説明

陽極酸化処理部材及び陽極酸化皮膜の封孔処理方法

【課題】水よる表面白化を抑えるのに有効な陽極酸化皮膜の封孔処理方法及びそれにより得られる耐水性に優れた陽極酸化処理部材の提供を目的とする。
【解決手段】封孔金属の含有量が1.5mmol/g以上である高濃度層の厚みが表面から0.15μm以上深く存在する陽極酸化皮膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、チタン及びそれらの合金に陽極酸化皮膜を形成した耐水性、耐食性に優れた陽極酸化処理部材に関し、特に陽極酸化皮膜の封孔処理方法に係る。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、マグネシウム、チタン等の金属及びそれらの合金は、陽極酸化により多孔性の陽極酸化皮膜が形成されることは公知である。
この種の陽極酸化皮膜は、金属表面に形成した数十nm〜数百nmの極く薄いバリア層と、その上に形成した孔径100Å〜600Åレベルの無数の孔を有する蜂の巣状の多孔質層からなり、多孔質層の厚みは電解時間によって定まる。
金属がアルミニウム及びその合金である場合であって防錆を主な目的とする場合に、厚みを3μm〜30μmレベルに設定する場合が多く、電解液も硫酸水溶液を用いた硫酸アルマイトが主流となっている。
なお、用途に応じてシュウ酸や各種有機酸が電解液として用いられている。
【0003】
このような多孔質の陽極酸皮膜は、そのままでは耐食性が劣るので封孔処理が施されている。
封孔処理の方法としては、酢酸ニッケル水溶液に浸漬処理するNi塩封孔、加圧水蒸気による水和処理及びこれらを組み合せた二段封孔処理等が一般に行われている。
しかし、これらの封孔処理は未だ耐食性が不充分であり、本出願人は先に多孔質性陽極酸化皮膜を封孔処理液に浸漬した状態で液加圧処理したり、さらに減圧処理や電解中和処理と組み合せた封孔処理方法を提案している(特許文献1)。
この特許文献1に開示する封孔処理方法は、耐食性の向上、特に耐アルカリ性の向上に非常に有効であるがアルミニウム製品の用途によっては、雨水等の水により表面が白化し装飾性が低下することが問題となる場合がある。
同公報に、水和処理剤に酢酸アンモニウム等の弱酸性水溶液に浸漬することで白化防止効果があることが記載されているが、本発明はさらなる改善を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−254784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水よる表面白化を抑えるのに有効な陽極酸化皮膜の封孔処理方法及びそれにより得られる耐水性に優れた陽極酸化処理部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る陽極酸化処理部材は、封孔金属の含有量が1.5mmol/g以上である高濃度層の厚みが表面から0.15μm以上深く存在する陽極酸化皮膜が形成されていることを特徴とする。
ここで封孔金属とは、陽極酸化皮膜の孔中に析出させる金属をいい、Ni,Co,Cuのいずれかのイオンが含まれる水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬することで封孔金属が析出する。
【0007】
今回の研究にて封孔金属は陽極酸化皮膜の表面から所定の厚み(深さ)の高濃度に分布した高濃度層を形成していることが明らかになり、この高濃度の厚み及び濃度(含有量)が表面白化に大きな影響を与えていることが明らかになった。
例えば、Ni塩封孔剤を用いて封孔処理した硫酸陽極酸化皮膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてEDS分析(Energy Dispersed Spectroscopy)すると、陽極酸化皮膜の最上部に高濃度のNiを含有する薄い層が観察できるとともに、この高濃度層のNi含有量が分析される。
詳細は後述するが、この高濃度層の表面からの深さが0.15μm以上で且つ、この高濃度層における封孔金属の含有量が1.5mmol/g以上であると耐水性に優れていた。
【0008】
このような深さと含有量を有する陽極酸化皮膜は、金属表面に多孔性陽極酸化皮膜を形成後に封孔金属イオン濃度30〜60mmol/l、フッ素イオン濃度70〜120mmol/lの封孔処理液に浸漬し、その後に水蒸気封孔処理することで得られる。
本発明は、先に提案した特許文献1の技術と組み合せることで耐食性及び耐水性に優れた陽極酸化皮膜となり、その場合に前記封孔処理液に浸漬した状態で、減圧又は加圧処理するとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る陽極酸化処理部材は、皮膜表面部に封孔金属の含有量が1.5mmol/g以上の高濃度の層が表面から0.15μm以上の深さで有するので雨水等の水によるベーマイト化が抑えられると推定され優れた白化防止効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】陽極酸化皮膜の封孔処理条件と評価結果を示す。
【図2】陽極酸化皮膜の断面SEM像を示し、(a)は実施例1(サンプルNo.1)、(b)は実施例2(サンプルNo.2)、(c)は比較例1(サンプルNo.11)、(d)は比較例5(サンプルNo.15)の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、陽極酸化皮膜の封孔処理条件とその結果について詳細に検討したので以下説明する。
【0012】
アルミニウム合金を硫酸水溶液に浸漬し、直流電解により8〜13μmの陽極酸化皮膜を形成し、水洗後に各種封孔処理をし、SEM−EDS分析と耐水性試験をした結果を図1の表に示す。
【0013】
封孔処理液は奥野製薬株式会社製の低温封孔剤L−100と、酸性フッ化アンモニウムを用いてNiイオン濃度(金属イオン濃度)とフッ素イオン濃度を調整した。
なお、アンモニウム水を用いてpH5.5〜5.8の範囲に調整した。
【0014】
実施例1(サンプルNo.1)は、Niイオン濃度36.6mmol/l、フッ素イオン濃度78.9mmol/lの封孔処理液に30℃×20分浸漬処理し、水洗後に155℃×20分の水蒸気封孔処理をした。
その陽極酸化皮膜の断面SEM像を図2(a)に示す。
皮膜表面側にNiの高濃度層が認められ、その厚み(深さ)は0.36μmでNiの含有量はEDS分析にて含有質量割合を分析し、原子量Ni=58.7の値を用いて算出すると封孔金属Niの含有量は2.7mmol/gであった。
図1の表では純水に40℃×240時間浸漬した後に表面に白化が認められなかったものを耐水性試験で評価「○」と表示し、白化したものを評価「×」と表示した。
その結果、サンプルNo.1は耐水性に優れていた。
【0015】
実施例2(サンプルNo.2)は、実施例1と同じNiイオン濃度、フッ素イオン濃度で液温を25℃に下げた他は同じ条件にて封孔処理したものでNi高濃度層の厚み0.24μmで含有量は1.8mmol/lであり、耐水性も合格した。
その断面SEM像を図2(b)に示す。
【0016】
実施例3〜6(サンプルNo.3〜No.6)として封孔処理液のNiイオン濃度とフッ素イオン濃度を表に示すように変化させ耐水性試験を実施したところ、いずれも合格した。
この結果から封孔金属イオン濃度30〜60mmol/l、フッ素イオン濃度70〜120mmol/lの範囲では、いずれも耐水性に優れていた。
なお、好ましくは封孔金属イオン濃度34〜55mmol/l、フッ素イオン濃度70〜110mmol/lの範囲である。
【0017】
比較例1(サンプルNo.11)は、実施例1と比較しフッ素イオン濃度を70mmol/l以下である55.3mmol/lとした以外は上記実施例1と同じ条件にしたところ、封孔金属の高濃度層の厚みが0.12μmと0.15μm未満であり、Niの含有量が1.4mmol/gと1.5mmol/g未満であったので耐水性試験が不合格となった。
このSEM像を図2(c)に示す。
【0018】
比較例2〜4(サンプルNo.12〜14)として図1の表に示すように、封孔液のNiイオン濃度及びフッ素イオン濃度を変化させたが、いずれも耐水性が不合格であった。
なお、参考に比較例5(サンプルNo.15)は酢酸ニッケルによる90℃×20分の高温封孔処理をした。
その結果、SEM像を図2(d)に示すようにNi高濃度層の厚みが0.14μmでNi含有量は0.4mmol/gであった。
さらに参考のために図1の表には表示を省略したが、実施例1と同じ封孔液条件で低温封孔処理のみ実施し、水蒸気封孔処理をしなかったところ、Ni高濃度の厚みが0.14μmであり、耐水性が実施例1よりもやや劣っていた。
従って、低温封孔処理後に水蒸気封孔処理をする二段封孔処理が好ましいことも明らかになった。
【0019】
以上のような実験結果から、封孔金属としてCo[原子量=58.9]、Cu[原子量=63.5]を用いても同様の結果が推定され、低温封孔の液温は20〜30℃、処理時間15〜30分の範囲が好ましく、水蒸気封孔は140℃以上で20〜60分の条件で実施するのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封孔金属の含有量が1.5mmol/g以上である高濃度層の厚みが表面から0.15μm以上深く存在する陽極酸化皮膜が形成されていることを特徴とする陽極酸化処理部材。
【請求項2】
封孔金属はNi,Co,Cuのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化処理部材。
【請求項3】
金属表面に多孔性陽極酸化皮膜を形成後に封孔金属イオン濃度30〜60mmol/l、フッ素イオン濃度70〜120mmol/lの封孔処理液に浸漬し、その後に水蒸気封孔処理することを特徴とする陽極酸化皮膜の封孔処理方法。
【請求項4】
前記封孔処理液に浸漬した状態で、減圧又は加圧処理することを特徴とする請求項3記載の陽極酸化皮膜の封孔処理方法。
【請求項5】
前記封孔金属イオンは、Ni,Co,Cuのいずれかのイオンであることを特徴とする請求項3又は4記載の陽極酸化皮膜の封孔処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144750(P2012−144750A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1374(P2011−1374)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)