説明

陽極酸化により発色するアルミニウム合金及びその表面処理方法

【課題】陽極酸化皮膜処理により濁りの少ない光輝性に優れた淡い色調が出現するアルミニウム合金及びその表面処理方法の提供を目的とする。
【解決手段】質量%で、Mn:0.3〜1.0%又は/及びCr:0.2〜0.6%含有し、その他にCu:0.2〜0.5%(0.2%を除く)含有し、Fe:0.1%未満に制御し、その他の成分の合計が0.1%未満で残部がAlであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陽極酸化皮膜の形成により、自然に発色するアルミニウム合金に関し、特に濁りの少ないクリーンな淡い色調に発色するアルミニウム合金及びその表面処理方法に係る。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は陽極酸化により陽極酸化皮膜処理を施すと、アルミニウム合金中の添加成分や陽極酸化の電解液種及び電解条件により自然に発色することは公知である。
しかし、アルミニウム合金の添加成分が陽極酸化にて酸化された析出物として陽極酸化皮膜中に残ったり、電解液に溶出して欠陥のある陽極酸化皮膜になるために白色系又は灰色系の濁りのある皮膜になりやすく、その後に開発された二次電解着色法の普及により自然発色アルマイト法は殆ど採用されなくなった。
ところが、二次電解着色法はブロンズ、ブラック等の濃色の着色には色調の安定性が高いものの、例えば淡い赤色系、黄色系色調を得ることはできなかった。
近年、自動車用の装飾部品等の分野では光輝性があり、濁りが少ない透明感のある淡い色調に対するニーズがあり、本発明者はこのようなシーズ、ニーズに対応すべく検討した結果、本発明に至った。
【0003】
特許文献1はCr,Mnを含有し、陽極酸化により発色するアルミニウム合金を開示し、Cr,Mnの添加量が0.3%以下では帯黄色〜黄色に発色することも記載されている。
しかし、同公報に開示するアルミニウム合金は、Fe成分が1.0%以下となっていて、実施例はFe:0.15%,0.20%含有する。
従って、Fe成分にて陽極酸化皮膜に白っぽい濁りが生じているものである。
また、同公報に開示するアルミニウム合金はCu成分が0.2%以下となっていて、実施例はCu:0.05%なので光輝性を有していない。
さらにはアルミニウム合金中の析出物の固有化処理に関する記載や示唆がないことから、色調の濁りを抑える技術的思想は存在しない。
特許文献2,3はブロンズ色の発色を目的とし、Mn,Crの他にAg等の第3元素が発色に必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭44−31699号公報
【特許文献2】特公昭43−19653号公報
【特許文献3】特公昭40−412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、陽極酸化皮膜処理により濁りの少ない光輝性に優れた淡い色調が出現するアルミニウム合金及びその表面処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る陽極酸化により発色するアルミニウム合金は、質量%で、Mn:0.3〜1.0%又は/及びCr:0.2〜0.6%含有し、その他にCu:0.2〜0.5%(0.2%を除く)含有し、Fe:0.1%未満に制御し、その他の成分の合計が0.1%未満で残部がAlであることを特徴とする。
本発明に係る発色アルミニウム合金は、発色成分にMn,Crを採用し、光輝性成分にCu成分を採用し、それ以外の成分は陽極酸化皮膜中に濁りが生じる原因となるので極力少なく抑えた点に特徴がある。
特にFe成分はアルミニウム合金中の析出物の大きさが大きくなり、陽極酸化皮膜に白っぽい濁りが生じるのに大きな影響を与えることから、Fe:0.1%未満に制御した。
また、その他の成分の合計が0.1%未満と表現したのは、Mn,Cr,Cu,Fe以外の添加成分の合計を0.1%未満に抑えることで、陽極酸化皮膜中に濁りが生じないようにする趣旨である。
通常は不純物として含まれる成分量を少なく抑えることになるが、アルミニウム合金の鋳造品質を確保するのに通常微量添加されるTi:0.01〜0.05%,B:5〜30ppm等を許容する趣旨である。
【0007】
Cu成分は0.2%を超えて添加することで化学研磨や電解研磨等の化学的研磨にてアルミニウム合金の表面に光沢が生じ、陽極酸化処理においても光輝性が損なわれない。
また、Cu成分が0.5%を超えると、局部電位差により耐食性が低下する恐れがある。
従って、Cu成分は0.2〜0.5%(0.2%を除く)の範囲がよい。
【0008】
Mn,Crの発色成分のうち、Mn成分の単独添加により、陽極酸化皮膜に淡い赤色系の色調が発現し、Cr成分の単独添加により淡い黄色系の色調が発現し、MnとCrの両方を添加すると淡い橙色が発現する。
しかし、Mn,Crの添加量が多くなると、合金組織中に晶出又は析出する量が多くなり、陽極酸化皮膜に濁りが生じてくる。
そこで、560〜650℃の温度にて析出物の固溶化処理をすることで断面のエッチング処理観察にて析出物の面積率が3%以下になるようにするのが好ましい。
析出物の固溶化処理をする場合は、Mn:0.3〜1.0%,Cr:0.2〜0.6%の範囲がよく、析出物の固溶化処理をしない場合でも上記のMn,Crの範囲で実用上問題がないが、析出物の固溶化処理をしない場合はMn:0.3〜0.6%,Cr:0.2〜0.4%の範囲に制御するのが理想的である。
固溶化温度は、Mn,Crの添加量によっても異なり、例えばAlとの二元系で状態図を見ると、Mn:0.5%のとき530℃、Mn:1%のとき590℃、Cr:0.5%のとき520℃、Cr:0.6%のとき600℃となっている。
このことから固溶化処理温度は560〜650℃の範囲がよく、好ましくは590〜650℃である。
なお、650℃を超えると局部溶解する恐れがある。
【0009】
本発明に係る表面処理方法は、上記のアルミニウム合金を用いて装飾用部材を製作し、表面を物理的又は/及び化学的に研磨した後に硫酸水溶液にて陽極酸化する。
このように表面処理すると、白濁の少ない光輝性に優れた淡い色調に発色する。
具体的にはMn,Crの発色成分のうち、Mn成分を単独に添加した場合は濁りのない淡い赤色に発色し、Cr成分を単独に添加した場合は濁りのない淡い黄色に発色し、Mn及びCrの両方を添加した場合は濁りのない淡い橙色に発色する。
【0010】
ここで物理的な研磨とはバフ研磨等の機械的研磨方法をいい、化学的研磨とはリン酸−硝酸系等の80〜110℃高温処理液に浸漬する化学研磨や電解液中で電解する電解研磨等をいう。
硫酸水溶液を用いた陽極酸化とは硫酸10〜30%の水溶液中で0.5〜3A/dmの電流密度で電解する通常の陽極酸化処理をいう。
陽極酸化皮膜の膜厚は3〜20μm程度が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアルミニウム合金を用いると、研磨処理をした後に通常の硫酸アルマイト(硫酸水溶液による陽極酸化)をするだけで、濁りの無いクリーンな赤色、黄色、橙色のいずれかに発色し、光輝性、耐食性に優れた装飾部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】評価に用いたアルミニウム合金の成分表を示す。
【図2】陽極酸化処理後の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の表に示すような化学成分のアルミニウム合金を鋳造し、表中に示した熱処理温度にて固溶化処理を実施した。
得られた試験サンプルの表面をバフ研磨し、次に脱脂等の前処理後にリン酸系薬液に浸漬し、化学研磨を常法に従い実施した。
次に15%硫酸水溶液、液温20℃、電流密度1A/dmにて陽極酸化処理し、厚み約10μmの陽極酸化皮膜を得た。
図2にその評価結果を示し、色調はKONICA MINOLTA製CR−400を用いて測定した。
また、陽極酸化処理前の試験サンプルをバフ研磨後に1%NaOHのエッチング液に浸漬し、エッチングにより析出物がエッチングされ生じるピットの面積比率(%)を測定した結果も表2に示した。
なお、ピットの面積比率を求めるのにソフト:Image−Pro Plus(Media Cybernetics社製Ver.5.0J)を用いた。
図1及び2の表の結果から次のことが明らかになった。
いずれの試験サンプルもCu成分を添加したアルミニウム合金を用いたことにより、化学研磨にて優れた光輝性を有した。
実施例1,2は発色成分としてCr成分を単独で添加したものであり、濁りのない淡黄色に発色した。
実施例3,4は発色成分としてMnを単独で添加したものであり、濁りのない淡赤色に発色した。
実施例5,6は発色成分としてMn,Crの両方を添加したものであり、濁りのない橙色に発色した。
実施例7は発色成分がCr成分単独の実施例2に相当する成分の合金を用いて固溶化処理温度を600℃の替わりに640℃に設定したもので、淡黄色に発色し、実施例8は実施例4相当の合金を用いて固溶化処理温度を600℃の替わりに640℃に設定したもので、濁りのない淡赤色に発色した。
実施例は9は実施例6に相当する合金を用いて上記と同様に640℃にて固溶化処理したもので、濁りのない淡橙色に発色した。
比較例1はCu成分のみ添加したものであり、光沢のある金属色であった。
比較例2はMn成分が1.5%と1%を超えるとともにSi:0.75%添加されているので、1〜100μmの大きさの析出物(エッチングにより生じたピットの大きさ)の合計の面積率が3%以上となったので、陽極酸化皮膜に白色の濁りが生じた。
比較例1は固溶化温度530℃にて濁りが生じなかったが、比較例2は白濁したことから、添加成分Mn:0.6〜1.0%,Cr:0.4〜0.6%の相対的に濃い範囲では590℃〜650℃の範囲の温度による固溶化処理するのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn:0.3〜1.0%又は/及びCr:0.2〜0.6%含有し、その他にCu:0.2〜0.5%(0.2%を除く)含有し、Fe:0.1%未満に制御し、その他の成分の合計が0.1%未満で残部がAlであることを特徴とする陽極酸化により発色するアルミニウム合金。
【請求項2】
560〜650℃の温度にて析出物の固溶化処理をすることで断面のエッチング処理観察にて析出物の面積率が3%以下であることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化により発色するアルミニウム合金。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルミニウム合金を用いて、表面を物理的又は/及び化学的に研磨し、硫酸水溶液中にて陽極酸化することを特徴とするアルミニウム合金の発色陽極酸化処理方法。
【請求項4】
白濁の少ない光輝性に優れた淡い赤色系、黄色系、橙色系いずれかに発色することを特徴とする請求項3記載の発色陽極酸化処理方法。

【図1】
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【図2】
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