説明

防臭剤組成物

【課題】 微生物分解が起因する衣類など繊維製品の生乾き臭や生ゴミ臭の防臭作用を発揮することができる、生活環境を衛生的で快適にする持続的な効果のある防臭剤組成物を提供する。イソプロピルメチルフェノール配糖体を配合した
【解決手段】 アグリコン部がイソプロピルメチルフェノールで、糖残基が還元性の単糖類または少糖類からなるイソプロピルメチルフェノール配糖体を配合することを特徴とする衣類用並びに住環境用防臭剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防臭剤組成物に関し、詳しくは、菌が原因となり発生する衣類などの生乾き臭及び住環境における生ゴミ臭に対し、イソプロピルメチルフェノール配糖体を含有することを特徴とする優れた殺菌作用による持続的な防臭効果がある防臭剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯後の衣類など濡れた状態の布類は暖かい状況に放置された場合、布に付着した空気中や水中の微生物、特にバシラス属やシュードモナス属などが増殖し、衣類に残存する皮脂やタンパク質を分解することで、主にオクタン酸である特有の臭気が発生する。また、生ゴミも微生物により腐敗がはじまると強烈な臭気が発生する。従来の防臭剤は、エタノールや植物抽出物など抗菌剤を噴霧することにより、微生物の増殖を抑制する方法が採られてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。しかし、抗菌作用のある植物抽出物は揮発しやすく効果の持続に課題があった。揮発を前提に高濃度に付与することも考えられるが、衣類など皮膚に接触するものや食品を取り扱う場所では、安全性上の問題があった。一方、消臭方法としては、二酸化ケイ素や活性炭に臭気を補足する方法、香料によりマスキングする方法が採られてきた(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、これらの方法は、いずれも微生物の増殖を抑制するものではなく、不衛生な状態は改善されていなかった。また、強い匂いによるマスキングは着用時に不快であり、衣類に使用し難かった。さらに調理場所においては食品への匂い移りが起こるため、無香のものが求められていた。
【0003】
オイゲノール配糖体やフェニルエチルグルコシド等の様々な香料配糖体が、皮膚常在菌、頭皮常在菌により、香気成分部と糖部分に適宜分解されることより、人体用徐放性芳香組成物として提案している(特許文献4)。また、イソプロピルメチルフェノールは抗菌スペクトルの広い防腐殺菌剤であるが、これを配糖体とした皮膚外用剤及び毛髪化粧料が提案されている(特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−114660号公報
【特許文献2】特開2001−198202号公報
【特許文献3】特開2003−190264号公報
【特許文献4】特開平7−179328号公報
【特許文献5】特開2005−82506号公報
【非特許文献1】吉川浩史・平本理恵・池水麦平著、「シャープ技報」、2003年8月、p.16−20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情において、生活環境を衛生的で快適にするため、持続的な効果のある防臭剤組成物が求められていた。即ち、本発明の目的とするところは、衛生的で且つ効果が持続する防臭組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記事情に鑑み、鋭意研究した結果、イソプロピルメチルフェノール配糖体が、臭気発生原因微生物の酵素活性により適宜分解されイソプロピルメチルフェノールが徐放的に遊離することで、微生物の増殖を抑制し、臭気の発生を持続的に抑制する効果を見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明は、イソプロピルメチルフェノール配糖体の防臭効果にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイソプロピルメチルフェノール配糖体は水溶性に優れ、配糖体の状態ではイソプロピルメチルフェノールより揮発しにくく安定に存在する。臭気発生原因微生物の増殖に連動し、イソプロピルメチルフェノール配糖体からイソプロピルメチルフェノールが徐放的に遊離し、微生物の増殖を抑制することで、衣類に付着した皮脂やタンパク、生ゴミの分解が抑制されるため、臭気の発生を持続的に抑制できる。また、イソプロピルメチルフェノール及びその配糖体はほとんど特異な匂いがないため、無香の防臭剤組成物の提供が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用されるイソプロピルメチルフェノール配糖体におけるアグリコン部であるイソプロピルメチルフェノールとしては、3−メチル,4−イソプロピルフェノールを使用する。また糖残基としては、還元性の単糖類又は少糖類(二糖類、三糖類)が使用でき、具体的にはグルコース、ガラクトース、キシロース、マンノース、N−アセチルグルコサミンなどの単糖類、マルトース、セロビオース、ゲンチビオースなどの二糖類を挙げることができるが、特にグルコースが好ましい。
【0009】
本発明のイソプロピルメチルフェノール配糖体は、上記のイソプロピルメチルフェノールと糖から、公知の製造方法にて容易に得ることができる。例えば、無水トルエン中でイソプロピルメチルフェノールとアセチル化糖を、三フッ素化ホウ素等のルイス酸触媒下に縮合させた後、アルカリ存在下にアセチル基を脱離させることにより得ることができる。得られる配糖体には、α結合又はβ結合を有する異性体が存在するが、そのどちらでも、或いはそれらの混合物として用いることができる。
【0010】
本発明で用いられる配糖体としては、3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−グルコシド、3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−ガラクトシド、3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−キシロシド、3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−マルトシド、3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−マンノシド等を挙げることができる。
【0011】
本願発明の防臭剤組成物において、イソプロピルメチルフェノール配糖体は、生乾き臭や生ゴミ臭発生の原因微生物により適宜分解されることにより、イソプロピルメチルフェノールとして遊離し、抗菌活性を発揮するため、臭気発生原因微生物の増殖を抑制することができる。
【0012】
本発明の防臭剤組成物へのイソプロピルメチルフェノール配糖体は、単体での配合で防臭効果があり、その配合量は特に制限されないが、一般的には防臭剤組成物の総量を基準として、0.005〜10.0質量%(以下、%と略記)であり、好ましくは0.01〜10.0%である。また、一般的に抗菌性があるとされるハーブ等の植物精油や食品保存料や日持向上剤に利用される植物抽出物や抗菌作用を有するとされる漢方薬、さらには化粧品等に使用される防腐殺菌剤、アルコール類との併用も可能である。さらに、キレート剤、pH調整剤、色素、粘度調整剤、可溶化剤を添加してもよい。
【実施例】
【0013】
以下、製造例、試験例及び実施例により、本願発明にイソプロピルメチルフェノール配糖体の殺菌効果とその組成物による防臭効果を例示する。
【0014】
製造例[3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−グルコシドの合成]
トルエン100gにpenta-O-acetyl glycoside 14.2gを溶解した後、3−メチル
,4−イソプロピルフェノール16.0gを加えた。三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル2mlを添加した後に、室温にて一昼夜攪拌した。反応液に水200gを投入し反応を停止した後、トルエン層を分離した。トルエン層を5%NaOH水溶液30gで洗浄することにより、未反応の3−メチル,4−イソプロピルフェノールを除去した。更に、トルエン層を飽和食塩水50gにて洗浄した。トルエン層を減圧下に濃縮した後、酢酸エチルとヘキサンからアセチル体を再結晶化した。得られたアセチル体をメタノール50gに溶解した後、1%CHONaメタノール溶液を加え、アセチル基を脱離させた。酸性イオン交換樹脂にて中和した後、酸性イオン交換樹脂を濾別した。メタノールを減圧下に除去した後に、エタノールから結晶化することで3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−グルコシドの白色結晶8.7gを得た。得られた3−メチル,4−イソプロピルフェニル−D−グルコシドの13C−NMRスペクトルを図1に示す。
【0015】
試験例1[配糖体分解能と抗菌活性の評価]
(試験方法)
ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト液体培地(SCD液体培地)に製造例のイソプロピルメチルフェノール配糖体(以下、本願配糖体)を0.125%添加した。本液体培地に先のSCD液体培地で培養したバシラス サチリス (Bacillus subtilis)の菌液を1%(v/v)接種し、30℃にて静置、好気培養した。菌液接種直後、培養1日、2日及び3日後に培養液の一部を採取し、同量のエタノールを添加後、フッ素樹脂製0.45μm親水性メンブランフィルターで除菌した。除菌後、水:メタノール=4:6でODSカラムを用い、検出波長280nmの条件でHPLCにより発生したイソプロピルメチルフェノール量を測定した。さらに同時に培養液中の菌数を、SCD寒天平板培地を用い、定法に従って塗抹法で測定した。尚、配糖体分解能試験では、本願配糖体を添加し、菌液を接種しないものを、抗菌活性試験では、本願配糖体を添加せず、菌液のみを接種したものを対照とした。
【0016】
(結果)
配糖体分解能と抗菌活性の試験結果を表1及び表2に示す。表1より、バシラス サチリスの接種により、本願配糖体が分解されイソプロピルメチルフェノールが2〜3日後において安定的に遊離することが示された。また、表2より、本願配糖体の添加により、イソプロピルメチルフェノールが遊離し、バシラス サチリスに対し抗菌活性を発揮することが示された。
【0017】
表1.配糖体分解能試験結果
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培地中の遊離イソプロピルメチルフェノール量(%)
―――――――――――――――――――――――――――――
0時間 1日後 2日後 3日後
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
菌液接種 0 0.005 0.0286 0.0284

対 照 0 0.0010 0.0009 0.0008
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【0018】
表2.抗菌活性試験結果
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バシラス サチリスの菌数(CFU/mL)
―――――――――――――――――――――――――――
0時間 1日後 2日後 3日後
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本願配糖体添加 4×10 6×10 10 10

対 照 4×10 7×10 1×10 2×10
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0019】
試験例2[生乾き衣類における抗菌活性及び防臭効果]
(試験方法)
1日着用した衣類を5cm×5cm片に切り出し、洗濯脱水直後の湿った状態で、下記組成のイソプロピルメチルフェノール配糖体配合防臭剤組成物(実施例1)を0.5mL程度スプレーした。未処理のものを比較例1として、それぞれ10枚ずつの布片を滅菌したポリ袋に入れ、密封した。これを30℃〜35℃の恒温槽に入れ、一定時間毎に、定法に従い布片の菌数測定すると同時に生乾き臭の発生有無を官能評価した。
【0020】
実施例1(防臭剤組成物)
成分名 配合量(質量%)
(1)イソプロピルメチル 0.3
フェノール配糖体(製造例)
(2)エタノール 20.0
(3)精製水 79.7
【0021】
試験結果を表3、表4に示す。表3、表4の結果から明らかなように、本願実施例1の防臭剤組成物は、24時間後及び48時間後において、顕著な抗菌効果と防臭効果を示した。
【0022】
表3.菌数測定結果
―――――――――――――――――――――
検出菌数(CFU/cm
――――――――――――――――
0時間後 24時間後 48時間後
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実施例1 <10 <10 250

比較例1 <10 3000 1×10
―――――――――――――――――――――
【0023】
表4.防臭効果の評価結果
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生乾き臭
――――――――――――――――――
0時間後 24時間後 48時間後
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実施例1 なし なし なし

比較例1 なし わずかに 臭気を感じる
臭気を感じる
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【0024】
試験例3[生ゴミの防臭効果]
(試験方法)
一般家庭10箇所にて、下記組成のイソプロピルメチルフェノール配糖体配合防臭剤組
成物(実施例2)を生ゴミに噴霧し、2日後の生ゴミ臭の強さを無噴霧の場合と比較して官能評価した。
【0025】
実施例2(防臭剤組成物)
成分名 配合量(質量%)
(1)イソプロピルメチル 5.0
フェノール配糖体(製造例)
(2)エタノール 40.0
(3)精製水 55.0
【0026】
評価結果を表5に示す。結果から明らかなように、本願防臭剤組成物は生ゴミ臭に対して、優れた防臭効果を示した。
【0027】
表5.防臭効果の評価結果
――――――――――――――――
生ゴミ臭の強さ 評価件数
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無噴霧に比べかなり弱い 2
無噴霧に比べ弱い 4
無噴霧に比べ若干弱い 3
無噴霧と同等 1
無噴霧に比べ強い 0
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【産業上の利用可能性】
【0028】
本願発明のイソプロピルメチルフェノール配糖体を配合した防臭剤組成物により、生活環境を衛生的に保つ衣類用並びに住環境用防臭組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】製造例で合成された3−メチル,4−イソプロピルメチルフェノール−D−グルコシドの13C−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルメチルフェノール配糖体を配合することを特徴とする衣類用防臭剤組成物。
【請求項2】
イソプロピルメチルフェノール配糖体を配合することを特徴とする住環境用防臭剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335675(P2006−335675A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161519(P2005−161519)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】