説明

降車補助装置

【課題】上腕部の筋力の弱い乗員であっても円滑な降車挙動を得ることのできる降車補助装置を提供する。
【解決手段】シートクッション5上に臀部を載置した乗員mが車体側方に向き、かつ足先16をドア開口4を通して車外の降車位置Gに接地した降車姿勢において、乗員mの踝17と腰18の間でかつ乗員mの腿19の下面よりも下方となる位置にアシストグリップ10を設置する。アシストグリップ10の把持部12は、ドア開口4側の突出端13から車幅方向内側かつ下側に傾斜して延びる指掛け面14と、突出端13から車幅方向内側かつ上側に傾斜して延びる荷重支持面15とを備えた構造とする。乗員mは、把持部12を把持し、把持部12を手前に引き込んで上体B1を前傾させつつ腰18を浮かせ、荷重支持面15を手の平H1で押して立ち上がることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートに着座した乗員の降車挙動を補助する降車補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シートに着座した乗員が車体側部のドア開口を通して車外に降り立つときの、乗員の降車挙動を補助するための装置として、アシストグリップが知られている。一般的なアシストグリップは、ドア開口の車室内側の上縁部に固定設置され、車両走行時や乗降時に乗員が手で把持することによって上体を支えるようになっている。
【0003】
また、乗員が把持するアシストグリップとしては、ドア開口の上縁部以外にも、ドア開口の側縁部(後輪ホイールハウス部分)に設置したものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−326528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の降車補助装置の場合、降車時に乗員が把持するアシストグリップの把持部が、着座した乗員の腰部や大腿部よりも上方側に配置されているため、乗員が降車時に腰部を持ち上げるときに、上腕部に大きな筋力が必要となる。このため、上腕部の筋力の弱い乗員は円滑な降車挙動が難しくなる。
【0006】
そこでこの発明は、上腕部の筋力の弱い乗員であっても円滑な降車挙動を得ることのできる降車補助装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る降車補助装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、シート(例えば、実施形態のシート2)に着座した乗員(例えば、実施形態の乗員m)が車体側部のドア開口(例えば、実施形態のドア開口4)を通して車外に降りるときに乗員の降車挙動を補助する降車補助装置(例えば、実施形態の降車補助装置1)であって、シートクッション(例えば、実施形態のシートクッション5)上に臀部を載置した乗員が車体側方に向き、かつ足先を前記ドア開口を通して車外の降車位置(例えば、実施形態の降車位置G)に接地した降車姿勢において、該乗員の踝と腰の間でかつ該乗員の腿の下面よりも下方となる位置にアシストグリップ(例えば、実施形態のアシストグリップ10)が配置されていることを特徴とする。
これにより、シートに着座した乗員が車体側部のドア開口を通して降車する場合には、シートクッション上に臀部を載置したまま車体側方に向き、ドア開口を通して足先を車外の降車位置に接地する。乗員は、この状態から腿の下面よりも下方位置にあるアシストグリップを把持して上体を車外側に前傾させ、その勢いを利用して腰を持ち上げ、車外の降車位置に立ち上がる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る降車補助装置において、前記アシストグリップが、前記ドア開口に向かって突出して乗員によって把持される把持部(例えば、実施形態の把持部12)を備え、該把持部が、前記ドア開口側の突出端(例えば、実施形態の突出端13)から車幅方向内側かつ下側に傾斜して延びる指掛け面(例えば、実施形態の指掛け面14)と、前記突出端から車幅方向内側かつ上側に傾斜して延びる荷重支持面(例えば、実施形態の荷重支持面15)と、を備えていることを特徴とする。
これにより、シートに着座した乗員が車体側部のドア開口を通して降車する場合には、アシストグリップの把持部の荷重支持面上に手の平を載せ、その状態で指先を把持部の指掛け面に掛けて把持部を手前に引き込むように力を加え、上体を車外側に前傾させて腰を浮かせる。こうして腰を浮かせた後には、手の平で荷重支持面に体重をかけつつ上体を上方に起こして車外の降車位置に立ち上がる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る降車補助装置において、前記アシストグリップが、前記シートのシートクッションのほぼ前後幅に亙って設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、降車時に、乗員が腿の下面よりも下方位置にあるアシストグリップを把持して上体を車外側に前傾させ、その勢いで車外の降車位置に立ち上がることができるため、上腕部の大きな筋力を要することなく円滑な降車挙動を得ることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、アシストグリップの把持部が、ドア開口側の突出端から車幅方向内側かつ下側に傾斜して延びる指掛け面と、突出端から車幅方向内側かつ上側に傾斜して延びる荷重支持面と、を備えていることから、把持部の荷重支持面上に手の平を載せ、その状態で指先を把持部の指掛け面に掛けることにより、乗員による把持部の自然な握りのまま、上体の前傾から立ち上がりまでの挙動を連続して補助することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、アシストグリップが、シートのシートクッションのほぼ前後幅に亙って設けられているため、乗員が車体側方に向きを変えたときに、腿の両側下方においてアシストグリップを両手で把持して降車挙動に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1の実施形態の降車補助装置を示す斜視図である。
【図2】同実施形態の降車補助装置を乗員の挙動とともに示す模式的な正面図である。
【図3】同実施形態の降車補助装置の図2のA部を拡大した正面図である。
【図4】同実施形態の降車補助装置の図2のA部を拡大した正面図である。
【図5】同実施形態の降車補助装置の図2のA部を拡大した正面図である。
【図6】同実施形態の降車補助装置を用いた場合の乗員の上体挙動を示す模式的な図である。
【図7】同実施形態の降車補助装置を用いた場合の乗員の下体挙動を示す模式的な図である。
【図8】同実施形態の降車補助装置を用いた場合の乗員の上体挙動を示す模式的な図である。
【図9】同実施形態の降車補助装置の変形例を示す図2のA部に対応する模式的な図である。
【図10】同実施形態の降車補助装置の別の変形例を示す図2のA部に対応する模式的な図である。
【図11】同実施形態の降車補助装置のさらに別の変形例を示す図2のA部に対応する模式的な図である。
【図12】この発明の第2の実施形態の降車補助装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
最初に、図1〜図8に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態に係る降車補助装置1を示した図であり、図2は、降車時における乗員mの挙動を降車補助装置1ともに示した図である。図2において、2は、車室内に設置されたシートであり、4は、車体3の側部のドア開口である。
【0015】
図1,図2に示すシート2は、着座する乗員mの臀部を支持するシートクッション5と、シートクッション5の後部に傾動可能に連結され、着座した乗員mの腰部と背中部を支持するシートバック6と、シートバック6の上部に設置されて着座した乗員mの頭部を支持するヘッドレスト7と、を備えている。
降車補助装置1は、樹脂材料等によって形成されるアシストグリップ10を主要素として構成されており、アシストグリップ10は、シートクッション5のドア開口4側の側面に固定設置されている。ここで、シートクッション5に対するアシストグリップ10の具体的な取付態様については図示しないが、アシストグリップ10は、例えば、シートクッション5のクッションフレーム(図示せず)にボルト結合等によって固定されている。
【0016】
図3〜図5は、図2に示す降車補助装置1のアシストグリップ10を拡大して示した図である。
アシストグリップ10は、シートクッション5の側面に固定されるベース部11と、ベース部11の上部側面からドア開口4側に向かって突出し、降車時に乗員mが手で把持する把持部12と、を備えている。ベース部11と把持部12を含むアシストグリップ10の断面はシート前後方向に亙ってほぼ一定形状に形成されている。把持部12は、ドア開口4側の突出端13から車幅方向内側かつ下側に所定角度α(図3参照)傾斜して延びる指掛け面14と、突出端13から車幅方向内側かつ上側に所定角度β(図4参照)傾斜して延びる荷重支持面15と、を備えている。把持部12は、図4に示すように乗員mの手の平H1が荷重支持面15上に載せ置かれ、その状態において指掛け面14に、乗員mの親指を除く4本の指Fが掛けられるようになっている。
図3に示すように、突出端13は、指掛け面14と荷重支持面15とを滑らかに接続するように曲面形状に形成され、指掛け面14とベース部11との連接部には、指掛け面14に掛けた乗員mの爪先が引っ掛かるのを防止するために凹状の曲面Rが設けられている。
【0017】
ところで、アシストグリップ10は、シートクッション5上に臀部を載置した乗員mが車体側部に向き、かつ、図2に示すように足先16をドア開口4を通して車外の降車位置Gに接地した降車姿勢において、乗員mの踝17と腰18の間でかつ乗員mの腿19の下面よりも下方となる位置に配置されている。この実施形態の場合、アシストグリップ10は、シートクッション5上のドア開口4側の側縁の隆起部20(土手部)よりも僅かに低くなるようにシートクッション5の側面に取り付けられている。
【0018】
また、アシストグリップ10は、シートクッション5の前後幅の大半の領域(シートクッション5の前後の一部を除く前後幅領域)に亙るようにシート前後方向に延出して設けられている。
【0019】
つづいて、この降車補助装置1を用いた乗員mの降車挙動について説明する。
サイドドアを開いてドア開口4から車外に降りようとする乗員mは、臀部をシートクッション5上に載置したまま、ドア開口4側の車体側部に向きを変え、両足の足先16をドア開口4を通して車外の降車位置Gに接地する。この状態では、乗員mの腿19がシートクッション5の側方の隆起部20とドア開口4を跨いで車外側に延出する。
【0020】
次に、この状態から乗員mは、腿19の下面よりも下方に位置されているアシストグリップ10の把持部12を、両腿19の左右両側において両手で把持する。このとき、乗員mの手は、手の平H1を下方に向けて荷重支持面15上に載せ置き、指Fを折り曲げて指先を指掛け面14に掛ける。
乗員mは、この状態から図6に示すように、アシストグリップ10の把持部12を手前に引き寄せるように両手に力を加えつつ、上体B1を前方に倒し、その勢いで腰18をシートクッション5の上面から浮き上がらせる。
【0021】
乗員mは、こうして腰18がシートクッション5の上面から浮き上がると、次に、図5に示すように手の平H1が載せ置かれている荷重支持面15上に体重を載せ、図2,図8に示すように両腕で上体B1を前部上方側に押し上げることによって上体B1を車外側に向かって起立させ、その状態において車外で立ち上がる。この間、乗員mの下体B2は、踝17を中心として膝21が前方に若干移動し、その膝21を中心として、図7に示すように腿19が乗員mの臀部とともに前部上方側に向かって移動する。
【0022】
以上のように、この降車補助装置1では、降車位置Gに接地した乗員mの降車姿勢において、乗員mの踝17と腰18の間でかつ乗員mの腿19の下面よりも下方となる位置にアシストグリップ10が配置されているため、乗員mは、アシストグリップ10の把持部12を手前に引き寄せるように力を加えて上体B1を前傾させつつ腰18を浮かせ、そのまま荷重支持面15に体重を載せて上体B1を起こすという一連の動作により、容易に降車位置Gに降り立つことができる。
したがって、この降車補助装置1を用いることにより、上腕部の大きな筋力を要することなく、円滑な降車挙動を得ることができる。
【0023】
また、この降車補助装置1においては、アシストグリップ10の把持部12が、突出端13から車幅方向内側かつ下方に傾斜して延びる指掛け面14と、突出端13から車幅方向内側かつ上側に傾斜して延びる荷重支持面15と、を備えているため、乗員mが把持部12に手を載せ置いた自然な握りのまま、上体B1の前傾姿勢への移行と上体B1を上方に起こして立ち上がるまでの挙動を連続して補助することができる。
そして、把持部12の指掛け面14は、突出端13から車幅方向内側かつ下方に傾斜しているため、乗員mが把持部12を自然に握ることができるとともに、降車時に乗員mの指Fが引っ掛かったままになるのを防止することができる。
【0024】
さらに、この実施形態の降車補助装置1においては、アシストグリップ10がシートクッション5の側部にほぼ前後幅に亙るように設けられているため、乗員mが臀部をシートクッション5上に載置した状態のまま車体側方に向きを変えたときに、常に腿19の両側下方にアシストグリップ10の把持部12が位置されることになる。このため、降車時に車体側方に向きを変えた乗員mは、腿19の両側位置で両手を下方に伸ばすことにより、両手で確実に把持部12を把持して降車のための挙動に移行することができる。
【0025】
図9,図10は、この実施形態の変形例を示すものである。
図9に示す変形例は、アシストグリップ10の把持部12の指掛け面14Aの表面にエンボス加工等によって微細な凹凸aを複数設けたものであり、図10は、アシストグリップ10の把持部12の荷重支持面15Aの表面に複数の波形の凹凸bを設けたものである。
これらの変形例のように、指掛け面14Aや荷重支持面15Aの表面に凹凸aや凹凸bを設けるようにした場合、乗員mが把持部12を把持したり体重をかけたりする際の手のすべりを防止することができる。
【0026】
図11は、この実施形態のさらに別の変形例を示すものである。
この変形例は、アシストグリップ10の把持部12の指掛け面14に接着する表皮材27の下端側の縁部の上に、ベース部11に接着する表皮材28の上端側の縁部を重ねて接合するようにしたものである。こうして、指掛け面14側の表皮材27の縁部の上にベース部11側の表皮材28の縁部を重ねるようにした場合には、乗員mが指掛け面14に下方側から指Fを掛けたときに、指先の爪Nが表皮材27の端部に引っ掛かって爪Nが傷つくのを未然に防止することができる。
【0027】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態においては、アシストグリップ10をシートクッション5の側部に固定設置したが、図12に示す第2の実施形態の降車補助装置101のように、アシストグリップ10をサイドシル30の車内寄りの壁に固定設置するようにしても良い。図12においては、第1の実施形態と同一部分に同一符号を付すものとする。
【符号の説明】
【0028】
1,101…降車補助装置
2…シート
4…ドア開口
5…シートクッション
10…アシストグリップ
12…把持部
13…突出端
14,14A…指掛け面
15,15A…荷重支持面
G…降車位置
m…乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員が車体側部のドア開口を通して車外に降りるときに乗員の降車挙動を補助する降車補助装置であって、
シートクッション上に臀部を載置した乗員が車体側方に向き、かつ足先を前記ドア開口を通して車外の降車位置に接地した降車姿勢において、該乗員の踝と腰の間でかつ該乗員の腿の下面よりも下方となる位置にアシストグリップが配置されていることを特徴とする降車補助装置。
【請求項2】
前記アシストグリップが、前記ドア開口側に向かって突出して乗員によって把持される把持部を備え、該把持部が、前記ドア開口側の突出端から車幅方向内側かつ下側に傾斜して延びる指掛け面と、前記突出端から車幅方向内側かつ上側に傾斜して延びる荷重支持面と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の降車補助装置。
【請求項3】
前記アシストグリップが、前記シートのシートクッションのほぼ前後幅に亙って設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の降車補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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