説明

防汚性建築材料

【課題】表面に付着した油滴を残留させずに表面より流落、除去でき、かつそのような表面塗装が容易になされることを可能とした防汚性建築材料を提供する。
【解決手段】傾斜面または垂直面を有した施工対象に組み付けられる防汚性建築材料10であって、その材料表面には、親油性インクによる親油路1と、撥油性インクによる撥油路2とが、インクジェット塗装によって、施工対象の上下方向に沿って、交互に配列、形成され、撥油路2に付着した油滴が、親油路1に接触することによって親油路1に誘導され、成長しながら、重力で流落するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により表面塗装が施される防汚性建築材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、キッチンなど油汚れが付着しやすい壁面などの建築材料においては、油が薄く伸びやすい親油性物質で表面塗装を行わずに、撥油性物質で塗装することによって、油滴をはじき、凝集させて表面に付着しにくくするようにした技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に示すものは、建築材料の表面に撥油性物質と光触媒粒子とを露出させており、油分が付着したときに容易に拭き取り可能なように、油分を撥油性物質により表面上に凝集させ、はじかれた油分を拭き取った後に、表面に残った油分を光触媒粒子で分解させるようにしている。
【特許文献1】特開2000−96800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献のものでは、光触媒粒子の表面への露出がばらつくことが予想され、光触媒粒子の露出が不十分なものでは、撥油性物質による効果しか期待できない。
【0005】
しかも、表面全体を撥油性物質で塗装するものは、表面に残った油滴を拭き取らせることを前提としているため、油滴の拭き取り除去を怠った場合には、油滴は油滴同士の衝突によりさらに凝集されて大きくなって重力により少しは流れ落ちるものの、その多くが油滴のまま表面上に残留し、黒ずんで油汚れとなってしまうことが予想される。もちろん、油滴が残留した状態では、光触媒粒子による分解効果はあまり期待できない。
【0006】
また、表面全体を撥油性物質で塗装した建築材料を、レンジフードの内側壁など材料表面を傾斜させて下方に向けたものでは、撥油性物質の性質から、その傾斜面に残留して大きくなった油滴は、傾斜に沿って流れ落ちるというよりは、むしろぽたぽたと落下してしまう可能性が高い。
【0007】
本発明は、このような従来の防汚性建築材料の事情を考慮して提案されたもので、表面に付着した油滴を残留させずに表面より流落、除去でき、かつそのような表面塗装が容易になされることを可能とした防汚性建築材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の防汚性建築材料は、傾斜面または垂直面を有した施工対象に組み付けられる防汚性建築材料であって、その材料表面には、親油性インクによる親油路と、撥油性インクによる撥油路とが、インクジェット塗装によって、施工対象の上下方向に沿って、交互に配列、形成されており、撥油路に付着した油滴が、親油路に接触することによって親油路に誘導され、成長しながら、重力で流落するようにしたことを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の防汚性建築材料は、親油路、撥油路の路幅は、いずれも0.1〜1.0mmである。
【0010】
請求項3に記載の防汚性建築材料は、親油路の路幅を撥油路の路幅よりも広くしてある。
【0011】
請求項4に記載の防汚性建築材料は、撥油性インクがフッ素、シリコーン成分を含んでいる。
【0012】
請求項5に記載の防汚性建築材料は、親油性インクがシリカゾル成分を含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば次のような効果を奏する。
【0014】
請求項1に記載の防汚性建築材料によれば、表面に親油路と撥油路が上下方向に沿って交互に配列されて形成され、親油路で撥油路からの油滴を誘導して重力で流落させるようにしているため、拭き取ることなく、建築材料の表面から油分の大部分を除去することができる。また、油分を表面に沿って流落させる構成であるため、油分が滴下したり他の箇所に飛散したりするおそれがない。
【0015】
また、そのような配列パターンはインクジェット塗装により容易に形成できるため、表面塗装工程を複雑化することなく防汚性建築材料を製造できる。特に、インクジェット塗装であれば、蒸気に含まれるような油の微細粒子に対応した微小間隔の配列パターンであっても塗装することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面とともに説明する。
【0017】
図3は本発明の防汚性建築材料の適用例を示す図で、図3(a)、(b)に示すように同建築材料10は、キッチンのコンロ34上方に設置されたレンジフード31の内壁材32や、コンロ34前方の壁材33など油分が付着しやすい建築材料10として使用できる。すなわち、同建築材料10は、傾斜面や垂直面を有した施工対象に組み付けられ、組み付けたときに材料面に高低差が生じて、表面に付着した油分が、建築材料10の表面上を、図中に示す破線矢印方向のように重力にしたがって落下するような施工対象に適用される。
【0018】
図1は、本発明の防汚性建築材料10による表面油分の流落原理を説明するための図で、(a)は同建築材料10の模式斜視図、(b)は模式縦断面図である。なお、本図の例では、建築材料10は、表面に付着した油分が重力にしたがって矢印Aの方向に流落できるように傾斜している。
【0019】
この建築材料10の表面には、板状材料11に対しインクジェット方式で塗装することにより、親油性インクによる親油路1と、撥油性インクによる撥油路2とが交互に配列、形成されている。図例のものでは、それらの交互配列は矢印A方向に平行な微細な縦縞パターンとなって表れている。
【0020】
ここで、親油路1、撥油路2の各路幅は、0.1mm〜1.0mm程度とすることが望ましい。この理由については後述する。
【0021】
また、インクジェット塗装で使用するインクは、好適なものとして、5μm〜2mm程度の粒径のものが使用できる。インク粒子Rは隙間なく塗装できるように、図2に示すような並びとすることが望ましく、そのため粒子Rの大きさがほぼ均一なインクが適している。よって、粒子Rの大きさが均一で、粒径50〜100nm程度の超微粒子でも使用できる。
【0022】
例えば、粒径が100μm(0.1mm)のインク粒子Rを使用すれば、それを3つ並べて、0.3mm程度の路幅の親油路1と撥油路2とを形成することができる。また、複数層に重ねて塗装してもよい。なお、インクジェット塗装方式については、図5で後述する。
【0023】
また、親油性と撥油性の関係は、材料表面からの引力の強弱により相対的に定まり、図1(b)に示すように、親油路1の表面では引力が強いため付着した油滴P1は広がって表面が広くぬれた状態となる一方、撥油路2の表面では引力が弱いため油分自身の凝集力でもって丸まって油滴P2になり、いわば油がはじかれた状態となる。なお図1においては、親油路1の油滴をP1、撥油路2の油滴をP2と示している。
【0024】
親油性インクとしては例えば、フッ素、シリコーンなどを含有した撥水塗料が使用でき、撥油性インクとしては例えば、シリカゾルなどを含有した親水塗料などが使用できる。また、インクの主原料としては、顔料インク、染料インクなどが使用される。
【0025】
また、インクジェット塗装の対象である板状材料11としては、木材や金属、樹脂、合板、パーティクルボード、木質繊維板などに合成樹脂シートの化粧シートを貼着したものなど種々の材料が使用できる。
【0026】
キッチンでの調理によって油分が飛散して壁面に付着したり、蒸気に混じり立ち昇ってレンジフード31の内壁32に付着したりするが、このように表面を親油路1と撥油路2による縞パターンに形成した建築材料10を、図3に示した施工対象に組み付けたものでは、付着した油分は、親油路1と撥油路2のそれぞれの特性に応じた動作をしながら、表面上を流れ落ちてゆく。以下、その原理について説明する。
【0027】
飛散した油分は、撥油路2に付着すると丸みをおびた油滴P2となる一方、親油路1に付着すると、ぬれ性をおびた状態の油滴P1となる。その後、撥油路2では、油滴P2が路幅より大きいものは、その重みで流落しながら隣接する親油路1に接触し、親油路1へ誘導、吸収され、それにより親油路1上では油滴P1は他の油滴P1、P2と合体して成長しながら流れ落ちてゆく。また、蒸気などに含まれる微小な油滴P2は、撥油路2上では流落せずに滞留する可能性はあるが、付着時に油滴P2同士が衝突して、あるいは付着後の微振動などにより近傍の他の油滴P2と接触して、大きな油滴P2に変化し、その後の流落により隣の親油路1に接触して、親油路1へ吸収され流れ落ちてゆく。
【0028】
また、親油路1に直接付着した油滴P1は、ぬれ性をおびた状態で親油路1の長手方向にしたがって、合体、成長しながら下方へと流落してゆく。
【0029】
したがって、建築材料10の表面に付着した油分は、撥油路2では親油路1への誘導によりほとんど消失し、親油路1では路の長手方向に沿って下方へと流落するため、表面の大部分で油分が消失する。
【0030】
このように、親油路1と撥油路2とを交互配列させた建築材料10では、表面に付着した油分が重力による流落によって除去されるため、拭き取ることなく放置していても、油滴P1、P2が増大して美観を損ねたり、そのような油分により油汚れが肥大化したりすることがなく、レンジフード31の内壁32や、コンロ34前方の壁面33を清潔で美観をともなった状態に保持することができる。
【0031】
なお、親油路1上には油膜が残る可能性はあるが、目視できる油滴P1、P2は流れ落ちるため、美観上はほとんど問題はなく、むしろ、そのような油膜によって、親油路1に誘導されて成長した油滴P1は流落しやすくなるため、油滴P1、P2の流落、除去を早めることができる。
【0032】
また、図3に示すように、建築材料10の下端に使い捨てなどの油受樋35を設ければ、油分が自動収集でき、さらに利便性は高くなる。
【0033】
このように本発明は、親油路1上で路の長手方向でもって油滴P1を流落させる構成であるため、親油路1の路幅を広くしすぎると親油路1上で流れる油滴P2がまばらな状態になり、見映えが悪くなり、一方、撥油路2は油滴P2を親油路1に吸収させる必要があるため、路幅を広くしすぎると撥油路2上に油滴P2が残存してしまうおそれがある。また、親油路1、撥油路2ともに幅狭にしすぎると、油滴P1、P2が複数路1、2にまたがって付着して親油路1への誘導がうまくいかなかったり、親油路1から油滴P1が溢れ出たりすることもある。このような事情や油粒子の粒径を考慮すれば、親油路1、撥油路2の各路幅は、上記範囲内とすることが望ましい。
【0034】
さらに、撥油路2は油滴P2を親油路1へ吸収させる必要があり、また、親油路1は周囲からの油分を収集する必要があることを考慮すれば、親油路1の路幅を撥油路2よりも幅広に形成してもよい。もちろん、建築材料10の傾斜度合いなどにより油滴P1の流落スピードは種々想定できるため、そのスピードに応じて路幅を決定してもよい。また、撥油路2から親油路1へ油滴P2を誘導しやすくするために、撥油路2を、左右の親油路1、1のいずれか側に傾斜させるか、路幅の中央を高くして左右に下り勾配を設けるように形成してもよい。なお、このような傾斜形状は、インクジェット塗装により容易に行える。
【0035】
また、親油路1の路幅を撥油路2の路幅よりもはるかに大きく(例えば撥油路の路幅が0.1mmに対し親油路の路幅を5mmにする)しても、ある程度の効果は得られるが、親油路1で大きな塊となった油滴P1は、目視可能に広がった状態で流れ落ちるため美観は悪くなる。そのため、上記のような範囲で微細な配列とすることが望ましい。微細にすれば、親油路1、撥油路2上の油分の流れはほとんど模様と化し、美観を損なうことがない。
【0036】
本発明では、撥油路2上の油滴P2が撥油路2の長手方向に沿って流れたり、あるいは面が下方に向いている場合には重力で表面から落下してしまったりする前に、親油路1へ油滴P2を誘導させる構成となっているため、レンジフード31の内壁32など建築材料10の表面を傾斜させて下方に向けたものでは、傾斜面から油がぽたぽた落下するという事態を回避できる。
【0037】
また、建築材料10の表面はインクジェット方式で塗装するため、上記のような微細な縞パターンであっても容易に表面塗装が実現でき、特殊で複雑な表面塗装工程を実施する必要はない。
【0038】
なお図3の例では、建築材料10を、塗装表面を下方に向けて傾斜施工したもの(レンジフード31の内壁32)、垂直に施工したもの(コンロ34前方の壁面33)を示したが、塗装表面を上方に向けて傾斜施工したもの、例えばレンジフード31の上面傾斜壁などにも適用可能である。
【0039】
図4は、建築材料10上の親油路1、撥油路2の配列パターン例を種々示した建築材料の部分平面図で、(a)は縦縞配列、(b)は斜め縞配列、(c)は縦縞配列の下方に斜めに走る親油路1aを設けたものを示している。なお、図4(a)〜(c)の各図に示した建築材料10は、紙面上方を高い位置、下方を低い位置にして、施工されるものとする。
【0040】
撥油路2では油滴P2が重力にしたがって路の長手方向に限らず下に向かって流落し、親油路1では重力にしたがって路の長手方向に沿って流落するという、両特性を考慮すれば、撥油路2から流落する油分を親油路1に誘導しやすくするために、図4(b)のように斜め縞の交互配列とすることが望ましい。
【0041】
また、親油路1で流落する油滴P1を、壁面の両端など所定箇所に収集させるようにしてもよく、そのために、図4(c)のように、上方から流落してくるほとんどの油分を収集して左右に流落させる親油路1aを設けてもよい。
【0042】
もちろん、撥油路2を油粒子の最小粒径に合わせた路幅に形成すれば、微小な油滴P2を微振動などで容易に親油路1へ誘導できるため、図4(a)のような縦縞でも十分に流落効果は上げられる。
【0043】
図5には、建築材料10の表面をインクジェット塗装するための装置を概略的に示している。図中、20はインクジェット塗装噴出装置、20aは同装置本体、21は板状材料11が載置される基台、25は同装置21を操作制御するための制御装置、26はインクジェット塗装噴出装置20と制御装置25とを結ぶ信号線である。
【0044】
基台21は、板状材料11の形状や大きさに合わせて形成されており、搬送ラインの一部をなし、表面にインクジェット塗装がなされた建築材料10は、例えば、ベルトコンベアなどの搬送手段(不図示)により、次工程に向けて搬送される。
【0045】
インクジェット塗装噴出装置20は、基台21に隣接して配設された装置本体20aと、装置本体20aに連結され、ノズルヘッド23を案内するノズルヘッド案内棹22とを有し、装置全体が基台21に載置された板状材料11に対して、白抜矢印Y方向に移動可能に構成されている。
【0046】
ノズルヘッド案内棹22は、基台21を挟んで装置本体20aに対して対向配置された案内棹支持部24と、装置本体20aとにより支持されている。
【0047】
ノズルヘッド23は、ノズルヘッド案内棹22に沿って、白抜矢印X方向に移動可能に構成されており、裏面には、親油性インク、撥油性インクを噴出する複数の噴出ノズル(不図示)を有している。
【0048】
建築材料10に対する親油路1と撥油路2の配列パターンは、1台のインクジェット塗装噴出装置20で親油路1、撥油路2ごとに噴出ノズルを使い分けて塗装してもよいが、親油性インクと撥油性インクが混合しないように、親油路1、撥油路2それぞれに対応したインクジェット塗装噴出装置20を2台並べて、個別工程で塗装するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の建築材料による表面油分の流落原理を説明するための図で、(a)は建築材料の模式斜視図、(b)は縦断面図である。
【図2】親油路、撥油路を構成するインク粒子の並びを説明するための図である。
【図3】本発明の建築材料の適用例、(a)はキッチンのコンロ回り(レンジフード、壁面)の斜視図、(b)はレンジフードの縦断面図である。
【図4】(a)〜(c)は親油路、撥油路で構成される建築材料の表面パターンの3例を示す図である。
【図5】インクジェット塗装噴出装置の概略平面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 防汚性建築材料
1 親油路
2 撥油路
11 板状材料
P1 親油路上の油滴
P2 撥油路上の油滴
31 レンジフード
32 レンジフードの内壁
33 コンロ前方の壁面
20 インクジェット塗装噴出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面または垂直面を有した施工対象に組み付けられる防汚性建築材料であって、
その材料表面には、親油性インクによる親油路と、撥油性インクによる撥油路とが、インクジェット塗装によって、施工対象の上下方向に沿って、交互に配列、形成されており、
撥油路に付着した油滴が、親油路に接触することによって親油路に誘導され、成長しながら、重力で流落するようにしたことを特徴とする防汚性建築材料。
【請求項2】
請求項1において、
上記親油路、上記撥油路の路幅は、いずれも0.1〜1.0mmである防汚性建築材料。
【請求項3】
請求項1、2のいずれか1項において、
親油路の路幅を撥油路の路幅よりも広くしてある防汚性建築材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
上記撥油性インクは、フッ素、シリコーン成分を含んでいる防汚性建築材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
上記親油性インクは、シリカゾル成分を含んでいる防汚性建築材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−180050(P2008−180050A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16119(P2007−16119)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】