防水床パン
【課題】床面に水が残りにくく、床面が短時間で乾燥状態となるとともに、清掃性に富んだ防水床パンを提供することを目的としている。
【解決手段】表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴としている。
【解決手段】表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室の洗い場やシャワー室の床を形成するのに用いられる防水床パンに関する。
【背景技術】
【0002】
浴室の洗い場やシャワー室の床は、表面に水が残っていると、滑りやすい、また、清掃などの際に足をぬらしてしまうため、床面に落ちた水ができるだけ迅速に排水されるとともに、乾燥しやすい構造であることが求められている。
そこで、(1)床面に排水口に連通する流れ勾配を有する複数の目地が網目状に配設され、目地で区画された各区画部が多角錘形状あるいは曲面をした凸面形状をしていて、区画部上に落ちた水が周囲の目地に向かって流れるようにした防水床パン(例えば、特許文献1、2参照)や、(2)平面状をした基準床面を細かい目地溝で区切るとともに、目地で区切られた各区画部表面を表面粗さ1.0〜5.0μm程度の微細凹凸形状とした防水床パン(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記(1)及び(2)の防水床パンの場合、以下のような問題がある。
すなわち、上記(1)の防水床パンは、区画部が凸面形状をしていて、凸面の傾斜によって区画部上に落ちた水が周囲の目地に向かって流れるため、床面全体の乾燥を速めることが可能であるが、区画部の面積を大きくすると歩行感が悪化しやすくなる。一方、区画部の面積を大きくしても区画部表面の凸面の各面に傾斜を緩くしたり、凸面の曲率を大きくしたりすると、歩行感が悪化することがないが、勾配が緩すぎて区画部上の水が表面張力によって区画部表面に残ってしまうという問題がある。他方、区画部の面積を小さくすると上記のような問題が解消されるものの目地部分の清掃性に問題が生じる。
上記(2)の防水床パンは、区画部の面積を極小さいものにしなければ区画部の表面に水溜りが発生してしまう。したがって目地部分の清掃性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−16843号公報
【特許文献2】特開2003−176558号公報
【特許文献3】特開2003−166269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、床面に水が残りにくく、床面が短時間で乾燥状態となるとともに、清掃性に富んだ防水床パンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる防水床パンは、表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴としている。
【0007】
本発明の防水床パンは、特に限定されないが、品質、耐久性、コストから一般的にSMC(シートモールドコンパウンド)をプレス成形して得られる繊維強化プラスチック成形品が好適である。
【0008】
本発明において、わずかな親水性を示すとは、平板状にした場合、この平板表面に水を滴下したときの接触角が65〜85度になることを意味する。
なお、上記親水性を付与する方法としては、防水床パンを構成する材料をわずかな親水性を示すものを用いる方法、樹脂中に親水処理剤を添加した状態で成形する方法、成形後に成形品表面に親水性塗料を塗布する方法、成形後に成形品表面を粗面化する方法等が挙げられる。
【0009】
本発明において、基準床面は、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有するが、具体的には、特に限定されないが、20/1000〜40/1000程度の勾配とすることが好ましい。
【0010】
本発明において、1つの区画部は、区画部を囲む谷部のピッチが平面視にて半径10mmの円の一部が必ず谷部のどこかに接触するピッチの谷部に囲まれた大きさに限定されるが、その理由は、区画部が大きすぎると、区画部上の水が突起に誘引されず、区画部上に残ってしまうためである。なお、清掃性を考慮すると、1つの区画部面積は、少なくとも半径4mmの円内からはみ出る大きさ(または160mm2)以上にすることが好ましい。
【0011】
本発明において、突起による区画部上に落下した水の誘引効果とは、突起によって生じる水への誘引張力(「固体の材質による表面自由エネルギーと水の表面自由エネルギーによる表面張力によって水を誘引する表面張力」と 「固体形状によって増加する水を誘引する表面張力」を含めたもの)によって水を引きつける効果を意味する。
【0012】
また、上記突起は、高さが0.05〜1.0mmで、区画部表面からの突起壁面の立ち上がり角度が93〜135度であるとともに、平面視にて突起を含む半径2mmの円の一部が必ず区画部上面へ接触する大きさであることが好ましい。
【0013】
すなわち、突起の高さが0.05mm未満では、十分な誘引効果を発揮できず、高さが1.0mmを超えると、足の裏に違和感を覚えるおそれがある。
区画部表面からの突起壁面の立ち上がり角度が93度を下回ると、誘引効果がつよすぎて、区画部表面と突起壁面とコーナー部に残ってしまい、135度を超えると、誘引効果が不十分となるおそれがある。
また、突起の大きさが大きすぎると、隣接する谷部に対して突起の裏側に誘引された水が突起を回り込んで谷部側に誘導されず、そのまま残ってしまうおそれがある。
【0014】
また、1つの区画部上に、最大高さが0.1〜1.0mmの大きな突起(以下、「大突起」と記す)と、最大高さが0.05〜0.1mmの小さな突起(以下、「小突起」と記す)と、を備えるようにしてもよい。
すなわち、大突起はその高さの為、水を引き寄せる力が大きくなるが、投影面積が小さくすると折れるなど成形性を考えると、自然と投影面積の大きい幅広のものとなる。それに対して、小突起は高さが低い為、水を引き寄せる力は小さくなるが、小さい投影面積で作製することができ、その数にて水を引き寄せる力を上げることができる。
よって、これらを組み合わせることでより水の排水を促し、水溜りを発生しにくくすることが出来る。
【0015】
また、谷部に隣接して設けられる突起の形状及び高さは、以下に述べるようにして求められる隆起誘引断面積S1が、谷部の断面積S2より小さくなるように形成することが好ましい。
〔隆起誘引断面積S1の求め方〕
(1)図11に示すように、区画部5部分の基準レベル(基準床面のレベル)L0から突起7の最高点までの高さHに対して区画部5部分の基準レベルL0から90%の高さ位置を通る水平線L1と、突起7の壁面との交点を点aとする。
なお、基準レベルL0は区画部5の表面の任意の10点の平均レベルである。
(2)点aから垂線L2を下ろし、この垂線L2と、区画部5部分の基準レベルL0から高さHの10%の高さ位置を通る水平線L3との交点を点bとする。
(3)水平線L3の突起7の壁面と交点を点cとする。
(4)水平線L3上の、点bから点cを通り、点bからの距離が水平線L1と水平線L3の距離と同じである位置を点dとする。
(5)図12に示すように、点a、点c及び点dで囲まれた三角形acdの面積を隆起誘引断面積S1とする。
〔谷部の断面積S2の求め方〕
(1)図11に示すように、上記基準レベルL0から谷部4の底までの深さをDとし、Dの10%の位置を通る水平線L4と谷部の一方の側壁との交点を点eとし、他方の側壁との交点を点fとする。
(2)上記深さDの90%の位置を通る水平線L5と谷部の一方の側壁との交点を点gとし、他方の側壁との交点を点hとする。
(3)図13に示すように、点e、点f、点h及び点gで囲まれた四角形efhgの面積を断面積S2とする。
【0016】
本発明において、谷部に隣接して設けられる突起は、水が途切れるときの水位0.05mmとの関係において、谷部との最短距離LxがLX≦4×(S1)0.25を満足することが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
すなわち、突起は、谷部との最短距離LXが長いと、谷部の水の凝集力によって区画部上の水をうまく谷部側に誘導できず、結果水が途切れて区画部上に残ってしまうおそれがある。
【0017】
一方、1つの区画部上に複数の突起が設けられる場合、突起と突起との距離LYがLY≦32×(S1)0.27を満足することが好ましい。
すなわち、突起間の距離LYが長いと、突起による誘引張力が突起と突起の中間部分まで影響せず、水が中間部分で途切れて区画部上に残ってしまうおそれがある。
【0018】
本発明において、谷部の断面形状としては、谷部の水の凝集力によって区画部上の水をうまく谷部側に誘導できれば特に限定されないが、基準床面からの深さを0.4〜0.8mm、幅を0.5〜1.0mmで、側壁面と底面とのなす角度を93〜135度とすることが好ましい。
すなわち、谷部の深さが0.4mmより浅いと、谷部に入り込んだ水が途切れてうまく排水口に排水されず、谷部の深さが0.8mmより深いと、谷部内に溜まった汚れが除去し難くなるおそれがある。側壁面と底面とのなす角度が93度より小さいと成形型から製品を外れ難くなり、外れたときにも不具合が発生し易くなり、角度が135度より大きすぎると水溜りを形成し易くなり、結果水が途切れ易くなるおそれがある。谷部の幅が0.5mm未満であれば清掃性が悪くなり、1.0mmを超えると水溜りを形成し易くなり、水が途切れ易くなるおそれがある。
また、谷部の底は、特に限定されないが、基準床面の流れ勾配に平行になっていることが好ましい。
【0019】
さらに、谷部が占める面積は、床面全体の5〜20%であることが好ましい。
すなわち、谷部が占める面積が、床面全体の5%未満であると、谷部内の水の凝集力によって区画部上の水を排水できなくなり、20%を超えると谷部内に溜まる水の量が多くなり、乾燥時間が長くなるおそれがある。
【0020】
また、各区画部は、谷部との境界から0.05〜1mm区画部の内側に入った部分から膨出する突部を有し、この突部の上に突起が形成されていても構わない。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる防水床パンは、以上のように、表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにした。
【0022】
したがって、各区画部上に残った水のうち、谷部を跨ぐように水溜り状に残った水については、素早く谷部を介して排水口または排水溝に排水される。すなわち、区画部上に殆ど水が残らず、床面を素早く乾燥することができる。
すなわち、区画部表面では、表面張力によって水がその場で凝集しようとするが、突起によって発生する誘引張力の方が上記表面張力より大きいため、区画部表面の水は、突起の誘引張力によって突起の方へ誘引される。一方、この突起による誘引張力は、谷部内に溜まった水の凝集力より力が小さいので、突起の誘引張力によって突起の周囲に誘引された水がさらに谷部側に誘引され、排水される。
【0023】
また、谷部が格子状に設けられているので、スポンジ等による清掃時において、2方向に擦ることだけで容易に谷部内を清掃することができる。すなわち、床面を短い清掃時間できれいに清掃することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる防水床パンの第1の実施の形態の平面図である。
【図2】図1の防水床パンの断面図である。
【図3】図1の防水床パンの床面を拡大してあらわし、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のI−I線断面図、同図(c)は同図(a)のII−II線断面図である。
【図4】図1の防止床パンの床面に落ちた水の排水メカニズムを模式的に説明する拡大平面図である。
【図5】図4の状態から排水が進んだ状態を模式的に説明する拡大平面図である。
【図6】図5の状態から排水が進んだ状態を模式的に説明する拡大平面図である。
【図7】本発明にかかる防水床パンの第2の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のIII−III線断面図、同図(c)は同図(a)のIV−IV線断面図である。
【図8】本発明にかかる防水床パンの第3の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のV−V線断面図、同図(c)は同図(a)のVI−VI線断面図である。
【図9】本発明にかかる防水床パンの第4の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のVII−VII線断面図、同図(c)は同図(a)のVIII−VIII線断面図である。
【図10】比較例1で用いたサンプル板材であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のIX−IX線断面図、同図(c)は同図(a)のX−X線断面図である。
【図11】隆起誘引断面積S1と谷部の断面積S2の測定方法を説明する説明図である。
【図12】隆起誘引断面積S1を説明する説明図である。
【図13】谷部の断面積S2を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1〜図3は、本発明にかかる防水床パンの第1の実施の形態をあらわしている。
【0026】
図1及び図2に示すように、この防水床パン1aは、平板を成形したとき、その平面の水の接触角が65〜85度であるわずかな親水性を示すSMCを熱プレス成形して得られ、床面2が平面視長方形をしていて、長方形の一方の長辺の中央部に設けられた排水口11に向かって20/1000〜40/1000の流れ勾配に形成された3つの基準床面3を備えている。
そして、各基準床面3は、図1及び図3に示すように、排水口11が設けられた長辺に直交する方向に等間隔であるいは長辺に平行方向に等間隔で格子状に設けられた谷部4によって、区切られた多数の略長方形をした区画部5に分かれている。
【0027】
各区画部5は、長辺の長さが、5〜50mm、短辺の長さが5〜20mmをしていて、その長辺側が防水床パン1aの排水口11が設けられた長辺に平行になっている。すなわち、各区画部5は、半径10mmの円が必ず谷部4にかかる大きさになっている。また、各区画部5は、長辺と短辺とのコーナー部が0.5Rのアール形状となっている。
各区画部5は、周囲から1mm内側に入った位置で基準床面3から段状に膨出するテーブル上の突部6aを備えている。
突部6aは、高さが0.1〜1.0mmで、基準床面3からの立ち上がり角度が93〜135度になっている。
また、この突部6aの表面には、四隅近傍及び長辺側に沿って等間隔に、合計10個の突起7aが突設されている。
【0028】
各突起7aは、四角錘台形状をしていて、その側壁面と突部6aの上面とがなす角度が93〜135度となっている。
また、突起7aの下端の一辺の長さは、0.3〜10mmとなっている。すなわち、半径5mmの円内に収まる大きさをしている。
【0029】
突起7aの高さHは、0.1〜1.0mmとなっている。
また、突起7aと谷部4との最短距離LXは、2mm以下となっている。
突起7aと突起7aとの間の距離LYは、0.2〜2mmとなっている。
【0030】
谷部4は、断面台形をしていて、区画部5の上面を含む基準レベルL0からの深さDが0.4〜0.8mm、底とその側面とのなす角度が93〜135度になっている。
また、谷部4の底は、基準床面3の流れ勾配と平行になっている。
【0031】
この防水床パン1aは、上記のようになっており、床面3に落ちた水は、流量が多い場合には、床面の流れ勾配に沿って排水口11までスムーズに流れる。特に、突部6aを備え、水の多い場合は、谷部の上側に隣接する突部6aとの間に幅広の流路が形成されよりスムーズに排水される。
そして、流量が少なくなってくると、図4に示すように、床面の一部に水溜りW状に残るが、突起7aと突起7aとの間の突部6a上で表面張力によってその場で凝集しようとする力(細線の矢印で示す)が働く。一方、突起7a近傍では、突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)が水溜りWの水に誘引張力が働く。そして、突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)が、突部6a上で表面張力によってその場で凝集しようとする力(細線の矢印で示す)より大きいので、突起7aと突起7aとの間の突部6a上にある水は、近傍の突起7aに引き付けられる。
【0032】
他方、谷部4上および谷部4の近傍の水には、谷部4内の水による凝集力(太線の矢印で示す)が働く。そして、谷部4内の水による凝集力(太線の矢印で示す)が突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)より大きいので、突起7a近傍に誘引された水は、谷部4側に引っ張られる。
すなわち、図4〜図6に示すように、水溜りWが徐々に縮小し、区画部5上には水溜りが殆どない状態になる。したがって、床面が短時間で乾燥状態となる。
【0033】
また、谷部4が格子状に設けられているので、スポンジ等による清掃時において、2方向に擦ることだけで容易に谷部4内を清掃することができる。したがって、床面を短い清掃時間できれいに清掃することができる。
【0034】
図7は、本発明にかかる防水床パンの第2の実施の形態をあらわしている。
図7に示すように、この防水床パン1bは、突部6aが設けられておらず、上記防水床パン1aの突起7aと同じ大きさ、同じ形状の8つの大突起7bが直接区画部5上の基準床面3上に突起7aと同じパターンで設けられているとともに、大突起7bと相似形で、1/10スケールの多数の小突起7cが区画部5の基準床面3上に0.1〜0.2mmのピッチで突設されている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。
【0035】
この防水床パン1bは、以上のように、上記防水床パン1aの突起7aと同じ大突起7bを設ける以外に、水を引き寄せる力は小さくなるが、小さい投影面積で作製することができる小突起7cを多数設けたので、区画部5上の水をよりスムーズに谷部4側に誘引することができる。
【0036】
図8は、本発明にかかる防水床パンの第3の実施の形態をあらわしている。
図8に示すように、この防水床パン1cは、突部6aが設けられておらず、各区画部5が4つの突起7dを備え、突起7dが区画部5の長方形の短辺に沿って長い略四角錘台形状をしている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。
この防水床パン1cは、突起7dが長い略四角錘台形状をしているので、上記防水床パン1a,1bに比べ、浴室椅子の使用感が良いという利点を備えている。
【0037】
図9は、本発明にかかる防水床パンの第4の実施の形態をあらわしている。
図9に示すように、この防水床パン1dは、突部6bが、区画部5の周囲から内側に向かって1.5mm入った位置で基準床面3から段状に膨出しているとともに、この突部6bの上に平面視略小判形をした高さ0.3mmの4つの突起7eを等間隔で設けられている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。この防水床パン1dは、突部に圧力が集中するため、滑り難くなる。
【0038】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0039】
(実施例1)
図3に示す防水床パンの床面構造をした各部の寸法が以下のとおりであるサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕
長手方向の寸法:24mm
短手方向の寸法:9mm
〔突部6a〕
長手方向の寸法:21mm
短手方向の寸法:6mm
高さ:0.3mm
基準床面からの立ち上がり角度:120度
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:1.5mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:1.5mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:110度
【0040】
(実施例2)
各部の寸法が以下のとおりである。
図3に示す防水床パンの床面構造をしたサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕
長手方向の寸法:24mm
短手方向の寸法:9mm
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:2mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:2mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:110度
【0041】
(比較例1)
図10に示すように、突起7aを設けていない以外は、実施例1と同様のサンプル板材(接触角:80度)Sを、SMCを用いて熱プレス成形した。
【0042】
(比較例2)
図3に示す防水床パンの床面構造をした各部の寸法が以下のとおりであるサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕(10mmの円が谷部に接触しない大きさ)
長手方向の寸法:25mm
短手方向の寸法:25mm
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:22mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:1.5mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:120度
【0043】
上記実施例1,2及び比較例1,2で得られたサンプル板材(縦100mm×100mm)を、区画部5の一方の短辺に平行な方向に20/1000の勾配にそれぞれ傾斜させた状態で、スポイトで10mlの水道水をサンプル板材の表面に滴下したのち、区画5上に目視で水滴がなくなるまでの時間を測定し、その結果を以下の表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
上記表1から本発明の防水床パンによれば、水膜状態での流れと共に区画から流れ落ち、僅かに残ったときでも短時間で床面が乾くことがよくわかる。
なお、比較例1,2のサンプル板の場合、区画周縁部の水は、谷部側の水の凝集力によって略実施例1,2の同じ時間内に谷部に流れ込んだが、比較例1のサンプル板の場合、図10に示すように、区画中央部にある水wは引きちぎれて残ったままであった。また、比較例2のサンプル板の場合、比較例1よりは小さいもののやはり区画中央部に水wが残っていた。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b,1c,1d 防水床パン
11 排水口
3 基準床面
4 谷部
5 区画部
6a,6b 突部
7,7a,7d,7e 突起
7b 大突起
7c 小突起
W 水溜り
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室の洗い場やシャワー室の床を形成するのに用いられる防水床パンに関する。
【背景技術】
【0002】
浴室の洗い場やシャワー室の床は、表面に水が残っていると、滑りやすい、また、清掃などの際に足をぬらしてしまうため、床面に落ちた水ができるだけ迅速に排水されるとともに、乾燥しやすい構造であることが求められている。
そこで、(1)床面に排水口に連通する流れ勾配を有する複数の目地が網目状に配設され、目地で区画された各区画部が多角錘形状あるいは曲面をした凸面形状をしていて、区画部上に落ちた水が周囲の目地に向かって流れるようにした防水床パン(例えば、特許文献1、2参照)や、(2)平面状をした基準床面を細かい目地溝で区切るとともに、目地で区切られた各区画部表面を表面粗さ1.0〜5.0μm程度の微細凹凸形状とした防水床パン(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記(1)及び(2)の防水床パンの場合、以下のような問題がある。
すなわち、上記(1)の防水床パンは、区画部が凸面形状をしていて、凸面の傾斜によって区画部上に落ちた水が周囲の目地に向かって流れるため、床面全体の乾燥を速めることが可能であるが、区画部の面積を大きくすると歩行感が悪化しやすくなる。一方、区画部の面積を大きくしても区画部表面の凸面の各面に傾斜を緩くしたり、凸面の曲率を大きくしたりすると、歩行感が悪化することがないが、勾配が緩すぎて区画部上の水が表面張力によって区画部表面に残ってしまうという問題がある。他方、区画部の面積を小さくすると上記のような問題が解消されるものの目地部分の清掃性に問題が生じる。
上記(2)の防水床パンは、区画部の面積を極小さいものにしなければ区画部の表面に水溜りが発生してしまう。したがって目地部分の清掃性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−16843号公報
【特許文献2】特開2003−176558号公報
【特許文献3】特開2003−166269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、床面に水が残りにくく、床面が短時間で乾燥状態となるとともに、清掃性に富んだ防水床パンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる防水床パンは、表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴としている。
【0007】
本発明の防水床パンは、特に限定されないが、品質、耐久性、コストから一般的にSMC(シートモールドコンパウンド)をプレス成形して得られる繊維強化プラスチック成形品が好適である。
【0008】
本発明において、わずかな親水性を示すとは、平板状にした場合、この平板表面に水を滴下したときの接触角が65〜85度になることを意味する。
なお、上記親水性を付与する方法としては、防水床パンを構成する材料をわずかな親水性を示すものを用いる方法、樹脂中に親水処理剤を添加した状態で成形する方法、成形後に成形品表面に親水性塗料を塗布する方法、成形後に成形品表面を粗面化する方法等が挙げられる。
【0009】
本発明において、基準床面は、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有するが、具体的には、特に限定されないが、20/1000〜40/1000程度の勾配とすることが好ましい。
【0010】
本発明において、1つの区画部は、区画部を囲む谷部のピッチが平面視にて半径10mmの円の一部が必ず谷部のどこかに接触するピッチの谷部に囲まれた大きさに限定されるが、その理由は、区画部が大きすぎると、区画部上の水が突起に誘引されず、区画部上に残ってしまうためである。なお、清掃性を考慮すると、1つの区画部面積は、少なくとも半径4mmの円内からはみ出る大きさ(または160mm2)以上にすることが好ましい。
【0011】
本発明において、突起による区画部上に落下した水の誘引効果とは、突起によって生じる水への誘引張力(「固体の材質による表面自由エネルギーと水の表面自由エネルギーによる表面張力によって水を誘引する表面張力」と 「固体形状によって増加する水を誘引する表面張力」を含めたもの)によって水を引きつける効果を意味する。
【0012】
また、上記突起は、高さが0.05〜1.0mmで、区画部表面からの突起壁面の立ち上がり角度が93〜135度であるとともに、平面視にて突起を含む半径2mmの円の一部が必ず区画部上面へ接触する大きさであることが好ましい。
【0013】
すなわち、突起の高さが0.05mm未満では、十分な誘引効果を発揮できず、高さが1.0mmを超えると、足の裏に違和感を覚えるおそれがある。
区画部表面からの突起壁面の立ち上がり角度が93度を下回ると、誘引効果がつよすぎて、区画部表面と突起壁面とコーナー部に残ってしまい、135度を超えると、誘引効果が不十分となるおそれがある。
また、突起の大きさが大きすぎると、隣接する谷部に対して突起の裏側に誘引された水が突起を回り込んで谷部側に誘導されず、そのまま残ってしまうおそれがある。
【0014】
また、1つの区画部上に、最大高さが0.1〜1.0mmの大きな突起(以下、「大突起」と記す)と、最大高さが0.05〜0.1mmの小さな突起(以下、「小突起」と記す)と、を備えるようにしてもよい。
すなわち、大突起はその高さの為、水を引き寄せる力が大きくなるが、投影面積が小さくすると折れるなど成形性を考えると、自然と投影面積の大きい幅広のものとなる。それに対して、小突起は高さが低い為、水を引き寄せる力は小さくなるが、小さい投影面積で作製することができ、その数にて水を引き寄せる力を上げることができる。
よって、これらを組み合わせることでより水の排水を促し、水溜りを発生しにくくすることが出来る。
【0015】
また、谷部に隣接して設けられる突起の形状及び高さは、以下に述べるようにして求められる隆起誘引断面積S1が、谷部の断面積S2より小さくなるように形成することが好ましい。
〔隆起誘引断面積S1の求め方〕
(1)図11に示すように、区画部5部分の基準レベル(基準床面のレベル)L0から突起7の最高点までの高さHに対して区画部5部分の基準レベルL0から90%の高さ位置を通る水平線L1と、突起7の壁面との交点を点aとする。
なお、基準レベルL0は区画部5の表面の任意の10点の平均レベルである。
(2)点aから垂線L2を下ろし、この垂線L2と、区画部5部分の基準レベルL0から高さHの10%の高さ位置を通る水平線L3との交点を点bとする。
(3)水平線L3の突起7の壁面と交点を点cとする。
(4)水平線L3上の、点bから点cを通り、点bからの距離が水平線L1と水平線L3の距離と同じである位置を点dとする。
(5)図12に示すように、点a、点c及び点dで囲まれた三角形acdの面積を隆起誘引断面積S1とする。
〔谷部の断面積S2の求め方〕
(1)図11に示すように、上記基準レベルL0から谷部4の底までの深さをDとし、Dの10%の位置を通る水平線L4と谷部の一方の側壁との交点を点eとし、他方の側壁との交点を点fとする。
(2)上記深さDの90%の位置を通る水平線L5と谷部の一方の側壁との交点を点gとし、他方の側壁との交点を点hとする。
(3)図13に示すように、点e、点f、点h及び点gで囲まれた四角形efhgの面積を断面積S2とする。
【0016】
本発明において、谷部に隣接して設けられる突起は、水が途切れるときの水位0.05mmとの関係において、谷部との最短距離LxがLX≦4×(S1)0.25を満足することが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
すなわち、突起は、谷部との最短距離LXが長いと、谷部の水の凝集力によって区画部上の水をうまく谷部側に誘導できず、結果水が途切れて区画部上に残ってしまうおそれがある。
【0017】
一方、1つの区画部上に複数の突起が設けられる場合、突起と突起との距離LYがLY≦32×(S1)0.27を満足することが好ましい。
すなわち、突起間の距離LYが長いと、突起による誘引張力が突起と突起の中間部分まで影響せず、水が中間部分で途切れて区画部上に残ってしまうおそれがある。
【0018】
本発明において、谷部の断面形状としては、谷部の水の凝集力によって区画部上の水をうまく谷部側に誘導できれば特に限定されないが、基準床面からの深さを0.4〜0.8mm、幅を0.5〜1.0mmで、側壁面と底面とのなす角度を93〜135度とすることが好ましい。
すなわち、谷部の深さが0.4mmより浅いと、谷部に入り込んだ水が途切れてうまく排水口に排水されず、谷部の深さが0.8mmより深いと、谷部内に溜まった汚れが除去し難くなるおそれがある。側壁面と底面とのなす角度が93度より小さいと成形型から製品を外れ難くなり、外れたときにも不具合が発生し易くなり、角度が135度より大きすぎると水溜りを形成し易くなり、結果水が途切れ易くなるおそれがある。谷部の幅が0.5mm未満であれば清掃性が悪くなり、1.0mmを超えると水溜りを形成し易くなり、水が途切れ易くなるおそれがある。
また、谷部の底は、特に限定されないが、基準床面の流れ勾配に平行になっていることが好ましい。
【0019】
さらに、谷部が占める面積は、床面全体の5〜20%であることが好ましい。
すなわち、谷部が占める面積が、床面全体の5%未満であると、谷部内の水の凝集力によって区画部上の水を排水できなくなり、20%を超えると谷部内に溜まる水の量が多くなり、乾燥時間が長くなるおそれがある。
【0020】
また、各区画部は、谷部との境界から0.05〜1mm区画部の内側に入った部分から膨出する突部を有し、この突部の上に突起が形成されていても構わない。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる防水床パンは、以上のように、表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにした。
【0022】
したがって、各区画部上に残った水のうち、谷部を跨ぐように水溜り状に残った水については、素早く谷部を介して排水口または排水溝に排水される。すなわち、区画部上に殆ど水が残らず、床面を素早く乾燥することができる。
すなわち、区画部表面では、表面張力によって水がその場で凝集しようとするが、突起によって発生する誘引張力の方が上記表面張力より大きいため、区画部表面の水は、突起の誘引張力によって突起の方へ誘引される。一方、この突起による誘引張力は、谷部内に溜まった水の凝集力より力が小さいので、突起の誘引張力によって突起の周囲に誘引された水がさらに谷部側に誘引され、排水される。
【0023】
また、谷部が格子状に設けられているので、スポンジ等による清掃時において、2方向に擦ることだけで容易に谷部内を清掃することができる。すなわち、床面を短い清掃時間できれいに清掃することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる防水床パンの第1の実施の形態の平面図である。
【図2】図1の防水床パンの断面図である。
【図3】図1の防水床パンの床面を拡大してあらわし、同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のI−I線断面図、同図(c)は同図(a)のII−II線断面図である。
【図4】図1の防止床パンの床面に落ちた水の排水メカニズムを模式的に説明する拡大平面図である。
【図5】図4の状態から排水が進んだ状態を模式的に説明する拡大平面図である。
【図6】図5の状態から排水が進んだ状態を模式的に説明する拡大平面図である。
【図7】本発明にかかる防水床パンの第2の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のIII−III線断面図、同図(c)は同図(a)のIV−IV線断面図である。
【図8】本発明にかかる防水床パンの第3の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のV−V線断面図、同図(c)は同図(a)のVI−VI線断面図である。
【図9】本発明にかかる防水床パンの第4の実施の形態の説明する図であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のVII−VII線断面図、同図(c)は同図(a)のVIII−VIII線断面図である。
【図10】比較例1で用いたサンプル板材であって、同図(a)は拡大平面図、同図(b)は同図(a)のIX−IX線断面図、同図(c)は同図(a)のX−X線断面図である。
【図11】隆起誘引断面積S1と谷部の断面積S2の測定方法を説明する説明図である。
【図12】隆起誘引断面積S1を説明する説明図である。
【図13】谷部の断面積S2を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1〜図3は、本発明にかかる防水床パンの第1の実施の形態をあらわしている。
【0026】
図1及び図2に示すように、この防水床パン1aは、平板を成形したとき、その平面の水の接触角が65〜85度であるわずかな親水性を示すSMCを熱プレス成形して得られ、床面2が平面視長方形をしていて、長方形の一方の長辺の中央部に設けられた排水口11に向かって20/1000〜40/1000の流れ勾配に形成された3つの基準床面3を備えている。
そして、各基準床面3は、図1及び図3に示すように、排水口11が設けられた長辺に直交する方向に等間隔であるいは長辺に平行方向に等間隔で格子状に設けられた谷部4によって、区切られた多数の略長方形をした区画部5に分かれている。
【0027】
各区画部5は、長辺の長さが、5〜50mm、短辺の長さが5〜20mmをしていて、その長辺側が防水床パン1aの排水口11が設けられた長辺に平行になっている。すなわち、各区画部5は、半径10mmの円が必ず谷部4にかかる大きさになっている。また、各区画部5は、長辺と短辺とのコーナー部が0.5Rのアール形状となっている。
各区画部5は、周囲から1mm内側に入った位置で基準床面3から段状に膨出するテーブル上の突部6aを備えている。
突部6aは、高さが0.1〜1.0mmで、基準床面3からの立ち上がり角度が93〜135度になっている。
また、この突部6aの表面には、四隅近傍及び長辺側に沿って等間隔に、合計10個の突起7aが突設されている。
【0028】
各突起7aは、四角錘台形状をしていて、その側壁面と突部6aの上面とがなす角度が93〜135度となっている。
また、突起7aの下端の一辺の長さは、0.3〜10mmとなっている。すなわち、半径5mmの円内に収まる大きさをしている。
【0029】
突起7aの高さHは、0.1〜1.0mmとなっている。
また、突起7aと谷部4との最短距離LXは、2mm以下となっている。
突起7aと突起7aとの間の距離LYは、0.2〜2mmとなっている。
【0030】
谷部4は、断面台形をしていて、区画部5の上面を含む基準レベルL0からの深さDが0.4〜0.8mm、底とその側面とのなす角度が93〜135度になっている。
また、谷部4の底は、基準床面3の流れ勾配と平行になっている。
【0031】
この防水床パン1aは、上記のようになっており、床面3に落ちた水は、流量が多い場合には、床面の流れ勾配に沿って排水口11までスムーズに流れる。特に、突部6aを備え、水の多い場合は、谷部の上側に隣接する突部6aとの間に幅広の流路が形成されよりスムーズに排水される。
そして、流量が少なくなってくると、図4に示すように、床面の一部に水溜りW状に残るが、突起7aと突起7aとの間の突部6a上で表面張力によってその場で凝集しようとする力(細線の矢印で示す)が働く。一方、突起7a近傍では、突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)が水溜りWの水に誘引張力が働く。そして、突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)が、突部6a上で表面張力によってその場で凝集しようとする力(細線の矢印で示す)より大きいので、突起7aと突起7aとの間の突部6a上にある水は、近傍の突起7aに引き付けられる。
【0032】
他方、谷部4上および谷部4の近傍の水には、谷部4内の水による凝集力(太線の矢印で示す)が働く。そして、谷部4内の水による凝集力(太線の矢印で示す)が突起7aによる誘引張力(点線の矢印で示す)より大きいので、突起7a近傍に誘引された水は、谷部4側に引っ張られる。
すなわち、図4〜図6に示すように、水溜りWが徐々に縮小し、区画部5上には水溜りが殆どない状態になる。したがって、床面が短時間で乾燥状態となる。
【0033】
また、谷部4が格子状に設けられているので、スポンジ等による清掃時において、2方向に擦ることだけで容易に谷部4内を清掃することができる。したがって、床面を短い清掃時間できれいに清掃することができる。
【0034】
図7は、本発明にかかる防水床パンの第2の実施の形態をあらわしている。
図7に示すように、この防水床パン1bは、突部6aが設けられておらず、上記防水床パン1aの突起7aと同じ大きさ、同じ形状の8つの大突起7bが直接区画部5上の基準床面3上に突起7aと同じパターンで設けられているとともに、大突起7bと相似形で、1/10スケールの多数の小突起7cが区画部5の基準床面3上に0.1〜0.2mmのピッチで突設されている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。
【0035】
この防水床パン1bは、以上のように、上記防水床パン1aの突起7aと同じ大突起7bを設ける以外に、水を引き寄せる力は小さくなるが、小さい投影面積で作製することができる小突起7cを多数設けたので、区画部5上の水をよりスムーズに谷部4側に誘引することができる。
【0036】
図8は、本発明にかかる防水床パンの第3の実施の形態をあらわしている。
図8に示すように、この防水床パン1cは、突部6aが設けられておらず、各区画部5が4つの突起7dを備え、突起7dが区画部5の長方形の短辺に沿って長い略四角錘台形状をしている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。
この防水床パン1cは、突起7dが長い略四角錘台形状をしているので、上記防水床パン1a,1bに比べ、浴室椅子の使用感が良いという利点を備えている。
【0037】
図9は、本発明にかかる防水床パンの第4の実施の形態をあらわしている。
図9に示すように、この防水床パン1dは、突部6bが、区画部5の周囲から内側に向かって1.5mm入った位置で基準床面3から段状に膨出しているとともに、この突部6bの上に平面視略小判形をした高さ0.3mmの4つの突起7eを等間隔で設けられている以外は、上記防水床パン1aと同様になっている。この防水床パン1dは、突部に圧力が集中するため、滑り難くなる。
【0038】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0039】
(実施例1)
図3に示す防水床パンの床面構造をした各部の寸法が以下のとおりであるサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕
長手方向の寸法:24mm
短手方向の寸法:9mm
〔突部6a〕
長手方向の寸法:21mm
短手方向の寸法:6mm
高さ:0.3mm
基準床面からの立ち上がり角度:120度
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:1.5mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:1.5mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:110度
【0040】
(実施例2)
各部の寸法が以下のとおりである。
図3に示す防水床パンの床面構造をしたサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕
長手方向の寸法:24mm
短手方向の寸法:9mm
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:2mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:2mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:110度
【0041】
(比較例1)
図10に示すように、突起7aを設けていない以外は、実施例1と同様のサンプル板材(接触角:80度)Sを、SMCを用いて熱プレス成形した。
【0042】
(比較例2)
図3に示す防水床パンの床面構造をした各部の寸法が以下のとおりであるサンプル板材(接触角:80度)を、SMCを用いて熱プレス成形した。
〔区画部5〕(10mmの円が谷部に接触しない大きさ)
長手方向の寸法:25mm
短手方向の寸法:25mm
〔突起7a〕
下端の一辺の長さ:22mm
高さ:0.3mm
側壁と区画部5とのなす角度:120度
谷部4との最短距離:1.5mm
突起7aと突起7aとの距離:3mm
〔谷部4〕
谷部4の底の幅:1mm
谷部4の深さ:0.5mm
谷部4の側面と区画部5とのなす角度:120度
【0043】
上記実施例1,2及び比較例1,2で得られたサンプル板材(縦100mm×100mm)を、区画部5の一方の短辺に平行な方向に20/1000の勾配にそれぞれ傾斜させた状態で、スポイトで10mlの水道水をサンプル板材の表面に滴下したのち、区画5上に目視で水滴がなくなるまでの時間を測定し、その結果を以下の表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
上記表1から本発明の防水床パンによれば、水膜状態での流れと共に区画から流れ落ち、僅かに残ったときでも短時間で床面が乾くことがよくわかる。
なお、比較例1,2のサンプル板の場合、区画周縁部の水は、谷部側の水の凝集力によって略実施例1,2の同じ時間内に谷部に流れ込んだが、比較例1のサンプル板の場合、図10に示すように、区画中央部にある水wは引きちぎれて残ったままであった。また、比較例2のサンプル板の場合、比較例1よりは小さいもののやはり区画中央部に水wが残っていた。
【符号の説明】
【0046】
1a,1b,1c,1d 防水床パン
11 排水口
3 基準床面
4 谷部
5 区画部
6a,6b 突部
7,7a,7d,7e 突起
7b 大突起
7c 小突起
W 水溜り
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、
この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、
この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、
前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴とする防水床パン。
【請求項2】
谷部と、谷部に隣接して設けられた突起との最短距離が1mm以下である請求項1に記載の防水床パン。
【請求項3】
突起は、高さが0.05〜1.0mmで、突起周囲の区画部上面からの突起壁面の立ち上がり角度が93〜135度であるとともに、平面視にて突起を含む半径2mmの円の一部が必ず区画部上面へ接触する大きさである請求項1または請求項2に記載の防水床パン。
【請求項4】
谷部が占める面積が5〜20%床面全体のである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項5】
各区画部が谷部との境界から0.05〜1mm区画部の内側に入った部分から膨出する突部を有し、この突部の上に突起が形成されている請求項1〜請求項4のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項6】
各区画部が、最大高さが0.1〜1.0mmの大きな突起と、最大高さが0.05〜0.1mmの小さな突起と、を備えている請求項1〜請求項5のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項7】
谷部は、基準床面からの深さが0.4〜0.8mm、幅が0.5〜1.0mmで、谷部の側壁面と底面とのなす角度が93〜135度である断面形状に形成されている請求項1〜請求項6のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項1】
表面がわずかな親水性を示すとともに、排水口あるいは排水溝に向かう流れ勾配を有する基準床面を有し、
この基準床面が、格子状に設けられた谷部によって、平面視にて半径10mmの円の一部が必ず前記谷部へ接触する大きさの略矩形をした多数の区画部に区切られていて、
この区画部が、区画部の上面に落下した水の誘引効果を有し他の部分から上方に突出する少なくとも1つの突起を有し、
前記谷部内に水を捕水した状態で水が前記区画部と谷部に跨った状態で落下したときに、区画部上に落下した水を前記突起に誘引する一方、この突起に誘引された水をさらに谷部内の水の凝集力によって谷部に誘導して排水するようにしたことを特徴とする防水床パン。
【請求項2】
谷部と、谷部に隣接して設けられた突起との最短距離が1mm以下である請求項1に記載の防水床パン。
【請求項3】
突起は、高さが0.05〜1.0mmで、突起周囲の区画部上面からの突起壁面の立ち上がり角度が93〜135度であるとともに、平面視にて突起を含む半径2mmの円の一部が必ず区画部上面へ接触する大きさである請求項1または請求項2に記載の防水床パン。
【請求項4】
谷部が占める面積が5〜20%床面全体のである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項5】
各区画部が谷部との境界から0.05〜1mm区画部の内側に入った部分から膨出する突部を有し、この突部の上に突起が形成されている請求項1〜請求項4のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項6】
各区画部が、最大高さが0.1〜1.0mmの大きな突起と、最大高さが0.05〜0.1mmの小さな突起と、を備えている請求項1〜請求項5のいずれかに記載の防水床パン。
【請求項7】
谷部は、基準床面からの深さが0.4〜0.8mm、幅が0.5〜1.0mmで、谷部の側壁面と底面とのなす角度が93〜135度である断面形状に形成されている請求項1〜請求項6のいずれかに記載の防水床パン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−270520(P2010−270520A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124001(P2009−124001)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501362906)積水ホームテクノ株式会社 (89)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(501362906)積水ホームテクノ株式会社 (89)
【Fターム(参考)】
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