説明

除草抑草機及びその使用方法

【課題】 水田の水面近傍にのみ作用する除草抑草機を提供し、有機農業における生産性を向上し、延いては、環境問題の解決、生態系の保全などにも寄与する。
【解決手段】 水田の水表面近傍に、外部牽引機4に、その進行方向及び進行方向と垂直な方向に水流を発生する除草抑装置1を取り付ける。2方向の水流は、撹拌ローラーまたは水噴出ノズルと、それらから得られる水流の方向を移行させる機能を有する水流分散板3によって形成する。また、本発明においては、前記除草抑草機に、車輪やフロートから構成される高さ調整機構を付与して、水流を水田表面近傍のみに水流を形成することで、除草抑草の効果を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲作における除草または抑草に用いられる装置に関し、特に水田の水の表層部のみを攪拌することによって、除草または抑草を行う装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
稲作の工程において、除草や抑草は稲の順調な生育状態を維持する上で、必要不可欠な作業である。この作業は古くは人手や人力による道具を用いて行っていたが、近年は農業に従事する人口の減少に伴い、省力化のため除草剤を散布する方法が主流になっている。
【0003】
これに対し、農薬の環境への負荷低減、生態系の保全、食の安全確保を目的として、化学肥料や農薬を用いない有機農業が提唱されている。有機農業は、化学薬品を用いない替わりに、例えば肥料について言えば、食品産業や農林畜産業の廃棄物を熟成させて用いるので、廃棄物削減や資源循環の面でも有意義である。
【0004】
有機農業における、除草抑草方法の具体例としては、一部で実施されているアイガモ農法が挙げられる。これは、田植えの時期にアイガモの幼鳥を水田に放し、除草抑草の対象となる植物を餌としてアイガモを肥育し、稲刈りの時期に食肉として出荷するというもので、効果は顕著であるが、動物を用いるので、アイガモが他の肉食獣や猛禽類に襲われるなどの、機械的な方法とは異なる不確定な要素がある。
【0005】
一方で、機械的に除草抑草を行う装置も種々開発、市販されている。例えば特許文献1には、植付け苗条の間で作用する条間除草機構と、植付け苗条における株間株間に作用する株間除草機構を有し、株間の除草を高効率で行えるようにした、水田除草機が開示されている。また、特許文献2には、苗を折ったり、引き抜いたりしないようにする機構を付与した水田除草機が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらに開示されている技術では、水田の土壌の底部まで攪拌してしまい、土壌における比較的深い部分で、休眠状態となっている植物の種子などを、水面近くに誘導する結果となり、除草を行った直後は雑草が見られなくなるものの、しばらくすると、また雑草が発生することがある。
【0007】
また、従来用いられている、ローラーを回転させて水田を攪拌し、除草効果を発現する装置では、ローラーの回転方向にのみ水流が生じ、水平面における回転方向と垂直な方向には、水流が発生しないため、株間の除草抑草については、必ずしも十分な効果が得られないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 特開2003−204708号公報
【特許文献2】 特開2002−045003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、水田の水面近傍にのみ作用する除草抑草機を提供し、有機農業における生産性を向上し、延いては、環境問題の解決、生態系の保全などにも寄与することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題解決のため、既存除草抑草機に簡便な構造の部品を付加することと、運用の方法を検討した結果なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、外部牽引機に取り付けられ、前記外部牽引機の進行方法及び進行方向とほぼ垂直な水平方向に水流を発生させる手段を有することを特徴とする、水田除草抑草機である。
【0012】
また、本発明は、前記水流を発生させる手段が、フィンを有する回転体と、前記回転体によって生じる水流をほぼ垂直方向に移行させる水流分散板を有することを特徴とする、前記の水田除草抑草機である。
【0013】
また、本発明は、前記水流を発生させる手段が、水噴出ノズルを有することを特徴とする、前記の水田除草抑草機である。
【0014】
また、本発明は、前記水流を発生する手段が、水田の水面から位置を一定に保持する機構を有することを特徴とする、前記の水田除草抑草機である。
【0015】
また、本発明は、前記水流を発生させる手段を、水田水表面の近傍で運用することを特徴とする、前記の水田除草抑草機の使用方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明による除草抑草機においては、水流を発生する手段を水田の水面から位置を一定に保つ機構が設けられているので、水田の水面付近や土壌の表層部のみを、水流によって攪拌することが可能である。しかも、水流を水平面内の2方向に分散させるための機構を備えているので、苗の条間のみでなく、条を構成する個々の苗の株の間をも、十分に攪拌することが可能で、作業の効率が向上する。
【0017】
また、基本的に、従来の攪拌ローラーを用いた除草機に、水流分散板を付加するだけなので、製作が低コストで行えるのも大きな特徴である。また、より強い水流を得るために、外部牽引機にポンプを搭載し、ポンプから圧送される水をノズルから噴出し、同様に水流分散板で水流を分散したり、ノズルの水噴出方向を調整したりすることにより、除草抑草の効果を向上することが可能である。
【0018】
本発明の除草抑草機は、基本的に外部牽引機に取り付けて用いるので、外部牽引機側にアタッチメントを上下動させるための油圧装置などが付属していれば、これよって水流を発生する手段の高さ調整、つまり、水田の水面からの距離を設定できる他、水流を発生する手段に高さ調整用補助車輪を設けたり、高さ調整用フロートを設けたりすることによっても、高さ調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明の実施の形態に係る除草抑草機の一例を示す概略図
【図2】 水流を発生する手段と水流分散板の部分の拡大図で、図2(a)は側面図、図2(b)は平面図
【図3】 本発明の第一の実施例を示す図で、図3(a)は正面図、図3(b)は側面図
【図4】 本発明の第一の実施例を示す図で、図4(a)は正面図、図4(b)は側面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、具体的な図に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る除草抑草機の一例を示す概略図である。図1において、1は除草抑草機、2は水流を発生する手段、3は水流分散板、4は外部牽引機である。この例においては、水流を発生する手段2が、従来の除草機に多用されているフィンを有する回転体で、撹拌ローラーと称される。
【0022】
また、図2は、図1における、水流を発生する手段2と水流分散板3の部分の拡大図で、図2(a)は側面図、図2(b)は平面図である。図2において、破線で示した矢印は、水流の方向を示す。図2に示した例においては、水流を発生する手段2の、図における反時計回りの回転運動によって、外部牽引機4の進行方向と平行な方向で、図における右側向きの水流が発生する。発生した水流の方向は、水流分散板3によって、水平面内の垂直方向に移行される。
【実施例1】
【0023】
次に、具体的な図に基づき、本発明の実施例について説明する。
【0024】
図3は、本発明の第一の実施例を示す図で、図3(a)は正面図、図3(b)は側面図である。本実施例においては、水流を発生する手段として、図1に示したのと同様に、攪拌ローラー6を用いる。攪拌ローラー6は、機体横主軸を介して5箇取り付けられ、5条の苗の間を同時に除草できる。
【0025】
同様に、水流分散板5は、水流分散板連結棒11や水流分散板支持棒12を介して、攪拌ローラー6の後部に同数箇取り付けられている他に、両端部に内側のみの水流分散板5が取り付けられ、攪拌ローラー6とともに、外部牽引機連結部により、図示しない外部牽引機に連結されている。
【0026】
また、水流分散板5は、水流分散板水平支持軸及び高さ調整つまみ13により、高さの調整が可能となっている。さらに本実施例においては、機体高さ調整車輪17が設けられ、攪拌ローラー6及び水流分散板5の、土壌表面からの距離を任意に設定することができる。
【実施例2】
【0027】
図4は本発明の第二の実施例を示す図で、図4(a)は正面図、図4(b)は側面図である。本実施例においては、水流を発生する装置として、複数の水噴出ノズル20が用いられ、給水ポンプ35により水吸入部23から吸い上げられた水を噴出する機構となっている。
【0028】
この例では、第一の実施例と異なり、一つの水噴出ノズル20の噴出孔が複数に分岐してあり、噴出ノズル部の高さ調整及び前後振り子運動、左右振り子動連結部33が設けてあるので、水の噴出を多方向に調整することが可能で、水流分散板は不要である。しかし、ノズルの噴出方向を一方のみにしておいて、水流分散板を用いて水流の方向を調整することも勿論可能である。
【0029】
また、本実施例においては、ノズル高さフロート21が設けられていて、水噴出ノズル20の水田の水表面からの距離を任意に設定できる。ただし、この場合も第一の実施例と同様に、機体高さ調整車輪17を取り付けることで、水噴出ノズル20の土壌表面からの距離を任意に設定することが可能である。
【0030】
以上に説明した、第一の実施例、第二の実施例の除草抑草機は、いずれも除草抑草機自体に高さ調整機構が設けられているので、水田水表面近傍のみに水流を発生させることが可能である。本発明者らが経験的に得た知見によると、概ね水表面から50mm以内の部分に水流を発生させると、前記のように土壌の深部に存在する種子などを、活性化させることがなく、除草抑草の効果をより長く継続させることが可能となる。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、2方向に水流を発生させ、苗の間に確実に効果を及ぼし得る除草抑草機が得られ、有機農業の発展、延いては環境や生態系の保全、食の安全性確保などに寄与するところは、極めて大きい。
【0032】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、外部牽引機に付属するアタッチメントの上下動機構により、除草抑草機の高さ調整をおこなうなどの、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 除草抑草機
2 水流を発生させる手段
3,5 水流分散板
4 外部牽引機
6 攪拌ローラー
7 稲保護カバー
8 撹拌ローラー回転連結軸
9 連結軸支持棒
10 機体横主軸
11 水流分散板連結棒
12 水流分散板支持棒
13 水流分散板水平支持棒及び高さ調整つまみ
14 機体主軸
15,28,29 外部牽引機連結部
16 外部動力導入部
17 機体高さ調整車輪
18 車輪垂直支持軸
19 車輪水平支持軸及び高さ調整つまみ
20 水噴出ノズル
21 ノズル高さ調整フロート
22 フロート高さ調整つまみ
23 水吸入部
24,25 水噴出ノズル導管
26 機体主軸
27 水吸入導入管
28,29 外部牽引機連結部
30 主軸と噴出ノズル及び給水導管の連結部
31,32 伸縮ホース
33 噴出ノズル部の高さ調整及び前後振り子運動、左右振り子動連結部
34 水吸入導管部の高さ調整及び前後振り子運動、左右振り子動連結部
35 給水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部牽引機本体に取り付けられ、前記外部牽引機の進行方向及び進行方向とほぼ垂直な水平方向に水流を発生させる手段を有することを特徴とする、水田除草抑草機。
【請求項2】
前記水流を発生させる手段は、フィンを有する回転体と、前記回転体によって生じる水流をほぼ垂直方向に移行させる水流分散板を有することを特徴とする、請求項1に記載の水田除草抑草機。
【請求項3】
前記水流を発生させる手段は、水噴出ノズルを有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水田除草抑草機。
【請求項4】
前記水流を発生する手段は、水田の水面から位置を一定に保持する機構を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水田除草抑草機。
【請求項5】
前記水流を発生させる手段を、水田水表面の近傍で運用することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水田除草抑草機の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−19500(P2011−19500A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186090(P2009−186090)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(509226059)
【Fターム(参考)】