陽極酸化装置、連続陽極酸化装置および製膜方法
【課題】 接触抵抗が小さい陽極酸化装置、連続陽極酸化装置、および陽極酸化装置または連続陽極酸化装置を用いた製膜方法を提供する。
【解決手段】 陽極酸化可能な金属または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物の密着部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と対向電極を浸漬する電解液が入った電解槽と、給電ドラムにおいて密着支持された帯状物の短手方向端部と帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして電解液から保護する保護部材と、給電ドラムに密着させた帯状物と保護部材を電解液中で共走行させる駆動部とを有し、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)、給電ドラムの半径をR(m)とし、電解液中を共走行される帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値が1000×R以上である。
【解決手段】 陽極酸化可能な金属または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物の密着部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と対向電極を浸漬する電解液が入った電解槽と、給電ドラムにおいて密着支持された帯状物の短手方向端部と帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして電解液から保護する保護部材と、給電ドラムに密着させた帯状物と保護部材を電解液中で共走行させる駆動部とを有し、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)、給電ドラムの半径をR(m)とし、電解液中を共走行される帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値が1000×R以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、薄膜トランジスタ回路、ディスプレイ(画像表示装置)等の半導体装置の用途に有用な半導体素子用基板および電解コンデンサー用電極を製造するのに適した陽極酸化装置、連続陽極酸化装置ならびに製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の基板を用いた薄膜太陽電池は、基板の軽量性および可撓性(フレキシビリティー)という観点から、ガラス基板を用いたものに比較して、広い用途への適用の可能性がある。さらに、金属製の基板は高温プロセスにも耐えうるという点で、光電変換特性が向上するため太陽電池の高効率化が期待できる。
【0003】
太陽電池モジュ−ルは、同一基板上で太陽電池セルを直列接続し集積化することで、モジュール効率を向上させる。このとき、太陽電池モジュ−ルの金属基板には絶縁層を形成し、この上に光電変換を行う半導体回路層を設ける必要がある。例えば、ステンレス等の鉄系素材を基板に用いた場合は、CVD等の気相法またはゾルゲル法等の液相法によりSiまたはアルミニウムの酸化物を被覆し絶縁層を形成する必要がある。しかし、これらの手法は、製法的にピンホールまたはクラックを発生し易く、大面積の薄膜絶縁層を安定に作製する手法としては本質的な課題を抱えている(特許文献1)。
【0004】
一方、アルミニウムの場合には陽極酸化膜(AAO)を形成することにより、ピンホールが無く密着性良好な絶縁被膜を得ることができる(特許文献2)。しかし、アルミニウム上のAAOは、120℃以上に加熱するとクラックが発生することが知られており(非特許文献1)、絶縁性、特にリーク電流が増大してしまうという問題を抱えている。また、アルミニウムは200℃程度で軟化するため、この温度以上を経たアルミニウムは極めて強度が小さく、クリープ変形または座屈変形といった永久変形(塑性変形)を生じ易く、これを用いる半導体装置の製造時にはハンドリングに厳しい制限が必要である。これは屋外用太陽電池などへの適用を困難なものにしている。
【0005】
上記問題を解決するため、所謂アルミニウムクラッド材からなる基板に絶縁層としてAAOを形成し、その上に光吸収層である化合物半導体層または電極層を形成する方法が提案されている。この方法では金属基板と化合物半導体層の線膨張係数の差を小さく設計することが可能であり、500℃以上の高温製膜となる化合物半導体層の形成工程においても、絶縁層のクラックおよび化合物半導体の剥離などの問題を生じない。またアルミニウムと複合させる金属基材は、アルミニウムに比較して比強度および高温強度が大きいため、製造時のハンドリングも容易である。
【0006】
絶縁層としてのAAOは、電池モジュールとした時の高い電圧で絶縁破壊しないだけでなく、電圧印加時のリーク電流も小さいこと、すなわち体積抵抗が高い必要がある。リーク電流が大きいと、発電した電流が個々の電池間で漏れ電流となり、モジュール発電効率が低下する。従って、AAOは前述の性能を担保するため、1μm以上、好ましくは5μm以上の厚さが必要となる。
【0007】
帯状アルミニウムを連続的に陽極酸化するときの一般的な装置は、電解槽の前部に給電ロールまたは給電槽を置き、アルミニウムに電流を供給する構成であり、給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムにも電流が流れる。陽極酸化とは電解酸化(アルミニウムの場合は3電子反応)であり、AAOの厚さは流した電気量に比例する。従って、帯状アルミニウムを連続的に陽極酸化する装置の場合、ライン速度(帯状アルミニウムの走行速度)にも比例した電流を給電する必要がある。このとき、給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムにも同様に比例した電流が流れることになるので、AAO厚が厚いほど、またライン速度が大きくなるほど、電圧降下が大きくなって電力ロスが発生する。さらに給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムはIR発熱により溶断する可能性があり、生成するAAO厚とライン速度には上限が存在する。発熱と溶断限界電流は帯状アルミニウムの単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど、生成可能なAAO厚とライン速度の上限は小さくなる。
【0008】
一方で、帯状の薄いアルミニウム箔の片面にのみ厚いAAOを形成したいという要求があり、一例は前述の絶縁層付金属基板である。この場合、片面にマスキングフィルムを貼り、前述の装置で製造することは可能であるが、AAO厚とライン速度には上限が存在する。また、メッキなどのadditive被膜と異なり、AAOはsubtractive被膜であり、マスキングフィルム端面からの電解液侵入が生じると、容易に被膜形成する。従って高粘着力のマスキングフィルムを選定する必要がある。さらにクラッド材のような異種金属が接合された帯状金属箔の場合は、局部電池作用による副反応を防止するため、異種金属同士が露出した幅方向の側端面もマスキングフィルムを貼り、電気化学的に不活性にしておく必要がある。
【0009】
帯状アルミニウムの片面にのみAAOを製膜する装置は種々提案されている。代表例は、陽極酸化槽に断面円上の支持ドラムを置き、それにアルミニウム箔を密着させてアルミニウム箔の片面のみを陽極酸化させる手法である(特許文献3)。また、支持ドラムに導電性を持たせ、ドラムに給電する手法も提案されている(特許文献4)。後者の場合は、アルミニウム箔の裏面から直接給電することになるので、前述の電圧降下および発熱を無視できるレベルにまで低下させることが可能である。
【0010】
しかしながら、この手法では、支持ドラムとアルミニウム箔の間に電解液の染込みが容易に生じる。陽極酸化槽側はAAO被膜が形成され過電圧が高くなっているので、支持ドラムに電解液が染込むと支持ドラムと対向電極間の直接電流が大きくなり、陽極酸化槽側のAAO被膜形成電流に対する電流ロスとなる。また、このロス電流は、給電ドラムの密着面に電気化学的作用を及ぼすことになり、密着面側のアルミニウムに対しても陽極酸化被膜を形成したり、給電ドラムが金属である場合はその表面が陽極酸化されたりアノード溶解したりして、いずれも密着面の接触抵抗が高くなって、スパーク等の局部不良を生じる可能性がある。
【0011】
上記のような問題を解決するため、特許文献4では給電ドラムの材質をタンタル、ニオブ等のいわゆるバルブメタルとする装置が提案されているが、この方法では電解操業時間に伴いバルブメタル表面に陽極酸化被膜が成長する。従って接触抵抗が徐々に増加するため、頻繁に交換する必要があるが、これらの材質は高価であり実用性に欠ける。一方、特許文献5では、アルミニウム箔と支持ローラとの密着面に水を供給することで密着面の電気化学的作用を防止する方法が提案されている。また、特許文献6では、アルミニウム箔の両端をテンションをかけた不導体の圧接バンドで覆い、接触面に電解液が流入することがないようにした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−339081号公報
【特許文献2】特開2000−49372号公報
【特許文献3】特開平4−371892号公報
【特許文献4】特開昭60−211093号公報
【特許文献5】特開平6−108289号公報
【特許文献6】特開昭46−39441号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】茅島,他,東京都立産業技術研究所研究報告3(2000)p21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献5は装置が複雑になるばかりでなく、電解液がドラム密着面の水によって薄められるため、常に電解液の濃度管理を行う必要がある。また、密着面上の薄層の水が電気分解によりガスが発生すると、薄層が気膜となって接触抵抗が上がり、返ってスパーク等の原因になる可能性もある。一方、特許文献6に記載されているテンションをかけたバンドで覆う方法では、バンドは給電ドラムまたはアルミニウム箔と常に褶動することになり、バンドがアルミニウム箔の端部から位置ズレし易く、連続操業が困難である。また、圧接したテンションをかけることによって、薄いアルミニウム箔の場合はしわが入ってしまい、そのしわ部分から電解液が流入する可能性がある。
【0015】
このように、いずれの方法によっても、密着面側の陽極酸化被膜形成は完全には防止出来ないため、接触抵抗が不安定になるという問題は解決できない。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、接触抵抗が小さい陽極酸化装置、連続陽極酸化装置、および陽極酸化装置または連続陽極酸化装置を用いた製膜方法を提供することを第1の目的とするものである。さらには、第1の目的に加えて、より接触抵抗を低く、接触抵抗変化も小さくするための製膜方法を提供することを第2の目的とするものである。
【0016】
上述のように、従来からAAOを製膜する装置は種々提案されているものの、陽極酸化に伴う発熱を、効率よく系外に持ち去ることができず、発熱・温度分布が生じ、陽極酸化面内において反応が不均一になり、陽極酸化膜の焼け、陽極酸化膜の膜厚ムラなどが発生するという問題点がある。
また、上述のように、従来から種々提案されているAAOを製膜する装置においては、ドラムの回転、箔の移動、電解液の攪拌、または陽極酸化に伴う水素ガス発生などによって、電解液面が一定の高さに保たれないため、陽極酸化範囲が常に変動し続けてしまい、陽極酸化膜の部分的な膜厚ムラ、陽極酸化膜の表面の荒れなどが生じるという問題点がある。
【0017】
この課題に対して、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な製膜方法を提供することを第3の目的とするものである。
【0018】
また、上述のように、従来からAAOを製膜する装置は種々提案されており、特許文献4に開示されているように、支持ドラムに導電性を持たせ、ドラムに給電し、金属箔(アルミニウム箔)の裏面から直接給電する方法が提案されている。
AAOを製膜する装置において、金属箔の陽極酸化面への電流供給方式としては、ドラムの軸からドラムの表面へ、そして金属箔の順に電流供給する方式、または金属箔に直接給電する方式がある。前者のドラムの軸を介する方式では、ドラムの軸受けの機構が煩雑になるほか、ドラムの軸によって通電できる電流に上限があるという問題がある。また、後者の金属箔に直接給電する方式では、金属箔内部に電流が流れるため、ジュール発熱、限界電流などの問題がある。
また、前述のように、AAO厚が厚いほど、またライン速度が大きくなるほど、電圧降下が大きくなって電力ロスが発生する。さらに給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムはIR発熱により溶断する可能性があり、生成するAAO厚とライン速度には上限が存在する。発熱と溶断限界電流は帯状アルミニウムの単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど、生成可能なAAO厚とライン速度の上限は小さくなる。
さらには、AAOを製膜する装置においては、電解液に浸かっている金属箔(アルミニウム箔)の部分ができるだけ広いほうが生産性が高く、回転軸を電解液面より下にすることによって、ドラムの過半を利用できて生産効率がよい。しかしながら、ドラムの回転軸を通した給電方式では、回転軸を電解液面より下にすることが難しいという問題がある。
【0019】
この課題に対して、簡単な構成で給電することができる製膜方法を提供することを第4の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の目的を達成するためには、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物が巻き掛けられて密着支持し、少なくともこの帯状物が密着する部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、この給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と対向電極とを浸漬する電解液で満たされた電解槽と、給電ドラムに密着支持された帯状物の短手方向端部と、給電ドラムのうち帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして電解液から保護する非導電性材料からなる保護部材と、給電ドラムの周速に同期させて給電ドラムに密着させた帯状物と保護部材を電解液中で共走行させる駆動部とを有し、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラムの半径をR(m)とすると、電解液中を共走行される帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値は、1000×R以上であることが望ましい。また、より好ましくは、帯状物に、1000×R以上、10000×R以下の値の幅当たりの張力T(N/m)をかけることが望ましい。
【0021】
本発明の第2の目的を達成するためには、第1の目的を達成するための好ましい張力をかけることに加えて、さらに、給電ドラムにおいて帯状物と密着する部分の表面が、電子伝導性無機化合物で構成されていることが望ましい。
【0022】
電子伝導性無機化合物は、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種であることが好ましい。給電ドラムは、密着する部分の表面の下層が金属で構成されており、下層の金属は陽極酸化される金属であることが好ましい。陽極酸化される金属は、アルミニウムであることが好ましい。
【0023】
本発明の第3の目的を達成するためには、第1および第2の目的を達成するための製膜方法の、電解液の流通手段について、対向電極と、給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間にある電解液を隙間から移動させる流通手段を有することが望ましい。
【0024】
流通手段は、隙間にある電解液を帯状物の長手方向と略平行な方向に移動させることが好ましい。
対向電極に開口部が設けられており、流通手段は、開口部を介して電解液を対向電極と、給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間に供給することが好ましい。
流通手段は、隙間の電解液を、帯状物の長手方向と略平行な方向に排出させることが好ましい。
【0025】
隙間の開口のうち、給電ドラムの回転軸方向における第2の開口を塞ぐカバー部材が設けられており、流通手段により、隙間の電解液が、隙間のうち、帯状物の長手方向と略平行な方向における第1の開口から排出されることが好ましい。
カバー部材は、電解槽または対向電極に固定されるものであることが好ましい。また、カバー部材は、給電ドラムの回転軸に固定されるものであるか、または相対的に回転可能なものであることが好ましい。
給電ドラムにおいて帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることが好ましい。
浸入防止手段は、帯状物が給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材を有することが好ましい。
給電ドラムの回転軸が、電解液の液面よりも低いことが好ましい。
【0026】
本発明の第4の目的を達成するためには、第1、第2および第3の目的を達成するための製膜方法において、電解液の液面より上部に設けられた、帯状物に電流を印加する給電手段とを有することが望ましい。
【0027】
給電手段は、給電ドラムの金属部に接する第1の給電部材を有することが好ましい。
また、給電手段は、帯状物に接する第2の給電部材を有することが好ましい。この場合、第2の給電部材と給電ドラムの金属部とで帯状物を挟むようにして、第2の給電部材は帯状物に接していることが好ましい。
第1の給電部材および第2の給電部材は、金属ロールまたはカーボンロールであることが好ましい。また、第1の給電部材および第2の給電部材は、金属ブラシまたはカーボンブラシであることが好ましい。
【0028】
給電ドラムにおいて帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることが好ましい。浸入防止手段は、帯状物が給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材を有することが好ましい。
第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材は、電解液と帯状物との接液面および離液面のうち、少なくとも一方に設けられていることが好ましい。
給電ドラムの回転軸が、電解液の液面よりも低いことが好ましい。
【0029】
第1〜第4の目的において、給電ドラムには帯状物が内接走行する凹部が設けられていることが好ましい。保護部材を給電ドラムに圧接するガイドローラーを設ける態様としてもよい。対向電極は多数の貫通孔を有することが好ましい。
【0030】
第1〜第4の目的において、給電ドラムに支持された帯状物が電解液に接液する部分および離液する部分のうち、少なくとも一方における給電ドラムと対向電極との間隔が、帯状物の電解液浸液中央部分における給電ドラムと対向電極との間隔よりも大きいことが好ましい。
【0031】
第1〜第4の目的において、保護部材は非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることが好ましい。また、保護部材は、帯状物に密着する側に粘着性物質を有することが好ましい。
【0032】
第1〜第4の目的において、対向電極の電位がグランドに対して負極性であることが好ましい。とりわけ、帯状物をグランドと同電位とし、かつ陽極酸化のための電解用電源をグランドに対して絶縁出力とすることが好ましい。グランドの電位に対する給電ドラムの電圧を監視する監視部を備えていることがさらに好ましい。
【0033】
第1〜第4の目的を達成するための連続陽極酸化装置は、第1〜第4の目的を達成するための製膜方式での陽極酸化装置を直列に多数配置したことを特徴とするものであり、本発明の製膜方法は、それぞれ第1〜第4の目的を達成するための陽極酸化装置または連続陽極酸化装置を用いて、帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の第1の目的においては、給電ドラムの半径をR(m)とする場合、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物は幅当たり1000×R以上の値の張力(N/m)をかけられて電解液中を共走行させる構成とすることにより、帯状物の接触抵抗を小さくすることができる。このため、電力消費を抑制し電力コストを抑制でき、ひいては製造コストを下げることができる。さらには、帯状物と給電ドラムにおいてこの帯状物が密着する部分との発熱を抑制することができるので、部分的な帯状物の温度上昇による陽極酸化被膜ムラを抑えることができる。
【0035】
本発明の第2の目的においては、給電ドラムにおいて帯状物と密着する部分の表面を電子伝導性無機化合物で構成することにより、電子伝導性無機化合物は抵抗が低く、また金属よりも硬いので耐久性が良好であることから、帯状物との接触抵抗変化が小さく、かつ連続製造時の耐久性が高い給電ドラムとすることができる。さらには、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した低い接触抵抗により、帯状物の片面に陽極酸化被膜を長期に亘り安定して製膜することができる。
【0036】
本発明の第3の目的においては、対向電極と給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間にある電解液を、この隙間から移動させる流通手段を有することにより、陽極酸化に伴い発熱した電解液を、効率よく隙間の外に排出することができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。さらには、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した接触抵抗により、帯状物の片面に、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0037】
本発明の第4の目的においては、電解液の液面より上部に設けられた、帯状物に電流を印加する給電手段とを有することにより、従来のドラムの軸受け機構が煩雑なドラムの軸を介する方式とは異なり、簡単な構成で給電することができる。
さらには、給電手段を、電解液の液面より上部に設けることにより、回転軸を電解液面よりも下にでき、製膜に給電ドラムの周面を有効に利用することができ、生産効率を高くすることができる。
【0038】
第1〜第4の目的において、帯状物は給電ドラムに密着支持されており、しかも、給電手段により帯状物が密着する側の接触面(裏面)から直接給電することができるので、電圧降下および発熱を無視できるレベルにまで低下させることが可能となり、ライン速度を上げることができるため、単位幅における長さあたりの抵抗が高い帯状物であっても、高速で陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0039】
さらに、第1〜第4の目的において、給電ドラムに帯状物が内接走行する凹部が設ける態様、または保護部材を給電ドラムに圧接するガイドローラーを設ける態様とした場合には、保護部材による帯状物の短手方向端部と給電ドラムのうち帯状物が密着しない部分とのオーバーラップの水密性をより向上させることが可能となり、より安定した接触抵抗により、帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0040】
また、第1〜第4の目的において、本発明の連続陽極酸化装置は上記記載の陽極酸化装置を直列に多数配置したものであるので、個々の陽極酸化装置における給電ドラムでの面電流密度を陽極酸化不良の生じない最大に保ったまま、設置数のN倍のライン速度で製造が可能となり、抵抗の高いアルミニウムからなる薄い帯状物または少なくとも片面がアルミニウムである複合導電金属箔からなる帯状物に対して、5μm以上の厚いAAO膜を高速で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図3】本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の給電ドラムにおける面圧と接触抵抗との関係を示したグラフである。
【図4】本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図5】図4に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図6】(a)は、陽極酸化されない金属で構成された下地金属の表面に形成された導電部分(導電性材料)にピンホールがある給電ドラムの要部を示す概略断面図であり、(b)は、下地金属に空洞が形成された給電ドラムの要部を示す概略断面図である。
【図7】(a)は、陽極酸化される金属で構成された下地金属の表面に形成された導電部分(導電性材料)にピンホールがある給電ドラムの要部を示す概略断面図であり、(b)は、ピンホール部分に酸化物被膜が形成された給電ドラムの要部を示す概略断面図である。
【図8】帯状物が内接走行する凹部を設けた給電ドラムの概略正面模式図である。
【図9】給電ドラムの幅と径および帯状物と保護部材との関係を示す概略模式図である。
【図10】ガイドローラーが設けられた陽極酸化装置の一例を示す概略断面図である。
【図11】図10のガイドローラーが設けられた給電ドラムの概略正面図である。
【図12】対向電極の電位をグランドに対して負極性とする場合の陽極酸化装置の概略模式図である。
【図13】本発明の第1〜第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を直列に多数配置した連続陽極酸化装置の概略模式図である。
【図14】走行速度とAAO製膜速度の関係を示したグラフである。
【図15】本発明の第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図16】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の概略断面図であり、(b)は、図15に示す陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
【図17】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第1の変形例を示す概略断面図であり、(b)は、図15に示す陽極酸化装置の第2の変形例を示す概略断面図である。
【図18】図15に示す陽極酸化装置の第3の変形例を示す概略断面図である。
【図19】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第4の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図19(a)に示す陽極酸化装置の概略側面断面図である。
【図20】図15に示す陽極酸化装置の第5の変形例を示す概略斜視図である。
【図21】(a)は、図20に示す陽極酸化装置の概略断面図であり、(b)は、図20に示す陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
【図22】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第6の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図22(a)に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図23】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第7の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図23(a)に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図24】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第8の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図24(a)に示す陽極酸化装置を示す概略断面図である。
【図25】本発明の第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図26】図25に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図27】(a)は、図25に示す陽極酸化装置の第1の変形例を示す概略断面図であり、(b)は、図25に示す陽極酸化装置の第2の変形例を示す概略断面図である。
【図28】図25に示す陽極酸化装置の第3の変形例を示す概略断面図である。
【図29】図25に示す陽極酸化装置の第4の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の陽極酸化装置、連続陽極酸化装置および製膜方法を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図、図2は図1に示す第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
以下、本発明の第1〜第4の目的を達成するに共通する陽極酸化装置について説明する。
【0043】
図1および図2に示すように、本発明の陽極酸化装置10は、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物1(以下、単に帯状物1ともいう)を密着支持し、少なくとも帯状物1が密着する部分2aは導電性材料で構成された給電ドラム2と、給電ドラム2に対向して設けられた対向電極3(図1において対向電極は他の部分を視認しやすくするために省略している)と、帯状物1を密着支持した給電ドラム2の一部と対向電極3とを浸漬する電解液4で満たされた電解槽5と、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部(両側)と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2b(2bは導電性のない表面である)とをオーバーラップして電解液4から保護する非導電性材料からなる保護部材6とを有する。給電ドラム2と対向電極3とには電源9が接続されており、陽極酸化膜の成膜時に、給電ドラム2を介して帯状物1が陽極となるように電流が流される。
【0044】
さらに、給電ドラム2の上流側には帯状物1をロール状に巻回する巻出しロール21が、下流側には給電ドラム2に送りだされた帯状物1の片面に陽極酸化を実施した後の帯状物1を巻き取る巻取りロール22が設けられている。また、給電ドラム2と巻出しロール21の間には、保護部材6をロール状に巻回する巻出しロール23が、給電ドラム2と巻取りロール22の間には、保護部材6を巻き取る巻取りロール24が、保護部材6によって帯状物1と帯状物1が密着しない部分2bとをオーバーラップできるように帯状物1の両側にそれぞれ設けられている。巻取りロール22および24にはそれぞれ駆動部(図示せず)が設けられており、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させることができるようになっている。
【0045】
なお、ここでは巻取りロール22および24に設けられた駆動部が巻取りロール22および24のそれぞれを駆動して、陽極酸化実施後の帯状物1および保護部材6が巻取りロール22および24に巻取られる態様について説明しているが、巻取りロール22および24は単に回転自在な構成で、帯状物1および保護部材6を送り出すだけの機能を有し、その下流にそれぞれ別の駆動部で制御された巻取りロールが配置されている構成であってもよい。なおこの構成の場合には、巻取りロール22と駆動部で制御された別の巻取りロールとの間に、陽極酸化された帯状物を水洗する水洗槽または水洗後に乾燥するための乾燥槽を設置してもよい。
【0046】
給電ドラム2そのものは単に回転自在な構成となっており、上記で説明した駆動部を駆動することによって給電ドラム2は、帯状物1の一方の面のみを電解液4に浸漬した状態で搬送するようになっている。但し、給電ドラム2は駆動源が設けられていてそれ自身が回転するものであってもかまわない。
【0047】
給電ドラム2の直径は生産規模と陽極酸化の製膜速度にもよるが、一般的に50cm〜500cmの範囲で適宜選択することができる。給電ドラム2の帯状物1が密着する部分2aは導電性材料で構成されており、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bは非導電性材料で構成される。給電ドラム2の帯状物1が密着する導電性材料の幅は、必ずしも帯状物1の幅と一致させておく必要はなく、帯状物1の蛇行を許容できる限りの導電材料幅としておけばよい。導電性材料の幅は好ましくは帯状物1に対して50〜100%、さらには70〜90%とすることが望ましい。
【0048】
給電ドラム2は、機械的強度と電解電流を供給するため、帯状物1が密着する部分2aの表面の下層を金属とするのが好ましい。この場合、下層の金属(以下、下地金属ともいう)は陽極酸化される金属(バルブメタル)であることが好ましい。この陽極酸化される金属としては、Ti、Nb、Ta、Al等を用いることができ、この中で、アルミニウム(Al)は最も導電性が高く、且つ安価であるので、上記下層の金属(下地金属)として最も好ましい。アルミニウムとしては、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を使用することができる。アルミニウム合金は一般に90%以上の純度を有するものが好ましく用いられる。
【0049】
例えば、図6(a)に示す給電ドラム2のように、陽極酸化されない金属で構成された下地金属40の表面に形成された導電部分42(導電性材料)にピンホールhがある場合、電解液を含むミストと下地金属40とが接触すると、下地金属40が徐々に溶解していき、図6(b)に示すように、空洞44ができる恐れがある。
しかしながら、図7(a)に示す給電ドラム2のように、陽極酸化される金属(バルブメタル)で構成された下地金属46では、導電部分42(導電性材料)にピンホールhがあり、電解液を含むミストと下地金属46とが接触した場合、下地金属46は溶解されることなく、図7(b)に示すように、ピンホールh部分に強固な酸化物被膜48が形成される。このため、製膜の際に実質上の問題がない。
【0050】
保護部材6は非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることが好ましい。より水密性を上げるために、帯状物1に密着する側に粘着性を有する材質を塗布したものであってもよい。
給電ドラム2の直径にもよるが、共走行させる保護部材は水密性を確保するため、張力を掛けておくことが好ましく、大径給電ドラムの場合は、鋼芯入りの非導電ゴムベルトなどをより好ましく使用することができる。
【0051】
帯状物1は、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる。陽極酸化可能な金属としては、アルミニウム、Nb、Ta、Tiからなる帯状物、または少なくとも片面がこれらの金属である複合導電金属箔からなる。これらの金属は合金であってもよい。例えば、アルミニウムの場合、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を使用することができる。アルミニウム合金は一般に90%以上の純度を有するものが好ましく用いられ、陽極酸化被膜を絶縁膜として利用する場合は、金属Si粒子を析出物として含まない方が好ましい。
【0052】
複合導電金属箔として陽極酸化可能な金属に複合させる金属は、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、Ti等を好ましく挙げることができる。帯状物の厚みは、一般に、0.02〜0.5mmの範囲である。このような単位幅における長さあたりの抵抗が高い帯状物であっても、帯状物を給電ドラムに密着支持して、帯状物の裏面から直接給電することができるので、より高速で陽極酸化被膜を形成することができる。
【0053】
電解液4としては、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸またはそれらの塩の水溶液、またはそれらの混合液が挙げられるが、所望の品質を得るために最適なものを選べばよい。電解液の濃度、温度も適宜選択することができる。
【0054】
図1の陽極酸化装置10は、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向の両端部と帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6がオーバーラップして給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させることができるので、従来、片面に陽極酸化被膜を形成する際に必要とされていたマスキングフィルムを用いなくても、電解液4の染込みを防止することができる。また、帯状物1の短手方向の両端部は保護部材6によって完全に保護されているので、クラッド材の様な異種金属が接合された帯状物に陽極酸化を行う場合であっても、局部電池作用による副反応が起こることがない。そして、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した低い接触抵抗により、金属基板の片面に高速に陽極酸化被膜を長期に亘り安定して製膜することができる。
【0055】
図1の陽極酸化装置10は、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6との水密性をさらに向上させるべく、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6の蛇行を抑制するために、帯状物1と保護部材6の走行部分の給電ドラム2の径を小さくする態様としてもよい。図8および図9を用いて説明する。図8は給電ドラムに帯状物と保護部材がそれぞれ内接走行する凹部を設けた給電ドラムの概略正面模式図、図9は給電ドラムの幅と径および帯状物と保護部材の関係を説明するための概略模式図である。なお、この図8および図9において図1および図2中の構成要素と同一構成物には同一符号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する。
【0056】
図8および図9に示すように、給電ドラム2には帯状物1が内接走行する凹部(切欠け部)と保護部材6が内接走行する凹部が設けられている。図9において、W3およびD3は給電ドラム2の全幅とドラム径を、W2およびD2は保護部材6が給電ドラム2に接触する外側の幅とドラム径を、W1およびD1は帯状物1の幅とドラム径を、W0は給電ドラムの導電材料部分の幅を示している。ドラム径の関係をD3>D2>D1とすることにより、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6とはそれぞれ給電ドラム2に設けられた凹部によって蛇行が抑制され、上記ドラム幅の関係をW3>W2>W1>W0とすることにより、保護部材6によって帯状物1は水密性よくオーバーラップされることとなり、帯状物1の裏面への電解液の侵入をより効果的に阻止することができる。なお、ここでは給電ドラム2に、帯状物1が内接走行する凹部と保護部材6が内接走行する凹部がそれぞれ設けられている態様を示したが、帯状物1が内接走行する凹部のみを設ける態様としてもよい。
【0057】
図1の陽極酸化装置10は、保護部材6を給電ドラム2に圧接するガイドローラーが設けられている態様としてもよい。図10および図11を用いて説明する。図10はガイドローラーが設けられた陽極酸化装置の一例を示す概略断面図、図11は図10のガイドローラーが設けられた給電ドラムの概略正面図である。図10および図11に示すように、この陽極酸化装置10eには、帯状物1の短手方向の両端部と帯状物1が密着しない部分2bとをオーバーラップする保護部材6を給電ドラム2に圧接するためのガイドローラー7を4か所に設けている。なお、ガイドローラー7の表面は絶縁処理がなされている。このようなガイドローラー7を設けることにより、保護部材6によって帯状物1はより水密性よくオーバーラップされて、帯状物1の裏面(給電ドラムと密着している面)への電解液の侵入を阻止することができる。
【0058】
なお、ここではガイドローラー7を、給電ドラム2の電解液4に浸漬している部分にのみ設けた態様を示しているが、ガイドローラー7は給電ドラム2の電解液4に浸漬していない部分にも設ける態様としてもよい。例えば、ガイドローラー7を、給電ドラム2の電解液4に浸漬していない部分(保護部材6の巻出しロール23と電解液4との間)にのみ設けても、保護部材6の蛇行を防止できるため、帯状物1と帯状物1が密着しない部分2bとを水密性よくオーバーラップさせることが可能である。
【0059】
陽極酸化においては反応中に対向電極からは多量の水素ガスが発生し、浮力で帯状物の陽極酸化面に到達する。陽極酸化面に気膜ができると陽極酸化不良を生じるので、電解槽内で電解液を流動する必要がある。流動させる手段は、攪拌、ガスのバブリング、液の流通等、問わない。この流動の効率化を図るために、対向電極は多数の貫通孔を有することが好ましい。貫通孔の形状は電解液の流動形式(小型の装置の場合には撹拌子(スターラー)を選択したり、大型の装置の場合には電解液に流れを発生させたり、攪拌翼、またはガスバブリングにて流動を行う)によっても異なるが、円形、角形、スリット状またはメッシュ状等から適宜選択することができる。個々の開口サイズは、給電ドラムと対向電極間の距離によっても異なるが、陽極酸化面に均一電界を印加するという観点からすれば大きすぎることは好ましくなく、例えば、給電ドラムと対向電極間の距離が10cmの場合には、円形開口で直径2cm以下とすることが好ましい。なお、対向電極としてはカーボンまたはアルミニウム等の汎用のものを使用することができる。
好ましい流動手法については、後述の[0083]の流通手段60が最も好ましい。
【0060】
陽極酸化時の電源波形としては、直流の場合が一般的であるが、他にも直流を重畳させた交流波形など所望の品質を得るために最適なものを選択できる。陽極酸化時の電流密度としては、自由に選択できる。例えば、処理時間中常に一定値としてもよいし、次第に電流密度を上げていくようにしてもよい。陽極酸化時の電解方式は定電流方式であっても定電圧方式であってもよい。
【0061】
陽極酸化は、対向電極に対し正極性の電位とすることで酸化被膜形成するが、対向電極の電位はグランドに対して負極性電圧を印加することが好ましい。これにより帯状物の電位をグランド電位近傍とすることができ、ロールツーロールで帯状物をハンドリングする設備全体をグランド電位にすることが可能となる。逆の場合は、設備全体をグランドに対して電位を持たせる必要があり、危険なばかりでなく、帯状物と設備の間でスパーク等の異常放電を生じ、製品不良を生じる可能性もある。
【0062】
とりわけ、帯状物をグランド電位に一致させ、電解用電源の正極および負極出力共に、グランドに対し絶縁出力とすることがより好ましい。これにより、電解槽以外のロールツーロール部分で帯状物と設備の異常放電を完全に防止することができる。これを模式的に示したのが、図12である。帯状物1をグランド電位に一致させるには、電解槽5以外のロールツーロール部分に、少なくとも1つの導電性ロール29を置き、その導電性ロール29を電気的にグランド接続することにより可能である。
【0063】
さらに、電解方式(給電ドラムと対向電極との間に電流を流す方式)が定電流方式若しくは定電圧方式の場合は、グランド電位に対する給電ドラムの電圧を監視することが好ましい。これにより、前述の保護部材の水密性が一時的に低下してリーク電流を生じたり、帯状物と給電ドラムの接触抵抗が変化したりするような、帯状物上の陽極酸化被膜の長手方向の品質変動要因を監視することができる。
【0064】
対向電極3は、電解液4に浸漬させた給電ドラム2に密着した帯状物1と対向する全面に略等間隔で設けられることが好ましく、その形状は給電ドラム2と同芯円状の湾曲板形状であることが好ましい。但し、対向電極3が給電ドラム2に完全に等間隔の配置で電解液4中にあると、陽極酸化される帯状物が電解液4に接液する部分および電解液4から離液する部分において、電界集中による電流集中を生じて、陽極酸化不良の原因にもなるため、実効的な電界が小さくなるようにしておくことが好ましい。このように実効電界を小さくするには、電解液抵抗を利用することが簡便であり、接液部分および離液部分のうち、少なくとも一方において、給電ドラムと対向電極間との距離を大きくする配置もしくは接液部分および離液部分のうち、少なくとも一方には対向電極を設けない配置、またはそれらを併用した配置とすることができる。
【0065】
図2においては、接液部分および離液部分において給電ドラム2と対向電極3間の距離を大きくする対向電極配置を示している。すなわち、給電ドラム2に支持された帯状物1が電解液4に接液する部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P1および帯状物1が電解液4から離液する部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P2を、帯状物1の電解液4に浸液している中央部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P3よりも大きくしている。ここで、間隔P1〜P3は給電ドラムと対向電極とを結ぶ最短距離である。このような対向電極配置とすることにより、実効電界を小さくすることができ、陽極酸化不良の発生を抑制することができる。なお、接液部分および離液部分に対向電極を設けない配置は図10に示すような配置である。
【0066】
陽極酸化処理の前段階において、帯状物は通常、洗浄処理が施される。この洗浄処理はアルミニウム表面の汚れを除去するためであり、簡便には自然酸化被膜を溶解させつつ汚れを除去する効果をもつアルカリ溶液に浸漬する等の公知の方法が用いられる。また必要に応じて、粗面化処理を施しても良い。この粗面化処理は、陽極酸化被膜の表面に凹凸を設けることにより、その上に設ける層との密着性を向上させるためのもので、機械的粗面化法、化学的粗面化法、電気化学的粗面化法またはそれらを組み合わせた公知の方法により行われる。本発明の陽極酸化装置においても、このような前処理を行う前処理槽と、前処理液を洗浄除去する水洗槽を巻出しロール21の上流に設けてもよい。
一方、陽極酸化処理後のAAO膜が製膜された帯状物は、通常、電解液を洗浄除去する水洗層を経過した後に、乾燥処理が施される。
【0067】
続いて本発明の陽極酸化装置の動作について図1および図2を参照して説明する。まず、巻出しロール21からロール状に巻回された帯状物1を送りだして、給電ドラムに密着支持させた後、巻取りロール22に巻回する。同様に、巻出しロール23からロール状に巻回された保護部材6を送りだして、巻取りロール24に巻回する。このとき、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6によって帯状物1の裏面への電解液の侵入を阻止することができるようにオーバーラップさせる。この状態としたところで、電解槽5内の電解液4に給電ドラム2の一部、例えばドラム中心までを浸漬させる。ここで駆動部を駆動し、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させ、陽極酸化装置10の電源9を入れて、給電ドラム2と対向電極3との間に電流が流れるようにすると、帯状物1の給電ドラム2に密着していない片表面に陽極酸化膜が形成される。
【0068】
図13に示す連続陽極酸化装置110は、陽極酸化装置10a、10b、10cを3つ直列に配置した構成となっており、帯状物1は巻出しロール21から送りだされて陽極酸化装置10a、10b、10cの間を送出しロール25a、26a、25b、26b、25cおよび26cを経由して巻取りロール22に巻き取られるように構成され、保護部材6は巻出しロール23から送りだされて陽極酸化装置10a、10b、10cの間を送出しロール27a、28a、27b、28b、27cおよび28cを経由して巻取りロール24に巻き取られるように構成されている。
【0069】
巻出しロール21と送出しロール25aの間には帯状物1を前処理するための前処理層11が設けられ、送出しロール26cと巻取りロール22の間には、陽極酸化された帯状物を水洗する水洗槽12と水洗後に乾燥するための乾燥槽13が設置されている。なお、図13に示す連続陽極酸化装置110においては、陽極酸化装置10a、10b、10cの3台直列で保護部材6を一括して用いる態様を示しているが、各陽極酸化装置10a、10b、10cのそれぞれにおいて個別に巻出しロール23と巻取りロール24を設ける態様としてもよい。
【0070】
アルミニウムの陽極酸化は電解液と電解条件にもよるが、電解酸化のクーロン効率は3C/(cm2・μm)程度であり、面電流密度100mA/cm2の通電電流あたりで2μm/min程度の製膜速度となる。このとき、面電流密度をD1(mA/cm2)、電解時間をt(min)、必要なAAO膜の厚さをH(μm)とすると、t=50×H/D1(min)となる。また、製膜速度をSとすると、S=0.02×D1なので、t=H/Sとなる。帯状物の電解液浸漬長をL(m)、帯状物の走行速度をLS(m/min)とすると、LS=L/t=0.02×L×D1/H=L×S/Hであり、走行速度LSはLとD1またはSに比例し、Hに反比例することとなる。
【0071】
図14に、AAO厚さHを10μmとした場合の走行速度とAAO製膜速度の関係を示したグラフを示す。図14中の(a)、(b)、(c)は、各々電解槽長Lが5、10、15mの場合である。走行速度LSは、AAO製膜速度Sに比例して大きくすることができる。本発明の場合、電解槽長Lは給電ドラムが電解液に浸漬している距離である。例えば、給電ドラムの直径が3m程度の場合、ドラム中心より少し大きく浸漬させると、電解槽長は5mとすることができる。AAO膜は片面にのみ形成され、もう片面は金属のままなので、引続き同様のドラム給電で陽極酸化することが可能である。従って、この電解槽を直列にN個配置すれば、走行速度をN倍とすることが可能となる。図14の(b)と(c)は、夫々、電解槽を直列に2台と3台配置した場合の走行速度を図示したものである。なお、図14の右側の縦軸は、後述する全浸漬方式の電解装置における帯状物の幅1cmあたりの走行方向に流れる電解電流であり、本発明の場合は、前述の通りこの電流は流れず、帯状物の裏面から直接給電される。
【0072】
従来の帯状物を全浸漬する方式の電解装置においては、前述の通り、給電部分から電解槽にかけての帯状物の走行方向に電解電流を流す必要がある。このとき、帯状物の幅1cmあたりの走行方向に流れる電解電流をD2(A/cm)とすると、単位時間に電解槽に浸漬する帯状物面積に必要厚さ分のAAOを成長させるのに必要な電流は、走行速度LS(m/min)とAAO厚さH(μm)、およびクーロン効率3C/(cm2・μm)から、D2=LS×H×[クーロン効率]×100/60=5×LS×Hとなる。従って、D2は、AAO製膜速度および電解槽長によらず走行速度とAAO厚さに比例した電流となる。図14の右の縦軸に示した値は、AAO厚さ10μmの場合なので、左の縦軸、走行速度LSに対して、D2=50×LSとなる。
【0073】
一方、帯状物の給電部分から電解槽にかけて流す電流には上限があり、アルミニウム箔が100μmでは、水冷シャワー等で充分冷却したとしても、150A/cmを超えるとアルミニウムの抵抗によるIR発熱により、熱暴走を生じ、溶断する危険性が高まる。従って、図14においてどの様な製膜速度または電解槽長で電解するにせよ、幅方向の電解電流は150A/cm以下、即ち走行速度3m/min以下とする必要がある。帯状物のIR発熱と溶断限界電流は、単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなる。また、鉄鋼、ステンレスおよびTi等の高強度ではあるが高抵抗の金属と薄いアルミニウムとを複合したクラッド材では、同様に限界電流は小さくなり、走行速度も小さくする必要がある。
【0074】
なお、従来の帯状物を全浸漬する方式の電解装置においても、直列多段設置によりライン速度を向上させることは原理的には可能である。しかしながら、片面AAO製膜の場合は、各電解装置毎に給電するために、マスキングフィルムの貼り付け工程と剥がし工程が加わるため、現実的でない。また、全浸漬する方式の電解装置において、給電方法を間接給電とする場合は、給電槽を設け、陽極酸化とは逆極性電圧を印加する。従って電解槽を多段設置し間接給電を行うと、前段の装置で製膜されたAAO膜に給電過程で逆電圧が加わることになり、AAO膜の剥離等の異常を生じる。帯状物の両面にAAOを製膜する場合は、マスキングフィルムが不要であるが、AAO被膜は絶縁性であるので両面にAAO被膜を形成してしまうと、そもそも多段給電が不可能であるばかりでなく、前述の計算のとおり走行方向に流れる電解電流は片面製膜の場合の倍の電流が必要であり、走行速度を大きくすることはさらに困難である。従って、この連続陽極酸化装置は、抵抗の高い薄いアルミニウム箔およびクラッド材に対して1μm以上の厚いAAO膜を片面に製造する場合に極めて有効な装置構成である。
以上が第1〜第4の目的を達成するための共通する陽極酸化装置に関する説明である。
【0075】
以下、本発明の第1の目的を達成するための実施形態について説明する。図3は、帯状物1に陽極酸化可能な金属を用いて、給電ドラム2に導電性材料を用いた際の、面圧と接触抵抗の関係を表したグラフである。帯状物1にどのような陽極酸化可能な金属を用いても、給電ドラム2にどのような導電性材料を用いても、略同様な傾向になる。
【0076】
図3に示すように、面圧が1000(Pa)以上で接触抵抗が急激に低下し、面圧が10000(Pa)を超えると接触抵抗の低下が飽和し、略一定の値になることを知見した。さらに、面圧が1000(Pa)以下では、接触抵抗が大きく、結果として、電力コストが大きくなり、更には発熱量も大きくなって、部分的に帯状物1の温度上昇を生じ、陽極酸化被膜ムラが発生する恐れがある。
これらの知見に基づいて、帯状物1にかける張力を制御することにより、接触抵抗を小さくできることを見出し、本発明に至った。
【0077】
帯状物1にかかる1m幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラム2の半径をR(m)とし、給電ドラム2にかかる面圧をP(Pa:N/m2)とするとき、これらは、T=P×Rの関係にある。従って、面圧を1000(Pa)以上とするためには、幅当たりの張力Tは1000×R(N/m)以上必要となる。
【0078】
一方で、面圧が10000(Pa)を超えても接触抵抗はあまり下がらないので、それ以上の面圧をかける必要はない。面圧が10000(Pa)のとき、帯状物1に必要な幅当たりの張力Tは10000×R(N/m)となり、その大きな張力に耐えられるだけの剛性を有した大掛かりな装置になってしまい、装置コストが高くなってしまう。さらには給電ドラム2の半径Rが大きくなると、それに比例して、必要な幅当たりの張力Tはますます大きくなるので、帯状物1の強度によっては弾性限界を超えてしまう恐れがある。従って、幅当たりの張力Tは10000×R以下にするのが好ましい。
【0079】
以下、本発明の第2の目的を達成するための実施形態について説明する。図4は、本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図5は、図4に示す本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
なお、第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dにおいて、図1、図2に示す第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0080】
陽極酸化は面電流密度が一般に500mA/cm2以下であるため、給電ドラム2の導電部分はそれ程高い導電性は必要ない。また、給電ドラム2の導電性材料が金属の場合、製造不安定性により電解液が染込んだ際に、金属表面(導電性材料の表面)の変質を生じ、接触抵抗が不安定になる。また、電解液が染込まないとしても、電解運転時は電解液を含むミスト(霧)が多量に発生しているため、そのミストが、給電ドラム2の帯状物1が密着する部分2a(導電性材料の表面)において帯状物1と接触していない領域で付着することにより、徐々に金属表面が変質する恐れがある。このため、給電ドラム2において帯状物1と密着する導電性材料で構成された部分(帯状物1が密着する部分2a)の表面を、電子伝導性無機化合物で構成する。この電子伝導性無機化合物は、抵抗が低く、また金属よりも硬いので耐久性も良好である。
電子伝導性無機化合物として、例えば、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種を用いることができる。これら電子伝導性無機化合物を用いた給電ドラムの場合も、全て図3に示すような接触抵抗の面圧依存性を示し、第1の目的における、幅当たりの張力Tが1000×R(N/m)以上、10000×R(N/m)以下の範囲には収まっている。
【0081】
これらの電子伝導性無機化合物の厚さは、所望とする強度または導電性によっても異なるが1μmから10mm程度が好ましい。給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bの表面は非導電性材料で構成される。非導電性材料としては、非導電性プラスチックおよび非導電ゴム等が好ましい。
【0082】
以下、本発明の第3の目的を達成するための実施形態について説明する。図15は、本発明の第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図16(a)は、図15に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略断面図であり、(b)は、図15に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
なお、第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置50において、図4、図5に示す第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図15並びに図16(a)および(b)に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置50は、図4の陽極酸化装置10に比して、給電ドラム2の構成が異なり、更には対向電極3と給電ドラム2に密着支持された帯状物1との間の隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる流通手段60が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0083】
流通手段60について説明する。流通手段60は、対向電極3に設けられた導入部62と、この導入部62を介して隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる供給部64とを有する。
【0084】
導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入して、隙間dの電解液4を隙間dから排出させるためのものである。導入部62は、例えば、対向電極3に設けられた開口部に取り付けられるノズルである。図16(a)に示すように、導入部62は、対向電極3の最下部に、給電ドラム2の回転軸2cと平行な方向に沿って設けられる。
この導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入することができれば、特に、ノズルに限定されるものではない。
【0085】
供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給し、この導入部62を介して、例えば、図16(b)に示すように、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させるものである。供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給することができれば、特に、その構成は限定されるものではなく、隙間dの電解液4と、電解槽5内の電解液4とを循環させるようなものであってもよい。例えば、供給部64には、ポンプなどが用いられる。
流通手段60においては、供給部64により、導入部62を介して、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させて、例えば、図16(a)に示すように、隙間dにある電解液4を、給電ドラム2の周面に沿うように、帯状物1の長手方向と略平行な方向に移動させて、隙間dの第1の開口30から電解液4を排出させる。これにより、温度上昇した隙間dの電解液4を、隙間dから取り除き、電解槽5内の発熱の影響のない電解液4を隙間dに供給することができる。
【0086】
続いて、陽極酸化装置50の動作について図15および図16(a)を参照して説明する。まず、巻出しロール21からロール状に巻回された帯状物1を送りだして、給電ドラムに密着支持させた後、巻取りロール22に巻回する。同様に、巻出しロール23からロール状に巻回された保護部材6を送りだして、巻取りロール24に巻回する。このとき、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6によって帯状物1の裏面への電解液の侵入を阻止することができるようにオーバーラップさせる。この状態としたところで、電解槽5内の電解液4に給電ドラム2の一部、例えばドラム中心までを浸漬させる。ここで駆動部を駆動し、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させ、陽極酸化装置50の電源9を入れて、給電ドラム2と対向電極3との間に電流が流れるようにする。このとき、流通手段60においては供給部64により、導入部62を介して電解槽5の電解液4を隙間dに導入させ隙間dの電解液4を隙間dから排出させる。これにより、帯状物1の給電ドラム2に密着していない片表面(表面1b)に陽極酸化膜が形成される。
【0087】
なお、流通手段60の構成としては、図17(a)に示す陽極酸化装置50aのように、導入部62を、隙間dの片方の第1の開口30に設けてもよい。この場合、隙間dの片方の第1の開口30から、電解槽5の電解液4が導入されて、帯状物1の搬送方向および給電ドラム2の回転方向rと反対方向に隙間dにある電解液4が移動され、残りの他方の第1の開口30から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、導入部62を、図17(a)とは反対側の隙間dの他方の第1の開口30に設け、回転方向rに沿って電解液4を移動させて隙間dの片方の第1の開口30から電解液4を排出するようにしてもよい。
【0088】
また、流通手段60の構成としては、図17(b)に示す陽極酸化装置50bのように、導入部62を複数、例えば、導入部62を2つ設けてもよい。この場合、1つは、図16(a)に示すように対向電極3の最下部に設け、残りを図17(a)に示すように、隙間dの片方の第1の開口30に設ける。隙間dの片方の第1の開口30および対向電極3の最下部から、電解槽5の電解液4が導入されて、帯状物1の搬送方向および給電ドラム2の回転方向rと反対方向に、隙間dにある電解液4が移動され、残りの他方の第1の開口30から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、図17(b)に示すように導入部62を隙間dの片方の第1の開口30に設けるのでなく、隙間dの他方の第1の開口30に設け、隙間dの片方の第1の開口30から電解液4を排出するようにしてもよい。
更には、導入部62は、2つに限定されるものではなく、複数設けることができ、3つ以上設けてもよい。
【0089】
さらには、流通手段60の構成としては、図18に示す陽極酸化装置50cのように、対向電極3aを複数、例えば、2つ、給電ドラム2の最下部があくように隙間α離間して配置し、かつ各対向電極3aと給電ドラム2とを隙間dをあけて配置してもよい。各対向電極3aに、それぞれ導入部62が設けられており、各導入部62は、供給部64に接続されている。なお、各対向電極3aと給電ドラム2とは電源9に接続されている。
この場合、供給部64により、各導入部62から電解槽5の電解液4が各対向電極3aの隙間dに導入されて各隙間dの電解液4が、隙間α、第1の開口30から排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
更には、対向電極3aは、2つに限定されるものではなく、複数設けることができ、3つ以上設けてもよい。
【0090】
また、図19(a)、図19(b)に示す陽極酸化装置52の構成としてもよい。陽極酸化装置52は、流通手段60の導入部62を対向電極3の隙間dの第2の開口32の一方に設けたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
この場合、図19(b)に示すように、供給部64により、導入部62から電解槽5の電解液4が各対向電極3aの隙間dに導入されて、隙間dにある電解液4が給電ドラム2の回転軸2c方向に沿うように帯状物1の短手方向と略平行な方向に移動されて、隙間dの開口のうち、第2の開口32から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、導入部62を複数設けてもよい。更には第1の開口30を塞ぐ他のカバー部材を設け、第2の開口32から電解液4を排出される構成としてもよい。
【0091】
電解液の流通方向は、帯状物の長手方向に略平行な方向がより好ましい。この理由は以下の通りである。
短手方向に流通させる場合、条件によっては、電解液の導入部近傍と、排出部の開口部近傍で電解液の温度または流速が変化し、均一な成膜ができずに、膜厚、膜の微細構造に分布が生じることがある。この場合、陽極酸化皮膜の性状に変化を生じる可能性がある。一方、長手方向に電解液を流通させる場合、導入部近傍と、排出部の開口部近傍で分布が生じても、帯状物を移動させながら連続的に成膜する場合、成膜後の帯状物の長手方向は、あらゆる位置で均一に成膜される。
電解液を帯状物の長手方向に流すための、より好ましい形態としては、以下に説明するように、カバー部材をつける手法等がある。
【0092】
さらにまた、電解液を帯状物の長手方向に流す場合、帯状物が電解液中に浸漬される部分、または電解液中から離脱する部分において、液の流れによる液面変動が起こりやすくなる。このように電解部分が刻々変化すると、帯状物長手方向に縞状のムラが生じて美観を損ねるほか、著しい場合においては膜厚ムラとなって陽極酸化皮膜の性状に影響を及ぼす。この問題を解消させるための、より好ましい形態としては、以下に説明するように、電解液の浸入防止手段を設ける手法等がある。
【0093】
また、図20、図21(a)、(b)に示す陽極酸化装置52aの構成としてもよい。陽極酸化装置52aは、第1のカバー部材70が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0094】
陽極酸化装置52aにおいては、図21(b)に示すように、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの第2の開口32を塞ぐ第1のカバー部材70が設けられている。この第1のカバー部材70は、対向電極3の給電ドラム2の回転軸2c方向の端部に固定されている。この第1のカバー部材70により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。
第1のカバー部材70は、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
なお、第1のカバー部材70は、図21(b)に示すように対向電極3の給電ドラム2の回転軸2c方向の端部に固定することに限定されるものではない。例えば、電解槽5の内壁に固定して隙間dの第2の開口32を塞ぐようにしてもよい。
【0095】
浸入防止手段は、例えば、隙間dの第1の開口30の上方に設けられたローラ80、82を有するものである。なお、巻出しロール21側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との接液面であり、巻取りロール22側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との離液面である。
各ローラ80、82は、帯状物1が給電ドラムと接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。帯状物1の搬送により各ローラ80、82は回転する。各ローラ80、82により、各第1の開口30から排出される電解液4が、給電ドラム2において、帯状物1が巻き掛けられていない開口領域βに流入することが防止される。これにより、給電ドラム2の変質等を抑制することができる。
浸入防止手段は、ローラ80、82のうち、少なくとも一方あればよい。更には、浸入防止手段は、ローラ80、82を有するものに限定されるものではなく、例えば、邪魔板、ブレード部材であってもよい。邪魔板、ブレード部材は、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等で形成することができる。
【0096】
また、図22(a)、図22(b)に示す陽極酸化装置52bの構成としてもよい。陽極酸化装置52bは、第2のカバー部材72が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0097】
陽極酸化装置52bにおいては、図22(a)、図22(b)に示すように、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72が給電ドラム2の回転軸2c方向の両端部に設けられている。この第2のカバー部材72は、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材からなるものである。第2のカバー部材72により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。第2のカバー部材72は、例えば、回転軸2cに固定される、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材で構成されるか、または給電ドラム2の両端面に固定され、その外縁に張出する円環部材により構成することができる。
【0098】
なお、第2のカバー部材72は、隙間dの第2の開口32を塞ぐことができれば良く、給電ドラム2に固定されることなく、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成、例えば、給電ドラム2よりも径大な薄板を回転軸2cに対して回転自在とした構成としてもよい。このように、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成とした場合には、給電ドラム2が回転しても第2のカバー部材72を所定の位置に留めておくことができる。このため、給電ドラム2の外周全域に第2のカバー部材72を設ける必要は必ずしもなく、対向電極3がある範囲に円弧状の第2のカバー部材72を設ければよい。
第2のカバー部材72は、上述の第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0099】
陽極酸化装置52bにおいては、隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72、給電ドラム2の開口領域βに電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段を設けることにより、隙間dの第1の開口30から効率良く、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができ、更には、この第1の開口30から排出された電解液4が給電ドラム2の開口領域βへの浸入を防ぐことができる。
【0100】
また、図23(a)、(b)に示す陽極酸化装置52cの構成としてもよい。陽極酸化装置52cは、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低く、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、第3のカバー部材74が設けられており、更には給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0101】
陽極酸化装置52cにおいては、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出している。この給電ドラム2と対向電極3bとの隙間dの第2の開口32を塞ぐ第3のカバー部材74が設けられている。これにより、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。
第3のカバー部材74は、第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0102】
陽極酸化装置52cにおいては、回転軸2cよりも上方に伸びる対向電極3bとし、第3のカバー部材74を設けることにより、流通手段60で電解槽5の電解液4を隙間dに流入させると、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができ、電解液4の最高液面を回転軸2cよりも上方にすることができる。これにより、浸漬長を長くすることができるとともに、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができる。なお、陽極酸化装置52cは、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができるため、帯状物1の浸漬長を長くでき、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用することができる。これにより、生産効率を高くできる。
【0103】
また、図24(a)、(b)に示す陽極酸化装置52dの構成としてもよい。陽極酸化装置52dは、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低く、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、第2のカバー部材72が設けられており、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0104】
陽極酸化装置52dにおいては、図24(a)、図24(b)に示すように、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出している。この給電ドラム2と対向電極3bとの隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72が設けられている。この第2のカバー部材72は、給電ドラム2の回転軸2c方向の両端部に、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材からなるものである。第2のカバー部材72により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。第2のカバー部材72は、例えば、回転軸2cも固定される給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材で構成されるか、または給電ドラム2の両端面に固定され、その外縁に張出する円環部材により構成することができる。
【0105】
なお、第2のカバー部材72は、上述のように隙間dの第2の開口32を塞ぐことができれば良く、給電ドラム2に固定されることなく、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成、例えば、給電ドラム2よりも径大な薄板を回転軸2cに対して回転自在とした構成としてもよい。このように、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成とした場合には、給電ドラム2が回転しても第2のカバー部材72を所定の位置に留めておくことができる。このため、給電ドラム2の外周全域に第2のカバー部材72を設ける必要は必ずしもなく、対向電極3がある範囲に円弧状の第2のカバー部材72を設ければよい。
第2のカバー部材72は、上述の第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0106】
陽極酸化装置52dにおいては、陽極酸化装置52cと同様に、浸漬長を長くすることができるとともに、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができる。なお、陽極酸化装置52dにおいても、陽極酸化装置52cと同様に、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができるため、帯状物1の浸漬長を長くでき、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用することができる。これにより、生産効率を高くできる。
【0107】
以上のように、上述の第3の目的を達成するための陽極酸化装置は、陽極酸化に伴い発熱し、温度上昇した電解液4を隙間dから取り除くことができる流通手段60を設けることにより、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの上記発熱した電解液4を、隙間dの外部に取り去ることができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。
さらには、浸入防止手段を設けることにより、電解液が、給電ドラムにおいて、帯状物が巻き掛けられていない開口領域に流入することを防止して、給電ドラムの変質等を抑制することができる。これにより、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化被膜を安定して製膜することができる。
【0108】
なお、上述の第3の目的を達成するための陽極酸化装置においても、流通手段60を電解槽5の電解液4を隙間dに導入する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、対向電極に開口部を設け、隙間dの電解液4を、第1の開口および第2の開口のうち、少なくとも一方から吸引し、隙間dの電解液を取り去る構成としてもよい。
【0109】
以下、本発明の第4の目的を達成するための実施形態について説明する。図25は、本発明の第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図26は、図25に示す第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
なお、第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置90において、図4、図5に示す陽極酸化装置10dと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図25、図26に示す陽極酸化装置90は、給電ドラム2の構成、および給電ドラム2の帯状物1が密着する、金属で構成された部分2aに、給電手段として電解液4の液面4aよりも上部に給電ロール100(第1の給電部材)が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、図4の陽極酸化装置10dと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0110】
給電手段の構成としては、図27(a)に示す陽極酸化装置90aに示すように、帯状物1が密着する部分2aではなく、電解液4の液面4aの上部に、帯状物1に接する、例えば、給電ロール104、106(第2の給電部材)を設けてもよい。
この場合、給電ロール104、106は、それぞれ、図27(a)に示すように帯状物1が給電ドラム2と接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。
給電ドラム2において帯状物1が密着する部分2aと給電ロール104、106とで帯状物1を挟むようにして給電ロール104、106が帯状物1の表面1b(第2の面)に接している。なお、給電ロール104、106は、給電ドラム2が回転すると、帯状物1に接しつつ回転する。
また、給電ロール104、106は、電源9に給電ロール100と同様に接続されており、その構成は、給電ロール100と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0111】
陽極酸化装置90aにおいては、給電ロール104、106が、給電ドラム2の回転に同期して回転しながら、帯状物1に電流を印加することができる。なお、給電ロール104、106は、給電ドラム2(帯状物1が密着する部分2a)とともに帯状物1を挟むようにして帯状物1の表面1b(第2の面)に配置されており、給電ロール104、106により帯状物1の表面1bから電流を印加しているため、帯状物1の走行方向(長手方向)に電流が流れることが抑制され、給電ドラム2を介し帯状物1に電流を印加することに等しい。このため、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなるが、このような限界電流を考慮することなく、帯状物1に電流を印加することができる。
【0112】
さらには、給電手段の構成としては、図27(b)に示す陽極酸化装置90bのように、帯状物1が密着する部分2aではなく、電解液4の液面4aの上部に、帯状物1に接する、例えば、給電部材108(第2の給電部材)を設けてもよい。
この給電部材108は、給電部材102と同じく摺動部材で構成され、給電部材102と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
陽極酸化装置90bにおいては、帯状物1の表面1bに摺動しながら、図27(a)に示す陽極酸化装置90aの給電ロール104、106と同じく、帯状物1に電流を印加することができる。なお、給電部材108は、給電ロール104、106と同じく帯状物1の表面1bから電流を印加しているため、給電ドラム2を介し帯状物1に電流を印加することに等しい。このため、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなるが、このような限界電流を考慮することなく、帯状物1に電流を印加することができる。
【0113】
また、図28に示す陽極酸化装置92の構成としてもよい。陽極酸化装置92は、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図25の陽極酸化装置90と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0114】
この際の浸入防止手段は、図28に示すように、例えば、隙間dの第1の開口30の上方に設けられたローラ80、82を有するものである。なお、巻出しロール21側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との接液面であり、巻取りロール22側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との離液面である。
各ローラ80、82は、帯状物1が給電ドラムと接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。帯状物1の搬送により各ローラ80、82は回転する。各ローラ80、82により、各第1の開口30から排出される電解液4が、給電ドラム2において、帯状物1が巻き掛けられていない開口領域βに流入することが防止される。このような浸入防止手段がない場合、液が開口領域βに流入し、給電部材に電解液がかかってショート、漏電等につながる恐れがあり、危険である。また、陽極酸化中に発生した電解液のミストによる腐食、または発生した水素ガスが給電部分に流入し、万一のスパーク等による爆発が発生する恐れもある。この浸入防止手段を用いることにより、上記の問題を抑制することができる。
【0115】
浸入防止手段に関しては、上述のこと以外は図20の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
なお、陽極酸化装置92において、給電手段は給電ロール100に限定されるものではなく、給電ロール100に代えて、例えば、図27に示す給電部材102を設けてもよい。
【0116】
また、図29に示す陽極酸化装置92aの構成としてもよい。陽極酸化装置92aは、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、対向電極3と給電ドラム2に密着支持された帯状物1との間の隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる流通手段60が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものであり、かつ給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低いこと以外の構成は、図25の陽極酸化装置90と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0117】
陽極酸化装置92aにおいては、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出しており、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低くなる。すなわち、電解液4の最高液面が回転軸2cよりも高い位置になる。これにより、帯状物1の浸漬長を長くすることができ、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用でき、生産効率を高くすることができる。
【0118】
陽極酸化装置92aにおいて、流通手段60は、対向電極3bに設けられた導入部62と、この導入部62を介して隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる供給部64とを有する。
導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入して、隙間dの電解液4を隙間dから排出させるためのものである。導入部62は、例えば、対向電極3bに設けられた開口部に取り付けられるノズルである。導入部62は、対向電極3bの最下部に、給電ドラム2の回転軸2cと平行な方向に沿って設けられる。この導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入することができれば、特に、ノズルに限定されるものではない。
【0119】
供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給し、この導入部62を介して、例えば、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させるものである。供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給することができれば、特に、その構成は限定されるものではなく、隙間dの電解液4と、電解槽5内の電解液4とを循環させるようなものであってもよい。例えば、供給部64には、ポンプなどが用いられる。
流通手段60においては、供給部64により、導入部62を介して、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させて、例えば、隙間dにある電解液4を、給電ドラム2の周面に沿うように、帯状物1の長手方向と略平行な方向に移動させて、隙間dの第1の開口30から電解液4を排出させる。これにより、温度上昇した隙間dの電解液4を、隙間dから取り除き、電解槽5内の発熱の影響のない電解液4を隙間dに供給することができる。
これにより、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの上記温度上昇した電解液4を、隙間dの外部に取り去ることができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。
なお、隙間dの開口のうち、給電ドラム2の回転軸2c方向の第2の開口をカバー部材で防ぐ構成としてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1 帯状物
2 給電ドラム
2a 帯状物密着部分
3 対向電極
4 電解液
5 電解槽
6 保護部材
7 ガイドローラー
10、50、90 陽極酸化装置
60 流通手段
62 導入部
64 供給部
70 第1のカバー部材
72 第2のカバー部材
74 第3のカバー部材
80、82 ローラ
100 給電ロール
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、薄膜トランジスタ回路、ディスプレイ(画像表示装置)等の半導体装置の用途に有用な半導体素子用基板および電解コンデンサー用電極を製造するのに適した陽極酸化装置、連続陽極酸化装置ならびに製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の基板を用いた薄膜太陽電池は、基板の軽量性および可撓性(フレキシビリティー)という観点から、ガラス基板を用いたものに比較して、広い用途への適用の可能性がある。さらに、金属製の基板は高温プロセスにも耐えうるという点で、光電変換特性が向上するため太陽電池の高効率化が期待できる。
【0003】
太陽電池モジュ−ルは、同一基板上で太陽電池セルを直列接続し集積化することで、モジュール効率を向上させる。このとき、太陽電池モジュ−ルの金属基板には絶縁層を形成し、この上に光電変換を行う半導体回路層を設ける必要がある。例えば、ステンレス等の鉄系素材を基板に用いた場合は、CVD等の気相法またはゾルゲル法等の液相法によりSiまたはアルミニウムの酸化物を被覆し絶縁層を形成する必要がある。しかし、これらの手法は、製法的にピンホールまたはクラックを発生し易く、大面積の薄膜絶縁層を安定に作製する手法としては本質的な課題を抱えている(特許文献1)。
【0004】
一方、アルミニウムの場合には陽極酸化膜(AAO)を形成することにより、ピンホールが無く密着性良好な絶縁被膜を得ることができる(特許文献2)。しかし、アルミニウム上のAAOは、120℃以上に加熱するとクラックが発生することが知られており(非特許文献1)、絶縁性、特にリーク電流が増大してしまうという問題を抱えている。また、アルミニウムは200℃程度で軟化するため、この温度以上を経たアルミニウムは極めて強度が小さく、クリープ変形または座屈変形といった永久変形(塑性変形)を生じ易く、これを用いる半導体装置の製造時にはハンドリングに厳しい制限が必要である。これは屋外用太陽電池などへの適用を困難なものにしている。
【0005】
上記問題を解決するため、所謂アルミニウムクラッド材からなる基板に絶縁層としてAAOを形成し、その上に光吸収層である化合物半導体層または電極層を形成する方法が提案されている。この方法では金属基板と化合物半導体層の線膨張係数の差を小さく設計することが可能であり、500℃以上の高温製膜となる化合物半導体層の形成工程においても、絶縁層のクラックおよび化合物半導体の剥離などの問題を生じない。またアルミニウムと複合させる金属基材は、アルミニウムに比較して比強度および高温強度が大きいため、製造時のハンドリングも容易である。
【0006】
絶縁層としてのAAOは、電池モジュールとした時の高い電圧で絶縁破壊しないだけでなく、電圧印加時のリーク電流も小さいこと、すなわち体積抵抗が高い必要がある。リーク電流が大きいと、発電した電流が個々の電池間で漏れ電流となり、モジュール発電効率が低下する。従って、AAOは前述の性能を担保するため、1μm以上、好ましくは5μm以上の厚さが必要となる。
【0007】
帯状アルミニウムを連続的に陽極酸化するときの一般的な装置は、電解槽の前部に給電ロールまたは給電槽を置き、アルミニウムに電流を供給する構成であり、給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムにも電流が流れる。陽極酸化とは電解酸化(アルミニウムの場合は3電子反応)であり、AAOの厚さは流した電気量に比例する。従って、帯状アルミニウムを連続的に陽極酸化する装置の場合、ライン速度(帯状アルミニウムの走行速度)にも比例した電流を給電する必要がある。このとき、給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムにも同様に比例した電流が流れることになるので、AAO厚が厚いほど、またライン速度が大きくなるほど、電圧降下が大きくなって電力ロスが発生する。さらに給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムはIR発熱により溶断する可能性があり、生成するAAO厚とライン速度には上限が存在する。発熱と溶断限界電流は帯状アルミニウムの単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど、生成可能なAAO厚とライン速度の上限は小さくなる。
【0008】
一方で、帯状の薄いアルミニウム箔の片面にのみ厚いAAOを形成したいという要求があり、一例は前述の絶縁層付金属基板である。この場合、片面にマスキングフィルムを貼り、前述の装置で製造することは可能であるが、AAO厚とライン速度には上限が存在する。また、メッキなどのadditive被膜と異なり、AAOはsubtractive被膜であり、マスキングフィルム端面からの電解液侵入が生じると、容易に被膜形成する。従って高粘着力のマスキングフィルムを選定する必要がある。さらにクラッド材のような異種金属が接合された帯状金属箔の場合は、局部電池作用による副反応を防止するため、異種金属同士が露出した幅方向の側端面もマスキングフィルムを貼り、電気化学的に不活性にしておく必要がある。
【0009】
帯状アルミニウムの片面にのみAAOを製膜する装置は種々提案されている。代表例は、陽極酸化槽に断面円上の支持ドラムを置き、それにアルミニウム箔を密着させてアルミニウム箔の片面のみを陽極酸化させる手法である(特許文献3)。また、支持ドラムに導電性を持たせ、ドラムに給電する手法も提案されている(特許文献4)。後者の場合は、アルミニウム箔の裏面から直接給電することになるので、前述の電圧降下および発熱を無視できるレベルにまで低下させることが可能である。
【0010】
しかしながら、この手法では、支持ドラムとアルミニウム箔の間に電解液の染込みが容易に生じる。陽極酸化槽側はAAO被膜が形成され過電圧が高くなっているので、支持ドラムに電解液が染込むと支持ドラムと対向電極間の直接電流が大きくなり、陽極酸化槽側のAAO被膜形成電流に対する電流ロスとなる。また、このロス電流は、給電ドラムの密着面に電気化学的作用を及ぼすことになり、密着面側のアルミニウムに対しても陽極酸化被膜を形成したり、給電ドラムが金属である場合はその表面が陽極酸化されたりアノード溶解したりして、いずれも密着面の接触抵抗が高くなって、スパーク等の局部不良を生じる可能性がある。
【0011】
上記のような問題を解決するため、特許文献4では給電ドラムの材質をタンタル、ニオブ等のいわゆるバルブメタルとする装置が提案されているが、この方法では電解操業時間に伴いバルブメタル表面に陽極酸化被膜が成長する。従って接触抵抗が徐々に増加するため、頻繁に交換する必要があるが、これらの材質は高価であり実用性に欠ける。一方、特許文献5では、アルミニウム箔と支持ローラとの密着面に水を供給することで密着面の電気化学的作用を防止する方法が提案されている。また、特許文献6では、アルミニウム箔の両端をテンションをかけた不導体の圧接バンドで覆い、接触面に電解液が流入することがないようにした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−339081号公報
【特許文献2】特開2000−49372号公報
【特許文献3】特開平4−371892号公報
【特許文献4】特開昭60−211093号公報
【特許文献5】特開平6−108289号公報
【特許文献6】特開昭46−39441号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】茅島,他,東京都立産業技術研究所研究報告3(2000)p21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献5は装置が複雑になるばかりでなく、電解液がドラム密着面の水によって薄められるため、常に電解液の濃度管理を行う必要がある。また、密着面上の薄層の水が電気分解によりガスが発生すると、薄層が気膜となって接触抵抗が上がり、返ってスパーク等の原因になる可能性もある。一方、特許文献6に記載されているテンションをかけたバンドで覆う方法では、バンドは給電ドラムまたはアルミニウム箔と常に褶動することになり、バンドがアルミニウム箔の端部から位置ズレし易く、連続操業が困難である。また、圧接したテンションをかけることによって、薄いアルミニウム箔の場合はしわが入ってしまい、そのしわ部分から電解液が流入する可能性がある。
【0015】
このように、いずれの方法によっても、密着面側の陽極酸化被膜形成は完全には防止出来ないため、接触抵抗が不安定になるという問題は解決できない。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、接触抵抗が小さい陽極酸化装置、連続陽極酸化装置、および陽極酸化装置または連続陽極酸化装置を用いた製膜方法を提供することを第1の目的とするものである。さらには、第1の目的に加えて、より接触抵抗を低く、接触抵抗変化も小さくするための製膜方法を提供することを第2の目的とするものである。
【0016】
上述のように、従来からAAOを製膜する装置は種々提案されているものの、陽極酸化に伴う発熱を、効率よく系外に持ち去ることができず、発熱・温度分布が生じ、陽極酸化面内において反応が不均一になり、陽極酸化膜の焼け、陽極酸化膜の膜厚ムラなどが発生するという問題点がある。
また、上述のように、従来から種々提案されているAAOを製膜する装置においては、ドラムの回転、箔の移動、電解液の攪拌、または陽極酸化に伴う水素ガス発生などによって、電解液面が一定の高さに保たれないため、陽極酸化範囲が常に変動し続けてしまい、陽極酸化膜の部分的な膜厚ムラ、陽極酸化膜の表面の荒れなどが生じるという問題点がある。
【0017】
この課題に対して、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な製膜方法を提供することを第3の目的とするものである。
【0018】
また、上述のように、従来からAAOを製膜する装置は種々提案されており、特許文献4に開示されているように、支持ドラムに導電性を持たせ、ドラムに給電し、金属箔(アルミニウム箔)の裏面から直接給電する方法が提案されている。
AAOを製膜する装置において、金属箔の陽極酸化面への電流供給方式としては、ドラムの軸からドラムの表面へ、そして金属箔の順に電流供給する方式、または金属箔に直接給電する方式がある。前者のドラムの軸を介する方式では、ドラムの軸受けの機構が煩雑になるほか、ドラムの軸によって通電できる電流に上限があるという問題がある。また、後者の金属箔に直接給電する方式では、金属箔内部に電流が流れるため、ジュール発熱、限界電流などの問題がある。
また、前述のように、AAO厚が厚いほど、またライン速度が大きくなるほど、電圧降下が大きくなって電力ロスが発生する。さらに給電部分から電解槽にかけてのアルミニウムはIR発熱により溶断する可能性があり、生成するAAO厚とライン速度には上限が存在する。発熱と溶断限界電流は帯状アルミニウムの単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど、生成可能なAAO厚とライン速度の上限は小さくなる。
さらには、AAOを製膜する装置においては、電解液に浸かっている金属箔(アルミニウム箔)の部分ができるだけ広いほうが生産性が高く、回転軸を電解液面より下にすることによって、ドラムの過半を利用できて生産効率がよい。しかしながら、ドラムの回転軸を通した給電方式では、回転軸を電解液面より下にすることが難しいという問題がある。
【0019】
この課題に対して、簡単な構成で給電することができる製膜方法を提供することを第4の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の目的を達成するためには、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物が巻き掛けられて密着支持し、少なくともこの帯状物が密着する部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、この給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と対向電極とを浸漬する電解液で満たされた電解槽と、給電ドラムに密着支持された帯状物の短手方向端部と、給電ドラムのうち帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして電解液から保護する非導電性材料からなる保護部材と、給電ドラムの周速に同期させて給電ドラムに密着させた帯状物と保護部材を電解液中で共走行させる駆動部とを有し、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラムの半径をR(m)とすると、電解液中を共走行される帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値は、1000×R以上であることが望ましい。また、より好ましくは、帯状物に、1000×R以上、10000×R以下の値の幅当たりの張力T(N/m)をかけることが望ましい。
【0021】
本発明の第2の目的を達成するためには、第1の目的を達成するための好ましい張力をかけることに加えて、さらに、給電ドラムにおいて帯状物と密着する部分の表面が、電子伝導性無機化合物で構成されていることが望ましい。
【0022】
電子伝導性無機化合物は、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種であることが好ましい。給電ドラムは、密着する部分の表面の下層が金属で構成されており、下層の金属は陽極酸化される金属であることが好ましい。陽極酸化される金属は、アルミニウムであることが好ましい。
【0023】
本発明の第3の目的を達成するためには、第1および第2の目的を達成するための製膜方法の、電解液の流通手段について、対向電極と、給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間にある電解液を隙間から移動させる流通手段を有することが望ましい。
【0024】
流通手段は、隙間にある電解液を帯状物の長手方向と略平行な方向に移動させることが好ましい。
対向電極に開口部が設けられており、流通手段は、開口部を介して電解液を対向電極と、給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間に供給することが好ましい。
流通手段は、隙間の電解液を、帯状物の長手方向と略平行な方向に排出させることが好ましい。
【0025】
隙間の開口のうち、給電ドラムの回転軸方向における第2の開口を塞ぐカバー部材が設けられており、流通手段により、隙間の電解液が、隙間のうち、帯状物の長手方向と略平行な方向における第1の開口から排出されることが好ましい。
カバー部材は、電解槽または対向電極に固定されるものであることが好ましい。また、カバー部材は、給電ドラムの回転軸に固定されるものであるか、または相対的に回転可能なものであることが好ましい。
給電ドラムにおいて帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることが好ましい。
浸入防止手段は、帯状物が給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材を有することが好ましい。
給電ドラムの回転軸が、電解液の液面よりも低いことが好ましい。
【0026】
本発明の第4の目的を達成するためには、第1、第2および第3の目的を達成するための製膜方法において、電解液の液面より上部に設けられた、帯状物に電流を印加する給電手段とを有することが望ましい。
【0027】
給電手段は、給電ドラムの金属部に接する第1の給電部材を有することが好ましい。
また、給電手段は、帯状物に接する第2の給電部材を有することが好ましい。この場合、第2の給電部材と給電ドラムの金属部とで帯状物を挟むようにして、第2の給電部材は帯状物に接していることが好ましい。
第1の給電部材および第2の給電部材は、金属ロールまたはカーボンロールであることが好ましい。また、第1の給電部材および第2の給電部材は、金属ブラシまたはカーボンブラシであることが好ましい。
【0028】
給電ドラムにおいて帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることが好ましい。浸入防止手段は、帯状物が給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材を有することが好ましい。
第2の面に接するローラ、または第2の面に接するブレード部材は、電解液と帯状物との接液面および離液面のうち、少なくとも一方に設けられていることが好ましい。
給電ドラムの回転軸が、電解液の液面よりも低いことが好ましい。
【0029】
第1〜第4の目的において、給電ドラムには帯状物が内接走行する凹部が設けられていることが好ましい。保護部材を給電ドラムに圧接するガイドローラーを設ける態様としてもよい。対向電極は多数の貫通孔を有することが好ましい。
【0030】
第1〜第4の目的において、給電ドラムに支持された帯状物が電解液に接液する部分および離液する部分のうち、少なくとも一方における給電ドラムと対向電極との間隔が、帯状物の電解液浸液中央部分における給電ドラムと対向電極との間隔よりも大きいことが好ましい。
【0031】
第1〜第4の目的において、保護部材は非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることが好ましい。また、保護部材は、帯状物に密着する側に粘着性物質を有することが好ましい。
【0032】
第1〜第4の目的において、対向電極の電位がグランドに対して負極性であることが好ましい。とりわけ、帯状物をグランドと同電位とし、かつ陽極酸化のための電解用電源をグランドに対して絶縁出力とすることが好ましい。グランドの電位に対する給電ドラムの電圧を監視する監視部を備えていることがさらに好ましい。
【0033】
第1〜第4の目的を達成するための連続陽極酸化装置は、第1〜第4の目的を達成するための製膜方式での陽極酸化装置を直列に多数配置したことを特徴とするものであり、本発明の製膜方法は、それぞれ第1〜第4の目的を達成するための陽極酸化装置または連続陽極酸化装置を用いて、帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の第1の目的においては、給電ドラムの半径をR(m)とする場合、給電ドラムに巻き掛けられた帯状物は幅当たり1000×R以上の値の張力(N/m)をかけられて電解液中を共走行させる構成とすることにより、帯状物の接触抵抗を小さくすることができる。このため、電力消費を抑制し電力コストを抑制でき、ひいては製造コストを下げることができる。さらには、帯状物と給電ドラムにおいてこの帯状物が密着する部分との発熱を抑制することができるので、部分的な帯状物の温度上昇による陽極酸化被膜ムラを抑えることができる。
【0035】
本発明の第2の目的においては、給電ドラムにおいて帯状物と密着する部分の表面を電子伝導性無機化合物で構成することにより、電子伝導性無機化合物は抵抗が低く、また金属よりも硬いので耐久性が良好であることから、帯状物との接触抵抗変化が小さく、かつ連続製造時の耐久性が高い給電ドラムとすることができる。さらには、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した低い接触抵抗により、帯状物の片面に陽極酸化被膜を長期に亘り安定して製膜することができる。
【0036】
本発明の第3の目的においては、対向電極と給電ドラムに密着支持された帯状物との間の隙間にある電解液を、この隙間から移動させる流通手段を有することにより、陽極酸化に伴い発熱した電解液を、効率よく隙間の外に排出することができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。さらには、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した接触抵抗により、帯状物の片面に、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0037】
本発明の第4の目的においては、電解液の液面より上部に設けられた、帯状物に電流を印加する給電手段とを有することにより、従来のドラムの軸受け機構が煩雑なドラムの軸を介する方式とは異なり、簡単な構成で給電することができる。
さらには、給電手段を、電解液の液面より上部に設けることにより、回転軸を電解液面よりも下にでき、製膜に給電ドラムの周面を有効に利用することができ、生産効率を高くすることができる。
【0038】
第1〜第4の目的において、帯状物は給電ドラムに密着支持されており、しかも、給電手段により帯状物が密着する側の接触面(裏面)から直接給電することができるので、電圧降下および発熱を無視できるレベルにまで低下させることが可能となり、ライン速度を上げることができるため、単位幅における長さあたりの抵抗が高い帯状物であっても、高速で陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0039】
さらに、第1〜第4の目的において、給電ドラムに帯状物が内接走行する凹部が設ける態様、または保護部材を給電ドラムに圧接するガイドローラーを設ける態様とした場合には、保護部材による帯状物の短手方向端部と給電ドラムのうち帯状物が密着しない部分とのオーバーラップの水密性をより向上させることが可能となり、より安定した接触抵抗により、帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することができる。
【0040】
また、第1〜第4の目的において、本発明の連続陽極酸化装置は上記記載の陽極酸化装置を直列に多数配置したものであるので、個々の陽極酸化装置における給電ドラムでの面電流密度を陽極酸化不良の生じない最大に保ったまま、設置数のN倍のライン速度で製造が可能となり、抵抗の高いアルミニウムからなる薄い帯状物または少なくとも片面がアルミニウムである複合導電金属箔からなる帯状物に対して、5μm以上の厚いAAO膜を高速で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図3】本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の給電ドラムにおける面圧と接触抵抗との関係を示したグラフである。
【図4】本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図5】図4に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図6】(a)は、陽極酸化されない金属で構成された下地金属の表面に形成された導電部分(導電性材料)にピンホールがある給電ドラムの要部を示す概略断面図であり、(b)は、下地金属に空洞が形成された給電ドラムの要部を示す概略断面図である。
【図7】(a)は、陽極酸化される金属で構成された下地金属の表面に形成された導電部分(導電性材料)にピンホールがある給電ドラムの要部を示す概略断面図であり、(b)は、ピンホール部分に酸化物被膜が形成された給電ドラムの要部を示す概略断面図である。
【図8】帯状物が内接走行する凹部を設けた給電ドラムの概略正面模式図である。
【図9】給電ドラムの幅と径および帯状物と保護部材との関係を示す概略模式図である。
【図10】ガイドローラーが設けられた陽極酸化装置の一例を示す概略断面図である。
【図11】図10のガイドローラーが設けられた給電ドラムの概略正面図である。
【図12】対向電極の電位をグランドに対して負極性とする場合の陽極酸化装置の概略模式図である。
【図13】本発明の第1〜第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を直列に多数配置した連続陽極酸化装置の概略模式図である。
【図14】走行速度とAAO製膜速度の関係を示したグラフである。
【図15】本発明の第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図16】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の概略断面図であり、(b)は、図15に示す陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
【図17】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第1の変形例を示す概略断面図であり、(b)は、図15に示す陽極酸化装置の第2の変形例を示す概略断面図である。
【図18】図15に示す陽極酸化装置の第3の変形例を示す概略断面図である。
【図19】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第4の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図19(a)に示す陽極酸化装置の概略側面断面図である。
【図20】図15に示す陽極酸化装置の第5の変形例を示す概略斜視図である。
【図21】(a)は、図20に示す陽極酸化装置の概略断面図であり、(b)は、図20に示す陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
【図22】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第6の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図22(a)に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図23】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第7の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図23(a)に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図24】(a)は、図15に示す陽極酸化装置の第8の変形例を示す概略斜視図であり、(b)は、図24(a)に示す陽極酸化装置を示す概略断面図である。
【図25】本発明の第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。
【図26】図25に示す陽極酸化装置の概略断面図である。
【図27】(a)は、図25に示す陽極酸化装置の第1の変形例を示す概略断面図であり、(b)は、図25に示す陽極酸化装置の第2の変形例を示す概略断面図である。
【図28】図25に示す陽極酸化装置の第3の変形例を示す概略断面図である。
【図29】図25に示す陽極酸化装置の第4の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の陽極酸化装置、連続陽極酸化装置および製膜方法を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図、図2は図1に示す第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
以下、本発明の第1〜第4の目的を達成するに共通する陽極酸化装置について説明する。
【0043】
図1および図2に示すように、本発明の陽極酸化装置10は、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物1(以下、単に帯状物1ともいう)を密着支持し、少なくとも帯状物1が密着する部分2aは導電性材料で構成された給電ドラム2と、給電ドラム2に対向して設けられた対向電極3(図1において対向電極は他の部分を視認しやすくするために省略している)と、帯状物1を密着支持した給電ドラム2の一部と対向電極3とを浸漬する電解液4で満たされた電解槽5と、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部(両側)と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2b(2bは導電性のない表面である)とをオーバーラップして電解液4から保護する非導電性材料からなる保護部材6とを有する。給電ドラム2と対向電極3とには電源9が接続されており、陽極酸化膜の成膜時に、給電ドラム2を介して帯状物1が陽極となるように電流が流される。
【0044】
さらに、給電ドラム2の上流側には帯状物1をロール状に巻回する巻出しロール21が、下流側には給電ドラム2に送りだされた帯状物1の片面に陽極酸化を実施した後の帯状物1を巻き取る巻取りロール22が設けられている。また、給電ドラム2と巻出しロール21の間には、保護部材6をロール状に巻回する巻出しロール23が、給電ドラム2と巻取りロール22の間には、保護部材6を巻き取る巻取りロール24が、保護部材6によって帯状物1と帯状物1が密着しない部分2bとをオーバーラップできるように帯状物1の両側にそれぞれ設けられている。巻取りロール22および24にはそれぞれ駆動部(図示せず)が設けられており、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させることができるようになっている。
【0045】
なお、ここでは巻取りロール22および24に設けられた駆動部が巻取りロール22および24のそれぞれを駆動して、陽極酸化実施後の帯状物1および保護部材6が巻取りロール22および24に巻取られる態様について説明しているが、巻取りロール22および24は単に回転自在な構成で、帯状物1および保護部材6を送り出すだけの機能を有し、その下流にそれぞれ別の駆動部で制御された巻取りロールが配置されている構成であってもよい。なおこの構成の場合には、巻取りロール22と駆動部で制御された別の巻取りロールとの間に、陽極酸化された帯状物を水洗する水洗槽または水洗後に乾燥するための乾燥槽を設置してもよい。
【0046】
給電ドラム2そのものは単に回転自在な構成となっており、上記で説明した駆動部を駆動することによって給電ドラム2は、帯状物1の一方の面のみを電解液4に浸漬した状態で搬送するようになっている。但し、給電ドラム2は駆動源が設けられていてそれ自身が回転するものであってもかまわない。
【0047】
給電ドラム2の直径は生産規模と陽極酸化の製膜速度にもよるが、一般的に50cm〜500cmの範囲で適宜選択することができる。給電ドラム2の帯状物1が密着する部分2aは導電性材料で構成されており、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bは非導電性材料で構成される。給電ドラム2の帯状物1が密着する導電性材料の幅は、必ずしも帯状物1の幅と一致させておく必要はなく、帯状物1の蛇行を許容できる限りの導電材料幅としておけばよい。導電性材料の幅は好ましくは帯状物1に対して50〜100%、さらには70〜90%とすることが望ましい。
【0048】
給電ドラム2は、機械的強度と電解電流を供給するため、帯状物1が密着する部分2aの表面の下層を金属とするのが好ましい。この場合、下層の金属(以下、下地金属ともいう)は陽極酸化される金属(バルブメタル)であることが好ましい。この陽極酸化される金属としては、Ti、Nb、Ta、Al等を用いることができ、この中で、アルミニウム(Al)は最も導電性が高く、且つ安価であるので、上記下層の金属(下地金属)として最も好ましい。アルミニウムとしては、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を使用することができる。アルミニウム合金は一般に90%以上の純度を有するものが好ましく用いられる。
【0049】
例えば、図6(a)に示す給電ドラム2のように、陽極酸化されない金属で構成された下地金属40の表面に形成された導電部分42(導電性材料)にピンホールhがある場合、電解液を含むミストと下地金属40とが接触すると、下地金属40が徐々に溶解していき、図6(b)に示すように、空洞44ができる恐れがある。
しかしながら、図7(a)に示す給電ドラム2のように、陽極酸化される金属(バルブメタル)で構成された下地金属46では、導電部分42(導電性材料)にピンホールhがあり、電解液を含むミストと下地金属46とが接触した場合、下地金属46は溶解されることなく、図7(b)に示すように、ピンホールh部分に強固な酸化物被膜48が形成される。このため、製膜の際に実質上の問題がない。
【0050】
保護部材6は非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることが好ましい。より水密性を上げるために、帯状物1に密着する側に粘着性を有する材質を塗布したものであってもよい。
給電ドラム2の直径にもよるが、共走行させる保護部材は水密性を確保するため、張力を掛けておくことが好ましく、大径給電ドラムの場合は、鋼芯入りの非導電ゴムベルトなどをより好ましく使用することができる。
【0051】
帯状物1は、陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる。陽極酸化可能な金属としては、アルミニウム、Nb、Ta、Tiからなる帯状物、または少なくとも片面がこれらの金属である複合導電金属箔からなる。これらの金属は合金であってもよい。例えば、アルミニウムの場合、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を使用することができる。アルミニウム合金は一般に90%以上の純度を有するものが好ましく用いられ、陽極酸化被膜を絶縁膜として利用する場合は、金属Si粒子を析出物として含まない方が好ましい。
【0052】
複合導電金属箔として陽極酸化可能な金属に複合させる金属は、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、Ti等を好ましく挙げることができる。帯状物の厚みは、一般に、0.02〜0.5mmの範囲である。このような単位幅における長さあたりの抵抗が高い帯状物であっても、帯状物を給電ドラムに密着支持して、帯状物の裏面から直接給電することができるので、より高速で陽極酸化被膜を形成することができる。
【0053】
電解液4としては、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸またはそれらの塩の水溶液、またはそれらの混合液が挙げられるが、所望の品質を得るために最適なものを選べばよい。電解液の濃度、温度も適宜選択することができる。
【0054】
図1の陽極酸化装置10は、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向の両端部と帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6がオーバーラップして給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させることができるので、従来、片面に陽極酸化被膜を形成する際に必要とされていたマスキングフィルムを用いなくても、電解液4の染込みを防止することができる。また、帯状物1の短手方向の両端部は保護部材6によって完全に保護されているので、クラッド材の様な異種金属が接合された帯状物に陽極酸化を行う場合であっても、局部電池作用による副反応が起こることがない。そして、給電ドラムと帯状物との密着面側の陽極酸化被膜形成を完全に防止することが可能となり、安定した低い接触抵抗により、金属基板の片面に高速に陽極酸化被膜を長期に亘り安定して製膜することができる。
【0055】
図1の陽極酸化装置10は、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6との水密性をさらに向上させるべく、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6の蛇行を抑制するために、帯状物1と保護部材6の走行部分の給電ドラム2の径を小さくする態様としてもよい。図8および図9を用いて説明する。図8は給電ドラムに帯状物と保護部材がそれぞれ内接走行する凹部を設けた給電ドラムの概略正面模式図、図9は給電ドラムの幅と径および帯状物と保護部材の関係を説明するための概略模式図である。なお、この図8および図9において図1および図2中の構成要素と同一構成物には同一符号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する。
【0056】
図8および図9に示すように、給電ドラム2には帯状物1が内接走行する凹部(切欠け部)と保護部材6が内接走行する凹部が設けられている。図9において、W3およびD3は給電ドラム2の全幅とドラム径を、W2およびD2は保護部材6が給電ドラム2に接触する外側の幅とドラム径を、W1およびD1は帯状物1の幅とドラム径を、W0は給電ドラムの導電材料部分の幅を示している。ドラム径の関係をD3>D2>D1とすることにより、帯状物1とオーバーラップさせる保護部材6とはそれぞれ給電ドラム2に設けられた凹部によって蛇行が抑制され、上記ドラム幅の関係をW3>W2>W1>W0とすることにより、保護部材6によって帯状物1は水密性よくオーバーラップされることとなり、帯状物1の裏面への電解液の侵入をより効果的に阻止することができる。なお、ここでは給電ドラム2に、帯状物1が内接走行する凹部と保護部材6が内接走行する凹部がそれぞれ設けられている態様を示したが、帯状物1が内接走行する凹部のみを設ける態様としてもよい。
【0057】
図1の陽極酸化装置10は、保護部材6を給電ドラム2に圧接するガイドローラーが設けられている態様としてもよい。図10および図11を用いて説明する。図10はガイドローラーが設けられた陽極酸化装置の一例を示す概略断面図、図11は図10のガイドローラーが設けられた給電ドラムの概略正面図である。図10および図11に示すように、この陽極酸化装置10eには、帯状物1の短手方向の両端部と帯状物1が密着しない部分2bとをオーバーラップする保護部材6を給電ドラム2に圧接するためのガイドローラー7を4か所に設けている。なお、ガイドローラー7の表面は絶縁処理がなされている。このようなガイドローラー7を設けることにより、保護部材6によって帯状物1はより水密性よくオーバーラップされて、帯状物1の裏面(給電ドラムと密着している面)への電解液の侵入を阻止することができる。
【0058】
なお、ここではガイドローラー7を、給電ドラム2の電解液4に浸漬している部分にのみ設けた態様を示しているが、ガイドローラー7は給電ドラム2の電解液4に浸漬していない部分にも設ける態様としてもよい。例えば、ガイドローラー7を、給電ドラム2の電解液4に浸漬していない部分(保護部材6の巻出しロール23と電解液4との間)にのみ設けても、保護部材6の蛇行を防止できるため、帯状物1と帯状物1が密着しない部分2bとを水密性よくオーバーラップさせることが可能である。
【0059】
陽極酸化においては反応中に対向電極からは多量の水素ガスが発生し、浮力で帯状物の陽極酸化面に到達する。陽極酸化面に気膜ができると陽極酸化不良を生じるので、電解槽内で電解液を流動する必要がある。流動させる手段は、攪拌、ガスのバブリング、液の流通等、問わない。この流動の効率化を図るために、対向電極は多数の貫通孔を有することが好ましい。貫通孔の形状は電解液の流動形式(小型の装置の場合には撹拌子(スターラー)を選択したり、大型の装置の場合には電解液に流れを発生させたり、攪拌翼、またはガスバブリングにて流動を行う)によっても異なるが、円形、角形、スリット状またはメッシュ状等から適宜選択することができる。個々の開口サイズは、給電ドラムと対向電極間の距離によっても異なるが、陽極酸化面に均一電界を印加するという観点からすれば大きすぎることは好ましくなく、例えば、給電ドラムと対向電極間の距離が10cmの場合には、円形開口で直径2cm以下とすることが好ましい。なお、対向電極としてはカーボンまたはアルミニウム等の汎用のものを使用することができる。
好ましい流動手法については、後述の[0083]の流通手段60が最も好ましい。
【0060】
陽極酸化時の電源波形としては、直流の場合が一般的であるが、他にも直流を重畳させた交流波形など所望の品質を得るために最適なものを選択できる。陽極酸化時の電流密度としては、自由に選択できる。例えば、処理時間中常に一定値としてもよいし、次第に電流密度を上げていくようにしてもよい。陽極酸化時の電解方式は定電流方式であっても定電圧方式であってもよい。
【0061】
陽極酸化は、対向電極に対し正極性の電位とすることで酸化被膜形成するが、対向電極の電位はグランドに対して負極性電圧を印加することが好ましい。これにより帯状物の電位をグランド電位近傍とすることができ、ロールツーロールで帯状物をハンドリングする設備全体をグランド電位にすることが可能となる。逆の場合は、設備全体をグランドに対して電位を持たせる必要があり、危険なばかりでなく、帯状物と設備の間でスパーク等の異常放電を生じ、製品不良を生じる可能性もある。
【0062】
とりわけ、帯状物をグランド電位に一致させ、電解用電源の正極および負極出力共に、グランドに対し絶縁出力とすることがより好ましい。これにより、電解槽以外のロールツーロール部分で帯状物と設備の異常放電を完全に防止することができる。これを模式的に示したのが、図12である。帯状物1をグランド電位に一致させるには、電解槽5以外のロールツーロール部分に、少なくとも1つの導電性ロール29を置き、その導電性ロール29を電気的にグランド接続することにより可能である。
【0063】
さらに、電解方式(給電ドラムと対向電極との間に電流を流す方式)が定電流方式若しくは定電圧方式の場合は、グランド電位に対する給電ドラムの電圧を監視することが好ましい。これにより、前述の保護部材の水密性が一時的に低下してリーク電流を生じたり、帯状物と給電ドラムの接触抵抗が変化したりするような、帯状物上の陽極酸化被膜の長手方向の品質変動要因を監視することができる。
【0064】
対向電極3は、電解液4に浸漬させた給電ドラム2に密着した帯状物1と対向する全面に略等間隔で設けられることが好ましく、その形状は給電ドラム2と同芯円状の湾曲板形状であることが好ましい。但し、対向電極3が給電ドラム2に完全に等間隔の配置で電解液4中にあると、陽極酸化される帯状物が電解液4に接液する部分および電解液4から離液する部分において、電界集中による電流集中を生じて、陽極酸化不良の原因にもなるため、実効的な電界が小さくなるようにしておくことが好ましい。このように実効電界を小さくするには、電解液抵抗を利用することが簡便であり、接液部分および離液部分のうち、少なくとも一方において、給電ドラムと対向電極間との距離を大きくする配置もしくは接液部分および離液部分のうち、少なくとも一方には対向電極を設けない配置、またはそれらを併用した配置とすることができる。
【0065】
図2においては、接液部分および離液部分において給電ドラム2と対向電極3間の距離を大きくする対向電極配置を示している。すなわち、給電ドラム2に支持された帯状物1が電解液4に接液する部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P1および帯状物1が電解液4から離液する部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P2を、帯状物1の電解液4に浸液している中央部分における給電ドラム2と対向電極3との間隔P3よりも大きくしている。ここで、間隔P1〜P3は給電ドラムと対向電極とを結ぶ最短距離である。このような対向電極配置とすることにより、実効電界を小さくすることができ、陽極酸化不良の発生を抑制することができる。なお、接液部分および離液部分に対向電極を設けない配置は図10に示すような配置である。
【0066】
陽極酸化処理の前段階において、帯状物は通常、洗浄処理が施される。この洗浄処理はアルミニウム表面の汚れを除去するためであり、簡便には自然酸化被膜を溶解させつつ汚れを除去する効果をもつアルカリ溶液に浸漬する等の公知の方法が用いられる。また必要に応じて、粗面化処理を施しても良い。この粗面化処理は、陽極酸化被膜の表面に凹凸を設けることにより、その上に設ける層との密着性を向上させるためのもので、機械的粗面化法、化学的粗面化法、電気化学的粗面化法またはそれらを組み合わせた公知の方法により行われる。本発明の陽極酸化装置においても、このような前処理を行う前処理槽と、前処理液を洗浄除去する水洗槽を巻出しロール21の上流に設けてもよい。
一方、陽極酸化処理後のAAO膜が製膜された帯状物は、通常、電解液を洗浄除去する水洗層を経過した後に、乾燥処理が施される。
【0067】
続いて本発明の陽極酸化装置の動作について図1および図2を参照して説明する。まず、巻出しロール21からロール状に巻回された帯状物1を送りだして、給電ドラムに密着支持させた後、巻取りロール22に巻回する。同様に、巻出しロール23からロール状に巻回された保護部材6を送りだして、巻取りロール24に巻回する。このとき、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6によって帯状物1の裏面への電解液の侵入を阻止することができるようにオーバーラップさせる。この状態としたところで、電解槽5内の電解液4に給電ドラム2の一部、例えばドラム中心までを浸漬させる。ここで駆動部を駆動し、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させ、陽極酸化装置10の電源9を入れて、給電ドラム2と対向電極3との間に電流が流れるようにすると、帯状物1の給電ドラム2に密着していない片表面に陽極酸化膜が形成される。
【0068】
図13に示す連続陽極酸化装置110は、陽極酸化装置10a、10b、10cを3つ直列に配置した構成となっており、帯状物1は巻出しロール21から送りだされて陽極酸化装置10a、10b、10cの間を送出しロール25a、26a、25b、26b、25cおよび26cを経由して巻取りロール22に巻き取られるように構成され、保護部材6は巻出しロール23から送りだされて陽極酸化装置10a、10b、10cの間を送出しロール27a、28a、27b、28b、27cおよび28cを経由して巻取りロール24に巻き取られるように構成されている。
【0069】
巻出しロール21と送出しロール25aの間には帯状物1を前処理するための前処理層11が設けられ、送出しロール26cと巻取りロール22の間には、陽極酸化された帯状物を水洗する水洗槽12と水洗後に乾燥するための乾燥槽13が設置されている。なお、図13に示す連続陽極酸化装置110においては、陽極酸化装置10a、10b、10cの3台直列で保護部材6を一括して用いる態様を示しているが、各陽極酸化装置10a、10b、10cのそれぞれにおいて個別に巻出しロール23と巻取りロール24を設ける態様としてもよい。
【0070】
アルミニウムの陽極酸化は電解液と電解条件にもよるが、電解酸化のクーロン効率は3C/(cm2・μm)程度であり、面電流密度100mA/cm2の通電電流あたりで2μm/min程度の製膜速度となる。このとき、面電流密度をD1(mA/cm2)、電解時間をt(min)、必要なAAO膜の厚さをH(μm)とすると、t=50×H/D1(min)となる。また、製膜速度をSとすると、S=0.02×D1なので、t=H/Sとなる。帯状物の電解液浸漬長をL(m)、帯状物の走行速度をLS(m/min)とすると、LS=L/t=0.02×L×D1/H=L×S/Hであり、走行速度LSはLとD1またはSに比例し、Hに反比例することとなる。
【0071】
図14に、AAO厚さHを10μmとした場合の走行速度とAAO製膜速度の関係を示したグラフを示す。図14中の(a)、(b)、(c)は、各々電解槽長Lが5、10、15mの場合である。走行速度LSは、AAO製膜速度Sに比例して大きくすることができる。本発明の場合、電解槽長Lは給電ドラムが電解液に浸漬している距離である。例えば、給電ドラムの直径が3m程度の場合、ドラム中心より少し大きく浸漬させると、電解槽長は5mとすることができる。AAO膜は片面にのみ形成され、もう片面は金属のままなので、引続き同様のドラム給電で陽極酸化することが可能である。従って、この電解槽を直列にN個配置すれば、走行速度をN倍とすることが可能となる。図14の(b)と(c)は、夫々、電解槽を直列に2台と3台配置した場合の走行速度を図示したものである。なお、図14の右側の縦軸は、後述する全浸漬方式の電解装置における帯状物の幅1cmあたりの走行方向に流れる電解電流であり、本発明の場合は、前述の通りこの電流は流れず、帯状物の裏面から直接給電される。
【0072】
従来の帯状物を全浸漬する方式の電解装置においては、前述の通り、給電部分から電解槽にかけての帯状物の走行方向に電解電流を流す必要がある。このとき、帯状物の幅1cmあたりの走行方向に流れる電解電流をD2(A/cm)とすると、単位時間に電解槽に浸漬する帯状物面積に必要厚さ分のAAOを成長させるのに必要な電流は、走行速度LS(m/min)とAAO厚さH(μm)、およびクーロン効率3C/(cm2・μm)から、D2=LS×H×[クーロン効率]×100/60=5×LS×Hとなる。従って、D2は、AAO製膜速度および電解槽長によらず走行速度とAAO厚さに比例した電流となる。図14の右の縦軸に示した値は、AAO厚さ10μmの場合なので、左の縦軸、走行速度LSに対して、D2=50×LSとなる。
【0073】
一方、帯状物の給電部分から電解槽にかけて流す電流には上限があり、アルミニウム箔が100μmでは、水冷シャワー等で充分冷却したとしても、150A/cmを超えるとアルミニウムの抵抗によるIR発熱により、熱暴走を生じ、溶断する危険性が高まる。従って、図14においてどの様な製膜速度または電解槽長で電解するにせよ、幅方向の電解電流は150A/cm以下、即ち走行速度3m/min以下とする必要がある。帯状物のIR発熱と溶断限界電流は、単位断面積あたりの抵抗によって決まるので、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなる。また、鉄鋼、ステンレスおよびTi等の高強度ではあるが高抵抗の金属と薄いアルミニウムとを複合したクラッド材では、同様に限界電流は小さくなり、走行速度も小さくする必要がある。
【0074】
なお、従来の帯状物を全浸漬する方式の電解装置においても、直列多段設置によりライン速度を向上させることは原理的には可能である。しかしながら、片面AAO製膜の場合は、各電解装置毎に給電するために、マスキングフィルムの貼り付け工程と剥がし工程が加わるため、現実的でない。また、全浸漬する方式の電解装置において、給電方法を間接給電とする場合は、給電槽を設け、陽極酸化とは逆極性電圧を印加する。従って電解槽を多段設置し間接給電を行うと、前段の装置で製膜されたAAO膜に給電過程で逆電圧が加わることになり、AAO膜の剥離等の異常を生じる。帯状物の両面にAAOを製膜する場合は、マスキングフィルムが不要であるが、AAO被膜は絶縁性であるので両面にAAO被膜を形成してしまうと、そもそも多段給電が不可能であるばかりでなく、前述の計算のとおり走行方向に流れる電解電流は片面製膜の場合の倍の電流が必要であり、走行速度を大きくすることはさらに困難である。従って、この連続陽極酸化装置は、抵抗の高い薄いアルミニウム箔およびクラッド材に対して1μm以上の厚いAAO膜を片面に製造する場合に極めて有効な装置構成である。
以上が第1〜第4の目的を達成するための共通する陽極酸化装置に関する説明である。
【0075】
以下、本発明の第1の目的を達成するための実施形態について説明する。図3は、帯状物1に陽極酸化可能な金属を用いて、給電ドラム2に導電性材料を用いた際の、面圧と接触抵抗の関係を表したグラフである。帯状物1にどのような陽極酸化可能な金属を用いても、給電ドラム2にどのような導電性材料を用いても、略同様な傾向になる。
【0076】
図3に示すように、面圧が1000(Pa)以上で接触抵抗が急激に低下し、面圧が10000(Pa)を超えると接触抵抗の低下が飽和し、略一定の値になることを知見した。さらに、面圧が1000(Pa)以下では、接触抵抗が大きく、結果として、電力コストが大きくなり、更には発熱量も大きくなって、部分的に帯状物1の温度上昇を生じ、陽極酸化被膜ムラが発生する恐れがある。
これらの知見に基づいて、帯状物1にかける張力を制御することにより、接触抵抗を小さくできることを見出し、本発明に至った。
【0077】
帯状物1にかかる1m幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラム2の半径をR(m)とし、給電ドラム2にかかる面圧をP(Pa:N/m2)とするとき、これらは、T=P×Rの関係にある。従って、面圧を1000(Pa)以上とするためには、幅当たりの張力Tは1000×R(N/m)以上必要となる。
【0078】
一方で、面圧が10000(Pa)を超えても接触抵抗はあまり下がらないので、それ以上の面圧をかける必要はない。面圧が10000(Pa)のとき、帯状物1に必要な幅当たりの張力Tは10000×R(N/m)となり、その大きな張力に耐えられるだけの剛性を有した大掛かりな装置になってしまい、装置コストが高くなってしまう。さらには給電ドラム2の半径Rが大きくなると、それに比例して、必要な幅当たりの張力Tはますます大きくなるので、帯状物1の強度によっては弾性限界を超えてしまう恐れがある。従って、幅当たりの張力Tは10000×R以下にするのが好ましい。
【0079】
以下、本発明の第2の目的を達成するための実施形態について説明する。図4は、本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図5は、図4に示す本発明の第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
なお、第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dにおいて、図1、図2に示す第1の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0080】
陽極酸化は面電流密度が一般に500mA/cm2以下であるため、給電ドラム2の導電部分はそれ程高い導電性は必要ない。また、給電ドラム2の導電性材料が金属の場合、製造不安定性により電解液が染込んだ際に、金属表面(導電性材料の表面)の変質を生じ、接触抵抗が不安定になる。また、電解液が染込まないとしても、電解運転時は電解液を含むミスト(霧)が多量に発生しているため、そのミストが、給電ドラム2の帯状物1が密着する部分2a(導電性材料の表面)において帯状物1と接触していない領域で付着することにより、徐々に金属表面が変質する恐れがある。このため、給電ドラム2において帯状物1と密着する導電性材料で構成された部分(帯状物1が密着する部分2a)の表面を、電子伝導性無機化合物で構成する。この電子伝導性無機化合物は、抵抗が低く、また金属よりも硬いので耐久性も良好である。
電子伝導性無機化合物として、例えば、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種を用いることができる。これら電子伝導性無機化合物を用いた給電ドラムの場合も、全て図3に示すような接触抵抗の面圧依存性を示し、第1の目的における、幅当たりの張力Tが1000×R(N/m)以上、10000×R(N/m)以下の範囲には収まっている。
【0081】
これらの電子伝導性無機化合物の厚さは、所望とする強度または導電性によっても異なるが1μmから10mm程度が好ましい。給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bの表面は非導電性材料で構成される。非導電性材料としては、非導電性プラスチックおよび非導電ゴム等が好ましい。
【0082】
以下、本発明の第3の目的を達成するための実施形態について説明する。図15は、本発明の第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図16(a)は、図15に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略断面図であり、(b)は、図15に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の作用を説明するための概略側面模式図である。
なお、第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置50において、図4、図5に示す第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図15並びに図16(a)および(b)に示す第3の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置50は、図4の陽極酸化装置10に比して、給電ドラム2の構成が異なり、更には対向電極3と給電ドラム2に密着支持された帯状物1との間の隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる流通手段60が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、第2の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置10dと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0083】
流通手段60について説明する。流通手段60は、対向電極3に設けられた導入部62と、この導入部62を介して隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる供給部64とを有する。
【0084】
導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入して、隙間dの電解液4を隙間dから排出させるためのものである。導入部62は、例えば、対向電極3に設けられた開口部に取り付けられるノズルである。図16(a)に示すように、導入部62は、対向電極3の最下部に、給電ドラム2の回転軸2cと平行な方向に沿って設けられる。
この導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入することができれば、特に、ノズルに限定されるものではない。
【0085】
供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給し、この導入部62を介して、例えば、図16(b)に示すように、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させるものである。供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給することができれば、特に、その構成は限定されるものではなく、隙間dの電解液4と、電解槽5内の電解液4とを循環させるようなものであってもよい。例えば、供給部64には、ポンプなどが用いられる。
流通手段60においては、供給部64により、導入部62を介して、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させて、例えば、図16(a)に示すように、隙間dにある電解液4を、給電ドラム2の周面に沿うように、帯状物1の長手方向と略平行な方向に移動させて、隙間dの第1の開口30から電解液4を排出させる。これにより、温度上昇した隙間dの電解液4を、隙間dから取り除き、電解槽5内の発熱の影響のない電解液4を隙間dに供給することができる。
【0086】
続いて、陽極酸化装置50の動作について図15および図16(a)を参照して説明する。まず、巻出しロール21からロール状に巻回された帯状物1を送りだして、給電ドラムに密着支持させた後、巻取りロール22に巻回する。同様に、巻出しロール23からロール状に巻回された保護部材6を送りだして、巻取りロール24に巻回する。このとき、給電ドラム2に密着支持された帯状物1の短手方向端部と、給電ドラム2のうち帯状物1が密着しない部分2bとを、保護部材6によって帯状物1の裏面への電解液の侵入を阻止することができるようにオーバーラップさせる。この状態としたところで、電解槽5内の電解液4に給電ドラム2の一部、例えばドラム中心までを浸漬させる。ここで駆動部を駆動し、給電ドラム2の周速に同期させて給電ドラム2に密着させた帯状物1と保護部材6を電解液4中で共走行させ、陽極酸化装置50の電源9を入れて、給電ドラム2と対向電極3との間に電流が流れるようにする。このとき、流通手段60においては供給部64により、導入部62を介して電解槽5の電解液4を隙間dに導入させ隙間dの電解液4を隙間dから排出させる。これにより、帯状物1の給電ドラム2に密着していない片表面(表面1b)に陽極酸化膜が形成される。
【0087】
なお、流通手段60の構成としては、図17(a)に示す陽極酸化装置50aのように、導入部62を、隙間dの片方の第1の開口30に設けてもよい。この場合、隙間dの片方の第1の開口30から、電解槽5の電解液4が導入されて、帯状物1の搬送方向および給電ドラム2の回転方向rと反対方向に隙間dにある電解液4が移動され、残りの他方の第1の開口30から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、導入部62を、図17(a)とは反対側の隙間dの他方の第1の開口30に設け、回転方向rに沿って電解液4を移動させて隙間dの片方の第1の開口30から電解液4を排出するようにしてもよい。
【0088】
また、流通手段60の構成としては、図17(b)に示す陽極酸化装置50bのように、導入部62を複数、例えば、導入部62を2つ設けてもよい。この場合、1つは、図16(a)に示すように対向電極3の最下部に設け、残りを図17(a)に示すように、隙間dの片方の第1の開口30に設ける。隙間dの片方の第1の開口30および対向電極3の最下部から、電解槽5の電解液4が導入されて、帯状物1の搬送方向および給電ドラム2の回転方向rと反対方向に、隙間dにある電解液4が移動され、残りの他方の第1の開口30から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、図17(b)に示すように導入部62を隙間dの片方の第1の開口30に設けるのでなく、隙間dの他方の第1の開口30に設け、隙間dの片方の第1の開口30から電解液4を排出するようにしてもよい。
更には、導入部62は、2つに限定されるものではなく、複数設けることができ、3つ以上設けてもよい。
【0089】
さらには、流通手段60の構成としては、図18に示す陽極酸化装置50cのように、対向電極3aを複数、例えば、2つ、給電ドラム2の最下部があくように隙間α離間して配置し、かつ各対向電極3aと給電ドラム2とを隙間dをあけて配置してもよい。各対向電極3aに、それぞれ導入部62が設けられており、各導入部62は、供給部64に接続されている。なお、各対向電極3aと給電ドラム2とは電源9に接続されている。
この場合、供給部64により、各導入部62から電解槽5の電解液4が各対向電極3aの隙間dに導入されて各隙間dの電解液4が、隙間α、第1の開口30から排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
更には、対向電極3aは、2つに限定されるものではなく、複数設けることができ、3つ以上設けてもよい。
【0090】
また、図19(a)、図19(b)に示す陽極酸化装置52の構成としてもよい。陽極酸化装置52は、流通手段60の導入部62を対向電極3の隙間dの第2の開口32の一方に設けたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
この場合、図19(b)に示すように、供給部64により、導入部62から電解槽5の電解液4が各対向電極3aの隙間dに導入されて、隙間dにある電解液4が給電ドラム2の回転軸2c方向に沿うように帯状物1の短手方向と略平行な方向に移動されて、隙間dの開口のうち、第2の開口32から電解液4が排出される。これにより、陽極酸化による発熱により温度上昇した隙間dの電解液4が、隙間dから取り除かれて電解槽5の電解液4が隙間dに供給される。
なお、導入部62を複数設けてもよい。更には第1の開口30を塞ぐ他のカバー部材を設け、第2の開口32から電解液4を排出される構成としてもよい。
【0091】
電解液の流通方向は、帯状物の長手方向に略平行な方向がより好ましい。この理由は以下の通りである。
短手方向に流通させる場合、条件によっては、電解液の導入部近傍と、排出部の開口部近傍で電解液の温度または流速が変化し、均一な成膜ができずに、膜厚、膜の微細構造に分布が生じることがある。この場合、陽極酸化皮膜の性状に変化を生じる可能性がある。一方、長手方向に電解液を流通させる場合、導入部近傍と、排出部の開口部近傍で分布が生じても、帯状物を移動させながら連続的に成膜する場合、成膜後の帯状物の長手方向は、あらゆる位置で均一に成膜される。
電解液を帯状物の長手方向に流すための、より好ましい形態としては、以下に説明するように、カバー部材をつける手法等がある。
【0092】
さらにまた、電解液を帯状物の長手方向に流す場合、帯状物が電解液中に浸漬される部分、または電解液中から離脱する部分において、液の流れによる液面変動が起こりやすくなる。このように電解部分が刻々変化すると、帯状物長手方向に縞状のムラが生じて美観を損ねるほか、著しい場合においては膜厚ムラとなって陽極酸化皮膜の性状に影響を及ぼす。この問題を解消させるための、より好ましい形態としては、以下に説明するように、電解液の浸入防止手段を設ける手法等がある。
【0093】
また、図20、図21(a)、(b)に示す陽極酸化装置52aの構成としてもよい。陽極酸化装置52aは、第1のカバー部材70が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0094】
陽極酸化装置52aにおいては、図21(b)に示すように、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの第2の開口32を塞ぐ第1のカバー部材70が設けられている。この第1のカバー部材70は、対向電極3の給電ドラム2の回転軸2c方向の端部に固定されている。この第1のカバー部材70により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。
第1のカバー部材70は、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
なお、第1のカバー部材70は、図21(b)に示すように対向電極3の給電ドラム2の回転軸2c方向の端部に固定することに限定されるものではない。例えば、電解槽5の内壁に固定して隙間dの第2の開口32を塞ぐようにしてもよい。
【0095】
浸入防止手段は、例えば、隙間dの第1の開口30の上方に設けられたローラ80、82を有するものである。なお、巻出しロール21側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との接液面であり、巻取りロール22側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との離液面である。
各ローラ80、82は、帯状物1が給電ドラムと接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。帯状物1の搬送により各ローラ80、82は回転する。各ローラ80、82により、各第1の開口30から排出される電解液4が、給電ドラム2において、帯状物1が巻き掛けられていない開口領域βに流入することが防止される。これにより、給電ドラム2の変質等を抑制することができる。
浸入防止手段は、ローラ80、82のうち、少なくとも一方あればよい。更には、浸入防止手段は、ローラ80、82を有するものに限定されるものではなく、例えば、邪魔板、ブレード部材であってもよい。邪魔板、ブレード部材は、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等で形成することができる。
【0096】
また、図22(a)、図22(b)に示す陽極酸化装置52bの構成としてもよい。陽極酸化装置52bは、第2のカバー部材72が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0097】
陽極酸化装置52bにおいては、図22(a)、図22(b)に示すように、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72が給電ドラム2の回転軸2c方向の両端部に設けられている。この第2のカバー部材72は、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材からなるものである。第2のカバー部材72により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。第2のカバー部材72は、例えば、回転軸2cに固定される、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材で構成されるか、または給電ドラム2の両端面に固定され、その外縁に張出する円環部材により構成することができる。
【0098】
なお、第2のカバー部材72は、隙間dの第2の開口32を塞ぐことができれば良く、給電ドラム2に固定されることなく、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成、例えば、給電ドラム2よりも径大な薄板を回転軸2cに対して回転自在とした構成としてもよい。このように、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成とした場合には、給電ドラム2が回転しても第2のカバー部材72を所定の位置に留めておくことができる。このため、給電ドラム2の外周全域に第2のカバー部材72を設ける必要は必ずしもなく、対向電極3がある範囲に円弧状の第2のカバー部材72を設ければよい。
第2のカバー部材72は、上述の第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0099】
陽極酸化装置52bにおいては、隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72、給電ドラム2の開口領域βに電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段を設けることにより、隙間dの第1の開口30から効率良く、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができ、更には、この第1の開口30から排出された電解液4が給電ドラム2の開口領域βへの浸入を防ぐことができる。
【0100】
また、図23(a)、(b)に示す陽極酸化装置52cの構成としてもよい。陽極酸化装置52cは、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低く、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、第3のカバー部材74が設けられており、更には給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0101】
陽極酸化装置52cにおいては、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出している。この給電ドラム2と対向電極3bとの隙間dの第2の開口32を塞ぐ第3のカバー部材74が設けられている。これにより、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。
第3のカバー部材74は、第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0102】
陽極酸化装置52cにおいては、回転軸2cよりも上方に伸びる対向電極3bとし、第3のカバー部材74を設けることにより、流通手段60で電解槽5の電解液4を隙間dに流入させると、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができ、電解液4の最高液面を回転軸2cよりも上方にすることができる。これにより、浸漬長を長くすることができるとともに、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができる。なお、陽極酸化装置52cは、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができるため、帯状物1の浸漬長を長くでき、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用することができる。これにより、生産効率を高くできる。
【0103】
また、図24(a)、(b)に示す陽極酸化装置52dの構成としてもよい。陽極酸化装置52dは、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低く、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、第2のカバー部材72が設けられており、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図15の陽極酸化装置50と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0104】
陽極酸化装置52dにおいては、図24(a)、図24(b)に示すように、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出している。この給電ドラム2と対向電極3bとの隙間dの第2の開口32を塞ぐ第2のカバー部材72が設けられている。この第2のカバー部材72は、給電ドラム2の回転軸2c方向の両端部に、給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材からなるものである。第2のカバー部材72により、隙間dの電解液4は、第1の開口30から排出される。第2のカバー部材72は、例えば、回転軸2cも固定される給電ドラム2よりも径大で薄板からなる鍔状の部材で構成されるか、または給電ドラム2の両端面に固定され、その外縁に張出する円環部材により構成することができる。
【0105】
なお、第2のカバー部材72は、上述のように隙間dの第2の開口32を塞ぐことができれば良く、給電ドラム2に固定されることなく、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成、例えば、給電ドラム2よりも径大な薄板を回転軸2cに対して回転自在とした構成としてもよい。このように、給電ドラム2の回転軸2cに対して相対的に回転可能な構成とした場合には、給電ドラム2が回転しても第2のカバー部材72を所定の位置に留めておくことができる。このため、給電ドラム2の外周全域に第2のカバー部材72を設ける必要は必ずしもなく、対向電極3がある範囲に円弧状の第2のカバー部材72を設ければよい。
第2のカバー部材72は、上述の第1のカバー部材70と同じく、不導体で形成されるものであり、例えば、塩化ビニル等のプラスチック、ゴム等に形成される。
浸入防止手段は、上述の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0106】
陽極酸化装置52dにおいては、陽極酸化装置52cと同様に、浸漬長を長くすることができるとともに、陽極酸化に伴い発熱した電解液4を、隙間dの外に取り去ることができる。なお、陽極酸化装置52dにおいても、陽極酸化装置52cと同様に、電解液4を回転軸2cよりも上方に到達させることができるため、帯状物1の浸漬長を長くでき、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用することができる。これにより、生産効率を高くできる。
【0107】
以上のように、上述の第3の目的を達成するための陽極酸化装置は、陽極酸化に伴い発熱し、温度上昇した電解液4を隙間dから取り除くことができる流通手段60を設けることにより、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの上記発熱した電解液4を、隙間dの外部に取り去ることができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。
さらには、浸入防止手段を設けることにより、電解液が、給電ドラムにおいて、帯状物が巻き掛けられていない開口領域に流入することを防止して、給電ドラムの変質等を抑制することができる。これにより、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化被膜を安定して製膜することができる。
【0108】
なお、上述の第3の目的を達成するための陽極酸化装置においても、流通手段60を電解槽5の電解液4を隙間dに導入する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、対向電極に開口部を設け、隙間dの電解液4を、第1の開口および第2の開口のうち、少なくとも一方から吸引し、隙間dの電解液を取り去る構成としてもよい。
【0109】
以下、本発明の第4の目的を達成するための実施形態について説明する。図25は、本発明の第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置を示す概略斜視図である。図26は、図25に示す第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置の概略断面図である。
なお、第4の目的を達成するための実施形態の陽極酸化装置90において、図4、図5に示す陽極酸化装置10dと同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図25、図26に示す陽極酸化装置90は、給電ドラム2の構成、および給電ドラム2の帯状物1が密着する、金属で構成された部分2aに、給電手段として電解液4の液面4aよりも上部に給電ロール100(第1の給電部材)が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、図4の陽極酸化装置10dと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0110】
給電手段の構成としては、図27(a)に示す陽極酸化装置90aに示すように、帯状物1が密着する部分2aではなく、電解液4の液面4aの上部に、帯状物1に接する、例えば、給電ロール104、106(第2の給電部材)を設けてもよい。
この場合、給電ロール104、106は、それぞれ、図27(a)に示すように帯状物1が給電ドラム2と接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。
給電ドラム2において帯状物1が密着する部分2aと給電ロール104、106とで帯状物1を挟むようにして給電ロール104、106が帯状物1の表面1b(第2の面)に接している。なお、給電ロール104、106は、給電ドラム2が回転すると、帯状物1に接しつつ回転する。
また、給電ロール104、106は、電源9に給電ロール100と同様に接続されており、その構成は、給電ロール100と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0111】
陽極酸化装置90aにおいては、給電ロール104、106が、給電ドラム2の回転に同期して回転しながら、帯状物1に電流を印加することができる。なお、給電ロール104、106は、給電ドラム2(帯状物1が密着する部分2a)とともに帯状物1を挟むようにして帯状物1の表面1b(第2の面)に配置されており、給電ロール104、106により帯状物1の表面1bから電流を印加しているため、帯状物1の走行方向(長手方向)に電流が流れることが抑制され、給電ドラム2を介し帯状物1に電流を印加することに等しい。このため、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなるが、このような限界電流を考慮することなく、帯状物1に電流を印加することができる。
【0112】
さらには、給電手段の構成としては、図27(b)に示す陽極酸化装置90bのように、帯状物1が密着する部分2aではなく、電解液4の液面4aの上部に、帯状物1に接する、例えば、給電部材108(第2の給電部材)を設けてもよい。
この給電部材108は、給電部材102と同じく摺動部材で構成され、給電部材102と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
陽極酸化装置90bにおいては、帯状物1の表面1bに摺動しながら、図27(a)に示す陽極酸化装置90aの給電ロール104、106と同じく、帯状物1に電流を印加することができる。なお、給電部材108は、給電ロール104、106と同じく帯状物1の表面1bから電流を印加しているため、給電ドラム2を介し帯状物1に電流を印加することに等しい。このため、薄いアルミニウム箔ほど幅1cmあたりの限界電流は小さくなるが、このような限界電流を考慮することなく、帯状物1に電流を印加することができる。
【0113】
また、図28に示す陽極酸化装置92の構成としてもよい。陽極酸化装置92は、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものである。それ以外の構成は、図25の陽極酸化装置90と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0114】
この際の浸入防止手段は、図28に示すように、例えば、隙間dの第1の開口30の上方に設けられたローラ80、82を有するものである。なお、巻出しロール21側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との接液面であり、巻取りロール22側の第1の開口30の電解液4の液面が帯状物1との離液面である。
各ローラ80、82は、帯状物1が給電ドラムと接する接触面1a(第1の面)とは反対側の表面1b(第2の面)に接するように配置されている。帯状物1の搬送により各ローラ80、82は回転する。各ローラ80、82により、各第1の開口30から排出される電解液4が、給電ドラム2において、帯状物1が巻き掛けられていない開口領域βに流入することが防止される。このような浸入防止手段がない場合、液が開口領域βに流入し、給電部材に電解液がかかってショート、漏電等につながる恐れがあり、危険である。また、陽極酸化中に発生した電解液のミストによる腐食、または発生した水素ガスが給電部分に流入し、万一のスパーク等による爆発が発生する恐れもある。この浸入防止手段を用いることにより、上記の問題を抑制することができる。
【0115】
浸入防止手段に関しては、上述のこと以外は図20の陽極酸化装置52aと同じ構成であるため、その詳細な説明は省略する。
なお、陽極酸化装置92において、給電手段は給電ロール100に限定されるものではなく、給電ロール100に代えて、例えば、図27に示す給電部材102を設けてもよい。
【0116】
また、図29に示す陽極酸化装置92aの構成としてもよい。陽極酸化装置92aは、対向電極3bの給電ドラム2の周面に沿う長さが長く、対向電極3と給電ドラム2に密着支持された帯状物1との間の隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる流通手段60が設けられ、給電ドラム2において帯状物1が巻き掛けられた領域に対向する開口領域βに、電解液4が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられたものであり、かつ給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低いこと以外の構成は、図25の陽極酸化装置90と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0117】
陽極酸化装置92aにおいては、対向電極3bが、回転軸2cの上方まで延出しており、給電ドラム2の回転軸2cが電解液4の最高液面よりも低くなる。すなわち、電解液4の最高液面が回転軸2cよりも高い位置になる。これにより、帯状物1の浸漬長を長くすることができ、製膜に給電ドラム2の周面を有効に利用でき、生産効率を高くすることができる。
【0118】
陽極酸化装置92aにおいて、流通手段60は、対向電極3bに設けられた導入部62と、この導入部62を介して隙間dにある電解液4を、この隙間dから移動させる供給部64とを有する。
導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入して、隙間dの電解液4を隙間dから排出させるためのものである。導入部62は、例えば、対向電極3bに設けられた開口部に取り付けられるノズルである。導入部62は、対向電極3bの最下部に、給電ドラム2の回転軸2cと平行な方向に沿って設けられる。この導入部62は、電解槽5の電解液4を隙間dに導入することができれば、特に、ノズルに限定されるものではない。
【0119】
供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給し、この導入部62を介して、例えば、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させるものである。供給部64は、電解槽5の電解液4を導入部62に供給することができれば、特に、その構成は限定されるものではなく、隙間dの電解液4と、電解槽5内の電解液4とを循環させるようなものであってもよい。例えば、供給部64には、ポンプなどが用いられる。
流通手段60においては、供給部64により、導入部62を介して、電解槽5の電解液4を隙間dに導入させて、例えば、隙間dにある電解液4を、給電ドラム2の周面に沿うように、帯状物1の長手方向と略平行な方向に移動させて、隙間dの第1の開口30から電解液4を排出させる。これにより、温度上昇した隙間dの電解液4を、隙間dから取り除き、電解槽5内の発熱の影響のない電解液4を隙間dに供給することができる。
これにより、給電ドラム2と対向電極3との隙間dの上記温度上昇した電解液4を、隙間dの外部に取り去ることができる。このため、膜厚均一が高く、かつ表面状態が良好な陽極酸化膜を製膜することができる。
なお、隙間dの開口のうち、給電ドラム2の回転軸2c方向の第2の開口をカバー部材で防ぐ構成としてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1 帯状物
2 給電ドラム
2a 帯状物密着部分
3 対向電極
4 電解液
5 電解槽
6 保護部材
7 ガイドローラー
10、50、90 陽極酸化装置
60 流通手段
62 導入部
64 供給部
70 第1のカバー部材
72 第2のカバー部材
74 第3のカバー部材
80、82 ローラ
100 給電ロール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物が巻き掛けられて密着支持し、少なくとも該帯状物が密着する部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、
該給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、
前記帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と前記対向電極とを浸漬する電解液で満たされた電解槽と、
前記給電ドラムに密着支持された帯状物の短手方向端部と、前記給電ドラムのうち前記帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして前記電解液から保護する非導電性材料からなる保護部材と、
前記給電ドラムの周速に同期させて前記給電ドラムに密着させた前記帯状物と前記保護部材を前記電解液中で共走行させる駆動部とを有し、
前記給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラムの半径をR(m)とすると、前記電解液中を共走行される前記帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値は、1000×R以上であることを特徴とする陽極酸化装置。
【請求項2】
前記帯状物に、1000×R以上、10000×R以下の値の幅当たりの張力T(N/m)をかけることを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化装置。
【請求項3】
前記給電ドラムにおいて前記帯状物と密着する部分の表面が、電子伝導性無機化合物で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の陽極酸化装置。
【請求項4】
前記電子伝導性無機化合物は、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の陽極酸化装置。
【請求項5】
前記給電ドラムは、前記密着する部分の表面の下層が金属で構成されており、前記下層の金属は陽極酸化される金属であることを特徴とする請求項3または4に記載の陽極酸化装置。
【請求項6】
前記陽極酸化される金属は、アルミニウムであることを特徴とする請求項5に記載の陽極酸化装置。
【請求項7】
前記対向電極と、前記給電ドラムに密着支持された前記帯状物との間の隙間にある電解液を前記隙間から移動させる流通手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項8】
前記流通手段は、前記隙間にある電解液を前記帯状物の長手方向と略平行な方向に移動させることを特徴とする請求項7に記載の陽極酸化装置。
【請求項9】
前記対向電極に開口部が設けられており、
前記流通手段は、前記開口部を介して前記電解液を前記対向電極と、前記給電ドラムに密着支持された前記帯状物との間の隙間に供給することを特徴とする請求項7または8に記載の陽極酸化装置。
【請求項10】
前記流通手段は、前記隙間の前記電解液を、前記帯状物の長手方向と略平行な方向に排出させることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項11】
前記隙間の開口のうち、前記給電ドラムの回転軸方向における第2の開口を塞ぐカバー部材が設けられており、前記流通手段により、前記隙間の電解液が、前記隙間のうち、前記帯状物の長手方向と略平行な方向における第1の開口から排出されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項12】
前記カバー部材は、前記電解槽または前記対向電極に固定されるものであることを特徴とする請求項11に記載の陽極酸化装置。
【請求項13】
前記カバー部材は、前記給電ドラムの回転軸に固定されるものであるか、または相対的に回転可能なものであることを特徴とする請求項11に記載の陽極酸化装置。
【請求項14】
前記電解液の液面より上部に設けられた、前記帯状物に電流を印加する給電手段とを有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項15】
前記給電手段は、前記給電ドラムの金属部に接する第1の給電部材を有することを特徴とする請求項14に記載の陽極酸化装置。
【請求項16】
前記給電手段は、前記帯状物に接する第2の給電部材を有することを特徴とする請求項14に記載の陽極酸化装置。
【請求項17】
前記第1の給電部材および前記第2の給電部材は、金属ロールまたはカーボンロールであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項18】
前記第1の給電部材および前記第2の給電部材は、金属ブラシまたはカーボンブラシであることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項19】
前記給電ドラムにおいて前記帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、前記電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項20】
前記浸入防止手段は、前記帯状物が前記給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または前記第2の面に接するブレード部材を有することを特徴とする請求項19に記載の陽極酸化装置。
【請求項21】
前記第2の面に接するローラ、または前記第2の面に接するブレード部材は、前記電解液と前記帯状物との接液面および離液面のうち、少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項20に記載の陽極酸化装置。
【請求項22】
前記給電ドラムの回転軸が、前記電解液の液面よりも低いことを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項23】
前記給電ドラムに前記帯状物が内接走行する凹部が設けられていることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項24】
前記保護部材を前記給電ドラムに圧接するガイドローラーが設けられていることを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項25】
前記対向電極が多数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項26】
前記給電ドラムに支持された帯状物が前記電解液に接液する部分および離液する部分のうち、少なくとも一方における前記給電ドラムと前記対向電極との間隔が、前記帯状物の前記電解液浸液中央部分における前記給電ドラムと前記対向電極との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項27】
前記保護部材が非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項28】
前記保護部材が、前記帯状物に密着する側に粘着性物質を有することを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項29】
前記対向電極の電位がグランドに対して負極性であることを特徴とする請求項1〜28のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項30】
前記帯状物をグランドと同電位とし、かつ電解用電源がグランドに対して絶縁出力であることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項31】
前記グランドの電位に対する前記給電ドラムの電圧を監視する監視部を備えていることを特徴とする請求項29または30に記載の陽極酸化装置。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の陽極酸化装置を直列に多数配置したことを特徴とする連続陽極酸化装置。
【請求項33】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の陽極酸化装置または請求項32に記載の連続陽極酸化装置を用いて、前記帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することを特徴とする製膜方法。
【請求項1】
陽極酸化可能な金属からなる帯状物または少なくとも片面が陽極酸化可能な金属である複合導電金属箔からなる帯状物が巻き掛けられて密着支持し、少なくとも該帯状物が密着する部分が導電性材料で構成された給電ドラムと、
該給電ドラムに対向して設けられた対向電極と、
前記帯状物を密着支持した給電ドラムの一部と前記対向電極とを浸漬する電解液で満たされた電解槽と、
前記給電ドラムに密着支持された帯状物の短手方向端部と、前記給電ドラムのうち前記帯状物が密着しない部分とをオーバーラップして前記電解液から保護する非導電性材料からなる保護部材と、
前記給電ドラムの周速に同期させて前記給電ドラムに密着させた前記帯状物と前記保護部材を前記電解液中で共走行させる駆動部とを有し、
前記給電ドラムに巻き掛けられた帯状物にかかる幅当たりの張力をT(N/m)とし、給電ドラムの半径をR(m)とすると、前記電解液中を共走行される前記帯状物にかけられる幅当たりの張力Tの値は、1000×R以上であることを特徴とする陽極酸化装置。
【請求項2】
前記帯状物に、1000×R以上、10000×R以下の値の幅当たりの張力T(N/m)をかけることを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化装置。
【請求項3】
前記給電ドラムにおいて前記帯状物と密着する部分の表面が、電子伝導性無機化合物で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の陽極酸化装置。
【請求項4】
前記電子伝導性無機化合物は、炭素または黒鉛、酸化イリジウム、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化珪素、炭化珪素および炭窒化珪素のうち、少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の陽極酸化装置。
【請求項5】
前記給電ドラムは、前記密着する部分の表面の下層が金属で構成されており、前記下層の金属は陽極酸化される金属であることを特徴とする請求項3または4に記載の陽極酸化装置。
【請求項6】
前記陽極酸化される金属は、アルミニウムであることを特徴とする請求項5に記載の陽極酸化装置。
【請求項7】
前記対向電極と、前記給電ドラムに密着支持された前記帯状物との間の隙間にある電解液を前記隙間から移動させる流通手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項8】
前記流通手段は、前記隙間にある電解液を前記帯状物の長手方向と略平行な方向に移動させることを特徴とする請求項7に記載の陽極酸化装置。
【請求項9】
前記対向電極に開口部が設けられており、
前記流通手段は、前記開口部を介して前記電解液を前記対向電極と、前記給電ドラムに密着支持された前記帯状物との間の隙間に供給することを特徴とする請求項7または8に記載の陽極酸化装置。
【請求項10】
前記流通手段は、前記隙間の前記電解液を、前記帯状物の長手方向と略平行な方向に排出させることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項11】
前記隙間の開口のうち、前記給電ドラムの回転軸方向における第2の開口を塞ぐカバー部材が設けられており、前記流通手段により、前記隙間の電解液が、前記隙間のうち、前記帯状物の長手方向と略平行な方向における第1の開口から排出されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項12】
前記カバー部材は、前記電解槽または前記対向電極に固定されるものであることを特徴とする請求項11に記載の陽極酸化装置。
【請求項13】
前記カバー部材は、前記給電ドラムの回転軸に固定されるものであるか、または相対的に回転可能なものであることを特徴とする請求項11に記載の陽極酸化装置。
【請求項14】
前記電解液の液面より上部に設けられた、前記帯状物に電流を印加する給電手段とを有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項15】
前記給電手段は、前記給電ドラムの金属部に接する第1の給電部材を有することを特徴とする請求項14に記載の陽極酸化装置。
【請求項16】
前記給電手段は、前記帯状物に接する第2の給電部材を有することを特徴とする請求項14に記載の陽極酸化装置。
【請求項17】
前記第1の給電部材および前記第2の給電部材は、金属ロールまたはカーボンロールであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項18】
前記第1の給電部材および前記第2の給電部材は、金属ブラシまたはカーボンブラシであることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項19】
前記給電ドラムにおいて前記帯状物が巻き掛けられた領域に対向する開口領域に、前記電解液が浸入することを防ぐ浸入防止手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項20】
前記浸入防止手段は、前記帯状物が前記給電ドラムと接する第1の面とは反対側の第2の面に接するローラ、または前記第2の面に接するブレード部材を有することを特徴とする請求項19に記載の陽極酸化装置。
【請求項21】
前記第2の面に接するローラ、または前記第2の面に接するブレード部材は、前記電解液と前記帯状物との接液面および離液面のうち、少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項20に記載の陽極酸化装置。
【請求項22】
前記給電ドラムの回転軸が、前記電解液の液面よりも低いことを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項23】
前記給電ドラムに前記帯状物が内接走行する凹部が設けられていることを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項24】
前記保護部材を前記給電ドラムに圧接するガイドローラーが設けられていることを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項25】
前記対向電極が多数の貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項26】
前記給電ドラムに支持された帯状物が前記電解液に接液する部分および離液する部分のうち、少なくとも一方における前記給電ドラムと前記対向電極との間隔が、前記帯状物の前記電解液浸液中央部分における前記給電ドラムと前記対向電極との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項27】
前記保護部材が非導電ゴムまたは非導電ゴムで覆われた金属箔であることを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項28】
前記保護部材が、前記帯状物に密着する側に粘着性物質を有することを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項29】
前記対向電極の電位がグランドに対して負極性であることを特徴とする請求項1〜28のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項30】
前記帯状物をグランドと同電位とし、かつ電解用電源がグランドに対して絶縁出力であることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1項に記載の陽極酸化装置。
【請求項31】
前記グランドの電位に対する前記給電ドラムの電圧を監視する監視部を備えていることを特徴とする請求項29または30に記載の陽極酸化装置。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の陽極酸化装置を直列に多数配置したことを特徴とする連続陽極酸化装置。
【請求項33】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の陽極酸化装置または請求項32に記載の連続陽極酸化装置を用いて、前記帯状物の片面に陽極酸化被膜を製膜することを特徴とする製膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−19050(P2013−19050A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134061(P2012−134061)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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