説明

雄ねじの加工方法

【課題】 強化繊維が埋設された素材に対し、雄ねじ部を能率的に加工することができ、しかも雄ねじ部が強度低下を来たすことのない雄ねじの加工方法を提供する。
【解決手段】素材3に雄ねじ部の谷部1bを加工するために、総型砥石5を用いる。総型砥石5の外周部は、谷部1bと同一の断面形状を有している。総型砥石5は、素材3に対する切込み量Δtが谷部1bの深さになるように配置する。そして、総型砥石5を所定の速度で回転させるとともに、素材3に対してその軸線方向へ所定の速度で移動させる。また、素材3を、砥石5の移動速度および谷部1bのピッチに応じた速度で回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬質樹脂からなる母材の内部に強化繊維が埋設されてなる素材の外周面に雄ねじ部を形成するための雄ねじの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トンネル掘削現場等においては、図1に示す筒体1が用いられている。この筒体1は、繊維強化プラスチックからなるものであり、その両端部外周面には雄ねじ部1aが形成されている。そして、各筒体1,1の雄ねじ部1a,1aに継手2を螺合させることにより、複数の筒体1が順次接続される。接続された複数の筒体1の内部には、例えば地盤凝固液を注入するための注入パイプが挿通される。
【0003】
従来、筒体1の外周面に雄ねじ部1aを形成する場合には、金属からなる素材の外周面に雄ねじ部を形成する場合と同様にして形成されていた。すなわち、下記特許文献1に記載されているように、筒体1の素材の外周面に、金属製のバイトによって下ねじ加工を施す。その後、下ねじを砥石によって仕上げ加工して雄ねじ部1aを形成するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平6−249317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記筒体1をバイトでねじ加工した場合には、次のような問題があった。すなわち、筒体1の内部には、炭素繊維等の強化繊維が埋設されている。したがって、バイトによって下ねじ加工を施す際には、バイトが強化繊維を切断する。このとき、バイトのすくい面や逃げ面が切断した強化繊維によって擦過され、早期に摩耗する。このため、バイトを頻繁に交換しなければならず、加工能率が低下するという問題があった。また、摩耗したバイトが強化繊維を切断する際に多大の切削抵抗が発生し、その切削抵抗によって素材の母材中にクラックが発生するためか、筒体の雄ねじ部の強度が理論的強度より低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の問題を解決するために、硬質樹脂からなる母材の少なくとも表層部に強化繊維が埋設された断面円形の素材を回転させつつ、ねじ切り工具を上記素材の外周面に所定の切り込み量だけ切り込ませた状態で上記素材に対しその長手方向へ相対移動させることにより、上記素材の外周面にねじを形成する雄ねじの加工方法において、上記ねじ切り工具として軸線を中心として回転駆動される研削砥石が用いられ、この研削砥石だけで上記ねじ切り加工が行われることを特徴としている。
この場合、上記研削砥石としてダイヤモンド砥石が用いられていることが望ましい。
また、上記研削砥石の外周面に上記研削砥石をその軸線方向に横断する目詰まり防止用の溝が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記特徴構成を有するこの発明によれば、砥石の砥粒の硬度が高速度鋼等からなる通常のバイトの硬度より大幅に高いので、砥粒は長期間にわたって鋭利な状態を維持する。したがって、研削砥石を交換する頻度が少なくなり、その分だけ加工能率を向上させることができる。また、鋭利な砥粒が強化繊維を切断するので、強化繊維の切断時に発生する切断抵抗が小さい。したがって、素材の母材中にクラックが発生することがほとんどない。よって、雄ねじ部の強度が低下するような事態を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
まず、この発明に係る加工方法の加工対象である筒体1についてさらに説明すると、筒体1は、ポリエステル等の硬質樹脂(硬質プラスチック)を母材とし、その母材の内部にグラスファイバーや炭素繊維等の強化繊維(図示せず)を埋設してなるものであり、強化繊維は、その長手方向を筒体1の長手方向とほぼ一致させた状態で母材中に埋設されている。図1及び図2に示すように、筒体1の両端部(一端部のみ図示)には、筒体1の外径より若干小径の雄ねじ部1aが形成されている。この雄ねじ部1aは、螺旋状に延びる谷部1bを有している。谷部1bは、断面円弧状をなしており、その曲率中心が雄ねじ部1aの外周面より外側に配置されている。したがって、谷部1bの深さは、谷部1bを区画する円弧面の曲率半径より小さくなっている。
【0009】
次に、上記雄ねじ部1aをこの発明に係る加工方法によって形成する場合について説明する。雄ねじ部1aを加工するに際しては、図3に示す素材3を用意する。素材3は、筒体1と同一の内部構造を有し、その外径が全長にわたって筒体1の外径と同一になっている。
【0010】
素材3は、まずその両端部外周面を円筒砥石4によって研削加工する。これにより、素材3の両端部の外径が雄ねじ部1aの外径と等しくなるまで素材3の両端部を削り落とす。円筒砥石4は、図3〜図5に示すように、円筒状をなす金属製の台金41の外周面及び両端面の外周側部分にわたって砥粒層42を設けたものであり、砥粒層42は、台金41に設けられた金属製の鍍金層43と、この鍍金層43によりそこから一部を突出させた状態で保持された砥粒44とによって構成されている。砥粒44としては、ダイヤモンド砥粒や立方窒化硼素(CBN)砥粒が用いられる。円筒砥石4の外周面には、目詰まり防止用の溝45を形成しておくことが望ましい。特に、溝45は、螺旋状に形成されていることが望ましい。このような溝45を形成しておくと、砥粒44,44間に目詰まりが発生するのを防止することができ、それによって円筒砥石4の研削性能の低下を防止することができるからである。
【0011】
円筒砥石4で素材3を研削する際には、円筒砥石4が素材3と平行に配置される。素材3及び円筒砥石4は、それぞれ所定の回転速度をもって回転させられる。例えば、外径が76mmの素材3の場合であれば、75〜77rpm、外径が150mmの円筒砥石4であれば、3500〜4000rpmでそれぞれ回転させられる。その後、円筒砥石4を素材3に接近移動させる。円筒砥石4の接近移動速度は、例えば9.2mm/min程度に設定される。円筒砥石4は、素材3に対する切込み深さが筒体1の外径と雄ねじ部1aの外径との差の半分と等しくなるまで移動させられる。このようにして、素材3の両端部に雄ねじ部1aと等しい外径を有する小径部3aが形成される。
【0012】
その後、図6に示すように、小径部3aの外周面に谷部1bが総型砥石(研削砥石)5によって研削加工される。総型砥石5は、図6〜図8に示すように、円板状をなす台金51の外周部に砥粒層52を設けたものであり、砥粒層52は、台課ね1に設けられた金属製の鍍金層53と、この鍍金層53によりそこから一部を突出させた状態で保持された砥粒54とによって構成されている。砥粒54としては、ダイヤモンド砥粒や立方晶窒化硼素砥粒が用いられる。総型砥石5の外周面には、その一端面から他端面まで延びる目詰まり防止用の溝55を形成しておくことが望ましい。溝55は、螺旋状に形成されていることが望ましい。
【0013】
総型砥石5の外周部、つまり砥粒層52の外周部は、谷部1bと同一の断面形状を有している。砥粒層52の外周部をそのような形状にするために、砥粒層52の外周部に存在する各砥粒54は、谷部1bを構成する円弧面と同一の円弧面に沿って配置されている。なお、総型砥石5の小径部3aに対する切込み量誤差等に対応するために、砥粒54は、谷部1bに対応する部分より広い範囲にわたって円弧面に沿って配置されている。
【0014】
総型砥石5を用いて素材3の小径部3aの外周面に谷部1bを研削加工する場合には、図6に示すように、総型砥石5の小径部3aに対する切込み量Δtが谷部1bの深さになるように、総型砥石5を配置する。この場合、総型砥石5は、その軸線が素材3の軸線に対して谷部1bの進み角と等しい角度だけ傾斜した状態で配置するのが望ましい。ただし、切り込み量Δtが小さい場合、つまり谷部1bの深さが浅い場合には、総型砥石5の軸線が素材3の軸線と平行になるように、総型砥石5を配置してもよい。そのように配置された総型砥石5は、所定の回転数で回転させられるとともに、素材3の軸線に沿って所定の速度で送られる。例えば総型砥石5の外径が100mmである場合、その回転数は4000〜5000rpmに設定され、送り速度は、12mm/secに設定される。なお、素材3の回転速度(回転数)は、総型砥石5の送り速度と、谷部1bのピッチとに基づいて一義的に定まる。そして、総型砥石5が素材3の一端面から他端側へ向かって所定距離だけ送られる。これによって、素材3の小径部3aに谷部1bが研削加工され、ひいては雄ねじ部1aが形成される。
【0015】
上記のようにして雄ねじ部1aの谷部1bを加工する場合には、砥粒54の硬度がバイトの硬度より高い。特に、砥粒54がダイヤモンド砥粒である場合には、その硬度がバイトより格段に高い。したがって、砥粒54は、強化繊維によって擦過されても摩耗することがほとんどなく、長期間にわたって鋭利な状態を維持する。よって、総型砥石5の交換頻度を大幅に少なくすることができ、谷部1bの加工能率を大幅に向上させることができる。また、砥粒54が鋭利な状態で素材3の母材及び強化繊維を切断するので、切断抵抗が小さい。したがって、母材中にクラックが発生するのを防止することができる。よって、雄ねじ部1aの強度が低下することを未然に防止することができる。
【実施例1】
【0016】
次に、この発明の実施例を説明する。この実施例では、ポリエステルからなる母材中にグラスファイバーからなる強化繊維を埋設してなる素材3が用いられる。素材3の寸法は、次のとおりである。
外径;76mm
内径;60mm
小径部の外径;71.3mm
谷部の長さ;120mm
谷部の深さ;2mm
谷部を区画する円弧面の曲率半径;3.5mm
総型砥石(電着砥石)
外径;100mm
砥粒の材質;ダイヤモンド
砥粒の粒度;40メッシュ
研削条件
砥石の回転数;4000rpm
送り速度;12mm/sec
バイト
種類;谷部1bと同一形状を有する総型バイト
材質;高速度鋼
切削条件
素材の回転数;100rpm
バイトの送り回数;40回
上記の条件の下に、総型砥石及びバイトにより、それぞれ10本の素材に谷部の加工を施した。素材1本当たりの平均加工時間を比較すると、バイトでは13分/1本であったのに対し、総型砥石を用いた場合には1.5分/1本であった。また、バイトで谷部を加工したときの雄ねじ部の引っ張り強度が185〜215KNであったのに対し、総型砥石で谷部を加工したときの雄ねじ部の引っ張り強度は、220〜250KNであった。
【0017】
なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、総型砥石5の小径部3aに対する切り込み量を谷部1bの深さと同一にし、総型砥石5を1回送るだけで谷部1bを形成しているが、総型砥石5の切り込み量を谷部1bの深さより小さくし、総型砥石5を素材3の軸線方向へ複数回にわたって送ることによって谷部1bを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係るねじの加工方法によってねじ加工された二つの筒体を継手で接続した状態を示す断面図である。
【図2】図1に示す筒体の要部を示す拡大正面図である。
【図3】図1に示す筒体の素材の下加工を説明するための図である。
【図4】図3において用いられている円筒砥石を示す正面図である。
【図5】図3のX円部の拡大図である。
【図6】この発明に係るねじの加工方法の一実施の形態を示す図である。
【図7】図6に示す実施の形態において用いられている総型砥石を示す平面図である。
【図8】同総型砥石によって素材にねじ加工を施している状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1a 雄ねじ部
1b 谷部
3 素材
5 総型砥石(研削砥石)
55 目詰まり防止用の溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質樹脂からなる母材の少なくとも表層部に強化繊維が埋設された断面円形の素材を回転させつつ、ねじ切り工具を上記素材の外周面に所定の切り込み量だけ切り込ませた状態で上記素材に対しその長手方向へ相対移動させることにより、上記素材の外周面にねじを形成する雄ねじの加工方法において、
上記ねじ切り工具として軸線を中心として回転駆動される研削砥石が用いられ、この研削砥石だけで上記ねじ切り加工が行われることを特徴とする雄ねじの加工方法。
【請求項2】
上記研削砥石としてダイヤモンド砥石が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の雄ねじの加工方法。
【請求項3】
上記研削砥石の外周面に上記研削砥石をその軸線方向に横断する目詰まり防止用の溝が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の雄ねじの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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