説明

防振壁

【課題】地盤中を伝播してくる振動あるいは騒音の低減を図ることができ、しかも地中防振壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期安定性を確保できるうえ、容易な施工方法により地中防振壁を構築することができる。
【解決手段】振動発生源となる地中構造物1と建物2との間にある地盤Gにおいて、その地中防振壁3を設置する充填部を地盤中に掘削し、その充填部に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトと水の混合物、又はベントナイトと骨材と水との混合物の材料を、充填部に充填することで地中防振壁3を構築するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中を伝播してくる振動あるいは騒音を低減するための防振壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道沿線の住民や大型プレス装置を稼動させている工場周辺住民にとって、地盤中を伝播してくる振動や騒音は振動公害、あるいは騒音公害となっている。そこで、振動発生源と住宅、病院、ホテルなどの建物との間の地盤中に防振溝を構築し、その溝部の空間を水で満たすことによって、水平方向へのせん断波の伝達を遮断することが行われていた。
また、地下鉄道が走行する際に発生する振動騒音が地盤中を伝播して建物に伝達することを防止するための地盤振動伝達抑制設備として、建物地中壁や建物基礎と地盤との間に、発泡樹脂等の振動伝播抑制材を設置したり、地中溝を形成して水で満たすことが行われていた。
【0003】
一方で、水で満たす方法によらない別の振動伝播抑制構造が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1には、連続溝内に現地発生土と同化材とを混合してなるソイルセメントからなる高弾性基材に、低弾性樹脂部材としての略小球状の合成樹脂成形部材を混合固化してなる振動伝播抑制構造を設けることで、内部の低弾性樹脂部材の振動エネルギー吸収により振動発生源からの振動の伝播を減衰させる構造について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−196212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の地中防振壁では、以下のような問題があった。
すなわち、水で満たした溝構造の防振溝にあっては、周囲の地盤から作用する土圧に耐えるための土留め構造体が必要であり、この構造体には剛性を有するので、せん断波の水平方向への伝播をある程度は抑制できるが、疎密波の伝播は抑制できないという欠点があった。そして、最も効果的な構造としては、防振溝の中が気体で満たされていることであるが、そのためには常に湧出してくる地下水をポンプアップする必要があり、複雑な構造になる問題があった。
【0006】
また、特許文献1の振動伝播抑制構造では、鋼材等の構造体を用いない構造であり、剛性の小さい地中壁を設けるものである。そのため、上述したように、周囲の地盤から作用する土圧に耐えるためには、ある程度の剛性が必要となっている。
そこで、剛性を有する構造とする対応として、地中防振壁を開削トンネルなどの地中構造物に沿って連続的に配置することを避けて断続的な配置とすることが検討されるが、連続して平面的に配置されない地中防振壁では、振動の伝播を緩和する効果が十分ではなかった。また、複雑な構造と構築方法を必要としているため、構築にかかる時間と費用が増加するという問題があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、地盤中を伝播してくる振動あるいは騒音の低減を図ることができ、しかも地中防振壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期安定性を確保できるうえ、容易な施工方法により地中防振壁を構築することができる防振壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る防振壁では、振動発生源となる地中構造物と建物との間にある地盤に、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる地中防振壁が設置されていることを特徴としている。
また、本発明に係る防振壁では、地中防振壁は、地中構造物に近接、又は接して設けられていてもよい。
また、本発明に係る防振壁では、地中防振壁は、建物に近接、又は接して設けられていてもよい。
【0009】
本発明では、地中防振壁が吸水膨潤性を有する粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中防振壁の壁幅を一定に保つことができ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる。
そして、粘土系材料は周囲の地盤に比べて剛性が小さくなるので、地震時の地盤の変形を緩和することができ、これにより振動伝播の抑制効果を発揮することができる。
【0010】
また、本発明に係る防振壁では、粘土系材料は、ベントナイトと水の混合物であることが好ましい。
また、本発明に係る防振壁では、粘土系材料は、ベントナイトと骨材と水との混合物であってもよい。
本発明では、ベントナイトの吸水膨張特性を十分に活用することから、地下水位が高い地盤環境下においても施工が容易である。そして、地下水位が低くても地盤が乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。また、ベントナイトは吸水膨張する特性を有しており、ひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができ、周囲の地盤からの土圧によって地中防振壁の壁幅が減少することがない利点がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防振壁によれば、振動緩和能力の大きい粘土系材料を用いることで、敷地外部から伝達してくる地盤変動が建物に伝わり難くする地盤防振壁として効果的であり、地盤中を伝播してくる振動あるいは騒音の低減を図ることができる。
また、地中防振壁を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中防振壁の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
そのうえ、効率よく掘削した地中空間に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中防振壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態による地中防振壁の構築方法の一例を示した側面図である。
【図2】ベントナイト乾燥密度と膨潤圧の関係を示す図である。
【図3】ベントナイト配合による混合物の三軸試験結果を示す図である。
【図4】動的三軸圧縮試験装置で求めたベントナイト繰返し非線形特性(応力−ひずみ関係)を示す図である。
【図5】第2の実施の形態による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図6】第3の実施の形態による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図7】第4の実施の形態による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【図8】第5の実施の形態による地中防振壁の設置状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本第1の発明の実施の形態による防振壁について、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本第1の実施の形態による防振壁は、地下鉄道の躯体をなす地中構造物1(振動発生源)に対して、その近隣に建っている建物2側に近接して地盤振動伝播抑制構造としての地中防振壁3を構築したものである。
ここで、地中構造物1は、開削トンネルなどにより構築されたボックスカルバートなどの鉄筋コンクリート製の構造物であり、地盤Gに埋設された状態で所定方向(図1に示す紙面に向かう方向)に延びて構築されている。そして、地盤G内では、地中構造物1内を走行する電車から発生する振動が地中構造物1から周囲へ向けて伝播している。
【0015】
地中防振壁3は、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなるとともに、所定の壁幅D(図1参照)を有し、地中構造物1の建物2側の側面1aに近接して周辺地盤G内に配置され、地中構造物1の延長方向に連続する壁状構造となっている。
なお、地中防振壁3は、延設される地中構造物1の全長にわたって設けられることに限定されず、延長方向で部分的に設けられていてもよい。
【0016】
地中防振壁3を構成する粘土系材料として、ベントナイトと水の混合物(以下、「第1混合物」という)、或いはベントナイトと骨材と水との混合物(以下、「第2混合物」という)が用いられる。ここで、第2混合物における骨材とは、砂や砂礫などの土質材料、或いはガラスビーズなどの長期変質しにくい人工材料を採用することができる。
【0017】
第1混合物の場合、このベントナイトの密度を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
一方、第2混合物の場合、ベントナイト有効乾燥密度(ベントナイトと骨材を混合した材料の場合で、骨材間隙を満たしているベントナイト部分の密度を乾燥密度で示した値)を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、常時に作用する土圧に対する反力を確保することができる。
なお、上述した第1混合物で骨材が入っていない材料の場合は、ベントナイト密度のみなのでベントナイト乾燥密度であるが、ここでは「ベントナイト有効乾燥密度」として以下統一して用いる。
【0018】
そして、地中防振壁3を構成する材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度の値で300〜1200kg/mの範囲としている。
この密度範囲とすれば、図2に示すように、吸水膨潤圧が0.03〜0.3MPaとなる。そのため、地盤Gの水中質量を約1g/cmと仮定して、側方土圧が土被り圧の1倍とすると、深さ30mまでの土圧に耐えることができる。つまり、地中防振壁3の設置する深さに応じて材料の密度を適宜調整して構築することが可能であり、なるべく剛性が小さい材料を使うことにより防振効果を高めることができる。
図2は、非特許文献1(「締固めたベントナイト試料の膨潤圧測定方法に関する検討」、第40回地盤工学研究発表会、2005年7月、2574頁)に記載されている。なお、非特許文献1の「有効ベントナイト乾燥密度」は、「ベントナイト有効乾燥密度」と同じである。
【0019】
さらに、地中防振壁3に用いる粘土系材料としては、上述したようにせん断剛性の小さい柔らかい材料が好ましく、これにより地震による地盤Gの動的変形を抑えることができ、また地盤中を伝播する振動波を低減することができる。
ここで、ベントナイトのせん断剛性は、ベントナイト有効乾燥密度によって異なる特性を有している。これは、骨材体積が材料中に占める割合が5割以下である場合には骨材粒子相互が接触して相互に応力を伝達する粒子構造とはならずに、骨材と骨材との間にベントナイトゲル(ベントナイトと水の混合物)が介在しているので、材料のせん断特性はベントナイトゲルの特性で主として決まるためである。したがって、ベントナイト有効乾燥密度を調整することにより、地中防振壁3の材料のせん断剛性を周囲の地盤Gより小さくすることができ、地中防振壁3の前方(図1で地中構造物1側)から伝わってきた地盤振動を吸収し、地中防振壁3の後方(図1で建物2側)への振動の伝達を低減して、地盤Gの動的変形を吸収する効果が期待できることになる。
【0020】
図3は、地中防振壁3の粘土系材料の三軸圧縮試験結果の例を示しており、ベントナイト配合のものは、拘束圧下で実施された豊浦砂の結果と比較して、剛性が小さくなっている。
また、図4に示す非線形特性は、図3で示したベントナイト配合3(ρd=0.7Mg/m)の材料における動的三軸圧縮試験装置で求めた応力−ひずみ関係を示しており、地震時(繰り返しせん断時)にはヒステリシスを描くので、エネルギー吸収による減衰材料(ダンパー材料)として適している。この減衰効果は、ベントナイトに砂を混入することで、大きくすることができる。
【0021】
そして、地中防振壁3は、設置する予定の地中空間を地盤G中に掘削し、その地中空間に対して所定のベントナイト有効乾燥密度となるように調整したベントナイトと水の混合物、又はベントナイトと骨材と水との混合物の材料を充填することにより構築される。このとき、地中空間の深さ位置の土圧に見合うように材料のベントナイト有効乾燥密度を調整して構築することができる。
【0022】
上述した構築方法では、地中防振壁3が吸水膨潤性を有するベントナイト粒状態の材料、又はベントナイトと骨材の混合物からなる粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗できる反力をもたせることができ、地中防振壁3の壁幅が一定に保たれ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる利点がある。
【0023】
そして、地中防振壁3が地中構造物1と建物2との間に設けられるので、地中構造物1より生じる発生振動が地盤G内に伝播し、建物2との間に位置する地中防振壁3によりその振動がほとんど吸収され、地中防振壁3の外側(図1で紙面右側)に位置する建物2への振動の影響を最小限にすることができる。
【0024】
しかも、ベントナイトの吸水膨張特性により、地下水位が高い環境下においても施工が容易である。なお、地下水位が低くても地盤Gが乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。
さらに、地中防振壁3にひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができ、地中防振壁3を構成する粘土系材料が天然の無機質鉱物材料であることから、変質が無く、且つ保水状態も変化し難く、メンテンスが不要になるという効果を奏する。
【0025】
そして、新規に地中構造物1を構築する際に、それに近接するようにして地中防振壁3を構築しているが、このような場合に地中構造物1の周囲に必要な構築空間を小さくすることができる。また、既設の地中構造物1の近傍の地中に対して、後から地中防振壁3を構築する場合であっても、隣接した地中構造物が存在する狭隘な場所や狭い敷地の中で地中構造物の外側に、既設構造物の免震対策として設置することも可能である。
さらに、耐震基準を満足しない地中構造物1に対する耐震補強工事においても、既存構造物では耐震補強し難いとされている地中構造物1の補強に有効に活用できる。
【0026】
上述のように本第1の実施の形態による防振壁では、振動緩和能力の大きい粘土系材料を用いることで、敷地外部から伝達してくる地盤変動が建物2に伝わり難くする地盤防振壁3として効果的であり、地盤G中を伝播してくる振動あるいは騒音の低減を図ることができる。
また、地中防振壁3を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤Gから受ける常時の土圧に抵抗でき、地中防振壁3の壁幅Dを一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
そのうえ、効率よく掘削した充填部に所定のベントナイト有効乾燥密度に相当する材料を満たすといった容易な施工方法により地中防振壁3を構築することができる。
【0027】
次に、本発明の防振壁による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0028】
図5に示すように、第2の実施の形態による防振壁は、地中防振壁3を地中構造物1と建物2との間で、地中構造物1から所定の間隔だけ離れた位置に設けている。
なお、地中防振壁3の上部(地表側)には、地中空間に充填された粘土系材料がその充填部から上方に膨出しないように、蓋の機能を有する閉塞部材7が設けられている。この閉塞部材7は、例えば充填部に対して地表から所定の深さまで粘土系材料を充填した後、残りの地表側の地中空間にコンクリートを打設することにより施工することができる。
【0029】
また、図6に示す第3の実施の形態による防振壁は、ホテルや病院などの高層建物などの建物2Aの地中構造物1側に近接する位置に地中防振壁3を設けた構造である。すなわち、地中防振壁3は、建物2Aと地盤Gとの境界面に設けられている。
【0030】
また、図7に示す第4の実施の形態、および図8に示す第5の実施の形態による防振壁は、それぞれ上述した第2の実施の形態および第3の実施の形態による振動発生源を代えたものであり、地中構造物1Aが高架鉄道の基礎となっている。
なお、振動発生源の地中構造物としては、上述した地下鉄道の躯体や高架鉄道の基礎に限定されることはなく、振動発生機械据付け基礎、高架道路の基礎などを対象とすることも可能である。
【0031】
以上、本発明による防振壁の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施の形態の建物2、2Aは、既存の建物であっても、新設の建物であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1、1A 地中構造物
2、2A 建物
3 地中防振壁
7 閉塞部材
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生源となる地中構造物と建物との間にある地盤に、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる地中防振壁が設置されていることを特徴とする防振壁。
【請求項2】
前記地中防振壁は、前記地中構造物に近接、又は接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の防振壁。
【請求項3】
前記地中防振壁は、前記建物に近接、又は接して設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防振壁。
【請求項4】
前記粘土系材料は、ベントナイトと水の混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防振壁。
【請求項5】
前記粘土系材料は、ベントナイトと骨材と水との混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防振壁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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