陽イオンの処理及び回収方法、これに用いられる材料及び処理装置
【課題】陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを容易に脱離させる、あるいはその吸着した陽イオンを有する材料を沈殿物として液中から容易に取り出すことができる陽イオンの処理方法、それに用いられる複合材料、装置、及び分散液を提供する。
【解決手段】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御する陽イオンの処理方法。
【解決手段】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御する陽イオンの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プルシアンブルー型金属錯体のもつ陽イオン吸着性を利用した陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置、及び陽イオン処理用分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
液体に含まれる各種イオンを除去、あるいは別のイオンと交換する技術は、多様な用途で利用されている。たとえば、高分子材料を利用したイオン交換材料は水中のイオン交換あるいは吸着を利用し、純水やイオン交換水の作製に利用されている。軟水器と呼ばれる装置は、水中に含まれるカルシウムイオンなどをナトリウムイオンに交換する。また、工業的には電着塗装排水の水洗水の処理及びリサイクルや、アルカリ洗剤の水洗水の処理及びリサイクルなどにも利用されている。
【0003】
イオン交換材料の利用が研究されている用途を始め、原子力発電の結果として排出される放射性廃液から特定の放射性元素を分離、除去することが挙げられる。例えば、セシウムやストロンチウム、アメリシウムなどに含まれる放射性元素の分離が挙げられる。特に、セシウムについては熱源であり、分離することなしに放射性廃液を処理、固化した場合には、発熱が収束するまで地中埋設処理ができないなどの問題がある。
【0004】
このような放射性元素の分離除去の用途に対し、様々なイオン交換材料が検討されてきた。例えば、スルホ基を有する高分子材料や、ゼオライトなどの無機材料が挙げられる。特に利用されているのはイオン交換樹脂と呼ばれる物で、多くはスルホ基などを伴う高分子からなる樹脂であり、カラムなどに充填し、そこに液体を通すことによってイオンの吸着、交換を実現する。
【0005】
特に放射性廃棄物からのセシウムの除去についてみると、ゼオライトやクラウンエーテルの利用検討が進んでいるが、まだ実用上十分な性能を有するものを提供するに至っていない。同様に検討がなされてきた物として、金属錯体が挙げられる。例えば金属錯体であるプルシアンブルーは、既に体内のセシウム除去剤として市販されているものに適用されている。この性質を利用した陽イオンの吸着材料として、特許文献1は、プルシアンブルーの鉄原子の一部を銅に置換して得られる銅プルシアンブルー類似体(Cu−PBA)を官能基をもたない多孔性樹脂孔内に担持したものを開示する。これにより、放射性廃液等からのセシウム除去への利用において、再生処理を効率化することができるとされる。特許文献2は、ゼオライト等の多孔性無機物担体の細孔内にりんモリブデン酸アンモニウムを担持したセシウムの分離・回収材を開示する。これによりハンドリング性及び吸着性能に優れ、微量のセシウムを含む海水、地熱水あるいは放射性廃液のような被処理水からのセシウムの選択分離・回収が可能になるとされる。
【0006】
また、別のアルカリイオンとして、リチウムイオンの有用性も注目されている。リチウムイオンは二次電池に利用されるレアメタルである。その大半は塩湖から汲み上げた濃縮かん水などから抽出され利用されている。一方、海水には濃度は低いものの、全世界で考えれば総計2300億トン程度のリチウムイオンが含有されていると推定されており、海水からのリチウム回収が安価に可能になれば、より安価な二次電池の供給に繋がると期待されている。
現在の主要なリチウムの製造法であるかん水からの抽出においては、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどを利用して不純物を除去している。このような手法では、多くの薬剤等が必要になり、また、廃棄物の処理なども課題となる。一方、海水からのリチウムイオン回収には、その1万倍以上の濃度で存在するナトリウムとの分離が重要な課題である。リチウムイオンの回収には、吸着剤を利用した手法が有力な手段として考えられている。例えば特許文献3では、マンガン化合物をリチウム吸着剤として利用する手法が示されている。この場合は、pHの制御により、本吸着剤へのリチウムイオン吸着及び脱離を制御し、リチウムイオンの回収を行う。
また、電気自動車の普及に伴い、リチウムイオン電池の生産量は爆発的に増大し、廃電池からのリチウムイオンの回収も重要な課題として考えられている。特許文献4は、廃電池から、分解工程、pH調整工程、水溶性炭酸塩の添加工程を経て炭酸リチウムとしてリチウムイオンを分離・回収する工程が提示されている。
【特許文献1】特開平9−173832号公報
【特許文献2】特開2000−84418号公報
【特許文献3】特開昭61−278347号公報
【特許文献4】特開2010−40458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このようなイオン交換・吸着材料に要求される性能として、吸着後の処理の問題が挙げられる。経済性や環境負荷を考えると、再利用できることが好ましい。あるいは、再利用できない場合には適切に処理し、廃棄できることが好ましい。例えば、放射性廃棄物からのセシウムイオン分離に関し、特許文献2においては、そのゼオライト等を用いた吸着材料を再利用することは予定されておらず、これに関する具体的な提案はない。また、このゼオライト等を用いたものや、特許文献1に開示された多孔性樹脂を用いたものの場合、その再生処理には、樹脂等を充填したカラムに再生用の薬液を別途貫流させるなどの手続きが必要であり、時間を要する場合がある。装置の構造によっては利用するその場所での再生が不可能であり、そうすると結局樹脂材料ごと交換しなければならない。このような不都合は、イオン交換としての利用だけではなく、目的物質の回収についても同様に生じる。また、多くの場合カラムの用途は特定されており、一つのカラムで異なる役割を担うことは難しい。
さらに、放射性廃液からセシウムイオンを分離する処理に利用することを考慮すると、そのような物質の処理回収における適正が求められる。吸着したセシウムを分離回収せず、そのまま吸着し安定に固化したものを地中に埋設してしまうことも挙げられるが、ゼオライトの場合はその内部に吸着したセシウムは安定化されていないとの指摘もあり、長期間の保管などの場合に問題となる可能性がある。
【0008】
また、現在のリチウムイオンの精製には、前述の通り様々な薬剤が利用されており、必然的に廃棄物の量も増加する。海水からのリチウムイオン回収に関しても、pH調整などに薬剤が利用されている。このように、リチウムイオン吸着に関しては、薬剤使用量の低減がなされることが重要である。
【0009】
以上の点に鑑み、
本発明の第一の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置の提供に関する。
本発明の第二の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御することを特徴とする陽イオンの処理方法。
(2)前記所定の陽イオンの吸着を、該イオンを含有する溶液に前記複合材料を浸漬することにより行うことを特徴とする(1)に記載の陽イオンの処理方法。
(3)前記所定の陽イオンの脱離を、該イオンを吸着した複合材料を回収液に浸漬して、その浸漬している間に該複合材料の電位を制御して行うことを特徴とする(1)又は(2)に記載の陽イオンの処理方法。
(4)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(5)(a)前記金属原子MAが銅(Cu)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、(b)前記金属原子MAが鉄(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、あるいは(c)前記金属原子MAがニッケル(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)であることを特徴とした(1)〜(4)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(6)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子下記金属原子MCの陽イオンおよび/またはMDを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを結合させたものを用いることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(7)前記導体上のプルシアンブルー型金属錯体に、アミノ基を有する有機化合物を共存させることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(8)前記所定の陽イオンがセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いることを特徴とする、前記プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料。
(10)(9)に記載の複合材料と、該複合材料を前記所定の陽イオンを含有する液に浸漬する搬送手段と、その複合材料を前記所定の陽イオンを回収するための回収液に浸漬する搬送手段と、該回収液中で前記複合材料の電位を制御して行う電位制御手段とを有する陽イオンの処理装置。
(11)プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と所定の陽イオンとを接触させて、該陽イオンの前記プルシアンブルー型金属錯体への吸着により、前記微粒子の分散性を変化させることを特徴とする陽イオンの処理方法。
(12)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と前記所定の陽イオンとの接触を、前記所定の陽イオンを含有する溶液と前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散液とを混合することにより行うことを特徴とする(11)に記載の陽イオンの処理方法。
(13)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散性を変化させ、該微粒子を液中で沈降させることを特徴とする(11)又は(12)に記載の陽イオンの処理方法。
(14)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする(11)〜(13)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(15)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MDを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MCの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする(11)〜(14)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(16)前記プルシアンブルー型金属錯体にアミノ基を有する有機化合物を共存させて、前記陽イオンと接触させることを特徴とする(11)〜(15)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(17)前記所定の陽イオンがセシウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする(11)〜(16)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(18)(11)〜(17)のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いられる、前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を含有する陽イオン処理用分散液。
(19)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の濃度を、前記目的回収イオンとの接触により前記微粒子が液中で沈降する濃度としたことを特徴とする(18)に記載の陽イオン処理用分散液。
【0011】
本発明において「プルシアンブルー型金属錯体」とは下記金属原子MA及び金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなる金属錯体と定義し、これをプルシアンブルー錯体類似体(PBA)ということがある。なお、プルシアンブルーと異なる結晶構造をとっていても、下記式(A)で表されるようにプルシアンブルーと同様の組成式で表され類似の結晶構造をもつ錯体を上記プルシアンブルー型金属錯体に含むものとする。
AxMA[MB(CN)6]y・zH2O ・・・ (A)
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0〜2の数である。yは1〜0.3の数である。zは0〜20の数である。MA,MBは金属原子である。
また、本発明において「陽イオンの処理」とは、具体的には、陽イオンの吸着及び/又は脱離、回収及び/又は交換を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる。
また、陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる。
また、本発明を利用すると、必要により、一つの装置について、電気化学処理の印加電位を制御するなどにより、複数の機能を持たせることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい実施形態の一つであるプルシアンブルー型金属錯体の複合材料を模式的に示した断面図である。
【図2】図1に示した複合材料により陽イオンの処理を実現する装置の一例を模式化して示した側面図である。
【図3】本発明の別の好ましい実施形態であるプルシアンブルー型金属錯体を利用した陽イオン処理カラムを模式的に示した断面図である。
【図4】図3に示した実施形態の陽イオン処理カラムの使用例を示したフロー図である。
【図5】調製例1で得たプルシアンブルー錯体のX線回折チャートである。
【図6】調製例1で得たプルシアンブルーのナノ粒子の透過型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図7】調製例1で得た水分散性のプルシアンブルーナノ粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図8】プルシアンブルー錯体ナノ粒子薄膜の電気化学処理前後の光電子分光スペクトルであり、(a)はナトリウムの有無を示すNa−2S軌道に起因するスペクトル、(b)はカリウムの有無を示すK−2p3/2軌道に起因するスペクトルである。
【図9】ブタノール分散型プルシアンブルーナノ粒子薄膜を作用極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
【図10】銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子薄膜を作用極とした場合の、電気化学水晶振動子マイクロバランス法による測定結果である。上図は電解液として0.1M硝酸カリウム水溶液を利用した場合であり、下図は0.1M硝酸セシウム水溶液を利用した場合である。
【図11】ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ薄膜を作用極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
【図12】図11のサイクリックボルタモグラムから算出した注入電荷量を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、プルシアンブルー型金属錯体をイオン吸着材料として利用し、その形態としては、導電体に吸着させた状態、あるいは溶媒に分散させた状態で使用する。その利用方法の好ましい実施態様として、以下の2つが挙げられる。
実施態様(1):プルシアンブルー型金属錯体を導電体に吸着させた複合材料を陽イオン溶液Aに接触させ、所望の陽イオンを吸着させた後に別の陽イオン溶液Bに浸漬させ、陽イオンの処理をする際に、溶液Aもしくは溶液Bとの接触時の両方もしくはいずれかの際に複合材料の電位を制御する方法。複合材料の電位の制御としては例えば、電気化学的な酸化・還元を行う電気化学処理が挙げられる。
実施態様(2):陽イオン除去を行う陽イオン溶液Aに、プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を添加したのちに得られた沈殿物を除去し、陽イオンの処理をする方法。
これらの実施態様に係る発明は同一又は対応する技術的特徴を有し上記本発明として一群の発明を構成する。以下、上記第一実施態様及び第二実施態様についてそれぞれ順に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様により限定して解釈されるものではない。
【0015】
金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属である。金属原子MAとしては鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、銅、マンガン、クロム、もしくは亜鉛が好ましく、鉄、コバルト、銅、亜鉛、もしくはニッケルがより好ましい。金属原子MAとして二種類以上を含む場合には、鉄と銅の組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、ニッケルとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄と銅との組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。また、MAが二種以上の金属原子の場合、それらは構造中で均一に混合していてもよく、また、プルシアンブルー型金属錯体が粒子状である場合、の中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。
【0016】
プルシアンブルー型金属錯体を構成する金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。中でも金属原子MBとしては鉄、クロム、もしくはコバルトが好ましく、鉄が特に好ましい。金属原子MBとして二種類以上を含む場合には、鉄とクロムとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、クロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。また、プルシアンブルー型金属錯体は微細な粒子状であってもよい。プルシアンブルー型金属錯体が粒子状であり、また、MBが二種以上の金属原子の場合、それらは粒子中で均一に混合していてもよく、また粒子の中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。また、複数の異なる金属を含有する粒子、あるいは組成の異なる粒子を混合して用いてもよい。
【0017】
また、溶媒への分散性の向上や、吸着能の改善などを目的として、他の化合物を添加してもよい。例えば有機溶媒、アルコール、水への分散性を向上させるために特開2006−256954号公報、国際公開第WO2007/020945号パンフレット、国際公開第WO2008/081923号パンフレット、国際出願第PCT/JP2007/075265号明細書に記載のアミノ基を有する材料を添加することが挙げられる。また、特に水への分散性を向上させることを目的とする場合には国際公開第WO2008/081923号パンフレットに挙げられるヘキサシアノ金属錯体イオンを添加してもよい。さらには、Jose M.Domingues-Veraら,「インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem.)」,Vol.42,2003年,p6983に挙げられるフェリチンの添加や、特開平1−219723号公報に挙げられる水溶性高分子などを添加してもよい。
【0018】
<実施態様1>
本実施態様1に使用する複合材料の構造体10の模式図を図1に示す。図1中1はプルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜であり、2は導電体である。本構造体はアルカリイオンを除去する溶液Aと、該イオンを脱離回収するための溶液Bに逐次浸漬し、溶液B側で電気化学処理を行えるよう、通電可能である。ただし、構造体10の形状は限定されず、例えばプルシアンブルー型金属錯体及び導電体の双方が薄膜である構造や、メッシュ状の導電体状にプルシアンブルー型金属錯体を付着させた形状などが挙げられる。
【0019】
構造体10を構成する導電体2の材料としては、電気化学処理を行うための通電処理が可能であれば制限はなく、例えば金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ステンレスなどの金属や合金、酸化チタンスズ(ITO)や酸化亜鉛などの酸化物導電体、PEDOT−PSSなどの高分子導電体などが挙げられる。なお本発明において導電体とは、当該部材において全体が導電性をもつものはもとより、プルシアンブルー型金属錯体に対して所望の導通が得られる構造であれば絶縁性のものや半導体が含まれていてもよい。例えば、絶縁性の基材を所定の導電性材料で被覆しものや、壁面や樹脂膜などに所定の導電性材料を塗布したようなものも含まれる。また、薄膜1が十分な導電性を持つ場合には、導電体2は省略してもよい。
【0020】
構造体10を構成する薄膜1は、溶液A,溶液Bへの浸漬、および電気化学処理において導電体からの脱落、剥離等が起こらないように密着しており、電気化学処理が可能なよう、導電体2との間の通電が確保されていることが好ましく、形状に制限はない。ただし、速やかな電気化学処理がなされるためには薄膜状に導電体上に設置されていることが好ましく、その膜厚は、一定である必要はないが、その主要部が100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1は導電体2の全表面を覆っている必要はなく、導電体が溶液Aおよび溶液Bに直接接触する構造であってもよい。導電体が薄膜状で無い場合、例えばメッシュ状の導電体を用いる場合、その表面にプルシアンブルー型金属錯体を付着させることが好ましい。
【0021】
薄膜1は、本発明の効果を奏する範囲でプルシアンブルー型金属錯体以外のものを含んでいてもよく、これと他の材料との混合体でもよい。例えば、導電性の向上のために導電体と混合させてもよい。このような場合、プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1と導電体2間の導電性が十分にあり、問題なく電気化学処理が実施できれば、必ずしも薄膜状である必要はない。また、プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1と導電体2との間に別の層ないし部材等を介在していてもよい。この場合、例えば導電体の例として、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素系導電材料、ポリアニリンなどの導電性高分子材料などが利用できる。また、膜の保持性を向上するためにバインダを添加することも可能である。バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene, PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸などが利用できる。
【0022】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体状に設置する方法に制限はないが、電解析出製膜、溶媒に分散するナノ粒子を利用した塗布、印刷、電着等による製膜が挙げられる。電解析出膜を利用する場合には、特開昭和57−195182に記載の方法や、特開2009−46748の記載の方法が利用できる。ナノ粒子を利用した塗布、印刷、電着による製膜の場合、特開2006−256954、WO2008/081923、に記載の方法などが利用できる。電解析出膜を利用する方法は、導電体として、メッシュ電極などの表面積の大きい導電体を利用し、その表面に析出させることで電解液との接触面積を増やすことが可能になることが。また、溶媒に分散するナノ粒子を利用する方法は、同様に表面積の大きい導電体上に電着により接着することで表面積を増やす方法や、後述の様に導電体やバインダとの混合複合体を作製することが可能となることが望ましい。
【0023】
また、本実施態様の複合材料においては、プルシアンブルー型金属錯体の水溶液中で安定であることが望ましい。水に分散する特性を持つナノ粒子を利用し、薄膜を設置する場合には、水中での安定性を向上させる方法を製膜後に行ってもよい。
製膜した後に水中安定化する方法は特に限定されないが、例えば、プルシアンブルー型金属錯体からなるナノ粒子を基材に配設して構造体をなすに当たり、下記a〜dのいずれかの工程により安定化された構造体とすることが挙げられる。
(a:前記基材の前記ナノ粒子を配設する面が仕事関数4.5eV以上の原子MSで構成されたものとする工程。)
(b:前記ナノ粒子に電気化学的処理を施す工程。)
(c:前記ナノ粒子を金属もしくは金属錯体のイオンを含む剤で処理する工程。)
(d:前記ナノ粒子を加熱する工程。)
以下に、上記各手段(a)〜(d)のそれぞれについて詳述する。なお、これらの手段については、さらに国際出願第PCT/JP2007/075265号明細書を参照することができる。このとき利用することができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液の濃度は、特に限定されないが、製膜における塗布性を考慮して0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0024】
本実施態様に係る陽イオンの処理方法によって交換・分離できる陽イオンは溶媒に溶解していることと、プルシアンブルー型金属錯体がそれを吸着することができればよい。具体的には、セシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、水素イオンなどが好ましいが、特にセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン及びリチウムイオンが好ましい。溶液Aの溶媒に制限はないが、上記陽イオンが溶解することが必要である。また、他の陽イオン、陰イオンが併せて溶解していてもよい。ただし、プルシアンブルー型金属錯体はイオンの種類によって吸着能が異なるため、目的のイオンと比較してプルシアンブルー型金属錯体の吸着能が高いイオンが共存している場合は、吸着の選択性が損なわれないようにすることが好ましい。例えば放射性廃棄物からセシウムイオンを分離する場合には、硝酸に起因する水素イオンと硝酸イオンが共存しているが、セシウムイオンの吸着能は高いため好適である。また、陽イオンの種類によって吸着・脱離する電位が異なることを利用すれば、複数の複数の陽イオンが溶解している液からも、特定のイオンを抽出することが可能である。また、必要に応じてpHの調整を行ってもよい。例えば、プルシアンブルーはアルカリ性溶液中で溶解する場合があるため、分離・交換する陽イオンが溶解する溶液がアルカリ性である場合にはpH調整剤を添加し、酸性にすることなどや、逆に強酸性であることが問題になる場合には、溶液濃度を下げることによるpH調整なども考えられる。
【0025】
アルカリイオンを脱離させる溶液Bは、吸着させた陽イオンを脱離させるために電気化学処理を利用する場合については、プルシアンブルー型金属錯体を電気化学的に還元し、内部に吸着した陽イオンを溶液中に放出することが好ましく、その含有物は問わない。その場合、陽イオンと陰イオンの対が溶解した電解液を利用することが好ましい。陽イオン、陰イオンの種類は問わないが、陽イオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、アンモニウムイオンなどが利用できる。陰イオンとしては、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオンなどが利用できる。ただし、水和イオン半径が小さなイオンを利用する場合は、還元時にプルシアンブルー型金属錯体からの陽イオンの放出と同時に陰イオンの吸着が進行する場合があり、放出効率が落ちる場合があるのでそれに対応することが好ましい。溶液Bに利用する溶媒は、プルシアンブルー型金属錯体が導電体から剥離、脱落等を起こさず、上記陽イオン及び陰イオンが十分に溶解すればよく、例えば水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、炭酸プロピレンやトルエンなどの有機溶媒などが利用でき、これらの混合物も利用できる。
【0026】
電気化学処理に利用する対極に制限はないが、白金電極、金電極などが利用できる。また、必要に応じて標準電極を設置することも可能であり、その場合は飽和カロメル電極、銀/塩化銀電極などが利用できる。
また、溶液BにおいてはpHの調整などによって脱離を制御させてもよい。
【0027】
実際の利用態様は、溶液Aへの浸漬及び溶液Bへの浸漬の両方もしくはいずれかにおいて電気化学処理を行えばよい。その逐次的な浸漬はバッチ式でもよく、自動化されていてもよい。自動化の一例を以下に挙げる。図2は本実施態様の方法により陽イオンの処理を実現する具体的装置の一例である。図1に示した本発明によるプルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜を有する複合材料としての構造体を10で示した。2、3はそれぞれ溶液A,溶液B、4、5,6,はそれぞれ電気化学処理に利用する対極、電源、配線である。この場合、ベルトコンベア状回転体7に構造体10を設置し、ロール8を回転させて逐次的に溶液A及び溶液Bに浸漬させることが可能である。また、溶液Bにおいて、電気化学処理を行う回路と接合させることで迅速な電気化学処理が可能となり、自動的に溶液Aから所望の陽イオンを分離、回収することが可能である。図2では、溶液A,溶液Bはそれぞれ水槽に充填されているが、チューブ等を通すインライン式やなどでもよい。
【0028】
また、本発明の陽イオンの回収方法においては、カラム状にプルシアンブルー型金属錯体を充填した複合材料を準備し、そこに、溶液A、溶液Bを順に貫流させる方式でもよい。すなわち、複合材料を、イオンを吸着・回収する溶液に浸漬させる形態としなくてもよい。このとき、カラム状の複合材料は、必要な電気化学処理が可能である構造であることが好ましい。その一例を図3に示す。11はカラムであり、MaHCFはプルシアンブルー型金属錯体を意味する。12は電解液、13は作用電極(メタルメッシュ)、14は参照電極、15はMaHCF担持導電性粒体、16は対極を意味する。これに溶液Aを貫通させる際に、作用電極に特定の電位を印加することにより、分離・回収するイオンの種類を制御できる。分離回収の模式図を図4に示した。この場合、溶液AにはAa, Ab, Acのイオンが含まれているが、印可電圧の制御により、カラムに吸着するイオンを制御できるため、一つのカラムのみで、多様な分離が可能となる。また、この場合、カラムからのイオン脱離も印可電圧の制御で可能となるため、繰り返しの使用が容易である。
【0029】
本実施形態ないし後述する別の実施形態も同様に、前記プルシアンブルー型金属錯体に対し所定の官能基を有する有機化合物を共存させることができる。これにより、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子をトルエン、ドデカンなどの有機溶媒や、ブタノールなどのアルコール類に分散させることが可能となり、薄膜や、導電体との複合体などの構造形成が容易となる。例えば、前記錯体に配位性の化合物(以下配位子Lということがある。)を用いることが挙げられる。具体的にはピリジル基やアミノ基を有する有機化合物が挙げられ、中でもアミノ基を有する化合物が好ましく、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物がさらに好ましい。このような化合物は1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0030】
【化1】
一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数3以上のアルキル基を表し、アルキル基については、特に限定されるものではないが炭素原子数12〜18であることが好ましい。R1、R2がアルキル基であるとき炭素―炭素不飽和結合が導入されていてもよく、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限はとくにないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物の中でも、4−ジ−オクタデシルアミノピリジン、4−オクタデシルアミノピリジン等が好ましい。
【0031】
【化2】
一般式(2)中、R3は炭素原子数3以上のアルキル基を表し、特に限定されるものではないが炭素原子数18以下であることが好ましい。R3には、炭素−炭素不飽和結合が導入されていてもよく、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限は特にないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。一般式(2)で表される化合物の中でも、オレイルアミン、ステアリルアミン等が好ましい。
【0032】
【化3】
一般式(3)中、R4は炭素原子数6以上のアルキル基であり、炭素原子数3〜18であることが好ましい。R5はアルキル基であり、炭素原子数1〜60であることが好ましい。ただし、R4、R5には炭素―炭素不飽和結合が導入されていてもよい。R4、R5には、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限は特にないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。
なお、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物は、本発明の効果を妨げなければ置換基を有していてもよい。
【0033】
上記プルシアンブルー型金属錯体と共存させる所定の官能基を有する有機化合物の量は、吸着させる陽イオンの種類等、適宜設定すればよく特に限定されないが、例えばプルシアンブルー型金属錯体中の金属元素100質量部に対して1〜40質量部を用いることが好ましく、2〜15質量部を用いることがより好ましい。
【0034】
<実施態様2>
実施態様2として、プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を溶液Aに添加し、得られた沈殿物を除去する方法を説明する。プルシアンブルー型金属錯体は陽イオンを吸着する性質を持つため、溶液Aにプルシアンブルー型金属錯体を添加することで溶液A中の陽イオンをプルシアンブルー型金属錯体によって吸着できる。この場合、除去する陽イオンは、プルシアンブルー型金属錯体が選択的に吸着する陽イオンが好ましく、具体的にはセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどが好ましく、特にセシウムイオンが好ましい。そのほかプルシアンブルー型金属錯体の構成金属原子や微粒子の作製ないし分散液の調製等については、上記実施形態1と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0035】
また、事前にプルシアンブルー型金属錯体の微粒子を分散させた分散液Cを溶液Aと混合することにより、より迅速に溶液Aに含有される陽イオンを吸着、除去することができる。利用するプルシアンブルー型金属錯体を分散させた分散液Cにおいて、プルシアンブルー型金属錯体は溶液中に均一に分散していることが好ましく、その点から、十分に微細な粒子状であることが好ましい。その粒径は粒子が溶媒中に分散していれば問わないが、500nm以下が好ましく、100nm以下が特に好ましい。また、すべてのプルシアンブルー型金属錯体の微粒子がすべて分散している必要はなく、一部懸濁状や、沈殿であってもかまわない。このようなプルシアンブルー型金属錯体が分散した分散液Cを利用することで、溶液A中の陽イオンとプルシアンブルー型金属錯体がナノメートルスケールで接近する確率が向上するため、吸着速度が向上する。さらには、また、分散液中のプルシアンブルー型金属錯体が、陽イオンの種類によって、分散度が変化することを利用すれば、陽イオンの吸着により沈殿とすることができ、その沈殿を除去することにより、溶液A中の陽イオンを除去し、陽イオンを回収ないし交換することができる。
【0036】
このとき利用することができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液の濃度は特に限定されないが、所定の陽イオンとの接触による沈降性を考慮して、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。また、分散液中に別の成分を含んでいてもよい。液中の陽イオンと接触して沈降した沈殿物の除去回収方法は特に限定されないが、遠心分離法による液と沈殿物の分離などが可能である。
【0037】
さらに、沈殿物として得られた、陽イオンを含有するプルシアンブルー型金属錯体を焼結することにより、金属酸化物とすることができる。よって、この酸化物を陽イオンの固化物とすれば、陽イオンの拡散などを伴わない、安定な固化体として保存することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0039】
<調製例1>
(水分散性のプルシアンブルーナノ粒子の調製)
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色のプルシアンブルー(PB)沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥(粉末1’)した。このときの収量は11.0gであり、収率はFe4[Fe(CN)6]3・15H2Oとして97.4%であった。
作製したプルシアンブルー錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析した結果を図5に示す。これは標準試料データベースから検索されるプルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)6]3)のもの(図示せず)と一致した。また、FT−IR測定においても、2080cm−1付近にFe−CN伸縮振動に起因するピークが現れており(図示せず)、この固形物がプルシアンブルーであることを示した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、図6に示したように、このプルシアンブルーは10〜20nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0040】
上記プルシアンブルー(凝集体)0.40gを水8mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェロシアン化ナトリウム・10水和物を180または80mgを加え、攪拌したところ青色透明分散液へと変化した。このようにして水分散性のプルシアンブルーのナノ粒子を得た(分散液1)。その青色透明分散液に安定に分散しているプルシアンブルーのナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定した。図7に示したように、数平均粒度分布の結果より、プルシアンブルーのナノ粒子は水中に概ね21±6nmの範囲で分布していることが分かった。
【0041】
この青色透明分散液を乾燥させ、乾固させることにより、青色粉末状の水分散性プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子(粉末1)を得た。
【0042】
<調整例2>
(ブタノール分散性のプルシアンブルーナノ粒子の調製)
調製例1において得られた、プルシアンブルーの凝集体0.6g (0.53mmol)に、フェロシアン化ナトリウム無水和物0.09gを水に溶解させた溶液15mlに添加した。さらにブタノール15ml及びプロピルアミン61.28μlを加え、3日間攪拌後、6000rpm,10分間遠心分離を行い、上澄みを除去した。さらにジエチルエーテルを利用し、遠心分離(10000prm,10分)3回の洗浄処理を行った後に、30分間室温乾燥を行い、凝集物を得た。得られた凝集物とブタノール15mlを混合、1日撹拌後に遠心分離により沈殿物を除去することにより、ブタノール分散プルシアンブルーナノ粒子分散液を得た。
【0043】
<調製例3>
(銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液の調製)
銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の水分散液を以下の工程で作製した。塩化第二銅二水和物1.36gを水15mLに溶解した溶液と、フェロシアン化ナトリウム・10水和物1.94gを水15mLに溶解した溶液と、一気に混合し、手動で容器ごと2分間震盪した。析出した赤色の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体の沈殿物を遠心分離(4000rpm5分)で取り出し、これを水で3回洗浄した。得られた沈殿物にフェロシアン化ナトリウム・10水和物0.58gを水20mLを溶解した溶液を加えた。この懸濁液を一週間攪拌したところ、赤色分散液へと変化した。さらに、0.025g/mLまで希釈し、1日撹拌後、遠心分離(5000rpm、10分)を行い、沈殿物を除去した。このようにして水分散性の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定したところ、数平均粒径は43nmであった。
【0044】
<調製例4>
(ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液の調製)
ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の水分散液を以下の工程で作製した。硝酸ニッケル六水和物2.61gを水15mLに溶解した溶液と、フェリシアン化カリウム・10水和物1.98gを水15mLに溶解した溶液と、一気に混合し、手動で容器を2分間震盪した。析出した黄色のニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体の沈殿物を遠心分離(4000rpm5分)で取り出し、これを水で3回洗浄した。得られた沈殿物にフェロシアン化カリウム・3水和物0.33gを水20mLを溶解した溶液を加えた。この懸濁液を一週間攪拌したところ、黄色分散液へと変化した。さらに、0.025g/mLまで希釈し、1日撹拌後、遠心分離(5000rpm、10分)を行い、沈殿物を除去した。このようにして水分散性の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定したところ、数平均粒径は43nmであった。
【0045】
<作製例1>
(水分散性プルシアンブルーナノ粒子のスピンコート製膜)
調製例1で調製したプルシアンブルーナノ粒子分散液(分散液1、濃度0.1g/ml)を用いて、ITO被膜ガラス基板(縦2.5cm、横2.5cm、厚さ1.1mm)のITO膜上にスピンコート法によりナノ粒子薄膜(構造体前駆体)(薄膜i)を製膜した。具体的には、スピンコーターにITO基板を設置し、分散液1を0.2ml滴下し、2000rpmでの回転を10秒で行った。これを120分間、約25℃の大気中で静置して、媒体を乾燥除去し、プルシアンブルーナノ粒子からなる薄膜を有する複合部材構造体1を作製した。触針段差計((株)ケーエルエー・テンコール製、触針式段差計:α−STEP(商品名))を用いて膜厚を測定したところ、約200nmであった。
【0046】
<実施例1>
(水分散性プルシアンブルーナノ粒子分散液によるセシウムイオンの分離)
純水10mlに炭酸セシウム0.4gを溶解させ、塩酸を適量加え溶液Aとした。ここで、塩酸はpHの調整のために用いた。また、水分散性プルシアンブルーナノ粒子である粉末1、0.5gを水10mlに分散させ、沈殿のない青色透明分散液を得た。この分散液を分散液Cとした。この溶液Aと分散液Cを混合したところ、青色の沈殿が得られ、液体は無色透明となった。得られた沈殿(沈殿1)の組成を蛍光X線分光法によって、粉末1と比較したところ、粉末1は鉄87.9%セシウム0%であり、沈殿1は最もセシウムの値が高い場合で、鉄71.3%、セシウム23.6%であった。これより、水分散性プルシアンブルー型金属錯体の微粒子にセシウムイオンに吸着したことがわかった。
また、調製例1で得たプルシアンブルー粉末1’を溶液Aに添加し、沈殿として得たものを同様に解析したところ、鉄73.8%、セシウム18.3%であり、同様にセシウムイオンの吸着が確認されたが、水分散性プルシアンブルーの粉末(粉末1)を利用した場合の方が多量のセシウムイオンを吸着する場合があることがわかった。
【0047】
<実施例2>
(電気化学処理によるプルシアンブルー型金属錯体薄膜内アルカリイオン除去)
作製例1で得たプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の薄膜を設けた複合部材構造体をヘキサフルオロリン酸ナトリウムの炭酸プロピレン溶液(溶液A)にまず浸漬した。その後、炭酸プロピレンで洗浄後、ヘキサフルオロリン酸カリウム溶液(溶液B)内で電気化学処理を行った。参照電極は飽和カロメロ電極、対極は白金を用いた。ポテンシャルを−0.4Vを20秒間、続いて+0.8Vを20秒間印加した後に、炭酸プロピレンで洗浄した。
【0048】
電気化学処理の前後において、薄膜が含有するアルカリイオンを分析するため、X線光電子分光法によりアルカリイオンに対応する光電子エネルギーのスペクトルを得た。図8に示したとおり、ナトリウムの存在を示す65eV付近のピークは電気化学処理前のみに現れ、カリウムの存在を示す294eV付近のピークは電気化学処理後にのみ現れる。これより、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子内に吸着したアルカリイオンは、非常に簡便な電気化学処理によって脱離し、回収・交換できることがわかる。
【0049】
<実施例3>
(電気化学処理によるプルシアンブルーナノ粒子内セシウムイオン吸着・脱離)
調製例2で得たブタノール分散型プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液を利用し、作製例1と同様の処理によりナノ粒子の薄膜を設けた複合部材構造体を作用極とし電気化学処理により電解液中のセシウムイオンの吸着、脱離が観測された。具体的には、0.1M硝酸セシウム水溶液を電解液とし、対極白金、標準極飽和カロメロ電極、挿印速度10mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、図9のサイクリックボルタモグラムが得られた。これは、セシウムイオンが電気化学的にプルシアンブルーナノ粒子に吸着・脱離していることを表している。
【0050】
<実施例4>
(電気化学水晶振動子マイクロバランス法によるプルシアンブルーナノ粒子内セシウムイオン吸着・脱離の観測)
電気化学的なイオンの吸着・脱離は電気化学反応と同時に質量を測定する電気化学水晶振動子マイクロバランス法によりより明確に測定できる。
調製例3で得た銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液を、スピンコート法によりプラズマ処理を施した金電極上に滴下し作製した電極を用い、測定を行ったところ、イオンの吸着・脱離による質量変化が観測された。具体的には、100℃3時間の加熱後に、セイコーイージーアンドジー社製QCM922により、測定した。対極は白金、標準極は飽和カロメロ電極、電解液として0.1Mの硝酸セシウム水溶液を利用した。得られた結果を図10に示す。上図は、電位を0.0Vから+1.5Vまでを挿引した際のサイクリックボルタモグラムであり、硝酸セシウム利用時、硝酸カリウム利用時共に、ITO上に形成した水分散型プルシアンブルーナノ粒子薄膜と同様の結果が得られた。まだ、その際の質量変化を下図に示した。質量変化に関しては、硝酸セシウム利用時の方が大きな質量変化を示している。これは、吸着、脱離するイオンが、電解液内に存在するアルカリイオンであるため、カリウムイオン、セシウムイオンの原子量をそのまま反映しているためである。これより、銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体は、電気化学的に繰り返しイオンを吸着・脱離できることが明らかである。
また、水分散型プルシアンブルーナノ粒子を利用した実験でも、硝酸セシウム水溶液中での電気化学反応に伴う質量変化が観測された。
【0051】
<実施例5>
(混合溶液からの特定のイオン抽出)
複数のイオンが混在する溶液から、特定の陽イオンを抽出する場合には、電気化学的な電位操作が有効である。実施例4で使用したものと同じ銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を含む電極を用い、硝酸セシウム0.1M水溶液、硝酸カリウム0.1M水溶液、及び硝酸ナトリウム0.1M水溶液を混合させた溶媒に浸漬し、電気化学処理をした後に、EDX法により、電極に含まれるアルカリイオンの比率を評価した。対SCEで1.2Vを30秒、+0.8Vを60秒印可した場合、電極に含まれるセシウム、カリウム、ナトリウムの含有率は、鉄を100%とした際に、それぞれ46%、3%、0%であった。これより、この材料はセシウムイオンを特定的に吸着することがわかる。この現象は、セシウムイオンがより高い電位で銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体に吸着するために起こる。
【0052】
<実施例6>
(ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を利用した陽イオンの分離)
調整例4で作成したニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を含む電極を、実施例4と同様の手法で作成し、0.1M硝酸セシウム水溶液、0.1M硝酸カリウム水溶液、0.1M硝酸ナトリウム水溶液、0.1M硝酸リチウム水溶液にそれぞれ浸し、対極を白金、参照極を飽和カロメロ電極としてサイクリックボルタンメトリー法により、アルカリイオンの吸着を確認した。その結果を図11に示す。アルカリイオンの吸着を示す電流ピークは、陽イオンの種類により大きく異なることがわかる。このサイクリックボルタモグラムを積分することにより得られる、電圧を正の方向から挿引した場合の注入電荷量を図12に示した。図12中の凡例はそれぞれ電解液を変更したものであり、以下のものである。
CsNO3_H2O:0.1M CsNO3 水溶液
KNO3_H2O:0.1M KNO3 水溶液
NaNO3_H2O:0.1M NaNO3 水溶液
KTFSI_PC :0.1M KTFSI PC溶液
KTFSI_H2O:0.1M KTFSI 水溶液
LiNO3_H2O:0.1M LiNO3 水溶液
ここで、NO3は硝酸(例えば、CsNO3は硝酸セシウム)、KTFSIはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム、PCは炭酸プロピレンを意味する。
これより、電圧を正から挿引した場合に、リチウムイオンのみが特異的にその吸着により低い電位の設定が必要であることがわかる。これは、電気的にリチウムイオン以外のイオンを吸着することができることを示している。よって、この方法により、リチウムイオンのみを選択的に分離することができる。この場合、本電極を繰り返し利用するためには溶液Bにおける吸着イオンの脱離が必要であるが、リチウムイオンについては、溶液Aの中に選択的に残留することになるため、必ずしも溶液Bでの処理が必要となるわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、簡便に溶液中の陽イオンを除去し、あるいは簡便な電気化学処理により材料を再利用することが可能である。また、構造体を焼結することにより、安定な固化体として回収した陽イオンを保管することが可能となる。本発明の上記の特徴を生かすことで、現在高分子のイオン交換樹脂やゼオライトを利用したもの又はその方法に代え、純水製造、放射性廃棄物からの陽イオン除去などへのより効果的な利用が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プルシアンブルー型金属錯体のもつ陽イオン吸着性を利用した陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置、及び陽イオン処理用分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
液体に含まれる各種イオンを除去、あるいは別のイオンと交換する技術は、多様な用途で利用されている。たとえば、高分子材料を利用したイオン交換材料は水中のイオン交換あるいは吸着を利用し、純水やイオン交換水の作製に利用されている。軟水器と呼ばれる装置は、水中に含まれるカルシウムイオンなどをナトリウムイオンに交換する。また、工業的には電着塗装排水の水洗水の処理及びリサイクルや、アルカリ洗剤の水洗水の処理及びリサイクルなどにも利用されている。
【0003】
イオン交換材料の利用が研究されている用途を始め、原子力発電の結果として排出される放射性廃液から特定の放射性元素を分離、除去することが挙げられる。例えば、セシウムやストロンチウム、アメリシウムなどに含まれる放射性元素の分離が挙げられる。特に、セシウムについては熱源であり、分離することなしに放射性廃液を処理、固化した場合には、発熱が収束するまで地中埋設処理ができないなどの問題がある。
【0004】
このような放射性元素の分離除去の用途に対し、様々なイオン交換材料が検討されてきた。例えば、スルホ基を有する高分子材料や、ゼオライトなどの無機材料が挙げられる。特に利用されているのはイオン交換樹脂と呼ばれる物で、多くはスルホ基などを伴う高分子からなる樹脂であり、カラムなどに充填し、そこに液体を通すことによってイオンの吸着、交換を実現する。
【0005】
特に放射性廃棄物からのセシウムの除去についてみると、ゼオライトやクラウンエーテルの利用検討が進んでいるが、まだ実用上十分な性能を有するものを提供するに至っていない。同様に検討がなされてきた物として、金属錯体が挙げられる。例えば金属錯体であるプルシアンブルーは、既に体内のセシウム除去剤として市販されているものに適用されている。この性質を利用した陽イオンの吸着材料として、特許文献1は、プルシアンブルーの鉄原子の一部を銅に置換して得られる銅プルシアンブルー類似体(Cu−PBA)を官能基をもたない多孔性樹脂孔内に担持したものを開示する。これにより、放射性廃液等からのセシウム除去への利用において、再生処理を効率化することができるとされる。特許文献2は、ゼオライト等の多孔性無機物担体の細孔内にりんモリブデン酸アンモニウムを担持したセシウムの分離・回収材を開示する。これによりハンドリング性及び吸着性能に優れ、微量のセシウムを含む海水、地熱水あるいは放射性廃液のような被処理水からのセシウムの選択分離・回収が可能になるとされる。
【0006】
また、別のアルカリイオンとして、リチウムイオンの有用性も注目されている。リチウムイオンは二次電池に利用されるレアメタルである。その大半は塩湖から汲み上げた濃縮かん水などから抽出され利用されている。一方、海水には濃度は低いものの、全世界で考えれば総計2300億トン程度のリチウムイオンが含有されていると推定されており、海水からのリチウム回収が安価に可能になれば、より安価な二次電池の供給に繋がると期待されている。
現在の主要なリチウムの製造法であるかん水からの抽出においては、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどを利用して不純物を除去している。このような手法では、多くの薬剤等が必要になり、また、廃棄物の処理なども課題となる。一方、海水からのリチウムイオン回収には、その1万倍以上の濃度で存在するナトリウムとの分離が重要な課題である。リチウムイオンの回収には、吸着剤を利用した手法が有力な手段として考えられている。例えば特許文献3では、マンガン化合物をリチウム吸着剤として利用する手法が示されている。この場合は、pHの制御により、本吸着剤へのリチウムイオン吸着及び脱離を制御し、リチウムイオンの回収を行う。
また、電気自動車の普及に伴い、リチウムイオン電池の生産量は爆発的に増大し、廃電池からのリチウムイオンの回収も重要な課題として考えられている。特許文献4は、廃電池から、分解工程、pH調整工程、水溶性炭酸塩の添加工程を経て炭酸リチウムとしてリチウムイオンを分離・回収する工程が提示されている。
【特許文献1】特開平9−173832号公報
【特許文献2】特開2000−84418号公報
【特許文献3】特開昭61−278347号公報
【特許文献4】特開2010−40458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このようなイオン交換・吸着材料に要求される性能として、吸着後の処理の問題が挙げられる。経済性や環境負荷を考えると、再利用できることが好ましい。あるいは、再利用できない場合には適切に処理し、廃棄できることが好ましい。例えば、放射性廃棄物からのセシウムイオン分離に関し、特許文献2においては、そのゼオライト等を用いた吸着材料を再利用することは予定されておらず、これに関する具体的な提案はない。また、このゼオライト等を用いたものや、特許文献1に開示された多孔性樹脂を用いたものの場合、その再生処理には、樹脂等を充填したカラムに再生用の薬液を別途貫流させるなどの手続きが必要であり、時間を要する場合がある。装置の構造によっては利用するその場所での再生が不可能であり、そうすると結局樹脂材料ごと交換しなければならない。このような不都合は、イオン交換としての利用だけではなく、目的物質の回収についても同様に生じる。また、多くの場合カラムの用途は特定されており、一つのカラムで異なる役割を担うことは難しい。
さらに、放射性廃液からセシウムイオンを分離する処理に利用することを考慮すると、そのような物質の処理回収における適正が求められる。吸着したセシウムを分離回収せず、そのまま吸着し安定に固化したものを地中に埋設してしまうことも挙げられるが、ゼオライトの場合はその内部に吸着したセシウムは安定化されていないとの指摘もあり、長期間の保管などの場合に問題となる可能性がある。
【0008】
また、現在のリチウムイオンの精製には、前述の通り様々な薬剤が利用されており、必然的に廃棄物の量も増加する。海水からのリチウムイオン回収に関しても、pH調整などに薬剤が利用されている。このように、リチウムイオン吸着に関しては、薬剤使用量の低減がなされることが重要である。
【0009】
以上の点に鑑み、
本発明の第一の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる陽イオンの処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置の提供に関する。
本発明の第二の目的は、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御することを特徴とする陽イオンの処理方法。
(2)前記所定の陽イオンの吸着を、該イオンを含有する溶液に前記複合材料を浸漬することにより行うことを特徴とする(1)に記載の陽イオンの処理方法。
(3)前記所定の陽イオンの脱離を、該イオンを吸着した複合材料を回収液に浸漬して、その浸漬している間に該複合材料の電位を制御して行うことを特徴とする(1)又は(2)に記載の陽イオンの処理方法。
(4)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(5)(a)前記金属原子MAが銅(Cu)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、(b)前記金属原子MAが鉄(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、あるいは(c)前記金属原子MAがニッケル(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)であることを特徴とした(1)〜(4)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(6)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子下記金属原子MCの陽イオンおよび/またはMDを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを結合させたものを用いることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(7)前記導体上のプルシアンブルー型金属錯体に、アミノ基を有する有機化合物を共存させることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(8)前記所定の陽イオンがセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いることを特徴とする、前記プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料。
(10)(9)に記載の複合材料と、該複合材料を前記所定の陽イオンを含有する液に浸漬する搬送手段と、その複合材料を前記所定の陽イオンを回収するための回収液に浸漬する搬送手段と、該回収液中で前記複合材料の電位を制御して行う電位制御手段とを有する陽イオンの処理装置。
(11)プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と所定の陽イオンとを接触させて、該陽イオンの前記プルシアンブルー型金属錯体への吸着により、前記微粒子の分散性を変化させることを特徴とする陽イオンの処理方法。
(12)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と前記所定の陽イオンとの接触を、前記所定の陽イオンを含有する溶液と前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散液とを混合することにより行うことを特徴とする(11)に記載の陽イオンの処理方法。
(13)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散性を変化させ、該微粒子を液中で沈降させることを特徴とする(11)又は(12)に記載の陽イオンの処理方法。
(14)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする(11)〜(13)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(15)前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MDを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MCの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする(11)〜(14)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
(16)前記プルシアンブルー型金属錯体にアミノ基を有する有機化合物を共存させて、前記陽イオンと接触させることを特徴とする(11)〜(15)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(17)前記所定の陽イオンがセシウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする(11)〜(16)のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
(18)(11)〜(17)のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いられる、前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を含有する陽イオン処理用分散液。
(19)前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の濃度を、前記目的回収イオンとの接触により前記微粒子が液中で沈降する濃度としたことを特徴とする(18)に記載の陽イオン処理用分散液。
【0011】
本発明において「プルシアンブルー型金属錯体」とは下記金属原子MA及び金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなる金属錯体と定義し、これをプルシアンブルー錯体類似体(PBA)ということがある。なお、プルシアンブルーと異なる結晶構造をとっていても、下記式(A)で表されるようにプルシアンブルーと同様の組成式で表され類似の結晶構造をもつ錯体を上記プルシアンブルー型金属錯体に含むものとする。
AxMA[MB(CN)6]y・zH2O ・・・ (A)
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0〜2の数である。yは1〜0.3の数である。zは0〜20の数である。MA,MBは金属原子である。
また、本発明において「陽イオンの処理」とは、具体的には、陽イオンの吸着及び/又は脱離、回収及び/又は交換を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の処理方法、これに用いられる複合材料、陽イオンの処理装置によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを簡便に脱離させることができる。
また、陽イオンの処理方法及び陽イオン処理用分散液によれば、陽イオン、特に所望のアルカリイオンを液体から吸着・除去し、その吸着した陽イオンを有する材料を簡便に取り出すことができる。
また、本発明を利用すると、必要により、一つの装置について、電気化学処理の印加電位を制御するなどにより、複数の機能を持たせることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい実施形態の一つであるプルシアンブルー型金属錯体の複合材料を模式的に示した断面図である。
【図2】図1に示した複合材料により陽イオンの処理を実現する装置の一例を模式化して示した側面図である。
【図3】本発明の別の好ましい実施形態であるプルシアンブルー型金属錯体を利用した陽イオン処理カラムを模式的に示した断面図である。
【図4】図3に示した実施形態の陽イオン処理カラムの使用例を示したフロー図である。
【図5】調製例1で得たプルシアンブルー錯体のX線回折チャートである。
【図6】調製例1で得たプルシアンブルーのナノ粒子の透過型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図7】調製例1で得た水分散性のプルシアンブルーナノ粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図8】プルシアンブルー錯体ナノ粒子薄膜の電気化学処理前後の光電子分光スペクトルであり、(a)はナトリウムの有無を示すNa−2S軌道に起因するスペクトル、(b)はカリウムの有無を示すK−2p3/2軌道に起因するスペクトルである。
【図9】ブタノール分散型プルシアンブルーナノ粒子薄膜を作用極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
【図10】銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子薄膜を作用極とした場合の、電気化学水晶振動子マイクロバランス法による測定結果である。上図は電解液として0.1M硝酸カリウム水溶液を利用した場合であり、下図は0.1M硝酸セシウム水溶液を利用した場合である。
【図11】ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ薄膜を作用極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
【図12】図11のサイクリックボルタモグラムから算出した注入電荷量を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、プルシアンブルー型金属錯体をイオン吸着材料として利用し、その形態としては、導電体に吸着させた状態、あるいは溶媒に分散させた状態で使用する。その利用方法の好ましい実施態様として、以下の2つが挙げられる。
実施態様(1):プルシアンブルー型金属錯体を導電体に吸着させた複合材料を陽イオン溶液Aに接触させ、所望の陽イオンを吸着させた後に別の陽イオン溶液Bに浸漬させ、陽イオンの処理をする際に、溶液Aもしくは溶液Bとの接触時の両方もしくはいずれかの際に複合材料の電位を制御する方法。複合材料の電位の制御としては例えば、電気化学的な酸化・還元を行う電気化学処理が挙げられる。
実施態様(2):陽イオン除去を行う陽イオン溶液Aに、プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を添加したのちに得られた沈殿物を除去し、陽イオンの処理をする方法。
これらの実施態様に係る発明は同一又は対応する技術的特徴を有し上記本発明として一群の発明を構成する。以下、上記第一実施態様及び第二実施態様についてそれぞれ順に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様により限定して解釈されるものではない。
【0015】
金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属である。金属原子MAとしては鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、銅、マンガン、クロム、もしくは亜鉛が好ましく、鉄、コバルト、銅、亜鉛、もしくはニッケルがより好ましい。金属原子MAとして二種類以上を含む場合には、鉄と銅の組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、ニッケルとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄と銅との組み合わせ、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。また、MAが二種以上の金属原子の場合、それらは構造中で均一に混合していてもよく、また、プルシアンブルー型金属錯体が粒子状である場合、の中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。
【0016】
プルシアンブルー型金属錯体を構成する金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。中でも金属原子MBとしては鉄、クロム、もしくはコバルトが好ましく、鉄が特に好ましい。金属原子MBとして二種類以上を含む場合には、鉄とクロムとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、クロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。また、プルシアンブルー型金属錯体は微細な粒子状であってもよい。プルシアンブルー型金属錯体が粒子状であり、また、MBが二種以上の金属原子の場合、それらは粒子中で均一に混合していてもよく、また粒子の中心にはある特定の金属が存在し、表面近傍に別の金属が存在するなどの偏りがあってもよい。また、複数の異なる金属を含有する粒子、あるいは組成の異なる粒子を混合して用いてもよい。
【0017】
また、溶媒への分散性の向上や、吸着能の改善などを目的として、他の化合物を添加してもよい。例えば有機溶媒、アルコール、水への分散性を向上させるために特開2006−256954号公報、国際公開第WO2007/020945号パンフレット、国際公開第WO2008/081923号パンフレット、国際出願第PCT/JP2007/075265号明細書に記載のアミノ基を有する材料を添加することが挙げられる。また、特に水への分散性を向上させることを目的とする場合には国際公開第WO2008/081923号パンフレットに挙げられるヘキサシアノ金属錯体イオンを添加してもよい。さらには、Jose M.Domingues-Veraら,「インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem.)」,Vol.42,2003年,p6983に挙げられるフェリチンの添加や、特開平1−219723号公報に挙げられる水溶性高分子などを添加してもよい。
【0018】
<実施態様1>
本実施態様1に使用する複合材料の構造体10の模式図を図1に示す。図1中1はプルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜であり、2は導電体である。本構造体はアルカリイオンを除去する溶液Aと、該イオンを脱離回収するための溶液Bに逐次浸漬し、溶液B側で電気化学処理を行えるよう、通電可能である。ただし、構造体10の形状は限定されず、例えばプルシアンブルー型金属錯体及び導電体の双方が薄膜である構造や、メッシュ状の導電体状にプルシアンブルー型金属錯体を付着させた形状などが挙げられる。
【0019】
構造体10を構成する導電体2の材料としては、電気化学処理を行うための通電処理が可能であれば制限はなく、例えば金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ステンレスなどの金属や合金、酸化チタンスズ(ITO)や酸化亜鉛などの酸化物導電体、PEDOT−PSSなどの高分子導電体などが挙げられる。なお本発明において導電体とは、当該部材において全体が導電性をもつものはもとより、プルシアンブルー型金属錯体に対して所望の導通が得られる構造であれば絶縁性のものや半導体が含まれていてもよい。例えば、絶縁性の基材を所定の導電性材料で被覆しものや、壁面や樹脂膜などに所定の導電性材料を塗布したようなものも含まれる。また、薄膜1が十分な導電性を持つ場合には、導電体2は省略してもよい。
【0020】
構造体10を構成する薄膜1は、溶液A,溶液Bへの浸漬、および電気化学処理において導電体からの脱落、剥離等が起こらないように密着しており、電気化学処理が可能なよう、導電体2との間の通電が確保されていることが好ましく、形状に制限はない。ただし、速やかな電気化学処理がなされるためには薄膜状に導電体上に設置されていることが好ましく、その膜厚は、一定である必要はないが、その主要部が100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1は導電体2の全表面を覆っている必要はなく、導電体が溶液Aおよび溶液Bに直接接触する構造であってもよい。導電体が薄膜状で無い場合、例えばメッシュ状の導電体を用いる場合、その表面にプルシアンブルー型金属錯体を付着させることが好ましい。
【0021】
薄膜1は、本発明の効果を奏する範囲でプルシアンブルー型金属錯体以外のものを含んでいてもよく、これと他の材料との混合体でもよい。例えば、導電性の向上のために導電体と混合させてもよい。このような場合、プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1と導電体2間の導電性が十分にあり、問題なく電気化学処理が実施できれば、必ずしも薄膜状である必要はない。また、プルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜1と導電体2との間に別の層ないし部材等を介在していてもよい。この場合、例えば導電体の例として、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素系導電材料、ポリアニリンなどの導電性高分子材料などが利用できる。また、膜の保持性を向上するためにバインダを添加することも可能である。バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene, PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸などが利用できる。
【0022】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体状に設置する方法に制限はないが、電解析出製膜、溶媒に分散するナノ粒子を利用した塗布、印刷、電着等による製膜が挙げられる。電解析出膜を利用する場合には、特開昭和57−195182に記載の方法や、特開2009−46748の記載の方法が利用できる。ナノ粒子を利用した塗布、印刷、電着による製膜の場合、特開2006−256954、WO2008/081923、に記載の方法などが利用できる。電解析出膜を利用する方法は、導電体として、メッシュ電極などの表面積の大きい導電体を利用し、その表面に析出させることで電解液との接触面積を増やすことが可能になることが。また、溶媒に分散するナノ粒子を利用する方法は、同様に表面積の大きい導電体上に電着により接着することで表面積を増やす方法や、後述の様に導電体やバインダとの混合複合体を作製することが可能となることが望ましい。
【0023】
また、本実施態様の複合材料においては、プルシアンブルー型金属錯体の水溶液中で安定であることが望ましい。水に分散する特性を持つナノ粒子を利用し、薄膜を設置する場合には、水中での安定性を向上させる方法を製膜後に行ってもよい。
製膜した後に水中安定化する方法は特に限定されないが、例えば、プルシアンブルー型金属錯体からなるナノ粒子を基材に配設して構造体をなすに当たり、下記a〜dのいずれかの工程により安定化された構造体とすることが挙げられる。
(a:前記基材の前記ナノ粒子を配設する面が仕事関数4.5eV以上の原子MSで構成されたものとする工程。)
(b:前記ナノ粒子に電気化学的処理を施す工程。)
(c:前記ナノ粒子を金属もしくは金属錯体のイオンを含む剤で処理する工程。)
(d:前記ナノ粒子を加熱する工程。)
以下に、上記各手段(a)〜(d)のそれぞれについて詳述する。なお、これらの手段については、さらに国際出願第PCT/JP2007/075265号明細書を参照することができる。このとき利用することができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液の濃度は、特に限定されないが、製膜における塗布性を考慮して0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0024】
本実施態様に係る陽イオンの処理方法によって交換・分離できる陽イオンは溶媒に溶解していることと、プルシアンブルー型金属錯体がそれを吸着することができればよい。具体的には、セシウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、水素イオンなどが好ましいが、特にセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン及びリチウムイオンが好ましい。溶液Aの溶媒に制限はないが、上記陽イオンが溶解することが必要である。また、他の陽イオン、陰イオンが併せて溶解していてもよい。ただし、プルシアンブルー型金属錯体はイオンの種類によって吸着能が異なるため、目的のイオンと比較してプルシアンブルー型金属錯体の吸着能が高いイオンが共存している場合は、吸着の選択性が損なわれないようにすることが好ましい。例えば放射性廃棄物からセシウムイオンを分離する場合には、硝酸に起因する水素イオンと硝酸イオンが共存しているが、セシウムイオンの吸着能は高いため好適である。また、陽イオンの種類によって吸着・脱離する電位が異なることを利用すれば、複数の複数の陽イオンが溶解している液からも、特定のイオンを抽出することが可能である。また、必要に応じてpHの調整を行ってもよい。例えば、プルシアンブルーはアルカリ性溶液中で溶解する場合があるため、分離・交換する陽イオンが溶解する溶液がアルカリ性である場合にはpH調整剤を添加し、酸性にすることなどや、逆に強酸性であることが問題になる場合には、溶液濃度を下げることによるpH調整なども考えられる。
【0025】
アルカリイオンを脱離させる溶液Bは、吸着させた陽イオンを脱離させるために電気化学処理を利用する場合については、プルシアンブルー型金属錯体を電気化学的に還元し、内部に吸着した陽イオンを溶液中に放出することが好ましく、その含有物は問わない。その場合、陽イオンと陰イオンの対が溶解した電解液を利用することが好ましい。陽イオン、陰イオンの種類は問わないが、陽イオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、アンモニウムイオンなどが利用できる。陰イオンとしては、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオンなどが利用できる。ただし、水和イオン半径が小さなイオンを利用する場合は、還元時にプルシアンブルー型金属錯体からの陽イオンの放出と同時に陰イオンの吸着が進行する場合があり、放出効率が落ちる場合があるのでそれに対応することが好ましい。溶液Bに利用する溶媒は、プルシアンブルー型金属錯体が導電体から剥離、脱落等を起こさず、上記陽イオン及び陰イオンが十分に溶解すればよく、例えば水、メタノール、エタノールなどのアルコール類、炭酸プロピレンやトルエンなどの有機溶媒などが利用でき、これらの混合物も利用できる。
【0026】
電気化学処理に利用する対極に制限はないが、白金電極、金電極などが利用できる。また、必要に応じて標準電極を設置することも可能であり、その場合は飽和カロメル電極、銀/塩化銀電極などが利用できる。
また、溶液BにおいてはpHの調整などによって脱離を制御させてもよい。
【0027】
実際の利用態様は、溶液Aへの浸漬及び溶液Bへの浸漬の両方もしくはいずれかにおいて電気化学処理を行えばよい。その逐次的な浸漬はバッチ式でもよく、自動化されていてもよい。自動化の一例を以下に挙げる。図2は本実施態様の方法により陽イオンの処理を実現する具体的装置の一例である。図1に示した本発明によるプルシアンブルー型金属錯体からなる薄膜を有する複合材料としての構造体を10で示した。2、3はそれぞれ溶液A,溶液B、4、5,6,はそれぞれ電気化学処理に利用する対極、電源、配線である。この場合、ベルトコンベア状回転体7に構造体10を設置し、ロール8を回転させて逐次的に溶液A及び溶液Bに浸漬させることが可能である。また、溶液Bにおいて、電気化学処理を行う回路と接合させることで迅速な電気化学処理が可能となり、自動的に溶液Aから所望の陽イオンを分離、回収することが可能である。図2では、溶液A,溶液Bはそれぞれ水槽に充填されているが、チューブ等を通すインライン式やなどでもよい。
【0028】
また、本発明の陽イオンの回収方法においては、カラム状にプルシアンブルー型金属錯体を充填した複合材料を準備し、そこに、溶液A、溶液Bを順に貫流させる方式でもよい。すなわち、複合材料を、イオンを吸着・回収する溶液に浸漬させる形態としなくてもよい。このとき、カラム状の複合材料は、必要な電気化学処理が可能である構造であることが好ましい。その一例を図3に示す。11はカラムであり、MaHCFはプルシアンブルー型金属錯体を意味する。12は電解液、13は作用電極(メタルメッシュ)、14は参照電極、15はMaHCF担持導電性粒体、16は対極を意味する。これに溶液Aを貫通させる際に、作用電極に特定の電位を印加することにより、分離・回収するイオンの種類を制御できる。分離回収の模式図を図4に示した。この場合、溶液AにはAa, Ab, Acのイオンが含まれているが、印可電圧の制御により、カラムに吸着するイオンを制御できるため、一つのカラムのみで、多様な分離が可能となる。また、この場合、カラムからのイオン脱離も印可電圧の制御で可能となるため、繰り返しの使用が容易である。
【0029】
本実施形態ないし後述する別の実施形態も同様に、前記プルシアンブルー型金属錯体に対し所定の官能基を有する有機化合物を共存させることができる。これにより、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子をトルエン、ドデカンなどの有機溶媒や、ブタノールなどのアルコール類に分散させることが可能となり、薄膜や、導電体との複合体などの構造形成が容易となる。例えば、前記錯体に配位性の化合物(以下配位子Lということがある。)を用いることが挙げられる。具体的にはピリジル基やアミノ基を有する有機化合物が挙げられ、中でもアミノ基を有する化合物が好ましく、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物がさらに好ましい。このような化合物は1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0030】
【化1】
一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数3以上のアルキル基を表し、アルキル基については、特に限定されるものではないが炭素原子数12〜18であることが好ましい。R1、R2がアルキル基であるとき炭素―炭素不飽和結合が導入されていてもよく、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限はとくにないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物の中でも、4−ジ−オクタデシルアミノピリジン、4−オクタデシルアミノピリジン等が好ましい。
【0031】
【化2】
一般式(2)中、R3は炭素原子数3以上のアルキル基を表し、特に限定されるものではないが炭素原子数18以下であることが好ましい。R3には、炭素−炭素不飽和結合が導入されていてもよく、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限は特にないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。一般式(2)で表される化合物の中でも、オレイルアミン、ステアリルアミン等が好ましい。
【0032】
【化3】
一般式(3)中、R4は炭素原子数6以上のアルキル基であり、炭素原子数3〜18であることが好ましい。R5はアルキル基であり、炭素原子数1〜60であることが好ましい。ただし、R4、R5には炭素―炭素不飽和結合が導入されていてもよい。R4、R5には、少なくとも1つの不飽和結合が含まれることが好ましく、上限は特にないが含まれる不飽和結合が2以下であることが好ましい。
なお、一般式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物は、本発明の効果を妨げなければ置換基を有していてもよい。
【0033】
上記プルシアンブルー型金属錯体と共存させる所定の官能基を有する有機化合物の量は、吸着させる陽イオンの種類等、適宜設定すればよく特に限定されないが、例えばプルシアンブルー型金属錯体中の金属元素100質量部に対して1〜40質量部を用いることが好ましく、2〜15質量部を用いることがより好ましい。
【0034】
<実施態様2>
実施態様2として、プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を溶液Aに添加し、得られた沈殿物を除去する方法を説明する。プルシアンブルー型金属錯体は陽イオンを吸着する性質を持つため、溶液Aにプルシアンブルー型金属錯体を添加することで溶液A中の陽イオンをプルシアンブルー型金属錯体によって吸着できる。この場合、除去する陽イオンは、プルシアンブルー型金属錯体が選択的に吸着する陽イオンが好ましく、具体的にはセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどが好ましく、特にセシウムイオンが好ましい。そのほかプルシアンブルー型金属錯体の構成金属原子や微粒子の作製ないし分散液の調製等については、上記実施形態1と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0035】
また、事前にプルシアンブルー型金属錯体の微粒子を分散させた分散液Cを溶液Aと混合することにより、より迅速に溶液Aに含有される陽イオンを吸着、除去することができる。利用するプルシアンブルー型金属錯体を分散させた分散液Cにおいて、プルシアンブルー型金属錯体は溶液中に均一に分散していることが好ましく、その点から、十分に微細な粒子状であることが好ましい。その粒径は粒子が溶媒中に分散していれば問わないが、500nm以下が好ましく、100nm以下が特に好ましい。また、すべてのプルシアンブルー型金属錯体の微粒子がすべて分散している必要はなく、一部懸濁状や、沈殿であってもかまわない。このようなプルシアンブルー型金属錯体が分散した分散液Cを利用することで、溶液A中の陽イオンとプルシアンブルー型金属錯体がナノメートルスケールで接近する確率が向上するため、吸着速度が向上する。さらには、また、分散液中のプルシアンブルー型金属錯体が、陽イオンの種類によって、分散度が変化することを利用すれば、陽イオンの吸着により沈殿とすることができ、その沈殿を除去することにより、溶液A中の陽イオンを除去し、陽イオンを回収ないし交換することができる。
【0036】
このとき利用することができるプルシアンブルー型金属錯体超微粒子分散液の濃度は特に限定されないが、所定の陽イオンとの接触による沈降性を考慮して、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。また、分散液中に別の成分を含んでいてもよい。液中の陽イオンと接触して沈降した沈殿物の除去回収方法は特に限定されないが、遠心分離法による液と沈殿物の分離などが可能である。
【0037】
さらに、沈殿物として得られた、陽イオンを含有するプルシアンブルー型金属錯体を焼結することにより、金属酸化物とすることができる。よって、この酸化物を陽イオンの固化物とすれば、陽イオンの拡散などを伴わない、安定な固化体として保存することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0039】
<調製例1>
(水分散性のプルシアンブルーナノ粒子の調製)
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色のプルシアンブルー(PB)沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥(粉末1’)した。このときの収量は11.0gであり、収率はFe4[Fe(CN)6]3・15H2Oとして97.4%であった。
作製したプルシアンブルー錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析した結果を図5に示す。これは標準試料データベースから検索されるプルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)6]3)のもの(図示せず)と一致した。また、FT−IR測定においても、2080cm−1付近にFe−CN伸縮振動に起因するピークが現れており(図示せず)、この固形物がプルシアンブルーであることを示した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、図6に示したように、このプルシアンブルーは10〜20nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0040】
上記プルシアンブルー(凝集体)0.40gを水8mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェロシアン化ナトリウム・10水和物を180または80mgを加え、攪拌したところ青色透明分散液へと変化した。このようにして水分散性のプルシアンブルーのナノ粒子を得た(分散液1)。その青色透明分散液に安定に分散しているプルシアンブルーのナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定した。図7に示したように、数平均粒度分布の結果より、プルシアンブルーのナノ粒子は水中に概ね21±6nmの範囲で分布していることが分かった。
【0041】
この青色透明分散液を乾燥させ、乾固させることにより、青色粉末状の水分散性プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子(粉末1)を得た。
【0042】
<調整例2>
(ブタノール分散性のプルシアンブルーナノ粒子の調製)
調製例1において得られた、プルシアンブルーの凝集体0.6g (0.53mmol)に、フェロシアン化ナトリウム無水和物0.09gを水に溶解させた溶液15mlに添加した。さらにブタノール15ml及びプロピルアミン61.28μlを加え、3日間攪拌後、6000rpm,10分間遠心分離を行い、上澄みを除去した。さらにジエチルエーテルを利用し、遠心分離(10000prm,10分)3回の洗浄処理を行った後に、30分間室温乾燥を行い、凝集物を得た。得られた凝集物とブタノール15mlを混合、1日撹拌後に遠心分離により沈殿物を除去することにより、ブタノール分散プルシアンブルーナノ粒子分散液を得た。
【0043】
<調製例3>
(銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液の調製)
銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の水分散液を以下の工程で作製した。塩化第二銅二水和物1.36gを水15mLに溶解した溶液と、フェロシアン化ナトリウム・10水和物1.94gを水15mLに溶解した溶液と、一気に混合し、手動で容器ごと2分間震盪した。析出した赤色の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体の沈殿物を遠心分離(4000rpm5分)で取り出し、これを水で3回洗浄した。得られた沈殿物にフェロシアン化ナトリウム・10水和物0.58gを水20mLを溶解した溶液を加えた。この懸濁液を一週間攪拌したところ、赤色分散液へと変化した。さらに、0.025g/mLまで希釈し、1日撹拌後、遠心分離(5000rpm、10分)を行い、沈殿物を除去した。このようにして水分散性の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定したところ、数平均粒径は43nmであった。
【0044】
<調製例4>
(ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液の調製)
ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の水分散液を以下の工程で作製した。硝酸ニッケル六水和物2.61gを水15mLに溶解した溶液と、フェリシアン化カリウム・10水和物1.98gを水15mLに溶解した溶液と、一気に混合し、手動で容器を2分間震盪した。析出した黄色のニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体の沈殿物を遠心分離(4000rpm5分)で取り出し、これを水で3回洗浄した。得られた沈殿物にフェロシアン化カリウム・3水和物0.33gを水20mLを溶解した溶液を加えた。この懸濁液を一週間攪拌したところ、黄色分散液へと変化した。さらに、0.025g/mLまで希釈し、1日撹拌後、遠心分離(5000rpm、10分)を行い、沈殿物を除去した。このようにして水分散性の銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体のナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子の粒径を動的光散乱法によって測定したところ、数平均粒径は43nmであった。
【0045】
<作製例1>
(水分散性プルシアンブルーナノ粒子のスピンコート製膜)
調製例1で調製したプルシアンブルーナノ粒子分散液(分散液1、濃度0.1g/ml)を用いて、ITO被膜ガラス基板(縦2.5cm、横2.5cm、厚さ1.1mm)のITO膜上にスピンコート法によりナノ粒子薄膜(構造体前駆体)(薄膜i)を製膜した。具体的には、スピンコーターにITO基板を設置し、分散液1を0.2ml滴下し、2000rpmでの回転を10秒で行った。これを120分間、約25℃の大気中で静置して、媒体を乾燥除去し、プルシアンブルーナノ粒子からなる薄膜を有する複合部材構造体1を作製した。触針段差計((株)ケーエルエー・テンコール製、触針式段差計:α−STEP(商品名))を用いて膜厚を測定したところ、約200nmであった。
【0046】
<実施例1>
(水分散性プルシアンブルーナノ粒子分散液によるセシウムイオンの分離)
純水10mlに炭酸セシウム0.4gを溶解させ、塩酸を適量加え溶液Aとした。ここで、塩酸はpHの調整のために用いた。また、水分散性プルシアンブルーナノ粒子である粉末1、0.5gを水10mlに分散させ、沈殿のない青色透明分散液を得た。この分散液を分散液Cとした。この溶液Aと分散液Cを混合したところ、青色の沈殿が得られ、液体は無色透明となった。得られた沈殿(沈殿1)の組成を蛍光X線分光法によって、粉末1と比較したところ、粉末1は鉄87.9%セシウム0%であり、沈殿1は最もセシウムの値が高い場合で、鉄71.3%、セシウム23.6%であった。これより、水分散性プルシアンブルー型金属錯体の微粒子にセシウムイオンに吸着したことがわかった。
また、調製例1で得たプルシアンブルー粉末1’を溶液Aに添加し、沈殿として得たものを同様に解析したところ、鉄73.8%、セシウム18.3%であり、同様にセシウムイオンの吸着が確認されたが、水分散性プルシアンブルーの粉末(粉末1)を利用した場合の方が多量のセシウムイオンを吸着する場合があることがわかった。
【0047】
<実施例2>
(電気化学処理によるプルシアンブルー型金属錯体薄膜内アルカリイオン除去)
作製例1で得たプルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子の薄膜を設けた複合部材構造体をヘキサフルオロリン酸ナトリウムの炭酸プロピレン溶液(溶液A)にまず浸漬した。その後、炭酸プロピレンで洗浄後、ヘキサフルオロリン酸カリウム溶液(溶液B)内で電気化学処理を行った。参照電極は飽和カロメロ電極、対極は白金を用いた。ポテンシャルを−0.4Vを20秒間、続いて+0.8Vを20秒間印加した後に、炭酸プロピレンで洗浄した。
【0048】
電気化学処理の前後において、薄膜が含有するアルカリイオンを分析するため、X線光電子分光法によりアルカリイオンに対応する光電子エネルギーのスペクトルを得た。図8に示したとおり、ナトリウムの存在を示す65eV付近のピークは電気化学処理前のみに現れ、カリウムの存在を示す294eV付近のピークは電気化学処理後にのみ現れる。これより、プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子内に吸着したアルカリイオンは、非常に簡便な電気化学処理によって脱離し、回収・交換できることがわかる。
【0049】
<実施例3>
(電気化学処理によるプルシアンブルーナノ粒子内セシウムイオン吸着・脱離)
調製例2で得たブタノール分散型プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液を利用し、作製例1と同様の処理によりナノ粒子の薄膜を設けた複合部材構造体を作用極とし電気化学処理により電解液中のセシウムイオンの吸着、脱離が観測された。具体的には、0.1M硝酸セシウム水溶液を電解液とし、対極白金、標準極飽和カロメロ電極、挿印速度10mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、図9のサイクリックボルタモグラムが得られた。これは、セシウムイオンが電気化学的にプルシアンブルーナノ粒子に吸着・脱離していることを表している。
【0050】
<実施例4>
(電気化学水晶振動子マイクロバランス法によるプルシアンブルーナノ粒子内セシウムイオン吸着・脱離の観測)
電気化学的なイオンの吸着・脱離は電気化学反応と同時に質量を測定する電気化学水晶振動子マイクロバランス法によりより明確に測定できる。
調製例3で得た銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子分散液を、スピンコート法によりプラズマ処理を施した金電極上に滴下し作製した電極を用い、測定を行ったところ、イオンの吸着・脱離による質量変化が観測された。具体的には、100℃3時間の加熱後に、セイコーイージーアンドジー社製QCM922により、測定した。対極は白金、標準極は飽和カロメロ電極、電解液として0.1Mの硝酸セシウム水溶液を利用した。得られた結果を図10に示す。上図は、電位を0.0Vから+1.5Vまでを挿引した際のサイクリックボルタモグラムであり、硝酸セシウム利用時、硝酸カリウム利用時共に、ITO上に形成した水分散型プルシアンブルーナノ粒子薄膜と同様の結果が得られた。まだ、その際の質量変化を下図に示した。質量変化に関しては、硝酸セシウム利用時の方が大きな質量変化を示している。これは、吸着、脱離するイオンが、電解液内に存在するアルカリイオンであるため、カリウムイオン、セシウムイオンの原子量をそのまま反映しているためである。これより、銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体は、電気化学的に繰り返しイオンを吸着・脱離できることが明らかである。
また、水分散型プルシアンブルーナノ粒子を利用した実験でも、硝酸セシウム水溶液中での電気化学反応に伴う質量変化が観測された。
【0051】
<実施例5>
(混合溶液からの特定のイオン抽出)
複数のイオンが混在する溶液から、特定の陽イオンを抽出する場合には、電気化学的な電位操作が有効である。実施例4で使用したものと同じ銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を含む電極を用い、硝酸セシウム0.1M水溶液、硝酸カリウム0.1M水溶液、及び硝酸ナトリウム0.1M水溶液を混合させた溶媒に浸漬し、電気化学処理をした後に、EDX法により、電極に含まれるアルカリイオンの比率を評価した。対SCEで1.2Vを30秒、+0.8Vを60秒印可した場合、電極に含まれるセシウム、カリウム、ナトリウムの含有率は、鉄を100%とした際に、それぞれ46%、3%、0%であった。これより、この材料はセシウムイオンを特定的に吸着することがわかる。この現象は、セシウムイオンがより高い電位で銅−鉄プルシアンブルー型金属錯体に吸着するために起こる。
【0052】
<実施例6>
(ニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を利用した陽イオンの分離)
調整例4で作成したニッケル−鉄プルシアンブルー型金属錯体ナノ粒子を含む電極を、実施例4と同様の手法で作成し、0.1M硝酸セシウム水溶液、0.1M硝酸カリウム水溶液、0.1M硝酸ナトリウム水溶液、0.1M硝酸リチウム水溶液にそれぞれ浸し、対極を白金、参照極を飽和カロメロ電極としてサイクリックボルタンメトリー法により、アルカリイオンの吸着を確認した。その結果を図11に示す。アルカリイオンの吸着を示す電流ピークは、陽イオンの種類により大きく異なることがわかる。このサイクリックボルタモグラムを積分することにより得られる、電圧を正の方向から挿引した場合の注入電荷量を図12に示した。図12中の凡例はそれぞれ電解液を変更したものであり、以下のものである。
CsNO3_H2O:0.1M CsNO3 水溶液
KNO3_H2O:0.1M KNO3 水溶液
NaNO3_H2O:0.1M NaNO3 水溶液
KTFSI_PC :0.1M KTFSI PC溶液
KTFSI_H2O:0.1M KTFSI 水溶液
LiNO3_H2O:0.1M LiNO3 水溶液
ここで、NO3は硝酸(例えば、CsNO3は硝酸セシウム)、KTFSIはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム、PCは炭酸プロピレンを意味する。
これより、電圧を正から挿引した場合に、リチウムイオンのみが特異的にその吸着により低い電位の設定が必要であることがわかる。これは、電気的にリチウムイオン以外のイオンを吸着することができることを示している。よって、この方法により、リチウムイオンのみを選択的に分離することができる。この場合、本電極を繰り返し利用するためには溶液Bにおける吸着イオンの脱離が必要であるが、リチウムイオンについては、溶液Aの中に選択的に残留することになるため、必ずしも溶液Bでの処理が必要となるわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、簡便に溶液中の陽イオンを除去し、あるいは簡便な電気化学処理により材料を再利用することが可能である。また、構造体を焼結することにより、安定な固化体として回収した陽イオンを保管することが可能となる。本発明の上記の特徴を生かすことで、現在高分子のイオン交換樹脂やゼオライトを利用したもの又はその方法に代え、純水製造、放射性廃棄物からの陽イオン除去などへのより効果的な利用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御することを特徴とする陽イオンの処理方法。
【請求項2】
前記所定の陽イオンの吸着を、該イオンを含有する溶液に前記複合材料を浸漬することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項3】
前記所定の陽イオンの脱離を、該イオンを吸着した複合材料を回収液に浸漬して、その浸漬している間に該複合材料の電位を制御して行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項4】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項5】
(a)前記金属原子MAが銅(Cu)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、(b)前記金属原子MAが鉄(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、あるいは(c)前記金属原子MAがニッケル(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)であることを特徴とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項6】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MCを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MDの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項7】
前記導体上のプルシアンブルー型金属錯体に、アミノ基を有する有機化合物を共存させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項8】
前記所定の陽イオンがセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いることを特徴とする、前記プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載の複合材料と、該複合材料を前記所定の陽イオンを含有する液に浸漬する搬送手段と、その複合材料を前記所定の陽イオンを回収するための回収液に浸漬する搬送手段と、該回収液中で前記複合材料の電位を制御する電位制御手段とを有する陽イオンの処理装置。
【請求項11】
プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と所定の陽イオンとを接触させて、該陽イオンの前記プルシアンブルー型金属錯体への吸着により、前記微粒子の分散性を変化させることを特徴とする陽イオンの処理方法。
【請求項12】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と前記所定の陽イオンとの接触を、前記所定の陽イオンを含有する溶液と前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散液とを混合することにより行うことを特徴とする請求項11に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項13】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散性を変化させ、該微粒子を液中で沈降させることを特徴とする請求項11又は12に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項14】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項15】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MCを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MDの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項16】
前記プルシアンブルー型金属錯体にアミノ基を有する有機化合物を共存させて、前記陽イオンと接触させることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項17】
前記所定の陽イオンがセシウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いられる、前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を含有する陽イオン処理用分散液。
【請求項19】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の濃度を、前記目的回収イオンとの接触により前記微粒子が液中で沈降する濃度としたことを特徴とする請求項18に記載の陽イオン処理用分散液。
【請求項1】
プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後、前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当たり、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御することを特徴とする陽イオンの処理方法。
【請求項2】
前記所定の陽イオンの吸着を、該イオンを含有する溶液に前記複合材料を浸漬することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項3】
前記所定の陽イオンの脱離を、該イオンを吸着した複合材料を回収液に浸漬して、その浸漬している間に該複合材料の電位を制御して行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項4】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項5】
(a)前記金属原子MAが銅(Cu)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、(b)前記金属原子MAが鉄(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)である、あるいは(c)前記金属原子MAがニッケル(Fe)、前記金属原子MBが鉄(Fe)であることを特徴とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項6】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MCを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MDの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項7】
前記導体上のプルシアンブルー型金属錯体に、アミノ基を有する有機化合物を共存させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項8】
前記所定の陽イオンがセシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いることを特徴とする、前記プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載の複合材料と、該複合材料を前記所定の陽イオンを含有する液に浸漬する搬送手段と、その複合材料を前記所定の陽イオンを回収するための回収液に浸漬する搬送手段と、該回収液中で前記複合材料の電位を制御する電位制御手段とを有する陽イオンの処理装置。
【請求項11】
プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と所定の陽イオンとを接触させて、該陽イオンの前記プルシアンブルー型金属錯体への吸着により、前記微粒子の分散性を変化させることを特徴とする陽イオンの処理方法。
【請求項12】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子と前記所定の陽イオンとの接触を、前記所定の陽イオンを含有する溶液と前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散液とを混合することにより行うことを特徴とする請求項11に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項13】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の分散性を変化させ、該微粒子を液中で沈降させることを特徴とする請求項11又は12に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項14】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶を用いることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項15】
前記プルシアンブルー型金属錯体として、下記金属原子MA及び下記金属原子MBの間をシアノ基CNが架橋してなるプルシアンブルー型金属錯体の結晶の周囲に、下記金属原子MCを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンおよび/または下記金属原子MDの陽イオンを結合させたものを用いることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
[金属原子MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MCは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。金属原子MDは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子である。]
【請求項16】
前記プルシアンブルー型金属錯体にアミノ基を有する有機化合物を共存させて、前記陽イオンと接触させることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項17】
前記所定の陽イオンがセシウムイオン、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、又はリチウムイオンであることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の陽イオンの処理方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれか1項に記載の陽イオンの回収方法に用いられる、前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子を含有する陽イオン処理用分散液。
【請求項19】
前記プルシアンブルー型金属錯体の微粒子の濃度を、前記目的回収イオンとの接触により前記微粒子が液中で沈降する濃度としたことを特徴とする請求項18に記載の陽イオン処理用分散液。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図6】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図6】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−200856(P2011−200856A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240125(P2010−240125)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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