説明

除電装置

【課題】 簡単な回路構成で電極手段に印加される電圧の周波数と、正極性及び負極性の電圧を個別に制御することができる除電装置を提供すること。
【解決手段】 正極性の高電圧発生回路4と負極性の高電圧発生回路5は倍電圧整流回路4b、5bにより構成される。高電圧発生回路4、5から各々に対応した正極性と負極性の高電圧の供給を受け、正極性のイオンと負極性のイオンを時分割で出力するための電極針9を接続する。スイッチ2a、2bを開閉し、電極針9に対して、正極性の高電圧が供給される状態と負極性の高電圧が供給される状態の2状態のうち一方の状態から他方の状態へ連続的に切り替わるACパルスが供給される。スイッチ2a、2bの開閉時間を調整することにより、電極針9に供給する電圧のDuty比を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極性または負極性の電荷に帯電している帯電体の帯電量をゼロに近づけるための除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶製造ライン等において、対象物体が帯電しているとほこり等が付着して製品が不良品となることがあり、また、コンベア等により物体を搬送している場合には、小さい対象物体が帯電することにより製品同士が吸引されて接触してしまい、生産ラインが停止してしまうことがある。このため、静電気の発生を抑制する必要がある個所には、限られたスペースに多数の除電装置が配置される。
【0003】
静電気は対象物体に蓄積されている正または負の電荷により生ずるものであり、静電気に起因する対象物体の帯電電位は大地を基準電位として、対象物体の表面電位を測定することにより決定されている。除電の原理は、このような対象物体に蓄積されている電荷を大地に流し込むか、または蓄積されている電荷とは反対の極性のイオンを吹き付けて帯電電位を中和することにより、対象物体、すなわち帯電体に蓄積されている電荷をゼロに近づけるものである。
【0004】
上記のような除電の原理を応用した除電装置として、従来電極針に高電圧発生部からの直流高電圧または交流高電圧を印加して電極針からプラス、またはマイナスのイオンを出力させて、このイオンを帯電体に吹き付けるようにしたものが知られている。このときの空気中を流れるプラス、またはマイナスのイオン流は、高電圧発生部と大地間の電流として考えることができる。すなわち、高電圧発生部から大地に向かって流れる電流はマイナスのイオン流に相当し、大地から高電圧発生部に向かって流れる電流はプラスのイオン流に相当している。
【0005】
このようなイオン流と電流との相互関係により、除電装置から出力しているプラス、マイナスのイオン量が同数であれば中和されて電流はゼロとなる。図12は、上記のような原理を用いた除電装置を示す回路図である。図において、21a、21bは直流可変電圧装置、22a、22bはスイッチ、23aは正極性の電極針、23bは負極性の電極針、24は制御信号pa〜pdを出力する制御回路、25は除電の対象物体である。
【0006】
制御回路24の信号により直流可変電圧装置21a、21b、スイッチ22a、22bを動作させて、対象物体25の帯電の極性とは反対極性の電極針に直流の高電圧を印加して除電する。例えば対象物体25が負極性に帯電している場合には正極性の電極針23aに直流の高電圧を印加して正極性のイオンを対象物体25に吹き付ける。正負の極性の電極針からイオンを対象物体に吹き付けるには、イオン同士の反発力(クーロン力)を利用する。イオン同士の反発力が弱いときには、ファンやコンプレッサー等の外力を利用することもある。
【0007】
ところで、電極針に高電圧を印加するときに発生するイオン量と電圧の関係は、図13の特性図のように表される。Q1は負極性の電圧−イオン量の特性、Q2は正極性の電圧−イオン量の特性を示している。この特性図に示されているように負極性のイオンの方が正極性のイオンよりも低電圧で発生する傾向にある。このため、正負双方の極性の電極針からイオンを等量発生させてイオンバランスを取る必要がある場合には、正負の直流可変電圧装置21a、21bにより出力電圧の調整を行い、またはスイッチ22a、22bの開閉時間、すなわち、電圧印加時間を調整して電圧の大きさを制御している。
【0008】
イオンバランスを取りながらイオン同士の反発力(クーロン力)を利用して電極針から対象物体にイオンを吹き付ける際には、スイッチ22a、22bを交互に開閉制御しており、正負双方の極性の電極針にはパルス状の高電圧が交互に印加される。このときの周波数は、電極針と対象物体との距離に応じて最適な周波数が選定される。近距離の場合には周波数が高く、遠距離の場合には周波数は低く選定される。
【0009】
例えば、この距離が50mm程度の近接した距離であれば30〜100Hz、クリーンルームの作業台(クリーンベンチ)のように当該距離が500mm程度の場合には10〜1Hz、クリーンルームの天井のように当該距離が2000mm以上の場合には1Hz以下に選定される。このように、電極針と対象物体との距離が大きいときには、電極針で発生したイオンが対象物体に到達するまでに時間がかかるので同一極性の電圧を長い時間印加することが必要となり、直流方式の除電装置が適している。
【0010】
これに対して電極針と対象物体との距離が近接している場合には、比較的高い周波数で電極針からイオンを出力する必要があるので、交流方式の除電装置が適している。特に、除電の対象物体が走行しているフイルムやシート等の長尺状の物体の場合には、ムラなく除電するためには一定値以上の周波数で電極針からイオンを出力することが要求されている。
【0011】
図14は、このような長尺状の物体の除電に適用される交流方式の除電装置の一例を示す回路図である。図において、31は商用電源、32は昇圧トランス、33は直流バイアス電源、34は正負の極性のイオンを交互に発生する電極針、35は矢視A方向に走行するフイルムである。電極針34は、フイルム35の走行面から高さHが50mm程度の位置に設定される。Lは電極針34による除電範囲であり50mm程度の長さに設定される。このときのフイルム35の走行速度をv(m/s)とすると、最適な周波数Fは、F≧(v/L)で表される。したがって、v=2.5(m/s)とすると、F≧(250/5)より最適な周波数は50Hz以上に設定される。
【0012】
図15は、直流バイアス電源33による昇圧トランス32の2次側電圧の制御の一例を示す特性図である。バイアス電圧VBを制御することにより、2次側電圧の0レベルが変わり電極針34から発生する正負の極性のイオン量が調整される。このように、交流方式の除電装置は走行している長尺状の物体に対して近接した位置に電極針を配置して効果的に除電できる。しかしながら、周波数は商用電源により一律に50Hzまたは60Hzに設定され、電極針と対象物体の距離に応じて最適な周波数を設定することができないという問題がある。また、昇圧トランスは大型で重いため、設置場所に制約を受けるという問題がある。
【0013】
そこでトランスの小型軽量化を図るために可変周波数の高周波トランスを用いた除電装置が開発されている。図16はこのような除電装置の一例を示す回路図である。図16において、41は直流電源、42a、42bはスイッチ、43a、43bは高周波発振回路、44a、44bはトランス、45a、45bは倍電圧整流回路、46は正極性の電極針、47は負極性の電極針である。
【0014】
高周波発振回路43a、43bを動作させることにより、トランス44a、44bの2次側には高周波電圧が発生する。倍電圧整流回路45a、45bは、コッククロフト・ウオルトンの回路といわれる周知の構成であり、コンデンサC1〜C4とダイオードD1〜D4で構成されている。コンデンサとダイオードとを組み合わせた単位ブロックの段数をn、入力電圧をVsとすると、倍電圧整流回路45a、45bの出力側にはnVsの電圧が得られる。図14の例ではn=4であるので、倍電圧整流回路45a、45bの出力側には4Vsの高電圧が形成されてそれぞれの電極針46、47に印加される。
【0015】
図17は高周波トランスを用いた除電装置の他の例を示す回路図である。図17において、41は直流電源、42cはスイッチ、43cは高周波発振回路、44cはトランス、45a、45bは倍電圧整流回路、46は正極性の電極針、47は負極性の電極針である。この例では、単一のトランス44cの2次側に発生する高周波電圧を倍電圧整流回路45a、45bにより昇圧し、正極性の電極針46と負極性の電極針47に印加する構成としている。
【特許文献1】特許第2702951号公報
【特許文献2】実願昭61−59156号(実開昭62−169499号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図16の例では、高周波発振回路43a、43bを個別に制御することにより、正極性の電極針と負極性の電極針に印加する電圧をそれぞれ制御することができるのでイオンバランスを取りやすいという利点がある。しかしながら、正イオンと負イオンの発生する場所が違うので除電ムラが発生し、また、正極性と負極性の電極針をそれぞれ必要とするのでコストが高くなるという問題があった。
【0017】
また、図17の例では単一の高周波発振回路、トランス、電極針により正負の極性のイオンを発生させることができるので、構成が簡単でコストが安くなるという利点がある。しかしながら、正極性の電圧と負極性の電圧を個別に制御することができないので、イオンバランスを取りにくいという問題があった。
【0018】
本発明はこのような問題に鑑みて、簡単な回路構成で電極手段に印加される電圧の周波数と、正極性及び負極性の電圧の大きさを個別に制御することができる除電装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的は請求項1に係る発明において、除電装置を、外部電源から電圧が供給される正極性の高電圧発生回路及び負極性の高電圧発生回路と、正極性の高電圧発生回路の出力端子と負極性の高電圧発生回路の出力端子との間に直列接続される第1、第2のインピーダンス素子と、前記第1、第2のインピーダンス素子の接続点に接続され、前記正極性及び負極性の高電圧発生回路の出力電圧の印加により正極性のイオンと負極性のイオンを出力する電極針と、正極性の高電圧を電極針に印加する際に形成される第1の給電経路を開閉する第1の電子的スイッチと、負極性の高電圧を電極針に印加する際に形成される第2の給電経路を開閉する第2の電子的スイッチと、第1の電子的スイッチと第2の電子的スイッチの開閉時間を制御する制御装置とを備え、前記正極性の高電圧発生回路および前記び負極性の高電圧発生回路は、各々、複数の直列に配置されたダイオードと複数のコンデンサとからなる倍電圧整流回路を備え、前記制御装置が、前記第1の電子的スイッチが閉状態且つ前記第2の電子的スイッチが開状態である正極性動作状態と、前記第1の電子的スイッチが開状態且つ前記第2の電子的スイッチが閉状態である負極性動作状態とを交互に繰り返すことで、前記電極針に所定周期の正負の極性を反転した電圧を交互に印加させて、前記電極針から正極性のイオンと負極性のイオンを交互に出力させ、前記制御装置により前記正極性動作状態に制御された場合に、前記正極性の高電圧発生回路の正極性の出力電圧が前記直列接続された第1、第2のインピーダンス素子により分圧され、該分圧された正極性の出力電圧が前記電極針に印加されるように構成されると、共に、前記制御装置により前記負極性動作状態に制御された場合に、前記負極性の高電圧発生回路の負極性の出力電圧が前記直列接続された第1、第2のインピーダンス素子により分圧され、該分圧された負極性の出力電圧が前記電極針に印加されるように構成されることにより達成される。
【0020】
また、請求項1に記載の除電装置において、第1の電子的スイッチと第2の電子的スイッチの開閉時間を制御することにより、電極針に印加する電圧の周波数を制御してなるように構成されることにより達成される。
【0021】
さらに、請求項1に記載の除電装置において、第1、第2のインピーダンス素子は、抵抗と前記電極針に印加される前記出力電圧の立ち上がりの応答性を改善する手段とで形成したことにより達成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間の制御により、電極手段から出力される正負の極性のイオン量を個別に制御しているので、簡単な構成で効果的に除電を行うことができる。また、単一の電極手段により正負の極性のイオンを出力させるので除電ムラがなく、電極針の数を1/2にできその結果除電装置のコストが安くなる。
【0023】
また、第1のスイッチと第2のスイッチの単位時間あたりの開閉頻度を変えること、すなわち、電極針に印加される電圧の周波数を制御第1の電子的スイッチと第2の電子的スイッチの開閉時間を制御することにより、電極針と除電の対象物体との距離に応じて最適の周波数で電極針に電圧を印加することができ、これにより効果的に除電を行うことができる。電極針と接地間に形成される浮遊容量の影響を第1、第2のインピーダンス素子で除去するので、電極手段に高電圧発生回路の出力電圧が印加されたときの立上りの特性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る除電装置の好適な実施の形態における構成を示す回路図である。
【図2】図1の除電装置の高電圧発生回路の出力電圧の波形を示す特性図である。
【図3】図1の除電装置の高電圧発生回路の出力電圧の波形を示す特性図である。
【図4】図1の除電装置の高電圧発生回路の出力電圧の波形を示す特性図である。
【図5】除電装置の別の実施の形態における構成を部分的に示す回路図である。
【図6】除電装置の別の実施の形態における構成を部分的に示す回路図である。
【図7】除電装置の別の実施の形態における構成を部分的に示す回路図である。
【図8】除電装置の別の形態における構成を示す回路図である。
【図9】除電装置の別の形態における構成を示す回路図である。
【図10】除電装置の改良例を示す回路図である。
【図11】図10の除電装置の動作を示す特性図である。
【図12】直流方式の除電装置の一例を示す回路図である。
【図13】イオン量と電圧の関係を示す特性図である。
【図14】交流方式の除電装置の一例を示す回路図である。
【図15】図12の除電装置のバイアス制御を示す特性図である。
【図16】除電装置の従来例を示す回路図である。
【図17】除電装置の他の従来例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の除電装置の一例を示す回路図である。図1において、1は直流電源で例えば二次電池等の外部直流電源を用いる。2a、2bは直流電源1の出力側に設けられるスイッチ、3は制御信号Sa、Sbによりスイッチ2a、2bの開閉時間を制御する制御装置である。スイッチ2a、2bは、トランジスタ等の電子的スイッチを用いることができる。4は、トランス4a、倍電圧整流回路4bよりなる正極性の高電圧発生回路、5は、トランス5a、倍電圧整流回路5bよりなる負極性の高電圧発生回路である。
【0026】
各高電圧発生回路4、5において、倍電圧整流回路4b、5bのコンデンサとダイオードを組み合わせたブロックの段数は適宜の段数に設定され、所定の値の直流高電圧が高電圧発生回路4、5の出力端子6、7に得られる。出力端子6、7間には、電流制限用のインピーダンスとして作用する等価の抵抗R1、R1を直列に接続し、両抵抗の接続点8に電極針9を接続する。
【0027】
スイッチ2aは、直流電源1から供給される電圧により正極性の高電圧発生回路4が動作して、電極針9に正極性の高電圧を印加する際に形成される第1の給電経路を開閉するスイッチとして機能する。また、スイッチ2bは、直流電源1から供給される電圧により負極性の高電圧発生回路5が動作して、電極針9に負極性の高電圧を印加する際に形成される第2の給電経路を開閉するスイッチとして機能する。
【0028】
図2、図3は図1の除電装置の高電圧発生回路の出力電圧の波形を示す特性図である。図2、図3を参照して図1の除電装置の動作を説明する。制御装置3からの制御信号Sa、Sbによりスイッチ2aをオン、スイッチ2bをオフにする。この際に、正極性の高電圧発生回路4のトランス4aの2次側にはパルス状の高電圧が発生する。
【0029】
このトランス4aの2次側に発生したパルス状の高電圧を倍電圧整流回路4bにより昇圧して、振幅値Vaの正極性のパルス電圧を正極性の高電圧発生回路4から出力し、電極針9に印加する。電極針9からは正極性のイオンが出力されて図示しない対象物体に吹き付けられる。
【0030】
ta時間スイッチ2aをオン、スイッチ2bをオフにして、電極針9に振幅値Va/2の正極性のパルス電圧を印加してから、次に制御装置3からの制御信号Sa、Sbによりスイッチ2aをオフ、スイッチ2bをオンにする。この際には、負極性の高電圧発生回路5のトランス5aの2次側にはパルス状の高電圧が発生する。このトランス5aの2次側に発生したパルス状の高電圧を倍電圧整流回路5bにより昇圧して、振幅値Vaの負極性のパルス電圧を負極性の高電圧発生回路5から出力し、電極針9に印加する。電極針9からは負極性のイオンが出力されて図示しない対象物体に吹き付けられる。
【0031】
tb時間スイッチ2aをオフ、スイッチ2bをオンにして、電極針9に振幅値Va/2の負極性のパルス電圧を印加してから、次に再度スイッチ2aをオン、スイッチ2bをオフにして電極針9に振幅値Va/2の正極性のパルス電圧を印加する。以下、スイッチ2b、2aを交互に開閉し、周期T(T=ta+tb)で正負の極性を反転したパルス電圧を交互に電極針9に印加する。
【0032】
このように、制御装置3からの制御信号Sa、Sbでスイッチ2a、2bの開閉時間を制御し、前記電圧の極性を変化させる周期Tの単位時間あたりの繰り返し回数を適宜設定することにより、電極針9にはE1の波形で示される所定の周波数の高電圧が印加されることになる。ここで、単位時間あたりの周期Tの繰り返し回数は、単位時間あたりのスイッチ2a、2bの開閉頻度で規定される。このため、電極針9に印加される電圧の周波数の制御は、単位時間あたりのスイッチ2a、2bの開閉頻度を変えることにより、すなわち、単位時間あたりのスイッチ2a、2bの開閉時間を制御することにより行われるものである。
【0033】
図2は、各スイッチ2a、2bのオンの時間taとtbを等しく、すなわち、正極性の高電圧発生回路4と負極性の高電圧発生回路5の動作時間を等しくして、電極針9に印加される正負の極性の電圧の大きさを同じ値に設定している。しかしながら、前記のように負極性のイオンが低電圧で発生しやすい傾向にあるので、正負の極性の電圧の大きさを同じ大きさにして電極針9に印加すると、イオンバランスが取れない場合がある。
【0034】
このような場合には、図3のように一周期T内でスイッチ2aのオン時間tpをスイッチ2bのオン時間tqよりも長く設定し、電極針9に印加する電圧は、正極性の電圧が負極性の電圧よりも大きくなるように電圧を制御する。すなわち、一周期T内でスイッチ2a、2bの開閉時間の比率を変えて、正極性及び負極性の電圧の大きさを制御する。
【0035】
この際には、電極針9にはE2の波形で示される所定の周波数の高電圧が印加されることになる。電極針9に電圧が印加される時間は、一周期内で正極性のパルス電圧が印加される時間が負極性のパルス電圧が印加される時間よりも長くなるので、正極性のイオン量が増加する傾向が強くなり、イオンバランスが取られることになる。
【0036】
また、対象物体が正極性に強く帯電している場合には、スイッチ2bのオン時間tbをスイッチ2aのオン時間taよりも長く設定する。この場合には、電極針9に印加される電圧は、負極性の電圧が正極性の電圧よりも大きくなるように制御される。
【0037】
図3において周期を図2の例と同一の周期Tに設定すると、スイッチ2a、2bの開閉時間の比率を制御することにより、周波数を固定したままで電極針9に印加される正負の極性の電圧の大きさを変えることができる。すなわち、電極針9で発生する正負の極性のイオン量の大きさを制御することができる。
【0038】
また、図2の例とは異なる周期でスイッチ2a、2bを開閉して、すなわち、スイッチ2a、2bの開閉頻度を変えて、電極針9に印加する電圧の周波数を制御すると共に、一周期内のスイッチ2a、2bの開閉時間の比率を変えて、電極針9に印加される正負の極性の電圧の大きさも変える構成とすることができる。
【0039】
このように図1の除電装置は、スイッチ2a、2bの開閉時間を制御することにより、電極針9に印加する電圧の周波数の制御と、正負の極性の電圧の個別の大きさの制御をそれぞれ独立して行うことができるが、更に、電極針9に印加する電圧の周波数と共に、正負の極性の個別の電圧の大きさを同時に制御することができる。また、単一の電極針により正負の極性のイオンを出力させるので、コストを低減することができる。
【0040】
ところで図1の除電装置は、電極針9と接地間に浮遊容量Cfが形成されている。このような浮遊容量Cfに起因して時定数が大きくなるために電極針9に電圧が印加された際の応答性が悪くなり、図4の特性図に示すように電極針9に印加される電圧はE3の波形のように立上りに遅れが発生する。このため、電極針9に印加される電圧の大きさが不足して十分にイオンを発生することができないという問題がある。
【0041】
図5は、このような浮遊容量Cfの影響を除去するための構成を示す回路図である。図1の例では正極性の高電圧発生回路4と負極性の高電圧発生回路5の出力端子6、7間に、抵抗R1、R1の直列回路を接続している。図5の例では、前記抵抗R1に代えて抵抗R2とコンデンサCaの並列回路を直列に接続する構成としている。このように、出力端子6、7間にコンデンサを含むインピーダンスを接続しているので、浮遊容量Cfによるインピーダンスは打ち消される。このため応答性が良くなり、電極針9に印加される電圧は立上りの遅れがなくE4の波形のように改善される。
【0042】
図6は、本発明の別の実施の形態を示す回路図である。図6の例では、図1の抵抗R1に代えて抵抗R3とツェナーダイオードZdの直列回路を接続している。ここで正極性の高電圧発生回路4の出力電圧をVb、負極性の高電圧発生回路5の出力電圧をVc、ツェナーダイオードZdのツェナー電圧をVzとするとき、Vb、Vc、Vzの関係は、2Vz≦Vb、2Vz≦Vcとなるようにツェナー電圧Vzを定める。
【0043】
正極性の高電圧発生回路4から電圧Vbが出力されているときには、出力端子6からの出力電流Ibは、Ib=(Vb−2Vz)/2R3となる。また、負極性の高電圧発生回路5から電圧Vcが出力されているときには、出力端子7からの出力電流Icは、Ic=(Vc+2Vz)/2R3となる。
【0044】
次に図1の例と図6の例の特性を比較する。図1においては、出力端子6、7間の出力インピーダンスZaは、抵抗R1とR1が並列に接続されているので、Za=(R1/2)となる。正極性の高電圧発生回路4から電圧Vaが出力されているときに出力端子6からの出力電流Iaは、Ia=(Va/2R1)となる。したがって、出力端子6と接続点8の間に接続されている抵抗R1の消費電力Waは、Wa=(Ia)2R1=(Va)2/4R1となる。
【0045】
図6の例は、出力端子6、7間の出力インピーダンス Zbは、ツェナーダイオードZdのインピーダンスを無視すれば抵抗R3とR3が並列に接続されているので、Zb=(R3/2)となる。このときの出力端子6と接続点8の間に接続されている抵抗R3の消費電力Wbは、Wb=(Ib)2R3であるから、Ibに上記の値を代入してWb=(Vb−2Vz)2/4R3となる。ここで、簡単のためにVa=Vb、R1=R3とすると、Wa>Wbとなり、図6の構成にすると図1の構成よりも消費電力が少なくなり、除電装置の効率が向上する。
【0046】
また、Ia=Ibとした場合、R1>R3となり出力インピーダンス が減少して応答性が改善される。出力端子7と接続点8間の出力インピーダンスに対する消費電力の軽減と、応答性の改善についても上記したところと同様になる。このように、図6の構成ではツェナーダイオードZdを用いることにより、図1の構成と出力インピーダンスが同じでも除電装置の効率を向上させることができるものである。
【0047】
図7は、本発明の更に別の実施の形態を示す回路図である。この例では、出力端子6と接続点8間、および出力端子7と接続点8間に、それぞれ抵抗R4とツェナーダイオードZdの直列回路にコンデンサCbを並列に接続している。このような構成とすることにより、図5の例で説明したと同じように、浮遊容量Cfに起因する電極針9に印加される高電圧発生回路の出力電圧の立上りの遅延を解消し、応答性が改善される。
【0048】
図1、図5〜図7の構成では正極性の高電圧発生回路4、負極性の高電圧発生回路5の出力端子6と出力端子7間には等価な2つのインピーダンスを直列に接続している。しかしながら、本発明の除電装置においては上記2つのインピーダンス
は互いに等価なものには限定されない。一方のインピーダンスを他方のインピーダンス よりも大きく設定して、電極針9に高電圧を印加する構成とすることも可能である。
【0049】
図1の例では、高電圧を電極針に印加する際に形成される給電経路を開閉する第1、第2のスイッチ2a、2bは、直流電源1とトランス4a、5aとの間に接続されている。本発明においては、前記第1、第2のスイッチは、正極性の高電圧発生回路または負極性の高電圧発生回路を電極針に印加する際に形成される給電経路のどの位置に接続しても、前記した電極針に印加する電圧の周波数と電圧の大きさを制御することができるものである。
【0050】
図8は、第1、第2のスイッチ2a、2bを倍電圧整流回路4b、5bの入力側に接続した例を示す回路図である。図8の例では、直流電源1の出力側に直流−交流インバータ11を接続し、直流−交流インバータ11の出力側にトランス4a、5aを接続している。
【0051】
この例においても、第1のスイッチ2aをオン、第2のスイッチ2bをオフにすると、電極針9には正極性の高電圧が印加される。また、第1のスイッチ2aをオフ、第2のスイッチ2bをオンにすると、電極針9には負極性の高電圧が印加される。
【0052】
更に、第1のスイッチ2aと第2のスイッチ2bの単位時間あたりの開閉頻度を制御することにより、電極針9に印加される電圧の周波数を制御することができる。また、第1のスイッチ2aと第2のスイッチ2bの一周期内での開閉時間の比率を制御することにより、電極針9に印加される正負の極性の電圧の大きさを制御することができる。
【0053】
図1の例では、直流電源1の電圧を正極性または負極性の高電圧発生回路に供給している。本発明においては、交流電源の電圧を直流に変換して正極性または負極性の高電圧発生回路に供給する構成とすることも可能である。図9は、交流電源を用いた例を示す回路図である。図9において、ACは商用交流電源、12は交流−直流インバータである。第1のスイッチ2aと第2のスイッチ2bは、交流−直流インバータ12の出力側に接続されている。
【0054】
交流−直流インバータ12の出力側から電極針9までの給電経路の構成は、図1の構成と同様であるので詳細な説明は省略する。このように、本発明においては正極性または負極性の高電圧発生回路に電圧を供給する電源は、直流電源と交流電源のいずれでも適用が可能である。
【0055】
ところで、電極針から大量のイオンを出力する場合には、高電圧発生回路に用いるトランスの出力容量を大きくする必要がある。しかしながら、トランスの出力容量を大きくするとトランスが大型化する。トランスの2次側から高周波の交流電圧を出力させるために、制御装置によりトランスの1次巻線への通電のオン、オフ制御を行うが、上記のようにトランスが大型化すると、前記オン、オフ制御のスイッチング周波数が低下する。
【0056】
例えば、トランスの出力が1Wであれば、スイッチング周波数は約100KHzであるが、トランスの出力が5Wに増大すると、スイッチング周波数は約10〜30KHzに低下する。このようにスイッチング周波数が低下すると、高電圧発生回路から電極針に印加される出力電圧の立上り時間が長くなるという問題がある。
【0057】
図11は、前記制御装置によるトランスの1次巻線のオンオフ制御と出力電圧の立上り時間との関係を示す特性図である。図11において、制御装置によるスイッチオンはHレベルに、スイッチオフはLレベルに表示しており、スイッチのオン、オフの状態は波形Xで示される。このときの出力電圧は波形Y1で示されるが、出力電圧はスイッチのオン動作に直ちには追随せずに時間遅れをもって立上るので、出力電圧の立上り時間が長くなっている。
【0058】
図10は、このような電極針から大量のイオンを出力する場合の改良例を示す回路図である。図10において、1は直流電源、2aはスイッチ、10a、10bは制御回路、4a1、4a2はトランス、4b1、4b2は倍電圧整流回路で、それぞれ同一値の正極性の直流高電圧を出力端子6から出力する。負極性の高電圧発生回路においても、同様にトランスを分割して2つの倍電圧整流回路を接続する。
【0059】
このようにトランスを分割すると、図11の特性Y2に示すように制御回路によるスイッチのオン動作に直ちに追随して出力電圧が立ち上がるようになり、高電圧発生回路から電極針に印加される出力電圧の立上り時間が短縮される。トランスの分割数とトランスに接続される高電圧発生回路の数は、対象物体の除電に必要とされるイオン量に応じて選定される。
【0060】
上記の説明では正極性または負極性のイオンを交互に出力する手段として、電極針を用いる例を説明した。本発明の除電装置においては、イオンを出力する電極手段として、電極針に代えて細線等の長尺状物や突起部を有する部材を用いる構成とすることもできる。また、対象物体にイオンを吹き付けるためにファンやコンプレッサー等の外部機器を用いるかどうかも任意に定められる。
【0061】
以上のように請求項1に係る発明においては、第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間の制御により、電極手段から出力される正負の極性のイオン量を個別に制御しているので、簡単な構成で効果的に除電を行うことができる。また、単一の電極手段により正負の極性のイオンを出力させるので除電ムラがなく、電極針の数を1/2にできその結果除電装置のコストが安くなる。
【0062】
請求項2に係る発明においては、第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間を制御して、第1のスイッチと第2のスイッチの単位時間あたりの開閉頻度を変えることにより、電極手段に印加される電圧の周波数を制御している。このため、電極手段と除電の対象物体との距離に応じて最適の周波数で電極手段に電圧を印加することにより、効果的に除電を行うことができる。
【0063】
本発明の一実施の形態においては、第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間を制御して、第1のスイッチと第2のスイッチの一周期内での開閉時間の比率を変えることにより、電極手段に印加される正極性の出力電圧と負極性の出力電圧の大きさを個別に制御している。このため、電極手段から出力される正極性と負極性のイオン量の大きさをそれぞれ個別に制御することができ、イオンバランスが取りやすくなる。
【0064】
本発明の一実施の形態においては、第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間を制御して、第1のスイッチと第2のスイッチの単位時間あたりの開閉頻度を変えると共に、第1のスイッチと第2のスイッチの一周期内での開閉時間の比率を変えることにより、電極手段に印加される電圧の周波数と、電極手段に印加される正極性の出力電圧と負極性の出力電圧の大きさを個別に制御している。このため、電極手段と除電の対象物体との距離が変化した場合でもイオンバランスが取りやすくなる。
【0065】
本発明の一実施の形態においては、直流電源と正負の高電圧発生回路の間に接続された第1のスイッチと第2のスイッチの開閉時間を制御しているので、電源電圧を変換する装置が不要であり、簡単な構成で電極手段に印加される電圧の周波数と、電極手段に印加される正極性の出力電圧と負極性の出力電圧の大きさを個別に制御することができる。
【0066】
請求項3に係る発明においては、電極手段と接地間に形成される浮遊容量の影響を除去し、電極手段に高電圧発生回路の出力電圧が印加されたときの立上りの特性が改善される。
【0067】
本発明の一実施の形態においては、高電圧発生回路の出力端子と電極手段との間の消費電力が軽減されるので除電装置の効率を向上させることができる。また出力インピーダンスを減少させて応答性を改善することができる。
【0068】
本発明の一実施の形態においては、除電装置の効率を向上させることができると共に、電極手段に高電圧発生回路の出力電圧が印加されたときの立上りの特性が改善される。
【符号の説明】
【0069】
1 直流電源
2a、2b スイッチ
3 制御装置
4 正極性の高電圧発生回路
5 負極性の高電圧発生回路
4a、5a トランス
4b、5b 倍電圧整流回路
6、7 出力端子
8 接続点
9 電極針
11 直流−交流インバータ
12 交流−直流インバータ
R1、R2、R3 抵抗
Ca、Cb コンデンサ
Cf 浮遊容量
Zd ツェナーダイオード
Sa、Sb 制御信号
Ia 出力電流
E1,E2 電圧波形
T 周期
Va 振幅値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極性のイオンと負極性のイオンを時分割で出力する除電装置において、
複数のコンデンサと複数の直列に配置されたダイオードとを有し、正極性の高電圧を発生する正極性高電圧発生回路と、
前記正極性高電圧発生回路とは別に複数のコンデンサと複数の直列に配置されたダイオードとを有し、負極性の高電圧を発生する負極性高電圧発生回路と、
前記正極性高電圧発生回路と前記負極性高電圧発生回路とから各々に対応した正極性と負極性の高電圧の供給を受け、正極性のイオンと負極性のイオンを時分割で出力するための電極手段と、
前記正極性高電圧発生回路と前記負極性高電圧発生回路とが電気的に絶縁された回路に配置され、前記電極手段に対して、正極性の高電圧が供給される状態と負極性の高電圧が供給される状態の2状態のうち一方の状態から他方の状態へ連続的に切り替わる交流パルスが供給されるように当該絶縁された回路をスイッチングする電子的スイッチと
を備えることを特徴とする除電装置。
【請求項2】
正極性のイオンと負極性のイオンを時分割で出力する除電装置において、
複数のコンデンサと複数の直列に配置されたダイオードとを有し、正極性の高電圧を発生する正極性高電圧発生回路と、
前記正極性高電圧発生回路とは別に複数のコンデンサと複数の直列に配置されたダイオードとを有し、負極性の高電圧を発生する負極性高電圧発生回路と、
前記正極性高電圧発生回路と前記負極性高電圧発生回路とから各々に対応した正極性と負極性の高電圧の供給を受け、正極性のイオンと負極性のイオンを時分割で出力するための電極手段と、
前記正極性高電圧発生回路と前記負極性高電圧発生回路との間に接続され、前記電極手段に供給される高電圧の極性にかかわらず電圧降下が発生するインピーダンス素子とを備えることを特徴とする除電装置。
【請求項3】
前記除電装置は、前記電極手段から出力される正極性のイオンと負極性のイオンのイオン量を調整するために一周期内での前記正極性の高電圧が供給される時間と前記負極性の電圧が供給される時間とを変更することができることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の除電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−79714(P2012−79714A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15949(P2012−15949)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2010−63702(P2010−63702)の分割
【原出願日】平成10年8月17日(1998.8.17)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】