説明

陰極線管の製造方法および陰極線管

【課題】内部導電膜の表面を低摩擦抵抗化して電子銃のバルブスペーサによる接触剥離を低減する。
【解決手段】パネル12、ファンネル13およびネック14からなるバルブ11の前記パネル内面に蛍光体層15を形成し、前記ネック14から前記ファンネ13ルにかけて内部導電膜16を形成する陰極線管の製造方法において、前記ネック14から前記ファンネル13にかけて少なくとも炭素粉および珪酸ナトリウムを含む前記内部導電膜16を被着、乾燥する工程と、前記バルブを前記ネックの封止側の開口部14a端を下側にして配置し、この開口部14aからノズル装置20を挿入してエチルアルコールを吐出し前記内部導電膜16表面を濡らす工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陰極線管の内部導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体層を電子ビームで走査して映像表示する陰極線管は陰極線管バルブ内の電子銃と蛍光体層との間に内部導電膜を形成して、電子ビームを加速する電界を形成する。内部導電膜は外部陽極端子と接続され、さらに電子銃のバルブスペーサと接触して電子銃に高電圧が印加できるようになっている。この内部導電膜は黒鉛などを粉状にした炭素粉を珪酸ナトリウムの水ガラスで溶いてスラリーとし、陰極線バルブ内に塗布したものである。
【0003】
バルブは高真空に保持され、高電圧が印加されても内部に放電が生じないようにされる。しかし、3管式プロジェクションテレビのように、各単色管に30kV以上の高電圧を印加して高輝度発光をさせることが必要になると、耐電圧維持が厳しい状態になってくる。電極間が狭い電子銃が所要の耐電圧に設計されても、耐圧不良が発生し、またエミッション不良が発生する。
【0004】
この主原因が内部導電膜にあると考えられ、従来から種々の対策が採られている。例えば内部導電膜塗布後にバルブネックの開口端を下にしてバルブを振動させて内部に付着したごみを落下させたり、内部をエアブローして剥離しやすい導電膜の一部を吹き落とす方法がある。また、内部導電膜を塗布したファンネルをエチルアルコール洗浄液に浸漬して超音波洗浄する方法がある(特許文献1参照)。この超音波洗浄による方法は、バルブ内外の塵埃を除去するのに有効であるが、バルブ外部も洗浄するために洗浄液が汚れやすく生産性に問題がある。また水ガラスとアルコールの反応について説明しているが、浸漬によりアルコール分が導電膜に深く侵入して膜を変成するためにバルブとの間の膜の付着力に難点が生じる。
【特許文献1】特開昭59−221940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は内部導電膜の表面を低摩擦抵抗化して電子銃のバルブスペーサによる接触剥離を低減する陰極線管の製造方法およびそれにより得られる陰極線管を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は次のとおりである。
【0007】
(1)パネル、ファンネルおよびネックからなるバルブの前記パネル内面に蛍光体層を形成し、前記ネックから前記ファンネルにかけて内部導電膜を形成する陰極線管の製造方法において、
前記ネックから前記ファンネルにかけて少なくとも炭素粉および珪酸ナトリウムを含む前記内部導電膜を被着、乾燥する工程と、
前記バルブを前記ネックの封止側の開口端を下側にして配置し、この開口端からノズルを挿入してエチルアルコールを吐出し前記内部導電膜表面を濡らす工程とを具備してなる陰極線管の製造方法。
【0008】
(2)前記エチルアルコールを前記内部導電膜の表層のみに接触するようにした前記陰極線管の製造方法。
【0009】
(3)前記ノズルは前記エチルアルコールを噴霧するものである前記陰極線管の製造方法。
【0010】
(4)前記吐出するエチルアルコールが95%以上の純度を有している前記陰極線管の製造方法。
【0011】
(5)パネル、ファンネルおよびネックからなるバルブの前記パネル内面に蛍光体層を形成し、前記ネックから前記ファンネルにかけて、少なくとも炭素粉と、珪酸ナトリウムを主成分とする水ガラスからなる内部導電膜を形成する陰極線管の製造方法において、前記内部導電膜の表層が脱水処理されてなる陰極線管。
【発明の効果】
【0012】
本発明はエチルアルコールを内部導電膜の表層に作用させて表層部分に付着力が強く摺動摩擦を低減した層を形成することができる方法であり、これにより剥離しやすい粒子などを強固に固定し、かつ表面の摩擦抵抗が低いことにより電子銃挿入時のバルブスペーサとの接触摩擦を低減し、不所望な剥離により生じる塵芥の耐電圧への影響を抑えることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一実施形態をプロジェクションテレビに用いる単色陰極線管に適用して説明する。図において、陰極線管バルブ11は前面のパネル12、ファンネル13およびネック14からなり、パネル内面に、赤、緑、青色発光のいずれかの色を発光する蛍光体層15を、さらにファンネルからネックにかけて内部導電膜16を設け、蛍光体層15全域と内部導電膜16の蛍光体層側上にアルミニウムスパッタ膜17を形成している。内部導電膜16は炭素粉、さらに場合により酸化鉄粉を加えたものに珪酸ナトリウム塩を主成分とする水ガラスを混ぜてスラリーにしたものを、刷毛やスプレーによりバルブ内面に塗布したものである。乾燥してガラス状にした水ガラスは水分を成分として含んでいる。
【0014】
ネック先端開口部14aはフレア状に開口しており、この開口部を下側に向けておき、開口部からノズル装置20をバルブ11内に挿入する。ノズル装置20は管状導管21とその先端にエチルアルコールを吐出するノズルヘッド22を取り付けたもので、ノズルヘッド周囲に吐出孔22aを形成している。導管21の基部21aはポンプ23を介してアルコール源24に連結され、エチルアルコール液は導管内を通ってノズルから吐出する。ノズルヘッドの位置は吐出するアルコール液がアルミニウムスパッタ膜17に触れない程度の高さにしておくのがよい。吐出孔から噴出した液は内部導電膜16を濡らしながら下方に流れ落ちネック開口部から滴下する。
【0015】
吐出孔22aの口径を小径にするとアルコール液を霧状に噴霧することができる。この方法でも内部導電膜表面を湿らせることができる。
【0016】
エチルアルコールの吐出時間を例えば3〜4秒と短くし、内部導電膜面との接触時間が少なくなるように制御する。これによりエチルアルコールが内部導電膜の膜厚全体に侵入しないようにすることができる。エチルアルコールは内部導電膜の表層にのみ接触して水ガラス中の水分を脱水して付着力の強い層を形成する。この脱水作用を強めるためにエチルアルコールには95%以上の純度のもの、望ましくは無水エチルアルコールを使用するのがよい。
【0017】
このアルコール処理工程は、次に説明する陰極線管の主要な製造工程の中に取り入れられる。
【0018】
バルブ洗浄工程:まずパネル12、ファンネル13およびネック14を連結したガラス製の陰極線管バルブ11を用意する。ネック端はフレアをもつ開口部14aを形成しており、この開口部を下向きにして、ふっ酸水を噴出するノズルを入れ、バルブ内部を洗浄する。
【0019】
蛍光体層形成工程:ネック開口部14aを上向きにして蛍光体粉末を混入した水溶液を導入し、蛍光体粉末を沈殿させ、パネル内面に蛍光体層15を形成する。
【0020】
内部導電膜塗布工程:黒鉛などの炭素粉と水ガラスの液体を刷毛を用いてファンネルとネックの連結部分付近に内部導電膜を塗布する。ファンネル側の一部をファンネルに埋め込んだアノード端子まで延長し、ネック側の塗布は挿入される電子銃のバルブスペーサが接触するのに十分な位置まで延長して塗布して加熱乾燥し内部導電膜16とする。膜厚は3〜10μmである。
【0021】
アルミスパッタ工程:蛍光体層全面、ファンネル内面および内部導電膜のファンネル側の端縁に重畳するようにしてアルミニウムスパッタ膜17を形成する。
【0022】
脱塵工程:上記アルミニウムスパッタを形成後、バルブベーキングを行い、さらにバルブを振動させて脱塵処理をする。
【0023】
アルコール処理工程:図1で説明したように、エチルアルコールを吐出するノズル装置をネック開口部14aから挿入してエチルアルコールを噴射して、内部導電膜16面を濡らす。
【0024】
電子銃封止工程:図2に示すように、電子銃30は筒状、板状の複数のグリッド電極およびカソードを組み合わせて構成され、高圧が印加される先端の電極30aに電子銃の位置を管軸に確保し、かつ内部導電膜から電気的に接続するために、内部導電膜と機械的、電気的に接触するバルブスペーサ31を複数本配置している。バルブスペーサ31は例えばステンレスなどの弾性片でつくり内部導電膜と接触する端部31aを湾曲させて、電子銃をネック開口部から矢印方向32に挿入するときに避けられないバルブスペーサと内部導電膜との摺動摩擦を低めるようにしている。
【0025】
電子銃30をネック14内に挿入した後、電子銃のガラスステム30bとネック開口部14aをバーナーで加熱し、相互に融着して封止する。
【0026】
排気工程:電子銃ステム30bに連結した排気管30cにより、封止されたバルブ内を排気し、バルブスペーサと同様に電子銃に取り付けられたゲッタ(図示しない)をフラッシュさせてバルブ内を高真空にする。
【0027】
以上説明した陰極線管の主要工程のなかで、耐圧劣化を惹起する原因に挙げられるのが、内部導電膜の表面剥離、および電子銃のバルブスペーサ31と内部導電膜16との接触により発生する内部導電膜の剥離である。
【0028】
図4は本実施形態のアルコール処理工程を経た内部導電膜とアルコール処理を施さない内部導電膜のそれぞれに、加傷機で加傷させたときの内部導電膜に生じる傷の状態を傷の幅と深さで示している。ステンレス製の接触子(φ0.5mm、先端角度60度)を乾燥させた内部導電膜に45gの加重をかけ加傷した。
【0029】
本実施形態の内部導電膜を曲線(a)、アルコール処理を施さない比較例を曲線(b)で示す。本実施形態では深さ0.91μm、幅23.5μmの傷ができたが、比較例では深さ1.67μm、幅30μmの傷が生じ、本実施形態において傷の大きさが大幅に低減されている。すなわち本実施形態において摺動摩擦が低減されたことを示している。
【0030】
この結果から内部導電膜の表層の脱水処理は1μm深さ程度あればよく、多くても2μm程度とするのが実用的である。
【0031】
図3はノズル装置20の変形例を示すもので、エチルアルコール吐出ノズルヘッド22上にエアブローノズルヘッド25を配置し、アルコール吐出後、ノズル装置をバルブネック14から引き出すときに乾燥空気を吹出して内部導電膜を濡らしているアルコールを速やかに蒸発させる機能を持たせたものである。これにより、エチルアルコールが内部導電膜に接触している時間の制御をより容易にすることができる。
【0032】
以上実施形態で説明したように、本発明によればエチルアルコールの内部導電膜への接触制御を容易にすることができるので、陰極線管の内部導電膜表層の摩擦抵抗が低減し、さらに膜面の付着特性を向上させることができる。このため、内部導電膜の剥離を低減し、陰極線管の耐電圧特性を高めることが可能になる。さらに本発明は上記したプロジェクションテレビ用の高電圧印加陰極線管ばかりでなく、カラー受像管などの他の陰極線管にも適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態を説明する略図。
【図2】本発明の一実施形態を説明する略図。
【図3】本発明の変形例を説明する略図。
【図4】本発明の効果を説明する曲線図で(a)は前記一実施形態によるもの、(b)は比較例によるものである。
【符号の説明】
【0034】
11:陰極線管バルブ
12:パネル
13:ファンネル
14:ネック
15:蛍光体層
16:内部導電膜
17:アルミニウムスパッタ膜
20:ノズル装置
21:管状導管
22:ノズルヘッド
22a:吐出孔
24:アルコール源
30:電子銃
31:バルブスペーサ
31a:接触端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル、ファンネルおよびネックからなるバルブの前記パネル内面に蛍光層を形成し、前記ネックから前記ファンネルにかけて内部導電膜を形成する陰極線管の製造方法において、
前記ネックから前記ファンネルにかけて少なくとも炭素粉および珪酸ナトリウムを含む前記内部導電膜を被着、乾燥する工程と、
前記バルブを前記ネックの封止側の開口端を下側にして配置し、この開口端からノズルを挿入してエチルアルコールを吐出し前記内部導電膜表面を濡らす工程とを具備してなる陰極線管の製造方法。
【請求項2】
前記エチルアルコールを前記内部導電膜の表層のみに接触するようにした請求項1記載の陰極線管の製造方法。
【請求項3】
前記ノズルは前記エチルアルコールを噴霧するものである請求項2記載の陰極線管の製造方法。
【請求項4】
前記吐出するエチルアルコールが95%以上の純度を有している請求項1記載の陰極線管の製造方法。
【請求項5】
パネル、ファンネルおよびネックからなるバルブの前記パネル内面に蛍光体層を形成し、前記ネックから前記ファンネルにかけて、少なくとも炭素粉と、珪酸ナトリウムを主成分とする水ガラスからなる内部導電膜を形成する陰極線管の製造方法において、前記内部導電膜の表層が脱水処理されてなる陰極線管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−100158(P2006−100158A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286046(P2004−286046)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】