説明

除去式アンカーの構造

【課題】 アンカー孔1内にほとんどPC鋼線5のねじれ部を発生させず、そのために除去が容易であるという効果を得ることができる。
【解決手段】 削孔したアンカー孔1内に配置した複数の耐荷体3と、各耐荷体3に係合して地上に引き出したPC鋼線5と、ひとつの耐荷体3と、次の耐荷体3との間に配置したねじれ分散具6とより構成する。このねじれ分散具6は、円柱体の周囲にPC鋼線5を収納する収納溝を刻設して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除去式アンカーの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている除去式アンカーの構築方法を図3以下において説明する。
<1>ケーシング削孔。
まず地中にアンカー孔1を削孔する。
この削孔に際しては周囲の壁面の崩壊を防止するために、中央のビットによる掘進と平行してその周囲にケーシング2を挿入してゆく、二重管方式の掘削をする。
削孔が完了したら中央のビットは引き出すが、その後も周囲のケーシング2は孔内に残しておき、孔壁の崩壊を阻止する。
【0003】
<2>テンドンの組み立て、挿入。
一方、地上では複数の耐荷体3に鋼線を係合したテンドン(tendon=腱)と称する構成部材を組み立てる。
このテンドンは最端部と中間位置に配置した耐荷体3ごとに、PC鋼線を取付けた部材である。
その長さは、10メートルから場合によっては50メートルにもおよび複数箇所に耐荷体3を配置してある。
このテンドンを、複数の作業員が支えながら、削孔したアンカー孔1内のケーシング2内に送り込む。
【0004】
<3>モルタルの注入。
テンドンにはモルタルを注入する注入パイプを沿えてあり、このパイプを通して孔外から孔の底部へモルタル4を注入する。
【0005】
<4>ケーシング2の引き抜き。
孔内へのモルタル4が充填されれば孔壁は崩壊することがないから、モルタル4の注入に同調させて、ケーシング2を地上へ引き抜く。
この時にケーシング2は外周の全面が孔壁と接触しているのでその付着の摩擦が大きく、直線的に外側へ引き抜くことは困難である。
そこで摩擦を切るためにケーシング2に回転を与えて引き抜きを行う。
【0006】
<5>PC鋼線5のねじれ。
この場合に、ケーシング2に与える回転の方向は一方向に限られる。
なぜなら、ケーシング2は多数本の短い鋼管をネジで接続して長さを確保しているから、ネジが解体する方向への回転を与えることはできないからである。
このようにケーシング2は往復方向へ回転させることはできないため、ケーシング2内に位置している耐荷体3やPC鋼線5は、ケーシング2内部のモルタル4と共に一方向への回転を与えられる。
一方、ケーシング2を引き抜いた後のモルタル4は、孔壁の抵抗によって回転をしないから、モルタル4内の耐荷体3も回転をしない。
その結果、ケーシング2から露出した部分の耐荷体3と、ケーシング2内部の耐荷体3との間のPC鋼線5には多数回のねじれが与えられることになる。
これは実験的に強引に除去したテンドンを検討して、特に最深部の耐荷体3と次の耐荷体3との間を含む定着長部で、PC鋼線5に激しいねじれが発生していることが分かった。(図6)
最深部ではPC鋼線が2本しかなく、さらに地盤の強度が低いと耐荷体3の距離が離れているので、剛性が低いためにねじれが多く発生することもわかった。
距離が離れていても、出口側ではPC鋼線が4本、6本と増加しているので、PC鋼線5群としての剛性が高く、回転に対する抵抗が大きいために入り口側ではねじれの発生が少ない。
PC鋼線5の本数が少なくても、耐荷体3と耐荷体3との距離を短くすればPC鋼線5と耐荷体3とが一体となって全体として抵抗し、ねじれの発生を抑えることができるはずである。
しかし耐荷体3を配置位置は地盤条件に基づく設計によって決定しているのであるから、もとより勝手な位置に配置することはできるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、従来のアンカーの構造にあっては、孔内に設置したPC鋼線5は、多数個所に多数回のねじれが発生していることになる。
ねじれが生じても抵抗体としてのアンカーの機能に与える影響は少ない。しかし仮設の除去式アンカーの場合には、数年後には引き抜いて除去しなければならない。
その除去の際に複雑な捻れ部分がモルタル4内に位置していれば、それが大きな抵抗となり、除去がきわめて困難となるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような従来の装置の課題を解決した本発明の除去式アンカーは、削孔したアンカー孔1内に配置した複数の耐荷体3と、各耐荷体3に係合して地上に引き出したPC鋼線5と、ひとつの耐荷体3と、次の耐荷体3との間に、配置したねじれ分散具6とより構成し、このねじれ分散具6は、円柱体の周囲にPC鋼線5を収納する収納溝を刻設して構成した、除去式アンカーの構造の構造を特徴としたものである。
さらに本発明の除去式アンカーは、削孔したアンカー孔内に配置した複数の耐荷体と、各耐荷体に係合して地上に引き出したPC鋼線と、ひとつの耐荷体と、次の耐荷体との間に配置したねじれ分散具とより構成し、このねじれ分散具は、円柱体にPC鋼線を収納する貫通孔を刻設して構成した、除去式アンカーの構造を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除去式アンカーの構造は以上説明したようになるから、アンカー孔1内にほとんどPC鋼線5のねじれ部を発生させず、そのために除去が容易であるという効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照しながら本発明の除去式アンカーの構造の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
<1>全体の構成。
本発明の除去式アンカーの構造の主要部は、上記した従来の除去式アンカーの構造と同一であり、同一の構成は同一の符号によって説明する。
すなわち複数の耐荷体3と、各耐荷体3に係合して地上に引き出したPC鋼線5とによって構成する。
耐荷体3としては従来公知の各種のものを採用することができ、PC鋼線5の一端を耐荷体3に固定する方式にかぎらず、1本のPC鋼線5を耐荷体3において折り返したUターン式と称するアンカー、その他の公知のアンカーにも利用することができる。
【0012】
<2>ねじれ分散具6
本発明の除去式アンカーでは、特にひとつの耐荷体3と、次の耐荷体3との間に、「ねじれ分散具6」を配置する。
このねじれ分散具6は、図2、3に示すように、円柱体のブロックより構成する。
この表面の周囲に溝61を刻設する。(図2)
あるいはその内部(図3)に複数本の貫通孔62を平行に刻設する。
この溝61も、貫通孔62もPC鋼線5を収納するための収納構造である。
溝を表面に刻設した場合には、ねじれ分散具6の断面形状は「歯車」状を呈する。
溝を内部に貫通して刻設した場合には、ねじれ分散具6の断面形状は「れんこん」状を呈する。
ねじれ分散具6は鋼、コンクリート、合成樹脂などによって構成することができる。
【0013】
<3>分割タイプ。
このねじれ分散具6は一体の円柱体でもよいが、複数に分割した構造のものを採用することもできる。
すなわち、収納溝に直交する面で分割が可能であり、かつ接続が可能な複数の単体から構成することもできる。
したがって各単体は、厚さの薄い歯車状の板体であり、その表面、あるいは裏面に挿入用のピント、これを受け入れるピン穴を開口するような構成を採用する。
すると、薄い歯車状の板体を複数枚重ねることによって全体で円柱状のねじれ分散具6を構成することができる。
このように分割タイプのねじれ分散具6を採用すると、ねじれ分散具6を配置する位置によってその厚さ、すなわちアンカーの中心軸方向の長さを簡単に調節することができる。
【0014】
<4>アンカー孔1の削孔。
次に上記のねじれ分散具6を使用した本発明の除去式アンカーの構成を説明する。
まず、従来の施工方法と同様に地中にアンカー孔1を削孔する。
この削孔に際しては周囲の壁面の崩壊を防止するために、中央のビットによる掘進と平行してその周囲にケーシング2を挿入してゆく、二重管方式の掘削をする。
削孔が完了したら中央のビットは引き出すが、その後も周囲のケーシング2は孔内に残しておき、孔壁の崩壊を阻止する。
【0015】
<5>ねじれ分散具6の組み込み。
一方、地上では複数の耐荷体3に鋼線を係合したテンドンを組み立てる。
このテンドンは前記したように複数の位置に配置した耐荷体3ごとに、PC鋼線5を取付けた部材である。
しかし特に本発明の除去式アンカーのテンドンは、耐荷体3の間に、上記したねじれ分散具6を配置する。
ねじれ分散具6にはその周囲に収納溝を刻設してあるから、この溝内にPC鋼線5を配置して周囲を細い鋼線などで拘束すれば、簡単に取付けることができる。
ひとつの耐荷体3と、隣接する耐荷体3の距離が大きい場合には、その中間に配置するねじれ分散具6は、PC鋼線5の軸方向に沿って長く構成した、すなわち多数枚の単体を組み合わせたねじれ分散具6を介在させる。
このように耐荷体3と耐荷体3の間にねじれ分散具6を介在させて構成したテンドンを、複数の作業員が支えながら、削孔したアンカー孔1内のケーシング2内に送り込む。
【0016】
<6>モルタル4の注入とケーシング2の引き抜き。
テンドンにはモルタル4を注入する注入パイプを沿えてあり、このパイプを通して孔外から孔の底部へモルタル4を注入する。
孔内へのモルタル4が充填されれば孔壁は崩壊することがないから、モルタル4の注入に同調させて、ケーシング2を地上へ引き抜く。
この時にケーシング2は外周の全面が孔壁と接触しているのでその付着の摩擦が大きく、直線的に外側へ引き抜くことは困難である。
そこで前記したように、摩擦を切るためにケーシング2に一方向への回転を与えつつ、ケーシング2を引き出す。
【0017】
<7>PC鋼線5のねじれ。
前記したようにケーシング2に一方向の回転を与えるために、ケーシング2内に位置している耐荷体3やPC鋼線5は、ケーシング2内部のモルタル4と共に一方向への回転を与えられる。
一方、ケーシング2を引き抜いた後のモルタル4は、孔壁の抵抗によって回転をしないから、モルタル4内の耐荷体3も回転をしない。
その結果、ケーシング2から露出した部分の耐荷体3と、ケーシング2内部の耐荷体3との間のPC鋼線5にねじれが与えられることになる。
しかし本発明の構造では、耐荷体3と耐荷体3の間にねじれ分散具6が位置している。
そのためにひとつの耐荷体3と次の耐荷体3と、その間に配置したねじれ分散部材6がひとつのブロックのように作用して抵抗体となり、すなわち全体としての剛性が向上してケーシング2の回転に対して抵抗することができる。
そのために、特にPC鋼線5が2本しか配置していない最深部においても前後の耐荷体3を含めて一体として抵抗するので、ケーシング2の回転によって回転させられる程度が低下する。
このように、従来の除去式アンカーの構成に比較して、特にPC鋼線が2本しか配置していない最深部において、ねじれの発生は大幅に抑えることができ、除去時の障害となる先端付近でのねじれが少なくなるので除去がきわめて容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の除去式アンカーの構造の実施例の説明図。
【図2】耐荷体の間に配置するねじれ分散具の説明図。
【図3】ねじれ分散部材の他の実施例の説明図。
【図4】従来の除去式アンカーの施工順序の側面図。
【図5】従来の除去式アンカーにおいてケーシングを回転しながら引き抜いている状態の説明図。
【図6】ケーシングを引き抜いた後の状態の説明図。
【図7】PC鋼線がねじれた状態の説明図。
【符号の説明】
【0019】
2:ケーシング
3:耐荷体
4:モルタル
5:PC鋼線
6:ねじれ分散部材
61:溝
62:貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔したアンカー孔内に配置した複数の耐荷体と、
各耐荷体に係合して地上に引き出したPC鋼線と、
ひとつの耐荷体と、次の耐荷体との間に配置したねじれ分散具とより構成し、
このねじれ分散具は、円柱体の周囲にPC鋼線を収納する収納溝を刻設して構成した、
除去式アンカーの構造。
【請求項2】
削孔したアンカー孔内に配置した複数の耐荷体と、
各耐荷体に係合して地上に引き出したPC鋼線と、
ひとつの耐荷体と、次の耐荷体との間に配置したねじれ分散具とより構成し、
このねじれ分散具は、円柱体にPC鋼線を収納する貫通孔を刻設して構成した、
除去式アンカーの構造。
【請求項3】
ねじれ分散具は、
周囲の収納溝に直交する面で分割が可能であり、かつ接続が可能な複数の単体から構成した、
請求項1、2記載の除去式アンカーの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−194010(P2006−194010A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8009(P2005−8009)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(503006213)
【Fターム(参考)】