説明

除細動システム

【課題】患者の個体差等に左右されずに、より確実に除細動を行うことができる除細動システムを提供する。
【解決手段】除細動システムは、心臓に取り付けられて前記心臓に電気エネルギーを印加する電極部と、所定の除細動波形に基づいた前記電気エネルギーを発生させる除細動器と、前記電極部と前記除細動器とを電気的に接続するリードとを備え、前記除細動波形は、第一エネルギーを発生させる矩形波W1Aと、矩形波W1Aの後に、矩形波W1Aよりも大きい第二エネルギーを発生させる第二波形W2と、矩形波W1Aと第二波形との間に設けられた印加停止期W1Bとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に留置される除細動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の不整脈のうち、心室細動は、心臓からの血液の拍出が即座に停止し、全身への血液の供給不足により、死に至る可能性が高いものである。
心室細動を除去して心臓の動きを正常化するためには、高エネルギーのショックを心臓に加え、個々の組織区域の無秩序な収縮を鎮めるとともに、心筋において秩序を保って組織的に広がる活動電位を再構築し、心臓組織の同期的な収縮を回復させる手段(除細動)が用いられる。
【0003】
特許文献1には除細動治療を行う患者の心臓にインプラント可能な装置が記載されている。この装置は、複数の主電極と、少なくとも1つの補助電極と、電源および制御回路とを備えている。
複数の主電極は、心臓の第一の部分内の所定の電流経路に沿って細動除去パルスを送出し、その電流経路が心臓の第二の部分内の弱電界領域を規定する。補助電極は、補助パルスを弱電界領域へ送出するもので、単一相補助パルスを含む電気的除細動パルスの連続が補助電極を経由して送出され、引き続いて二相性(バイフェージック:biphasic)の細動除去パルスが主電極経由で送出される。細動除去パルスは、補助パルス送出後20ミリ秒(msec)以内に送出され、細動除去パルスの第1相は補助パルスと反対の極性になっている。
制御回路は、補助パルスがピーク電流の40%または50%を超えないように、また細動除去パルスの送出エネルギー(ジュール換算)の20%または30%を超えないように補助パルスを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−514567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、より確実に除細動を行うため、少なくとも1つの補助電極により補助パルスを弱電界領域へ送出している。しかしながら、補助電極を新たに心臓内に設置する必要があり、心臓への負担は必ずしも小さくない。冠状静脈に補助電極を設ける場合には、冠状静脈リード(CSリード)との兼用も不可能ではないが、除細動の目的に使用するためには、補助電極はある程度の大きさ(長さ)が必要であるため、一般的な冠状静脈リードでは除細動成功率が劣ると推測される。
【0006】
また、特許文献1の装置では、補助パルスと細動除去パルスとの間隔を様々に変化させ、細動除去パルスは、補助パルス送出後20msec以内に送出されることを好適としている。しかしながら、個体差等の外的要因により、その好適な間隔時間は一定ではない。このため、除細動成功率は患者によってバラつきがみられ、除細動成功率のさらなる向上には依然として課題が残されている。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、患者の個体差等に左右されずに、より確実に除細動を行うことができる除細動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の除細動システムは、心臓に取り付けられて前記心臓に電気エネルギーを印加する電極部と、所定の除細動波形に基づいた前記電気エネルギーを発生させる除細動器と、前記電極部と前記除細動器とを電気的に接続するリードとを備え、前記除細動波形は、第一エネルギーを発生させる第一波形と、前記第一波形の後に、前記第一波形よりも大きい第二エネルギーを発生させる第二波形と、前記第一波形と前記第二波形との間に設けられた印加停止期とを有することを特徴とする。
【0009】
前記除細動波形において、前記第一波形と前記印加停止期とが組となった第一波形部が、前記第二波形の前に複数回設定されてもよい。
【0010】
前記第一波形の印加時間は30ミリ秒以上200ミリ秒以下であり、前記第一波形の印加時間と前記印加停止期の持続時間との合計である前記第一波形部の周期は、130ミリ秒以上600ミリ秒以下であってもよい。
【0011】
前記第一波形の最大電圧の絶対値は10ボルト以上90ボルト以下であり、前記第二波形の最大電圧の絶対値は70ボルト以上500ボルト以下であってもよい。
【0012】
さらに、複数の前記第一波形部において、少なくとも一つの第一波形の極性が、他の第一波形と異なってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の除細動電極及び除細動システムによれば、患者の個体差等に左右されずに、より確実に除細動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の除細動システムの概略構成を示す図である。
【図2】同除細動システムの電極部における第一電極の拡大図である。
【図3】心室細動時の心電波形を示す図である。
【図4】心臓におけるスパイラルリエントリの発生およびミアンダリングを示す模式図である。
【図5】同除細動システムの除細動波形を示す図である。
【図6】心臓深部等から表層部へスパイラルリエントリが移動する状態を示す模式図である。
【図7】同除細動システムが除細動を行っているときの心電波形の例を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態の除細動システムの構成を示す図である。
【図9】同除細動システムの電極部およびリードを示す図である。
【図10】同除細動システムの除細動波形を示す図である。
【図11】本発明の変形例における除細動波形の例を示す図である。
【図12】本発明の他の変形例における除細動波形の例を示す図である。
【図13】本発明の他の変形例における除細動波形の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
近年、オプティカルマッピングの手法などにより、心臓に発生する渦巻型の興奮波(Spiral Wave ;SW)によるリエントリ(スパイラルリエントリ)が、心室細動の発生原因のひとつと考えられるようになった。このスパイラルリエントリは心臓内でさまよい運動(ミアンダリング)を行って移動しつつ、さらに連鎖的分裂が発生し、心室全体が細動状態に至ることが知られている。
最近では、バイフェージック除細動波形が多用されるようになったが、患者の状態等によっては、除細動器に設定された最初の電気エネルギーによる除細動では心室細動を完全に停止できず、電気エネルギーを増加させて2回目の除細動を行う場合もある。心室細動の発生後、なるべく早く除細動を成功させることが、その後の患者のクオリティオブライフ(QOL)改善に重要とされているが、大きな電気エネルギーによる除細動は電極部に発生する熱が周辺の生体組織に影響を及ぼすため、侵襲低減の観点からは、必要最低限の電気エネルギーを用いて除細動を行うことが望ましいと考えられている。
【0016】
本発明の除細動システムは、上述した知見を踏まえて、より高い除細動成功率をもたらすべく構成されたものである。以下、各実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態の除細動システム1の概略構成を示す図である。図1に示すように、除細動システム1は、除細動のための電気エネルギーを発生する除細動器10と、心臓100に取り付けられる電極部20と、除細動器10と電極部20とを接続するリード30とを備えている。
【0018】
除細動器10は、電源としての電池、電気エネルギーを蓄えるコンデンサ、心電図を検出する検出回路、心電図にもとづいて心臓の状態を判定する判定回路、コンデンサからのエネルギーを放出する除細動駆動回路等の各種構成(いずれも不図示)を内部に備える。除細動駆動回路からは所定の除細動波形に基づいて電気エネルギーが放出されるが、これについては後に詳しく説明する。
【0019】
電極部20は、同一の構造を有する第一電極21および第二電極22を備える。図1に示すように、第一電極21は、右室側の心嚢膜101上に設置され、第二電極22は、第一電極21と心臓100を挟んで対向する(図1上側参照。)ように、左室側の心嚢膜101上に設置される。
【0020】
図2は、第一電極21の拡大図である。第一電極21は、シート状の絶縁部材23と、絶縁部材23に取り付けられた印加リード24とを備えている。
絶縁部材23を形成する材料としては、弾性、可撓性、及び絶縁性を有するとともに生体適合性を有するものが好ましく、本実施形態ではシリコーンが用いられている。絶縁部材23の厚さは、例えば、最大値が0.5ミリメートル(mm)程度となるように設定されている。本実施形態では、絶縁部材は、略小判型に形成されているが、その形状には特に制限はない。
【0021】
印加リード24は、白金系材料、好ましくは白金イリジウム合金の拠線で形成されており、リード30と電気的に接続されている。本実施形態の印加リード24は、心臓の拍動に伴う心嚢膜の絶え間ない形状変化に対応できる程度の可撓性を有するように、例えば、線径φ0.2mm程度の拠線構造とされている。印加リード24は、4箇所の直線部24Aと、曲線部24Bとを有し、直線部24Aが絶縁部材23の一方の面に露出し、曲線部24Bが絶縁部材23内に埋没して体内の臓器に対して絶縁されるように絶縁部材23に取り付けられている。各直線部24Aは、それぞれ4本の拠線からなり、互いに平行に配置されている。直線部24Aを構成するすべての拠線は、曲線部24Bに接続されており、一本の拠線が断線した場合にも、確実に電気エネルギーを心臓に供給できる構成となっている。
【0022】
絶縁部材23において、4箇所の直線部24A間の領域には、絶縁部材の可撓性を高めるとともに心嚢膜との接触面積を減少させるための複数の貫通穴23Aが設けられている。本実施形態では、図2に示すように貫通穴は円形であるが、その形状に制限はない。また、第一電極21や第二電極22が電極として必要な一定の強度を保持できている限り、貫通穴23Aの個数にも制限はない。
第二電極22は、リード30の接続位置等を除き第一電極とほぼ同一の構造であるため、説明を省略するが、上記のように構成された第一電極21および第二電極22は、全体として非常に柔軟性に富んでおり、心嚢膜101上に設置されても、心臓100の拍動を妨げて不整脈を誘発する危険性が少ない硬さとなっている。
【0023】
リード30は、電気的な絶縁を保って除細動器10から電極部20に電気エネルギーを伝達できるものであれば、その構成は特に限定されない。本実施形態では、例えば、外径φが2mm程度のポリウレタンチューブ内に、中心に銀41%含有の芯線を有するMP35N合金線がコイル状に巻かれた構成となっている。このような構成では、MP35N合金がコイル形状に整形されているため、強い引張り強度と繰返し曲げ強度が実現される。
【0024】
図2に示すように、リード30は、絶縁部材23のうち、直線部24Aが露出する面と反対側である背面側から印加リード24の曲線部24Bに接続されている。リード30と印加リード24とは、溶接や機械的なカシメ接続等により強固に固定されており、当該接続部位は、絶縁部材23に被覆されて露出しないようにされている。
【0025】
以上のように構成された除細動システム1の使用時の動作について説明する。
除細動システム1は、使用前に、電極部20が患者の心臓100表面の心嚢膜101上に設置される。電極部20は、絶縁部材23において、図2に×印で示した4箇所の縫合箇所に縫合糸を通すことにより心嚢膜101上に設置される。縫合時は、絶縁部材23の厚さ方向に曲針等の針と縫合糸とを貫通させ、心嚢膜101のみを貫通し、心臓の心筋を貫通しないように縫合を行う。これにより、電極部20は心嚢膜101に対してのみ固定される。よって、心臓100は心嚢膜101内を電極部20に影響されずに自由に動くことができ、心臓の動きが妨げられることによる不整脈の発生リスクを抑えることができる。
【0026】
電極部20の設置は、開胸下で行われてもよいし、トロッカー等を用いて胸腔鏡下で行われてもよいが、患者の侵襲を抑える観点からは胸腔鏡下で設置されるのが好ましい。第一電極21および第二電極22は柔軟性に優れるため、胸腔鏡下で設置する場合は、これらの電極を丸めてトロッカー等を通過可能な形状としてから胸腔内にデリバリーし、胸腔内で平面上に展開してから設置手技を行えばよい。
体外に引き出されたリード30および除細動器10は、体外で保持されても、皮下に埋め込まれて保持されてもいずれでも構わない。
【0027】
患者に取り付けられた除細動システム1は、除細動器10が備える検出回路により、患者の心電図を常時監視する。監視中に心室細動が発生すると、図3に示されるような心室細動の心電図を取得し、心室細動の発生を検出する。
心室細動時、心臓は毎分200回以上と激しく拍動しているが、その拍動は不規則であり、心電図波形の大きさや周期に一定性は無い。これは、図4に示されるように、複数のスパイラルリエントリ110がミアンダリングしているためであり、心臓100の表面や内部で無秩序に電気刺激の伝導が発生して各部位が無秩序に収縮することが一つの原因と考えられている。
【0028】
本実施形態の除細動システム1では、心室細動の発生を検出すると、除細動器10の除細動駆動回路が、図5に示すような除細動波形に基づいて電気エネルギーを発生させる。発生した電気エネルギーは、リード30を通って電極部20に伝わり、第一電極21と第二電極22との間に印加される。
【0029】
除細動駆動回路で発生される除細動波形は、心臓におけるスパイラルリエントリ(以下、「SR」と称する。)の周期を揃える第一波形部W1と、第一波形部W1に続いて心室細動を除去する第二波形W2とを備えている。本実施形態では、第一波形部W1が2回繰り返して心臓に作用した直後に第二波形W2に基づいて発生される電気エネルギー(第二エネルギー)が心臓に印加されて一連の除細動が行われる。
【0030】
第一波形部W1は、所定の大きさの電気エネルギー(第一エネルギー)を発生させる矩形波(第一波形)W1Aと、矩形波W1Aの後に続く印加停止期W1Bとを有する。矩形波W1Aが心臓に印加されると、心臓100の表層および比較的浅い部位(以下、「表層部」と総称する。)に発生しているSRが矩形波W1Aの電位に引きつけられて捕捉され、ミアンダリングが停止する(第一エネルギー印加工程:図7に示す心電図波形におけるS1)。
矩形波W1Aの印加が終了すると、印加停止期W1Bに入り、SRの捕捉は解除されるが、所定時間捕捉されていたことにより、再興奮の入力がされないため消失する。これにより、心臓100の表層部に発生しているSRの多くが消失する(エネルギー印加停止工程:図7に示す心電図波形におけるS2)。さらに、心筋のうち心室に近い深部や心臓中隔等(以下、「心臓深部等」と総称する。)で発生し、矩形波W1Aの印加中に、図6に示すように伝播して表層部に達したSR110の多くも、矩形波W1Aに捕捉されて消失する。すなわち、矩形波W1Aが心臓に印加されると、矩形波W1Aの印加周期と同調性の低いSRが多く消失する。
【0031】
第二波形W2よりも小さい電気エネルギーを発生させる矩形波W1Aにより、表層部のSRは消失するが、心筋のうち心室に近い深部や心臓中隔等において、主に矩形波W1Aの印加周期と同調性の高いSRが残存している。これらのSRは、印加停止期W1Bの間に、図6に示すように表層部まで広がってくるが、その無秩序な状態は矩形波W1Aの作用前に比較して改善され、患者の個体差によらずある程度一定の周期に揃ってくる。本実施形態では、第一波形部W1を2回行うことにより、心臓におけるSRの総量をさらに減らすとともに、周期の揃う程度をさらに高めてから第二波形W2を作用させる。
【0032】
第二波形W2は、特許文献1に記載されるようなバイフェージック波形である。本実施形態では、2回目の第一波形部W1の印加停止期W1B終了後すぐに第二波形W2が印加される(第二エネルギー印加工程:図7に示す心電図波形におけるS3)ため、第一波形部W1により揃えられた心室細動周期とより同調した形で心臓に電気エネルギーが印加されて除細動が行われる。言い換えると、ある程度周期が揃ったSRにより最も心臓全体が電気的に興奮している時に近いタイミングで第二波形W2の電気エネルギーを印加することができる。これにより、心臓の電気的興奮を鎮めやすくすることができ、除細動成功率が向上される。図7に示す心電波形においては、第二エネルギー印加工程後、心臓の拍動が正常化している。
【0033】
本実施形態における第二波形W2は、例えば、プラス側最大電圧160ボルト(V)、通電時間6msec、マイナス側最大電圧100V、通電時間6msecでもよい。一般的な除細動器では、この程度の大きさのバイフェージック波形で心室細動を除去することは困難であり、ほぼ不可能であるが、本実施形態の除細動システム1では、第一波形部W1と第二波形W2とを組み合わせた除細動波形を用いることにより、従来の除細動器に比較して、第二波形W2におけるバイフェージック波形の最大電圧値を低く抑えて除細動を行うことができる。
これにより、特許文献1に記載のようなバイフェージック波形による1回の除細動エネルギーの閾値が例えば3ジュール(J)程度の時、本実施形態の第二波形W2の電気エネルギーはこれに対して1/3〜1/2程度(1〜1.5J程度)のエネルギー分を低減させることができる。これにより除細動に伴って発生する患者への衝撃を著しく低減し、侵襲を抑えて除細動システム1装着中の患者のQOLを向上させることができる。
なお、本発明の除細動システムにおいて、除細動器は、第二波形の最大電圧の絶対値を70ボルト以上500ボルト以下の範囲において設定可能であることが好ましい。このような範囲で第二波形の最大電圧を設定できれば、本実施形態のように電極部を心嚢膜上に設置する場合だけでなく、電極部が心臓内に経静脈的に設置される場合にも好適に対応することができる。
【0034】
本実施形態においては、第一波形部W1の電圧値および長さ(時間)も重要であり、所定の範囲に設定されることが好ましい。
矩形波W1Aの電圧値が低すぎると、ミアンダリングを停止させた状態でSRを捕捉することが困難となり、心臓においてSRが捕捉される領域の面積も小さくなる。一方、電圧値が高すぎると、深部のSRまで捕捉してしまうため、SRの周期を揃えにくくなる。これらを考慮すると、矩形波W1Aの電圧値は、10ボルト(V)以上90V以下が好ましく、40V以上60V以下がより好ましい。
矩形波W1Aの印加時間が短すぎると、一瞬しかSRを捕捉することができず、再興奮を抑制しにくい結果、SRを消失させにくくなる。また、長すぎると心臓が停止する時間が長くなり、患者の負担が増大する。矩形波W1Aの印加時間は、30msec以上200msec以下が好ましく、50msec以上100msec以下がより好ましい。
【0035】
印加停止期W1Bが短すぎると、心臓深部や中隔等で発生したSRがまだ表層部に達しておらず、後に続く第一波形や第二波形の意義が薄れる。一方、印加停止期W1Bが長すぎると、SRが表層部に達した後、さらに広がって増加し、矩形波W1Aの印加前と同様の状態となってしまう。したがって、印加停止期W1Bの長さは、心臓深部や中隔等で発生したSRが表層部に達するまでの時間と概ね同一となるように設定されるのが好ましい。心臓深部等で発生したSRが図6に示す過程を経て表層部まで達するには、個人差はあるが100msecから400msec程度の時間を要する。したがって、印加停止期W1Bの長さは、100msec以上400msec以下が好ましく、100msec以上200msec以下がより好ましい。
以上より、矩形波W1Aと印加停止期W1Bの合計である第一波形部W1の周期Tは、130msec以上600msec以下が好ましく、150msec以上300msec以下がより好ましい。
【0036】
以上説明したように、本発明の除細動システム1によれば、除細動器10の除細動駆動回路で発生される除細動波形が、第一波形部W1と第二波形W2とを有するため、患者の個体差等に左右されずに、より確実に除細動を行うことができる。また、従来の除細動システムよりも少ないエネルギーで除細動を行うことができるため、患者の侵襲を低減し、システム留置後電池交換等が必要になるまでの期間(耐用期間)をより長くすることができる。
【0037】
本実施形態では、第二波形W2の印加前に、第一波形部W1が二度印加される例を説明したが、心室細動の重傷度や患者の状態等に応じて、第一波形部W1が一度印加された後に第二波形W2が印加されてもよいし、三度以上印加されてもよい。第一波形部W1の印加回数が多いほど、SRの総数は少なくなり、周期も揃ってくるため、患者を救命するという除細動本来の目的から逸脱しない限り、除細動波形において第一波形部W1はできるだけ多く設定されるのが好ましい。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態について、図8から図11を参照して説明する。本実施形態の除細動システム41と上述の除細動システム1との異なるところは、電極部およびリードの形状および除細動波形の態様である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0039】
図8は、除細動システム41の電極部42およびリード50を示す図である。電極部42およびリード50は、一般にRVリード(経静脈リード)と呼ばれるものであり、図9に示すように、心電図を検出したり心臓のペーシングを行ったりする際に使用されるチップ電極43及びリング電極44が電極部42の先端部付近に設けられている。電極部42の中間部には、除細動波形が印加されるRV-def電極45が設けられている。電極部42の各電極とリード50とは、図示しない電極内リードによって電気的に接続されている。さらにリード50は、基端に設けられたIS1コネクタ51及び一対のDF1コネクタ52によって除細動器10に接続される。
第1実施形態の電極部20と異なり、電極部42は、カテーテル等を用いて血管経由で心臓100までデリバリーされる。RV-def電極45は、電極部42が留置された状態において概ね右心室102内に位置するよう設置される。
【0040】
除細動システム41において、除細動駆動回路で発生される除細動波形は、除細動器10とRV-def電極45との間に印加される。
図10は、除細動システム41の除細動波形を示す図である。除細動システム41においても、第一波形部は二度印加されるが、図に示すように、二度目の第一波形部W3においては、矩形波W1Aと極性の異なる矩形波W1Cが印加される。矩形波W1Cの電圧値はマイナス40Vであり、その絶対値は矩形波W1Aと同一に設定されている。
【0041】
本実施形態では、二度目に印加される第一波形部W3において第一エネルギーの極性を反転し、マイナス極性であって電圧の絶対値が矩形波W1Aと同程度の矩形波W3Aを印加する。これにより、心臓100にはプラス極性の帯電が起きにくくなっている。印加される電気エネルギーの極性がマイナスであっても、プラス極性の電気エネルギー同様、心臓100の表層部に発生しているSRのミアンダリングを停止させつつ捕捉することができる。そして、矩形波W3Aの印加後、捕捉されたSRは同様に消失してその総数が減少される。
【0042】
本実施形態の除細動システム41においても、第1実施形態の除細動システム1と同様に、SRの総数削減と、心室細動周期と第二波形の印加タイミングの同調化とにより、より確実に除細動を行うことができる。
【0043】
また、マイナス極性の矩形波W1Cを含む第一波形部W3が第一波形部W1に続いて印加されるため、第二波形W2による除細動時に、正しい極性電圧を心臓100に印加することができる。その結果、心臓に残留するバイアス電圧分をキャンセルさせてバイフェージック波形の電圧シフトを防止することができる。
なお、本実施形態においては、第一波形部W1が先で第一波形部W3が後に設定された例を説明したが、この順序を入れ替えても同様の効果を得られることは言うまでもない。
【0044】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
まず、除細動器の除細動駆動回路で発生される除細動波形は、上記各実施形態で示したものの他にも様々な態様とすることができる。
図11は、本発明の変形例における除細動波形の例を示す図である。この変形例では、第一波形部W4において、第一波形として、矩形波W1AやW3Aに代えてバイフェージック波形W1Dが用いられている。ただし、電圧値やトータルの印加時間は矩形波W1A等と同様であり、電圧値は第二波形W2よりも低く、印加時間は第二波形W2より長い。
【0046】
このような除細動波形であっても、上述の各実施形態と同様に、従来の除細動システムに比べてより確実に除細動を行うことができる。また、心臓100にプラス極性の帯電が起きにくくなっている点は第二実施形態と同様である。
さらに、第一波形が第二波形と同じバイフェージック波形であるため、除細動器10において、除細動駆動回路の構成をより簡素にすることができ、製造コストを抑えることができる。
【0047】
図12は、本発明の他の変形例における除細動波形の例を示す図である。この変形例では、第二波形W2の前に、第一波形と印加停止期とが1回ずつ設定される、すなわち、第一波形部W5が一度だけ設定される例を示している。第一波形として印加される矩形波W11Aの電圧値は、矩形波W1Aと同様のプラス40Vであるが、印加時間は矩形波W1Aよりも長く、400msecに設定されている。矩形波W11Aの印加時間は、上述した第一波形部を2回行う場合における好適な印加時間の範囲よりも若干長く設定されるのが好ましい。除細動波形をこのように設定しても、上述の各実施形態より若干効果は劣るものの、第二波形の印加に先立ってSRの総数を低減し、従来の除細動システムよりも少ないエネルギーで、より確実に除細動を行うことができる。
【0048】
さらに、第一波形を、図13に示す変形例のように、充分に印加時間が短い多数のパルスPで構成してもよい。本変形例では、各パルスPの印加時間を10msecとし、各パルスP間に10msecの間隔をおいて19のパルスを発生させることで、トータルの印加時間が370msecの単一矩形波とみなしうる第一波形W11Bを形成している。このようにすると、図12に示した変形例と同様の効果を得ながらも、第一波形W11Bの消費電力を見かけ上第一波形W11Aの2分の1にすることができ、除細動器の電源寿命を向上させることができる。第一波形を多数のパルスで構成する場合、パルス間隔は、SRのミアンダリングの速度よりも充分早く設定されればよく、各パルスの印加時間およびパルス間の間隔は上記に限定されない。例えば、パルスの印加時間およびパルス間の間隔がともに1msecに設定されてもよく、数msecのパルス列となっていれば、概ね同様の効果を得ることができる。このような第一波形は、第一波形部を複数回設定する場合に用いられても構わない。
【0049】
また、第二波形の直前に印加される第一波形部と第二波形との間に、印加停止期と別の印加停止時間が設けられてもよい。この場合は、当該第一波形部と当該印加停止時間との和を、実質的な当該第一波形部の周期とみなすことができるため、そのようにみなされた当該周期が上述した好適な範囲内に収まっていれば、本発明に含まれ、同様の効果を得ることができる。第一波形部を、先行する印加停止期と、それに続く第一波形とで構成し、第二波形の直前に印加される第一波形と第二波形との間に、第一波形部とは別個に印加停止時間が設定される場合も、同様に考えることができる。
【0050】
さらに、上述の各実施形態で説明した各構成の具体的態様は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0051】
また、本発明は以下の付記項に記載された技術思想を含むものである。
(付記項1)
心臓の除細動方法であって、
心臓に第一のエネルギーを印加する第一エネルギー印加工程と、
前記第一エネルギーよりも大きい第二エネルギーを前記心臓に印加する第一エネルギー印加工程と、
前記第一エネルギー印加工程と前記第二エネルギー印加工程との間に設定され、所定の時間電気エネルギーの印加を停止する印加停止工程と、
を備える。
(付記項2)
付記項1に記載の除細動方法であって、
前記第一エネルギー印加工程の印加時間は30ミリ秒以上200ミリ秒以下であり、前記印加時間と前記印加停止工程の時間との合計は、130ミリ秒以上600ミリ秒以下である。
(付記項3)
付記項1に記載の除細動方法であって、前記第一エネルギー印加工程における最大電圧の絶対値は10ボルト以上90ボルト以下であり、前記第二エネルギー印加工程における最大電圧の絶対値は70ボルト以上500ボルト以下である。
【符号の説明】
【0052】
1、41 除細動システム
10 除細動器
20、42 電極部
30、43 リード
100 心臓
W1、W3、W4、W5 第一波形部
W1A、W1C、W11A 矩形波(第一波形)
W1B 印加停止期
W1D バイフェージック波形(第一波形)
W2 第二波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓に取り付けられて前記心臓に電気エネルギーを印加する電極部と、
所定の除細動波形に基づいた前記電気エネルギーを発生させる除細動器と、
前記電極部と前記除細動器とを電気的に接続するリードと、
を備え、
前記除細動波形は、
第一エネルギーを発生させる第一波形と、
前記第一波形の後に、前記第一波形よりも大きい第二エネルギーを発生させる第二波形と、
前記第一波形と前記第二波形との間に設けられた印加停止期と、を有する
ことを特徴とする除細動システム。
【請求項2】
前記除細動波形において、前記第一波形と前記印加停止期とが組となった第一波形部が、前記第二波形の前に複数回設定されていることを特徴とする請求項1に記載の除細動システム。
【請求項3】
前記第一波形の印加時間は30ミリ秒以上200ミリ秒以下であり、前記第一波形の印加時間と前記印加停止期の持続時間との合計である前記第一波形部の周期は、130ミリ秒以上600ミリ秒以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の除細動システム。
【請求項4】
前記第一波形の最大電圧の絶対値は10ボルト以上90ボルト以下であり、前記第二波形の最大電圧の絶対値は70ボルト以上500ボルト以下ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の除細動システム。
【請求項5】
複数の前記第一波形部において、少なくとも一つの第一波形の極性が、他の第一波形と異なることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の除細動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−34843(P2012−34843A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177757(P2010−177757)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】