説明

防錆処理金属、防錆皮膜形成用組成物およびそれを用いた防錆皮膜形成方法

【課題】金属基体の表面に優れた防錆性、防錆持続性を有する防錆皮膜を形成した防錆処理金属および防錆皮膜形成用組成物およびそれを用いた防錆皮膜形成方法の提供。
【解決手段】金属基体2の表面(金属皮膜3の表面)に密着して形成されたジルコニウム化合物とフッ素化合物を主として含有する第1防錆皮膜4と、第1防錆皮膜4の上層部に形成された金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜5を備えた防錆処理金属1により課題を解決できる。ジルコニウム化合物とフッ素化合物を含有する第1処理液と、第1処理液で処理した表面を引き続き処理するための金属イオンおよび/または金属化合物を含有する第2処理液と、必要に応じて前記第2防錆皮膜の表面を処理するための珪酸塩を含有する第3処理液あるいはポリマーを主として含有する第3処理液とからなる防錆皮膜形成用組成物により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基体の表面に優れた防錆性を有する防錆皮膜を形成した防錆処理金属、防錆皮膜形成用組成物およびそれを用いた防錆皮膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基体の表面を保護し、錆の発生を防ぎ、機能性や装飾性などを向上させるために、6価クロムを含む処理液で化成皮膜処理を行うか、あるいはめっき処理を施してから6価クロムを含む処理液で表面処理する方法が、多く行われている。
【0003】
この6価クロムは防錆性に優れており、処理作業も比較的容易であり、また、6価クロムによって生成された防錆皮膜は、金属基体の表面に傷などの損傷ができても皮膜が再生されていわゆる自己修復性の作用があるが、6価クロムは非常に毒性が強く環境に与える影響が大きい。
【0004】
そのため6価クロムを含まない処理液で処理する方法として、例えば、タンニン酸を含有する処理液あるいはタンニン酸およびそれ以外の成分を含有する処理液を使用した有機防錆皮膜処理が提案されている(特許文献1〜5参照)。
また6価クロムの代替金属を使用した表面処理が提案されているが(特許文献6〜9参照)、従来行われていた6価クロムを含んだ表面処理に比べ、耐食性が十分とは言えず、また、皮膜に傷などが発生しても自己修復性が見られないためほとんど実用化に至っていないのが、現状である。
【0005】
また、金属表面をリン酸塩を含有する組成物に接触させて処理する工程と、この接触処理表面を、耐食性及び耐湿性を付与するに充分な植物性タンニンを含有する組成物に接触させる工程からなる金属表面処理方法が提案されているが(特許文献10参照)、防錆性すなわち耐食性の向上は十分とは言えずまた、6価クロムのような自己修復作用がないため金属基体の表面の傷などの防錆効果が得られないことからほとんど使用するのに至っていないのが、現状である。
【特許文献1】特開昭48−27936号公報
【特許文献2】特開昭51−71233号公報
【特許文献3】特開昭57−16177号公報
【特許文献4】特開昭58−197285号公報
【特許文献5】特開昭59−116381号公報
【特許文献6】特開昭56−43384号公報
【特許文献7】特開昭52−92836号公報
【特許文献8】特開昭57−145987号公報
【特許文献9】特開平9−53192号公報
【特許文献10】特開昭49−47224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、環境に影響を与える有害な6価クロムなどの化学薬品を使用することなく、金属基体の表面に6価クロムの場合と同等の優れた防錆性を有するとともに、防錆皮膜に傷などが発生しても防錆性が維持される防錆皮膜を形成した防錆処理金属を提供することであり、
本発明の第2の目的は、本発明の防錆処理金属を容易に得るために使用する防錆皮膜形成用組成物を提供することであり、
本発明の第3の目的は、本発明の防錆皮膜形成用組成物を用いて金属基体の表面を処理して本発明の防錆処理金属を容易に得るための防錆皮膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、例えば金属基体の表面に先ずジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物を主として含有する第1防錆皮膜を形成し、次いでこの第1防錆皮膜の上層部に金属イオンなどを主として含有する第2防錆皮膜を形成することにより、例えば第1防錆皮膜の表面を含む上層部に金属イオンなどが吸着、収着、化学結合するなどして第2防錆皮膜が形成され、これらの防錆皮膜の相乗効果により防錆性が顕著に向上し、これらの防錆皮膜に傷などの損傷ができても防錆性が維持されることを見いだすとともに、さらに必要に応じて前記第2防錆皮膜の上層部に珪酸塩を含有する第3防錆皮膜などを形成することにより一層防錆性が顕著に向上することを見いだし、本発明を成すに到った。
【0008】
本発明の請求項1の発明は、金属基体の表面に密着して形成されたジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜と、この第1防錆皮膜の上層部に形成された金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を備えたことを特徴とする防錆処理金属である。
【0009】
本発明の請求項2の発明は、請求項1記載の防錆処理金属において、前記金属基体が、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄およびそれらの合金からなる群から選ばれる金属表面を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の防錆処理金属において、前記金属イオンが、Mo,V,Ti,W,Zrの金属イオンの1種または2種以上の混合物であり、前記金属化合物が、これらの金属を含む金属化合物の1種または2種以上の混合物であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防錆処理金属において、前記フッ素化合物が弗化水素アンモニウム、弗化水素酸、弗化水素アルカリ金属塩から選択される少なくとも1つのフッ素化合物であり、前記ジルコニウムとフッ素を含む化合物が弗化ジルコニウムアンモニウムであることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の防錆処理金属において、前記第2防錆皮膜の上層部にさらに形成された珪酸塩を主として含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6の発明は、金属基体の表面を処理するためのジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1処理液と、第1処理液で処理した表面を引き続き処理するための金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2処理液と、必要に応じて前記第2防錆皮膜の表面を処理するための珪酸塩を含有する第3処理液あるいはポリマーを主として含有する第3処理液とからなることを特徴とする防錆皮膜形成用組成物である。
【0014】
本発明の請求項7の発明は、請求項6記載の防錆皮膜形成用組成物において、第1処理液のジルコニウムの濃度が1〜50g/l、フッ素の濃度が1〜50g/lの範囲であり、pHが1.0〜4.0の範囲にあることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8の発明は、請求項6あるいは請求項7記載の防錆皮膜形成用組成物において、第2処理液の金属イオンおよび/または金属化合物の濃度が金属イオン換算で0.01〜50g/lの範囲であり、pHが3.0〜10.0の範囲にあることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9の発明は、請求項6あるいは請求項7記載の第1処理液で金属基体の表面を処理して水洗して、前記金属基体の表面に密着してジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜を形成し、引き続き請求項6あるいは請求項8記載の第2処理液で処理して第1防錆皮膜の上層部に金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥するか、必要に応じてさらに請求項5記載の第3処理液で処理して前記第2防錆皮膜の上層部に珪酸塩を含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥することを特徴とする防錆皮膜形成方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1の発明は、金属基体の表面に密着して形成されたジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜と、この第1防錆皮膜の上層部に形成された金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を備えたことを特徴とする防錆処理金属であり、
金属基体の表面に、環境に影響を与える有害な6価クロムなどの化学薬品を使用せずに形成された6価クロムの場合と同等の優れた防錆性を有する複数の防錆皮膜を備えているため、優れた防錆性を有するとともに、金属基体に達するまで防錆皮膜に傷などが発生しても防錆性が維持され持続するという顕著な効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項2の発明は、請求項1記載の防錆処理金属において、前記金属基体が、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄およびそれらの合金からなる群から選ばれる金属表面を有することを特徴とするものであり、より優れた防錆性を有するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項3の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の防錆処理金属において、前記金属イオンが、Mo,V,Ti,W,Zrの金属イオンの1種または2種以上の混合物であり、前記金属化合物が、これらの金属を含む金属化合物の1種または2種以上の混合物であることを特徴とするものであり、より優れた防錆性を有するとともに、金属基体に達するまで防錆皮膜に傷などが発生しても確実に防錆性が維持され持続するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の防錆処理金属において、前記フッ素化合物が弗化水素アンモニウム、弗化水素酸、弗化水素アルカリ金属塩から選択される少なくとも1つのフッ素化合物であり、前記ジルコニウムとフッ素を含む化合物が弗化ジルコニウムアンモニウムであることを特徴とするものであり、金属基体の表面に第1防錆皮膜の形成をより容易に行えるとともに、金属基体の表面に一層密着して第1防錆皮膜を形成できるので、より優れた防錆性を有するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の防錆処理金属において、前記第2防錆皮膜の上層部にさらに形成された珪酸塩を主として含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を備えたことを特徴とするものであり、さらにより優れた防錆性を有するというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項6の発明は、金属基体の表面を処理するためのジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1処理液と、第1処理液で処理した表面を引き続き処理するための金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2処理液と、必要に応じて前記第2防錆皮膜の表面を処理するための珪酸塩を含有する第3処理液あるいはポリマーを主として含有する第3処理液とからなることを特徴とする防錆皮膜形成用組成物であり、
前記第1処理液を用いて金属基体の表面に密着して第1防錆皮膜を容易に形成でき、引き続き前記第2処理液で処理して前記第1防錆皮膜の上層部に密着して第2防錆皮膜を容易に形成でき、必要に応じてさらに前記第3処理液で処理して前記第2防錆皮膜の上層部に密着して珪酸塩を含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を容易に形成できる、という顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項7の発明は、請求項6記載の防錆皮膜形成用組成物において、第1処理液のジルコニウムの濃度が1〜50g/l、フッ素の濃度が1〜50g/lの範囲であり、pHが1.0〜4.0の範囲にあることを特徴とするものであり、
このような第1処理液を用いて金属基体の表面に密着してジルコニウム化合物とフッ素化合物を主として含有する良好な防錆性を有する第1防錆皮膜を容易に形成できる、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項8の発明は、請求項6あるいは請求項7記載の防錆皮膜形成用組成物において、第2処理液の金属イオンおよび/または金属化合物の濃度が金属イオン換算で0.01〜50g/lの範囲であり、pHが3.0〜10.0の範囲にあることを特徴とするものであり、
このような第2処理液を用いて前記第1防錆皮膜の表面に密着して金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する良好な防錆性を有する第2防錆皮膜を容易に形成できる、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0025】
本発明の請求項9の発明は、請求項6あるいは請求項7記載の第1処理液で金属基体の表面を処理して水洗して、前記金属基体の表面に密着してジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜を形成し、引き続き請求項6あるいは請求項8記載の第2処理液で処理して第1防錆皮膜の上層部に金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥するか、必要に応じてさらに請求項5記載の第3処理液で処理して前記第2防錆皮膜の上層部に珪酸塩を含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥することを特徴とする防錆皮膜形成方法であり、
本発明の防錆皮膜形成用組成物を用いて金属基体の表面に、環境に影響を与える有害な6価クロムなどの化学薬品を使用せずに、6価クロムの場合と同等の優れた密着性および防錆性および防錆持続性を有する複数の防錆皮膜を容易に形成できるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の防錆処理金属の一実施形態の断面をX線光電子分光分析を用いて防錆皮膜の厚さ方向の分析(以下、XPS分析と称す)を行った結果を模式的に示す説明図である。図2は、本発明の防錆処理金属の他の実施形態の断面を同様にしてXPS分析した結果を模式的に示す説明図である。図2に記載の符号で図1に記載の符号と同じものは図1に記載の符号のものと同じである。
【0027】
図1において、本発明の防錆処理金属1は、金属基体2の表面にメッキなどの手法により形成された金属皮膜3の表面に密着して形成されたジルコニウム化合物とフッ素化合物を主として含有する第1防錆皮膜4と、この第1防錆皮膜4の上層部に形成された金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜5を備えている。
【0028】
本発明で用いるジルコニウム化合物は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなど、ジルコニウム酸化物などを挙げることができ、これらのジルコニウム化合物の1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0029】
本発明で用いるフッ素化合物は、第1防錆皮膜4の形成を補助するとともに、金属皮膜3の表面に密着して第1防錆皮膜4を形成できるフッ素化合物成分であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、弗化水素アンモニウム、弗化水素酸、弗化水素アルカリ金属塩およびこれらの化合物の2種以上の混合物を挙げることができる。
これらの中でも、フッ素化合物として、弗化水素アンモニウムを用いると、第1防錆皮膜の形成を一層容易に行えるとともに、金属皮膜3の表面により密着して第1防錆皮膜を形成できるので、より優れた防錆性を付与できるので、好ましい。
【0030】
本発明で用いるジルコニウムとフッ素を含む化合物は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば六弗化ジルコニウムアンモニウムを挙げることができる。六弗化ジルコニウムアンモニウムを用いると、第1防錆皮膜の形成を一層容易に行えるとともに、金属皮膜3の表面により密着して第1防錆皮膜を形成できるので、より優れた防錆性を付与できるので、好ましい。
【0031】
本発明においてはジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物とジルコニウムとフッ素を含む化合物を併用することもできる。
【0032】
金属皮膜3の材質は特に限定されないが、具体的には、例えば、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄およびそれらの合金からなる群から選ばれる金属を挙げることができる。
金属基体2はこれらの金属自体で形成されたものでも、あるいは、金属基体2の本体は他の金属やセラミックなどの材料から形成されているが、表面に、電気メッキ、化学メッキ、真空蒸着などの手法や積層法などの手法により亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄およびそれらの合金からなる群から選ばれる金属皮膜3が形成されているものでも、これらを組み合わせた金属皮膜3が形成されているものであってもよい。
【0033】
本発明で用いる前記金属イオンは特に限定されないが、具体的には、例えば、Mo,V,Ti,W,Zrの金属イオンの1種または2種以上の混合物を挙げることができる。本発明で用いる前記金属化合物は、これらの金属を含む金属化合物の1種または2種以上の混合物である。
第1防錆皮膜4に含まれるジルコニウム化合物と、第2防錆皮膜5に含まれる前記金属化合物とは異なる金属化合物であってもよく、同じジルコニウム化合物であっても差し支えない。
【0034】
前記金属化合物としては、具体的には、例えば、モリブデン酸化合物、バナジン酸化合物、チタン酸化合物、タングステン酸化合物、ジルコン酸化合物などの金属化合物、前記金属を含む金属酸化物、前記金属を含むフッ素金属化合物の1種または、2種以上の混合物が挙げられる。
前記金属を含むフッ素金属化合物が第1防錆皮膜4に含まれるフッ素化合物と同じであっても差し支えない。
【0035】
前記モリブデン酸化合物としては、例えば、モリブデン酸アンモン、モリブデン酸ナトリウムなどが使用できる。
【0036】
前記バナジン酸化合物としては、例えば、バナジン酸アンモン、バナジン酸ナトリウムなどが使用できる。
【0037】
前記タングステン酸化合物としては、例えば、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどが使用できる。
【0038】
前記チタン酸化合物、ジルコン酸化合物としては、例えば、同様に各種アルカリ金属塩などのほかにハロゲン化合物も使用できる。
【0039】
図1に示したジルコニウム化合物とフッ素化合物を主として含有する第1防錆皮膜4を金属皮膜3の表面に密着して形成するためには、先ず、金属皮膜3の表面をジルコニウム化合物とフッ素化合物を含有する第1処理液で処理する。
第1処理液のジルコニウム化合物やジルコニウムとフッ素を含む化合物の濃度やフッ素化合物の濃度、pHは特に限定されないが、ジルコニウム換算で好ましくは1〜50g/l、さらに好ましくは2〜40g/lの範囲であり、フッ素換算で好ましくは1〜50g/l、さらに好ましくは2〜30g/lの範囲であり、pHは好ましくは1.0〜4.0、さらに好ましくは1.5〜3.5の範囲である。
【0040】
ジルコニウム換算で1g/l未満であると良好な耐食性のある第1防錆皮膜4が得られない恐れがあり、50g/lを超えても処理時間短縮、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
同様に、フッ素換算で1g/l未満であると良好な耐食性のある第1防錆皮膜4が得られない恐れがあり、50g/lを超えても処理時間短縮、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
【0041】
また、この第1処理液の温度は、凡そ10〜50℃が望ましい。10℃未満では、充分な皮膜形成がされない恐れがあり、50℃を超えると、耐食性のある良好な皮膜になりにくい上、処理液の蒸発が多く不経済となる。更に、第1処理液での処理時間は、凡そ10〜180秒が望ましい。10秒未満では、第1防錆皮膜4の生成が不十分となる恐れがあり、180秒を超えても、処理濃度低減、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
【0042】
第1処理液のpHがpH1.0未満である場合は生成した第1防錆皮膜4が再溶解しやすくなり、pH4.0を超える場合は長時間処理しても第1防錆皮膜4が生成されにくい。
【0043】
第1処理液のpH調整は、アルカリ性物質や酸性物質を用いて行うことができる。pH調整用のアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などが挙げられ、酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、弗化水素酸、蟻酸、酢酸、有機酸、有機カルボン酸などを挙げることができる。
第1処理液には処理液中での安定化剤として酸化剤、還元剤、キレート剤などの公知の添加剤を添加することができる。
【0044】
第1処理液で処理して得られる第1防錆皮膜4の厚さは特に限定されるものではない。しかし上記の処理条件で処理すると金属皮膜3によく密着した凡そ0.05〜0.3μm程度の厚さの第1防錆皮膜4が得られる。
【0045】
次に、このようにして形成した第1防錆皮膜4の表面を含む上層部に第2防錆皮膜5を形成するためには、第1処理液で処理した後すぐに、好ましくは第1処理液で処理した後に水洗して第1防錆皮膜4の上から第1処理液を実質的に洗い流した後に、第1防錆皮膜4の表面を金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2処理液で処理する。
第2処理液で処理した後、必要に応じて水洗して第2防錆皮膜5の上から第2処理液を実質的に洗い流した後に、乾燥して仕上げることにより本発明の防錆処理金属1を得ることができる。
【0046】
第2処理液のpHは特に限定されないが、pH3.0〜10.0の範囲にあることが好ましく、より好ましくは3.5〜8.0に調整するのがよい。第2処理液のpHがpH3.0未満あるいはpH10.0を超えると生成した第2防錆皮膜5が再溶解しやすくなる。
【0047】
第2処理液中の金属イオンおよび/または金属化合物の濃度は特に限定されないが、金属イオンに換算して0.01〜50g/lが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜30g/lである。0.01g/l未満では、防錆性が劣る恐れがあり、50g/lを超えてもそれ以上防錆性が向上せず、不経済となる恐れがある。
【0048】
第2処理液のpHは酸性物質やアルカリ性物質を用いて調整するのが良い。pH調整用のアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などが挙げられ、酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、弗化水素酸、蟻酸、酢酸、有機酸、有機カルボン酸などを挙げることができる。
【0049】
第2処理液による処理温度は、凡そ10〜60℃程度、好ましくは、凡そ15〜50℃がよい。10℃未満では、第1防錆皮膜4に対して金属イオンなどが吸着、収着、化学結合するなどの反応速度が遅く充分な耐食性が得られなくなる恐れがあり、60℃を超えると、処理液の蒸発量が多くなり不経済となる。
更に、第2処理液による処理時間は、凡そ5〜180秒であり、好ましくは凡そ10〜150秒がよい。10秒未満では第2防錆皮膜5の生成が不十分となる恐れがあり、150秒を超えても、処理濃度低減、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
第2処理液には金属イオンおよび/または金属化合物以外に、金属イオンの処理液中での安定化剤として酸化剤、還元剤、キレート剤などの公知の添加剤を添加することができる。
【0050】
第2処理液で処理して得られる第2防錆皮膜5の厚さは特に限定されるものではない、しかし上記の処理条件で処理すると第1防錆皮膜4の表面を含む上層部に凡そ0.05〜0.2μm程度の厚さの第2防錆皮膜5が得られる。
上記のようにして金属皮膜3の上に形成される第1防錆皮膜4および第2防錆皮膜5の厚さの合計は特に限定されるものではない。しかし上記の処理条件で処理すると合計で凡そ0.1〜0.5μm程度の厚さの防錆性に優れた防錆皮膜が得られる。
【0051】
図1に示した第1防錆皮膜4は金属皮膜3の表面に密着して形成されており、第2防錆皮膜5は第1防錆皮膜4の表面を含む上層部に一体的に形成されているため、本発明の防錆処理金属1は、優れた防錆性を有するとともに、防錆皮膜4、5に、例え、傷が発生して金属基体2や金属皮膜3が現れるようなことがあっても、この傷に第1防錆皮膜4および第2防錆皮膜5中のジルコニウム化合物、金属イオンおよび/または金属化合物が供給されて傷を覆って防錆するので防錆性が持続する。
【0052】
図2は、本発明の防錆処理金属の他の実施形態の結果を模式的に示す説明図である。
図2において、本発明の防錆処理金属1Aは、金属基体2の表面にメッキなどの手法により形成された金属皮膜3の表面に密着して形成された第1防錆皮膜4と、この第1防錆皮膜4の上層部に一体的に形成された第2防錆皮膜5と、この第2防錆皮膜5の上層部に密着して一体的に形成されたケイ酸塩系の第3防錆皮膜6を備えている。
【0053】
図2に示した構成の複数の防錆皮膜を備えた本発明の防錆処理金属1Aは、図1に示した本発明の防錆処理金属1と比較して防錆性がより増大し、より優れた防錆性を有するとともに、複数の防錆皮膜に例え、傷が発生して金属基体2や金属皮膜3が現れるようなことがあっても、この傷に上記の場合と同様にしてジルコニウム化合物、金属イオンおよび/または金属化合物が供給されて傷を覆って防錆するので防錆性が持続する。
【0054】
第3処理液の珪酸塩の濃度、pHは特に限定されないが、珪素換算で好ましくは1〜50g/l、さらに好ましくは2〜40g/lの範囲であり、pHは3.0〜10.0の範囲にあることが好ましく、より好ましくは3.5〜8.0に調整するのがよい。第3処理液のpHがpH3.0未満あるいはpH10.0を超えると生成した第3防錆皮膜6が再溶解しやすくなる。
【0055】
珪素換算で1g/l未満であると良好な耐食性のある第3防錆皮膜6が得られない恐れがあり、50g/lを超えても処理時間短縮、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
【0056】
また、この第3処理液の温度は、凡そ10〜50℃が望ましい。10℃未満では、充分な皮膜形成がされない恐れがあり、50℃を超えると、耐食性のある良好な皮膜になりにくい上、処理液の蒸発が多く不経済となる。更に、第3処理液での処理時間は、凡そ10〜180秒が望ましい。10秒未満では、第3防錆皮膜6の生成が不十分となる恐れがあり、180秒を超えても、処理濃度低減、防錆性能においてより以上の効果を期待できない。
【0057】
第3処理液のpH調整は、アルカリ性物質や酸性物質を用いて行うことができる。pH調整用のアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水などが挙げられ、酸性物質としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、弗化水素酸、蟻酸、酢酸、有機酸、有機カルボン酸などを挙げることができる。
第3処理液には処理液中での安定化剤として酸化剤、還元剤、キレート剤などの公知の添加剤を添加することができる。
【0058】
第3処理液で処理して得られる第3防錆皮膜6の厚さは特に限定されるものではない。しかし上記の処理条件で処理すると第2防錆皮膜5によく密着した凡そ0.05〜0.3μm程度の厚さの第3防錆皮膜6が得られる。
【0059】
第3処理液で処理した後、必要に応じて水洗して第3防錆皮膜6の上から第3処理液を実質的に洗い流した後に、乾燥して仕上げることにより本発明の防錆処理金属1Aを得ることができる。
【0060】
上記のようにして金属皮膜3の上に形成される第1防錆皮膜4および第2防錆皮膜5および第3防錆皮膜6の厚さの合計は特に限定されるものではない。しかし上記の処理条件で処理すると合計で凡そ0.15〜0.8μm程度の厚さの防錆性に優れた防錆皮膜が得られる。
【0061】
本発明で用いる第3処理液がポリマーを主として含有する第3処理液である場合、第2防錆皮膜5の上に適用して第2防錆皮膜5に密着して防錆性に優れた第3防錆皮膜6を形成できるものであれば、ポリマーは熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でも合成ゴムや天然ゴムあるいはこれらの2つ以上の混合物であってもよい。
【0062】
本発明で用いる熱硬化性樹脂は、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂あるいはこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0063】
エポキシ系樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、ヒダントイン型エポキシ化合物など、これらの2種以上の混合物に、必要に応じて反応性希釈剤を配合し、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトール変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、パラキシレン変性フェノール樹脂などのフェノール樹脂、酸無水物、アミン系化合物などの触媒を配合したものを挙げることができる。
【0064】
本発明で用いる光硬化性樹脂は、具体的には、例えば、エポキシ樹脂のアクリル酸エステル例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテルジアクリレート、エポキシ樹脂とアクリル酸とメチルテトラヒドロフタル酸無水物との反応生成物、エポキシ樹脂と2−ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物、エポキシ樹脂のジグリシジルエーテルとジアリルアミンとの反応生成物などのエポキシ樹脂系プレポリマーや、グリシジルジアクリレートと無水フタル酸との開環共重合エステル、メタクリル酸二量体とポリオールとのエステル、アクリル酸と無水フタル酸とプロピレンオキシドから得られるポリエステル、ポリエチレングリコールと無水マレイン酸とグリシジルメタクリレートとの反応生成物などのような不飽和ポリエステル系プレポリマーや、ポリビニルアルコールとN−メチロールアクリルアミドとの反応生成物、ポリビニルアルコールを無水コハク酸でエステル化した後、グリシジルメタクリレートを付加させたものなどのようなポリビニルアルコール系プレポリマー、ピロメリット酸二無水物のジアリルエステル化物に、p,p′−ジアミノジフェニルを反応させて得られるプレポリマーのようなポリアミド系プレポリマーや、エチレン−無水マレイン酸共重合体とアリルアミンとの反応生成物、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体と2−ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物又はこれにさらにグリシジルメタクリレートを反応させたものなどのポリアクリル酸又はマレイン酸共重合体系プレポリマーなど、そのほか、ウレタン結合を介してポリオキシアルキレンセグメント又は飽和ポリエステルセグメントあるいはその両方が連結し、両末端にアクリロイル基又はメタクロイル基を有するウレタン系ポリマーなどを挙げることができる。
【0065】
本発明で光硬化性樹脂の硬化に用いる光重合開始剤は、従来公知のもので良く、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1−ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド−ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0066】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、具体的には、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ハロゲン化ポリオレフィン系、ポリイミド系、アクリル系、エチレン・ビニルアルコール共重合体系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合系、ポリエーテルスルホン系などを挙げることができる。
本発明で用いるポリマーを主として含有する第3処理液は、溶剤型、エマルジョン型などでよく、第2防錆皮膜5の上に適用して皮膜を形成しそのままあるいは乾燥して第3防錆皮膜6としたり、加熱したり紫外線照射したりして硬化させて第3防錆皮膜6とすることができる。
ポリマーを主として含有する第3処理液で処理して得られる第3防錆皮膜6の厚さは特に限定されるものではない。しかし第2防錆皮膜5との優れた密着性および防錆性を付与できるので凡そ0.1〜100μm程度の厚さが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
SPCC鋼鈑(100×50×1.0mm)にめっき膜厚8〜12μmの亜鉛めっきを施したものを試験片とし、この試験片を先ず本発明の防錆皮膜形成用組成物の第1処理液(硝酸ジルコニウム含有量20g/l、弗化水素アンモニウム含有量5g/l、pH2.1)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、水洗した。
第1処理液で処理、水洗後、続いて本発明の防錆皮膜形成用組成物の第2処理液(タングステン酸アンモニウム、Wイオン含有量5g/l、pHを7に調整した)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、60℃で10分間乾燥して、本発明の防錆処理金属を得た。
【0069】
その耐食性を評価するためにJIS−2371に準拠する塩水噴霧試験を行った。評価の方法は、試験片に白錆が発生するまでの時間および白錆の発生した面積(試験片の全面積に対する白錆の発生した合計面積の割合)が5%を超えるまでの時間で評価した。
表1に、第1処理液の硝酸ジルコニウムと弗化水素アンモニウム含有量およびpH、第2処理液の金属イオン含有量、および塩水噴霧試験(時間)の結果を示す。
【0070】
(実施例2〜9)
表1に示した第1処理液、第2処理液を用いた以外は実施例1と同様にして試験片を処理して、本発明の防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(実施例10)
実施例1で用いた同じ試験片を用い、この試験片を先ず本発明の防錆皮膜形成用組成物の第1処理液(硝酸ジルコニウム含有量20g/l、弗化水素アンモニウム含有量5g/l、pH2.1)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、水洗した。第1処理液で処理、水洗後、続いて本発明の防錆皮膜形成用組成物の第2処理液(タングステン酸アンモニウム、Wイオン含有量5g/l、pHを7に調整した)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、第3処理液(ケイ酸カリウム含有量5g/l)で25℃で30秒間浸漬して処理した。その後、60℃で10分間乾燥して、本発明の防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表2に示す。
【0073】
(実施例11〜13)
表2に示した第1処理液、第2処理液、第3処理液を用いた以外は実施例10と同様にして試験片を処理して、本発明の防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
(比較例1)
実施例1で用いた同じ試験片を用い、この試験片を第1処理液(硝酸ジルコニウム含有量20g/l、弗化水素アンモニウム含有量5g/l、pH2.1)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、水洗し、60℃で10分間乾燥して、比較のための防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表3に示す。
【0076】
(比較例2、3)
表3に示した第1処理液を用いた以外は比較例1と同様にして、比較のための防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
(比較例4)
実施例1で用いた同じ試験片を用い、この試験片を第2処理液(タングステン酸アンモニウム、Wイオン含有量5g/l、pHを7に調整した)で25℃で40秒間浸漬して処理した後、水洗し、60℃で10分間乾燥して、比較のための防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表4に示す。
【0079】
(比較例5、6)
表4に示した第2処理液を用いた以外は比較例4と同様にして、比較のための防錆処理金属を得た。実施例1と同様にして塩水噴霧試験を行った結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表1から第1処理液−第2処理液で処理した実施例1〜9の本発明の防錆処理金属は優れた防錆性を有することが判る。
表2から実施例10〜13の本発明の防錆処理金属は第1処理液−第2処理液で処理した後、さらに第3処理液で処理したので、第1処理液−第2処理液で処理した実施例1〜9の本発明の防錆処理金属に比較してより優れた防錆性を有することが判る。
表3から第1処理液で処理したのみの比較例1〜3の防錆処理金属は防錆性に劣ることが判る。
表4から第2処理液で処理したのみの比較例4〜6の防錆処理金属は防錆性に劣ることが判る。
【0082】
(実施例1および実施例2で得られた本発明の防錆処理金属のXPS分析および比較例1で得られた比較のための防錆処理金属のXPS分析)
XPS分析を次の条件で行った。
(表面分析条件)
分析方法 X線光電子分光分析(XPS)
深さ方向分析
装置 Quantum−2000(アルバック・ファイ社)
XPSの測定
真空度 5E−9Torr以下
X線源 Al−Kα線
入射角 45°
加速電圧 15KV
出力 25W
ビーム径 φ100μm
アルゴンイオンスパッタ条件:
加速電圧 3KV
スパッタエリア 2×2mm
スパッタレート(SiO2 ) 10nm/分
【0083】
深さ方向分析は、(1)アルゴンイオンエッチング 60秒、(2)XPS測定(ジルコニウム、タングステン、バナジウム、フッ素、酸素、亜鉛)を繰り返して行い、深さ方向の組成分析を行った。なお、亜鉛は金属基体の金属被覆に由来し、ジルコニウム、タングステン、バナジウム、フッ素、酸素は防錆皮膜に由来するものである。
【0084】
実施例1および実施例2で得られた本発明の防錆処理金属の防錆皮膜のXPS分析の結果を図3および図4に、比較例1で得られた比較のための防錆処理金属のXPS分析の結果を図5に示す。
図3〜図5において、縦軸は原子濃度(%)、横軸はスパッタ時間(分)を示す。スパッタ時間の1分は10nm(厚さ)に相当する。
図3〜図5において、亜鉛はZn2P3、タングステンはW4f、ジルコニウムはZr3d、フッ素はF1s、酸素はO1S、バナジウムはV2pの原子濃度(%)をそれぞれ示す曲線である。
【0085】
第1処理液で処理したのみの比較例1の防錆処理金属のXPS分析の結果を示す図5において、金属皮膜(イ)はスパッタ時間約10分以上の領域、第1防錆皮膜(ロ)はスパッタ時間約0〜10分の領域にあると考えられる。
前記のように第1処理液で処理したのみの比較例1の防錆処理金属は防錆性に劣っている。
【0086】
第1処理液−第2処理液で処理した実施例1の本発明の防錆処理金属のXPS分析の結果を示す図3において、金属皮膜(イ)はスパッタ時間約10分以上の領域、第1防錆皮膜(ロ)はスパッタ時間約3〜10分の領域、第2防錆皮膜(ハ)はスパッタ時間約0〜5分の領域にあると考えられる。
第1防錆皮膜の約1/2以上にタングステンが浸透している。その結果、比較例1の防錆処理金属に対して防錆性が3〜5倍向上した。
【0087】
第1処理液−第2処理液で処理した実施例2の本発明の防錆処理金属のXPS分析の結果を示す図4において、金属皮膜(イ)はスパッタ時間約10分以上の領域、第1防錆皮膜(ロ)はスパッタ時間約3〜10分の領域、第2防錆皮膜(ハ)はスパッタ時間約0〜5分の領域にあると考えられる。
第1防錆皮膜の約1/2以上にバナジウムが浸透している。その結果、比較例1の防錆処理金属に対して防錆性が3〜5倍向上した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の防錆処理金属は、金属基体の表面に、環境に影響を与える有害な6価クロムなどの化学薬品を使用せずに形成された6価クロムの場合と同等の優れた防錆性を有する複数の防錆皮膜を備えているため、優れた防錆性を有するとともに、金属基体に達するまで防錆皮膜に傷などが発生しても防錆性が維持され持続するという顕著な効果を奏する。
本発明の防錆皮膜形成方法により、本発明の防錆皮膜形成用組成物を用いて金属基体の表面に、環境に影響を与える有害な6価クロムなどの化学薬品を使用せずに、6価クロムの場合と同等の優れた密着性および防錆性および防錆持続性を有する複数の防錆皮膜を容易に形成できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が甚だ大きい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の防錆処理金属の一実施形態の表面のXPS分析の結果を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の防錆処理金属の他の実施形態の表面のXPS分析の結果を模式的に示す説明図である。
【図3】実施例1で得られた本発明の防錆処理金属の表面のXPS分析の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた本発明の他の防錆処理金属の表面のXPS分析の結果を示すグラフである。
【図5】比較例1で得られた比較のための防錆処理金属の表面のXPS分析の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
1、1A 防錆処理金属
2 金属基体
3 金属皮膜
4 第1防錆皮膜
5 第2防錆皮膜
6 第3防錆皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体の表面に密着して形成されたジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜と、この第1防錆皮膜の上層部に形成された金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を備えたことを特徴とする防錆処理金属。
【請求項2】
前記金属基体が、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄およびそれらの合金からなる群から選ばれる金属表面を有することを特徴とする請求項1記載の防錆処理金属。
【請求項3】
前記金属イオンが、Mo,V,Ti,W,Zrの金属イオンの1種または2種以上の混合物であり、前記金属化合物が、これらの金属を含む金属化合物の1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の防錆処理金属。
【請求項4】
前記フッ素化合物が弗化水素アンモニウム、弗化水素酸、弗化水素アルカリ金属塩から選択される少なくとも1つのフッ素化合物であり、前記ジルコニウムとフッ素を含む化合物が弗化ジルコニウムアンモニウムであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の防錆処理金属。
【請求項5】
前記第2防錆皮膜の上層部にさらに形成された珪酸塩を主として含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の防錆処理金属。
【請求項6】
金属基体の表面を処理するためのジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1処理液と、第1処理液で処理した表面を引き続き処理するための金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2処理液と、必要に応じて前記第2防錆皮膜の表面を処理するための珪酸塩を含有する第3処理液あるいはポリマーを主として含有する第3処理液とからなることを特徴とする防錆皮膜形成用組成物。
【請求項7】
第1処理液のジルコニウムの濃度が1〜50g/l、フッ素の濃度が1〜50g/lの範囲であり、pHが1.0〜4.0の範囲にあることを特徴とする請求項6記載の防錆皮膜形成用組成物。
【請求項8】
第2処理液の金属イオンおよび/または金属化合物の濃度が金属イオン換算で0.01〜50g/lの範囲であり、pHが3.0〜10.0の範囲にあることを特徴とする請求項6あるいは請求項7記載の防錆皮膜形成用組成物。
【請求項9】
請求項6あるいは請求項7記載の第1処理液で金属基体の表面を処理して水洗して、前記金属基体の表面に密着してジルコニウム化合物とフッ素化合物との混合物および/またはジルコニウムとフッ素を含む化合物を主として含有する第1防錆皮膜を形成し、引き続き請求項6あるいは請求項8記載の第2処理液で処理して第1防錆皮膜の上層部に金属イオンおよび/または金属化合物を主として含有する第2防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥するか、必要に応じてさらに請求項5記載の第3処理液で処理して前記第2防錆皮膜の上層部に珪酸塩を含有する第3防錆皮膜あるいはポリマーを主として含有する第3防錆皮膜を形成した後、必要に応じて水洗し、乾燥することを特徴とする防錆皮膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−7671(P2009−7671A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2008−160625(P2008−160625)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(595098103)株式会社サンビックス (3)
【Fターム(参考)】