説明

防護服およびこれを含む防護装具、ならびに身体防護方法

【課題】作業者を汚染環境から防護するとともに、安全かつ快適な作業を可能とする気密服を提供すること。
【解決手段】頭被覆部、胴体被覆部、腕被覆部、手を被覆する手袋、脚被覆部、および足を被覆する靴が一体につながった、人体の全部を気密に被覆する防護服1。頭被覆部の顔面対向部または顔面対向部とそれに続く左右両側部を透明材からなる透視窓2とすると共に、該透視窓2の内面に防曇フィルムを交換可能に貼り付けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護服およびこれを含む防護装具、ならびに該防護服を使用する身体防護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有毒ガスや放射性物質により汚染された環境において作業者を防護するために、作業者の全身を気密に被覆可能な防護服(以下、「気密服」ともいう。)が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3689820号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記気密服は汚染された環境において作業者を防護できるものであるが、作業者を防護するために気密性を有するが故に、作業者の呼気は外部に排気されず気密服内に放出される。気密服の頭被覆部には外部観察用に透視窓が設けられるが、この呼気によって透視窓に曇りが発生すると作業者は視界が妨げられ作業に支障をきたすこととなる。
【0005】
そこで従来の気密服では、作業者が気密服を着用した状態で腕を袖から引き抜いて透視窓内面を布などで拭き取り曇りを除去できるように、気密服の袖部および胸部は作業者のサイズよりもかなり余裕をもって作られていた。しかし、このような気密服は着用時にかなりのだぶつきを生じるうえに気密服が重くなるため、迅速な行動の制約となり作業者が安全かつ快適に作業を行うことの妨げとなっていた。
【0006】
かかる状況下、本発明は作業者を汚染環境から防護するとともに、安全かつ快適な作業を可能とする気密服を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]頭被覆部、胴体被覆部、腕被覆部、手を被覆する手袋、脚被覆部、および足を被覆する靴が一体につながった、人体の全部を気密に被覆する防護服であって、
頭被覆部の顔面対向部または顔面対向部とそれに続く左右両側部を透明材からなる透視窓とすると共に、該透視窓の内面に防曇フィルムを交換可能に貼り付けてなる防護服。
[2]前記防曇フィルムは、JIS Z 0237に準ずる方法によるポリ塩化ビニル樹脂板に対する180°引きはがし粘着力試験により測定される粘着力として、0.03〜5.00N/10mmの範囲の粘着力を有する粘着層を介して、前記透視窓の内面に貼り付けられている[1]に記載の防護服。
[3][1]または[2]に記載の防護服と、使用時に該防護服に内装される空気呼吸器と、を含むことを特徴とする防護装具。
[4]作業者が空気呼吸器を装着した状態で、[1]または[2]に記載の防護服を着用することを特徴とする作業時に作業者の身体を防護する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防護服では、作業者の呼気による透視窓の曇りの発生が、透視窓内面に貼り付けられた防曇フィルムにより抑制される。この結果、作業者は透視窓の曇りにより視界を妨げられることなく安全に作業を行うことができる。なお、透視窓内面に防曇コーティングを行う方法や透視窓を構成する透明材を防曇性材料とする方法では、防護服の長期使用や経時劣化により防曇性能が低下した場合には、改めて防曇コーティングを行ったり透視窓全体を交換する必要がある。これに対し本発明の防護服では、防曇フィルムが透視窓に交換可能に貼り付けられているため、防曇性能が低下した場合には、防曇フィルムの張替えという簡単な処理を行うだけでよい。
また、本発明の防護服は、従来の気密服のように、着用者自身が透視窓の曇りを除去することを可能とするために袖部および胸部に大きく余裕をもたせる必要はないためコンパクト化および軽量化が可能である。したがって本発明の防護服によれば、防護服により迅速な作業を妨げられることがなく、作業者は安全かつ快適に作業を行うことができる。また、防護服を作製するための生地材料の使用量を減らすことができるため、防護服の低価格化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様にかかる防護服の正面図である。
【図2】図1に示す防護服の右側面図である。
【図3】図1に示す防護服の上面図である。
【図4】図1に示す防護服のV−V線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、頭被覆部、胴体被覆部、腕被覆部、手を被覆する手袋、脚被覆部、および足を被覆する靴が一体につながった、人体の全部を気密に被覆する防護服に関する。本発明の防護服は、頭被覆部の顔面対向部または顔面対向部とそれに続く左右両側部を透明材からなる透視窓とすると共に、該透視窓の内面に防曇フィルムを交換可能に貼り付けてなるものである。かかる本発明の防護服は、先に説明したように、作業者の安全かつ快適な作業を可能とするものであり、更には防護服の低価格化も可能とするものである。
以下、本発明の防護服について、図面を参照し更に詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の一態様にかかる防護服1の正面図、図2は同右側面図、図3は同上面図である。
【0012】
防護服1は、図1および図2に示すように、頭被覆部、胴体被覆部、腕被覆部、手を被覆する手袋、脚被覆部、および足を被覆する靴が一体につながった構成を有し、これにより人体の全部を気密に被覆することができる。かかる防護服1は、防護服の使用環境に応じた性能(有毒ガス遮断性、放射性物質遮断性等)を有する生地を裁断結合することにより作製することができる。
【0013】
図1および図2に示す態様では、透明材からなる透視窓2は、頭被覆部の顔面対向部とそれに続く左右両側部に設けられている。透視窓は少なくとも顔面対向部に設けることで作業者が防護服着用時の視界を確保することができるが、より広い視界を確保し作業時の安全性を高めるためには、左右両側部にも設けることが好ましい。透視窓を構成する透明材は、透明合成樹脂等から構成することができる。
【0014】
そして先に説明したように、本発明の防護服には、上記透視窓の内面に防曇フィルムが交換可能に貼り付けられている。透視窓の内面に交換可能に貼り付けられた防曇フィルムとは、透視窓の一部をなす、人の手によっては除去困難な防曇層ではなく、人の手によって透視窓内面上から剥離し新たな防曇フィルムと交換できるものである。このように防曇フィルムを透視窓内面に設けた本発明の防護服では、防護服の長期使用や経時劣化により防曇性能が低下した場合には、防曇フィルムの張替えという簡単な処理を行うだけで、再び透視窓の曇りを抑制することが可能となる。かかる防曇フィルムは透視窓の少なくとも一部に貼り付ければよいが、作業者の視界を透視窓全域にわたって良好に維持するためには透視窓内面全面に貼り付けることが好ましい。
【0015】
防曇フィルムと透過窓内面は、作業者が防護服を着用し作業している間や使用後の清掃中等には防曇フィルムが透過窓内面から意図せず剥がれることはなく、しかし防曇フィルムを交換したいときには容易に剥離可能な程度に密着していることが好ましい。この点からは、防曇フィルムは、JIS Z 0237に準ずる方法によるポリ塩化ビニル樹脂板に対する180°引きはがし粘着力試験により測定される粘着力として、0.03〜5.00N/10mmの範囲(より好ましくは0.03〜4.00N/10mmの範囲)の粘着力を有する粘着層を介して、前記透視窓の内面に貼り付けられていることが好ましい。上記粘着力試験は、JIS Z 0237に規定されている粘着力試験ではSUS板を試験板として使用しているところ、試験板をポリ塩化ビニル樹脂板に変更したものである。
【0016】
上記防曇フィルムは、好ましくは粘着層または接着層を介して透視窓内面に貼り付けられ、防曇フィルムと透視窓内面との密着強度は粘着層または接着層の組成や膜厚等によって所望の範囲に制御することができる。本発明の防護服作製に使用可能な、粘着層または接着層、および防曇フィルムを備えた積層フィルムは市販品として入手可能であり、または公知の方法で容易に作製することができる。例えば、剥離シート/粘着層/基材フィルム/防曇フィルム/保護フィルム、がこの順に積層された積層フィルムの剥離シートを剥離して粘着層を透過窓内面に密着させた後に、保護フィルムを除去することで、粘着層を介して透過窓内面に防曇フィルムを貼り付けることができる。なお、上記防曇フィルム、および任意に防曇フィルムとともに透過窓内面上に設けられる各種の層(例えば、粘着層または接着層、基材フィルム等)としては、これが設けられることで作業者の視界が妨げられることがないように、透視窓材と同様に透明性を有するもの(透明樹脂フィルム等)を使用する。
【0017】
また、本発明の防護服には、図3に示すように、頭被覆部の上面の前方部にも透明材からなる透視窓(補助透視窓3)を設けてもよい。この場合、補助透過窓3の内面に、防曇フィルムを交換可能に貼り付けることも好適である。
【0018】
図1および図2に示す防護服には、着用者の身体の大きさおよび身体の動きに応じてだぶつきを除去低減するために、肩部から肘部にかけての内側に伸長状態で伸縮性バンド4が、腰部のだぶつきを除去低減するために腰部の左右の内側に伸長状態で伸縮性バンド5が、それぞれ取り付けられている。各伸縮性バンドは、ゴム・ポリウレタンなどからなり、それぞれ、その両端部が防護服本体の内面に接着剤などによって取り付けられている。ただし本発明によれば、先に説明したように防護服をコンパクト化することができ、特に袖部および胸部の形状をスリム化することができるため、このような伸縮バンドを設けることは必須ではない。
【0019】
図1および図2中、符号6は防護服の腰部を着用者の腰部に固定するために、防護服内側に取付けられた腰ベルトである。腰ベルト6は、防護服の背側中央部を避けて防護服の左右内側に各別に取付けた一対のベルトからなっている。図示した態様では、左右の各腰ベルトは、それぞれその後端においてのみ防護服本体に取付けられているが、防護服内面の適所にベルトを挿通支持するベルト支持片を設けベルトを支持してもよい。
【0020】
符号7は袖口部外側に取外し不可能に、または取外し可能に取付けられた手首締付けベルトであり、符号8は膝部補強用の膝当て、符号9は足部を被覆する安全長靴、符号10は手袋、符号11は右大腿部から首部右側を通って頭被覆部の上面に延びる防護服の着脱用の開口を気密に閉鎖する気密スライドファスナーであり、符号12は排気弁である。排気弁12は、防護服内部を陽圧に維持するため、防護服内が陽圧のある一定の圧力未満では閉鎖され、該圧力を超えたときに解放される。これにより、防護服内は常に所定の圧力に維持される。また、排気弁12は、防護服内部への汚染物質の侵入を防ぐため、防護服内部から防護服外部への一方向にのみ通気される。
【0021】
図4は図1のV−V線断面図である。透視窓2および補助透視窓3は、それぞれ、間隔をおいて位置する内外2枚の透明合成樹脂板21、22および31、32からなっている。ただし、透視窓2および透視窓3は、それぞれ1枚の透明板または透明シートで構成することも可能である。
【0022】
作業者の全身を気密に被覆可能な防護服(気密服)は、呼吸用の空気ボンベを含む呼吸器を装着した状態の作業者に着用されることが通常であり、符号15は空気ボンベ収納部である。防護服内で作業者に装着される呼吸器としては自給式呼吸器が主に用いられるが、自給式呼吸器の中でも空気呼吸器は、空気ボンベ(高圧空気容器)からの圧縮空気を、そく止弁、減圧弁、プレッシャデマンド弁またはデマンド弁等を通して着用者に供給するとともに、呼気は呼気弁を通して防護服内に排気される。したがって、空気呼吸器を装着した作業者に着用される場合には呼気による透視窓の曇りが特に発生しやすい。これに対し本発明の防護服は、先に説明したように透視窓の曇りの発生を抑制することができるため、空気呼吸器を装着した作業者に好適に使用されるものである。
【0023】
したがって本発明によれば、
本発明の防護服と、使用時に該防護服に内装される空気呼吸器と、を含むことを特徴とする防護装具;
作業者が空気呼吸器を装着した状態で、本発明の防護服を着用することを特徴とする作業時に作業者の身体を防護する方法、
も提供される。
【0024】
本発明の防護服の構成等のその他詳細については、特許第3689820号明細書等の公知技術を参照することができる。
【0025】
本発明の防護服は、例えば、面体、背負具に固定した空気ボンベ、および面体と空気ボンベを連結する吸気管からなる空気呼吸器の空気ボンベを背負具によって背負い、かつ面体を顔面に装着した作業者が、着脱用の開口を通して先ず下半身を防護服の下半部に入れ、腰ベルトを締めて防護服の下半部を身体に固定し、次いで上半身に防護服の上半部をまとい、最後に気密スライドファスナーにより着脱用の開口を閉じることで、その着用を完了する。作業者の呼気は呼気弁を通して面体の外の防護服内に排出されるが、本発明の防護服は透過窓の内面に防曇フィルムが貼り付けられているため、先に説明したように、呼気による曇りの発生を防ぐことができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
図1〜図4に示す防護服の透視窓2内面全面にわたり、市販の粘着層付きの防曇フィルム(防曇フィルムAという)を、該粘着層を介して貼り付けた。
空気呼吸器を装着した状態で上記防曇フィルム付き防護服を着用した作業者が45分間作業を行ったところ、作業中に透視窓に作業に支障をきたすような曇りが発生することも防曇フィルムが剥離することもなかったが、透視窓内面に貼り付けた防曇フィルムは、特別な器具や薬品を使用することなく容易に剥がすことができた。
また、作業終了後のウエスでの清掃中にも、防曇フィルムが意図せず剥がれることはなかった。
【0028】
[比較例1]
透視窓内面に防曇フィルムを貼り付けなかった点以外は実施例1と同様の防護服を、空気呼吸器を装着した作業者に着用させ45分間作業を行わせたところ、作業開始直後に透視窓内面に曇りが発生したため、作業者自身が防護服内で腕を袖から引き抜き曇りを拭き取らなければ作業を進めることは困難であった。
【0029】
[実施例2〜4]
粘着層に使用されている粘着剤が異なる点以外は、上記防曇フィルムAと同様の構成の防曇フィルムB〜Dを、実施例1と同様に防護服の透視窓内面全面に貼り付けた。
その後、各防護服を実施例1と同様に使用した後、清掃、剥離を行った。
実施例2の防護服については、実施例1と同様の結果が得られた。即ち、作業中に透視窓に作業に支障をきたすような曇りが発生することも防曇フィルムが剥離することもなかった。また、作業終了後のウエスでの清掃中に防曇フィルムが意図せず剥がれることはなかったが、透視窓内面に貼り付けた防曇フィルムは、特別な器具や薬品を使用することなく容易に剥がすことができた。
一方、実施例3、実施例4の防護服においても、作業中に透視窓に作業に支障をきたすような曇りが発生することも防曇フィルムが剥離することもなかった。ただし実施例3の防護服では、ウエスでの清掃中に防曇フィルムが意図せず剥離した。一方、実施例4の防護服では、清掃後に防曇フィルムを剥離する際に実施例1、2と比べて強い力が必要であり、また剥離後の透視窓内面には粘着層が残留していた。
【0030】
実施例1〜4で使用した防曇フィルムの粘着層の粘着力を、JIS Z 0237に準ずる方法によるポリ塩化ビニル樹脂板に対する180°引きはがし粘着力試験により測定した。結果を、下記表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
上記の通り、実施例1〜4の防護服では、作業中に透視窓が曇り安全な作業の妨げとなることを防ぐことができた。また、防曇フィルムは透視窓内面に粘着層を介して貼り付けられているため、防曇フィルムの防曇性能が低下した場合には、防曇フィルムを透視窓内面から剥離し、新たな防曇フィルムを貼り付ける(防曇フィルムを交換する)ことで、再び透視窓の曇りを抑制することができる。
なお実施例1、2と実施例3、4との対比から、清掃中等に意図せず剥離することはないが交換したいときには容易に剥離できる構成とするためには、防曇フィルムはJIS Z 0237に準ずる方法によるポリ塩化ビニル樹脂板に対する180°引きはがし粘着力試験により測定される粘着力として、0.03〜5.00N/10mmの粘着力を有する粘着層を介して防曇フィルムを貼り付けることが好ましいことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の防護服は、各種汚染環境中で作業者の安全を確保するための防護服として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭被覆部、胴体被覆部、腕被覆部、手を被覆する手袋、脚被覆部、および足を被覆する靴が一体につながった、人体の全部を気密に被覆する防護服であって、
頭被覆部の顔面対向部または顔面対向部とそれに続く左右両側部を透明材からなる透視窓とすると共に、該透視窓の内面に防曇フィルムを交換可能に貼り付けてなる防護服。
【請求項2】
前記防曇フィルムは、JIS Z 0237に準ずる方法によるポリ塩化ビニル樹脂板に対する180°引きはがし粘着力試験により測定される粘着力として、0.03〜5.00N/10mmの範囲の粘着力を有する粘着層を介して、前記透視窓の内面に貼り付けられている請求項1に記載の防護服。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防護服と、使用時に該防護服に内装される空気呼吸器と、を含むことを特徴とする防護装具。
【請求項4】
作業者が空気呼吸器を装着した状態で、請求項1または2に記載の防護服を着用することを特徴とする作業時に作業者の身体を防護する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246576(P2012−246576A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117175(P2011−117175)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000145507)株式会社重松製作所 (17)
【Fターム(参考)】