説明

防振用部材、防振装置および防振用ジョイント管

【課題】 既存の揚水装置の送水管を使用しつつ、送水管の振動を抑制する(これを防振と称する)ことができる防振用部材、ならびに、その防振用部材を使用した防振装置および防振用ジョイント管を提供する。
【解決手段】 防振用部材1は、送水管SPの表面に当接可能な当接面部11,12と、両当接面部の対向側端部から鋭角方向に立設された立設部12,13と、立設部の先端の中間に配置されたスペーサ部15とを備える。防振部材は、送水管を包囲できる複数の曲面状本体部の外側表面に防振用部材を固着する。防振用ジョイント管は、送水管と略同径の管体の両端に接続手段を備え、管体の表面に防振用部材を固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水または温泉などを汲み上げるために設けられる掘削井戸において、その掘削井戸の孔内に配置される送水管の防振用部材、ならびに、その防振用部材を使用した防振装置および防振用ジョイント管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な井戸の揚水装置は、掘削井戸の孔内に送水管を配置し、その送水管の下端付近に、モータおよびポンプが設けられる構成であり、当該送水管は、掘削井戸孔の上部開口付近に支持されるものであった。つまり、掘削井戸孔内の送水管は、上方において支持されているが、その下部は支持されておらず、吊下された状態となっていた(引用文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145349号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年の掘削井戸は地中深く掘削され、地下20m〜30mに達することは稀でなく、このような深度のある掘削井戸(いわゆる深井戸)において、上記構成の揚水装置を設置する場合には、送水管の下端部(モータおよびポンプ)が比較的大重量となるため、送水管全体が振り子のような状態となるものであった。そこで、地震等によって掘削井戸そのものが振動し、または、送水管が振動する場合、当該送水管が揺れ動き、送水管下端のモータおよびポンプが周辺の掘削井戸孔に衝突することがあった。その衝撃の程度によっては、モータまたはポンプを損傷させ、または、掘削井戸孔の内壁を構成するケーシングを損傷させることがあった。
【0005】
上記モータまたはポンプが損傷することによって、直ちに揚水できない状態に陥る場合もあるが、そのほかにも、損傷部分が劣化し、または損傷部分から腐食が進行することとなり、地震等の発生から長期間の経過後に故障する場合には、当該故障の原因究明が困難となることがあった。また、モータ等の通電部分を損傷させる場合には、漏電を生じさせることもあり、停電を招来させる原因ともなり得るものであった。
【0006】
さらに、掘削井戸孔の内壁を構成するケーシングを損傷させる場合には、掘削井戸孔の下端部周辺に設けられる取水口(いわゆるストレーナー)よりも上位のケーシングに亀裂を生じさせることがあり得る。本来は、十分に深い位置のストレーナーから取水すべきであるところ、比較的浅い位置から水が流入する結果となり得るものであった。地中の浅い位置での取水は、周辺から排出された水の浸透水が流入する原因となり、雑菌等の混入の可能性を内包することとなり、また、多量な取水の場合は地盤沈下の原因となり得るものであった。
【0007】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、既存の揚水装置の送水管を使用しつつ、送水管の振動を抑制する(これを防振と称する)ことができる防振用部材、ならびに、その防振用部材を使用した防振装置および防振用ジョイント管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、防振用部材にかかる本発明は、掘削井戸の孔内に配置される送水管の防振用部材であって、適宜間隔を有しつつ上記送水管の表面に直接的または間接的に当接可能な二つの当接面部と、この両当接面部の対向側端部から鋭角方向に立設された立設部と、この立設部の先端の中間に配置され、該当接面部が上記送水管の表面に当接するとき、上記送水管の表面との間で適宜間隔を維持しつつ該送水管の軸線方向に適宜長さを有するスペーサ部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、当接面部を送水管の表面に直接的または間接的に当接しつつ固着することにより、スペーサ部が送水管の表面から十分な間隔を有して配置されることとなる。従って、送水管の周方向に適宜間隔で複数の防振用部材を設置することによって、送水管の周辺に複数のスペーサ部が存在させることができ、そのスペーサ部が掘削井戸孔の内壁(またはその内壁を構成するケーシング)に当接または接近し、送水管の表面と掘削井戸孔の内壁等との間の遊び(クリアランス)を小さくすることができる。
【0010】
上記発明における当接面部は、前記送水管に表面の形状に合わせて断面略弧状に形成してなる構成とすることができる。
【0011】
上記構成によれば、当接面部の広い面積部分が送水管表面に当接することとなり、防振用部材を送水管表面に固着する際、当該防振用部材の設置状態を安定させることができる。すなわち、例えば当接面部を溶接により送水管表面に固着する場合、当該当接面部の端縁が送水管表面に接する状態となるから、当該端縁に沿った広い範囲を溶接部分とすることができるうえ、端縁の大部分を溶接することにより当接面部を強固に固着することができる。
【0012】
また、上記両発明における当接面部、立設部およびスペーサ部は、連続する1枚の金属製板材を折曲または湾曲させて構成することができる。
【0013】
上記構成によれば、所定形状の加工が容易となり、所定強度を有する材料により構成することによって、スペーサ部のみならず立設部および当接面部をも高強度に構成することができる。特に、当接面部の断面形状を略弧状に構成する場合には、当該金属製板材の折曲加工または湾曲加工の前に、予め全体の断面を略弧状に構成することにより、スペーサ部の断面をも略弧状に形成することができ、当該スペーサ部に対する曲げ応力の耐力を向上させることができる。
【0014】
防振用部材を使用した防振装置にかかる本発明は、前記送水管を包囲できる筒状体を軸線方向に沿って複数に分割した形状の曲面状本体部と、この曲面状本体部の周方向両端縁から径方向に突出する適宜面積を有する接合面部とを備え、上記曲面状本体部の外側表面に前記防振用部材の当接面部を当接しつつ該防振用部材を固着したことを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、防振用部材を予め曲面状本体部に固着することができ、本発明の防振装置を送水管に設置することによって、送水管の周辺にスペーサ部を配置することが可能となる。また、防振装置は、曲面状本体部の周方向端縁に接合面部が設けられており、この接合面部が径方向に突出する構成であることから、この接合面部の突出先端縁が防振用部材のスペーサ部と同様に作用することとなる。すなわち、送水管と掘削井戸孔内の内壁との間に接合面部が位置することとなり、この接合面部の先端縁部が掘削井戸孔内の内壁に当接または接近することにより、送水管の遊び(クリアランス)を小さくすることができる。
【0016】
上記発明における接合面部は、前記防振用部材のスペーサ部が前記送水管の表面との間に形成される間隙と同じ突出長で設けた構成とすることができる。
【0017】
上記構成によれば、曲面状本体部の表面に複数の防振用部材を固着することなく、また、多数の曲面状本体部を送水管に設置することなく、例えば、円筒状を2分の1に分割した曲面状本体部を2個設置することにより、送水管の周辺に2個のスペーサ部を設置するとともに、2箇所に接合面部を配置することができ、全体として4箇所にスペーサ機能を発揮させることができる。なお、このとき、2個の曲面状本体部は、送水管を両側から挟むように設置すれば、接合面部が対向する状態で配置させることができ、その対向する両接合面部同士を接合することによって、防振装置を設置でき、対向する両接合面部が一体化して1箇所のスペーサ機能を発揮することとなる。
【0018】
また、防振装置にかかる本発明は、前記送水管の貫挿を許容する筒状体を備え、複数の前記防振用部材を、上記筒状体の周方向に適宜間隔を有しつつ、前記スペーサ部の長手方向を筒状体の軸線方向に向けて固着してなることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、防振用部材を周辺に固着してなる筒状体に送水管を貫挿させることによって、当該送水管の周辺にスペーサ部を配置することができることとなる。本発明の防振装置は、送水管の適宜位置で固着(例えば、溶接により固定)してもよいが、送水管の連結手段がフランジ継ぎ手である場合には、当該フランジ部の上部に載置するように設置してもよい。このように、フランジ部の上部に載置するような設置方法の場合には、筒状体が送水管の軸回り(周方向)へ回転自在な状態となるが、筒状体の表面に少なくとも等間隔で3箇所以上の防振用部材が設けられていれば、送水管の振動を抑制する際、少なくとも2箇所でスペーサ部が掘削井戸孔の内壁に接触することで、回転せずに振動抑制が可能となる。また、振動の向きは、予め予想できないことから、上記2箇所でスペーサ部が接触できるように適宜回転することとなるから、1個の防振用部材に対する応力を緩和させることができる。
【0020】
防振用部材を使用した防振用ジョイント管にかかる本発明は、前記送水管と略同径の管体と、この管体の両端に設けられ、前記送水管と連結可能な接続手段とを備え、複数の前記防振用部材を、上記管体の周方向に適宜間隔を有しつつ、前記スペーサ部の長手方向を管体の軸線方向に向けて固着してなることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、防振用部材を表面に設置した管体によって、送水管の一部を構成させることができる。すなわち、数十メートルの深さまで掘削した井戸孔内に設置される送水管は、数メートル単位の管を連結するものであるところ、その管の一部分に本発明のジョイント管を使用することにより、当該ジョイント管が連結された部分において防振用部材を配置させることができる。
【0022】
また、防振装置を使用した防振用ジョイント管にかかる本発明は、前記送水管と略同径の管体と、この管体の両端に設けられ、前記送水管と連結可能な接続手段とを備え、上記管体の表面に、前記防振装置の前記複数の曲面状本体部を密着させつつ、前記接合面部同士を接合して該防振装置を固定してなることを特徴とする。
【0023】
上記構成によれば、防振装置が設けられた管体によって送水管の一部を構成させることができることから、送水管の適宜箇所において、本発明のジョイント管を接続することによって、防振装置を送水管に設置した状態を形成させることができる。
【発明の効果】
【0024】
防振用部材にかかる本発明によれば、当接面部を送水管の表面に直接的または間接的に当接させつつ本発明の防振部材を送水管に固着することによって、送水管と掘削井戸孔の内壁との遊びを小さくすることができ、これによって、送水管が掘削井戸孔内で振動することを抑制することができる。
【0025】
また、本発明の防振用部材は、立設部を有しており、この立設部は当接面部の端縁から鋭角方向に立設される構成であることから、送水管を掘削井戸孔内に挿入する際、送水管が掘削井戸孔の中央付近に配置するための案内部として機能する効果を有する。また、送水管を掘削井戸孔内から撤去する場合においても、撤去方向を案内する案内部として機能することとなる。これにより、掘削した井戸孔が、直線的でなく途中で湾曲している状態においても、送水管を掘削井戸孔の中心付近に案内することができ、挿入または撤去の際に送水管が、特に先端のモータまたはポンプ等が、掘削井戸孔の内壁(またはケーシング)に接触することを防止できる。また、井戸孔が鉛直方向でなく斜状に掘削された場合であっても、当該井戸孔内に設置した送水管を当該井戸孔の中心付近に設置させることができ、特に、その先端のモータまたはポンプ等を掘削井戸孔の内壁(またはケーシング)との間で十分な間隙を有して配置させることができ、当該ポンプ等の性能を十分に発揮させることができる。つまり、ポンプ等が内壁(またはケーシング)に接触して取水効率を低下させる事態を回避し得るものである。
【0026】
防振装置にかかる本発明によれば、上記のような防振用部材を送水管に直接固着できない場合、例えば、既に使用に供されている送水管について防振効果を発揮させる場合、または、送水管が小口径であるため、送水管に直接固着する加工が困難と判断される場合などにおいては、予め防振用部材を固着した防振装置を送水管に接合し、または、送水管を貫挿することにより、送水管の周辺に防振部材を配置することができる。
【0027】
防振用ジョイント管にかかる本発明によれば、複数の管を連結して所定長さの送水管を構成する場合、その一部に本発明のジョイント管を連結することによって、当該ジョイント管の表面に固着した防振用部材が、送水管の周辺に配置されることとなる。このようなジョイント管を送水管の先端付近に使用することによって、当該先端のモータおよびポンプ等を掘削井戸孔の内壁(またはケーシング)から適宜間隔で配置することができる。また、送水管の途中に使用することによって、送水管を掘削井戸孔の中心に配置することも可能となる。
【0028】
上記のいずれの発明においても、送水管の周辺に防振用部材が複数存在することとなるから、送水管が振動する状態、特に、先端のモータおよびポンプ等が振動する状態が生じた場合であっても、掘削井戸孔の内壁(またはケーシング)との間で振動できる程度の遊び(クリアランス)を有しないことから、送水管またはモータ等が振動によって掘削井戸孔の内壁(またはケーシング)に衝突することを防止できる。さらに、長尺物の場合には、継続して振動する場合、共振等によって振幅等が変化し、周辺に衝突することなく長尺物の一部が折曲する現象も起こり得るが、その振動を抑制することによって、振動の共振状態の発生をも抑制することとなり、地震等による揚水装置全体の性能低下を回避する一助となり得るものである。
【0029】
また、上記防振用部材もしくは防振装置が送水管に装着され、または、上記防振用ジョイント管が接続されることによって、送水管が掘削井戸孔内部のほぼ中央に配置することができる。特に、これら部材等を送水管先端付近におけるポンプ近傍に設置することによって、当該ポンプを掘削井戸孔内部のほぼ中央に配置することができる。このようなポンプの配置状態によって、地震等による振動がない平常時において、ポンプが周辺の内壁(またはケーシング)に接触することを回避できることから、当該接触によるポンプの冷却効率低下を防止し、また、ポンプ流入口の開口を確保して吸引状態を安定させることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】防振用部材の実施形態を示す説明図である。
【図2】(a)は従来の送水管の状態を示す説明図、(b)は防振用部材を使用した送水管の状態を示す説明図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図である。
【図3】防振装置の第一の実施形態を示す説明図である。
【図4】防振装置の第二の実施形態を示す説明図である。
【図5】ジョイント管の第一の実施形態を示す説明図である。
【図6】ジョイント管の第二の実施形態を示す説明図である。
【図7】ジョイント管の変形例を示す説明図である。
【図8】防振用部材の使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、防振用部材にかかる実施形態を示す図である。この図に示すように、防振用部材1は、2つの当接面部11,12と、立設部13,14と、スペーサ部15とを一体的に形成したものである。当接面部11,12は、送水管SPの表面に当接できる程度の適宜面積を有しており、本実施形態では、送水管SPの表面に密着するように、断面形状を弧状に形成されている。
【0032】
この当接面部11,12は、適宜間隔を有しつつ互いに離れた位置に配置され、その両者が対向する側の端部に連続して立設部13,14が構成されている。この立設部13,14は、当該当接面部11,12の対向側端部から鋭角方向に立設されており、スペーサ部15に向かって先細り状の勾配を有する状態で設けられている。つまり、鋭角方向とは、一方の当接面部11,12の対向側端縁から他方に向かった方向に対して鋭角な状態を意味するものである。
【0033】
そして、このように斜状に立設された立設部13,14の先端の間にスペーサ部15が形成されているのである。このスペーサ部15は、上記二つの当接面部11,12と略平行な面状部分を有しており、立設部13,14の両先端方向に向かって適宜長さを有して設けられている。従って、上記当接面部11,12を送水管SPの軸線方向Xに分かれるように当接するとき、スペーサ部15の長手方向が送水管SPの軸線方向Xに一致するように設けられているのである。
【0034】
ここで、当接面部11,12、立設部13,14およびスペーサ部15は、一枚の金属製材料を折曲して構成することができる。各部を折曲して構成する場合、各部の境界部分は、所定角度に折曲してもよいが、湾曲させることによって角部にアールを形成することが好ましい。特に、立設部13,14とスペーサ部15との境界をアール部とすることによって、鋭利な尖端を構成されず、当該境界部分が周辺部に接触しても当該周辺部の損傷を防ぐこととなる。
【0035】
また、各部の大きさについては、固着すべき送水管SPの大きさによって適宜調整すればよいが、例えば、送水管SPの外径が50mm以上である場合には、二つの当接面部11,12の最も外側端部からの長さ(全長)は、350mmとし、スペーサ部15の長さを50mmとすることが好ましい。スペーサ部15が極端に短尺である場合には、周辺との接触時に力が集中するため、送水管SPの外径の2倍以上を目安に長さを調整することにより、接触時の力を分散させることができる。また、本実施形態における立設部13,14の鋭角方向の角度は45度としている。45度以上の角度の場合は、送水管SPの挿入・撤去の際に周辺部との接触時に障害物となり得るためであるが、この角度に限定されるものではない。
【0036】
なお、図面上は明確に示されていないが、本実施形態のスペーサ部15の断面形状も、当接面部11,12と同様に略弧状に形成されている。これは、本実施形態が一枚の板状部材を折曲または湾曲させて構成したものであり、折曲または湾曲する前の板状の状態において、予め断面を略弧状に構成させたものを使用したからである。このように、スペーサ部15が外向きに膨出する断面略弧状とすることにより、周辺部との接触面が弧状曲面となり、接触による損傷を回避することができる。なお、このような形状に限定されるものではなく、当接面部11,12のみを断面略弧状としてもよく、また、当接面部11,12のうち、送水管SPの表面と当接する側の表面のみを切削するなどによって曲面としてもよい。
【0037】
本実施形態の防振用部材は、上記のような構成であるから、本実施形態の防振用部材1を送水管SPに固着する場合には、二つの当接面部11,12を送水管SPの軸線方向Xに分かれるように、当該送水管SPの表面に当接し、その当接状態を維持するように固着するのである。このときの固着の方法としては、例えば、当接面部11,12の周縁を溶接等によって固着することができる。このように、防振用部材1を固着することにより、スペーサ部15は、送水管SPの表面から適宜間隔を有する状態となるのである。そして、同様の状態で複数の防振用部材1a,1b,1cを送水管SPの表面に周方向に適宜間隔(等間隔)で固着することによって、送水管SPが、その周囲に存在する管状体内部(掘削井戸内部の壁面)との間で適当なスペースを維持させることが可能となるのである。
【0038】
すなわち、図2(a),(b)に示すように、送水管SPは、上端のみが固定されており、送水管SPの全体(下部のモータMやポンプPを含む)が、上端から吊下された状態となっている。従来の内部構造では、図2(c)に示すように、掘削井戸孔Hが鉛直方向に掘削されていれば、これら送水管SP(特にモータMおよびポンプPなど)は、掘削井戸孔H(またはその内側のケーシングCP)の中心に配置されることとなるが、送水管SPが振動する場合には、上端の固定部分を支点として、振り子のように振動することとなる。これに対し、防振用部材1を固着した構造では、図2(b)に示したように、送水管SPが上端のみで固定されていることは同じであるが、送水管SPの下端に設けられるモータMおよびポンプPの上方に防振用部材1が設けられていることから、図2(d)に示すように、この送水管SPとケーシングCPとの間に放射線状に防振用部材1a,1b,1c,1dが設けられており、送水管SPが振動できる間隙を有していない。このようにして、送水管SPの振動を回避し、モータMおよびポンプP等がケーシングCPに衝突することを防止するのである。
【0039】
また、図2(b)において図示するように、送水管SPが長尺である場合には、送水管SPの任意の位置にさらに防振用部材101を設置することによって、送水管SPの全体をケーシングCPのほぼ中央に設置することができることとなる。そして、送水管SPの先端(下端)付近に設置する防振用部材1は、ポンプPの近傍に設けることにより、当該ポンプPをケーシングCPのほぼ中央に配置させることができる。特に、ボーリング工事等による掘削方向が鉛直下向きに正確に実施されなかったこと等によって、掘削井戸孔H(およびケーシングCP)が鉛直方向に対して斜状に形成(または設置)された場合においても、ポンプPは、ケーシングCPのほぼ中央に位置され得ることとなる。このように、ポンプPをケーシングCPの中央に設置することによって、振動しない状態(平常時)においても、ポンプPがケーシングCPに接触しないことから、冷却効率の低下を防止するとともに、流入口INの開口状態を確保することができる。
【0040】
なお、揚水装置は、図2(a)に図示されるように、送水管SPの先端に設けられるモータMとポンプPの中間に流入口INが配置され、ポンプPによる吸引力によって流入口INの周辺の地下水または温泉水を送水管SPに流入させる構造となっている。このとき、掘削井戸孔Hの下端には、ケーシングCPの一部がスリット状となったストレーナーSTが配置され、地下水または温泉水を掘削井戸孔H(ケーシングCP)の内部に浸透させるようになっており、モータMおよびポンプPは、このストレーナーSTよりも上方において稼動するように配置されている。しかしながら、送水管SPの下端の位置がストレーナーSTよりも上方に位置しているか否かは、ケーシングCPの全長と、送水管SPの全長とによって判断されるが、掘削井戸孔が湾曲しているような場合は、直線状に設置される送水管SPが予想以上に下位に設置され得るものであった。そのような場合には、ストレーナーSTの近傍にモータM等が配置されている可能性もあった。そして、このような状態において、送水管SPが振動し、モータM等がストレーナーSTに接触する場合には、地下水または温泉水がストレーナーSTを経由することなく、直接ケーシングCP内に流入するという事態の発生もあり得るが、上記実施形態によれば、このような事態をも回避し得るものとなる。
【0041】
次に、上記防振用部材を使用する防振装置の実施形態について説明する。図3は、第一の実施形態を示す図である。図3(a)に示すように、本実施形態の防振装置2a,2bは、送水管SPを包囲できる筒状体を二分割した曲面状本体部21a,21bと、その両側端縁に設けられた接合面部22a,23a,22b,23bを備えた構成としたものである。そして、この曲面状本体部21a,21bの外側表面に前記円筒体の軸線方向にスペーサ部15の長手方向を合わせて防振用部材を固着したものである。
【0042】
この曲面状本体部21a,21bは、円筒状を軸線方向に沿った分割面で二分割したものであり、両者を両側から送水管SPに当接することによって、筒状体を形成できるようにしている。ここで、接合面部22a,23a,22b,23bは、筒状体(すなわち送水管SP)の径方向に突出すように設けられ、曲面状本体部21a,21bを両側から送水管SPに当接するとき、対向する接合面部が密着するように設けられている。このように、密着する接合面部に対して、ボルトおよびナット等の締着手段によって締着させることにより、曲面状本体部21a,21bが強固に送水管SPに装着できるのである。
【0043】
上記のように送水管SPに装着された防振装置2a,2bは、図3(b)に示すように、接合面部22a,23a,22b,23bが、いずれも送水管SPの径方向に突出することとなる。ここで、これらの接合面部22a〜23bの突出状態は、曲面状本体部21a,21bに固着される防振用部材のスペーサ部15の位置に合わせてられている。すなわち、曲面状本体部21a,21bを送水管SPの表面に当接するとき、送水管SPの表面からスペーサ部15までの間隔と、そのときの送水管SPの表面から接合面部22a,23a,22b,23bの最外端縁部までの間隔を同じにしているのである。これにより、接合面部22a,23a,22b,23bが、防振用部材と同様の機能を発揮し、スペーサ部15とともに、送水管SPの表面から放射線状に突出して配置されることとなり(図2(d)参照)、送水管SPの振動を防止する効果を有している。
【0044】
また、防振装置の第二の実施形態は、図4に示すように、円筒状の管体(筒状体)EPの周辺に防振用部材1a,1b,1c,1dが固着されたものである。防振用部材1a〜1dは、既に説明した実施形態と同様の構造であり、スペーサ部15a,15b,15c,15dの長手方向が、筒状体EPの軸線方向に一致するように固着されている。また、この筒状体EPの内径は、送水管SPの外径よりも僅かに大きく構成されており、筒状体EPに送水管SPを貫挿できるようになっている。従って、本実施形態の防振装置は、送水管SPとは別に独立した部材(装置)として製造し、これに送水管SPを挿通させるように装着することによって、送水管SPを加工することなく、防振用部材1a〜1dを送水管SPの周辺に配置させることを可能にしている。
【0045】
なお、図示のように、送水管SPの一部がフランジ部FGによって連結される構造には、上記筒状体EPは、自由によりその下端がフランジ部FGの上部表面に当接することとなり、このフランジ部FGによって、当該筒状体EPの上下方向の位置が決定されることとなる。フランジ部FGを有しない構造の場合であっても、図2(b)に図示したように、モータMおよびポンプPが送水管SPよりも大径であることが一般的であるので、当該ポンプPなどによって位置決めされることとなる。
【0046】
また、上記筒状体EPは、送水管SPの周回りに回転自在の状態であるが、これを固着等により回転できないようにしてもよいが、敢えて回転を自在の状態とすることが好ましい。すなわち、円筒体EPを回転自在とすることにより、送水管SPが振動して周辺の掘削井戸孔内壁に接触する際、衝撃力(またはその反力)を受けて適宜回転することができ、これによって、当該衝撃力(またはその反力)の分散に適した状態にさせることができる。すなわち、1個の防振用部材が周辺の掘削井戸孔内壁に衝突する場合には、1個の防振用部材に衝撃力(またはその反力)が集中するが、筒状体EPが少し回転することによって、隣接するもう1個の防振用部材とともに合計2個の防振用部材が同時に接触する状態となり得ることから、2個の防振用部材によって衝撃力(またはその反力)を分散させることが可能となるのである。
【0047】
次に、防振用部材を使用した防振用ジョイント管の実施形態について説明する。図5は、ジョイント管の第一の実施形態を示す。この図に示すように、本実施形態のジョイント管3は、本体部分としての管体31と、その両端の接続手段としてのフランジ部32,33とで構成されている。管体31は、送水管SPとほぼ同径(同じ内径および外径)の円筒状で形成され、フランジ部32,33は、送水管SPとの接続用に使用されるものであり、送水管SPが同種のフランジによって連結される場合に使用可能である。
【0048】
このような構成のジョイント管3は、複数の送水管SPを順次連結することによって所定深さに到達する長さの送水路を形成するような場合に、その送水管SPの一部として使用するものである。すなわち、管体31は送水管SPと同様の内径および外径を有することから、このジョイント管3を送水管SPに連結すれば、その中空内部に地下水等を通過させることができ、送水管SPを連結する場合と同様にフランジにより連結することにより、当該送水管SPの長さ方向に連結させることができるのである。そして、所望長さの送水路を形成するためには、使用される各送水管SPとともにジョイント管3の長さ寸法を考慮するのである。つまり、ジョイント管3の長さ寸法を送水管SPの長さに含めることにより、送水管SPおよびジョイント管3を全て連結したときに、所望長さの送水路を形成させることができるのである。
【0049】
ここで、管体31の周辺には、上述の防振用部材1a,1b,1c,1dが周方向に適宜間隔で固着されている。各防振用部材1a〜1dのスペーサ部15a,15b,15c,15dの長手方向は、いずれも管体31の軸線方向に一致させて設けられている。これにより、ジョイント管3は、送水管SPの一部として機能しつつ、その周辺の防振用部材1a〜1dによって防振装置としても機能するものである。従って、管体31としては、通常の送水管SPを流用してもよいが、それぞれの送水管SPが長尺である場合には、同種材料を短尺にしたものを使用してもよい。
【0050】
次に、ジョイント管にかかる第二の実施形態について説明する。図6は、本実施形態を示す図である。この図に示すように、本実施形態のジョイント管4は、接続手段として雄ネジ部42,43を設けた構成である。管体41は、第一の実施形態と同様である。その周辺に防振用部材1a,1b,1c,1dを設ける構成も同様である。なお、本実施形態は、ネジ式の継ぎ手JTを使用して送水管SPを連結する際に使用されるものである。
【0051】
つまり、継ぎ手JTは、全体形状を円筒状とし、その両端には雌ネジが刻設されており、送水管SPの先端には、この雌ネジに螺合する雄ネジが刻設され、継ぎ手JTの両側に送水管SPの先端を螺合することによって、二本の送水管SPを連結するような構造の送水管においては、ジョイント管4の両端にも継ぎ手JTの雌ネジに螺合する雄ネジ部42,43を設け、この継ぎ手JTによって送水管SPとの連結を可能にしているのである。
【0052】
このように、送水管SPに代えてジョイント管4を連結することにより、第一の実施形態のジョイント管3と同様に、本実施形態のジョイント管4も送水管SPの一部として機能しつつ、その周辺の防振用部材1a〜1dによって防振装置として機能することとなるものである。
【0053】
なお、ジョイント管の変形例としては、図7に示すように、管体51の周辺に防振装置2a,2bを装着した構成がある。このジョイント管5は、防振装置にかかる第一の実施形態(図3参照)を管体51の本体部に装着したものである。接続手段としてはフランジ部52,53とする形態を図示しているが、雄ネジを設けた構成の形態としてもよい。
【0054】
この種のジョイント管5は、管体51の表面に防振部材を固着するものではないことから、既に使用されている(掘削井戸孔内に配置されている)送水管を利用することができる。つまり、送水路全体を形成する送水管の一部をジョイント管5に用途変更させることができるのである。また、管体51の表面に固着しない構成であるから、小口径の送水管SPが使用されているような場合には、固着(溶接等)することなる防振装置を設けることができる。
【0055】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。すなわち、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、送水管SPまたはジョイント管3,4の周方向に適宜間隔を有して防振用部材1a,1b,1c,1dを固着する構成において、送水管SPまたはジョイント管3,4が小口径である場合には、固着位置を軸線方向に異ならせつつ固着してもよい。つまり、図8に示すように、周方向には適宜間隔を有しつつ、軸線方向には順次上方に移動した位置に設ける構成としてもよいのである。小口径の管では、例えば溶接によって固着する際、各防振用部材1a〜1dが接近することとなるから、軸線方向に移動させることによって溶接を容易にするのである。
【0056】
なお、防振用部材1a〜1dは、金属製板材を折曲または湾曲して一体的に構成した状態のみを例示したが、当接面部、立設部およびスペーサ部を個別に設け、これらを連結して構成してもよい。また、金属製でなくてもよく、強化プラスチック等の樹脂により構成してもよい。なお、いずれの材質を使用する場合であっても、本発明は防振のために振動を吸収して緩和させるのではなく、周辺の掘削井戸孔内壁との遊びを少なくして、振動(位置の変動)を許容させないことにより防振するものである。従って。防振用部材1a〜1dには弾力性を要求するものではない。
【符号の説明】
【0057】
1,1a,1b,1c,1d 防振用部材
2a,2b 防振装置
3,4,5 ジョイント管
11,12 当接面部
13,14 立設部
15,15a,15b,15c,15d スペーサ部
21a,21b 曲面状本体部
22a,22b,23a,23b 接合面部
31,32,51,52 接続手段(フランジ)
41,42 接続手段(雄ネジ)
H 掘削井戸孔
M モータ
P ポンプ
CP 掘削井戸孔内のケーシング
SP 送水管
EP 管体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削井戸の孔内に配置される送水管の防振用部材であって、適宜間隔を有しつつ上記送水管の表面に直接的または間接的に当接可能な二つの当接面部と、この両当接面部の対向側端部から鋭角方向に立設された立設部と、この立設部の先端の中間に配置され、該当接面部が上記送水管の表面に当接するとき、上記送水管の表面との間で適宜間隔を維持しつつ該送水管の軸線方向に適宜長さを有するスペーサ部とを備えたことを特徴とする防振用部材。
【請求項2】
前記当接面部は、前記送水管に表面の形状に合わせて断面略弧状に形成してなることを特徴とする請求項1に記載の防振用部材。
【請求項3】
前記当接面部、立設部およびスペーサ部は、連続する1枚の金属製板材を折曲または湾曲させて構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の防振用部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の防振用部材を使用した防振装置であって、前記送水管を包囲できる筒状体を軸線方向に沿って複数に分割した形状の曲面状本体部と、この曲面状本体部の周方向両端縁から径方向に突出する適宜面積を有する接合面部とを備え、上記曲面状本体部の外側表面に前記防振用部材の当接面部を当接しつつ該防振用部材を固着したことを特徴とする防振装置。
【請求項5】
前記接合面部は、前記防振用部材のスペーサ部が前記送水管の表面との間に形成される間隙と同じ突出長で設けられていることを特徴とする請求項4に記載の防振装置。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれかに記載の防振用部材を使用した防振装置であって、前記送水管の貫挿を許容する筒状体を備え、複数の前記防振用部材を、上記筒状体の周方向に適宜間隔を有しつつ、前記スペーサ部の長手方向を筒状体の軸線方向に向けて固着してなることを特徴とする防振装置。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれかに記載の防振用部材を使用した防振用ジョイント管であって、前記送水管と略同径の管体と、この管体の両端に設けられ、前記送水管と連結可能な接続手段とを備え、複数の前記防振用部材を、上記管体の周方向に適宜間隔を有しつつ、前記スペーサ部の長手方向を管体の軸線方向に向けて固着してなることを特徴とする防振用ジョイント管。
【請求項8】
請求項4または5に記載の防振装置を使用した防振用ジョイント管であって、前記送水管と略同径の管体と、この管体の両端に設けられ、前記送水管と連結可能な接続手段とを備え、上記管体の表面に、前記防振装置の前記複数の曲面状本体部を密着させつつ、前記接合面部同士を接合して該防振装置を固定してなることを特徴とする防振用ジョイント管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−246666(P2012−246666A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118439(P2011−118439)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(511128491)