題である。従来の生活スタイルの改善、理学療法および薬物療法から成る伝統的な非外科的処置はしばしば、効果が無く、又は、症状が残ることがある。現在、膝OA患者の臨床における治療方法に、ヒアルロン酸溶液の関節内投与製剤(以下、IA−HAとも言う)がある。ヒアルロン酸ナトリウムは細胞外マトリックスの構成要素として自然に分泌されており、ヒアルロン酸の関節内投与は、潤滑剤および衝撃吸収剤として働き、OAにおいて鎮痛作用と膝機能の改善作用を示す。現在、米国において市販のIA-HA製剤としては5つ、スパルツ(SUPARTZ(登録商標))、シンヴィスク(SYNVISC(登録商標))、ヒアルガン(HYALGAN(登録商標))、オルトビスク(ORTHOVISC(登録商標))およびユーフレクサ(EUFLEXXA)がある。シンヴィスク(SYNVISC(登録商標))は米国で初めて上市されたIA-HA製剤であり、唯一架橋ヒアルロン酸誘導体の水溶液であるが、他はヒアルロン酸ナトリウム水溶液(以下、HA−Naとも言う)である。これら市販のIA-HA製剤は、効果に明らかな違いはない。また、これらは3〜5回投与を一連とする用法であり、言い換えると、1回の注射により、長い期間の効果は得られない。そのため、より少ない投与にて、侵襲性や関節感染のリスクが軽減され、1回の注射により、長い期間の効果が得られる、新たなIA-HA製剤が期待されている。
【0003】
今まで、SYNVISC(登録商標)とは異なる架橋方法である架橋ヒアルロン酸について多くの報告がされている。例えば、架橋基として多官能性エポキシ化合物を用いて架橋させた架橋ヒアルロン酸(特許文献1参照)、光架橋ヒアルロン酸(特許文献2〜4参照)や、架橋基を用いない分子内架橋ヒアルロン酸(特許文献5参照)などが報告されている。架橋ヒアルロン酸は、従来の非薬物療法や簡単な鎮痛剤、例えば、アセトアミノフェン、による改善が十分に見られない患者における膝の変形性関節症に関連し発生する痛みの低侵襲的処置として検討されてきている。例えば、架橋又は未架橋ヒアルロン酸誘導体ゲルとリン脂質とからなる薬剤を用いることにより、投与回数が減少するという利点を奏するように改良された関節疾患治療用注射剤が報告されている(特許文献6参照)。
【0004】
しかしながら、光架橋ヒアルロン酸生成物に関する報告の多くは、主に、当該生成物の合成や一般的な性状についてであり、当該架橋ヒアルロン酸生成物における、ある特異な効果および特異的用途のために有用で限定的な条件や性状について深く考察し言及した報告はされていない。また、SYNVISC(登録商標)と光架橋ヒアルロン酸とにおける抗原性および刺激性の比較は、参考文献(非特許文献1参照)に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−74571号
【特許文献2】米国特許第5462976号
【特許文献3】米国特許第5763504号
【特許文献4】米国特許第6031017号
【特許文献5】特開2003−252905号
【特許文献6】特開2002−348243号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Evaluation of in vivo biocompatibility and biodegradation of photocrosslinked hyaluronate hydrogels" J. Biomed. Mater. Res. A 70:550−559(2004)
【0007】
発明の要旨
発明の開示
本発明は、製剤の効果が継続しないまたは数週間持続しないという従来のIA−HA製剤の問題点を解消するために開発された。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、架橋点が0.6%〜15%の割合で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する鎮痛効果または長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[2]架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋基の導入率が、架橋ヒアルロン酸誘導体の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%である[1]記載の注射溶液。
[3]架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である[1]記載の注射溶液。
[4]架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、かつ、架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成ることを特徴とする関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[5]架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%であり、かつ、架橋点が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成ることを特徴とする関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
[6]該架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が、溶液の総量に対し、0.5重量%〜3.0重量%である[1]〜[5]の何れかに記載の注射溶液。
[7]架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が約1重量%で、当該溶液の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存量が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である[1]〜[6]の何れかに記載の注射溶液。
[8]鎮痛効果が、投与部位に溶液を投与後、2週間またはそれ以上継続または持続するものである[1]〜[6]の何れかに記載の注射溶液。
[9]単位投薬量の剤型であるの架橋ヒアルロン酸誘導体からなり、当該単位投薬量が1回の投与において、1kgあたり架橋ヒアルロン酸誘導体0.3mg〜1.2mgの量である[1]記載の注射溶液。
[10]架橋ヒアルロン酸誘導体が以下の特性を有するものであり、架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液濃度が0.7重量%〜2.0重量%である[1]記載の注射剤。
ヒアルロン酸の重量平均分子量が、500,000〜2,500,000であり、
架橋基がケイ皮酸またはケイ皮酸誘導体の残基であり、
スペーサーがアミノアルキルアルコールの残基であり、
架橋基の導入率が10%〜25%であり、そして
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が10%〜30%である。
【0009】
[11]ヒアルロン酸のカルボキシル基の一部が架橋基により互いに架橋し、アミド結合を介する架橋を形成している架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とからなり、かつ、持続的鎮痛効果を有する関節疾患を治療するための関節内投与用医薬組成物。
[12]ヒアルロン酸が、アミノ基を有する架橋基への光照射による光二量化反応または光重合化反応によって架橋することにより架橋ヒアルロン酸誘導体を形成し、かつ、ヒアルロン酸のカルボキシル基が架橋基のアミノ基と結合しているものである[11]記載の組成物。
[13]ヒアルロン酸のカルボキシル基が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋したものである[11]または[12]記載の組成物。
[14]鎮痛効果が、投与部位に当該組成物を投与後、2週間またはそれ以上継続または持続するものである[11]〜[13]の何れかに記載の組成物。
[15]架橋ヒアルロン酸誘導体溶液の濃度が約1重量%である組成物の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存率が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である[11]〜[14]のいずれかに記載の組成物。
【0010】
[16]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する鎮痛効果または長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる関節疼痛を緩和するための鎮痛組成物。
[17]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する抑制効果または長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる軟骨変性を抑制するための組成物。
[18]ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に継続する抑制効果または長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患に起因する滑膜の炎症抑制用組成物。
【0011】
[19]関節疾患が変形性関節症である、[16]〜[18]の何れかに記載の組成物。
[20]関節疾患が外傷性関節疾患である[19]に記載の組成物。
[21][1]〜[20]の何れかに記載の注射溶液または組成物を充填した注射器から成るキット。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ウサギ前十字靱帯(ACL)切断に関する実験:肉眼的形態学的評価、を示すグラフである。
【図2】図2は、ウサギACL切断に関する実験における、大腿骨顆の組織学的所見(サフラニンO/ファストグリーン)である。 図2Aは、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)群からの代表例である。 図2Bは、1%ヒアルロン酸ナトリウム溶液(1%HA−Na)群からの代表例である。 図2Cは、1回注射架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)群からの代表例である。 図2Dは、2回注射HA-Gelからの代表例である。
【図3】図3は、ラットのブラジキニン誘発関節疼痛モデルにおける、HA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Aは、ブラジキニン注射の1週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Bは、ブラジキニン注射の2週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。 図3Cは、ブラジキニン注射の4週間前に関節内投与されたHA-Gelの鎮痛効果を示すグラフである。
【図4】図4は、硝酸銀誘発関節疼痛モデルにおける、PBS、HA-Gelあるいは1%HA−Na処置群の荷重負荷率を示すグラフである。
【図5】図5は、硝酸銀誘発関節疼痛モデルにおける、PBS、HA-Gelあるいは1%HA−Na処置群の疼痛スコアを示すグラフである。
【図6】図6は、尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデルにおける、異常歩行スコアの変化を示すグラフである。
【図7】図7は、尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデルにおける、異常歩行スコアの変化を示すグラフである。
【図8】図8は、膝関節液中におけるHA-Gelの残存率を示すグラフである。
【図9】図9は、膝滑膜におけるHA-Gelの残存率を示すグラフである。
【図10】図10は、パパイン誘発関節炎モデルにおける、架橋ヒアルロン酸ゲルとPBSとの肉眼的形態学的評価を示すグラフである。
【図11】図11は、パパイン誘発関節炎モデルにおける、架橋ヒアルロン酸ゲルとPBSとの肉眼的形態学的評価を示すグラフである。
【0013】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を発明の実施の形態および方法により詳説する。それらの詳細な説明は、ここに開示され、かつ請求された発明の例示のみを意図したものであり、添付した請求の範囲に特に指摘し、かつ明瞭にクレームされた本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
なお、本明細書において、「変形性関節症」を「OA」、「ヒアルロン酸」を「HA」、「ヒアルロン酸ナトリウム」を「HA−Na」とも言う。また、スペーサーとして用いられる化合物を、「スペーサー化合物」とも言う。
【0014】
本発明に用いられる架橋ヒアルロン酸誘導体または架橋ヒアルロン酸化合物(以下、架橋HA誘導体ともいう)は、HAに共有結合にて結合している架橋基によりヒアルロン酸分子内又はヒアルロン酸鎖間において形成された架橋構造を有している。当該架橋構造の存在により、架橋HA誘導体は三次元網目構造を構成しており、当該架橋HA誘導体を水性媒体に溶解させた溶液は粘弾性のハイドロゲルの物理的性質を有している。この溶液は、同濃度のHA水溶液よりも高粘度である。
架橋HA誘導体は、塩を形成しない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成していても何れでもよい。例えば、架橋HA誘導体の薬学的に許容されうる塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を含む。
【0015】
本発明に用いられるヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とがβ1,3結合にて結合してなる二糖単位を基本骨格として、当該二糖単位がβ1,4結合することにより繰り返し構造を形成しているグリコサミノグリカン、つまり、通常用いられるヒアルロン酸(HA)であれば特に限定されない。
【0016】
使用されるHAは、塩を形成しない遊離状態であっても、薬学的に許容されうる塩を形成していても構わない。HAの薬学的に許容されうる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属イオン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属イオン塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、ジエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、アミノ酸等の有機塩基との塩が挙げられる。HAの塩は、生体親和性の面から、特にアルカリ金属イオンとの塩が好ましく、中でも、ナトリウムイオンとの塩がとりわけ好ましい。
【0017】
使用されるHAの由来は生体の一部(鶏冠、臍帯、軟骨および皮膚など)から抽出することにより得られる天然物由来でもよい。また、化学的に合成されたものや、遺伝子工学的手法により酵母等の微生物に生産させたものであっても良い。特に、高純度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まないHAが好ましく用いられる。
HAの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、10,000〜5,000,000が例示される。好ましくは200,000〜3,000,000であり、より好ましくは500,000〜2,500,000が例示される。
【0018】
本発明に用いられる架橋形式としては、結合安定性に優れた共有結合による架橋形式が好ましい。
本発明に用いられる架橋基としては光反応性架橋基(即ち、光反応性残基を有する架橋基)が好ましく挙げられ、当該光反応性架橋基は、光(紫外線)照射によって光二量化反応又は光重合反応を生じる化合物の残基が選択される。その様な化合物残基としては、例えば、桂皮酸、置換桂皮酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸、クマリン、チミン等の残基が挙げられる。それらの化合物の中でも、光照射によりシクロブタン環を形成可能なビニレン基を有する化合物が好ましく、光反応性の効率や生体の安全性の面から、桂皮酸又は置換桂皮酸がより好ましい。
【0019】
置換桂皮酸の例としては、桂皮酸のベンゼン環上の任意の1又は2個の水素が、炭素原子数1〜8の低級アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチルなど)、炭素原子数1〜8の低級アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシなど)、アミノ基、水酸基等で置換された桂皮酸誘導体が挙げられるが、アミノ桂皮酸やp−アミノ桂皮酸がより好ましい。
【0020】
本発明に用いられる架橋HA誘導体は、投与部位における長期継続または長期持続効果を助ける、pH、イオン強度、温度等の生体内の代謝環境に適当な抵抗を有することが必要である。アミド結合であることが好ましく、それによりHAのカルボキシル基に架橋基となる化合物の残基が導入される。なぜなら、アミド結合は、酸性またはアルカリ性条件において、加水分解に対し、より良好な耐性を有するからである。
【0021】
上述したような光反応性架橋基は、スペーサーと呼ばれるアミノ基を有する化合物の残基を介して、HAのカルボキシル基へ導入されてもよい。また、このスペーサーを介して光反応性架橋基を結合させることにより、架橋基とHAの反応の促進や光架橋反応の向上といったメリットも得られる。
【0022】
本発明において、スペーサーとして使用される化合物としては、少なくとも1つのアミノ基と光反応性架橋基と結合可能な官能基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、アミノアルキルアルコール、ジアミン、アミノ酸およびペプチド等が好ましいものとして挙げられる。架橋HA誘導体の関節内投与における所望の代謝分解への抵抗性および物性の適度な保持を考慮すると、スペーサーとなる化合物としては、炭素原子数2〜18のアミノアルキルアルコールが好ましく、炭素原子数2〜12のアミノアルキルアルコールがより好ましい。更に、架橋反応においてHAと光反応性架橋基との距離が適当となることから、アミノペンタノール、アミノブタノール、アミノプロパノールおよびアミノエタノールが更に好ましく例示される。
【0023】
なお、特に断らない限り、本件明細書において、「架橋基」とは、スペーサー化合物の残基に導入された架橋基をも包含し、従って、「光反応性架橋基」とは、スペーサー化合物の残基に導入された光反応性架橋基も包含する。また、架橋構造を形成している架橋基を場合によっては架橋基と呼び、架橋していない架橋基を場合によっては架橋し得る基と呼ぶ。
【0024】
本発明の架橋HA誘導体の合成方法は、架橋基となる化合物とHAとをアミド結合により化学的に結合させうる方法であれば特に限定されない。例えば、水溶性カルボジイミド(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエンスルホン酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド塩酸塩等の水溶性の縮合剤を使用する方法、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)およびN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等の縮合補助剤と上記の縮合剤とを使用する方法、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)等の縮合剤を用いる方法、活性エステル法、酸無水物法などが挙げられる。さらに、架橋基としてスペーサー導入架橋基を用いる場合には、スペーサー化合物を予めHAに導入し、次いで、架橋基をスペーサー結合HAに導入する方法か、またはスペーサーを予め架橋基に導入し、次いで、スペーサー結合架橋基をHAに導入する方法が挙げられる。
【0025】
なお、ここにおいて、説明を簡略化するために、上記方法によって生成した、未だ架橋構造を有さない架橋基が結合したHA誘導体を、未架橋体又は未架橋化合物とも言う。
未架橋体を架橋させる方法は、架橋基間での反応により架橋構造を形成できる方法であれば、特に限定されない。
【0026】
例えば、光架橋基を導入した未架橋体の場合には、当該未架橋体の均一な溶液に、光照射を行うのが好適である。
しかしながら、HAそれ自体は水性溶媒に良い溶解性を示す化合物であるが、親水性に関与している当該ヒアルロン酸が有するカルボキシル基にスペーサー化合物を導入したヒアルロン酸誘導体の場合には、導入率が増大するに従い、その親水性は減弱する。
【0027】
そのため、当該未架橋体の水性溶媒への溶解性を向上させるため、上記の未架橋体を合成する方法においては、アルカリ処理を行うことが好適である。
【0028】
アルカリ処理の方法は、溶液をアルカリにする方法であれば、特に限定されない。使用されるアルカリ剤としては、有機塩基又は無機塩基でも良い。溶液の取り扱いを考慮すると、無機アルカリ塩が好ましい。これらの無機アルカリ塩の中でも、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウム等の弱いアルカリ塩の方が、架橋基結合ヒアルロン酸誘導体の低分子量化や架橋基の分解に影響が少ないので、水酸化ナトリウム等の強いアルカリ塩よりもより好適に用いられる。ここで、アルカリ処理は、pH7.2〜11、より好ましくは7.5〜10で行うことが出来る。使用するアルカリの量や処理時間は、目的とする親水性に従って適宜コントロール出来る。例えば、炭酸水素ナトリウムを、ヒアルロン酸1gに対し500mg用いる場合(即ち、ヒアルロン酸のモル量の10倍以上のモル量)には、アルカリ処理を攪拌しながら2〜3時間行うことにより、十分に親水性が向上した未架橋化合物が得られる。上記方法により得られる未架橋誘導体の1.0重量%溶液は、0.45μmの孔径および25mmの直径の多孔質フィルターを24℃において、2mL/分以上の速度で5.0Kg/cm2の圧力下、通過することができる。
【0029】
未架橋体への光照射(photoirradiation)は、光反応性架橋基が効率的に光二量化又は光重合化反応を起こす条件で行われるのが好ましい。
【0030】
光照射には、ヒアルロン酸のグリコシド結合を切断せず、且つ、光反応性架橋基に光反応を生じさせる光であれば、光線の種類や波長等は特に限定されない。例えば、使用する架橋基として桂皮酸又は桂皮酸誘導体を用いた場合、波長200〜600nmの紫外線が好ましい。照射光の強度(インテグレーション)は、結果物の所望の性状、所望の導入率、未架橋体溶液の濃度等により、適宜選択できる。好ましい光照射装置としては、紫外ランプ、高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプ等を用いることが可能である。必要に応じ、不要な波長の光を光源から、例えば、カットフィルターなどで除去することが好ましい。
【0031】
本発明の架橋HA誘導体は、HAに共有結合にて結合している架橋基により分子内架橋又は分子間架橋によって形成された架橋構造を有している。当該架橋構造の存在により、架橋HA誘導体は三次元網目構造を構成しており、これにより、架橋HA誘導体の水溶液は、粘性と弾性からなる粘弾性のハイドロゲル物性を有する。この物性は、架橋基の導入率、架橋率、架橋反応の際の架橋可能化合物の溶液濃度などの数々の寄与因子により影響を受けている。そのため、これら因子を適当な範囲に設定することが重要である。
【0032】
これら好適な範囲は、所望する目的物の性状に従い適宜決定することができる。例えば、架橋基の導入率は、HAの構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%が好ましく、5%〜30%がより好ましく、10%〜25%が更により好ましい。架橋反応における好ましい反応溶液濃度は、溶液の総量に対し、0.5%〜10%であり、0.7%〜2%がより好ましい。また、架橋率は、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%が好ましく、7%〜35%がより好ましく、10%〜30%が更に好ましい。
【0033】
なお、導入率(DS)は、HAの構成二糖単位当たりの架橋基の導入の割合(%)で計算され、例えば、構成二糖単位当たり1個の架橋基を有する未架橋体のDS、又は、構成200糖単位当たり1個の架橋基を有する未架橋体のDSは、各々、100%と1%である。
【0034】
架橋率は、導入された架橋基のうち、架橋した架橋基の割合(%)を示している。例えば、100個の架橋基を有するHA誘導体において、20個の架橋基(モノマー)が二量化すれば、10個の二量体が生成し、架橋率は20%である。
【0035】
一般的に、溶媒(溶剤)に比べ溶質である架橋ヒアルロン酸誘導体が過量の場合や架橋ヒアルロン酸誘導体が過度の架橋構造を有すると、適度な流動性を有したハイドロゲル溶液には成りにくい。
【0036】
本発明の架橋HA誘導体は、注射針を付けた注射器を用いて関節内投与するために適度な流動性が必要である。一方、生体内代謝に対する適度な抵抗性と、投与部位へのふさわしい保持性も必要である。それゆえ、DSや架橋率があまりに低いものは好適ではない。結果的に、粘性と弾性のバランスが重要である。
【0037】
上記のような条件に従いデザインした架橋HA誘導体の溶液は、18ゲージ〜25ゲージの注射針を通過し、注入可能な溶液となり、関節内投与注射溶液として用いることが出来る。
【0038】
例えば、DSと架橋率との積であり、HAの構成二糖単位当たりの架橋基の二量体のモル割合(%)を示す架橋点の観点から、本発明の架橋HA誘導体は、HAの構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の範囲の架橋点が好ましく、1.0%〜7.5%の範囲の架橋点がより好ましい。
【0039】
後述の実施例で示すように、本発明の架橋HA誘導体は、一回の治療期間において、3〜5回の投与でなく、単回投与によって、より顕著な鎮痛効果を示す。また、HA水溶液より、長期間にわたり鎮痛効果を保持し、急性および慢性の疼痛両方に対して効果的でかつ長く継続しまたは長く持続する鎮痛効果を示す。また、単回投与で、長期間の滑膜炎症に対する抗炎症効果および軟骨の保護効果も得られる。
【0040】
本発明によれば、例えば、OA、外傷性関節炎、炎症性関節疾患、変形性関節疾患などのような関節疾患を治療するための関節内投与用の注入剤および医薬組成物を提供できる。当該注入剤は、有効成分として本発明の架橋ヒアルロン酸誘導体と薬学的に許容される担体とからなる注入剤であり、同様に、当該医薬組成物も、有効成分として本発明の架橋ヒアルロン酸誘導体と薬学的に許容される担体とからなる医薬組成物である。
薬学的に許容される担体としては、本発明の架橋HA誘導体の溶液に使用されるような水性媒体が例示される。例えば、注射用水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。また、本発明の注入剤および医薬組成物がその所望の治療効果を失わず、かつ副作用を生じない限り、pH調整剤および等張化剤等の注射剤に通常使用されている添加剤も受容可能である。例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、および塩化ナトリウムが挙げられる。
当該注入剤および当該医薬組成物は、市販のIA−HA製剤の現在の投与量(つまり、治療期間中、3〜5回投与)より、治療期間中、より少ない回数の投与量により十分に効果的である。
【0041】
また、必要に応じ、プランジャー、プランジャーロッドなどを備えた、本発明の架橋HA誘導体の溶液を充填した注射器から成るキットも提供可能である。
上記した方法と条件により製造される架橋HA誘導体は、注入溶液および医薬組成物として使用することができる。注入溶液または医薬組成物として使用される好ましい架橋HAは、架橋について以下のパラメータを有する;
架橋点が0.6%〜15%であり、導入率が3%〜50%である、
架橋点が0.6%〜15%であり、架橋率が5%〜40%である、
導入率が3%〜50%であり、架橋率が5%〜40%である、
架橋点が0.6%〜15%であり、導入率が3%〜50%であり、架橋率が5%〜40%である、または
架橋点が1%〜7.5%であり、導入率が10%〜25%であり、架橋率が10%〜30%である。
本発明の医薬製剤により治療される疾患は特に限定されず、関節疾患により生じる関節疼痛の緩和、関節疾患により生じる滑膜炎症の抑制、関節疾患により生じる軟骨変性の抑制、および、関節の可動域を改善する治療剤として用いることができる。また、上記疾患の治療だけでなく、予防としても用いることが出来る。
【0042】
注射溶液または医薬組成物の用量は特に限定されない。なぜならば、それらは、治療される患者の各症状、年齢、体重などに従い個々に決められるものであるため。
好ましくは、1回の投与において、HA誘導体として成人患者(50〜70kg)当たり15mg〜60mgの通常用量範囲が例示され、更には0.3mg〜1.2mgが例示される。更に、注射溶液のための薬剤の濃度は、好ましくは、溶液の総量に対し、0.5%〜3.0%、より好ましくは0.7%〜2.0%(架橋基結合HA誘導体)が例示される。注射溶液の用法としては、1回の治療において1回の注射または2回の注射が例示される。医薬組成物の注射可能な形態も同様である。
【0043】
本発明の注射溶液および医薬組成物の注射しうる形態の最も望ましい1つの態様としては、以下の構成が例示される。
架橋HA誘導体の性質は、以下のとおりである。
HAの重量平均分子量:500,000〜2,500,000
架橋基の化合物:桂皮酸又は桂皮酸誘導体
スペーサー化合物: アミノアルキルアルコール、より好ましくはアミノペンタノール、アミノブタノール、アミノプロパノールまたはアミノエタノール、
架橋基のDS:10%〜25%、および
架橋率:10%〜30%
溶媒:生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または注射用水
架橋HA誘導体溶液濃度:0.7%〜2.0%
水溶液の性状:同じ濃度のHA溶液より、高い粘弾性と高い曳糸性を有し、24℃で0.2ml/秒の速度で注射針から押し出した場合に、18から25ゲージの注射針を通過できる。
【0044】
なお、架橋点としては、好ましくは1.0%〜7.5%が例示される。また、適度な流動性を有しており、例えば、架橋HA誘導体ゲルの1重量%(架橋基結合HAとして)のものは、水平方向から45°下方向へ24℃で0.2ml/秒の速度で注射針から押し出した場合に、23ゲージの注射針の開口端から切断することなく3cm以上の長さを有する連続した曳糸を形成することが可能である。
本願発明において、架橋HA誘導体から成るハイドロゲル状態の溶液は、例えば、米国特許第6,602,859号に記載されており、当該米国特許の内容は参照として本願に取り入れられる。
【0045】
実施例
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。
【0046】
<合成例>
重量平均分子量90万のヒアルロン酸ナトリウム400mg(生化学工業株式会社製)と、水とジオキサンを含む混合溶液とを、攪拌しながら混ぜ合わせた。得られた混合溶液にN−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)34mg/水1ml(0.6当量/HA二糖単位(mol/mol))、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)29mg/水1ml(0.3当量/HA二糖単位(mol/mol))および桂皮酸4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル塩酸塩51mg/水1ml(0.3当量/HA二糖単位(mol/mol))を室温で順次混合した。得られた混合溶液を3時間攪拌した。得られた混合溶液に炭酸水素ナトリウム200mg/水3mlを更に混合し、2時間攪拌し、次いで、塩化ナトリウム400mgを混合した。エタノールを加え、沈殿を得た。次いで、得られた沈殿を80%エタノール(vol/vol)とエタノールで洗浄し、室温にて一晩乾燥させ、360mgの白色固体桂皮酸(4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル結合ヒアルロン酸;「桂皮酸4−(6−アミノヘキサンアミド)エチル結合ヒアルロン酸」を、以下、単にint−HAD1と言う)を得た。
【0047】
更に、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、EDCI・HClおよび桂皮酸誘導体の当量を下記のように変えた以外は上記と同様の手順にて、異なる導入割合(導入率)をもったint−HADを得た。
(int−HAD2)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸3−アミノプロピル塩酸塩は各々、0.2、0.10および0.10mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD3)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸4−アミノブチル塩酸塩は各々、1.0、0.5および0.5mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD4)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸5−アミノペンチル塩酸塩は各々1.4、0.7および0.7mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD5)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸8−アミノオクチル塩酸塩は各々0.6、0.3および0.3mol/molHA二糖単位当たり。
(int−HAD6)HOSu、EDCI・HClと桂皮酸3−アミノプロピル塩酸塩は各々0.2、0.10および0.10mol/mol/HA二糖単位当たり。桂皮酸3−アミノプロピルエステルの導入率はint−HAD2より低いが、int−HAD6はint−HAD2と同じ方法で調製した。
【0048】
その後、上記で得られた桂皮酸誘導体導入ヒアルロン酸(int−HAD1〜6)は、各々、5mMリン酸緩衝生理食塩水に溶解させ、得られた溶液の濃度がヒアルロン酸として1重量%となるようにした。
得られた水溶液を、各々、20〜40分間、紫外線照射を行った。これらの溶液は、紫外線照射によりゲル(ヒドロゲル)に変化した。以下、得られたゲルを、架橋ヒアルロン酸ゲルと言う。
【0049】
以下の実施例における「架橋ヒアルロン酸ゲル」(以下、場合によってはHA-Gelとも言う)は、上記合成例により調製したint−HADの1.0%溶液に紫外線照射したゲルである。以下の実施例における1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)としては、生化学工業株式会社製のSUPARTZ(商品名)を用いた(以下、場合によってはHA−Naとも言う)。
架橋ヒアルロン酸ゲルと1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)は、両方とも鶏冠由来のヒアルロン酸を用いて製造されている。
【0050】
実施例1:ウサギ前十字靱帯(ACL)切断による関節炎に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入の効果
目的
本実験に用いたウサギACL切断モデルは、ヒトにおいてOA類似の軟骨変性を引き起こす関節炎モデルとして認められている。それ故、このモデルはしばしば、ヒアルロン酸製剤(SUPARTZ(登録商標),HYALGAN(登録商標),HEALON(登録商標),SYNVISC(登録商標))の評価に用いられている。
本実験の目的は、ACL切断モデルにおけるHA-Gelの効果を検討することである。
【0051】
方法
片側のACLを切断することにより48匹の雄性ウサギに実験的変形性関節症(OA)を誘発させた。ACL切断後4週に、HA-Gelを1回又は2回(2週間感覚)、左後肢膝関節腔内に0.05mL/kg/関節の用量で投与した。その効果は、PBSあるいは1%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1%HA−Na)の5週間、週1回の繰り返し投与による効果と比較した。全ての動物をACL切断から9週に解剖した。左膝関節を採取し、軟骨変性の形態学的評価、滑膜炎の指標として、関節液量、蛋白量、関節液中の浸潤細胞数とグリコサミノグリカン量、及び軟骨と滑膜の病理組織学的な検討として大腿骨顆のサフラニンO染色により評価した。
注入量はすべての試験物質において同じとした。
【0052】
結果
形態学的評価において、各動物の2箇所(大腿骨顆と脛骨プラトー)における変化を評価した。各群合計24箇所を以下の基準に従いグレード化した。
グレード1:表面変化なし(インディアンインクにより染色されず)
グレード2:僅かな細繊維化(表面は細長い傷状にインクが保持される)
グレード3:明白な細繊維化
グレード4:侵食(軟骨が欠損し、下骨が露出)
4a:長さ0mm〜2mm以下の侵食
4b:長さ2mmより長く、5mm以下の侵食
4c:長さ5mmより長い侵食
4d:長さ5mmx幅2mmより大きい侵食(長さx幅、mm)
【0053】
形態学的評価において、HA-Gel群の軟骨変性は、1%HA−Na群と比較して抑制された(図1)。実際、HA-Gelの1回又は2回注入群両方において、関節軟骨の変性は、PBSの5週間注入された対照群と比較し有意に低かった。更に、注入回数を考慮すると、HA-Gelは1%HA−Naに比べて明らかに関節軟骨の変性を減弱させていた。対照的に、1%HA−Naの投与は、PBSと比較して軟骨変性を減弱したが、その効果は有意ではなかった。試験物質間の重症度の比較では、PBS>1%HA−Na>HA-Gelの1回注入>HA-Gelの2回注入の順であった。HA-Gelの軟骨変性抑制に対する効果は、関節液中のコンドロイチン6硫酸(CS−6S)の増加の抑制によっても実証された。更に、HA-Gelは、関節液、蛋白およびコンドロイチン4硫酸(CS−4S)量の増加抑制から判断して、滑膜炎の症状も改善させた。
【0054】
更に、関節液中のCS−6Sは軟骨由来であり、関節液中のCS−4Sは滑膜の炎症により血管から放出されたものであると報告されている。言い換えると、CS−6Sの増加の減少は軟骨変性抑制を示しており、CS−4Sの増加の減少は滑膜の炎症抑制を示している。
図2において、(A)は、PBS群からの代表例であり、(B)は、1%HA−Na群からの代表例であり、(C)は、1回注入HA-Gel群からの代表例であり、そして(D)は、2回注入HA-Gel群からの代表例である(オリジナル倍率x40)。
サフラニンO染色は、軟骨中のグリコサミノグリカン(GAG)量を示す(GAG:赤、骨およびコラーゲン繊維:緑)。
【0055】
以下の観察を行い、スコア化した。軟骨基質のサフラニンO染色性の消失/低下の範囲、軟骨基質における裂隙形成、軟骨基質における細繊維化、軟骨の欠損、軟骨細胞数の増加、軟骨細胞数の減少、軟骨下骨の再構築像、軟骨基質における血管侵入。試験物質間の重症度の比較では、以下の順であった。PBS>1%HA−Na>HA-Gelの1回注入>HA-Gelの2回注入。
【0056】
総括すると、滑膜炎が重篤でない時は軟骨変性は軽度であることから、HA-Gelにより起こるこれら変化は、病態の進行を軽減するのに効果的に相互作用している可能性がある。関節軟骨の病理組織学的な所見は、肉眼での観察結果を支持している(図2)。滑膜の病理組織学的観察において、滑膜上皮細胞の立方化/重層化、上皮下の細胞浸潤、上皮下の線維化/浮腫、上皮下出血および上皮下カルシウム沈着は、全ての試験群において観察された。これらの変化はPBS群と比較して、HA-Gel群の方が重症度が低かった。
【0057】
結論
これらのデータは、ウサギACL切断OAモデルにおいて、HA-Gelの1回又は2回(2週間の間隔)の投与が滑膜炎と軟骨変性の両方を抑制することを実証している。
【0058】
実施例2:ラットにおけるブラジキニン誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入による効果
目的
この実験の関節疼痛モデルは、ラットの関節腔内へPGE2(痛みの増強物質)と共にブラジキニン(内因性の強力な疼痛物質)を注射することによって誘発される局所疼痛モデルである。このモデルは「足上げ」、「跛行」および「三足歩行」のような歩行における関節疼痛の行動発現に基づいてヒアルロン酸製剤の鎮痛効果を評価するのに用いられている。このモデルにより評価される鎮痛効果は滑膜組織におけるヒアルロン酸の濃度と関係していると報告されている。
この実験の目的は、1%HA−NaおよびPBSと比較して、HA-Gelの長期的な鎮痛効果をラットのブラジキニン誘発関節疼痛において検討することである。
【0059】
方法
試験物質を0.05mL/関節の用量で雌性ラットの左後肢の膝関節腔内に注入した。投与後1、2および4週に、ブラジキニン溶液とPGE2との混合液を同じ関節に注入し、関節疼痛を誘発した。1%HA−Naは、通常の投与において1週間に1回毎の再注入を必要としているため、1週間でのみ評価した。ブラジキニンの注入後約2分間、ブラインド条件下で動物の歩行状態を観察し、疼痛の重症度を5点スケールでスコア化した(表1)。
【0060】
表1:ブラジキニン誘発関節疼痛モデル:疼痛評価スコアの基準
【表1】
【0061】
結果
HA-Gelは投与後1、2および4週の時点で対照群と比較し、ブラジキニン誘発による疼痛反応を有意に抑制した(図3)。HA-Gelの鎮痛効果は、1週において1%HA−Naによる鎮痛効果よりも非常に顕著であった。
【0062】
結論
HA-Gelの関節腔内投与は、ブラジキニン誘発関節疼痛に対して、PBSや陽性対照として用いた1%HA−Naよりより有効であった。対照と比較して、HA-Gelは少なくとも4週間に渡る持続的な鎮痛効果をもたらした。
【0063】
実施例3:ラットにおける硝酸銀誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節腔内注入による効果
目的
この実験の目的は、ラットにおける硝酸銀誘発関節疼痛に対するHA-Gelの鎮痛効果を検討することである。このモデルは一般的に多くの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の鎮痛効果の評価に用いられている。
【0064】
方法
1%硝酸銀水溶液を、0.05mL/関節の用量で42匹の雄性ラットの左後肢膝関節腔内に注入した。注入後24時間に、炎症足への荷重負荷と歩行時の疼痛スコアによって、動物を各グループに割り付けた。疼痛の重症度は、以下の4点スコアに従いスコア化した。0ポイント:正常またはほぼ正常、1:軽度の跛行、2:重度の跛行、3:三足歩行。荷重負荷は、荷重運動鎮痛測定装置(株)トッケン製)で測定した。HA-Gel、1%HA−NaあるいはPBSは、0.05mL/関節の用量で投与した。投与後1、2および3日に、炎症足への荷重と疼痛スコアを上記と同様の方法で評価した。評価項目は、荷重負荷率(%)(=炎症足への荷重(g)/体重(g)×100)および歩行時の疼痛スコアとした。
【0065】
結果
試験物質の投与後1〜3日の各時点において、炎症足への荷重負荷率は、PBSや1%HA−Naを投与された動物と比べて、HA-Gelを投与された動物で有意に高かった(図4)。更に、HA-Gelの疼痛スコアは、各測定時点において、PBSや1%HA−Naよりも低かった(図5)。
【0066】
結論
これらのデータは、関節腔内投与されたHA-Gelは、PBSや1%HA−Naよりも、炎症性関節疼痛に対してより有効であることを示している。
【0067】
実施例4:イヌにおける尿酸ナトリウム誘発関節疼痛に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の鎮痛効果
目的
ヒトにおいて、関節液中での尿酸ナトリウム(MSU)微結晶の堆積は、急性の炎症性関節疼痛を誘発する。MSU結晶の関節内注入により誘発される実験的関節疼痛モデルは、ヒアルロン酸ナトリウムや非ステロイド性抗炎症薬の鎮痛効果の評価に広く用いられている。
この実験の目的は、イヌにおけるMSUにより誘発される関節疼痛に対するHA-Gelの鎮痛効果を検討することである。
【0068】
方法
HA-Gel、生理食塩液あるいは1%HA−Naを、0.3mL/kg/関節の用量で雌性ビーグル犬の左後肢膝関節腔内に関節腔内投与した。炎症と激しい痛みを誘発する物質である尿酸ナトリウム(MSU)は、試験物質の投与後0.5時間あるいは72時間に同じ関節に注入された。MSUの注入後2、3、4、5、6および8時間に、関節疼痛の指標として、歩行状態をスコア化し、また、左後肢の荷重負荷率を算出した。時間曲線下面積(AUC)をこれら両指標について算出した。
【0069】
歩行を観察し、歩行の状態を以下の基準に従いスコア化した(異常歩行スコアとして示した);0:変化なし(正常歩行)、1:軽度(正常に立っているが、歩行は不自然)、2:中等度(四肢で立っているが、左後肢(注入部位)をしばしば上げる)、3:重度(歩行時、左後肢先端を地面に触れるのみ)及び4:非常に重度(左後肢に体重をかけることができない;3足歩行する)。また、3つの天秤を荷重負荷測定に用いた。天秤Aは、デジタルプラットフォームスケール(大和製衡株式会社製DP−6100GP)、天秤Bと天秤Cは、ロード−セルデジタルプラットフォームスケール(大和製衡株式会社製DP−6000)。前肢は天秤Aに、右後肢は天秤Bに、そして左後肢は天秤Cに置いた。3つの天秤の値は0.1kgの位まで記録した。荷重負荷率は以下の式によって計算した。
荷重負荷率=100xCの平均/(Aの平均+Bの平均+Cの平均)
【0070】
結果:
試験物質投与後0.5時間にMSUを注入する実験では、異常歩行スコアの平均AUCは、HA-Gel、生理食塩液、及び、1%HA−Naで、それぞれ0.0、28.0及び13.5であった(図6,表2)。
HA-Gelは完全な鎮痛効果を示し、処置された動物全例で痛みを伴った歩行状態は見られなかった。1%HA−Naも生理食塩液と比較して有意な鎮痛効果を示したが、その効果はHA-Gelの効果より有意に低かった。
試験物質投与後72時間にMSUを注入する実験では、異常歩行スコアのAUCは、HA-Gel、生理食塩液および1%HA−Naで、それぞれ1.5、27.6及び27.1であった(図7、表3)。HA-Gelは、依然、有意な鎮痛効果を示したが、一方、1%HA−Naの膝関節疼痛に対する効果はほぼ完全に減退した。
両実験において、左後肢の荷重負荷率の変化は、異常歩行スコアの変化と一致した。
【0071】
表2:尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデル:異常歩行スコアのAUC。
生理食塩液、HA-Gel及び1%HA−Naは、MSU注入の0.5時間前に関節内投与された。
【表2】
【0072】
表3:尿酸ナトリウム誘発関節疼痛モデル:異常歩行スコアのAUC。
生理食塩液、HA-Gel及び1%HA−Naは、MSU注入の72時間前に関節内投与された。
【表3】
【0073】
結論
HA-Gelの単回関節内投与は、MSU誘発膝関節疼痛を抑制することが確認された。HA-Gelの鎮痛効果は、1%HA-Naと比較して優位、かつより持続的であった。
【0074】
実施例5:ウサギの膝関節腔と滑膜における架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の残存率
目的
この実験の目的は、ウサギにおいて関節内投与されたHA-Gelの局所滞留性を検討することである。
【0075】
方法
HA-Gelとその未架橋中間体(int−HAD)は、0.05mL/kg/関節の用量で雄性ウサギの左右の両膝関節腔内に投与された(HA-Gelとint−HADの濃度は1%)。動物は投与後1、3、5、7、14および28日に解剖し、関節液と滑膜を回収した。残存する架橋ヒアルロン酸ゲルの架橋剤であるトランス桂皮酸(tCA)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量し、HA-Gelとint−HADの残存率を計算した。
【0076】
結果
残存率は、HPLCによる測定値から算出した。
外的に関節腔内に投与されたヒアルロン酸の代謝動態については、一般的に、ヒアルロン酸は徐々に関節液から滑膜に移動することが知られている。
HA-Gelの大部分は7日以内に関節液から消失したが、投与後28日まで滑膜に残存していた。HA-Gelとint−HADとの残存率を比較すると、投与後、1、3および5日の関節液においてHA-Gelの方が有意に高いレベルで検出された(図8)。図8によると、HA-Gelは投与後3日において、投与したHA-Gelの約15%が関節液に残存していた。しかし、滑膜においては、架橋ヒアルロン酸ゲルの残存率は、7、14および28日においても有意に高いままであった(図9)。
【0077】
結論
未架橋ヒアルロン酸と比較して、注入されたHA-Gelは、関節液および滑膜に長期間残存した。一方、未架橋ヒアルロン酸は、関節液から速やかに拡散し、滑膜での残存も僅かであった。つまり、HA-Gelは、int−HAと比較すると緩やかに関節液から滑膜へ移行し徐々に代謝されるため、関節(すなわち、投与部位)において長期間残存することができる。HA-Gelの増大した滞留性は、優位な軟骨保護効果と持続的鎮痛効果に寄与している可能性がある。
【0078】
実施例6:ウサギにおけるパパイン誘発関節炎に対する架橋ヒアルロン酸ゲル(HA-Gel)の関節内注入の効果
この実験に用いたウサギのパパイン誘発関節炎モデルは、ウサギの膝関節腔へのパパイン(パパイヤに含まれるシステインプロテアーゼ)注入により起こる変形性関節症(OA)モデルとして認知されている。
この実験の目的は、パパイン誘発関節炎モデルにおけるHA-Gelの効果を検討することである。この実験は2回行った。
【0079】
ウサギ(21週齢、雄性)をケタミン全身麻酔下(1mL/匹、i.v.)で背臥位で固定し、左後肢の膝関節周囲を電気バリカンで毛刈りした。膝関節の注入部位を70%エタノールとイソジン(登録商標)で消毒した。
【0080】
その後、0.8%パパイン溶液を500μL/関節の用量で、2回(3日間隔で)左後肢膝関節腔内に投与した。
計20匹のウサギを、各群5匹で、実験に用いた。パパイン溶液は、注入直前にL−システインにより活性化した。
パパインの2回目の注入から1週間後、試験物質(HA-Gelまたはリン酸緩衝生理食塩液(PBS))150μLを各々、週1回で3週間、左後肢の膝関節腔内に投与した。
【0081】
全ての動物は、試験物質の最終投与後1週に解剖した。左膝関節を採取し、関節液と滑膜を左膝関節から回収した。
左膝関節は、形態学的検査、滑膜と関節軟骨の病理組織学的検査、関節液量および蛋白量により評価した。組織病理学的検査においては、ホルマリン固定された滑膜からパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色とアルシアンブルー染色を行った。EDTA脱灰とサフラニンO染色の後、軟骨の状態を大腿骨顆と脛骨プラトーにおいて観察した。
【0082】
形態学的評価において、変性の重症度は実施例1と同じ基準でスコア化した(図10および11)。架橋ヒアルロン酸ゲルは、PBSと比較し軟骨変性を軽減させた。しかし、その効果は有意では無かった。動物数が十分でなかったと考えられる。
軟骨の病理組織学的検査においては、HA-Gelは、軟骨マトリックスの変性、軟骨細胞の減少、及びサフラニンO染色性の低下を軽減した。
【0083】
この実験に用いたHA-Gelは、PBSと比較して軟骨変性を抑制した。
この実験に用いた架橋ヒアルロン酸ゲルの架橋点は、それぞれ1.72%(図10)と2.06%(図11)であり、他の実験で使用したHA-Gelより低かった。架橋点の度合いは、関節疼痛と軟骨変性の改善における有意な効果を達成するために重要であると考えられる。
【0084】
産業上の利用可能性
これら実施例によると、HA-Gelの単回若しくは2回(2週間隔)の関節内注入は、膝OA治療に対して、HA−Naの5回投与と同等若しくはそれ以上の効果が実証された。また、HA-Gelは、NSAIDsの評価に用いられる動物モデルにおける治療効果も有することが確認された。
【0085】
HA-Gelを膝関節腔に注入した時、大部分のHA-Gelは7日以内に関節液から消失した。しかし、投与後28日まで滑膜に残存していた。滑膜におけるヒアルロン酸濃度が鎮痛効果と関連していると考えられているため、HA-Gelの滞留時間を延ばすことは持続的鎮痛効果に寄与しうる。更に、HA-Gelは、HA−Na溶液よりも高い粘弾性を有しているため、OAにおける疼痛抑制や関節機能の改善に寄与する良好な衝撃吸収剤として期待される。
【0086】
単回投与による持続的効果、1クールの治療における投与回数の減少、および関節内投与の際の感染リスクの軽減というメリットを有する関節疾患治療剤が提供される。その結果、関節疾患を煩っている患者のストレスを軽減することが出来る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、架橋点が0.6%〜15%の割合で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項2】
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋基の導入率が、架橋ヒアルロン酸誘導体の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%である請求項1記載の注射溶液。
【請求項3】
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である請求項1記載の注射溶液。
【請求項4】
架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、かつ、架橋率が構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項5】
架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、架橋率が構成架橋基の総数に対し、5%〜40%であり、かつ、架橋点が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項6】
架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が、溶液の総量に対し、0.5重量%〜3.0重量%である請求項1〜5の何れかに記載の注射溶液。
【請求項7】
架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が約1重量%で、当該溶液の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存量が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である請求項1〜6の何れかに記載の注射溶液。
【請求項8】
鎮痛効果が、投与部位に溶液を投与後、2週間またはそれ以上持続するものである請求項1〜6の何れかに記載の注射溶液。
【請求項9】
単位投薬量の剤型である架橋ヒアルロン酸誘導体からなり、当該単位投薬量が1回の投与において、1kgあたり架橋ヒアルロン酸誘導体0.3mg〜1.2mgの量である請求項1記載の注射溶液。
【請求項10】
架橋ヒアルロン酸誘導体が以下の特性を有するものであり、架橋ヒアルロン酸誘導体濃度が0.7重量%〜2.0重量%である請求項1記載の注射溶液。
ヒアルロン酸の重量平均分子量が、500,000〜2,500,000であり、
架橋基がケイ皮酸またはケイ皮酸誘導体の残基であり、
スペーサーがアミノアルキルアルコールの残基であり、
架橋基の導入率が10%〜25%であり、そして
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が10%〜30%である。
【請求項11】
ヒアルロン酸のカルボキシル基の一部が架橋基により互いに架橋し、アミド結合を介する架橋を形成している架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とからなり、かつ、持続的鎮痛効果を有する関節疾患を治療するための関節内投与用医薬組成物。
【請求項12】
ヒアルロン酸が、アミノ基を有する架橋基への光照射による光二量化反応または光重合化反応によって架橋することにより架橋ヒアルロン酸誘導体を形成し、かつ、ヒアルロン酸のカルボキシル基が架橋基のアミノ基と結合しているものである請求項11記載の組成物。
【請求項13】
ヒアルロン酸のカルボキシル基が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋したものである請求項11または12記載の組成物。
【請求項14】
鎮痛効果が、投与部位に当該組成物を投与後、2週間またはそれ以上持続するものである請求項11〜13の何れかに記載の組成物。
【請求項15】
架橋ヒアルロン酸誘導体溶液の濃度が約1重量%である組成物の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存率が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である請求項11〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる関節疼痛を緩和するための鎮痛組成物。
【請求項17】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる軟骨変性を抑制するための組成物。
【請求項18】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患に起因する滑膜の炎症抑制用組成物。
【請求項19】
関節疾患が変形性関節症である、請求項16〜18の何れかに記載の組成物。
【請求項20】
関節疾患が外傷性関節疾患である請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1〜20の何れかに記載の注射溶液または組成物を充填した注射器から成るキット。
【請求項1】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、架橋点が0.6%〜15%の割合で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項2】
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋基の導入率が、架橋ヒアルロン酸誘導体の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%である請求項1記載の注射溶液。
【請求項3】
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が、構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である請求項1記載の注射溶液。
【請求項4】
架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、かつ、架橋率が構成架橋基の総数に対し、5%〜40%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項5】
架橋基の導入率が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、3%〜50%であり、架橋率が構成架橋基の総数に対し、5%〜40%であり、かつ、架橋点が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%である架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患治療用の関節内投与のための注射溶液。
【請求項6】
架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が、溶液の総量に対し、0.5重量%〜3.0重量%である請求項1〜5の何れかに記載の注射溶液。
【請求項7】
架橋ヒアルロン酸誘導体の溶液の濃度が約1重量%で、当該溶液の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存量が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である請求項1〜6の何れかに記載の注射溶液。
【請求項8】
鎮痛効果が、投与部位に溶液を投与後、2週間またはそれ以上持続するものである請求項1〜6の何れかに記載の注射溶液。
【請求項9】
単位投薬量の剤型である架橋ヒアルロン酸誘導体からなり、当該単位投薬量が1回の投与において、1kgあたり架橋ヒアルロン酸誘導体0.3mg〜1.2mgの量である請求項1記載の注射溶液。
【請求項10】
架橋ヒアルロン酸誘導体が以下の特性を有するものであり、架橋ヒアルロン酸誘導体濃度が0.7重量%〜2.0重量%である請求項1記載の注射溶液。
ヒアルロン酸の重量平均分子量が、500,000〜2,500,000であり、
架橋基がケイ皮酸またはケイ皮酸誘導体の残基であり、
スペーサーがアミノアルキルアルコールの残基であり、
架橋基の導入率が10%〜25%であり、そして
架橋ヒアルロン酸誘導体の架橋率が10%〜30%である。
【請求項11】
ヒアルロン酸のカルボキシル基の一部が架橋基により互いに架橋し、アミド結合を介する架橋を形成している架橋ヒアルロン酸誘導体と薬理的に許容しうる担体とからなり、かつ、持続的鎮痛効果を有する関節疾患を治療するための関節内投与用医薬組成物。
【請求項12】
ヒアルロン酸が、アミノ基を有する架橋基への光照射による光二量化反応または光重合化反応によって架橋することにより架橋ヒアルロン酸誘導体を形成し、かつ、ヒアルロン酸のカルボキシル基が架橋基のアミノ基と結合しているものである請求項11記載の組成物。
【請求項13】
ヒアルロン酸のカルボキシル基が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋したものである請求項11または12記載の組成物。
【請求項14】
鎮痛効果が、投与部位に当該組成物を投与後、2週間またはそれ以上持続するものである請求項11〜13の何れかに記載の組成物。
【請求項15】
架橋ヒアルロン酸誘導体溶液の濃度が約1重量%である組成物の関節内投与後3日における架橋ヒアルロン酸誘導体の関節液中の残存率が、投与された架橋ヒアルロン酸誘導体に対し、15%以上である請求項11〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する鎮痛効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる関節疼痛を緩和するための鎮痛組成物。
【請求項17】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患により引き起こされる軟骨変性を抑制するための組成物。
【請求項18】
ヒアルロン酸の官能基の一部が、ヒアルロン酸の構成二糖単位の総数に対し、0.6%〜15%の架橋点で架橋基により架橋された架橋ヒアルロン酸誘導体を、活性成分として、長期に持続する抑制効果を示すような量で含有し、更に薬理的に許容しうる担体とから成る関節疾患に起因する滑膜の炎症抑制用組成物。
【請求項19】
関節疾患が変形性関節症である、請求項16〜18の何れかに記載の組成物。
【請求項20】
関節疾患が外傷性関節疾患である請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1〜20の何れかに記載の注射溶液または組成物を充填した注射器から成るキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−511596(P2010−511596A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524032(P2009−524032)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/JP2007/073987
【国際公開番号】WO2008/069348
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/JP2007/073987
【国際公開番号】WO2008/069348
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]