説明

防曇性物品およびその製造方法

【課題】 溶性有機高分子を用いても耐水性に優れた防曇性物品、およびその製造方法の提供する。
【解決手段】 物品の表面に防曇性被膜を形成する防曇性物品の製造方法であって、カルボキシル基を含む高分子を含むコーティング液を前記物品表面に塗布し、さらに加熱処理をして、防曇性被膜とし、前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えるようにしたことを特徴とする防曇性物品の製造方法である。
また、物品の表面に防曇性被膜が形成された防曇性物品であって、前記防曇性被膜は、カルボキシル基を含む高分子を含んでなり、前記高分子の主鎖部分が疎水性を示し、前記高分子の側鎖が親水性を示し、前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えることを特徴とする防曇性物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇性被膜について、その表面における水との親和性の観点から見ると、親水性のものと疎水性ものとに分けられる。表面の親水性を利用した防曇性被膜では、表面に付着した水分が水滴とはならずに、水膜となることによって、防曇性を発揮している。一方、表面の疎水性を利用した防曇性被膜では、表面に水分を付着させないようにすることによって、防曇性を発揮している。
【0003】
また、防曇性被膜をその構成する成分の観点から見ると、無機成分によるものと有機高分子によるものとがある。無機成分による防曇性被膜としては、主にSiO2、TiO2、Al23などの金属酸化物が用いられている。特に、光触媒活性効果を利用したTiO2の超親水被膜が多く提案されている。一方、有機高分子による防曇性被膜としては、非水溶性高分子と水溶性高分子とが主に用いられている。このうち、被膜の親水性を高めるために水溶性高分子を用いている例が多い。
【0004】
ここで、親水性を示す被膜を用いた防曇技術において、被膜と水との接触角については、多くの先行文献で接触角が20度以下や10度以下とされている。なおこの接触角は、表面形状の効果を用いない平坦な被膜に関しての数値である。
【0005】
ところで、吸水性と親水性を呈する被膜を利用した防曇性物品に関する技術では、水滴の接触角が比較的大きく、非吸水時の接触角を40度以下としている。この技術に関しては、例えば、特開2005−110918号公報などを挙げることができる。
【0006】
一方、撥水性を示す被膜を用いた防曇技術において、被膜と水との接触角については、例えば特開平9−127303号公報では、90度以上という数値が示されている。さらに、特開平9−40795号公報では、防曇性物品の表面を高周波プラズマによりフッ素化して、水との接触角を160度以上としている。
【0007】
参考までに、特開平11−172028号公報では、表面の水滴接触角が45〜55度であるポリエステル樹脂シートに防曇剤を塗布する技術が開示されている。また、特開2004−317539公報では、基材の酸化物表面に水に対する接触角が50〜90度である下地層処理層を設け、その上に界面活性剤を主成分とする防曇層を形成した防曇性光学体が開示されている。
【特許文献1】特開2005−110918号公報
【特許文献2】特開平9−127303号公報
【特許文献3】特開平9−40795号公報
【特許文献4】特開平11−172028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した技術のうち、光触媒活性効果を利用したTiO2膜では、太陽光を利用できない室内用途に適用することは困難である。したがって、室内用途における鏡などの防曇性物品において、簡便に優れた防曇性を得ようとすると、水溶性有機高分子を用いることになる。
【0009】
しかし、水溶性有機高分子を用い防曇性被膜の場合、水との接触角が小さく水となじみやすく、構造的にも水に溶けやすい構造であるので、耐水性がよくない。
【0010】
そこで本発明は、以上のような状況を鑑み、水溶性有機高分子を用いても耐水性に優れた防曇性物品およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、請求項1に記載の発明として、
物品の表面に防曇性被膜を形成する防曇性物品の製造方法であって、
カルボキシル基を含む高分子を含むコーティング液を前記物品表面に塗布し、さらに加熱処理をして、防曇性被膜とし、
前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えるようにしたことを特徴とする防曇性物品の製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明として、
前記高分子が、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体である請求項1に記載の防曇性物品の製造方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明として、
前記接触角を60度以下とした請求項1に記載の防曇性物品の製造方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明として、
前記コーティング液のpHを酸性とした請求項1に記載の防曇性物品の製造方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明として、
物品の表面に防曇性被膜が形成された防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、カルボキシル基を含む高分子を含んでなり、前記高分子の主鎖部分が疎水性を示し、前記高分子の側鎖が親水性を示し、
前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えることを特徴とする防曇性物品である。
【0016】
請求項6に記載の発明として、
前記高分子が、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体である請求項5に記載の防曇性物品である。
【0017】
請求項7に記載の発明として、
前記接触角が60度以下である請求項5に記載の防曇性物品である。
【0018】
上述したカルボキシル基を含む高分子としては、分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を含む単量体から合成された重合体または共重合体を挙げることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のような構成により、本発明における防曇性被膜では、カルボキシル基を含む高分子の主鎖部分が疎水性を示すことにより、防曇性被膜の水との接触角が少なくとも40度を超える。このことにより、本発明による防曇性物品は、防曇性を担う高分子が水に溶けにくくなり、防曇性物品として耐水性に優れる。もちろん、防曇性に関しては、高分子の側鎖であるカルボキシル基の親水性によって確保されている。
【0020】
また、本発明による防曇性物品の製造方法によれば、防曇性被膜の水との接触角が少なくとも40度を超える防曇性物品が得られる。したがって、耐水性に優れた防曇性物品を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の形態を実施例を用いて説明する、なお、以下の実施例では、防曇性物品としてガラス板に防曇性被膜を形成している。得られた防曇性被膜付きガラス板は、以下に示す各種特性により評価した。
【0022】
(サンプルの評価)
1.防曇性評価
防曇性は、呼気法と呼ばれる以下の方法で評価した。すなわち、室温に保持した防曇性被膜付きガラスに、呼気を一定量吹きかけ、曇りの程度を目視にて判断した。判定基準は以下の通りである。
◎:呼気を吹きかけても、全く曇らない
○:呼気を吹きかけると、若干の曇りが発生する
△:呼気を吹きかけると、水滴や水膜が形成する
×:呼気を吹きかけると、通常のガラス板と同等か、それ以上に曇る
なお、この呼気法は簡便な評価であるが、防曇性を非常に感度よく評価できる方法である。したがって、「△」の評価でも実用的な防曇性を有している。
【0023】
2.基体表面の濡れ性評価
防曇性被膜付きガラス表面の水に対する濡れ性を、表面接触角測定により評価した。接触角測定には、接触角測定器(協和界面科学株式会社製、CA−DT)を用いた。防曇性被膜付きガラス基体表面に純水の液滴を滴下し、その液滴端点と頂点を結ぶ直線から接触角を計算した。
【0024】
3.防曇膜の耐水性評価
耐水性は、500mLのトールビーカーに純水を充填し、これを40℃に設定した恒湿恒温槽中に静置し水温が40℃となるように調節した。このビーカー中に防曇性被膜付きガラス基体を浸漬し、一定時間放置後ガラス基体を取り出し、室温中で乾燥させ、防曇性被膜の防曇性を呼気法により確認した。判定基準は以下の通りである。
○:100時間以上浸漬後も防曇性を維持している
△:50時間浸漬後、防曇性が消失している
×:20時間浸漬後、防曇性が消失している
以上、3つの評価から総合的に性能を判断した。
【0025】
(実施例1)
ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体(以下、VEMAと略すことがある)(A−106:ダイセル化学工業製)を純水を用い、50℃のオーブン中で16時間加水分解させコーティング液を得た。VEMAの濃度は表1に示した。なお、コーティング液のpHは6以下となるようにした。
【0026】
【表1】

【0027】
上記で得られたコーティング液を、基体として洗浄したソーダライムガラス板(150×60×3.4mm)上にフローコートした。なお、フローコートは温度20℃、湿度30%に調整した室内で実施した。コーティング後は自然乾燥を経て、120℃に加熱したオーブン中で30分間加熱して、防曇性被膜付きガラス板を得た。
【0028】
(実施例2)
実施例2は、コーティング液におけるVEMAの濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして作製した。VEMAの濃度は表1に示した。
【0029】
(実施例3)
実施例3は、コーティング液におけるVEMAの濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして作製した。VEMAの濃度は表1に示した。
【0030】
(比較例1〜4)
比較例1〜4は、コーティング液におけるVEMAの濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして作製した。VEMAの濃度は表1に示した。
【0031】
上述した各実施例と比較例に関して、防曇性や接触角の結果を表1に併せて示した。また、コーティング液におけるVEMAの濃度と接触角との関係を図1に示した。
【0032】
実施例1〜3においては、コーティング液におけるVEMAの濃度が0.5質量%〜1.0質量%である。得られた防曇性被膜における水との接触角は49度〜54度であった。この防曇性被膜の耐水性は、良好であった。もちろん、防曇性被膜の防曇性も、呼気法によって確認された。
【0033】
図1から分かるように、VEMAの濃度が0.4質量%を超えると、水との接触角が大きくなる。これは、VEMAの濃度が高くなるに従って、防曇性被膜の膜厚が厚くなり、ガラス表面の影響を受けにくくなる。その結果、高分子の主鎖としての疎水性が発現しやすくなったものと考えられる。
【0034】
本発明によって得られた防曇性被膜においては、加水分解されたVEMAのマレイン酸が成膜時の加熱により、分子内に水素結合を形成するか、あるいは再無水化を起こす。このため、カルボキシル基を含む高分子の主鎖がコイル状に立体配位し、炭素鎖(カーボンチェーン)からなる主鎖部分が疎水性を示すため、水との接触角が高くなると考えられる。このことを模式的に表したのが、図2である。図において、1が高分子の主鎖であり、部分拡大図は、分子内に水素結合が形成されている様子を模式的に表している。
【0035】
比較例1〜4は、コーティング液におけるVEMAの濃度を実施例1と比べて低くした場合である。VEMAの濃度が低くなっても、呼気法による防曇性は確認できた。しかし、水との接触角が約3〜4度と、実施例1〜3と比較して大きく低下した。このため、耐水性が劣化したと考えられる。水との接触角が小さくなったのは、VEMAの濃度が低くなるにつれて、分子間の相互作用が弱くなり、VEMAの主鎖がコイル状を形成しにくくなる。その結果、被膜表面が親水性を呈したと考えられる。
【0036】
なお、マレイン酸系ポリマーにおいては、水溶液のpHにより高分子鎖の立体構造を変化させることができる。酸性条件下では,加水分解されたカルボキシル基同士が分子内で水素結合性相互作用を示すため,ポリマーの構造がコイル状になる。このように疎水性を示すような被膜の状態でも、結露のような小さな水分が接触すると、コイル内のカルボキシル基と水分とがなじみ、防曇性を発現するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明において、VEMAの濃度と接触角の関係を示すグラフである。
【図2】カルボキシル基を含む高分子の主鎖がコイル状となり、分子内に水素結合を形成している様子を表す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1:高分子の主鎖(カーボンチェーン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面に防曇性被膜を形成する防曇性物品の製造方法であって、
カルボキシル基を含む高分子を含むコーティング液を前記物品表面に塗布し、さらに加熱処理をして、防曇性被膜とし、
前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えるようにしたことを特徴とする防曇性物品の製造方法。
【請求項2】
前記高分子が、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体である請求項1に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項3】
前記接触角を60度以下とした請求項1に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項4】
前記コーティング液のpHを酸性とした請求項1に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項5】
物品の表面に防曇性被膜が形成された防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、カルボキシル基を含む高分子を含んでなり、前記高分子の主鎖部分が疎水性を示し、前記高分子の側鎖が親水性を示し、
前記防曇性被膜の水との接触角が、少なくとも40度を超えることを特徴とする防曇性物品。
【請求項6】
前記高分子が、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体である請求項5に記載の防曇性物品。
【請求項7】
前記接触角が60度以下である請求項5に記載の防曇性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−45933(P2007−45933A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231610(P2005−231610)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】