説明

防水シート

【課題】釘穴シーリング性に優れた防水シートを提供する。
【解決手段】耐水圧4kPa以上の防水層11の少なくとも一方の面に、目付120〜300g/mの疎水性不織布で構成された疎水層12を形成し、前記疎水層の防水層側の面に、縦横方向に間隔をおいて複数のエンボス凹部12aを形成することにより、防水シートを得る。この防水シートは、建築物又は構造物の下地を被覆するために適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物又は構造物の下地を被覆するための防水シート[例えば、屋根の下地を被覆するための防水シート(屋根下葺材)など]に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋根や壁において、建築物の内部への雨水の浸入を防止するため、下地に対して防水シートが固定されている。防水シートと下地は主にステープル釘で固定され、瓦などの屋根材や乾式の壁材などは、釘(ネジ部を有するリング釘など)で下地に固定されるため、防水シートには無数の釘穴が貫通し、それらの釘穴からの漏水を防止する必要がある。
【0003】
防水シートとしては、従来からアスファルトルーフィング940が用いられている。アスファルトルーフィング940は、原紙に、アスファルトを浸透、被覆し、表裏面に鉱物質粉末を付着させた防水シートであり、アスファルトが釘との密着性に優れるため、ある程度高い釘穴止水性を有している。しかし、アスファルトルーフィング940は、1mあたりの重量が1kg程度と重く、作業性が低下する欠点がある。
【0004】
また、特開平7−97773号公報(特許文献1)には、アスファルトフェルトの片面に、アスファルト接着層を介して、合成繊維不織布又は合成樹脂フィルムを設けた住宅用防水材が開示されている。しかし、この住宅用防水材に釘を貫通させると、合成繊維不織布又は合成樹脂フィルムの部分で、釘の軸周りの隙間が大きく形成されるため、釘穴からの漏水を有効に防止できない。
【0005】
一方、アスファルト層を含まない防水シートも知られている。特開2008−207393号公報(特許文献2)には、オレフィン系樹脂シートなどの非透水性のシート状基材と、前記シート状基材の表面に吸水性樹脂粒子を3g/m以上固着させた防水シートが開示されている。また、特開2009−84840号公報(特許文献3)には、2層の合成樹脂フィルムの間に、吸水性高分子樹脂からなる膨潤層を有する不織布が挟持された多層構造体であって、該膨潤層として吸水膨潤倍率が200倍より大きい吸水性高分子樹脂が5〜40g/m形成され、かつ該膨潤層の該不織布に対する占有面積が40〜100%で形成されている建築下地用防水シートが開示されている。これらの防水シートは、雨水により吸水性樹脂が膨潤することにより、釘穴をシーリングできる。しかし、突発的な雨では、吸水性樹脂が膨潤する前に釘穴から雨水が浸入する場合がある。また、豪雨により吸水性樹脂が吸水可能な量を超える場合にも釘穴から漏水する場合がある。さらに、梅雨などの雨期に吸水性樹脂が吸脱水を繰り返すと、吸水性樹脂の膨潤性(吸水性)が低下し、釘穴を有効にシーリングできない。さらには、防水シート内での水の滞留時間が長くなり、カビが発生し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−97773号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2008−207393号公報(特許請求の範囲、段落[0021])
【特許文献3】特開2009−84840号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、釘穴シーリング性に優れた防水シートを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、高い防水性を有するとともに、釘穴からの漏水を有効に防止できる防水シートを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、建築物又は構造物の下地の腐食を有効に防止できる防水シートを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、透明性、軽量性、加工性に優れ、施工性が向上した防水シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、疎水層と防水層とを備えた防水シートにおいて、特定の目付を有し、かつ複数のエンボス凹部が縦横方向に間隔をおいて形成された不織布で疎水層を形成すると、強度が優れるとともに、防水シートを釘(リング釘など)で固定すると、釘打ちに伴って、釘の軸部(リング釘のネジ部など)に疎水層の不織布繊維が絡みつくためか、釘穴シーリング性を向上できること、疎水層の不織布のエンボス凹部は繊維が融着してフィルム化しているため、エンボス凹部を貫通する釘の軸周りの不織布繊維の絡みつきが低減すること、疎水層の不織布のエンボス凹部が形成された面に防水層を積層すると、疎水層側を下地に向けて防水シートを釘で固定しても、釘打ちに伴って、防水層がエンボス凹部に入り込み(エンボス凹部の形状に追従して)釘の軸部に密着できるためか、釘穴シーリング性を著しく向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の防水シートは、耐水圧4kPa以上の防水層と、この防水層の少なくとも一方の面に積層され、目付120〜300g/mの疎水性不織布で構成された疎水層とを備えている。前記疎水層の防水層側の面には、複数のエンボス凹部が縦横方向に間隔をおいて形成されている。このような防水シートは、建築物又は構造物の下地を被覆するために適している。
【0013】
エンボス凹部は、防水層側の面で開口した開口部から垂下又は下方向にいくにつれて狭まり底部に至る形態(例えば、円柱状又は円錐台状、角柱状又は角錐台状)で形成してもよい。換言すれば、エンボス凹部は、防水層側の面で開口した開口部と、この開口部の縁部から垂下又は下方向にいくにつれて内部側方に狭まって傾斜した側部(側壁)と、この側部の下端縁部から内部側方に向かって延びる底部(底壁)とを備えていてもよい。複数のエンボス凹部は、縦横方向に等間隔に形成してもよい。互いに隣接するエンボス凹部の平均間隔は10〜3000μm程度であってもよい。エンボス凹部の数密度は10〜200個/cm程度であってもよい。
【0014】
疎水層は、ポリプロピレン系繊維で構成された疎水性不織布で形成してもよい。疎水層の面(防水層側の面とは反対の面)に粘着層を形成してもよい。防水層は、ポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成してもよい。防水層の面(疎水層側の面とは反対の面)に保護層を形成してもよい。保護層は、疎水性不織布、金属又は金属化合物の薄膜、及び金属又は金属化合物の薄膜が形成された樹脂シートから選択された少なくとも一種で構成してもよい。防水層又は保護層の面(疎水層側の面とは反対の面)に防滑層を形成してもよい。
【0015】
なお、本明細書中、「エンボス凹部」とは、凹部の形成方法がエンボス加工であるか否かを問わず、凹部を形成する底部(底壁)及び側部(側壁)のうち、少なくとも一部の領域が繊維の融着部で形成された凹部を意味する。
【0016】
また、本明細書中、特に断りのない限り、「下方向」とは、下地に近づく方向(仕上げ材から遠ざかる方向、又は防水層から疎水層に向かう方向)を意味し、「上方向」とは、下地から遠ざかる方向(仕上げ材に近づく方向、又は疎水層から防水層に向かう方向)を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、特定の目付を有し、かつ表面に複数のエンボス凹部を有する疎水性不織布で構成された疎水層を、エンボス凹部の開口部を防水層側に向けて、防水層に積層するため、疎水層側を下地に向けて釘で固定しても、釘穴シーリング性を顕著に向上できる。また、本発明では、防水層が特定の耐水圧を有するため、防水性に優れるとともに、釘穴からの漏水(雨水や雪水の浸入)を防止できるため、建築物又は構造物の下地の腐食を有効に防止できる。さらに、本発明では、防水層をポリエチレン系樹脂フィルムで形成すると、透明性、軽量性、加工性に優れ、施工性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、瓦葺き屋根の一例を示す概略部分切欠斜視図である。
【図2】図2は、本発明の防水シートの一例を示す概略部分断面図である。
【図3】図3は、図2に示す防水シートの概略部分切欠平面図である。
【図4】図4は、実施例2の防水シートの厚み方向における顕微鏡写真である。
【図5】図5は、本発明の防水シートの他の例を示す概略部分断面図である。
【図6】図6は、比較例1の防水シートを示す概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、必要に応じて添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図1は、瓦葺き屋根の一例を示す概略部分切欠斜視図である。この例では、Z方向に立設した柱1で支持され、かつX方向に延びる軒げた2と、柱1で支持され、かつY方向に延びる陸梁3と、陸梁3に立設した小屋づか4と、小屋づか4で支持され、かつX方向に延びる母屋5と、軒げた2及び母屋5の上に架設され、かつ屋根勾配を形成する垂木6とを備えている。傾斜方向に延びる垂木6は、X方向(傾斜方向に対して直交する方向)に等間隔で配置され、垂木6の上には、X方向に延びる野地板(下地材)7が隙間なく敷設され、野地板7の上には、防水シート8が固定されている。さらに、防水シート8の上には、瓦10の葺き足に合わせて、X方向に延びる瓦桟(横桟)9が、傾斜方向に等間隔で固定されており、瓦桟9に瓦10を掛止して葺くことにより、瓦葺き屋根が構成されている。
【0020】
なお、瓦下に入り込んだ水が瓦桟で滞留するのを防止したり、通気性を向上させるため、防水シートと瓦桟との間には、縦桟を介在させてもよい。例えば、傾斜方向に延びる縦桟は、X方向に等間隔で防水シートに固定してもよい。
【0021】
図2は、本発明の防水シートの一例を示す概略部分断面図である。図3は、図2に示す防水シートの概略部分切欠平面図である。図4は、実施例2の防水シートの厚み方向における顕微鏡写真である。
【0022】
図2に示す防水シートは、ポリエチレン系樹脂フィルムで形成された防水層11と、この防水層の一方の面に形成され、かつ疎水性不織布で構成された疎水層12とを備えており、例えば、図1に示す瓦葺き屋根において、疎水層12を野地板7側に向けて(防水層11を瓦桟9側に向けて)利用できる。
【0023】
この例では、エンボス凹部12aは、略角錐台状であり、疎水層12の上面(防水層11側の面)で開口した開口部と、この開口部の両端部から下方向にいくにつれて、内部側方に狭まって傾斜した側部(側壁)12b,12cと、側部12bの下端から側部12cの下端に至る底部(底壁)12dとで構成されている。側部12b,12c及び底部12dは、不織布を構成する疎水性繊維が融着して形成されているため、繊維密度が高く、強度も優れている。
【0024】
また、疎水層12の上面(防水層11側の面)には、複数のエンボス凹部12aが互いに間隔をおいて規則的に形成されている。より具体的には、図3に示すように、互いに隣接するエンボス凹部列において、エンボス凹部12aが互い違い(千鳥状)に配置されている。
【0025】
上記のように、防水層11側の面において開口した複数のエンボス凹部12aが、所定の間隔をおいて規則的に形成されているため、防水層11の上面の任意の位置で釘を打ってもエンボス凹部12aに釘が掛かり、釘打ちに伴って、防水層11がエンボス凹部12aに入り込み(エンボス凹部12aの形状に追従して)釘の軸部に密着できるとともに、疎水層12の疎水性繊維が釘の軸部(リング釘のネジ部など)に絡みつくためか、釘穴シーリング性を向上でき、釘穴からの漏水を有効に防止できる。
【0026】
なお、エンボス凹部12aの平面形状は、特に制限されず、例えば、多角形、円形、楕円形などが例示できる。
【0027】
エンボス凹部12aのエンボス径(平均径)は、例えば、10〜3000μm、好ましくは20〜2500μm、さらに好ましくは50〜2000μm程度であってもよい。なお、エンボス径は、慣用の意味で用いられ、例えば、エンボス凹部の平面形状が、(i)楕円形であるとき、長径(又は長軸)の長さを意味し、(ii)多角形であるとき、外接円の直径を意味する。また、エンボス径は、疎水層の防水層側の面におけるエンボス凹部の両端部又は両縁部を結ぶ長さ[エンボス凹部の開口面と底面(垂直投影面)との交点間距離]を意味する。さらに、エンボス径は、慣用の方法、例えば、実寸の不織布又はその顕微鏡写真から10個のエンボス凹部を任意に選択し、各エンボス凹部のエンボス径を測定し、これらの測定値を平均することにより算出できる。
【0028】
エンボス凹部12aの側部12b,12cは、開口部の周縁部を起点として、下方向にいくにつれて外部側方に拡がって傾斜していてもよいが、釘穴シーリング性の点からは、垂下、又は下方向にいくにつれて内部側方に狭まって傾斜しているのが好ましい。なお、側部12b,12cは直線的に又は湾曲して傾斜していてもよい。
【0029】
エンボス凹部12aは、直線状又は波形状に延びていてもよいが、釘穴止水性を向上させる点から、散在又は点在しているのが好ましい。例えば、エンボス凹部12aの底部12dの面積(又は開口部の面積)は、5×10−4〜5mm、好ましくは1×10−3〜4mm程度であってもよい。
【0030】
エンボス凹部12aの深さ(疎水層12の表面粗さ)は、疎水層12の厚み未満であればよく、例えば、0.1〜1.3mm、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.3〜0.7mm程度である。
【0031】
複数のエンボス凹部12aは、不規則(ランダム)に形成されていてもよいが、防水シートの表面の任意の位置に釘を打っても、所定の釘穴シーリング性を安定して得られる点から、規則的又は周期的に形成されているのが好ましい。具体的には、複数のエンボス凹部12aは、縦横方向に規則的に(例えば、互いに等間隔で)形成するのが好ましく、例えば、互いに隣接するエンボス凹部列において、エンボス凹部を同じ位置関係で形成してもよく、互い違いに(千鳥状に)形成してもよい。
【0032】
互いに隣接するエンボス凹部12aの平均間隔は、例えば、10〜3000μm、好ましくは15〜2500μm、さらに好ましくは20〜2000μm程度であってもよい。エンボス凹部の平均間隔が大きすぎると、釘穴シーリング性を向上するのが困難になる。なお、互いに隣接するエンボス凹部の平均間隔とは、例えば、顕微鏡写真において、隣接する10組のエンボス凹部を任意に選択し、一方のエンボス凹部の中央部と、他方のエンボス凹部の中央部との距離を平均した値を意味する。
【0033】
エンボス凹部12aの数密度は、例えば、5〜300個/cm、好ましくは7〜250個/cm、さらに好ましくは10〜200個/cm程度であってもよい。エンボス凹部の数密度が小さすぎると、釘穴シーリング性を向上するのが困難になる。
【0034】
疎水層12のエンボス面積率は、例えば、5〜50%、好ましくは10〜40%程度であってもよい。なお、エンボス面積率は、慣用の方法、例えば、前記エンボス径に基づいて算出できる。また、エンボス面積率は、実寸の不織布又はその顕微鏡写真において、1cm×1cmのサイズの領域を任意に10箇所設定し、各領域において、式:エンボス凹部の数×エンボス凹部1個当たりの底面積(cm)×100に基づいてエンボス面積率を測定し、これらの測定値を平均することにより算出できる。
【0035】
本発明では、疎水層12が上記エンボス凹部を有するとともに、特定の目付を有するため、釘穴止水性を顕著に向上できる。疎水層12の目付(疎水性不織布の目付)は、120〜300g/mであればよく、例えば、120〜200g/m(例えば、125〜195g/m)、好ましくは130〜190g/m(例えば、135〜185g/m)、さらに好ましくは140〜180g/m(例えば、145〜175g/m)、特に150〜170g/m程度である。疎水層の目付が120g/m未満では、釘穴からの漏水を有効に防止できない。
【0036】
また、釘穴止水性を高める観点から、疎水層12の不織布を構成する繊維の平均繊度は、例えば、0.1〜5デニール、好ましくは0.2〜4デニール、さらに好ましくは0.5〜3デニール程度であってもよい。なお、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法などの直接紡糸法では、繊維長は無限長であってもよく、短繊維では、平均繊維長は、例えば、10〜150mm、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは30〜60mm程度であってもよい。
【0037】
さらに、釘穴止水性を高める観点から、疎水層12の密度(見かけ密度)は、例えば、0.08〜0.5g/cm(例えば、0.1〜0.4g/cm)、好ましくは0.13〜0.38g/cm(例えば、0.15〜0.3g/cm)、さらに好ましくは0.18〜0.28g/cm程度であってもよい。
【0038】
疎水層12を構成する疎水性不織布は、少なくとも疎水性繊維(非親水性繊維)を含んでいる。疎水性繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、エチレン−プロピレン共重合体繊維など)、ポリスチレン系繊維、フッ素繊維(テトラフルオロエチレン繊維、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体繊維など)、これらの組合せ(複合繊維など)などが例示できる。
【0039】
疎水性繊維は、撥水加工された非疎水性繊維(親水性繊維)も包含する。非疎水性繊維としては、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(例えば、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維など)、アクリル繊維(アクリロニトリル系繊維など)、ポリウレタン系繊維(例えば、ポリエーテルポリオール型ウレタン系繊維など)などが例示できる。
【0040】
撥水加工法としては、慣用の方法、例えば、撥水剤(又は撥水剤を含む溶媒)を非疎水性繊維の表面に塗布する方法、撥水剤(又は撥水剤を含む溶媒)に非疎水性繊維を浸漬する方法などが例示できる。撥水剤としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーンオイル、ワックス、脂肪酸エステル(グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステルなどの高級脂肪酸エステル、特に飽和脂肪酸エステルなど)、脂肪酸アミド(ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド、特に飽和脂肪酸アミドなど)などが例示できる。これらの撥水剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。撥水剤の付着量は、非疎水性繊維100質量部に対して、例えば、0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜80質量部、さらに好ましくは1〜50質量部程度であってもよい。
【0041】
疎水性繊維は、非疎水性繊維を含む複合繊維、例えば、(i)鞘成分が疎水性繊維で構成され、かつ芯成分が非疎水性繊維で構成された鞘芯型繊維(同芯型又は偏芯型)、(ii)海成分が疎水性繊維で構成され、かつ島成分が非疎水性繊維で構成された海島型繊維なども包含する。なお、複合繊維を構成する繊維(疎水性繊維、非疎水性繊維)は、上記に例示した繊維の中から任意に選択できる。
【0042】
これらの疎水性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせることができる。これらの疎水性繊維のうち、撥水性、軽量性の点から、ポリプロピレン系繊維が好ましい。
【0043】
ポリプロピレン系繊維は、通常、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体、プロピレン系共重合体)で構成されている。共重合性単量体としては、例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどのプロピレン以外のα−C2−12オレフィン系単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどのアクリル系単量体;これらの組合せなどが例示できる。
【0044】
プロピレン系共重合体において、プロピレンと共重合性単量体(例えば、プロピレン以外のα−オレフィン)との割合(モル比)は、前者/後者=70/30〜99.9/0.1、好ましくは80/20〜99.5/0.5、さらに好ましくは90/10〜99/1程度である。
【0045】
これらのポリプロピレン系繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリプロピレン系繊維のうち、ポリプロピレン繊維、プロピレン−エチレン共重合体繊維などが好ましい。
【0046】
疎水性繊維の割合は、疎水層12全体(又は不織布全体)に対して、例えば、70〜100質量%、好ましくは80〜99.9質量%、さらに好ましくは90〜99.5質量%程度である。なお、疎水層12の不織布は、本発明の効果を阻害しない範囲で、非疎水性繊維(親水性繊維)を含んでいてもよい。非疎水性繊維の割合は、疎水性繊維100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下(例えば、0.001〜0.1質量部程度)であってもよい。
【0047】
疎水層12の不織布(又は不織布を構成する各繊維)は、繊維以外の成分、例えば、慣用の添加剤(安定剤、難燃剤、撥水剤、防虫剤、防カビ剤など)を含有していてもよい。
【0048】
疎水層12の厚み(エンボス凹部12aが形成されていない領域の厚み)(平均厚み)は、特に制限されず、例えば、0.4〜1.4mm、好ましくは0.5〜1mm、さらに好ましくは0.6〜0.8mm程度である。
【0049】
疎水層12を形成する不織布は、慣用の方法、例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、スパンボンド法、メルトブローン法などにより製造できる。これらの方法のうち、嵩高い不織布を容易に生産できる点から、スパンボンド法が好ましい。また、スパンボンド法では、紡糸工程由来の親水性油剤が混入しないため、疎水性繊維の撥水性を向上できる。なお、本発明では、エンボス凹部を形成するため、スパンボンド法でも強度を保持できる。
【0050】
不織布(又は積層ウェブ)にエンボス凹部12aを形成する方法としては、特に制限されず、例えば、超音波法であってもよいが、エンボス加工法(エンボスロールを用いた熱融着法)が汎用される。エンボスロールのエンボス模様(柄)は、エンボス凹部12aの形態に対応し、所望の形態に応じて適宜選択できる。エンボスロールの温度は、疎水性繊維の融点に応じて適宜選択でき、例えば、70〜250℃、好ましくは80〜240℃、さらに好ましくは90〜230℃程度であってもよく、通常、100〜220℃程度である。エンボスロール/フラットロール間の圧力(線圧)は、特に制限されず、例えば、20〜90kg/cm、好ましくは25〜85kg/cm程度であってもよい。
【0051】
なお、不織布は、未延伸であってもよく、強度を向上させる点から、所定の倍率で延伸(一軸又は二軸延伸)されていてもよい。
【0052】
防水層11は、疎水層12の前衛で表面全体から雨水や雪水の浸入を遮断でき、釘穴止水性も向上できる。このような防水層は、耐水圧が、JIS L 1092に準拠して、4kPa以上(例えば、5kPa以上)であればよく、例えば、4〜20kPa、好ましくは4.5〜18kPa、さらに好ましくは5〜15kPa程度であってもよい。
【0053】
防水層11は、上記の耐水圧を有していれば、特に制限されず、ポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成されていてもよい。透明性、軽量性、折曲加工性などの観点から、防水層はポリエチレン系樹脂フィルム単独で形成するのが好ましい。
【0054】
アスファルト含浸紙において、アスファルトとしては、天然アスファルト(例えば、レイクアスファルト、ロックアスファルト、オイルサンド、アスファルトタイトなど)、石油アスファルト(例えば、ストレートアスファルト、ブローンアスファルトなど)などが例示できる。これらのアスファルトは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0055】
また、上記のアスファルトは、改質剤と組み合わせることにより、改質アスファルトとして使用してもよい。改質剤としては、例えば、熱可塑性樹脂[例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル系樹脂(エチレン−アクリル酸共重合体など)、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン−ジエン系共重合体など)、ポリアミド系樹脂など]、無機充填剤[例えば、粉粒状充填剤(タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、硅藻土、硅砂、軽石粉など)、繊維状充填剤(ガラス繊維など)など]などが例示できる。これらの改質剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。改質剤の割合は、アスファルト100質量部に対して、例えば、0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部程度であってもよい。
【0056】
アスファルト含浸紙の少なくとも一方の面には、鉱物質粒子層が形成されていてもよい。鉱物質粒子層は、通常、基材(例えば、上記のアスファルト、上記の改質剤として例示した熱可塑性樹脂など)と鉱物質粒子(例えば、カオリン、硅砂、硅藻土、タルク、螢石など)とを含んでおり、これらの成分を含む塗工液をアスファルト含浸紙に塗布することにより形成できる。
【0057】
代表的なアスファルト含浸紙としては、例えば、アスファルトフェルト8k、アスファルトフェルト17k、JIS A6005に適合するアスファルトフェルト(アスファルトフェルト430など)などが例示できる。
【0058】
アスファルト含浸紙の単位面積当たりの質量は、例えば、100〜500g/m、好ましくは150〜450g/m程度であってもよく、軽量性の点から、100〜400g/m、好ましくは120〜300g/m(例えば、150〜250g/m)程度であってもよい。
【0059】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよいが、防水性の点からは、積層フィルム(2層フィルム、3層以上の多層フィルムなど)が好ましい。積層フィルムは、第1のポリエチレン系樹脂を含む基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面(好ましくは両面)に積層され、かつ第2のポリエチレン系樹脂を含む被覆層とを備えている。
【0060】
第1のポリエチレン系樹脂は、エチレン単独重合体の他、エチレン系共重合体であってもよい。共重合性単量体としては、エチレン以外のα−オレフィン[例えば、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテン、4−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−C3−10オレフィン(特にα−C3−6オレフィン)など]、酢酸ビニルなどの有機酸ビニルエステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどの(メタ)アクリル酸系単量体、これらの組合せなどが例示できる。
【0061】
エチレン系共重合体において、エチレンと共重合性単量体(例えば、エチレン以外のα−オレフィン)との割合(モル比)は、前者/後者=70/30〜99.9/0.1、好ましくは80/20〜99.5/0.5、さらに好ましくは90/10〜99/1程度である。
【0062】
ポリエチレン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン(例えば、直鎖状低密度ポリエチレンなど)、分岐鎖状ポリエチレン、アイオノマー、塩素化ポリエチレンなどであってもよい。
【0063】
これらの第1のポリエチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの第1のポリエチレン系樹脂のうち、透明性、機械的強度の点から、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0064】
基材フィルムは、第1のポリエチレン系樹脂単独で形成してもよく、第1のポリエチレン系樹脂以外の成分(添加剤など)を含んでいてもよい。
【0065】
基材フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、10〜100μm、好ましくは15〜90μm、さらに好ましくは20〜80μm程度である。
【0066】
第2のポリエチレン系樹脂としては、第1のポリエチレン系樹脂と同様の樹脂[例えば、エチレン単独重合体、エチレンと共重合性単量体(例えば、エチレン以外のα−オレフィンなど)とのエチレン系共重合体など]が例示でき、好ましいポリエチレン系樹脂も同様である。なお、第1及び第2のポリエチレン系樹脂の種類は、同一又は異なっていてもよい。
【0067】
被覆層は、第2のポリエチレン系樹脂単独で形成してもよいが、第2のポリエチレン系樹脂以外の成分(添加剤など)を含んでいてもよい。被覆層に含有する添加剤としては、安定剤及び撥水剤から選択された少なくとも一種の添加剤が好ましい。
【0068】
安定剤としては、光安定剤又は紫外線吸収剤[例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのセバシン酸エステル類など)、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン系光安定剤など]、酸化防止剤[例えば、フェノール系酸化防止剤(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤など)、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネートなどのチオジカルボン酸ジアルキルエステルなど)など]、熱安定剤[例えば、エスファイト系熱安定剤、硫黄系熱安定剤、ヒドロキシアミン系熱安定剤など]などが例示できる。これらの安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの安定剤のうち、ヒンダードアミン系光安定剤などの光安定剤が汎用される。
【0069】
安定剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.001〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0070】
撥水剤としては、非疎水性繊維の撥水加工に供する撥水剤として例示した成分と同様の成分、例えば、フッ素樹脂、シリコーンオイル、ワックス、脂肪酸エステル(高級脂肪酸エステルなど)、脂肪酸アミド(高級脂肪酸アミドアミドなど)などが例示できる。これらの撥水剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
撥水剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度である。
【0072】
被覆層の厚みは、特に限定されず、例えば、1〜50μm、好ましくは2〜45μm、さらに好ましくは3〜40μm程度である。
【0073】
基材フィルムの厚みは、被覆層の厚みに対して、例えば、0.5〜10倍、好ましくは1〜5倍程度である。
【0074】
なお、積層フィルムは、基材フィルム及び被覆層以外に、他の層(例えば、基材フィルムと被覆層とを接着するための接着層など)を有していてもよい。
【0075】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、強度を向上させる点から、延伸(一軸又は二軸)フィルムであってもよい。
【0076】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、断熱性を確保するため、気密性を有していてもよく(非多孔質であってもよく)、結露を防止するため、透湿性を有していてもよい(多孔質であってもよい)。
【0077】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、市販品を使用してもよく、慣用の方法により調製してもよい。ポリエチレン系樹脂フィルムは、例えば、各層の各成分を混合して樹脂組成物を調製した後、慣用の方法によりフィルム状に成形することにより製造できる。樹脂組成物は、各成分の粉粒体の混合物であってもよく、各成分を混練して調製してもよい。混練は、慣用の方法を用いることができ、例えば、各成分をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで乾式混合し、単軸又は二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの慣用の溶融混合機に供給して溶融混練することができる。
【0078】
フィルム状に成形する方法としては、例えば、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(T−ダイ)、円筒状(サーキュラダイ)等)法、インフレーション法など]などの押出成形法などが挙げられる。なお、ポリエチレン系積層フィルムは、得られた各フィルムをヒートラミネーションやドライラミネーションなどの方法により積層してもよいが、各構成層用の樹脂組成物を共押出する方法により積層してもよい。
【0079】
防水層11の厚みは、例えば、10〜150μm、好ましくは20〜120μm、さらに好ましくは40〜100μm(例えば、50〜100μm)程度である。
【0080】
なお、防水層11と疎水層12との間には、層間接着性を向上させるため、接着層又は粘着層を介在させてもよい。接着層は、慣用の接着剤(又は粘着剤)を含んでいる。接着剤(又は粘着剤)としては、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アスファルト(防水層の項で例示したアスファルトなど)などが挙げられる。これらの接着剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの接着剤のうち、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂など)、アクリル系樹脂が汎用される。なお、接着剤は、水溶性であってもよく、非水溶性であってもよい。また、接着剤は、蒸発型接着剤(溶液型接着剤、ラテックス又はエマルジョン型接着剤など)であってもよく、ホットメルト接着性樹脂などであってもよい。前記ホットメルト接着性樹脂は、繊維状の形態(接着性繊維)であってもよい。
【0081】
接着層は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、慣用の添加剤、例えば、溶剤(又は分散剤)、可塑剤、充填剤、粘着付与剤、保護コロイド、増粘剤、老化防止剤、消泡剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0082】
接着層の厚みは、例えば、0.005〜0.5mm、好ましくは0.01〜0.3mm、さらに好ましくは0.015〜0.1mm程度である。
【0083】
疎水層12の裏面(防水層11側の面と反対の面)には、防水シートの固定に必要な釘の総本数を低減するため、上記と同様の接着層又は粘着層を形成していてもよい。また、疎水層12の裏面に形成される接着層には、防水シートの施工前に目的の被着体以外に接着するのを防止するため、剥離層を形成してもよい。剥離層としては、慣用の剥離シート、例えば、表面に剥離剤(シリコーン樹脂など)が処理されていてもよい紙又はプラスチックシートなどが例示できる。
【0084】
防水層11の表面(疎水層12側の面とは反対の面)には、施工時の作業環境を向上させる点から、防滑層を形成してもよい。防滑層は、下地の傾斜角度に対応する摩擦係数を有する限り、特に制限されず、例えば、上記と同様の接着層(又は粘着層)、微粒子層などが例示できる。微粒子層としては、通常、基材(前記に例示の熱可塑性樹脂など)と微粒子(鉱物質粒子、プラスチック粒子など)とを含んでおり、これらの成分を含む塗工液を塗布することにより形成される。
【0085】
図5は、本発明の防水シートの他の例を示す概略部分断面図である。図5に示す防水シートは、防水層21の上面(疎水層22側の面とは反対の面)に、疎水性不織布で構成された保護層23が形成されている以外、図2と同様に構成されている。
【0086】
この例では、保護層23の下面(防水層21側の面)に、複数のエンボス凹部23aが互いに間隔をおいて形成されている。なお、エンボス凹部23aの形態、複数のエンボス凹部23aの配列パターンなどは、エンボス凹部22aと同様である。
【0087】
図5に示す防水シートは、防水層21の上に疎水性の保護層23が積層されており、釘打ちに伴って、防水層21のみならず保護層23もエンボス凹部22aに進入する(エンボス凹部22aの形状に追従する)ためか、釘の軸周りの隙間を低減でき、釘穴止水性をより一層向上できるとともに、防水層21を構成するフィルムの破れなどを防止できる。
【0088】
なお、保護層23には、エンボス凹部23aを形成しなくてもよく、保護層23を貫通する釘の軸周りの隙間を低減するため、エンボス凹部23aを形成してもよい。また、エンボス凹部23aは、保護層23の上面(防水層21側の面とは反対の面)で開口(上向きに開口)してもよいが、釘穴シーリング性の観点から、保護層23の下面(防水層21側の面)で開口(下向きに開口)するのが好ましい。さらに、エンボス凹部23aは、疎水層12のエンボス凹部12aの項で例示した要素(例えば、複数のエンボス凹部の配列パターン、互いに隣接するエンボス凹部の平均間隔、エンボス凹部の数密度など)と同一の又は異なる要素を有していてもよい。
【0089】
保護層23は、防水層21の破れを防止できるとともに、雨水の浸透なども防止できる限り、特に制限されず、疎水性不織布で構成してもよく、金属又は金属化合物の薄膜や、この薄膜を含む積層シートなどで構成してもよい。薄膜を形成可能な金属又は金属化合物としては、例えば、周期表3B族元素(アルミニウムなど)、周期表4B族元素(珪素など)、これらの酸化物、窒化物などが例示できる。なお、金属又は金属化合物の薄膜を形成する方法としては、慣用の成膜法、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理的気相法;CVDなどの化学的気相法などが例示できる。
【0090】
金属又は金属化合物の薄膜を含む積層シートとしては、上記薄膜が形成された樹脂シート[例えば、オレフィン系樹脂シート(例えば、防水層11の項で例示したポリエチレン系樹脂、疎水層12の項で例示したポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂で構成された樹脂シートなど)、スチレン系樹脂シートなどの疎水性樹脂シート]などが例示できる。
【0091】
なお、保護層23をポリエステル不織布などの親水性不織布(又は吸水性不織布)で形成すると、釘穴止水性が低下する場合が多い。
【0092】
図5に示す防水シートは、図2に示す防水シート同様、疎水層22の裏面(防水層21側の面とは反対の面)に接着層又は粘着層を形成してもよい。また、防水層21と疎水層22との間及び/又は防水層21と保護層23との間には、層間接着性を向上させるため、接着層又は粘着層を形成してもよい。さらに、保護層23の上面(防水層21側の面とは反対の面)には、防滑層を形成してもよい。
【0093】
本発明の防水シートは、必要により中間層(接着層など)を介して、疎水層と防水層とが積層された防水シート本体のみで構成してもよく、防水シート本体と、(i)防水シート本体の防水層の面に積層された疎水性(非吸水性)の保護層、(ii)防水シート本体の疎水層の面に積層された粘着層、及び/又は(iii)防水シート本体の防水層又は保護層の面に積層された防滑層とで構成してもよい。
【0094】
本発明の防水シート(積層防水シート)は、防水性(耐水性)に優れ、耐水圧は、JIS L 1092に準拠して、5kPa以上、好ましくは10〜150kPa、さらに好ましくは15〜100kPa程度である。
【0095】
防水シートの厚みは、例えば、0.45〜2mm、好ましくは0.5〜1.5mm、さらに好ましくは0.8〜1.2mm程度である。
【0096】
なお、防水シートは、図1の瓦葺き屋根に代表される屋根構造に限定されず、種々の建築物又は構造物に適用できる。より具体的には、建築物又は構造物としては、例えば、住宅、仮設住宅などのプレハブ、オフィス、宿泊施設(旅館、ロッジなど)、娯楽施設(美術館、博物館、劇場、競技場など)、商業施設、観光施設、駅、空港などが例示できる。本発明では、下地板の腐食を有効に防止できるため、木造の建築物又は構造物であっても、好適に利用できる。また、防水シートは、上記の建築物又は構造物の構成部材のうち、少なくとも一部の部材、例えば、屋根(陸屋根、勾配屋根)、庇、天井、壁、サッシ、床などに適用でき、好ましくは屋根や外壁(特に屋根)に適用できる。
【0097】
本発明の防水シートは、建築物又は構造物の下地を被覆するために利用され、通常、仕上げ材と下地との間に介在させる。また、本発明の防水シートは、釘穴シーリング性に優れるため、釘で下地に固定する用途に好適に利用できる。下地に固定するための釘としては、特に制限されず、例えば、ストレート釘、ステープル釘、リング釘、スクリュー釘などが例示できる。これらの釘のうち、リング釘[例えば、アスファルトルーフィング工業会「改質アスファルトルーフィング下葺き材」ARK 04−03:2006に記載のリング釘(軸部(ネジ部)の平均径:3.2mm、足部の長さ:32mm)など]では、ネジ部に対して疎水層の不織布繊維が絡み付く度合いが大きいためか、釘穴シーリング性を顕著に向上できる。
【0098】
釘の軸部の平均径は、例えば、5mm以下、好ましくは0.5〜4.5mm、さらに好ましくは1〜4mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。特に、リング釘では、不織布繊維との絡み合いの点から、ネジ部において山部と谷部との差が、例えば、0.01〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.8mm程度であってもよい。
【0099】
本発明の防水シートは、慣用の方法を利用して、凹部が形成された疎水層と、防水層とを積層することにより得ることができる。積層方法としては、凹部の形状が保持できる限り、特に制限されず、例えば、接着層を介して各層を積層する方法(例えば、ホットメルトラミネーション法、ドライラミネーション法など)であってもよく、接着層を介さず各層を積層する方法(例えば、押出ラミネート法など)であってもよい。なお、防水層として透湿フィルムを利用するとき、透湿性を確保するため、防水層と疎水層との間を部分接着するのが好ましい。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0101】
[耐水圧]
耐水圧は、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験」に準拠して、実施例及び比較例の防水層に水圧をかけ、表面から水滴が3箇所浸出したときの水圧を測定することにより、評価した。
【0102】
[釘穴シーリング性]
釘穴シーリング性は、アスファルトルーフィング工業会「改質アスファルトルーフィング下葺き材 ARK 04s−03:2006」に準じて評価した。具体的には、100mm×100mmの耐水合板(厚さ12mm)の上に、実施例及び比較例で得られた防水シートを置き、釘頭が前記防水シートの約10mm上方にくるまで、リング釘(軸部の平均径:3.2mm、足部の長さ:32mm)を真っ直ぐ打って固定した。防水シートの上に40mmに切断したポリ塩化ビニル製管(内径40mm)を、釘穴の位置が前記管の切断面中央部に位置するように置いた。ポリ塩化ビニル製管と防水シートの接触部分をシーリング材でシールし、シーリング材を硬化させて試験体を作製した。試験体のポリ塩化ビニル製管に水を注入し(水頭30mm)、24時間静置した後、漏水の有無を確認した。10個の試験体のうち、漏水が生じた試験体の数(漏水個数)をカウントすることにより、釘穴シーリング性を評価した。
【0103】
[防水層]
A:ポリエチレン気密フィルム[3層インフレーションフィルム、基材層(組成:直鎖状低密度ポリエチレン100重量部、厚み:20μm)、被覆層(組成:直鎖状低密度ポリエチレン98重量部、耐候剤(東京インキ(株)製、PEX UVT−54、ヒンダードアミン系光安定剤)2重量部、厚み:20μm)]
B:ポリエチレン透湿フィルム[充填剤(炭酸カルシウム)と安定剤(酸化チタン、ヒンダードアミン系光安定剤)とを含むポリエチレンフィルムを延伸し、多孔化した多孔質フィルム、厚み:40μm、目付:40g/m、透湿度:6500g/m/day、融点:125℃]
C:アスファルトフェルト8k(1巻きの長さ:42m、1巻きの重量:約8.5kg、mあたりの重量:約200g)
D:アスファルトフェルト430(1巻きの長さ:42m、1巻きの重量:約20kg、mあたりの重量:約480g)
[疎水層又は保護層]
PP:ポリプロピレン不織布(エンボス径1100μm、隣接するエンボス凹部同士の平均間隔500μm、エンボス凹部の数密度52個/cm、目付60〜150g/m、密度0.22g/cm
PES:ポリエステル不織布(エンボス径1500μm、隣接するエンボス凹部同士の平均間隔1200μm、エンボス凹部の数密度28個/cm、目付60〜120g/m、密度0.2g/cm
Al蒸着PP:片面にアルミニウム蒸着膜が形成されたポリプロピレン樹脂シート(厚み20μm)。
【0104】
実施例1〜7及び比較例1〜7
表1に示す「疎水層の接着面」の向きに従って、防水層と疎水層とをアクリルエマルジョン系接着剤で接着して積層し、さらに、実施例3及び4では、表1に示す「保護層の接着面」の向きに従って、保護層と防水層とをアクリルエマルジョン系接着剤で接着して積層することにより、防水シートを作製した。防水シートの評価結果を表1に示す。
【0105】
なお、図6は、比較例1の防水シートを示す概略部分断面図である。図6では、疎水層32の一方の面に、複数のエンボス凹部32aが互いに間隔をおいて規則的に形成されており、疎水層32の他方の面に防水層31が形成されている。
【0106】
【表1】

【0107】
なお、表1中、疎水層の接着面において、「内」とは、エンボス凹部の開口部が防水層側の面に形成されていることを意味し(図2参照)、「外」とは、エンボス凹部の開口部が、防水層側の面とは反対の面に形成されていることを意味する(図6参照)。
【0108】
表1から明らかなように、比較例に比べ、実施例では釘穴シーリング性が優れている。より具体的には、実施例1と比較例2と比較例4との対比から明らかなように、疎水層の目付が小さくなると、漏水個数が3〜4倍も多くなり、釘穴シーリング性が低下する。また、実施例1と比較例5との対比から明らかなように、疎水層の接着面が「内」ではなく「外」であると、防水層が釘に沿うように進入するため、釘との密着性が低下し、水路が生成するためか、漏水個数が3倍も多くなり、釘穴シーリング性が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の防水シートは、高い防水性を有するため、建築物又は構造物の下地を被覆するために好適に利用できる。特に、本発明の防水シートは、釘穴シーリング性に優れるため、下地に対して釘で固定する用途に適している。
【符号の説明】
【0110】
1…柱
2…軒げた
3…陸梁
4…小屋づか
5…母屋
6…垂木
7…野地板
8…防水シート
9…瓦桟
10…瓦
11、21、31…防水層
12、22、32…疎水層
23…保護層
12a、22a、23a、32a…エンボス凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物又は構造物の下地を被覆するための防水シートであって、耐水圧4kPa以上の防水層の少なくとも一方の面に、目付120〜300g/mの疎水性不織布で構成された疎水層が形成されており、前記疎水層の防水層側の面に、複数のエンボス凹部が縦横方向に間隔をおいて形成されている防水シート。
【請求項2】
複数のエンボス凹部が縦横方向に等間隔で形成されている請求項1記載の防水シート。
【請求項3】
互いに隣接するエンボス凹部の平均間隔が、10〜3000μmである請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項4】
エンボス凹部の数密度が、10〜200個/cmである請求項1〜3のいずれかに記載の防水シート。
【請求項5】
エンボス凹部が、防水層側の面で開口した開口部から垂下又は下方向にいくにつれて狭まり底部に至る形態で形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の防水シート。
【請求項6】
防水層が、ポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の防水シート。
【請求項7】
疎水性不織布がポリプロピレン系繊維で構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の防水シート。
【請求項8】
防水層の面に保護層が形成されており、前記保護層が、疎水性不織布、金属又は金属化合物の薄膜、及び金属又は金属化合物の薄膜が形成された樹脂シートから選択された少なくとも一種で構成されている請求項1〜7のいずれかに記載の防水シート。
【請求項9】
疎水層の面に粘着層が形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の防水シート。
【請求項10】
防水層又は保護層の面に防滑層が形成されている請求項1〜9のいずれかに記載の防水シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100648(P2013−100648A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243800(P2011−243800)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(591260513)七王工業株式会社 (11)
【出願人】(000214043)蝶理株式会社 (14)