説明

隔膜部材及び隔膜式電極

【課題】耐久性が大幅に向上され、又、製造時・使用時における隔膜のしわ、たわみ、ゆがみの発生が防止された隔膜部材及びこれを備えた隔膜式電極を提供する。
【解決手段】隔膜式電極1に用いられる隔膜部材2は、少なくとも一部が測定対象ガス透過性の薄膜部4と、薄膜部4を保持する保持部3とが一体に形成されており、保持部3を介して隔膜式電極本体に固定される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中に溶存する測定対象ガスの濃度を測定する隔膜式電極用の隔膜部材及び隔膜式電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば試料液中に溶存する測定対象ガスとして溶存酸素濃度を測定するために、ガルバニ電池式又はポーラログラフ法を用いた酸化還元電流測定が行われている。酸化還元電流測定では、表面で測定対象ガスの酸化還元反応が行われる作用極と、この作用極上での酸化還元反応に対応した酸化還元反応が表面で行われる対極とを有する測定用電極が用いられる。そして、このような測定用電極が例えば試料液中の妨害イオンに接触しないように、測定対象ガスを選択的に透過するガス透過性隔膜を備えた隔膜式電極が広く用いられている。
【0003】
酸化還元電流測定は、溶存酸素濃度測定の他、例えば遊離残留塩素濃度測定、溶存オゾン濃度測定、溶存二酸化塩素測定、亜塩素酸(HClO2)濃度測定、溶存水素濃度測定、アンモニア濃度測定などのために利用することができる。
【0004】
従来の隔膜式電極の概略構成を説明すると、例えば図8に示すように、隔膜式電極100は、ボディ180と、このボディ180の先端(図中下方端部)側に電極部190とを有する。電極部190は支持管191を有している。又、この支持管191の外周を取り巻くように、ボディ180の下部に接続された外筒198が設けられる。
【0005】
支持管191の下方のスリーブ部191aには、ガラス製のホルダ(ガラスホルダ)192が装着される。又、ガラスホルダ192の先端(図中下端)には、ガラス封入された作用極(カソード)(例えば、白金)194が取り付けられ、支持管191の下方端外周部には、対極(アノード)(例えば、鉛)193が取付けられる。
【0006】
そして、外筒198の下端開口部199を封止するように、フッ素樹脂フィルムなどとされる隔膜104が設けられ、支持管191、ガラスホルダ192及び対極193の外周と、外筒198の内周部との間に画成された環状の空間には、内部液(電解液)Eが収容される。内部液Eは、対極193に接触し、又作用極194と隔膜104との間に薄膜状に侵出して接触し、対極193と作用極194は電気的に接続される。
【0007】
例えば、試料液(試料水)中の溶存酸素を測定する場合において、対極(アノード)として鉛を、作用極(カソード)として白金を、電解液として水酸化カリウムを用いて上記のような構成としたガルバニ電池式電極を、試料液(試料水)中に浸漬し、電流測定回路に接続すると、試料液中の測定対象ガスが隔膜を透過して内部に入り、対極193及び作用極194においてそれぞれ下記に示される反応が起こって電流が流れる。
【0008】
作用極(カソード)での反応
+2HO+4e→4OH
対極(アノード)での反応
2Pb→2Pb2++4e
2Pb+4OH→2Pb(OH)
2Pb(OH)+2KOH→2KHPbO+2H
【0009】
この場合に流れる電流の大きさは、一定条件下では測定対象ガスの濃度に関連して定まるので、この電流を測定することによって、測定対象ガスの濃度を知ることができる。
【0010】
隔膜式電極においては、電極内部の電解液と、外部の試料液(試料水)との間にリークを生じさせないことが重要である。もしリークがあると、試料液(試料水)が電極内部に侵入し、はなはだしい場合には数時間で電極の特性を劣化させてしまうからである。又、隔膜と作用極(カソード)との間の層が厚いと反応速度が遅くなる。隔膜のたわみやしわは、隔膜と作用極との間の層を厚くさせる原因となる。従って、電極の正規の性能を維持するためには、不具合が生じた際に、或いは定期的に隔膜を交換する必要があり、又、隔膜を電極本体に接着させる際には、隔膜と作用極(カソード)との間の層を、反応に必要な程度の電解液が供給され得る最小限の厚みに抑えるよう、隔膜を作用極表面に当接した状態、且つ、隔膜にたわみやしわを生じないように装着しなければならない。
【0011】
隔膜の交換方法としては、隔膜自体を新品と交換して隔膜式電極本体に張る方法があるが、例えば電極の設置現場にて極めて薄い隔膜を交換する作業は困難であり、作業性は極めて悪く、交換した隔膜にしわ、たわみなどが発生しないように隔膜を張設するためには、かなりの熟練を要する。
【0012】
一方、図8に示すように、予め隔膜104が取り付けられた隔膜カートリッジ101を、隔膜式電極本体に装着する方法がある。即ち、隔膜カートリッジ装着部材170を、例えば螺合により外筒198の下方端部に装着するように構成して、この隔膜カートリッジ装着部材170によって隔膜カートリッジ101を外筒198の下方端開口部199に装着する。
【0013】
隔膜カートリッジ着脱式の隔膜式電極では、隔膜が予め張設されている隔膜カートリッジ101ごとの交換となるので、設置現場での交換作業が容易となり、短時間で作業を終了することができるという大きな利点を有する。
【0014】
隔膜カートリッジ101に隔膜104を保持させる方法としては、例えば特許文献1に記載される方法がある。即ち、図9に示すように、隔膜固定用の環状部材である外側リング102と、この外側リング102に嵌入される隔膜固定用の環状部材である内側リング103とによって隔膜104を狭持して固定する。
【0015】
外側リング102は、略円盤形状部材に凹部が設けられた形状とされる。つまり、外側リング102は、内周面124を備えた円柱形状の大径孔122と、これより小径な内周面125を備えた円柱状の小径孔123とを有しており、大径孔122と小径孔123の間、即ち、本例では外側リング102の下方端部に、平面視円形の環状肩部126が形成される。内側リング103は、外側リング102の大径内周面124と略同一の外径を有し、又外側リング102の小径孔123より若干小径の、内周面132を備えた貫通孔131を有する直円筒状の環状部材とされる。
【0016】
そして、隔膜104を固定する際には、大径孔122の内径と略同一の内径を有する略円形に切り取られた隔膜104を、外側リング102の環状肩部126の上面126aと、内側リング103の一方の環状面(下面)134とで狭持するように、内側リング103を外側リング102の大径孔122に圧入する。これにより、内側リング103の外周面133と外側リング102の大径内周面124とが摩擦係合すると共に、外側リング102の環状肩部上面126aと内側リング103の下面134とで隔膜104を圧縮して保持する。
【0017】
又、隔膜カートリッジ101に隔膜104を保持させる方法として、図10に示すように、上記内側リングに相当する保持部103に隔膜104を接着又は加熱溶着して形成された隔膜部材105を用いる方法がある。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の保持部103に、接着により隔膜104を取り付ける場合、接着性を向上するために保持部103の下面134(図10(a))を化学処理した後、接着剤にて隔膜104を接着する(図10(b))。
【0018】
そして、この隔膜部材105を、隔膜104が外側リング102の管状肩部上面126a側に向くようにして、外側リング102の大径孔122内に嵌入することで、隔膜カートリッジ101を形成する。この場合、隔膜カートリッジ101ごと交換することも、隔膜部材105のみを交換することもできる。
【0019】
又、隔膜部材105は、隔膜カートリッジを介さず、例えば外筒198の下方端部に螺着される袋ナット状の隔膜部材装着部材170’により、外筒198の下方端部に挟持することで装着することもできる(図11)。
【0020】
しかしながら、上記従来の方法では、次のような問題があった。図9に示すように外側リング102と内側リング103とで隔膜104を挟持して固定する方法では、隔膜104の圧縮部での塑性変形等によって、隔膜カートリッジ101の製造時にしわ、たわみのない状態で均一に隔膜4を張設することは困難であった。
【0021】
又、図10に示すように、保持部103に隔膜104を接着又は溶着する方法では、隔膜104の接着又は溶着部において、隔膜104の剥がれや破れが発生し易い。又、隔膜104を保持部103に溶着する場合、加熱により隔膜104にしわ、たわみ、ゆがみが発生し易い。更に、隔膜104を保持部103に接着する場合、隔膜式電極が有機溶媒中で使用される場合、接着剤が溶解して、隔膜104の保持部103からの剥がれが発生し易い。
【0022】
従って、隔膜の剥がれ、破れが防止されて大幅に耐久性が向上され、しかも隔膜のしわ、たわみ、ゆがみが防止された隔膜部材、隔膜カートリッジ、及びこれを備えた隔膜式電極が求められている。
【特許文献1】実開昭59−68253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、耐久性が大幅に向上した隔膜部材及びこれを備えた隔膜式電極を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、製造時・使用時における隔膜のしわ、たわみ、ゆがみの発生が防止された隔膜部材及びこれを備えた隔膜式電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的は本発明に係る隔膜部材及び隔膜式電極にて達成される。要約すれば、第1の本発明は、隔膜式電極用の隔膜部材において、少なくとも一部が測定対象ガス透過性の薄膜部と、前記薄膜部を保持する保持部とが一体に形成されており、前記保持部を介して前記隔膜式電極に固定されることを特徴とする隔膜部材である。
【0026】
第2の本発明によれば、作用極及び対極を備える電極部と、前記電極部の周りに配置される外筒と、を有し、前記本体の前記外筒の一端開口部が封止されて、前記電極部と前記外筒との間の空間に内部液が収容される隔膜式電極において、前記外筒の一端開口部は、上記本発明の隔膜部材により封止されることを特徴とする隔膜式電極が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、隔膜部材の耐久性を大幅に向上させることができる。又、本発明によれば、製造時・使用時における隔膜のしわ、たわみ、ゆがみの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る隔膜部材及び隔膜式電極を図面に則して更に詳しく説明する。以下の実施例は、本発明を例示的に説明するものであって、正確な構成、寸法、形状、材質、その相対配置などは、特定的な記載がない限り、本発明をそれのみに限定することを意図するものではない。
【0029】
実施例1
本実施例では、本発明は、隔膜式の溶存酸素電極において具現化される。特に、本実施例は、有機溶媒中の溶存酸素の測定に用いられる溶存酸素電極において極めて有用であるが、これに限定されるものではない。
【0030】
図1は溶存酸素電極の一例を示す。先ず、溶存酸素電極1の概略構成を説明する。溶存酸素電極1は、略円筒状形状とされるボディ80を有し、このボディ80の上部には基部81が取り付けられる。ボディ80、基部81は、例えばステンレススチール(SUS316)のような金属で作製される。基部81は、その上端スリーブ形状部81aにエポキシ樹脂が充填され、エポキシ樹脂の上端には複数のピン83(83a、83b)を一体に成形したピンベース84が装着される。ピンベース84は、基部81のスリーブ形状部81aに螺着されるピンベース押え81bにて基部81に取付けられる。
【0031】
ピン83aは、リード線86aを介して基部81に電気的に接続されている。又、他方のピン83bは、詳しくは後述するが、リード線86bにてソケット87のジャック端子88に電気的に接続されている。
【0032】
ボディ80の下部には、電極部90が設けられている。後述するように、本実施例では、電極部90はボディ80に対して着脱自在の電極カートリッジCとされるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
電極部90は細長円筒状とされ、通常ステンレススチール(SUS316)などの金属にて作製される支持管91と、支持管91の下方のスリーブ91a内に装着されたガラス製のホルダ(ガラスホルダ)92とを有する。支持管91の下方端外周部には、鉛からなる対極(アノード)93が取付けられ、ガラスホルダ92の下端(先端)には、ガラス封入された白金からなる作用極(カソード)94が取り付けられる。対極93としては、銀−塩化銀を使用することもできる。
【0034】
支持管91の上端には、ピン85aが一体に成形された、例えばフッ素樹脂などにて作製されたプラグ85が螺着されている。ピン85aは、支持管91内に通されたリード線96にて作用極94と電気的に接続される。
【0035】
円筒状ボディ80の内周面と、支持管91との間に接続管89が配置される。接続管89は、その上端においてボディ80の下方端に螺合することにより、ボディ80に取り付けられる。又、接続管89の下方外周部と、支持管91の外周に配置された外筒98の上端内周部とが螺着される。それによって、ボディ80と外筒98とは、接続管89を介して一体に接続される。接続管89、外筒98は、例えばステンレススチール(SUS316)などの金属にて作製される。更に、接続管89の上端内周部に、ジャック87aが一体に成形された、例えばフッ素樹脂などにて作製されたソケット87が螺着される。ジャック87aは、上記プラグ85のピン85aが電気的に接続可能とされている。
【0036】
又、接続管89の上端内周部と、支持管91の上端外周とが螺着される。従って、支持管91は、接続管89を介してボディ80に着脱自在に取り付けられる。
【0037】
支持管91の外周に配置された外筒98の下方端外周部には、溶存酸素電極本体に連結される隔膜部材2の装着手段としての、袋ナット状とされる隔膜部材装着部材70の上端が螺着される。この隔膜部材装着部材70によって、外筒98の下方端開口部99に、詳しくは後述する隔膜部材2が装着される。隔膜部材2は、少なくとも測定対象ガスを透過するガス透過性の薄膜部4を有している。
【0038】
つまり、図2により詳しく示すように、本実施例の溶存酸素電極1では、外筒98の下方端外周部には、ねじ部98aが形成され、袋ナット状の隔膜部材装着部材70の上部内周に形成されたねじ部73が螺合するようになっている。又、隔膜部材装着部材70の下側開口部72の縁を形成する環状の肩部は、隔膜部材2を外筒98に保持する環状押さえ部71とされる。
【0039】
隔膜部材2を外筒98の下方端開口部99に固定する際には、隔膜部材2を外筒98の下方端開口部99に配置し、保持部3が環状押さえ部71によって保持されるように、隔膜部材装着部材70を外筒98の下方端部に螺着する。これにより、外筒98、即ち、溶存酸素電極本体と隔膜部材装着部材70との間に、隔膜部材2を挟持して固定する。こうして、予め隔膜が適正に張設された隔膜部材2を、隔膜部材装着部材70により溶存酸素電極本体に押圧することで固定する。
【0040】
隔膜部材2、より詳しくは、隔膜部材2の薄膜部4(後述)は、外筒98の下端開口部99を封止する。そして、隔膜部材2、電極部90及び外筒98で規定される空間、より詳細には、支持管91、ガラスホルダ92及び対極93の外側面と、外筒98、隔膜部材2の内側面との間に形成された環状の空間には、内部液(電解液)Eが貯留される。内部液Eは、対極93に接触し、又作用極94と隔膜部材2の薄膜部4との間に薄膜状に侵出して接触し、対極93と作用極94は電気的に接続される。外筒98の下方端開口部99の外周にはOリング74が配置されており、隔膜部材2が装着された後に、内部液Eが貯留される空間をシールする。
【0041】
次に、図3及び図4をも参照して、本実施例の溶存酸素電極1にて用いられる隔膜部材2について更に説明する。
【0042】
隔膜部材2は、少なくとも一部が測定対象ガス透過性の薄膜部4と、薄膜部4を保持する保持部3と、を有する。そして、この薄膜部4と保持部3とは一体的に形成されている。
【0043】
隔膜部材2は、一端部が薄膜部4で封止された環状部材とされている。つまり、隔膜部材2は、円盤状部材の中央部に略円形の凹部21が形成されており、凹部21の縁部を成す環状の厚肉部が保持部3とされる。又、中央の凹部21の底を成す薄肉部が薄膜部4とされる。保持部3は、薄膜部4を緊張させた状態で作用極94に押し当て、当接させられるように配置されて溶存酸素電極本体に固定される。
【0044】
隔膜部材2は、隔膜部材装着部材70の内径(図2中d1’)と略同一の外径d1を有する。又、隔膜部材2の略円形の凹部21は、隔膜部材装着部材70の下側開口部72の径より若干小さい径d2を有する。
【0045】
この隔膜部材2は、上述のように袋ナットとされる隔膜部材装着部材70によって外筒98の下端に固定される。薄膜部4は、通常適当な伸張性を有している。従って、薄膜部4を一体に有する隔膜部材2を隔膜部材装着部材70によって外筒98に装着すると、薄膜部4は若干伸張しつつ、本実施例では作用極94に完全に密着する。薄膜部4はたわみ、しわがなく隔膜部材2に一体に形成されているので、装着する際に、薄膜部4にしわが発生しないように隔膜部材装着部材(袋ナット)70による締め付け度合いを微調整するなどの手間は必要なく、極めて作業性がよい。
【0046】
隔膜部材2を形成する材料は、測定対象ガスとの関係で薄膜部4として好適な材料、好ましくは樹脂材料から選択することができるが、特に、耐薬品性が優れているなどの理由から、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー)を含む群より選択されるフッ素樹脂が好ましい。本実施例では、PTFEを用いた。
【0047】
隔膜式電極の応答性を従来の単体フィルム状の隔膜を用いる場合と同等若しくはそれ以上とするためには、薄膜部4の厚さtは100μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。更に好ましくは、薄膜部4の厚さは50μm以下とする。一方、薄膜部4の厚さは、製造上の理由や強度確保の目的により、通常、25μm以上とされる。
【0048】
外筒98の下端開口部99を封止する全ての領域を、上述のような隔膜式電極の応答性を確保するために必要な厚さの薄膜部4とすることもできるが、実際にそのような厚さが必要とされるのは、作用極94に当接する部分のみである。
【0049】
従って、薄膜部4の作用極94に当接する部分のみ相対的に厚さを薄くすることができる。即ち、薄膜部4の、実質的に作用極94に押し当てられ当接する領域R(図4)以外の厚さは、該領域Rの厚さよりも厚くなっていてよい。又、隔膜部材2は、実質的に作用極94に押し当てられ当接する領域Rのみに薄膜部4が形成されていてもよい。
【0050】
本実施例では、隔膜部材2は、保持部3と薄膜部4とで形成される隅角は、薄膜部4の中央側から外周側に向かって連続的に厚みが増す部分を有する。この厚みが漸増する部分は、保持部3と薄膜部4とで形成される隅角を補強する補強部22として作用する。
【0051】
保持部3は、薄膜部4にしわやたわみが生じない状態で、溶存酸素電極本体と装着手段との間で挟持されるか、或いは溶存酸素電極本体に嵌合又は螺合(後述)されることにより溶存酸素電極本体に取り付けることができるように、十分な機械的強度を有する所望の形状とされる。保持部3の厚さは薄膜部4より十分大きく、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上とする。又、溶存酸素電極本体への取り付け方法に応じて所望の形状とすることができ、該形状に応じた厚さ以下となる。
【0052】
より具体的には、本実施例では、隔膜部材装着部材70の内径d1’は15mm、小径孔23の内径は10.8mmとされる。隔膜部材2の保持部3の外径d1は13.8mm、凹部31の内径d2(保持部3の上面32側端部における内径)は10.2mmとされる。又、隔膜部材2の保持部3の高さh(保持部3の上面32と下面31との間の高さ)は1mmとした。そして、薄膜部4の厚さtを50μmとした。本実施例では、少なくとも作用極94に当接する領域R(ここでは、略直径5mmの円)の厚さtを50μmとして、それ以外の部分はそれより厚く約100μmとした。更に、保持部3と薄膜部4とで成す隅角には、図3中縦方向約0.5mm、横方向約0.5mmの範囲で薄膜部4の中心側から外周側へと厚さが漸増する補強部22を設けた。本実施例では、補強部22の内周面は、外側に向かって凸の円弧状とした。
【0053】
次に、図5を参照して、隔膜部材2の製造方法の一実施例について説明する。
【0054】
隔膜部材2は、切削加工(機械加工)により形成することができる。本実施例では、隔膜部材2は、その外形に合わせて素材の中央部をフィルム状に切削加工することで、保持部3と薄膜部4とを一体的に作製した。隔膜部材2の製造方法の一実施態様は、以下の工程のすべて又はいずれかの組み合わせを有して成る。
【0055】
(1)先ず、素材60を成形する。限定されるものではないが、素材60は、隔膜部材2の外径に近い外径を有する長尺のロッド状に成形する。本実施例では、素材60は、PTFE製の長尺のロッドとする。
【0056】
次いで、素材60を、好ましくはNC(数値制御)旋盤のような自動制御可能な工作機械により切削加工する。つまり、
(2)素材60の周面61及び端面62を切削することにより、素材60の周面61を隔膜部材2の所望の外径d1に加工し、又端面62に所望の凹部21を加工する(図5(a))。
【0057】
(3)上記(2)工程による素材60の端面側加工部を、隔膜部材2の所望の高さhよりも高くなるように切り落とし、中間製品63を得る。本実施例では、隔膜部材2の所望の高さhの2倍の高さになるように切り落とす。
【0058】
(4)上記(3)工程による中間製品63を、凹部21と同形状の凸部Pを有する治具Sにはめ込み(図5(b))、固定具Fで固定する。そして、中間製品63の端面64を切削、研磨することにより、中間製品63を隔膜部材2の所望の高さhとすると共に少なくとも作用極94に当接する領域R(本実施例では中心部)の厚さを所望の厚さtに仕上げる(図5(c))。
【0059】
その後、所望により、隔膜部材2の製品検査を行う。つまり、
(5)レンズメーターによる厚みの検査、拡大顕微鏡による薄膜部4の目視検査等を行う。
【0060】
(実験例)
本実施例の溶存酸素電極1の応答性を確認した。ここでは、本実施例に従って製造した隔膜部材2を用いた場合と、図10に示すような従来の隔膜部材105を用いた場合とで応答性を比較した。
【0061】
従来の隔膜部材105は、PTFE製の環状の保持部3に、PTFE製の単体フィルム状の隔膜4を接着剤により接着することにより作製されたものであり、外径d、高さhは共に実質的に本実施例の隔膜部材2と同じであった。又、作用極94に当接する領域Rにおける隔膜104の厚さ(隔膜全体で実質的に同じ厚さ)tも、本実施例の隔膜部材2と同じであった。この隔膜部材105を本実施例のものと同じように、袋ナットとされる隔膜部材固定部材170’によって外筒198の下端に固定して(図11)、溶存酸素電極1に取り付けた。尚、溶存酸素電極本体及び指示計自体は、本実施例と従来例とで同じものを用いた。
【0062】
実験は、先ず純水をバブリングした25℃の空気飽和水中に本実施例の溶存酸素電極1を浸漬して出力電流量(スパン側の出力値)が安定するのを待ち、次に純水に脱酸素剤として亜硫酸ソーダを加えたゼロ水中に溶存酸素電極1を移して出力電流量(ゼロ側の出力値)、応答速度及び安定性を観察した。更に、前記空気飽和水中に溶存酸素電極1を移して、スパン側の電流出力量、応答速度及び再現性を観察した。
【0063】
又、従来の隔膜部材を用いて、空気飽和水中に浸漬した際の出力電流量(スパン側の出力値)、溶存酸素電極1をゼロ水へ移した際の出力電流量(ゼロ側の出力値)及び応答速度、そして再度空気飽和水中に浸漬した際の出力電流量(スパン側の出力値)、応答速度及び再現性を観察した。
【0064】
図6(a)は、本実施例の隔膜部材2を用いた場合の指示計の出力結果を示し、図6(b)は従来の隔膜部材を用いた場合の指示計の出力結果を示す。
【0065】
ここで、図6(a)のゼロ側の出力時間が図6(b)よりも長く保たれているのは、応答速度の問題ではなく、本実施例の安定性を観察するために、ゼロ水に浸漬する時間を従来の隔膜部材を用いた実験よりも長くしたためである。
【0066】
図6(a)、(b)から、本実施例の隔膜部材2を用いた場合、従来と同等の出力電流量、応答性が得られ、なおかつ、安定性も良好であることが分かる。
【0067】
又、本実施例の隔膜部材2を用いた溶存酸素電極1を長期使用したり、有機溶媒に浸漬しても、薄膜部4の破れは発生しなかった。又、本実施例の隔膜部材2を溶存酸素電極本体へ装着する時に薄膜部4にたわみ、しわ、ゆがみが発生することはなかった。
【0068】
以上説明した如く、本実施例によれば、隔膜部材2は、素材を切削することにより保持部3と薄膜部4とが一体的に形成されるので、薄膜部4の破れが発生し難い。又、必要部分、即ち、作用極94に当接する部分(本実施例では中心部)のみ薄膜加工することで、機械的強度が高くなる。更に、素材がそのまま隔膜になるので、薬品や有機溶剤中での使用に際し、大幅に耐久性の向上が図れる。更に、隔膜部材2は、素材を切削することにより保持部3と薄膜部4とが一体的に形成されるので、薄膜部4のしわ、たわみ、ゆがみのない状態で作製し、又、たわみ、しわのない状態で、容易に溶存酸素電極1に装着することができる。つまり、製造時・使用時において薄膜部4にしわ、たわみ、ゆがみが発生することを大幅に抑制することができる。これにより、隔膜4と作用極94の密着性は常に良好に保たれ、溶存酸素電極1の電流感度及び安定性は極めて良好であり、溶存酸素電極1の品質は安定する。
【0069】
尚、上記実施例では、隔膜部材2は、図2に示すように隔膜部材装着部材70により溶存酸素電極本体に固定されるものとして説明したが、隔膜部材2自体を外筒98の下方端部に嵌合若しくは螺合することにより隔膜式電極本体に固定することも可能である。例えば、図7に示すように、隔膜部材2の凹部21の内周、より詳しくは、溶存酸素電極本体の軸線方向において薄膜部4とは反対側に突出するように保持部3に形成された環状の連結部33の内周に設けられたねじ部23と、外筒98の下方端部の外周に設けられたねじ部98aとを螺合することにより、隔膜部材2自体を外筒98、即ち、隔膜式電極本体に固定することができる。
【0070】
上述して隔膜部材2の製造方法の一例を説明したが、本発明は、隔膜部材2を斯かる製造方法にて製造することに限定されるものではなく、金型による成形、素材にレーザーを照射することによる成形など、利用可能な任意の方法によって製造することができる。
【0071】
又、上記実施例では、本発明は、隔膜式電極は溶存酸素電極であるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、遊離残留塩素濃度測定用電極、溶存オゾン濃度測定用電極、溶存二酸化塩素濃度測定用電極、亜塩素酸(HClO2)濃度測定用電極、溶存水素濃度測定用電極、アンモニア濃度測定用電極などにも好適に具現化し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る隔膜式電極の一実施例の断面図である。
【図2】図1の隔膜式電極の隔膜部材装着部材の近傍を示す部分分解断面図である。
【図3】図1の隔膜式電極に用いられる隔膜部材の断面図である。
【図4】図1の隔膜式電極に用いられる隔膜部材の平面図である。
【図5】隔膜部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明に係る隔膜部材を用いた場合と従来の隔膜部材を用いた場合とで溶存酸素電極の応答性を比較した結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明に係る隔膜部材の他の固定方法を示す断面図である。
【図8】従来の隔膜式電極の一例の断面図である。
【図9】従来の隔膜カートリッジにおける隔膜の固定方法の一例を示す断面図である。
【図10】従来の隔膜部材における隔膜の固定方法の一例を示す断面図である。
【図11】従来の隔膜部材の隔膜式電極への装着方法の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 隔膜式電極
2 隔膜部材
3 保持部
4 薄膜部
70 隔膜部材装着部材
90 電極部
94 作用極
93 対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜式電極用の隔膜部材において、少なくとも一部が測定対象ガス透過性の薄膜部と、前記薄膜部を保持する保持部とが一体に形成されており、前記保持部を介して前記隔膜式電極本体に固定されることを特徴とする隔膜部材。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマーを含む群より選択されるフッ素樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1の隔膜部材。
【請求項3】
一端部が前記薄膜部で封止された環状部材であることを特徴とする請求項1又は2の隔膜部材。
【請求項4】
前記薄膜部のうち、前記隔膜式電極本体が備える作用極に当接する領域以外の厚さが、前記作用極に当接する領域よりも厚いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の隔膜部材。
【請求項5】
前記薄膜部の、少なくとも前記隔膜式電極本体が備える作用極に当接する領域の厚さは、100μm以下とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の隔膜部材。
【請求項6】
前記保持部と前記薄膜部とで形成される隅角に、前記薄膜部の中央側から外周側に向かって連続的に厚みが増す補強部が形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の隔膜部材。
【請求項7】
前記保持部が、前記隔膜式電極本体と、前記隔膜式電極本体に連結又は押圧される装着手段との間に挟持されることで、前記隔膜式電極本体に固定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の隔膜部材。
【請求項8】
前記保持部が、前記隔膜式電極本体に嵌合又は螺合されることにより、前記隔膜式電極本体に固定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の隔膜部材。
【請求項9】
作用極及び対極を備える電極部と、前記電極部の周りに配置される外筒と、を有し、前記本体の前記外筒の一端開口部が封止されて、前記電極部と前記外筒との間の空間に内部液が収容される隔膜式電極において、
前記外筒の一端開口部は、請求項1〜8のいずれかの項に記載の隔膜部材により封止されることを特徴とする隔膜式電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−234508(P2006−234508A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47883(P2005−47883)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)